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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1329651
審判番号 不服2016-21  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-04 
確定日 2017-06-21 
事件の表示 特願2013-158733「多相アルキル芳香族の製造」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月30日出願公開、特開2014-15466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2006年3月1日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2005年3月31日 米国(US))を国際出願日とする特願2008-504062号の一部を平成25年7月31日に新たな特許出願としたものであって,平成25年8月29日に上申書が提出され,平成26年7月29日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月5日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,同年8月26日付けで拒絶査定がされ,平成28年1月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成28年1月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「第1反応領域でエチルベンゼンまたはクメンを含むアルキル化芳香族生成物を製造するプロセスであって:
(a)ベンゼンを含む液相の第1原材料と、エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料とを前記第1反応領域へ供給する工程であって、前記反応領域は前記反応領域の入口を120?285℃の温度と、2930?4601kPa-aの圧力と、1?10の前記第1原材料の前記少なくとも1種のアルケン化合物に対するモル比として、前記第1原材料と前記第2原材料の混合物が前記反応領域の少なくとも一部で混相である条件で運転される、工程と;
(b)前記原材料の混合物と第1アルキル化触媒とを前記第1反応領域で接触させる工程であって、前記アルキル化芳香族生成物とポリアルキル化芳香族化合物とを含む第1流出物を生成し、前記反応領域は前記反応領域の出口を150?280℃の温度と、2930?4601kPa-aの圧力と、0.1?10/時間の前記少なくとも1種のアルケン化合物の重量に基づくWHSVとする条件で運転され、前記第1流出物は液相で前記反応領域から流出する、工程とを備え;
前記反応領域の前記条件は、前記反応領域の少なくとも一部において混相から液相へ相変化する;
プロセス。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は,以下の3つの理由を含むものである。

[理由2]本願の請求項1に係る発明は,本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて,その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平4-253925号公報(原査定の「引用文献7」)

[理由3]本願の発明の詳細な説明は,当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく,特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものであり,要約すると,
発明の詳細な説明には,例2のコンピュータ・シミュレーション以外に,本願発明において,混相から液相をもたらす反応についての具体的な根拠が記載されておらず,また,例2で示されたシミュレーション・プログラムがどのような内容のものであるか,発明の詳細な説明には記載がないから,当業者といえども,このシミュレーションを実際の反応に適用し,追試をすることは困難であり,
さらに,本願発明では,原料の組成,反応圧力,反応温度のほかに,触媒の種類,反応原料の空間速度,反応装置の形状などによっても,得られる結果が変化し,これらの諸条件について何ら記載されていない例2と同じ反応結果を得られるその他の反応条件を見いだすことは,当業者といえども困難であるから,
発明の詳細な説明からは,本願発明を実施するのに当業者が過度の試行錯誤を強いるものである,というものである。

[理由4]本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく,特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものであり,要約すると,
発明の詳細な説明には,例2のコンピュータ・シミュレーション以外に,本願発明において,混相から液相をもたらす反応についての具体的な根拠が記載されておらず,発明の課題を解決できる程度に本願発明が記載されているとはいえない,というものである。

