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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1329525
審判番号 不服2015-22813  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-25 
確定日 2017-06-14 
事件の表示 特願2014-542356「熱的絶縁層を用いて組み立てられた電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日国際公開、WO2013/074409、平成27年 2月12日国内公表、特表2015-504602〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2012年11月9日(パリ条約による優先権主張2011年11月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月19日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同月25日)、これに対して平成27年12月25日に審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、その後、平成28年8月30日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月5日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年12月5日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
民生用電子製品であって、
内側表面および外側表面を有した少なくとも2つの部材を有するハウジングと、
前記部材の前記内側表面の少なくとも一部に配置された熱的絶縁エレメントの層と、
I.半導体チップ、ヒートスプレッダ、およびそれらの間の熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料、または
II.ヒートスプレッダ、ヒートシンク、およびそれらの間の熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料、
のうちの少なくとも一方を有するアセンブリを有した少なくとも1つの半導体パッケージと、を備え、
前記熱的絶縁エレメントが、実質的に固体の球状粒子の間隙内に配置された気体を含む、
製品。」


3.引用文献1、引用発明について
当審拒絶理由に引用され、本願出願前に公開された、米国特許出願公開第2005/0241817号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある(当審抄訳。下線は、特に着目した箇所を示す。以下同様。)。

(1) 段落[0002]-[0003]
「Electronic systems often include various heat generating devices such as microprocessors, hard disc drives, graphics processors, memory chips, and power supplies, and power converters, just to name a few. Waste heat generated by those devices must be effectively removed by a thermal management system or those devices will fail or otherwise become unreliable due to operating temperatures that exceed design limits. ・・・(中略)・・・ In many cases the system includes a fan that moves air over the devices to remove waste heat through convection cooling. ・・・(中略)・・・ One disadvantage to using the enclosure as a heat removal path is that some areas of the enclosure can be quite warm to the touch and in some cases a surface temperature of the exterior of the enclosure can reach uncomfortable levels. ・・・(中略)・・・ Although it is desirable to remove heat from a system housed in an enclosure by using the enclosure itself as a conductive path, it is also desirable to keep surface temperatures of the enclosure within comfortable levels for the user. 」
(当審訳:
電子システムには、いくつかを例示すると、マイクロプロセッサ、ハードディスク装置、グラフィックプロセッサ、メモリチップ、電源、電力コンバータなどの種々の熱を発生するデバイスが含まれる。これらのデバイスが発生する排熱は、熱管理システムによって、効率的に除去しなくてはならない。さもなければ、これらのデバイスは、故障するか、設計限度を超える動作温度により信頼性を欠くようになる。 ・・・(中略)・・・ 多くの場合、システムは、対流冷却を通して排熱を取り去るための、デバイス上で空気を動かすファンを含む。 ・・・(中略)・・・ エンクロージャを、熱の排出経路として用いることの欠点は、エンクロージャの一部の領域が触れないほどに熱くなること、及び、エンクロージャ外側の表面温度が不快なレベルまで達することである。 ・・・(中略)・・・ エンクロージャそれ自体を伝導経路として用いることで、エンクロージャに収容された(housed)システムから熱を排出することが望ましいことであるが、エンクロージャの表面温度をユーザに快適なレベルに保つことも望ましいことである。)

