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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1329749 |
審判番号 | 不服2015-14609 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-08-04 |
確定日 | 2017-06-20 |
事件の表示 | 特願2012-505195「バリア機能を強化することができるペプチド加水分解物を含む化粧品および/または医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日国際公開、WO2010/119191、平成24年10月11日国内公表、特表2012-524049〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年(平成22年)4月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月15日 仏国)を国際出願日とする出願であって、平成26年7月14日付けで拒絶理由が通知され、同年10月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成26年10月17日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載されたとおりの、次のものである(以下、請求項1ないし14に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明14」といい、これらを総称して「本願発明」という。)。 「 【請求項1】 表皮のバリア機能を強化するための化粧用途用の、生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物を含む組成物であって、前記ペプチド加水分解物が、ヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)、マメ(ピサム・サティバム)の中から選択される植物の加水分解、又はサッカロミセス属の酵母の加水分解に由来し、前記生物学的活性ペプチドが、配列: (配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Ser のペプチドであることを特徴とする組成物。 【請求項2】 前記ペプチド加水分解物がサッカロミセス・セレビシエ種の酵母の加水分解に由来することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記ペプチド加水分解物が0.5から5.5g/lの天然ペプチド化合物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】 生理学的に許容可能な媒体中に、組成物の総重量に対して0.0001%から20%を占める量のペプチド加水分解物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項5】 組成物の総重量に対して0.05%から5%を占める量のペプチド加水分解物を含む、請求項4に記載の組成物。 【請求項6】 前記ペプチド加水分解物が、水、グリセロール、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、エトキシ化もしくはプロポキシル化ジグリコール、環状ポリオール、白色ワセリン、植物油またはこれらの溶媒のいずれかの混合物からなる群より選択される1つ以上の生理学的に許容可能な溶媒中に可溶化されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項7】 局所適用に適する形態で存在することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項8】 前記ペプチド加水分解物の作用を促進する、少なくとも1つの他の活性成分もまた含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項9】 生理学的に許容可能な媒体中に、薬剤として、請求項1から6のいずれか一項に規定されるペプチド加水分解物を含む、医薬組成物。 【請求項10】 HMG-CoA-リダクターゼを活性化するための、有効量のペプチド加水分解物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項11】 表皮のバリア機能を強化し、表皮分化を刺激することを意図することを特徴とする、請求項10に記載の組成物。 【請求項12】 加齢および光加齢の皮膚兆候を予防ならびにそれらに対処することを意図することを特徴とする、請求項10に記載の組成物。 【請求項13】 外部ストレスから皮膚を保護することを意図することを特徴とする、請求項10に記載の組成物。 【請求項14】 加齢および/または光加齢の皮膚顕在化を予防または処置することを意図する組成物であって、処置される皮膚または皮膚付属物に局所適用されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。」 第3 当審の判断 1 特許法第36条第4項第1号に規定する要件について (1)本願の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)に適合するためには、本願の発明の詳細な説明が、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることが必要である。 