第4 当審の判断
事案に鑑み,理由3,4,2の順で判断する。

1 理由3について
(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」とし,その第1号で,「経済産業省令の定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は,明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって,物の製造方法の発明では,その物を製造する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その物を製造することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
よって,この観点に立って,本願発明の実施可能要件について検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(a)「【0014】
本発明は、原材料が混相(一部が気体で一部が液体)で生成物の流れが液相である新規なアルキル化プロセスを提供する。アルキル化反応領域のどこかで混相から液相への相転換がある。本発明の1つの利点は、原材料を液相でなく混相に維持する費用が低いことである。本発明の他の利点は、液相アルキル化の温度が低いことである。」
(b)「【0015】
一実施の形態において、本発明は反応領域でアルキル化芳香族製品を製造するプロセスに関し、
(a)アルキル化可能な芳香族化合物を含む主として液相の第1原材料と少なくとも1種のアルケン化合物を含む少なくとも一部が気相の第2原材料とを反応領域へ供給する工程であって、反応領域は第1原材料と第2原材料の混合物が反応領域の少なくとも一部で混相となることを確実にする条件で運転される、工程と;
(b)反応領域で原材料混合物とアルキル化触媒を接触させる工程であって、アルキル化芳香族生成物を含む第1流出物を生成し、第1流出物は主として液相で反応領域から流出する、工程とを備える。」
(c)「【0049】
アルキル化反応およびトランスアルキル化反応
本発明のプロセスは、主として液相の第1原材料と、気相の第2原材料をアルキル化反応領域、すなわち原材料の混合物を混相に維持する条件下で運転される入口部へ供給する工程を備える。本書では、「混相」という語は、一部が液体で一部が気体であることをいう。混合物は反応領域内でアルキル化触媒とさらに接触し、第1流出物の流れを生ずる。第1流出物の流れは、主として液相で、反応領域から流出する。第1流出物の流れは、モノアルキル化芳香族生成物、未反応のアルキル化可能な芳香族化合物、未反応のアルケン、未反応のアルカンおよびポリアルキル化芳香族化合物を含む。未反応のアルケンと未反応のアルカンとは、反応領域出口の条件で、モノアルキル化芳香族生成物、未反応のアルキル化可能な芳香族化合物およびポリアルキル化芳香族化合物中に溶解する。
【0050】
混相から液相への相変化は、気相のオレフィンが液相の反応生成物(モノアルキル化芳香族やジアルキル化芳香族)へ変化するために、触媒床中で生ずる。本発明は、触媒床(すなわち反応領域)の入口あるいはいかなる部分で混相であってもよいので、高価なコンプレッサを据え付ける必要がない、低い運転圧力でよいという点で、従来技術に対する優位性を有する。同時に、触媒床の出口で液相となるようにプロセスを設計することで、混相環境よりも液相の方がオレフィン転化率が高いので、高オレフィン転化率が達成可能となる。」
(d)「【0051】
運転条件、すなわち温度や圧力は、第1原材料や第2原材料の成分と共に、第1原材料と第2原材料の混合物の相をコントロールする。低温高圧下では液相混合物が形成され、高温低圧下では気相混合物が形成されるのが、典型的である。ある条件では、典型的にはある温度と圧力の範囲で、混相(一部が気体で一部が液体)混合物が形成される。第1原材料と第2原材料の成分もまた重要なパラメータである。低分子量の分子、たとえばメタンおよび/または水素、の成分が高い原材料では、低分子量の分子の成分が低い原材料に比較して、混合物を液相に維持するのにより高圧でより低温であることが要求される。混相が存在するときには、低分子量成分(たとえば、メタン、エチレンおよびエタンなど)は優先的に気相で構成される傾向があるが、高分子量成分(たとえば、ベンゼン、モノアルキル化ベンゼンおよびポリアルキル化ベンゼンなど)は優先的に液相で構成される傾向がある。
【0052】
一実施の形態では、アルキル化反応領域の条件には、特に反応領域の入口部では、100?260℃(212?500°F)の温度と689?4601kPa-a(100?667psia)の圧力、好ましくは、1500?3500kPa-a(218?508psia)の圧力が含まれる。その条件とは、反応領域の入口部分で第1原材料と第2原材料とを混ぜた後に、第2原材料中のアルケンとアルカンの部分だけが第1原材料中のアルキル化可能芳香族化合物中に溶解するような条件をいう。その混合物は、混相(気体/液体)である。
【0053】
アルキル化反応領域の下流部分の条件には、150?285℃(302?545°F)の温度と689?4601kPa-a(100?667psia)の圧力、好ましくは、1500?3000kPa-a(218?435psia)の圧力、0.1?10/時間、好ましくは0.2?2/時間、さらに好ましくは0.5?1/時間のリアクタ全体でのアルケンに基づくWHSV、あるいは10?100/時間、好ましくは20?50/時間のリアクタ全体でのアルケンとベンゼンとに基づくWHSVが、含まれる。典型的に温度は、アルキル化反応の発熱特性のため、反応領域の下流部分の方が、反応領域の入口よりも高い。アルキル化可能な芳香族化合物は、少なくとも1つの反応領域を有するリアクタにおいてアルキル化触媒の存在下で第2原材料中のアルケンによりアルキル化される。各反応領域は単一のリアクタ容器中に配置されるのが典型であるが、バイパス可能で、反応ガード層として作用する別の圧力容器中に配置される反応領域を含んでもよい。反応領域には、アルキル化触媒床や多層アルキル化触媒床が含まれる。反応ガード層で用いられる触媒成分は、アルキル化リアクタで用いられる触媒成分と異なっていてもよい。反応ガード層で用いられる触媒成分は、多種の触媒成分を有していてもよい。少なくとも第1アルキル化反応領域は、通常はそれぞれのアルキル化反応領域は、アルキル化可能な芳香族化合物がアルキル化触媒の存在下で第2原材料のアルケン成分とアルキル化するように効果的な条件で運転される。」
(e)「【0055】
本書で用いる「主として液相」という用語は、原材料あるいは流出物が少なくとも95重量%の液相を有し、好ましくは少なくとも98重量%の液相であり、さらに好ましくは少なくとも99重量%の液相であり、もっと好ましくは少なくとも99.5重量%の液相であることを意味する。」
(f)「【0059】
ベンゼンとエチレンを混相から液相でアルキル化するための特定の条件には、約120℃?285℃の温度、好ましくは約150℃?260℃の温度と、689?4601kPa-a(100?667psia)の圧力、好ましくは1500?3000kPa-a(218?435psia)の圧力と、0.1?10/時間、好ましくは0.2?2/時間、さらに好ましくは0.5?1/時間のリアクタ全体でのエチレンに基づくWHSV、あるいは10?100/時間、好ましくは20?50/時間のリアクタ全体でのエチレンとベンゼンとを共にベースとしたWHSVと、約1から約10のベンゼンのエチレンに対するモル比が含まれる。」
(g)「【0069】
本発明のプロセスにおいて、少なくとも最初の、通常はそれぞれの、運転可能に接続されたアルキル化反応領域におけるアルキル化反応は液相状態で行われ、よってアルキル化可能な芳香族化合物は液相である。
本発明は、以下の例を参照により具体的に説明される。
【0070】
例1:液相アルキル化
以下の例は、液相でのエチレンを用いたベンゼンエチル化のコンピュータ・シミュレーションである。シミュレーションの結果は、独自に開発した数値ソフトウェア・パッケージを用いることによって得られた。気液平衡が、ソアブ・レドリッヒ・クゥオン(Soave-Redlich-Kwong)状態方程式(最適相互係数付き)により計算された。
【0071】
各触媒床への原材料は、B/E比(ベンゼンのエチレンに対するモル比)およびE/E比(エチレンのエタンに対するモル比)で特徴付けられる。非常に高いE/E比は、エチレン原材料が化学的あるいはポリマーグレードのエチレン純度であることを示す。液相のアルキル化は液相中で運転するように構成される。それぞれの触媒床の原材料と流出物の流れの温度と圧力は、触媒床中で全てが液相の運転を可能とするのに十分な温度と圧力である。シミュレーションの結果を、表1に示す。
【表1】