(2) 段落[0038]-[0039]
「A second layer 13 includes a second thermal conductivity Z1 along the second plane Z that is substantially normal to a surface of the enclosure 30, preferably substantially normal to the interior surface 31i. The second layer 13 is in contact with the enclosure 30 and the first layer 11. The second layer 13 is positioned in facing relation to the heat source 20 and a portion of the first layer 11 is positioned between the heat source 20 and the second layer 13. ・・・(中略)・・・ Essentially, the first layer 11 acts as a heat spreader that thermally conducts heat in the first plane X-Y; whereas, the second layer 13 acts as a thermal insulator that substantially inhibits heat transfer in the second plane Z. ・・・(中略)・・・ Because the second layer 13 inhibits heat transfer in the second plane Z only a small portion of the waste heat reaches a point A on the exterior surface 31e and a temperature at the point A is lower than would be the case if the first layer 11 were used exclusively to manage heat transfer from the heat source 20 to the enclosure 30.」
(当審訳:
第2層13は、エンクロージャ表面に対して実質的に垂直であり、好ましくは内側表面31iに対して実質的に垂直であるような、第2平面Zに沿っての、第2の熱伝導率Z1を有する。第2層13は、エンクロージャ30と第1層11とに接する。第2層13は熱源20に向き合う位置関係に置かれ、第1層11の一部は熱源20と第2層13の間に置かれる。 ・・・(中略)・・・ 本質的に、第1層11は、X-Y第1平面内で熱的に熱を伝導するヒートスプレッダとして機能するのに対して、第2層13は、Z第2平面内での伝熱を実質的に抑制する熱絶縁体として機能する。 ・・・(中略)・・・ 第2層13が、第2平面Zにおける伝熱を抑制するので、排熱のごく一部だけが外側表面31eの上の点Aに達する。そして、点Aの温度は、熱源20からエンクロージャ30への伝熱の管理に第1層11のみを用いる場合よりも低くなる。)


(3) 段落[0042]-[0043]
「In FIGS. 3a and 3b, the first layer 11 and the second layer 13 can be connected with each other using a variety of methods including but not limited to laminating the first and second layers (11, 13) to each other, using a glue or an adhesive to connect the first and second layers (11, 13) with each other, forming a depression in the first layer 11 and then positioning the second layer 13 in the depression, just to name a few. An adhesive or a glue can be used to connect the first and second layers (11, 13) with the enclosure 30 or the EMI shield 23. ・・・(中略)・・・ Similarly, the thermal communication between the heat source 20 and the first layer 11 can be a direct contact between the heat source 20 and the first layer 11 (see FIGS. 3a and 3b), by a gap G between the heat source 20 and the first layer 11 (see FIG. 5a), or by a layer of a thermal interface material 29 (see FIG. 5a) that is in contact with the heat source 20 and the first layer 11 . ・・・」
(当審訳:
図3a、図3bにおいて、様々な方法で、第1層11と第2層13とを互いに結合できる。いくつかを例示すると、第1、第2層(11、13)を相互に積層すること、第1、第2層(11、13)を相互にのりや接着剤で結合すること、第1層11をくぼませてから第2層13をくぼみに置くことがある。接着剤、のりが、第1、第2層(11、13)をエンクロージャ又はEMIシールドと結合するために用いられる。 ・・・(中略)・・・ 同様に、熱源20と第1層11の間の熱の伝達は、熱源20と第1層11の直接的接触でよく(図3a、図3参照)、熱源20と第1層11の間の空隙Gによるものでも(図5a参照)、熱源20と第1層11とに接触する熱媒介材料(a thermal interface material)29によるものでもよい(図5a参照)(当審注:「図5a参照」は、「図5b参照」の誤記である。)。 ・・・)

(4) 段落[0063]
「Although only one heat source 20 has been depicted herein as being in thermal communication with the layer 11 of the device 10, the present invention is not limited to only one heat source 20 and one or more heat sources 20 can be in thermal communication with the layer 11 as depicted by heat source 20a and 20b (shown in dashed outline) on the layer 11 in FIG. 10a. The layers of controlled Z-axis conductivity material can be different for the heat sources (20a, 20b) to address the application specific requirements for thermal management and user comfort. Moreover, two or more of the devices 10 can be connected with the enclosure 30 as depicted in FIG. 10b where layers 11 are in the same enclosure 30 be are separate S from each other. 」
(当審訳:
ここで、単一の熱源20だけが、デバイス10の層11に熱を伝達するように記載してきたが、本発明は単一の熱源20に限るものではなく、図10aにおいて、層11の上に(点線で外形が示される)熱源20a、20bが描かれているように、1以上の熱源20が層11に熱を伝達してもよい。適用分野に特有な、熱管理とユーザの快適性の必要性に応じて、Z軸方向の伝導性が制御された材料層を、熱源(20a、20b)毎に異ならせてもよい。さらに、図10bに示すように、2以上のデバイス10がエンクロージャ30と結合されてもよい。ここで同一エンクロージャ30内で層11同士が互いにSだけ離れていてもよい。)

