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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1329626
審判番号 不服2015-3346  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-23 
確定日 2017-06-21 
事件の表示 特願2011-268940「磁気層構造、磁気層構造にバイアスをかける方法、および変換器」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月12日出願公開、特開2012-134481〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成23年12月8日(パリ条約による優先権主張2010年12月17日,アメリカ合衆国)の出願であって,平成24年7月27日付けで手続補正書の提出がなされ,平成25年12月11日付けで拒絶理由の通知がなされ,平成26年5月16日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ,同年10月16日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して平成27年2月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ,当審において平成28年6月10日付けで拒絶理由を通知し,同年12月13日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

2 当審による拒絶理由通知の概要
審判合議体が平成28年6月10日付けで通知した拒絶理由通知における,特許法第29条第2項の判断(本願に係る発明の容易想到性の判断)の概要は次のとおりである。
平成27年2月23日付け手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8,10ないし15の各請求項に係る発明は,引用文献1ないし3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,請求項9に係る発明は,引用文献1ないし4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし15の各請求項に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2002-232039号公報
引用文献2:特開2005-32405号公報
引用文献3:特開2007-287239号公報
引用文献4:特表2004-531017号公報

3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成28年12月13日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「磁気層構造であって、
ピン止め層と、
ピン止め層の磁気配向を規定する第1の反強磁性層と、
自由層と、
ピン止め層の磁気配向に対してほぼ垂直な磁気配向へと自由層にバイアスをかける第2の反強磁性層と、
第2の反強磁性層と自由層との間に位置決めされ、第2の反強磁性層および自由層に接触し、自由層のバイアスを所望のレベルに調整する調整層と、
自由層の側面および調整層の側面に対向する1つ以上の側面シールドとを含み、
調整層は、クロム、ルテニウム、タンタルおよび/またはロジウムを含み、
側面シールドは、軟磁性材料を含む、磁気層構造。」