(h)「【0072】
例2:混相/液相設計
下記の例は、本発明のプロセスによるエチレンを用いた混相/液相でのベンゼンエチル化のコンピュータ・シミュレーションである。このケースは、混相/液相で運転するように構成される。それぞれの触媒床の原材料と流出物の流れの温度と圧力は、触媒床中で混相/液相の運転を可能とするのに十分な温度と圧力である。シミュレーションの結果を、表2に示す。下方流れでの運転のために、触媒床1(RGB)を超えて圧力が上昇することに注目されたい。
【表2】



(3)判断
本願発明は,「ベンゼンを含む液相の第1原材料と、エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料・・・の混合物が前記反応領域の少なくとも一部で混相である条件で運転される」ものであり,第1原材料と第2原材料を反応させて得られる「アルキル化芳香族生成物とポリアルキル化芳香族化合物とを含む第1流出物・・・は液相で前記反応領域から流出する」とともに,「反応領域の前記条件は、前記反応領域の少なくとも一部において混相から液相へ相変化する」ものである。
したがって,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行うことなく,発明の詳細な説明の記載から,本願発明の発明特定事項となっている圧力,温度,組成,空間速度などの運転条件を設定して,「ベンゼンを含む液相の第1原材料と、エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料の混合物が反応領域の少なくとも一部で混相から液相に相変化するものであり,第1原材料と第2原材料を反応させて得られるアルキル化芳香族生成物とポリアルキル化芳香族化合物とを含む第1流出物は液相で前記反応領域から流出する」ことができると理解できるものでなければならない。

ア 発明の詳細な説明の一般記載について
本願の発明の詳細な説明には,本願発明とほぼ同じ内容の製造プロセスが繰り返して記載され(摘記b参照),また,この製造方法(プロセス)の運転条件である温度や圧力,空間速度(WHSV)についても,その実施する範囲について本願発明の発明特定事項と同じ条件が一応記載されている(摘記d,f参照)。
そして,発明の詳細な説明の「混相から液相への相変化は、気相のオレフィンが液相の反応生成物(モノアルキル化芳香族やジアルキル化芳香族)へ変化するために、触媒床中で生ずる。」及び「第1流出物の流れは、モノアルキル化芳香族生成物、未反応のアルキル化可能な芳香族化合物、未反応のアルケン、未反応のアルカンおよびポリアルキル化芳香族化合物を含む。未反応のアルケンと未反応のアルカンとは、反応領域出口の条件で、モノアルキル化芳香族生成物、未反応のアルキル化可能な芳香族化合物およびポリアルキル化芳香族化合物中に溶解する。」(摘記c参照)との記載からすれば,本願発明は,ベンゼンを含む液相の第1原材料と,エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料が反応領域の入口で混相でも,エチレンやプロピレンがベンゼンと反応してアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族となり(相変化し),未反応のエチレン,プロピレンやオプションのメタン、エタン、およびプロパンは未反応のベンゼンや生成したアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族などに溶解することで液相として出口から流出するものと解される。
しかしながら,なぜ,本願発明に規定される運転条件を設定すると,反応領域の入口では,「ベンゼンを含む液相の第1原材料」と,「エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料」の混合物が混相となるのか,また,反応領域でエチレンやプロピレンがベンゼンと反応するとしても,未反応のエチレン,プロピレンやオプションとして、メタン、エタン、およびプロパンが未反応のベンゼンや生成したアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族などに溶解する状態をもたらす程度に反応が進行するのか,その具体的な根拠が記載されてはいない。
そうすると,発明の詳細な説明の一般記載からでは,本願発明に規定される運転条件を設定して,なぜ,「ベンゼンを含む液相の第1原材料と、エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料が反応領域の入口で混相でも,エチレンやプロピレンがベンゼンと反応してアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族となり(相変化し),未反応のエチレン,プレピレンやオプションのメタン、エタン、およびプロパンは未反応のベンゼンや生成したアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族などに溶解することで液相として出口から流出する」ことができるのか,その理由が理解できるとはいえない。