(5) 段落[0065]
「The first layer 11 can be made from a material including but not limited to a thermally conductive metal, such as copper (Cu) or aluminum (Al), a thermal heat spreader material, and a thermal heat spreader material comprising graphite. For example, an exemplary material for the first layer 11 is a GrafTech^((R)) eGRAF^(TM) thermal heat spreader material. ・・・・(後略)」
(当審訳:
第1層11は、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの熱を伝導する金属や、熱的なヒートスプレッダ材料、黒鉛で構成された熱的なヒートスプレッダ物質などの材料で作ることができるが、これらに限定されない。例えば、第1層11の代表的な材料としては、GrafTech(登録商標)社のeGraf(商標)という熱的なヒートスプレッダ材料がある。・・・・(後略))

(6) 段落[0066]-[0067]
「The layers 13, 14, 15, 16, and 17 can be made from a material including but not limited to a thermal insulating material and a thermal insulating material comprising an aerogel or a silica aerogel. As an example, a PTFE bound silica aerogel insulation material with a thickness of about 0.75 mm can be used for those layers. Silica aerogel materials have a very low thermal conductivity in all three axes; therefore, an aerogel makes a very effective thermal insulation material. ・・・(中略)・・・ The layers may not be perfectly conformal to one another other(当審注:「another other」は「another」の誤記と認める。) and is some instances there may be air gaps between adjacent layers. Although a laminating process is a logical choice for connecting the layers with one another, other processes such as depositing, spraying, molding, printing, and embedding can be used and the actual process used will be application specific. The enclosure 30 can be an enclosure for any device in which it is desirable to evenly distribute waste heat and to control thermal dissipation from one or more heat sources within the enclosure 30. For example, the enclosure 30 can be an enclosure for a laptop PC, a tablet PC, or a portable electronic device. 」
(当審訳:
層13、14、15、16、17は、熱絶縁材料、エアロゲル(aerogel)かシリカ・エアロゲルで構成された熱絶縁材料で作ることができるが、これらに限定されない。例えば、これらの層に、PTFE樹脂で結合した厚さ0.75mmのシリカ・エアロゲル絶縁材料を用いることができる。シリカ・エアロゲル材料は、3軸すべてに対して非常に低い熱伝導率を有する;このため、エアロゲルは、非常に効果的な断熱材料となる。 ・・・(中略)・・・ 層同士が、互いに完全にコンフォーマル(共形)とは限らない。ある事例では、隣接する層間には空隙があってもよい。層間を互いに結合するための論理的な選択肢は、積層(laminating)プロセスであるが、例えば、堆積処理(depositing)、噴霧処理(spraying)、モールド処理(molding)、印刷処理(printing)、埋込処理(embedding)などの他のプロセスを用いることが可能であり、実際に用いられるプロセスは適用分野に特有のものである。エンクロージャ30は、排熱を均一に分散して、エンクロージャ30内の1以上の熱源からの熱の消散を制御することが望まれるような、任意のエンクロージャであってよい。エンクロージャ30は、例えば、ラップトップPC、タブレットPC、可搬型電子装置のエンクロージャであり得る。)

よって、上記各記載事項を関連図面と技術常識に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「電子システムには、マイクロプロセッサ、ハードディスク装置、グラフィックプロセッサ、メモリチップ、電源、電力コンバータなどの種々の熱を発生するデバイスが含まれ、これらのデバイスから発生する排熱は、熱管理システムによって、効率的に除去しなくてはならず、
エンクロージャに収容された(housed)システムから熱を排出するとともに、エンクロージャの表面温度をユーザに快適なレベルに保つために、
第2層13は熱源20に向き合う位置関係に置かれ、
第1層11の一部は熱源20と第2層13の間に置かれ、
第1層11は、ヒートスプレッダとして機能し、
第2層13は、熱絶縁体として機能し、
第1層11と第2層13とを互いに結合でき、
接着剤、のりが、第1、第2層(11、13)をエンクロージャ又はEMIシールドと結合するために用いられ、
熱源20と第1層11の間の熱の伝達は、熱源20と第1層11とに接触する熱媒介材料29によるものであり、
ここで、単一の熱源20だけが、デバイス10の層11に熱を伝達することに替えて、1以上の熱源20が層11に熱を伝達してもよく、
さらに、2以上のデバイス10がエンクロージャ30と結合されて、同一エンクロージャ30内で層11同士が互いにSだけ離れていてもよく、
第1層11の材料としては、GrafTech社のeGrafという熱的なヒートスプレッダ材料であり、
層13は、エアロゲル(aerogel)かシリカ・エアロゲルで構成された熱絶縁材料で作られ、例えば、PTFE樹脂で結合した厚さ0.75mmのシリカ・エアロゲル絶縁材料を用いており、
隣接する層間には空隙があってもよく、層間を互いに結合するため、積層(laminating)プロセスなどを用いることが可能であり、
エンクロージャ30は、ラップトップPC、タブレットPC、可搬型電子装置のエンクロージャである、
電子システム。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1) 引用発明の「ラップトップPC」などを含む「電子システム」は、本願発明の「民生用電子製品」に相当する。

