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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1329572
審判番号 不服2015-12712  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-03 
確定日 2017-07-03 
事件の表示 特願2014- 23320「アッセイ装置、方法、および試薬」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日出願公開、特開2014-130151〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月10日に国際出願した特願2011-504004号(パリ条約による優先権主張:平成20年4月11日 米国)の一部を、平26年2月10日に新たな特許出願としたものであって、同年10月2日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年7月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、本件補正前の請求項1を、請求項1として、以下のように補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す。)
「 【請求項1】
マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって、ここで前記方法は、(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム、およびソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い、
前記方法が、前記マルチウェルプレートの個々のウェルにおいて実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ;ならびに
(iv)前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)?(iii)の状態をトラックするステップ、
を含有するコンピュータを実装した連続交互プロセスを含有し、
ここでステップ(i)が、サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有し、
ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルがステップ(i)?(iii)へと供され、そして前記第一のウェルの少なくともステップ(i)が完了したのちに前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)?(iii)が繰り返され、かつ
期間n、mもしくはpの一つもしくはそれ以上が、前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて、前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる、方法。」

請求項1についての上記補正は、本件補正前の「ステップ(i)」について、「サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有」することを限定するものを含むから、上記補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しない否か)、いわゆる独立特許要件について以下に検討する。

2 独立特許要件についての検討
(1)引用例について
ア 引用例1(米国特許出願公開第2007/0231217号明細書)の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された引用例1には、アッセイ装置、方法および試薬について、次の事項が記載されている。なお、下記イの引用発明の記載に関連する箇所に下線を付与した。
(ア)「[0014] A method is provided of using the apparatuses comprising seal removal tools (described above), the method comprising removing a seal from a well of a multi-well plate and detecting said signal from said well. Removing a seal may include piercing the seal on a well of a multi-well plate and, optionally, cutting the seal into sections (e.g., with using cutting edges on a piercing tip) and folding the sections against the internal walls of the well. The method may further include one or more of: pipetting a sample into the well, pipetting an assay reagent into the well, removing a liquid from the well, washing the well, illuminating the well, or applying an electrical potential to electrodes in the well. Additionally, the method may further comprise repeating some portion or all of the process described above on one or more additional wells of the plate.」(第2頁左欄?右欄)
(当審訳:[0014]シール除去ツール(上述のような)を含有する装置を用いる方法が提供され、該方法は、マルチウェルプレートのウェルからシールを除去することと前記ウェルからの前記シグナルを検出することとを含有している。シールを除去することは、マルチウェルプレートのウェル上のシールを貫通することを含んでいてよく、任意選択として、シールを切断して切片にすること(たとえば、ピペッティングチップ上の刃先を用いて)とウェルの内側壁部へと折りたたむこととを含んでいてもよい。該方法は、サンプルをウェルへピペッティングすること、アッセイ試薬をウェルへピペッティングすること、ウェルから液体を除去すること、ウェルを洗浄すること、ウェルを照明すること、もしくはウェルの電極に電圧を印加することから、一つもしくはそれ以上のステップを、さらに含有することができる。さらに、プレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェル上にて上記の工程の一部、もしくは全部を繰り返すステップをさらに含有することができる。)

(イ)「[0022] An apparatus is provided for conducting luminescence assays in multi-well plates. One embodiment comprises a light-tight enclosure that provides a light-free environment in which luminescence measurements may be carried out. The enclosure includes a plate translation stage for translating a plate horizontally in the enclosure to zones where specific assay processing and/or detection steps are carried out. The enclosure also includes an enclosure top having one or more plate introduction apertures through which plates may be lowered onto or removed from the plate translation stage (manually or mechanically). A sliding light-tight door is used to seal the plate introduction apertures from environmental light prior to carrying out luminescence measurements.

[0023] The apparatus may also comprise a light detector which may be mounted within the light-tight enclosure or, alternatively, it may be mounted to a detection aperture on the enclosure top (e.g., via a light-tight connector or baffle). In certain embodiments, the light detector is an imaging light detector such as a CCD camera and may also include a lens. The apparatus may also comprise pipetting systems, seal piercing systems, reagent and waste storage containers, tube holders for sample or reagent tubes, fluidic stations for delivering/removing samples/regeants/waste, etc. These components may be conventional components such as components known in the art. Alternatively, the apparatus may employ specific components as described herein. Furthermore, the apparatus may comprise computers or other electronic systems for controlling operation the apparatus including, e.g., operating motorized mechanical systems, and triggering and/or analyzing luminescence signals.