本願発明は、「表皮のバリア機能を強化するための化粧用途用の、生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物を含む組成物」という物の発明であるから、本願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすためには、本願の発明の詳細な説明が、 (i) 本願発明について明確に説明されていること、 (ii) 本願発明を作れるように記載されていること、 (iii) 本願発明を使用できるように記載されていること、 を満たすものでなければならない。 そして、本願発明について明確に説明されているためには、本願発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れなければならない。 また、本願発明は、ペプチド加水分解物を含む組成物について表皮のバリア機能を強化するための化粧用途用という用途を用いて発明を特定しようとするものであるから、本願発明を使用できるように記載されているためには、当該用途を裏付ける実施例等が記載されている必要がある。 そこで、本願の発明の詳細な説明の記載について検討する。 (2)本願の発明の詳細な説明の記載事項 本願の発明の詳細な説明には、上記「(1) (i)ないし(iii)」に関連する事項として次のアないしツの記載がある。 なお、クないしシの記載において参照されている図面(図1ないし図4及び図6)を掲載した。 ア 「【技術分野】 【0001】 本願発明は、化粧品および医薬品分野、特に皮膚科分野におけるものである。本発明は、皮膚のバリア機能を強化し、表皮の分化を刺激することができる、生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物に関する。生物学的活性ペプチドは、少なくとも1個のグリシン残基、1個のロイシン残基、および1個のグルタミン酸残基を含む4個から6個のアミノ酸を含むことを特徴とする。好ましくは、活性成分は、ヒトツブコムギ、ジャガイモ、トウモロコシ、マメ、ダイズの中から選択される植物タンパク質またはSaccharomyces属由来の酵母タンパク質の加水分解物に由来する。本発明はまた、生理学的に許容可能な媒体中に、表皮のバリア機能を強化することができる活性成分として、生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物を含む組成物にも関する。本発明はまた、薬剤としてこの新規活性成分を含む医薬組成物にも関する。最後に、本発明は、HMG-CoAレダクターゼを活性化する活性成分としての前記ペプチド加水分解物の使用に関する。本発明はさらに、皮膚のバリア機能を強化し、表皮の分化を刺激することができる活性成分としての前記ペプチド加水分解物の使用に関する。本発明はさらに、外的ストレスおよび皮膚老化の兆候を防止および/または対処することを意図する化粧上の処理方法に関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明の第一の目的は、表皮のバリア機能を強化することができる生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物であり、加水分解物が、少なくとも1個のグリシン残基、1個のロイシン残基、および1個のグルタミン酸残基を含む4個から6個のアミノ酸を含むことを特徴とする。 【0012】 実際に、本発明により、以後生物学的活性ペプチドと呼ぶ、ある特定のペプチドを含むペプチド加水分解物の化粧品的および医薬的、特に皮膚科的な活性が示されている。 【0013】 特に、生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物は、皮膚に適用される場合、皮膚のバリア機能を強化し、表皮の分化を刺激する。これらの特性は、外部ストレスに関する皮膚組織のより良好な保護により、および表皮の角質層を構成する脂質の生成の増大により示されている。 【0014】 本発明において、「生物学的活性ペプチド」は、ペプチド結合により、または修飾ペプチド結合により連結され、本発明による活性成分の活性のin vivoもしくはin vitro活性特性を有する、少なくとも4個のアミノ酸の連結として理解される。 【0015】 本発明に特徴的な生物学的活性は、HMG-CoAレダクターゼを活性化するペプチドの能力により、(HMG-CoAレダクターゼ遺伝子発現の直接または間接的制御による)HMG-CoAレダクターゼのタンパク質合成の増大により、あるいはHMG-CoAレダクターゼの酵素活性の増大により、あるいはHMG-CoAレダクターゼを安定化させる、またはメッセンジャーRNA転写物を安定化させるような、他の生物学的プロセスにより、in vitroで規定される。 【0016】 皮膚は、表皮付属物(髪、睫毛、体毛、眉毛)を含む、皮膚および粘膜を構成する変換組織の全てを指すと理解される。 【0017】 「ペプチド加水分解物」は、主にペプチドもしくはオリゴペプチドにより示される化合物の混合物を指すと理解される。本発明において、「ペプチド加水分解物」または「活性成分」の語は、同等に使用される。 【0018】 「天然ペプチド化合物」は、本発明のペプチド加水分解物中に存在するタンパク質の断片、ペプチドおよび遊離アミノ酸を指すと理解される。 