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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1329657
審判番号 不服2016-12437  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-17 
確定日 2017-06-21 
事件の表示 特願2012- 44795「放射線の遮蔽方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日出願公開、特開2013-181793〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月29日に出願された特願2012-44795号であって、平成27年9月14日付けで拒絶理由が通知され、同年11月27日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成28年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年8月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成27年11月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「硫酸バリウム及び/又は鉄含有物からなり、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.01?50μmの範囲である粉末状遮蔽材料を、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した柔軟なシート状乃至板状を呈し、前記粉末状遮蔽材料の含有率は67?95wt%であり、厚さ1mm当たりの放射線遮蔽率がセシウム137標準線源について測定した場合の空間線量率の低減率にて0.3?50%である放射線遮蔽材を用いて、一辺が30cm以上の大きさの放射線発生源の周囲に若しくはこれを覆い隠すように、又は建築物の構成部位の内面又は外面に沿って少なくとも1層の放射線遮蔽層を形成し、当該放射線発生源からの放射線のうち、放射性セシウムから飛散するガンマ線および散乱により低い光子エネルギーをもつガンマ線についての空間線量率を、前記放射線遮蔽材の厚さ20mm当たりで22?44%低減することを特徴とする放射線の遮蔽方法。」が

「硫酸バリウムからなり、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.01?50μmの範囲である粉末状遮蔽材料を、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した0.3?5mmの厚さの柔軟なシート状乃至板状を呈し、前記粉末状遮蔽材料の含有率は67?95wt%であり、厚さ1mm当たりの放射線遮蔽率がセシウム137標準線源について測定した場合の空間線量率の低減率にて0.3?50%である放射線遮蔽材を用いて、
一辺が100cm程度若しくはそれ以上の大きさの放射線発生源の周囲に又はこれを覆い隠すように少なくとも1層の放射線遮蔽層を形成するか、あるいは建築物の窓を塞ぐように少なくとも1層のカーテン状の放射線遮蔽層を形成し、当該放射線発生源からの放射線のうち、放射性セシウムから飛散するガンマ線および散乱により低い光子エネルギーをもつガンマ線であって、平均エネルギーが100?400keVであるものについての空間線量率を、前記放射線遮蔽材の厚さ20mm当たりで22?44%低減することを特徴とする放射線の遮蔽方法。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、補正前の「柔軟なシート状乃至板状を呈」する「放射線遮蔽材」について、その「厚さ」が「0.3?5mm」であることを特定し、「放射線発生源」の「一辺」の「大きさ」について、補正前には「30cm以上」とあったものを、「100cm程度若しくはそれ以上」と限定して特定し、補正前の「建築物の構成部位の内面又は外面に沿って」形成される「放射線遮蔽層」について、「建築物の窓を塞ぐように」形成される「カーテン状」のもであると限定して特定され、さらに低減するガンマ線について「平均エネルギーが100?400keV」と特定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-212304号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)

「【0001】
本発明は、放射線遮蔽用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
病院や各種の研究機関、検査機関において、放射線検査施設などの放射線(X線、γ線、電子線を含む。)を取り扱う施設(以下、「放射線取扱施設」という。)では、その施設内部から外部への放射線の漏洩を防止するために、施設の壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽材が用いられる。従来、放射線遮蔽材として、放射線遮蔽能に優れる鉛を含有するものが主に使用されている。」