4 引用文献
(1) 引用文献1について
当審において通知した拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1には,下記の事項が記載されている。
ア 「【0021】すなわち、本発明構成においては、上述したように自由磁性層に非磁性スペーサ層を介して第2の反強磁性層を交換結合させることによって、自由磁性層と第2の反強磁性層との交換結合エネルギーの非磁性スペーサ層の厚さの依存性を利用して、所要の安定化バイアス磁界を得ることができるようにするものである。」
イ 「【0034】
【発明の実施の形態】図1は、本発明によるSV型GMR25の一実施形態のいわゆるボトム型SV型GMR構成とした場合の、一例の概略断面図を示す。この例においては、基板12上に、下地層13を形成し、この上に、第1の反強磁性層1と、この第1の反強磁性層1と接合する固定磁性層2と、非磁性導電層3と、信号磁界により磁化方向が変化する自由磁性層4と、この自由磁性層4とを有する積層部上に、更に非磁性スペーサ層21を介して長距離交換結合される第2の反強磁性層22が積層形成された構成を有する。また、この第2の反強磁性層22上には保護層23が形成されている。そして、第1の反強磁性層1とこれに接合する固定磁性層2との交換結合による磁化容易軸の方向と、第2の反強磁性層22と自由磁性層4との長距離交換結合磁界による磁化容易軸の方向とは直交するように設定される。」
ウ 「【0043】また、非磁性導電層3および非磁性スペーサ層21は、導電性を有する非磁性の例えばCu,Au,Ag,Ptや、Cu-Ni,Cu-Agによって構成することができる。」
エ 「【0067】また、本発明によるSV型GMR25を、感磁部として、例えば図15Aで説明した構成に対応する磁気ヘッド、すなわち再生磁気ヘッド29を構成する場合の例を、図11Aに示す。この例においては、CIP構成とした場合で、図11において、図15と対応する部分には同一符号を付して示す。
【0068】この磁気ヘッド29においては、下部磁気シールド6上に、所要の厚さを有する非磁性層による下部ギャップ層7が形成され、この上に、図1で示したボトム型の本発明によるSV型GMR25が形成され、これを挟んでその両側端に、SV型GMR5の自由磁性層に所要の安定化バイアス磁界を、上述した第2の反強磁性層22による安定化バイアス磁界と同方向に与えるように着磁される硬磁性層8が配置され、これら硬磁性層8上に、SV型GMR25の面方向にセンス電流を通電する対の電極9が配置される。そして、全面的に非磁性層による上部ギャップ層10が形成され、この上に上部磁気シールド11が被着形成される。
【0069】この図11Aで示した例では、硬磁性層8が配置された構成を有する場合で、この場合、SV型GMR25の自由磁性層に対するバイアス磁界HB は、前述した第2の反強磁性層22と、硬磁性層8との共働によって得るようにした場合である。したがって、この硬磁性層8を設ける場合においても、この磁界強度は、充分小さくすることができることから、その厚さを充分薄くするか、あるいは省略することができ、図11Aで示されるように、全体としてほぼ平坦に、したがって、上下磁気シールド11および6間の間隔を、SV型GMR25の全域に渡って均一化することができる。
【0070】このように、自由磁性層の両側端面に配置した硬磁性層8の磁界強度を小さくするか、あるいは排除することができ、しかも自由磁性層の全域に渡って、前述した第2の反強磁性層22を配置することによって、その感度は、図11Bに示すように、広域に渡って、高い、一様な感度を示し、図15Bで説明した不感知領域Nsを格段に減少させることができる。つまり、光学幅Wに、実効幅Weを近づけることができ、感度に優れたSV型GMR、および再生磁気ヘッドを構成することができる。
【0071】図11Aで示した磁気ヘッド29の例では、CIP構成とした場合であるが、センス電流を、膜面と垂直方向に通電するCPP構成とすることもできる。この場合の一例の概略断面図を図12に示す。この場合、例えば図11Aにおける電極9に代えてSiO_(2) やAl_(2) O_(3) 等の非磁性絶縁層30を配置し、上下ギャップ層10および7を導電性非磁性層によって構成する。また、上下磁気シールド11および6を導電性磁性層による磁気シールド兼電極として、これら間にセンス電流の通電を行う。図12において、図11Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。」
オ 「【0077】
【発明の効果】上述したように、本発明によるSV型GMRにおいては、第1の反強磁性層によって、従前におけると同様に、固定磁性層に所定方向の磁化状態を設定するものであるが、これとは反対側において、自由磁性層と非磁性スペーサ層を介して長距離交換結合する第2の反強磁性層を設け、この第2の反強磁性層との交換結合エネルギーによって、また、自由磁性層に対してバイアス磁界を与える硬磁性層を設ける場合においては、これからの磁界との共働によって自由磁性層に、検出外部磁界が与えられない状態では、所定の向きの磁化状態を設定し、かつ検出外部磁界によっては、容易に磁化の回転を生じることができるようにする。
【0078】そして、このように、自由磁性層に対する第2の反強磁性層の交換結合を非磁性スペーサ層を介在させた長距離交換結合としたことによって非磁性スペーサ層の材料、厚さ等の選定によって交換結合エネルギーの選定の自由度が大となり、確実に望ましいバイアス磁界を自由磁性層に与えることができる。
【0079】そして、自由磁性層に対して長距離交換結合される第2の反強磁性層を、自由磁性層の全域に対して配置する構成とすることができることから、自由磁性層のほぼ全域において、均一に、所定方向の単一磁化状態を設定することができるものであり、このことと、硬磁性層によるバイアス磁界を小さくするとか、全廃することができることから、硬磁性層を肉薄にするとかあるいは全く排除した構成とすることができることとが相俟って、バルクハウゼンノイズの回避と、広面積に渡る高感度、感度分布の平坦化、SV型GMRの端部における不感知領域の低減を効果的に図ることができるものである。」
カ 図12には,SV型GMRの側面側に,硬磁性層8及び非磁性絶縁層30を積層した構造が記載されている。
キ ここで,上記の記載事項について検討する。
(ア) 磁気抵抗効果素子の構造
上記ア及びイには,磁気抵抗効果素子であるSV型GMR25の磁性層の積層構造として,「第1の反強磁性層1と、この第1の反強磁性層1と接合する固定磁性層2と、非磁性導電層3と、信号磁界により磁化方向が変化する自由磁性層4と、この自由磁性層4とを有する積層部上に、更に非磁性スペーサ層21を介して長距離交換結合される第2の反強磁性層22」が積層形成され,「第1の反強磁性層1とこれに接合する固定磁性層2との交換結合による磁化容易軸の方向と、第2の反強磁性層22と自由磁性層4との長距離交換結合磁界による磁化容易軸の方向とは直交するように設定」されることが記載されている。
(イ) 非磁性スペーサ層
上記アには,非磁性スペーサ層について,「自由磁性層に非磁性スペーサ層を介して第2の反強磁性層を交換結合させることによって、自由磁性層と第2の反強磁性層との交換結合エネルギーの非磁性スペーサ層の厚さの依存性を利用して、所要の安定化バイアス磁界を得る」ことが記載され,上記ウには,「非磁性スペーサ層21は、導電性を有する非磁性の例えばCu,Au,Ag,Ptや、Cu-Ni,Cu-Agによって構成する」ことが記載されている。
(ウ) 磁気ヘッドの構成
上記カから,図12には,SV型GMRの側面側に,硬磁性層8及び非磁性絶縁層30を積層した構造が記載されている。
上記エには,図12の磁気ヘッドは,CIP構成の磁気ヘッドが記載された図11Aと対応する部分には同一符号を付したCPP構成の磁気ヘッドであること,また,該同一符号を付した部分について重複説明を削除することが記載されている。
そして,硬磁性層8については,「硬磁性層8が配置された構成を有する場合で、この場合、SV型GMR25の自由磁性層に対するバイアス磁界HB は、前述した第2の反強磁性層22と、硬磁性層8との共働によって得るようにした場合である。したがって、この硬磁性層8を設ける場合においても、この磁界強度は、充分小さくすることができることから、その厚さを充分薄くするか、あるいは省略することができ」ることが上記エに記載され,また,「硬磁性層によるバイアス磁界を小さくするとか、全廃することができることから、硬磁性層を肉薄にするとかあるいは全く排除した構成とすることができる」ことが上記オに記載されている。
そうすると,引用文献1には,CPP構成の磁気ヘッドとして,SV型GMRの側面側に,硬磁性層8及び非磁性絶縁層30を積層した構造を設けたもの以外に,硬磁性層8によるバイアス磁界を全廃するために硬磁性層8を全く排除し,非磁性絶縁層30のみを設けた構造が記載されているものと認められる。
ク 上記キの検討から,引用文献1には,下記の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「第1の反強磁性層と、前記第1の反強磁性層と接合する固定磁性層と、非磁性導電層と、信号磁界により磁化方向が変化する自由磁性層と、前記自由磁性層とを有する積層部上に、更に非磁性スペーサ層を介して長距離交換結合される第2の反強磁性層とが積層形成された構成を有し,
前記第1の反強磁性層とこれに接合する前記固定磁性層との交換結合による磁化容易軸の方向と、前記第2の反強磁性層と前記自由磁性層との長距離交換結合磁界による磁化容易軸の方向とは直交するように設定され,
前記自由磁性層に前記非磁性スペーサ層を介して前記第2の反強磁性層を交換結合させることによって、前記自由磁性層と前記第2の反強磁性層との交換結合エネルギーの前記非磁性スペーサ層の厚さの依存性を利用して、所要の安定化バイアス磁界を得るものであり,
前記非磁性スペーサ層は、導電性を有する非磁性の例えばCu,Au,Ag,Ptや、Cu-Ni,Cu-Agによって構成され,
前記自由磁性層と前記非磁性スペーサ層の側面に非磁性絶縁層を設けた,磁気ヘッドに適用される磁性層の積層構造。」