イ 例1,例2の記載について
発明の詳細な説明には,例1に,液相アルキル化の反応が,「液相でのエチレンを用いたベンゼンエチル化のコンピュータ・シミュレーション」の結果として表1に示されており(摘記g参照),表1に示された触媒床1?6の運転条件は,本願発明の圧力,温度の条件を満たしていても,原材料,流出物ともに「液相率」が1であるから,「ベンゼンを含む液相の第1原材料と,エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む、少なくとも一部が気相の第2原材料が反応領域の少なくとも一部で混相である条件で運転さ」れてはおらず,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された本願発明の圧力,温度の運転条件を設定しても,本願発明を実施することは必ずしもできないと解さざるを得ない。
一方,発明の詳細な説明には,例2に,「エチレンを用いた混相/液相でのベンゼンエチル化のコンピュータ・シミュレーション」の結果として,表2に示されている(摘記h参照)が,ここには,本願発明の運転条件を満たす条件で実施して,原材料の「液相率」が0.93で流出物の「液相率」が1となることが記載されているから,「ベンゼンを含む液相の第1原材料と、ベンゼンを含む液相の第1原材料」と,「エチレン」と,オプションではなく,必須成分として「エタン」を含む少なくとも一部が気相の第2原材料が反応領域の入口で混相でも,エチレンがベンゼンと反応してアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族となり(相変化し),未反応のエチレン、エタンは未反応のベンゼンや生成したアルキル化芳香族やポリアルキル芳香族などに溶解することで液相として出口から流出する」ことが一応記載されているといえる。
ところで,例2の結果は「エチレンを用いた混相/液相でのベンゼンエチル化のコンピュータ・シミュレーション」によって計算されたものであり,これは,例1に記載される「独自に開発した数値ソフトウェア・パッケージ」に基づくもの(摘記g参照)と解されるが,このような「独自に開発した数値ソフトウェア・パッケージ」がどのような内容のものであるか,発明の詳細な説明には記載がなく,実際に,表2で示される運転条件からその反応の結果をどのように決定したのか,すなわち,液相率,エチレン転化率,累積EB収率を,B/E比,原材料,流出物の温度や圧力によって,どのように決定しているのかが,発明の詳細な説明の記載から理解することができず,また,この「独自に開発した数値ソフトウェア・パッケージ」の内容が当該技術分野における当業者の技術常識であるとも認められない。
そして,コンピュータ・シミュレーションによる運転条件とその結果が示されていたとしても,実際にこのような運転条件(組成,温度,圧力)で反応を実施して同じ結果(液相率,エチレン転化率,EB累積収率)が得られる理由については,本願明細書の発明の詳細な説明からは理解できず,そもそも,どのようなシミュレーション・プログラムなのかその内容が不明である以上,当業者といえども,例2の結果が正しいことを確認することができないし,このシミュレーション(運転条件)を実際の反応に適用して異なる結果が生じた場合に,何が原因でシミュレーションの結果と異なるのかを検証することもできない。

さらに,本願発明を実施するにあたっては,発明の詳細な説明の表2に示される,原料の組成,反応圧力,反応温度のほかに,触媒の種類,原材料の空間速度,反応装置の形状なども設定しなければならない。例2がどのような触媒(モレキュラーシーブの中にも様々な種類があり,触媒特性は必ずしも同じではない。)や原材料の空間速度,反応装置の形状を選択してシミュレーションをしたのかは発明の詳細な説明に記載されておらず,また,これらの条件の設定によっては,得られる結果が変化するものであるから,これらの諸条件について何ら記載されていない例2の結果から,例2と同じ反応結果を得られるその他の反応諸条件を見いだすことは,当業者に,過度の試行錯誤を強いるものである。

(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は理由3について以下のような主張をしている。
(ア)例1,2で用いられたコンピュータ・シミュレーションについて
例1,2の「独自に開発した数値ソフトウェア・パッケージ」とは,発明者らが,エチレンを用いた混相/液相でのベンゼンエチル化反応の結果の計算を行うに当たり、計算作業を効率的にするための便宜として「エチレンを用いた混相/液相でのベンゼンエチル化のコンピュータ・シミュレーション」を作成して使用したものであり,何ら特別なプログラムではない。この解析に必要な計算は,気液平衡を含む熱力学の知識,化学反応、特にベンゼンエチル化反応についての理解,図式的な基本的プログラムを書く能力を持つ当業者であれば誰でも,このようなプログラムを作成することができ,この計算を行うことができる。
例2に記載された反応領域への原材料及び流出物が混相であるか液相であるかを決定するための気液平衡計算については,気液平衡に関する3次状態方程式を使用して計算するのが当業者の常識であり,まず気体,液体の各成分についてのフガシティー係数を計算し,このフガシティー係数から,例2に記載された気液平衡値を得るためのフラッシュ計算に使用する「K値」(各成分についての気相中のモル分率と液相中のモル分率との比、気液平衡比)が計算される。
3次状態方程式を使用して熱力学計算をするためには、エタン、エチレン、ベンゼン、エチルベンゼン等の純粋物質の物性データを入力する必要があるが、これらのデータは一般に公開された文献値を使用することができる。
例1,例2に示された液相率をチェックするための計算をする際に,当業者は,各反応領域(触媒床)への供給物,流出物の組成を算出するために,妥当と思われる仮定を置く必要があるが,触媒床1への供給物は、エタン、エチレン、ベンゼンのみとすることができる。
以上に説明した手順を踏むことによって,当業者は,表2で示される反応条件からその反応の結果をどのように決定したのかを理解することができ,また,その追試をして,例2の結果が正しいことを確認することができる。