「【0008】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、鉛を用いなくても放射線遮蔽能に十分優れた放射線遮蔽シートであって、主面の面積が大きなシート状に加工し、更に取り扱うのに十分適した放射線遮蔽シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鉛の代替として硫酸バリウムを採用する場合、放射線遮蔽能を十分高くするために、硫酸バリウムを多量に放射線遮蔽材に含有する必要がある。本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、硫酸バリウムを多量に含んだ放射線遮蔽材は、放射線遮蔽材の加工性及び取り扱い性に劣っていることを見出した。さらに本発明者らは検討を進めた結果、放射線遮蔽材をシート状に加工し、取り扱いを容易にするためには、放射線遮蔽材が特定の性状を有する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、硫酸バリウムと、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含む放射線遮蔽に用いられるシートであって、硫酸バリウムを75質量%以上含有し、硬さがショアA硬さで95以下であり、密度が2.5g/cm^(3)以上であり、引張破壊伸びが20%以上である放射線遮蔽用シートを提供する。
【0011】
本発明の上記放射線遮蔽用シートは、硫酸バリウムを75質量%以上含有し、密度が2.5g/cm^(3)以上になることにより、その放射線遮蔽能を十分に高くすることができる。また、硬さがショアA硬さで95以下となり、しかも引張破壊伸びが20%以上となることにより、十分な加工性及び取り扱い性を有するようになる。その結果、本発明の放射線遮蔽用シートは、シート状で主面の面積が大きなものとして加工することができ、しかも放射線取扱施設の壁、床及び扉などに組み込むことが可能となるので、内部からの放射線の漏洩を十分効果的かつ確実に防ぐことができる。
【0012】
本発明の放射線遮蔽用シートは、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーがポリ塩化ビニルであると好ましい。これにより、本発明の放射線遮蔽用シートは、放射線遮蔽能を十分に高く保持した状態で、一層加工性及び取り扱い性を良好にすることができる。本発明の放射線遮蔽用シートが、75質量%以上という大多量の硫酸バリウムを含んでいてもポリ塩化ビニルをバインダーに用いることにより、加工性及び取り扱い性を一層良好にできる要因としては、以下のことが考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。ポリ塩化ビニルは他の樹脂と比較して密度が高く、硫酸バリウムとの相溶性に優れている。また、ポリ塩化ビニルは可塑剤の添加量を調整することにより、多量のフィラー、すなわち硫酸バリウムが添加されていても、ある程度硬度や伸びを制御することができる。その結果、取り扱い性を一層向上させることができる。また、改質剤を添加することにより、溶融時の伸びやフィラーの分散性も調整できるため、加工性の更なる改善も可能となる。
【0013】
本発明の放射線遮蔽用シートは、ポリ塩化ビニルの平均重合度が1300?4000であると好ましい。これにより、本発明の放射線遮蔽用シートは、平均重合度が1300未満である場合と比較して、シートの強度及び伸びの低下を防止することができ、シート状に加工する際の伸びの低下を抑制することができる。また、平均重合度が4000を超える場合と比較して、加工性を向上させることができる。」

「【0018】
本発明の放射線遮蔽シートは、硫酸バリウムと、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含む放射線遮蔽に用いられるシートであって、硫酸バリウムを75質量%以上含有し、硬さがショアA硬さで95以下であり、密度が2.5g/cm^(3)以上であり、引張破壊伸びが20%以上であるものである。
【0019】
硫酸バリウム(BaSO_(4))は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。硫酸バリウムの合成方法としては、例えば、塩化バリウムの水溶液に硫酸又は硫酸銅の溶液を添加して、沈殿物として合成する方法が挙げられる。また、市販の硫酸バリウムとしては、例えば、B-54、(堺化学工業社製、商品名、一次粒子径:1.2μm)、B-55(堺化学工業社製、商品名、一次粒子径:0.66μm)、BF-20(堺化学工業社製、商品名、一次粒子径:0.03μm)が挙げられる。
【0020】
合成によって得られた、あるいは市販品から入手した硫酸バリウムが固体粉末状である場合、固体粉末状のものをそのまま用いることができる。また、得られた硫酸バリウムが固体塊状である場合は、それを粉砕して粉末状に成形してから用いてもよい。硫酸バリウムの一次粒子径は、0.01?10μmであることが好ましく、0.5?5μmであることがより好ましい。その一次粒子径が0.01μm以上であると、0.01μmを下回る場合と比較して、粒子径の小さな硫酸バリウムが2次凝集を防止でき、シート状への加工時にブロッキングや金属体への粘着をより有効に防止できるため、その成形性を向上させることができる。一方、その一次粒子径が10μm以下であると、10μmを超える場合と比較して、シートの機械特性等の各種特性が向上すると共に、シートの外観をより好ましいものにすることができる。」

「【0043】
本実施形態の放射線遮蔽用シートの製造方法は、例えば以下のようにして行われる。まず、硫酸バリウム及びそのバインダーである熱可塑性樹脂等を始めとする各成分を、押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練する。本実施形態の放射線遮蔽用シートは硫酸バリウムを多く含むため、硫酸バリウムをバインダー中に均一に分散させるのが困難である。そこで、溶融混練の際には強力な混練能を有するバンバリーミキサーを用いることが好ましい。
【0044】
溶融混練により得られた混練物は、次にカレンダー又はTダイによってシート加工を施され、本実施形態の放射線遮蔽用シートが得られる。この際、本実施形態の放射線遮蔽用シートは、引張破壊伸びが20%以上であり、硬さがショアA硬さで95以下であるため、加工途中で割れたりひびが入ったりし難い。
【0045】
こうして得られた放射線遮蔽用シートは、その主面の形状に特に制限はなく、例えば矩形(長方形)、正三角形や正六角形などの多角形であってもよく、あるいは円形や楕円形であってもよい。また、シート厚さも特に制限されず、鉛当量が0.15mmPb以上となるような厚さであると好ましく、0.20mmPb以上となるような厚さであるとより好ましい。一方で、シート厚さが厚くなりすぎると、加工や取り扱いに困難となる傾向にあり、壁や扉に組み込み難くなる傾向ある。その観点から、シート厚さは、20mm以下であると好ましく、10mm以下であるとより好ましい。」