(2) 引用文献2について
当審において通知した拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献2には,下記の事項が記載されている。
ア 「【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の具体的実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明の要部は再生ヘッドに組み込まれたスピンバルブ膜構造の磁気抵抗効果膜を有する磁気抵抗効果素子の構造にある。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態における再生ヘッドの要部を示す平面図であり、図2は図1におけるA-A断面図であり、図3は図1におけるB-B線断面図であり、図4は図1におけるC-C線断面図である。
【0031】
図2に示されるように磁気抵抗効果素子(MR素子)5を構成する磁気抵抗効果膜は、非磁性層53と、この非磁性層53の一方の面(この実施例では図面の下方側)に形成された強磁性層52と、非磁性層の他方の面(この実施例では図面の上方側)に形成され磁気情報である外部磁場に応答して自由に磁化の向きが変えられるように作用することのできる軟磁性層54と、前記強磁性層52の磁化の向きをピン止めするために強磁性層52の片面(非磁性層53と接する面と反対側の面)に接して形成されたピンニング層51とを有する多層膜構造を備えている。図面で示されている好適例は、ピンニング層51をボトム側に位置させた、いわゆる、ピンニング層ボトムタイプのスピンバル膜構成である。
【0032】
より具体的には、下地層25の上にピンニング層51、強磁性層52、非磁性層53、軟磁性層54、縦バイアス磁界制御層40および保護層55を順次積層した構造としている。強磁性層52は、磁化の方向が固定された層であり、通常、強磁性膜から構成される。強磁性層52は1層のみの構成に限定されることなく強磁性膜的作用をする多層構造としてもよい。ピンニング層51は、強磁性層52における磁化の方向を固定するための層であり、通常、反強磁性膜から構成される。非磁性層53は、例えばCu膜等から構成される。軟磁性層54は、記録媒体からの信号磁界に応じて磁化の方向が変化する層であり、通常、軟磁性膜から構成される。軟磁性層54は1層のみの構成に限定されることなく軟磁性膜的作用をする多層構造としてもよい。」
イ 「【0037】
縦バイアス磁界制御層40の構成は、以下の2通りの構成に大別することができる。以下、各構成について詳細に説明する。
【0038】
(1)縦バイアス磁界制御層40が、非磁性中間層41と反強磁性層43との積層体であって、非磁性中間層41が軟磁性層54の膜面と接するように配置されて構成される場合
【0039】
この場合、縦バイアス磁界制御層40(特に、反強磁性層43)は、軟磁性層54と交換結合しており、その交換結合磁界が前記カウンタバイアス磁界を構成するように形成される。このケースにおける非磁性中間層41は、Cu、Ru、Au、Ir、Rh、およびCrのグループから選定され少なくとも1種を含み構成される。そして、非磁性中間層41の厚さは、縦バイアス磁界制御層40の反強磁性層43と前記軟磁性層とが交換結合できる厚さとされる。具体的には使用する非磁性中間層41の金属の種類をも考慮しつつ、例えば、1nm以下、特に、0.1?0.5nmの厚さに設定される。」
ウ 上記アおよびイには,再生ヘッドに組み込まれた磁気抵抗効果素子において,「外部磁場に応答して自由に磁化の向きが変えられるように作用することのできる軟磁性層54」に,「非磁性中間層41と反強磁性層43との積層体」のうち,「Cu、Ru、Au、Ir、Rh、およびCrのグループから選定され少なくとも1種を含」む「非磁性中間層41が軟磁性層54の膜面と接するように配置され」,「非磁性中間層41の厚さは、縦バイアス磁界制御層40の反強磁性層43と前記軟磁性層とが交換結合できる厚さとされる」ことが記載されているので,引用文献2には,下記の事項が記載されていると認められる。