(2) 引用発明の「エンクロージャ30」は、「エンクロージャに収容された(housed)システムから熱を排出するとともに、エンクロージャの表面温度をユーザに快適なレベルに保つ」から、「内側表面および外側表面を有し」ていることは明らかである。
よって、引用発明の「エンクロージャ30」は、本願発明の「内側表面および外側表面を有した少なくとも2つの部材を有するハウジング」と、「内側表面および外側表面を有した、部材を有するハウジング」である点で共通するといえる。

(3) 引用発明の「第2層13」は、「接着剤、のりが、第1、第2層(11、13)をエンクロージャ又はEMIシールドと結合する」ものであって、「層13は、エアロゲル(aerogel)かシリカ・エアロゲルで構成された熱絶縁材料で作られ」るから、本願発明の「前記部材の前記内側表面の少なくとも一部に配置された熱的絶縁エレメントの層」に相当するといえる。

(4) 引用発明の「デバイス10」は、「マイクロプロセッサ、ハードディスク装置、グラフィックプロセッサ、メモリチップ、電源、電力コンバータなどの種々の熱を発生するデバイス」であるから、本願発明の「半導体チップ」を含んでいる。
引用発明の「第1層11」は、「第1層11は、ヒートスプレッダとして機能」するから、本願発明の「ヒートスプレッダ」に相当する。
引用発明の「熱媒介材料29」は、「マイクロプロセッサ・・・などの種々の熱を発生するデバイス」である「デバイス10」(「熱源20」)と「第1層」との間で、「熱源20と第1層11とに接触する」ものであるから、本願発明の「それらの間の熱媒介材料」に相当する。
ここで、本願発明の「I.半導体チップ、ヒートスプレッダ、およびそれらの間の熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料、またはII.ヒートスプレッダ、ヒートシンク、およびそれらの間の熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料、のうちの少なくとも一方を有するアセンブリを有した少なくとも1つの半導体パッケージ」において、「I.」と「II.」とが択一的記載である点に着目すれば、引用発明の「マイクロプロセッサ・・・などの種々の熱を発生するデバイス」である「デバイス10」(「熱源20」)、「第1層11」、及び、「熱媒介材料29」から構成される部分は、本願発明の択一的に記載された一方の、「I.半導体チップ、ヒートスプレッダ、およびそれらの間の熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料、を有するアセンブリを有した少なくとも1つの半導体パッケージ」と、「I.半導体チップ、ヒートスプレッダ、およびそれらの間の熱媒介材料、を有するアセンブリを有した少なくとも1つの半導体パッケージ」である点で共通するといえる。

したがって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は次のとおりである。

<一致点>
「民生用電子製品であって、
内側表面および外側表面を有した、部材を有するハウジングと、
前記部材の前記内側表面の少なくとも一部に配置された熱的絶縁エレメントの層と、
I.半導体チップ、ヒートスプレッダ、およびそれらの間の熱媒介材料、
のうちの少なくとも一方を有するアセンブリを有した少なくとも1つの半導体パッケージと、を備える、
製品。」である点。