[0024] Another embodiment of an apparatus for conducting luminescence assays in multi-well plates comprises a light-tight enclosure comprising i) one or more plate elevators having plate lifting platforms that can be raised and lowered, ii) a light-tight enclosure top having one or more plate introduction apertures positioned above the plate elevators and a detection aperture, the enclosure top comprising a sliding light-tight door for sealing the plate introduction apertures, and iii) a plate translation stage for translating a plate in one or more horizontal directions. The plate translation stage comprises a plate holder for supporting the plate which has an opening under the plate to allow plate elevators positioned below the plate holder to access and lift the plate. Furthermore, the plate translation stage being configured to position plates below the detection aperture and to position the plates above the plate elevators.
」(第3頁左欄?右欄)
(当審訳:[0022]マルチウェルプレートにおいて発光アッセイを実施するための装置が提供される。一つの実施形態は、発光測定を実施することのできる光の除かれた環境を提供する遮光性筐体を含有する。筐体は、プレートを特定のアッセイ工程および/又は検出ステップが実施される領域へと筐体内で水平に平行移動するためのプレート移動ステージを含む。筐体はまた、それを通って(手動もしくは機械的に)プレートがプレート移動ステージへと下げられる、又はプレートがプレート移動ステージから取り除かれる、一つもしくはそれ以上のプレート導入開口を具備する筐体頂部を含む。発光測定を行うに先立ち、スライド式の遮光ドアが、周囲光からプレート導入開口をシールするために用いられる。
[0023]装置はまた、遮光性筐体内に備え付けられ得る光検出器を含むことができる。あるいは代替的に、光検出器は筐体頂部上の検出開口に(たとえば、遮光コネクタもしくは遮光バッフルを介して)取り付けられてもよい。ある実施形態において、光検出器はCCDカメラのようなイメージング光検出器であり、レンズをもまた含んでいてもよい。装置はまた、ピペッティングシステム、シール貫通システム、試薬および廃液貯蔵コンテナ、サンプル管もしくは試薬管のための試験管ホルダ、サンプル/試薬/廃液を配送/除去するための流体ステーションなどを備えていてもよい。これらの構成要素は、この分野で知られている構成要素のような従来用られている構成要素であり得る。代替的に、本明細書に記載されているような特定の構成要素を用いることもできる。さらに、装置は、たとえば、モーター駆動の機械システムを操作したり、発光信号を誘発および/又は分析したりすることを含む装置の操作制御のために、コンピュータもしくは他の電子装置を含有し得る。

[0024]マルチウェルプレートにおいて発光アッセイを実施するための装置の他の実施形態は、i)上昇と下降のできるプレートリフティングプラットフォームを具備する一つ又はそれ以上のプレートエレベータ、ii)プレートエレベータの上に位置する一つ又はそれ以上のプレート導入開口と検出開口を含む遮光性筐体頂部であって、プレート導入開口をシールするためのスライド式の遮光ドアを備える遮光性筐体頂部、ならびにiii)一つ又はそれ以上の水平方向へとプレートを移動するためのプレート移動ステージ、を含む遮光性筐体を含有する。プレート移動ステージは、プレートホルダーの下に位置するプレートエレベータがプレートに接近して持ち上げることができるようにするために、プレートの下に開口を有する、プレートを支持するためのプレートホルダーを備える。さらにプレート移動ステージは、検出開口の下にプレートを配置し、そしてプレートエレベータ上にプレートを配置するように設定されている。)

(ウ)「[0031] Where the apparatus comprises a pipetting probe, and the enclosure top and sliding door includes pipetting apertures, the method may further comprise: sliding the sliding light-tight door to the pipetting position and using the pipetting probe to introduce and/or remove reagent and/or sample from one or more wells of the plate. Where the apparatus comprises a seal piercing probe, and the enclosure top and sliding door includes piercing apertures, the method may further comprise: sliding the sliding light-tight door to the piercing position, aligning a well of the plate under the piercing probe, and piercing a seal on the well. They may be repeated to seal additional wells of the plate. In one embodiment, a seal on a well of a plate is pierced with the seal piercing tool prior to being accessed by a pipetting probe. In another embodiment, the well is first accessed by a pipetting probe (which pierces the seal to form one or more small holes or tears in the seal. The well is then subsequently pierced with the piercing probe to fully displace the seal and allow for unencumbered detection of signal from the well. 」
(当審訳: [0031] 装置がピペッティングプローブを備え、筐体頂部およびスライド式ドアがピペッティング開口を含むところで、方法は、ピペッティングポジションまでスライド式遮光ドアをスライドするステップと、プレートの一つもしくはそれ以上のウェルから試薬および/もしくはサンプルを導入するかならびに/またはそこから取り除くためにピペッティングプローブを使用するステップを、さらに含有しても良い。装置がシール貫通プローブを備え、筐体頂部とスライド式ドアが貫通開口を含むところで、方法は、貫通ポジションまでスライド式遮光ドアを移動するステップと貫通プローブの下にプレートのウェルを並べるステップならびにシール上のシールを貫通するステップを、さらに含有しても良い。それらはプレートの追加のウェルをシールするのに繰り返しても良い。一つの実施形態において、プレートのウェルのシールはピペッティングプローブによって接近されるのに先立ってシール貫通ツールによって貫通される。他の実施形態において、ウェルはピペッティングプローブ(シール内に一つもしくはそれ以上の小さい孔もしくは裂け目を形成するためにシールを貫通する)によって最初に接近される。ウェルはそのあとに続いてシールを完全に取り除くために貫通プローブによって貫通され、ウェルからのシグナルの妨害のない検出が可能となる。)

(エ)「[0066] The apparatuses, systems, method, reagents, and kits may be used for conducting assays on environmental samples. They may be particularly well-suited for conducting automated sampling, sample preparation, and analysis in the multi-well plate assay format. 」
(当審訳:[0066] 装置、システム、方法、試薬、キットは環境サンプルにおけるアッセイを実施するためにも用いられても良い。それらは、自動化したサンプリング、サンプル調整、およびマルチウェルプレートアッセイフォーマットにおける分析を実施するのに特によく適しているであろう。)

(オ)「[0084]In one embodiment, the biological agent detection module has an integrated pipettor and a fluidic manifold for receiving samples and buffers, and distributing them to the wells of a plate. According to one preferred embodiment, the module allows to induce and measure ECL from only one well at a time.