(イ)例2に記載されていない実施条件について
表2に示された反応結果は,反応ガード層(触媒床1)の入口(原材料),出口(流出物),第1反応領域(触媒床2)の入口(原材料),出口(流出物),次の反応領域(触媒床3)の入口(原材料),出口(流出物),さらに次の反応領域(触媒床4)の入口(原材料),出口(流出物)のそれぞれについて,表2に示される反応パラメータであるエチレン転化率(%),EB累積収率(モル%),B/E比,E/E比,液相率,温度(℃),圧力(kPa-a)によって,それぞれの反応系を記述しているのであって,上記(ア)で述べたとおり,当業者は3次状態方程式を使用して気液平衡計算をすることで,その他の諸条件についても確認することができ,例2の結果が正しいことを過度の試行錯誤を要することなく再現,検証をすることができる。

イ 請求人の主張の検討
(ア)例1,2で用いられたコンピュータ・シミュレーションについて
請求人の主張は,「独自に開発した数値ソフトウェア・パッケージ」がどのような内容のものか釈明するものではない。請求人は,この解析に必要な計算は,気液平衡を含む熱力学の知識,ベンゼンエチル化反応についての理解,図式的な基本的プログラムを書く能力を持つ当業者であれば誰でも,このようなプログラムを作成することができ,この計算を行うことができるとしているが,そもそも,プログラムの内容がどのようなものか発明の詳細な説明に何ら記載されていないのであるから,当業者がそのプログラムを作成できるかどうかの判断すらできない。
また,例2に記載された反応領域への原材料及び流出物が混相であるか液相であるかを決定するための気液平衡計算が,気液平衡に関する3次状態方程式を使用して計算することで可能であることを請求人は述べているが,反応領域への原材料及び流出物が混相であるか液相であるかを気液平衡に関する3次状態方程式によって計算できることと,例2の操作条件によって反応器中でどのような反応が生じるかをシミュレーションすることとは別のことである。すなわち,気液平衡計算は,反応領域への原材料及び流出物がそれぞれどのような組成,圧力,温度であれば,気相か液相か(気液平衡比)を計算できるというだけであって,反応領域に導入された原材料が実際どのように反応して,液相率,エチレン転化率,EB累積収率などが,原材料,流出物の組成,温度,圧力によってどのように決定されるのかその具体的な反応シミュレーションが計算できるわけではない。
なお,請求人は,液相率,エチレン転化率,EB累積収率などを,原材料,流出物の組成,温度,圧力によって,どのように決定されるのか具体的に説明していないが,少なくとも「EB累積収率(モル%)」とは,原材料のベンゼンに対する流出物のエチルベンゼンの収率(モル比)を計算しているものと解される。そして,例2に示される触媒床1における流出物の「EB累積収率(モル%)」は5.1%となっているが,原材料のエチレンはベンゼンに対して1/20でしか供給されていない(B/E比20.0)から,5.0%を上回ることはありえず,通常は,ポリアルキル化芳香族も副生するからより低い値になるはずで,例2の結果は技術常識からしてもこれが正しいものであると認めることはできない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(イ)例2に記載されていない実施条件について
上記(3)イで述べたように,例2で,どのような触媒の種類や反応原料の空間速度,反応装置の形状を使用したのかが不明であって,例2には原材料と流出物の各触媒床におけるエチレン転化率(%),EB累積収率(モル%),B/E比,E/E比,液相率,温度(℃),圧力(kPa-a)が記載されていたとしても,このような結果になるような触媒の種類や反応原料の空間速度,反応装置の形状を見い出すには,それが実際にできることが確認されたものではない以上,当業者に,これらの諸条件を設定して本当にそのような結果が得られるのかを確認していく必要があり,過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。
また,請求人は,当業者は3次状態方程式を使用して気液平衡計算をすることで,その他の諸条件についても確認することができると述べているが,上記(ア)で述べたとおり,気液平衡計算では反応シミュレーションまで計算できるわけではない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,発明の詳細な説明には,当業者が,本願請求項1に記載された発明を実施できる程度に,明確かつ十分に記載されているとは認められず,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に適合するとはいえない。

2 理由4について
(1)特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項は,「第二項の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下,この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載されたとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
上記1(2)に記載したとおりである。

(4)本願発明の課題
本願発明の解決しようとする課題は,「本発明は、原材料が混相(一部が気体で一部が液体)で生成物の流れが液相である新規なアルキル化プロセスを提供する。アルキル化反応領域のどこかで混相から液相への相転換がある。本発明の1つの利点は、原材料を液相でなく混相に維持する費用が低いことである。本発明の他の利点は、液相アルキル化の温度が低いことである。」との記載(摘記a参照)からみて,「原材料が混相(一部が気体で一部が液体)で生成物の流れが液相である新規なアルキル化プロセスを提供する」ことにあるものと認める。

(5)判断
発明の詳細な説明には,上記1(3)で述べたとおり,本願発明を実施することができる技術的な裏付けが記載されているとはいえない以上,本願発明の課題を解決できるように本願発明が記載されているともいえない。

(6)小括
以上のとおりであるから,請求項1の特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえない。