「再生ヘッドに適用される磁気抵抗効果素子において,軟磁性層と反強磁性層の間に設けたCrからなる非磁性中間層の厚さを設定することで,外部磁場に応答して自由に磁化の向きが変えられる軟磁性層と反強磁性層との交換結合を調整すること。」

(3) 引用文献3について
当審において通知した拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献3には,下記の事項が記載されている。
ア 「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の磁気ヘッドの素子形状を形成する具体的な手段について図3(a)?図3(h)を用いて説明する。
【0012】
ここに示す再生素子は固定層が基板側にあるbottom型であり、自由層の磁区をそろえるための積層磁区制御層を自由層の上に積層する。すなわち、図3(a)に示すように、下部シールド層10上に磁気抵抗効果素子14として、下地層25、反強磁性層24、固定層23、中間層22、自由層21を積層する。次に、図3(b)に示すように、磁気抵抗効果素子14の上にフォトリソグラフィによってマスク材3を形成する。次に、イオンビームエッチングを用いて磁気抵抗効果膜をパターン形成する。この工程ではエッチング角度θを4段階で変化させながらエッチングを行う。すなわち、図3(c)のようにエッチング角度θが15?30°の範囲で中間層22までエッチングし、次に図3(d)のように60?80°の範囲で素子上部から中間層22までの再付着を除去し、再び図3(e)のように15?30°の範囲で下地層25までエッチングし、更に図3(f)のようにエッチング角度60?80°の範囲で素子側壁の再付着除去を行う。ここでエッチング角度の定義は基板法線方向に対するイオンビームの入射角度である。」
イ 「【0015】
次に図3(g)に示すように、上記工程でパターン形成した磁気抵抗効果素子14の周囲に、絶縁層12、保護層13を形成し、リフトオフでマスク材3とマスク材に付着した絶縁層12、保護層13を取り去る。この後、図3(h)に示すように上部シールド11を形成する。
【0016】
保護層13はサイドシールド層、磁区制御層やこれらの一部を兼ねていても良い。サイドシールド層とは、軟磁性体からなり、隣接トラックからの漏れ磁界を吸収する効果がある。サイドシールド層を兼ねる場合はニッケル鉄(Ni-Fe)などからなる軟磁性材料で構成し、高い空間分解能を持つ再生ヘッドを作製できる。磁区制御層を兼ねる場合はコバルトクロム白金(CoCrPt)などからなる高保磁力材料で構成し、自由層の単磁区化を容易にする機能を持つ。」
ウ 「【0022】
自由層21は、例えばCoFe(1nm)の上にNiFe(2nm)が形成された2層の構造からなっている。・・・中略・・・絶縁層12は上部シールド11と下部シールド10を絶縁するためのものであり、Al_(2)O_(3)などの絶縁材料(約15nm)により構成されている。」
エ 図3(h)には,磁気抵抗効果素子14の側面に絶縁層12と保護層13を積層したものが設けられた構造が記載されている。
オ 上記アには,磁気ヘッドが磁気抵抗効果素子により構成されていること,上記イおよびエには,磁気抵抗効果素子14の側面に絶縁層12と保護層13を積層したものが設けられること,上記イには,隣接トラックからの漏れ磁界を吸収するために,保護層13を軟磁性体からなるサイドシールド層とすること,上記ウには,絶縁層12は,非磁性絶縁体として知られるAl_(2)O_(3)により構成されることが記載されているので,引用文献3には,下記の事項が記載されていると認められる。