[0085]One example of the analyte detection module, picture in FIG. 1 , demonstrates the arrangement in a compact instrument of a mechanical system for storing and moving plates, a light detector for measuring luminescence (including ECL), a fluidic interface and pipetting system for transferring samples to the plates, and the electronic boards that drive the module.」(第9頁右欄)
(当審訳:[0084]一つの実施形態では、生物剤検出モジュールは、サンプルおよびバッファーを受容し、プレートのウェルへそれらを分注するための集積ピペッターおよび流体マニホールドを有する。一つの好ましい実施形態において、モジュールは、1回に一つのウェルのみからECLを誘発して測定することができるようにする。

[0085]アナライト検出モジュールの一つの例である、図1に示される図面は、プレートを貯蔵し移動するための機械的システム、発光(ECLを含む)を測定するための光検出器、サンプルをプレートに移すための流体結合系およびピペッティングシステム、およびモジュールを駆動する電子回路基板のコンパクトな機器への配置を例示する。)

(カ)「[0086] According to one embodiment, the analyte detection module has three subsystems: (1) light detection, (2) liquid handling, and (3) plate handling. Each subsystem may, optionally, have a built-in error detection component to ensure reliable operation and to reduce the probability of false positives.」(第9頁右欄)
(当審訳:[0086]一つの実施形態では、アナライト検出モジュールは、(1)光検出、(2)液体操作、及び(3)プレート操作の三つのサブシステムを有する。それぞれのサブシステムは、任意選択として、信頼できる動作を確かめ、擬陽性の可能性を減らすために、内蔵するエラー検出コンポーネントを有することができる。)

(キ)「[0087] A method is also provided for conducting assays for biological agents including, but not limited to, biological warfare agents. In one embodiment, the method is a binding assay. In another embodiment, the method is a solid-phase binding assay (in one example, a solid phase immunoassay) and comprises contacting an assay composition with one or more binding surfaces that bind analytes of interest (or their binding competitors) present in the assay composition. The method may also include contacting the assay composition with one or more detection reagents capable of specifically binding with the analytes of interest. The multiplexed binding assay methods according to preferred embodiments can involve a number of formats available in the art. Suitable assay methods include sandwich or competitive binding assays format. Examples of sandwich immunoassays are described in U.S. Pat. Nos. 4,168,146 and 4,366,241.」(第9頁右欄?第10頁左欄)
(当審訳:[0087]それに限定されないが生物兵器剤を含む、生物剤のためのアッセイを実施する方法が提供される。一つの実施形態として、方法は結合アッセイである。他の実施形態において、方法は固相結合アッセイ(一例では、固相イムノアッセイ)であり、アッセイ組成物中に存在する関心のあるアナライト(又はそれらの結合競合物)と結合する一つもしくはそれ以上の結合表面とアッセイ組成物を接触させるステップを含有する。方法はまた、アッセイ組成物を関心のあるアナライトと特異的に結合可能な一つもしくはそれ以上の検出試薬と接触させるステップを含有しても良い。好ましい実施形態による多重結合アッセイ方法は、この分野で利用可能な多数のフォーマットを含むことができる。適切なアッセイ方法は、サンドイッチ結合アッセイもしくは競合的結合アッセイを含む。サンドイッチイムノアッセイの例は、米国特許第4,168,146号および米国特許第4,366,241号に記載されている。)

(ク)「[0090]Analytes may be detected using electrochemiluminescence-based assay formats. Electrochemiluminescence measurements are preferably carried out using binding reagents immobilized or otherwise collected on an electrode surface. Especially preferred electrodes include screen-printed carbon ink electrodes which may be patterned on the bottom of specially designed cartridges and/or multi-well plates (e.g., 24-, 96-, 384- etc. well plates). Electrochemiluminescence from ECL labels on the surface of the carbon electrodes is induced and measured using an imaging plate reader as described in copending U.S. application Ser. Nos. 10/185,274 and 10/185,363 (both entitled “Assay Plates, Reader Systems and Methods for Luminescence Test Measurements”, filed on Jun. 28, 2002, hereby incorporated by reference). Analogous plates and plate readers are now commercially available (MULTI-SPOT# and MULTI-ARRAYTM plates and SECTOR# instruments, Meso Scale Discovery, a division of Meso Scale Diagnostics, LLC, Gaithersburg, Md.).