[相違点1]
部材の個数に関して、本願発明の「ハウジング」では、「内側表面および外側表面を有した少なくとも2つの部材を有するハウジング」であるのに対して、引用発明の「エンクロージャ30」では、「少なくとも2つの」部材を有することの特定がなされていない点。

[相違点2]
本願発明の「前記熱的絶縁エレメント」は、「実質的に固体の球状粒子の間隙内に配置された気体を含」むものであるのに対して、引用発明の「第2層13」は、「エアロゲル(aerogel)かシリカ・エアロゲルで構成された熱絶縁材料で作られ、例えば、PTFE樹脂で結合した厚さ0.75mmのシリカ・エアロゲル絶縁材料を用い」るものであって、「実質的に固体の球状粒子の間隙内に配置された気体を含」むことの特定がなされていない点。

[相違点3]
本願発明の「熱媒介材料」は、「0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料」であるのに対して、引用発明の「熱媒介材料29」は、「熱インピーダンス」の値についての具体的な特定がなされていない点。


5.当審の判断
[相違点1]について
「ラップトップPC」等の電子機器のケースを構成する際に、例えば「上部ケース」と「下部ケース」のように、2つ以上の部材で構成する点は、例えば、先の当審拒絶理由で引用された、<引用文献2>(特開2001-142575号公報。図1、段落【0024】-【0025】「・・・本体キャビネット10は、それぞれ樹脂に比較して高強度且つ高伝熱性能を有する金属材料によって概ね矩形状に構成された上部ケース10uと下部ケース10bから成る。表示器12は、上部ケース10uの外表面の上端部にヒンジで回動可能に取り付けられる。下部ケース10bの内側の上半分の領域には、高発熱源であるCPU15をはじめとする回路部品4(一部のみ図示)を搭載した回路基板14が収納される。図1に明示されるように、回路基板14の右上隅部は矩形状に切り欠けられて、下部ケース10bとの間に空間Sfが形成される。下部ケース10bの下半分の領域には、ディスクドライブ等の種々の機器18が格納される。」の記載、段落【0044】の記載を参照。)に記載されるように、周知技術である。
よって、引用発明のエンクロージャ30を構成する際、上記周知技術を適用することで、「内側表面および外側表面を有した少なくとも2つの部材を有するハウジング」を備える、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に推考し得ることである。

[相違点2]について
引用発明は、「第2層13」として、「エアロゲル(aerogel)かシリカ・エアロゲルで構成された熱絶縁材料で作られ、例えば、PTFE樹脂で結合した厚さ0.75mmのシリカ・エアロゲル絶縁材料」を用いるものである。
ここで、「シリカ・エアロゲル材料」として、その形状が「固体の球状粒子」であるものは、例えば、先の当審拒絶理由で引用された、下記引用文献3に記載されるように、周知技術である。
また、「シリカ・エアロゲル材料」として、「粒子の間隙内に配置された気体を含」むものは、例えば、先の当審拒絶理由で引用された、下記引用文献3、新たに引用する、下記周知文献Aにそれぞれ記載されるように、周知技術である。