3 理由2について
(1)刊行物の記載について
ア 刊行物1の記載事項
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 芳香族化合物を液相および/または気液混合相下で、選択的にC_(2)?C_(4)オレフィンと接触させる方法において、触媒としてY型および/またはX型ゼオライトを用いて10,000ppm以下の水を共存させることを特徴とする芳香族化合物のアルキル化法。」
(1b)「【0009】・・・本発明における反応温度は70?500℃、好ましくは80?300℃の範囲である。また、圧力は常圧又は加圧で行なわれるのが好ましい範囲は大気圧?40kg/cm^(2)の範囲である。
【0010】本発明は、液相および/または気液混合相下流通法で行なわれ、反応器へ供給される芳香族化合物/オレフィンのモル比は1?100、好ましくは2?20の範囲で行なわれる。更に、反応器内液相中の水分濃度は10,000ppm以下である必要があり、好ましくは100?4000ppmの範囲で行なわれる。水分濃度が10,000ppm以上では、触媒が活性を失い反応しなくなる。」
(1c)「【0012】
【実施例1】プロトン交換したY型ゼオライト(UCC製、LZ-Y82)1/8″ペレット40gを16φmmの反応管に充填し、ベンゼンとエチレンの反応を水の共存下で行なった。実験条件は、ベンゼン/エチレン/水モル比=8/1/0.04、WHSV(ベンゼン基準)=19Hr^(-1)、反応温度190℃、反応圧力20kg/cm^(2)で行なった。
【0013】反応開始後10時間の結果を表1に示す。
【0014】
【比較例1】プロトン交換したY型ゼオライト(UCC製、LZ-Y82)1/8″ペレット40gを16φmmの反応管に充填し、ベンゼンとエチレンの反応を行なった。実験条件は、ベンゼン/エチレンモル比=8/1、WHSV(ベンゼン基準)=19Hr^(-1)、反応温度190℃、反応圧力20kg/cm^(2)で行なった。
【0015】反応開始後10時間の結果を表1に示す。
【0016】
【表1】



(3)刊行物に記載された発明(引用発明)
刊行物1には,実施例1として,「プロトン交換したY型ゼオライト・・・を反応管に充填し、ベンゼンとエチレンの反応を水の共存下で行なった。実験条件は、ベンゼン/エチレン/水モル比=8/1/0.04、WHSV(ベンゼン基準)=19Hr^(-1)、反応温度190℃、反応圧力20kg/cm^(2)で行なった。」と記載され,反応開始後「エチルベンゼン」のほかに「ジエチルベンゼン」,「トリエチルベンゼン」も生成することが記載されている(摘記1c参照)。また,刊行物1には,比較例1として,実施例1において水を含まない条件のものも記載されている(摘記1c参照)。
そして,原料であるベンゼンとエチレンが反応管に供給され,生成物であるエチルベンゼンなどが反応管から流出していることは明らかである。
そうすると,刊行物1には,
「反応管内でエチルベンゼンを製造する方法であって、
ベンゼンとエチレンを8/1のモル比で反応管に供給し、
ベンゼンとエチレンとをY型ゼオライトを充填した反応管内で接触させ、反応温度が190℃、反応圧力20kg/cm^(2)、WHSV(ベンゼン基準)=19Hr^(-1)の条件で反応させ、生成したエチルベンゼンとジエチルベンゼン、トリエチルベンゼンを反応管から流出する方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「反応管」,「ベンゼン」は,それぞれ,本願発明の「第1反応領域」,「ベンゼンを含む第1原材料」に相当する。
引用発明の「エチレン」は,本願発明の「エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物」であって,本願発明の「メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物」は「オプションとして」「含む」ものである(必須成分ではない)から,本願発明の「エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む第2原材料」に相当する。
引用発明の「ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン」は,本願発明の「ポリアルキル化芳香族化合物」に相当する。
引用発明の「Y型ゼオライト」は,「触媒として・・・用い」るものであるから,本願発明の「第1アルキル化触媒」に相当する。
引用発明の「ベンゼンとエチレンを8/1のモル比で反応管に供給」することは,本願発明の「1?10の前記第1原料の少なくとも1種のアルケン化合物に対するモル比と」することに相当する。
そうすると,本願発明と引用発明とは,
「第1反応領域でエチルベンゼンまたはクメンを含むアルキル化芳香族生成物を製造するプロセスであって:
(a)ベンゼンを含む第1原材料と、エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む第2原材料とを前記第1反応領域へ供給する工程であって、1?10の前記第1原料の少なくとも1種のアルケン化合物に対するモル比として、運転される、工程と;
(b)前記原材料の混合物と第1アルキル化触媒とを前記第1反応領域で接触させる工程であって、前記アルキル化芳香族生成物とポリアルキル化芳香族化合物とを含む第1流出物を生成し、前記反応領域から流出する、工程とを備える;
プロセス。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(i)本願発明は,「ベンゼンを含む第1原材料」が「液相」で,「エチレンとプロピレンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルケン化合物と、オプションとして、メタン、エタン、およびプロパンからなるグループから選ばれた少なくとも1種のアルカン化合物とを含む第2原材料」が「少なくとも一部が気相」であり,「アルキル化芳香族生成物とポリアルキル化芳香族化合物とを含む第1流出物」は「液相」であるのに対して,
引用発明では,「ベンゼン」,「エチレン」,「エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼン」の相が明確でない点(以下「相違点(i)」という。)
(ii)「前記第1反応領域の入口を120?285℃の温度と、2930?4601kPa-aの圧力として、前記反応領域は前記第1原材料と前記第2原材料の混合物が前記反応領域の少なくとも一部で混相である条件で運転される」とともに,「前記第1反応領域から流出するときに150?280℃の温度と、2930?4601kPa-aの圧力と0.1?10/時間の前記少なくとも1種のアルケン化合物に基づくWHSVとする条件で運転され」,「前記反応領域の前記条件は、前記反応領域の少なくとも一部において混相から液相へ相変化する」のに対して,引用発明では,反応管内を「反応温度が190℃、反応圧力20kg/cm^(2)、WHSV(ベンゼン基準)=19Hr^(-1)の条件で反応させ」ている点(以下「相違点(ii)」という。)