[0091]In one embodiment, antibodies that are immobilized on the electrodes within the plates may be used to detect the selected biological agent in a sandwich immunoassay format. In another embodiment, microarrays of antibodies, patterned on integrated electrodes within the plates, will be used to detect the plurality of the selected biological agents in a sandwich immunoassay format. Accordingly, each well contains one or more capture antibodies immobilized on the working electrode of the plate and, optionally, in dry form labeled detection antibodies and all additional reagents necessary for analysis of samples, and for carrying out positive and negative controls. In one example, arrays having multiple binding surfaces within a single well allow to replicate tests to significantly reduce false positive identification.」(第10頁左欄?右欄、当審注:#はRの丸印を示す。)
(当審訳:[0090]アナライトは、電気化学発光に基づいたアッセイフォーマットを用いて検出できる。電気化学発光測定は、好ましくは、電極表面に固定されるかさもなくば集められた結合試薬を用いて実施される。特に好ましい電極は、特別に設計されたカートリッジ及び/又はマルチウェルプレート(たとえば24-、96-、384-などのウェルプレート)の底部にパターン化されていてよいスクリーン印刷されたカーボンインク電極を含む。カーボン電極の表面上におけるECL標識からの電気化学発光は誘発されて、同時継続出願の米国特許出願第10/185,274号および米国特許出願第10/185,363号(どちらも「発光試験測定のためのアッセイプレート、リーダーシステムおよび方法」と題され、2002年6月28日に出願された。引用によって本明細書に含まれる)に記載されるようなイメージングプレートリーダーによって測定される。今日では、類似のプレートおよびプレートリーダーが市販されている(MULTI-SPOT(登録商標)およびMULTI-ARRAY(登録商標)プレート、Meso Scale Discovery, a division of Meso Scale Diagnostics, LLC, Gaithersburg, Md.)

[0091]一つの実施形態では、プレート内の電極に固定された抗体は、サンドイッチイムノアッセイフォーマットにおいて、選択された生物剤を検出するために用いることができる。他の実施形態では、プレート内の集積された電極上にパターン化された抗体のマイクロアレイが、サンドイッチイムノアッセイフォーマットにおいて、複数の選択された生物剤を検出するために用いることができる。したがって、それぞれのウェルは、プレートの作用電極上に固定された一つもしくはそれ以上の捕捉抗体と、任意選択的に、乾燥形態で、標識された検出抗体および、サンプル分析、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールを実施するために必要なすべての追加的試薬を含む。一例において、単一のウェル内の多重結合表面を具備したアレイが、擬陽性の同定を有意に減らすために再現テストを実施することを可能にする。)

(ケ)「[0099]In one embodiment, the plate has an immobilized array of binding reagents (e.g., antibodies or nucleic acids) and bioagents in the sample bind to the corresponding immobilized reagent and a corresponding labeled detection reagent to form a sandwich complex. In some, the array is formed on an electrode and detection is carried out using an ECL measurement. In one embodiment, after addition of an ECL read buffer, labels on the electrode are induced to emit ECL by applying a voltage to the working electrode, and the emitted ECL is imaged with a CCD camera.」(第11頁左欄)
(当審訳:[0099]一つの実施形態において、プレートは、結合試薬(たとえば、抗体もしくは核酸)の固定されたアレイを有し、サンプル中の生物剤は対応する固定された試薬および対応する標識された検出試薬とに結合し、サンドイッチ複合体を形成する。ある場合、アレイは電極上に形成され、そして検出はECL測定を用いて行われる。一つの実施形態において、ECL読み取りバッファーの添加後、電圧を作用電極に印加することによって電極上の標識はECLを放出するよう誘発され、放出されたECLはCCDカメラによって撮像される。)

イ 引用例1に記載の発明
(ア)引用例1には、サンプルをウェルへピペッティングすること、アッセイ試薬をウェルへピペッティングすることを含む方法であること、ピペッティングされたサンプルや試薬はマルチウェルプレートのウェルに対して添加されることが記載されている(上記ア(ア)、(オ)参照。)

(イ)そして、実行されるアッセイとして、マルチウェルプレートのウェルの底部に設けられた作用電極に固定された捕捉抗体と、乾燥形態でウェル内に含まれた標識された検出抗体と、該ウェルに添加されたサンプル中の生物剤すなわちアナライトとの間でサンドイッチ複合体を形成し、ECL(電気化学発光)読み取りバッファー試薬を加えた後、電圧を作用電極に印加することで、電極上の標識がECLを放出するよう誘発され、CCDカメラなどで光検出する、ECL測定を用いたサンドイッチイムノアッセイが記載されている(上記ア(カ)?(ケ)参照)。

(ウ)サンドイッチイムノアッセイにおいて、サンプルの添加により捕捉抗体および標識検出試薬とサンプルが接触して抗原抗体反応が開始され、サンドイッチ複合体が充分に形成されるためには、捕捉抗体や標識検出試薬が入ったウェル等に対してサンプルを添加するのに要する時間と比べて、相当に長い時間をいわゆるインキュベーションする期間を必要とすることは、技術常識であるから、引用例1に記載されたECL測定を用いたサンドイッチイムノアッセイを用いる方法において、ウェルにサンプルを添加した後に、同ウェルにECL(電気化学発光)読み取りバッファー試薬を添加するまでの間には、当然、同ウェル中に前記サンプルをインキュベーションする期間が存在することは明らかである。してみれば、それぞれの操作段階をステップと称すれば、ウェルにサンプルを添加するステップ、同ウェルにECL(電気化学発光)読み取りバッファー試薬を添加するステップの間には、同ウェル中に前記サンプルをインキュベーションするステップが存在するものである。

(エ)さらに、マルチウェルプレートでは個々のウェルに対してアッセイを連続して実施するものであり、引用例1に記載されたECL測定を用いたサンドイッチイムノアッセイを用いる方法において、上記ア(ア)に「プレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェル上にて上記の工程の一部、もしくは全部を繰り返すステップをさらに含有する」と記載されているように、個々のウェル対して、上記(ウ)の各ステップである、ウェルにサンプルを添加するステップ、同ウェル中に前記サンプルをインキュベーションするステップ、同ウェルにECL(電気化学発光)読み取りバッファー試薬を添加するステップを繰り返すものといえる。そして、マルチウェルプレートのウェルのうち、最初に(第一に)上記各ステップに供されるウェルは「第一のウェル」といえるものである。