<引用文献3> 特開2000-34117号公報
(図1-図3、及び、
段落【0001】-【0002】「【発明の属する技術分野】本発明は、アルカリ水ガラスを主成分として含有させてなる不均一溶液組成物から誘導された高強度でかつ微細なシリカ質アエロゲル球体の製造方法に関する。詳しくはアルカリ水ガラス、水ガラス硬化剤、水に対しいかなる割合にも相溶する性質を示す水溶性有機高分子、水の4成分系からなる水ガラス溶液組成物が海相-島相からなる不均一相構造を成し、該水ガラス溶液組成物を5℃?80℃の範囲で懸濁化して反応させ、微細な含水シリカ質ゲル粒子を安定的に生成せしめた後、該懸濁液から濾過・水洗して固形分を取りだし、更に該固形分を室温?1000℃の範囲の温度下で脱水乾燥及び/又は焼成することで、高強度かつ微細なシリカ質アエロゲル球体を得ることを特徴とするいわゆるシリカ質アエロゲル球体の製造方法に関する。ここでシリカ質アエロゲル球体とは、最大粒径が大きくとも500μm以内の圧縮変形しづらい多孔質微細構造を持つシリカ質球状粒子のことである。一般に単に脱水乾燥してなるシリカ多孔質ゲルをシリカアエロゲルと言い、焼結乾燥してなるシリカ多孔質ゲルをシリカエアロゲルと言って区別して用いることが慣例だが、本発明ではシリカ質なアエロゲル球体及び/又はエアロゲル球体を一括総称して単に「シリカ質アエロゲル球体」と呼ぶものとする。」の記載、
段落【0040】「・・・また更に、そのウェット球状ゲルを取りだして、以下に記載の特定された条件下で適宜脱水乾燥及び/又は高温で焼成して誘導・製造される本発明のシリカ質アエロゲル球体は、軽量固体であり、特に制約するものでは無いが、水銀ポロシメーター法により得られる空隙サイズとして、およそ10?300オングストロームの空隙を持つ高強度非晶性多孔質合成シリカ粒子が誘導されることが特徴的である。」の記載、
段落【0137】-【0138】「また実施例1のR1組成物から誘導されたG1懸濁溶液を濾紙で濾過し固形分を採取し、濾紙のうえから減圧下に水洗を2度程行って後、得られたウェット球状ゲルの全量を更に40℃、48時間乾燥して球状シリカ1(参照図-1にはその球状シリカ1の1,000倍率の観察画像を参照図として提示。)の約15部を得た。球状シリカ1は光学顕微鏡による画像解析から最大粒子径が約8μm、平均粒子径が2.5μm、最小粒子径が0.3μmの粒度分布を持つシリカ質アエロゲル球体であった。また球状シリカ1の極く一部を採取し、エポキシ樹脂組成物で固定化しその粒子断面を切り出した標本について、走査型電子顕微鏡の10,000倍?500,000倍に拡大してゲル断面を詳細に画像解析した結果では、そのシリカ質アエロゲル球体の1個を形成している内部構造は、およそ20?50nmサイズの1次シリカ粒子の集合構造からなる多孔質集合体(参照図-2にはその8,000倍率の切削断面観察像を提示した。また参照図-3にはその7万倍率の粒子内部構造画像をそれぞれ提示した。)であり極めて真球性に富むことも併せて判明した。粒子表面にはおよそ10?300オングストロームの細孔を持っていることも判明した。球状シリカ1の50部を用意し、最高到達温度800℃まで室温から毎分3℃で等速度昇温させてゲル中の残存有機物を焼成除去して得た焼成球状シリカ1は、その形状ならびにサイズ共に球状シリカ1と大差ないものが得られた。またその焼成球状シリカ1の細孔径は水銀ポロシメーターによる測定結果ではおよそ20?500オングストロームであった。」の記載、
段落【0172】「【発明の効果】 ・・・(中略)・・・ また本発明のシリカ質アエロゲル球体の製造方法で得たシリカ質アエロゲル球体は、非晶質でかつ非常に強靱な特性を持ち合せている。よって、本発明のシリカ質アエロゲル球体の製造方法で得られるシリカ質アエロゲル球体としては、その主要な用途として、例えば固定化触媒用の担体用微粒子、高精度なキャップ出し充填剤、抗菌性化合物の固定化剤、耐熱充填剤として有益に利用可能であることが容易に思料されるものである。」の記載を参照。)