イ 相違点の検討
(ア)相違点(ii)の反応領域の入口,流出時の温度,圧力,WHSVについて
刊行物1には,反応管の入口と流出時に分けて,その温度,圧力の数値が記載はされていないものの,引用発明の反応管は,空間速度である「WHSV」が規定されていることからみて明らかに連続反応式のものであって,反応管の入口から出口までが空間として連続しているものであるから,反応管の入口から出口の間で多少の圧力変化が生じ得るとしても,通常,大きく圧力が変化することはないものと推認される。
そして,引用発明の反応管内の圧力は20kg/cm^(2)(1961kPa-aに相当)ではあるが,引用発明は刊行物1に記載された一つの実施態様にすぎず,刊行物1に,圧力の好ましい範囲として「大気圧?40kg/cm^(2)」と記載されている(摘記1b参照)から,引用発明の反応管内の圧力は大気圧?40kg/cm^(2)(98?3922kPa-a)の範囲内で適宜設定し得ることが理解でき,引用発明において,反応管の入口および出口の圧力を本願発明の圧力範囲である「2930?4601kPa-a」と重複する「2930?3922kPa-a」の圧力範囲とすることは当業者が適宜なし得る設計変更と認められる。
また,連続式で反応管に原料を導入し,流出物を出口から導出するにあたっては,反応管での加熱や反応熱による温度変化が入口と出口の間で生じ得るとしても,連続式であれば反応条件を定常状態に維持するために,反応温度と大きくかけはなれた温度で入口に導入することはなく,また,出口の温度も,反応管の一部である以上,内部と大きくかけはなれた温度にはならないものと推認される。
そうすると,引用発明における反応管内の反応温度190℃からみて,引用発明の反応管の入口の温度は,本願発明の入口の「120?285℃の温度」の範囲に含まれ,引用発明の出口の温度も本願発明の「150?280℃の温度」の範囲に含まれるものと推認することができる。
さらに,引用発明の「WHSV(ベンゼン基準)=19Hr^(-1)」は,エチレン基準では,ベンゼン/エチレンモル比8/1とモル重量比(ベンゼン78/エチレン28)とから計算して,「エチレン基準に基づくWHSV」は,0.85/時間に相当するから,引用発明の反応管出口におけるエチレン基準に基づくWHSVは,本願発明の「0.1?10/時間のエチレンに基づくWHSV」に含まれると推認することができる。
そうすると,相違点(ii)の反応領域の入口,流出時の温度,WHSVについては実質的な相違ではなく,圧力については当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。

(イ)相違点(i)及び相違点(ii)の相状態について
上記の(ア)の推認を前提とし,また,本願明細書の例2の結果が正しいものと仮定して,さらに検討する。
引用発明における反応管の入口の温度,圧力は,本願明細書の例2に示される触媒床2の原材料の温度より高く,圧力は逆に低くなっているので,本願明細書の例2よりも混相になりやすい条件であり,上記(ア)で述べたとおり,刊行物1の開示にしたがって,圧力を「2930?3922kPa-a」に高めたとしても,温度が高いことから,混相になりやすい条件であるといえる.
また,引用発明の組成はベンゼン/エチレンのモル比が8/1であるのに対して,例2の触媒床2の原材料は,ほかにエチルベンゼンやエタンを含むものの,ベンゼン/エチレン比は6.1と比較的近い値であり,本願明細書の「ベンゼンとエチレンを混相から液相でアルキル化するための特定の条件」として「約1から約10のベンゼンのエチレンに対するモル比」が示されている(摘記f参照)ことからすれば,組成が異なり,引用発明において圧力を「2930?3922kPa-a」に高めたとしても,入口では混相になっていると推認できる。
また,引用発明のベンゼンを含む第1原材料は液相として,エチレンを含む第2原材料は気相として供給されているものといえ,反応管の入口では,液相のベンゼンと気相のエチレンが混相になっているものと推認することができる。
仮に,引用発明の入口では混相ではないとしても,刊行物1には,「液相および/または気液混合相下で」反応することが記載されている(摘記1a,1b参照)ので,この記載に基づいて,反応を気液混合相で実施する(すなわち,入口では混相とする)ことは当業者が容易になし得たことと認められる。
一方,引用発明において,エチレンの転化率は100%である(摘記1c参照)から,反応によって生成したエチルベンゼンやポリアルキル化芳香族化合物を含む流出物は原料のエチレンがすべて反応して,液相になっている(混相から液相への相変化する)ものと推認される。
したがって,引用発明において,相違点(ii)となる圧力範囲に設計変更をした場合においても,相違点(i)及び相違点(ii)の相状態となるものと推認されるし,そうでないとしても,刊行物1の開示にしたがって,引用発明において,入口部で混相,流出時に液相となるように反応を実施することは当業者が容易に想到し得たことと認められる。