(オ)上記(ア)?(エ)を踏まえ、ア(ア)?(ケ)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。
「マルチウェルプレートにおいて自動化したアッセイを実施するための方法であって、(1)光検出、(2)液体操作、及び(3)プレート操作の三つのサブシステム及び操作制御のためのコンピュータを有する装置を用い、
アッセイが、前記マルチウェルプレートのウェル内に作用電極上に固定された捕捉抗体と乾燥形態の標識検出抗体を含むマルチウェルプレートを用いるECL測定を用いたサンドイッチイムノアッセイであって、
前記方法が、前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対して連続して実施される以下のステップ:
(i)前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)前記個々のウェル中に前記サンプルをインキュベーションするステップ;ならびに
(iii)前記個々のウェルへとECL読み取りバッファー試薬を添加するステップ
を含有し、
前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)?(iii)が繰り返され、
ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルが最初にステップ(i)?(iii)へと供され、そしてプレートのウェルのシールはピペッティングプローブによって接近されるのに先立ってシール貫通ツールによって貫通される方法。」(以下、「引用発明」という。)

ウ 引用例2(特開平6-194315号公報)
同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された引用例2には、連続滴定発光測定装置について、次の事項が図面の記載とともに記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は連続滴定装置に係り特に多数の滴定容器を縦横に配列したマルチウェルプレ-トに対し、遂次連続的に試薬を注入し、滴定容器内サンプルの発光を測定することにより、例えば、生物発光・化学発光の基礎研究とか生細胞の活性度の研究、臨床検査(イムノアッセイ)、食品中の細菌数測定に用いて便な連続滴定装置に係る。

(イ)「【0002】
【従来の技術】滴定容器を多数縦横に配列したマルチウェルプレ-トの各滴定容器に対し、僅か乍ら性質の異なるサンプルを入れ、各滴定容器の発光を測定して解析する発光計測研究装置は従来から存在していたが、これらはサンプルを入れた各滴定容器に対し、発光源物質生成試薬分注、該サンプル及び発光源物質生成試薬のインキュベ-ション、発光試薬注入、発光測定及び発光停止試薬注入の5つの動作をこの順に所定時間ずつ行うものである。然し、滴定容器の数は一般に24ケとか48ケとか96ケとあり自動化がなされていたとしてもこの全作業時間は甚大なものであった。
【0003】
【発明を解決しようとする課題】このような連続滴定装置はもち論作業は自動的になされるものが普通であるが、全作業時間が長大化することにより、1日に計測出来るサンプルの数が少なくなると共に、サンプルに経時変化が起きて、デ-タに誤差が生じることもある。そこで本発明により、上述作業時間を短縮しようとするものである。」

(ウ)「【0004】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明によれば、上記5つの作業の中、最も時間のかかる作業が発光源物質生成試薬を注入してから容器の恒温化を尚持続せしめなければならないと云うインキュベ-ション行程にある点と、発光試薬注入、発光測定及び発光停止試薬注入作業は一連でなくてはならない点とに着目し、このインキュベ-ションの手前の作業とインキュベ-ションの後に行う作業とを分断し、夫々の作業が時間的に並行して他の容器に対しても行なえる様にした。」

(エ)「【0010】ここで1つの滴定容器における滴定による発光測定をその段階順に説明すると、先づヒ-タ11によりマルチウェルプレ-トを全体的に予熱しておきサンプルの入れた滴定容器の1つに先づ分注ノズル1から混合発光源物質生成試薬を注入する。一般にこの種試薬は注入の都度2つの試薬を正確に混合したものを分注するので図面には2つのボトル7、8を示してある。尚試薬Bは比較的大量であるので、補助加熱ユニット13により加熱してからAB混合ユニット12に導く。又、ボトルから試薬A、Bの汲上げはペリスタルティックポンプ又は、チュ-ブポンプ14、15とにより成される。
【0011】このように発光源物質生成試薬A、Bの入れられた滴定容器に対し次の段階としてインキュベ-ションがある。このインキュベ-ションは前記予熱を引継ぎ当該滴定容器を恒温加熱したままにしておく事を意味するが、全段階の中、比較的長時間要する。第3段階目としてこの一定インキュベ-ション時間の終わった滴定容器に発光試薬Cを発光試薬注入ノズル2により注入する。この場合ジェット注入して攪拌する事が望ましいのでシリンジユニット16を介して注入する。これに依り当該滴定容器内のサンプルは発光を始める。
【0012】この発光により生ずるフォトン数を一定時間で測定するのが第4段階目である。これはノズル2の近傍に1体に配置したレンズユニット4により発光を取り出し、光ファイバ17を介して受光素子4に導き、この信号出力を数値電気信号に電子回路18により変換し、コンピュ-タ19で処理をすると共にその結果をディスプレイ20に表示し、解析、研究に役立てる。
【0013】発光しているサンプルはその隣接滴定容器に光が漏れたり、次の測光操作に悪影響を与えない様に当該滴定容器の測光が終わったら直ちに発光を停止させる。この段階を発光停止試薬D注入と称し、発光停止試薬D用のボトル10よりペリスタルティックポンプ21を介し上記測光組立体に配設した発光停止試薬ノズル3より当該滴定容器に注入することによりなされる。」