「磁気ヘッドにおいて,磁気抵抗効果素子の側面に非磁性絶縁体とサイドシールド層として機能する軟磁性体を積層したものを設け,隣接トラックの雑音を吸収すること。」

5 対比
(1) 本願発明と引用発明との対応関係について
ア 引用発明の「固定磁性層」は,「第1の反強磁性層」と交換結合されて「磁化容易軸の方向」が設定されるものであるから,引用発明の「固定磁性層」および「第1の反強磁性層」は,本願発明の「ピン止め層」および「ピン止め層の磁気配向を規定する第1の反強磁性層」に相当する。
イ 引用発明の「信号磁界により磁化方向が変化する自由磁性層」は,「第2の反強磁性層」と長距離交換結合されて,自由磁性層の磁化容易軸の方向と固定磁性層の磁化容易軸の方向とは直交するように設定されることから,引用発明の「信号磁界により磁化方向が変化する自由磁性層」および「第2の反強磁性層」は,本願発明の「自由層」および「ピン止め層の磁気配向に対してほぼ垂直な磁気配向へと自由層にバイアスをかける第2の反強磁性層」に相当する。
ウ 引用発明では,「前記自由磁性層と前記第2の反強磁性層との交換結合エネルギー」が「前記非磁性スペーサ層の厚さの依存性を利用して」いることから,自由磁性層と第2の反強磁性層との長距離交換結合のレベルは,自由磁性層と第2の反強磁性層との間に介在する非磁性スペーサ層の厚さによって設定されるものと認められる。
そうすると,引用発明の「非磁性スペーサ層」は,下記の相違点1を除いて,本願発明の「第2の反強磁性層と自由層との間に位置決めされ、第2の反強磁性層および自由層に接触し、自由層のバイアスを所望のレベルに調整する調整層」に相当している。
エ 引用発明の「磁気ヘッドに適用される磁性層の積層構造」は,「磁気層構造」の下位概念であるから,引用発明の「磁気ヘッドに適用される磁性層の積層構造」は,本願発明の「磁気層構造」に相当する。

(2) 本願発明と引用発明の一致点及び相違点について
上記の対応関係から,本願発明と引用発明は,下記アの点で一致し,また下記イ及びウの点で相違する。
ア 一致点
「磁気層構造であって、
ピン止め層と、
ピン止め層の磁気配向を規定する第1の反強磁性層と、
自由層と、
ピン止め層の磁気配向に対してほぼ垂直な磁気配向へと自由層にバイアスをかける第2の反強磁性層と、
第2の反強磁性層と自由層との間に位置決めされ、第2の反強磁性層および自由層に接触し、自由層のバイアスを所望のレベルに調整する調整層とを含む、磁気層構造。」
イ 相違点1
本願発明の「調整層」は,「クロム、ルテニウム、タンタルおよび/またはロジウムを含」むものであるのに対し,引用発明の「非磁性スペーサ層」は、「導電性を有する非磁性の例えばCu,Au,Ag,Ptや、Cu-Ni,Cu-Agによって構成」されたものである点。
ウ 相違点2
本願発明は,「自由層の側面および調整層の側面に対向する1つ以上の側面シールドとを含み」、「側面シールドは、軟磁性材料を含む」ものであるのに対し,引用発明は上記の構成を備えていない点。