イ 引用例1に記載された発明の認定
上記記載から、引用例1には、
「硫酸バリウムと、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含む放射線遮蔽に用いられる放射線遮蔽用シートを用いて放射線の漏洩を防止する方法であって、
放射線遮蔽用シートは、硫酸バリウムを75質量%以上含有し、
硫酸バリウムは粉末状であってバインダー中に均一に分散させられ、その一次粒子径は、0.01?10μmであり、
放射線遮蔽用シートの厚さは、10mm以下であり、
γ線を取り扱う施設において、施設の壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートを用いて、施設内部から外部への放射線の漏洩を防止する方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本願補正発明において「粉末状遮蔽材料の粒子径」を「レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径」で特定したことに、格別の技術的意義を有するものではないことを踏まえると、引用発明の「その一次粒子径は、0.01?10μm」である「粉末状」の「硫酸バリウム」が、本願補正発明の「硫酸バリウムからなり、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.01?50μmの範囲である粉末状遮蔽材料」に相当する。
(イ)引用発明の「硫酸バリウムと、その硫酸バリウムのバインダーである熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含」み、「硫酸バリウムは粉末状であってバインダー中に均一に分散させられ」ることが、本願補正発明の「粉末状遮蔽材料を、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形」することに相当する。
(ウ)本願補正発明の「0.3?5mmの厚さ」の特定における当該範囲の下限値(0.3mm)及び上限値(5mm)に臨界的意義は認められないことを踏まえると、引用発明の「放射線遮蔽用シートの厚さは、10mm以下」であることが、本願補正発明の「(放射線遮蔽材が)0.3?5mmの厚さの柔軟なシート状乃至板状を呈」することに相当する。
(エ)本願補正発明の「含有率は67?95wt%」である特定における当該範囲の上限値(95wt%)に臨界的意義は認められないことを踏まえると、引用発明の「放射線遮蔽用シートは、硫酸バリウムを75質量%以上含有」することが、本願補正発明の「粉末状遮蔽材料の含有率は67?95wt%」であることに相当する。
(オ)引用発明の「放射線遮蔽用シート」が、本願補正発明の「放射線遮蔽材」に相当する。
(カ)引用発明の「γ線を取り扱う施設において、施設の壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートを用いて、施設内部から外部への放射線の漏洩を防止する」ことと、本願補正発明の「一辺が100cm程度若しくはそれ以上の大きさの放射線発生源の周囲に又はこれを覆い隠すように少なくとも1層の放射線遮蔽層を形成するか、あるいは建築物の窓を塞ぐように少なくとも1層のカーテン状の放射線遮蔽層を形成し、当該放射線発生源からの放射線のうち、放射性セシウムから飛散するガンマ線および散乱により低い光子エネルギーをもつガンマ線であって、平均エネルギーが100?400keVであるものについての空間線量率を、前記放射線遮蔽材の厚さ20mm当たりで22?44%低減する」こととは、「建築物の窓を塞ぐように少なくとも1層の放射線遮蔽層を形成し、当該放射線発生源からの放射線のうち、ガンマ線の空間線量率を低減する」点で一致する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「硫酸バリウムからなり、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.01?50μmの範囲である粉末状遮蔽材料を、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した0.3?5mmの厚さの柔軟なシート状乃至板状を呈し、前記粉末状遮蔽材料の含有率は67?95wt%である放射線遮蔽材を用いて、
建築物の窓を塞ぐように少なくとも1層の放射線遮蔽層を形成し、当該放射線発生源からの放射線のうち、ガンマ線の空間線量率を低減する放射線の遮蔽方法。」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明の「放射線遮蔽材」は、「厚さ1mm当たりの放射線遮蔽率がセシウム137標準線源について測定した場合の空間線量率の低減率にて0.3?50%」であるのに対し、引用発明の「放射線遮蔽用シート」の空間線量率の低減率については、特定がない点。
(イ)相違点2
本願補正発明の「放射線遮蔽材」は「カーテン状」であるのに対して、引用発明の「放射線遮蔽用シート」については、その点の特定はない点。
(ウ)相違点3
ガンマ線の空間線量率の低減について、本願補正発明では、ガンマ線が「放射性セシウムから飛散する」および「散乱により低い光子エネルギーをもつ」ガンマ線であって「平均エネルギーが100?400keVであるもの」であり、低減率が「放射線遮蔽材の厚さ20mm当たりで22?44%」であるのに対し、引用発明においては、ガンマ線及び低減率についての、そのような特定はない点。