<周知文献A> 特開2003-42386号公報
(図1-図3、及び、
段落【0014】-【0019】「各種断熱材の中でも、キセロゲルやWDS(Wacker社製)といった断熱材は静止空気より熱伝導率が小さく、非常に断熱性能が高い断熱材である。これらは、断熱材作製時にバルク体を作製したり、出来上がった素断熱材を圧縮成形などにより固形化し、使用することができる。特に、キセロゲル乾燥工程で超臨界乾燥を用いて作製したキセロゲルは、エアロゲルと称され、バルク体を作製することが可能であるが、その強度は非常に弱いため、実用的ではない。 ・・・(中略)・・・ 次に、キセロゲルについて図1を用いて簡単に説明する。キセロゲルは、水ガラスや、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドを、ある条件下でゲル化させ、内部の溶媒を蒸発乾燥させたものである。普通に熱風乾燥させたものは、溶媒が乾燥するときの表面張力により、収縮してしまい断熱材としては機能しない。しかしながら、超臨界乾燥させたものや、ゲル表面を疎水化し、さらに溶媒をトルエンやアセトンやヘキサンなどの溶媒に置換し、熱風乾燥させたものは、表面張力がほとんど働かず、図に示すように1?10nm程度の径をもつシリカ一次粒子1が集合し、40?100nm程度の粒子間距離2をもった集合体となる。したがって、この粒子間距離2が細孔を形成し、多孔質体となる。この40?100nmが空気分子の平均自由行程と同程度の大きさであるため、空気分子間の衝突による熱伝導が小さくなり、キセロゲルは高い断熱性能を示す。そして、これらシリカ一次粒子1の集合体が、図2に示すように、1μm?10mm程度のシリカ二次粒子3を形成する。これが、粉末もしくは粒状の断熱材となる。 ・・・(中略)・・・ バインダ4として樹脂バインダを用い、シリカ二次粒子3と混合の後、金型に入れ、加熱することによりバインダ4が溶けだし、シリカ二次粒子3が固形化され断熱材が成形できる。このとき、金型に圧力かけてもかけなくても良い。固形化後の断熱材の一部を拡大すると、図3のようになっている。すなわち、バインダ4は溶けだし変形し、バインダ5となり、各シリカ二次粒子3間を結着している。」の記載を参照。)

よって、引用発明において、シリカ・エアロゲル材料により第2層を形成するために、シリカ・エアロゲル材料として、形状が「球状粒子」である周知技術を採用するとともに、「粒子の間隙内に配置された気体を含」む周知技術を採用することによって、「前記熱的絶縁エレメント」は、「実質的に固体の球状粒子の間隙内に配置された気体を含」む、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に推考し得ることである。

[相違点3]について
引用発明は、「電子システムには、マイクロプロセッサ、ハードディスク装置、グラフィックプロセッサ、メモリチップ、電源、電力コンバータなどの種々の熱を発生するデバイスが含まれ、これらのデバイスから発生する排熱は、熱管理システムによって、効率的に除去しなくてはなら」ないものであるから、熱源であるデバイスの排熱を、熱管理システムによって、効率的に除去すべきものである。
そして、一般に、「熱媒介材料(TIM)」は、部材の接合部において、熱を効率的に媒介するために用いられる材料である以上、熱インピーダンスが低いことが望ましいことは明らかであるといえる。
また、一般に、「熱媒介材料(TIM)」として、熱インピーダンスの値が、0.2℃cm^(2)/ワット未満のものは、例えば、新たに引用する、下記周知文献B、周知文献Cにそれぞれ記載されるように、周知技術である。

<周知文献B> 特表2006-522491号公報
(段落【0006】「また、電子装置は、より小さくなり、かつより速い速度で動作し、熱の形態で放出されるエネルギーは、劇的に増大する。工業における一般的な実施は、放散された過剰な熱を物理的界面を横切って伝達するために、そのような装置だけでまたはそのような装置のキャリア上で、熱グリースまたはグリース状材料を使用する。熱界面材料の最も一般的なタイプは、熱グリース、相変化材料、およびエラストマーテープである。熱グリースまたは相変化材料は、非常に薄い層に広げられる能力のために、エラストマーテープより低い熱抵抗を有し、かつ隣接する表面間の密な接触を提供する。一般的な熱インピーダンス値は、0.05℃・cm^(2)/Wから1.6℃・cm^(2)/Wの間の範囲である。」の記載、及び、
段落【0040】-【0041】「・・・この範囲の融点を有する熱界面構成要素は、PCM45およびPCM60HDであり、これらは両方ともHoneywell International Inc.によって製造される。 ・・・ PCM60HDは、約5.0W/mKの熱導電率を有し、約0.17℃・cm^(2)/Wの熱抵抗率は、一般に約0.0015インチ(0.04mm)の厚みに与えられ、約5psiから30psiの圧力印加の下で容易に流動する柔軟な材料を有する。PCM60HDの一般的な特徴は、a)80%を超える非常に高いパッケージング密度、b)導電フィラー、c)非常に低い熱抵抗率、および前述のようなd)約60℃の相変化温度である。・・・」の記載を参照。)