6 当審の判断
(1) 相違点1について
上記4(2)ウのとおり,再生ヘッドに適用される磁気抵抗効果素子において,軟磁性層と反強磁性層の間に設けたCrからなる非磁性中間層の厚さを設定することで,外部磁場に応答して自由に磁化の向きが変えられる軟磁性層と反強磁性層との交換結合を調整することは,引用文献2に記載されている。
そして,該「再生ヘッド」は磁気ヘッドの再生側のヘッドであり,「外部磁場に応答して自由に磁化の向きが変えられる軟磁性層」は自由層として機能するものであることを踏まえると,引用発明と引用文献2に記載された事項とは,磁気ヘッドに適用される磁性層の積層構造において,自由層と反強磁性層の間に設けた非磁性中間(スペーサ)層の厚さを設定することで,自由層と反強磁性層との交換結合を調整する点で共通しているから,引用文献2に接した当業者であれば,引用発明の「非磁性スペーサ層」として,引用文献2に記載された「Crからなる非磁性中間層」を用いることは,容易に想到し得たものである。
そうすると,引用発明において,相違点1に係る構成とすることは,引用文献2に接した当業者であれば容易に想到し得たものである。
(2) 相違点2について
磁気ヘッドにおいてサイドシールドを設けること自体は,引用文献を示すまでもなく周知技術であるところ,上記4(3)オのとおり,引用文献3には,「磁気ヘッドにおいて,磁気抵抗効果素子の側面に非磁性絶縁体とサイドシールド層として機能する軟磁性体を積層したものを設け,隣接トラックの雑音を吸収する」ことが記載されていると認められる。
そして,同じ磁気ヘッドに適用される引用発明においても,隣接トラックからの雑音の影響は受けるものと認められるので,そのような雑音を吸収するために,引用発明の自由磁性層と非磁性スペーサ層の側面に設けられた非磁性絶縁層を,非磁性絶縁体とサイドシールド層として機能する軟磁性体を積層したものとすることは,引用文献3に接した当業者であれば容易に想到し得たものである。
また,引用発明に引用文献3に記載された事項を適用する際に,軟磁性体は外部磁界を検出するための自由磁性層をシールドしなければならないので,自由磁性層含むある程度の範囲の側面に設けることは,当業者が当然に行い得るものといえる。
そうすると,引用発明においても,相違点2の構成とすることは,引用文献3に接した当業者であれば容易に想到し得たものである。

(3) 本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果も,引用発明,引用文献2に記載された事項,引用文献3に記載された事項,および周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
なお,平成28年12月13日付け意見書の第2頁において,審判請求人は,
「つまり、引用文献1においては、硬磁性層の厚みを限りなくゼロにすることによりシールド間の間隔の均一化を図ることを目的としていますが、硬磁性層を軟磁性層に置き換えることまでは意図しておりません。万一、硬磁性層を軟磁性層に置き換えたとしても、軟磁性層の厚みを薄くできる訳ではないため、硬磁性層を軟磁性層に置き換えることは、引用文献1の目的と反すると考えられます。
また引用文献3の段落0016には、・・・中略・・・つまり、引用文献3においては、単に保護層13は軟磁性層および硬磁性層のいずれでもよいと記載されているだけです。しかしながら、側面シールドを軟磁性層および硬磁性層のいずれにするかは、読み取り素子の構造と密接に関連しており、単純に置き換え可能なものではありません。そのため、硬磁性層を軟磁性層に置き換えることを全く意図していない引用文献1に引用文献3を組み合わせる動機付けはありません。万一、硬磁性層を軟磁性層に置き換えることがあったとしても、軟磁性材料の側面シールドを調整層の側面に対向するように配置することに想到することは当業者にとって容易ではありません。」
と主張している。
しかしながら,上記4(1)キ(ウ)に記載したように,引用文献1には,CPP構成の磁気ヘッドとして,SV型GMRの側面側に,硬磁性層8及び非磁性絶縁層30を積層した構造を設けたもの以外に,硬磁性層8によるバイアス磁界を全廃するために硬磁性層8を全く排除し,非磁性絶縁層30のみを設けた構造が記載されているものと認められるので,「硬磁性層を軟磁性層に置き換える」ことを前提とした上記審判請求人の主張は,採用することができない。

7 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用文献2に記載された事項,引用文献3に記載された事項,および周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-17 
結審通知日 2017-01-24 
審決日 2017-02-07 
出願番号 特願2011-268940(P2011-268940)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 飯田 清司
河口 雅英
発明の名称 磁気層構造、磁気層構造にバイアスをかける方法、および変換器  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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