(オ)「【0016】図3に本発明により多数の滴定容器の中、A1、B1、C1に対し、なされる段階のタイムチャ-トを示す。先づ発光源物質生成試薬分注ノズル1は滴定容器A1の上に駆動され試薬を注入すると共にインキュベ-ションが開始される。次に分注ノズル1は滴定容器B1のインキュベ-ションを開始せしめ、引続いて滴定容器C1へと進み、当該滴定容器C1のインキュベ-ションを開始せしめる。以下同様にして駆動装置による滴定容器の動作順序即ち行程は図3の各滴定容器間を結ぶ矢線で示す。
【0017】この間に滴定容器A1のインキュベ-ションが完了し、発光試薬Cがそのノズル2より注入させられこれと共にレンズユニット4によりその発光の計測が進められる。この計測はノズル2よりの注入開始後の一定時間続きこの計測時間内のフォトンの数を計数する。この一定時間後には、発光停止試薬Dがノズル3より注入されその後直ちにマルチウェルプレ-ト駆動装置が動作し測光組立体の真下に滴定容器B1が来て前記と同じ作業段階をなし、この作業の完了と共に滴定容器C1が移動する。
【0018】これを総体的に見ると発光源物質生成試薬分注ノズルは、インキュベ-ション時間終了を待たずに他の滴定容器へと次々と移行し、インキュベ-ション時間を終わった順に測光組立体が発光源物質生成試薬分注ノズルを追いかける様な動作をなす。
【0019】この動作は2つのX-Y駆動装置をタイミングを取りながら駆動し、更に各ポンプの作動、受光素子のシャッタ開閉等のタイミングをとった作動を伴ったものになるがこの動作はコンピュ-タを主体とする電子制御回路21により容易になされる。」

(カ)そして、以下の図3には、上記記載に対応して、マルチウェルプレ-トのウェルである滴定容器A1、B1、C1に対する連続滴定操作のタイムチャ-トが示され、まず滴定容器A1に発光源物質生成試薬(A,B薬)を分注ノズル1が注入すると共にインキュベ-ションが開始されて測定手順が開始され、滴定容器A1のA,B試薬の注入が完了した後のそのインキュベ-ション期間中で、さらなる別のC薬の滴定容器A1への注入が完了する前に、分注ノズル1が滴定容器B1へA,B薬の注入を行って、滴定容器B1の測定手順が順次開始されるタイムスケジュールが記載されている。
【図3】



(2)補正発明と引用発明との対比・判断
ア 対比
(ア)引用発明の「マルチウェルプレートにおいて自動化したアッセイを実施するための方法」は、補正発明の「マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法」に相当する。

(イ)引用発明の「(1)光検出、(2)液体操作、及び(3)プレート操作の三つのサブシステム」は、補正発明の「(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム」に相当する。

(ウ)引用発明の(i)?(iii)の各ステップを実行するにあたり、それぞれ所定の期間を要することは明らかである。また、引用発明の「インキュベ-ション」とは、抗原抗体反応が開始されサンドイッチ複合体が形成されていく保持過程であり、これは「放置」過程ともいえるものである。また、引用発明の「ECL読み取りバッファー試薬」は、補正発明の「試薬」に相当する。
そして、補正発明の「サンプル添加フェーズ」、「放置フェーズ」、「試薬添加フェーズ」について、本願明細書の段落【0080】の記載を参照するに、それぞれの「フェーズ」は、ウェルに対してサンプルを添加するステップ、ウェル中に前記サンプルを放置するステップ、ウェルへ試薬を添加するステップの実行に要する期間のことを意味するものとして用いており、それぞれの期間を表す「期間n」、「期間m」、「期間p」という記載も、各々が互いに異なる期間であることを意味する程度と解される。
また、引用発明の「プレートのウェルのシールはピペッティングプローブによって接近されるのに先立ってシール貫通ツールによって貫通される」という動作について、「ピペッティングプローブ」は、サンプルの添加に使われるものであり、シールを貫通、つまりシールに穴を空けた状態でサンプルが添加されなければならないことは自明であるから、引用発明の上記工程は、(i)のステップのウェルに対するサンプルの添加に先だって行われるものである。
してみると、引用発明の「プレートのウェルのシールはピペッティングプローブによって接近されるのに先立ってシール貫通ツールによって貫通される」ことを含めた「(i)前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ」、「(ii)前記個々のウェル中に前記サンプルをインキュベーションするステップ」、及び「(iii)前記個々のウェルへとECL読み取りバッファー試薬を添加するステップ」は、それぞれ、補正発明における「サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有」する「(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ」、「(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ」、及び「(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ」に相当する。

(エ)引用発明において、(i)?(iii)の各ステップが「操作制御のためのコンピュータ」により実行されることは明らかである。また、「アッセイ」は「自動化」されているから、コンピュータに自動化に必要なソフトウェアのスケジューラーが実装、動作可能とされていることは自明である。そして(ウ)で説示した相当関係を踏まえると、引用発明の「操作制御のためのコンピュータ」は、補正発明の「ソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータ」に相当する。また、引用発明の(i)?(iii)の各ステップが「操作制御のためのコンピュータ」により実行されることと、補正発明の「コンピュータを実装した連続交互プロセス」とは、「コンピュータを実装したプロセス」で共通する。