<周知文献C> 国際公開第2007/142273号
(段落[0002]-[0003]「近年、マイクロプロセッサ (CPU)などの電子デバイスの高性能化および小型化に伴い、その電子デバイスが発生する熱も増大している。したがって、電子デバイスの冷却能力が大きい冷却技術が求められている。一般に電子デバイスはヒートシンクなどの放熱部品を用いて冷却される。電子デバイスと放熱部品は、接合部(ギャップ)での熱抵抗を下げるため、高熱伝導材料で接合される。 電子デバイスおよび放熱部品の表面は完全に平坦ではなぐ微細な凹凸を有する。このため、電子デバイスと放熱部品の接合ギャップに金属などの硬い伝熱材料を用いた場合、その材料と電子デバイスあるいは放熱部品との接合 (密着性)が不十分になる。その結果、その接合部での熱抵抗が大きくなる。したがって、現在、その不均一な接合ギャップを隙間無く埋めることのできるサーマルグリースやフェイズチェンジングシートなどが広く使用されている。」の記載、及び、
段落[0030]-[0031]「・・・実施例の熱抵抗値は14.6℃mm^(2)/W、比較例の熱抵抗値は27.4℃mm^(2)/Wであった。本発明の実施例の熱抵抗は、比較例の約半分(53%)となっている。図15は実施例と比較例についての厚さ(μm)と接触熱抵抗(℃mm^(2)/W)の関係を示すグラフである。参考として、図15にはPGSシート単体(100μm)の接触熱抵抗値も示している。本発明の実施例は、比較例および単体PGSシートよりも約10℃mm^(2)/W(45%)接触熱抵抗値が小さくなつている。本発明のシートの適用可能な範囲は広い。例えば本発明のシートは、マイクロプロセッサのような小さな電子部品のみならずプラズマテレビのような大型の電気製品にも適用できる。」の記載における、「熱抵抗値は14.6℃mm^(2)/W」すなわち「0.146℃cm^(2)/W」である点を参照。)

よって、熱源であるデバイスからの排熱を、効率的に除去すべき引用発明で用いられる「熱媒介材料29」として、周知技術である、「熱インピーダンスの値が、0.2℃cm^(2)/ワット未満のもの」を採用することによって、「熱媒介材料」が、「熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料」である、上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に推考し得ることである。

さらに、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、仮に、本願発明の択一的構成である「II.ヒートスプレッダ、ヒートシンク、およびそれらの間の熱媒介材料であって0.2未満の熱インピーダンス(℃cm^(2)/ワット)の熱媒介材料」の構成が、本願発明の必須の構成とされた場合を想定しても、「ヒートスプレッダ、ヒートシンク、およびそれらの間の熱媒介材料」との構成は、例えば、先の当審拒絶理由で引用された、<引用文献5>(国際公開第2010/074970号。図3、3ページ19-22行、訳は、パテントファミリ文献である、特表2012-505299号公報、図3、段落【0014】「図3は、本発明の実施態様によるポリマーサーマルインターフェイス材料の応用を示す。パッケージ構造300が示されており、TIM100は、半導体チップ302及び熱スプレッダ構造304との間に配置される。また、熱スプレッダ構造302(当審注:「304」の誤記と認める。)及びヒートシンク構造306の間に配置されてもよい。TIM100は、本発明の実施態様のいずれかであってよい。ひとつの実施態様において、半導体チップ302は、シリコーン半導体チップを含み、及びパッケージ構造300はセラミックパッケージ及び/又は有機物パッケージ構造であってよい。」の記載を参照。)に記載されるように、周知技術であることから、引用発明において、このような周知技術の構成を付加するとともに、周知技術である、「熱インピーダンスの値が、0.2℃cm^(2)/ワット未満のもの」を採用することは、当業者が容易に推考し得ることである。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-16 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2014-542356(P2014-542356)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久々宇 篤志野村 和史  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 稲葉 和生
山田 正文
発明の名称 熱的絶縁層を用いて組み立てられた電子デバイス  
代理人 伊藤 克博  
代理人 小野 暁子  

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