(3)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項は、本願補正発明の「放射線遮蔽材」の機能(効能)を特定した事項であるところ、上記「(2)」「ア 対比」の(ア)?(エ)の記載からも認められるとおり、本願補正発明の「放射線遮蔽材」と引用発明の「放射線遮蔽シート」には、構成における相違点がない。したがって、引用発明の「放射線遮蔽シート」も本願補正発明の「放射線遮蔽材」と同等の機能(効能)を備える蓋然性が高い。すなわち、引用発明の「放射線遮蔽シート」は、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する特定事項を備えるものと認められる。
よって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2について
放射線遮蔽材(シート)をカーテン状に形成することは、例えば、登録実用新案第3172240号公報、実願昭58-44950号(実開昭60-53096号)のマイクロフィルム、実願昭58-44951号(実開昭60-53097号)のマイクロフィルムにも記載されているように周知の技術である。
引用発明においても、施設の窓に放射線遮蔽用シートを用いる場合においては、開閉可能とすることの要請から、上記の周知技術を採用し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点3について
引用発明の「(γ線を取り扱う施設において)施設の壁、床、扉及び窓などに放射線遮蔽用シートを用い」る方法(技術)を、(γ線を取り扱う施設として)「放射性セシウム」を取り扱う施設の窓に適用することに格別の困難性は認められない。
そして、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、本願補正発明の方法を実施した際に生ずる効果を特定した事項であるところ、上記の引用発明の方法を「放射性セシウム」を取り扱う施設の窓へ適用することにより、本願補正発明の方法に関する上記の効果を特定した相違点3に係る発明特定事項以外の事項が得られることになるから、上記の効果と同等の効果を奏する蓋然性が高い。
よって、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年8月17日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年11月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成28年8月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成28年8月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 平成28年8月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)本願補正発明と引用発明の対比」の「ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用発明は、
「硫酸バリウム及び/又は鉄含有物からなり、レーザー回折散乱法に基づく平均粒子径が0.01?50μmの範囲である粉末状遮蔽材料を、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーからなるバインダー中に均一に分散させて成形した柔軟なシート状乃至板状を呈し、前記粉末状遮蔽材料の含有率は67?95wt%である放射線遮蔽材を用いて、
建築物の構成部位の内面又は外面に沿って少なくとも1層の放射線遮蔽層を形成し、当該放射線発生源からの放射線のうち、ガンマ線についての空間線量率を低減する放射線の遮蔽方法。」
で一致し、次の各点で相違する。
(ア)相違点1’
本願発明の「放射線遮蔽材」は、「厚さ1mm当たりの放射線遮蔽率がセシウム137標準線源について測定した場合の空間線量率の低減率にて0.3?50%」であるのに対し、引用発明の「放射線遮蔽用シート」の空間線量率の低減率については、特定がない点。
(イ)相違点3’
ガンマ線の空間線量率の低減について、本願補正発明では、ガンマ線が「放射性セシウムから飛散する」および「散乱により低い光子エネルギーをもつ」ガンマ線であり、低減率が「放射線遮蔽材の厚さ20mm当たりで22?44%」であるのに対し、引用発明においては、ガンマ線及び低減率についての、そのような特定はない点。
上記各相違点についての検討は、上記「第2」「2」「(3)」「ア」の「(ア)」及び「(ウ)」に記載した相違点1及び相違点3についての検討と同様であり、相違点1’については相違点1と同様に、実質的な相違点とはいえず、また、相違点3’については相違点3についての理由と同様の理由で、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-10 
結審通知日 2017-04-18 
審決日 2017-05-01 
出願番号 特願2012-44795(P2012-44795)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21F)
P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 伸二  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 放射線の遮蔽方法  
代理人 小松 秀彦  
代理人 小松 秀彦  

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