(オ)したがって、補正発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点において相違する:
(一致点)
「マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって、(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;および(c)プレート操作サブシステム、ソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い、
前記方法が、前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対して連続して実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;ならびに
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ
を含有するコンピュータを実装したプロセスを含有し、
ここでステップ(i)が、サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有し
ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルがステップ(i)?(iii)へと供され、そして前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)?(iii)が繰り返される、
方法。」

(相違点)
相違点1:マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)?(iii)が繰り返されることが、補正発明では「前記第一のウェルのステップ(i)が完了したのちに」と特定されているのに対し、引用発明では、そのようには特定されていない点。
相違点2:コンピュータを実装したプロセスが、補正発明では、「連続交互プロセス」であるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。
相違点3:補正発明が、「前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)?(iii)の状態をトラックするステップ」を備えているのに対して、引用発明は、スケジューラーがマルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)?(iii)の状態をトラックするか否か不明であって、そのようなステップを備えることが特定されていない点。
相違点4:補正発明が、「期間n、mもしくはpの一つもしくはそれ以上が、前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて、前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる」のに対して、引用発明は、各ステップ(i)?(iii)の期間が調整できることが特定されていない点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1について
a マルチウェルプレートのウェルにおいてイムノアッセイ等を実施する場合(上記(1)ウ(ア)参照。)で、ウェルに対する複数の分注ステップを含むステップを所定の手順で順次、連続して行う場合の全作業時間を短縮するために、サンプルを入れた滴定容器A1(引用発明の「第一のウェル」に相当)に試薬(A,B薬)を添加するステップを行ってイムノアッセイのための処理を開始し、その後インキュベーション期間経過後に、さらに所定のステップを順次行ってイムノアッセイする際、前記第一のウェルへの添加ステップの後の、ウェル内でのサンプルと試薬(A,B薬)との反応のためのインキュベーション期間の間に、前記マルチウェルプレートの一つの追加のウェルである滴定容器B1に試薬(A,B薬)を添加するステップを行って、イムノアッセイのための処理を開始し、マルチウェルプレートにおけるイムノアッセイの全作業時間を短縮して、単位時間当たりの処理能力、いわゆるスループットを高めることができることが、引用例2に記載されている(上記(1)ウ(イ)?(カ)参照。)。

b 引用発明では、マルチウェルプレートのウェルに捕捉抗体と乾燥形態の標識検出試薬を含むことから、サンドイッチイムノアッセイの開始は、引用例2に記載のように試薬のウェルへの添加ステップではなく、サンプルをウェルへ添加するステップによって開始されるものであるが、引用発明と引用例2記載の事項とは、イムノアッセイの反応開始に必要な液体(引用発明:サンプル、引用例2:試薬)を最初にマルチウェルプレートのウェルへ添加するステップ後に、ウェル内でのサンプルと試薬との反応のために長い放置(インキュベーション)時間を要する点で共通するものである。

c そして、イムノアッセイにおける全作業時間を短縮させるという課題は、イムノアッセイ全般の一般的な技術課題に過ぎず、引用発明も当然その課題を内在しているといえることから、引用例2に記載されている、マルチウェルプレートの第一のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し、その第一のウェルでのインキュベーション期間に、前記マルチウェルプレートの一つの追加のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し、マルチウェルプレートにおけるイムノアッセイの全作業時間を短縮することを、引用発明に適用することは当業者が容易になし得たことである。すなわち、上記第一のウェルでのインキュベーション期間とは、引用発明における「第一のウェル」に対する「(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ」に対応する期間であり、「ステップ(i)」が完了した後であるから、引用発明において、「前記第一のウェルの上記ステップ(i)が完了したのちに前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)?(iii)繰り返され」るようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
補正発明における「連続交互プロセス」とは、本願明細書に「このようなアプローチの一実施態様は連続交互プロセスであり、動作が個々のウェルにおいて取られるときの異なるフェーズのために交互の期間を割り当てる(例えば、上述期間nおよびpはフェーズ(a)および(c)中である)。」(【0084】)と記載されている。
一方、上記(ア)での検討したように、引用発明に引用例2に記載された技術事項を適用することは当業者が容易になし得たことであり、そうすると、引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は、 「第一のウェル」に対するステップ(ii)中に「前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいて、」少なくともステップ(i)を行い、その後で、「第一のウェル」に対するステップ(iii)を行う、つまり「連続交互プロセス」を含有することになる。