ウ 本願発明の効果
本願明細書には,「本発明の1つの利点は、原材料を液相でなく混相に維持する費用が低いことである。本発明の他の利点は、液相アルキル化の温度が低いことである。」(摘記a参照)と記載され,さらに,「本発明は、触媒床(すなわち反応領域)の入口あるいはいかなる部分で混相であってもよいので、高価なコンプレッサを据え付ける必要がない、低い運転圧力でよいという点で、従来技術に対する優位性を有する。同時に、触媒床の出口で液相となるようにプロセスを設計することで、混相環境よりも液相の方がオレフィン転化率が高いので、高オレフィン転化率が達成可能となる。」(摘記c参照)と記載されていることから,本願発明の効果は,反応領域の入口部を混相にして運転圧力を低下させ,かつ,反応領域の出口が液相となるようにプロセス設計することで,液相アルキル化の温度を低下させ,高オレフィン転化率(エチレン転化率)が達成できるというものであると認める。
しかしながら,反応領域の入口部を混相とすること,出口部を液相となるようにプロセス設計することは,上記イで述べたように,当業者が容易になし得たことであり,引用発明の運転圧力のほうがむしろ本願発明よりも低い圧力で運転され,温度も本願発明と同様に低いものであって,かつエチレンの転化率も100%であるから,本願発明の効果は,引用発明及び刊行物1の記載から,当業者が容易に予測し得たものと認められる。

(5)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は,理由2について以下のような主張をしている。
本願発明は,引用文献7(審決注:「刊行物1」である。以下同じである。)に記載された実施例1(及び比較例1)の実施態様と異なるものであり,引用文献7には,本願発明の特徴である「第1原材料(ベンゼン)と第2原材料(アルケン)とを反応の入口で、120?285℃の温度と2930?4601kPa-aの圧力と1?10のベンゼンのアルケンに対するモル比として、混相で反応領域に導入し、出口で、150?280℃の温度と2930?4601kPa-aの圧力と0.1?10/時間のアルケンに基づくWHSVとして、流出物を液相として流出すること」について記載も示唆もされておらず,引用文献7記載の発明から当業者が容易に想到することができたものではない。
本願発明における最低圧力2930kPa-aを有する反応圧力範囲は,本願プロセスが,より有利な,より経済的に実施継続可能である範囲を示すものであって,これより低い圧力では,反応温度をより低くしなければならず,第2原材料中のエタンの量をより低くしなければならず,さらにベンゼンのアルケンに対するモル比をより高くしなければならず,プロセスの経済的継続可能性が損なわれるので,この反応圧力範囲で操業することにより,これらのパラメーターを実用的な範囲に保つことができる効果が得られる。

イ 請求人の主張の検討
上記(4)イ(ア)で述べたとおり,引用発明と本願発明では圧力条件においてその範囲が異なるが,引用発明は刊行物1に記載された一つの実施態様にすぎず,刊行物1に,圧力の好ましい範囲として「大気圧?40kg/cm^(2)」と記載されているのであるから,「2930?3922kPa-a」の圧力範囲とすることは当業者が適宜なし得る設計変更である。
また,請求人は,本願発明における最低圧力2930kPa-aを有する反応圧力範囲は,本願プロセスが,より有利な,より経済的に実施継続可能である範囲を示すと主張しているが,そのような効果は本願明細書に記載されておらず,本願発明の効果は,上記(4)ウで述べたとおり,本願明細書の記載からは,反応領域の入口部を混相にして運転圧力を低下させ,かつ,反応領域の出口が液相となるようにプロセス設計することで,液相アルキル化の温度を低下させ,高オレフィン転化率(エチレン転化率)が達成できるというものである。
そうすると,請求人が主張する,本願発明より低い圧力では,反応温度をより低くしなければならないということは,むしろ有利な効果であって,請求人の主張は本願明細書に記載される本願発明の効果と矛盾する。
また,本願発明より低い圧力では,第2原材料中のエタンの量をより低くしなければならないとも主張しているが,本願発明において,「エタン」は「オプション」として含まれるものであり,必須の成分ではないから,請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
さらに,本願発明より低い圧力では,ベンゼンのアルケンに対するモル比をより高くしなければならないとも主張するが,本願発明の「ベンゼンのアルケンに対するモル比」は「1?10」であって,引用発明もこの範囲で100%のエチレン転化率が得られているのであるから,これによって本願発明と引用発明との間に効果に差が生じるとも認められない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明に基いて,本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明は,当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく,特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また,本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく,特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
さらに,本願発明は,本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて,その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-23 
結審通知日 2017-01-24 
審決日 2017-02-06 
出願番号 特願2013-158733(P2013-158733)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07C)
P 1 8・ 536- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水島 英一郎  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 木村 敏康
井上 雅博
発明の名称 多相アルキル芳香族の製造  
代理人 山崎 行造  
代理人 山崎 行造  
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