なお、請求人は、平成28年2月19日付けの上申書において「引用文献1?2には、「連続交互プロセス」を用いてアッセイを実施することについては示唆も教示もありません。「連続交互プロセス」は例えば図18(段落0084?0086)などに記載されるように、1のプロセスの休止期間(ピペットを使用していない期間)に他のプロセスを実施するようなものであり、スループットを向上するという効果があります。」と主張している。しかし、引用例2に記載された方法では、A,B薬分注とC薬分注とが独立して移動できる別の分注プローブを用いて行われている(上記(2)ウ(オ)参照。)ので、図3のようなタイムスケジュールを採用しているに過ぎず、引用例1に記載の装置のような単一のピペティングプローブを用いた装置を利用する場合において、異なるウェルに異なる試薬を同時に分注しないような分注スケジュールとすることは技術的に明らかである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(ウ)相違点3について
本願発明の「トラック」について、本願明細書に「ソフトウェアのスケジューラーは、装置によって単一のプレート上で実施される全てのアッセイの状態を常にトラックする。」(【0084】)と記載されている。
一方、引用発明は「アッセイ」を「自動化し」て「実施する」ものであるから、各ステップが順に行われたことをソフトウェアのスケジューラーが把握できなければ、あるステップが完了しないまま次のステップに進むという不具合が生じ得るのは明らかであって、各ステップを確実に行うために、各ステップの状態をトラックしなければならないから、引用発明においても、各ステップを実行するためのソフトウェアのスケジューラーによって、各ステップ(i)?(iii)の状態をトラックすることは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(エ)相違点4について
分析装置に各工程の時間を調整することは、本願優先日前において従来周知の技術(例えば、特開2004-317321号公報の段落【0022】や特開2002-48755号公報の段落【0022】、特開平8-278310号の【0006】、【0010】等を参照されたい。)であり、分析内容によって、工程の時間が異なることは技術常識であることを踏まえると、引用発明において、アッセイ内容に応じて、スケジューラーで各工程の時間を調整することは当業者が適宜なし得ることにすぎない。

ウ 補正発明の効果について
補正発明の効果は、引用例1及び2に記載の事項、並び周知技術から、当業者が予測し得る程度のものである。

(3)小括
以上のとおり、補正発明は、引用発明、引用例2の記載事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年2月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって、ここで前記方法は、(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム、およびソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い、
前記方法が、前記マルチウェルプレートの個々のウェルにおいて実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ;ならびに
(iv)前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)?(iii)の状態をトラックするステップ、
を含有するコンピュータを実装した連続交互プロセスを含有し、
ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルがステップ(i)?(iii)へと供され、そして前記第一のウェルの少なくともステップ(i)が完了したのちに前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)?(iii)が繰り返され、かつ
期間n、mもしくはpの一つもしくはそれ以上が、前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて、前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる、方法。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2とその記載事項は、前記第2の2(1)に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、実質的に補正発明の「ここでステップ(i)が、サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有し、」と限定する事項がないものであるから、本願発明は、前記第2の2で検討した補正発明を包含する。
そうすると、本願発明は、補正発明と同様に、引用発明、引用例2の記載事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 平成28年2月19日付け上申書の補正案について
平成28年2月19日付け上申書には、補正案が記載されており、その補正案の請求項1は、次のとおりである。(下線は補正発明からの補正箇所を示すものであり、当審が付したものである。)
「[請求項1]
マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって、ここで前記方法は、(a)光検出サブシステム;(b)ピペッターを含有する液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム、および(d)個々のサンプルのプロセスをスケジュールするためのソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い、
前記方法が、前記マルチウェルプレートの個々のウェルにおいて実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に個々のウェルのシールを穴開けし、そして前記個々のウェルに対してサンプルを添加するために前記ピペッターを用いるステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するために前記ピペッターを用いるステップ;ならびに
(iv)前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)?(iii)の状態をトラックするステップ、
を含有するコンピュータを実装した連続交互プロセスを含有し、
ここでステップ(i)?(iii)が前記マルチウェルプレートの第一のウェルにおいて実施され、そして、前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいて、前記第一のウェルにおけるステップ(ii)の間に前記一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてステップ(i)が実施され、そして、前記一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおけるステップ(ii)の間に前記第一のウェルにおいてステップ(iii)が実施されるような連続交互プロセスを用いてこれらのステップ(i)?(iii)が繰り返される、
方法。」(以下、「補正案発明」という。)
補正案発明は、補正発明から、「期間n、mもしくはpの一つもしくはそれ以上が、前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて、前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる」との発明特定事項を削除し、新たに「ピペッター」を追加し、「ピペッター」についての特定事項を追加するなど、補正発明の内容を大幅に変えるものであり、このような特許法17条の2第5項に掲げるいずれの目的にも該当しないような補正案についてまで検討しなければならないということはない。
しかしながら、念のため、補正案発明の進歩性について検討しておくことにする。
補正案発明における「液体サブシステム」が「ピペッターを含有」することは、第2の2のア(エ)で摘記したように引用例1の段落[0084]に記載されている。また、補正案発明の「ここでステップ(i)?(iii)が前記マルチウェルプレートの第一のウェルにおいて実施され、そして、前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいて、前記第一のウェルにおけるステップ(ii)の間に前記一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてステップ(i)が実施され、そして、前記一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおけるステップ(ii)の間に前記第一のウェルにおいてステップ(iii)が実施されるような連続交互プロセスを用いてこれらのステップ(i)?(iii)」という特定事項についても、第2の2(2)イ(ア)の「相違点1について」で検討したとおり、第1のウェルにおけるステップ(ii)の間に追加のウェルにおけるステップ(i)を行ない、その後、第1のウェルにおけるステップ(iii)を行う事は当業者にとって容易であり、その場合、第1のウェルにおけるステップ(iii)は、追加のウェルのステップ(ii)が行われることになる。
したがって、補正案発明は、引用発明、及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-17 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-07 
出願番号 特願2014-23320(P2014-23320)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 勇東松 修太郎  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松本 隆彦
藤田 年彦
発明の名称 アッセイ装置、方法、および試薬  
代理人 古谷 聡  
代理人 西山 清春  

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