【0019】 「局所適用」は、皮膚もしくは粘膜の表面に、またはその上に、本発明の活性成分、もしくはそれを含む組成物を適用もしくは塗布する作用を指すと理解される。「生理学的に受容可能」は、本発明のペプチド加水分解物もしくはそれを含む組成物が、毒性もしくは不寛容応答を引き起こすことなく、皮膚もしくは粘膜と接触して導入することができることを意味すると理解される。」 ウ 「【課題を解決するための手段】 【0020】 本発明の実施態様の特に有利な方法によると、加水分解物に含まれる生物学的活性ペプチドは、一般式I X_(1)-[Gly, Glu, Leu]- X_(2)-X_(3) の配列を有する。 [前記式中、 X_(1)はアラニン、バリン、イソロイシンまたはアミノ酸なしであり、 X_(2)はセリンまたはスレオニンであり、 X_(3)はロイシン、イソロイシンまたはアミノ酸なしである] 【0021】 本発明の実施態様の特に好ましい方法によると、生物学的活性ペプチドは、配列: (配列番号1) Ala-Glu-Gly-Leu-Ser-Ile (配列番号2) Leu-Gly-Glu-Ser-Leu (配列番号3) Val-Gly-Glu-Leu-Thr (配列番号4) Ile-Gly-Glu-Leu-Ser (配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Ser (配列番号6) Gly-Glu-Leu-Thr-Ile (配列番号7) Gly-Glu-Leu-Ser を有する。 【0022】 特に興味深い実施態様によると、生物学的に活性なペプチドは、配列番号5の配列に相当する。 【0023】 本発明による活性成分を、植物もしくは酵母起源のタンパク質の抽出後、天然ペプチド化合物を放出する制御された加水分解を行い、その中に生物学的に活性なペプチドを発見することにより取得してよい。 【0024】 ペプチド加水分解物、特に低分子量ペプチド加水分解物の使用は、化粧品において、多くの有利性を提示する。出発タンパク質混合物に前もって存在しなかった天然ペプチド化合物を製造することに加えて、加水分解および精製により、より安定な混合物を得ることが可能になり、それにより標準化することが容易になり、皮膚科学的もしくは化粧品アレルギー反応を引き起こさないようにすることが可能となる。 【0025】 本発明の生物学的活性ペプチドに相当する天然ペプチド化合物を精製しないが、適切な解析手法により前記ペプチドの存在を確証することにより、ある加水分解抽出物を使用することも可能である。 【0026】 植物および酵母に見出された非常に多くのタンパク質は、その構造中に生物学的活性ペプチドを含むようである。制御加水分解により、これらのペプチド特性の特定の化合物が放出されるのを可能とする。本発明の実行には必要ではないが、最初に関連タンパク質のいずれかを抽出しその後それらを加水分解する、あるいは最初に粗抽出物で加水分解し、その後天然ペプチド化合物を精製することが可能である。 【0027】 好ましい実施態様によれば、前記活性成分は、ヒトツブコムギ、ジャガイモ、トウモロコシ、マメ、ダイズの中から選択される植物タンパク質またはSaccharomyces属由来の酵母タンパク質の加水分解物に由来する。好ましくは、使用される植物は、前もって発酵されていない。 【0028】 そして、本願発明を、特に高いレベルのタンパク質を含む、非常に古い二倍体コムギである、微小ヒトツブコムギの種子(Triticum monococcum)を使用することにより実行してよい(Vallega 1992)。 【0029】 本発明をまた、Solanum属、特にSolanum tuberosum種のジャガイモ塊茎を使用することにより実行してもよい。塊茎は、植物の根ではなく埋没した茎に属し、そこから地下茎と呼ばれる細い枝が伸長し、その末端に塊茎が形成する。 【0030】 本発明をまた、Zea属、特にZea mays L種の多くの植物の一つに由来する種子を使用することにより実行してもよい。本発明によれば、使用する植物物質は、種子であり、優先的には、種子の外皮は、外皮除去工程により除去されている。 【0031】 本発明をまた、マメファミリー(マメ科)由来の多くの植物の一つを使用することにより実行してもよい。本発明によれば、マメ種Pisum sativum L由来の植物が使用される。マメの語はまた、種子を指し、それ自体タンパク質が豊富(25%)である。本発明をまた、Glycine属(ダイズ)もしくは豆腐のマメ科種子、優先的にはGlycine Max L.種のマメ科種子を使用することにより実行してもよい。本発明によれば、使用する植物物質は種子であり、優先的には、種子の外皮は、外皮除去工程により除去されている。 【0032】 本発明をまた、Saccharomyces属の、優先的にはSaccharomyces cerevisiae種の酵母を使用することにより実行してもよい。」 エ 「 【0038】 タンパク質、炭水化物、およびおそらく脂質を含む可溶性画分を、遠心および濾過工程の後回収する。その後、この粗生成物を、制御された条件下で加水分解し、可溶性ペプチドを製造する。加水分解は、水による切断に関する化学反応として規定され、この反応は、中性、酸性、もしくは塩基性媒体中でなされてよい。本発明によれば、加水分解を、化学的におよび/または有利にはタンパク質分解酵素により、実行する。その後、植物起源のエンドプロテアーゼ(パパイン、ブロメリン、フィシン)および微生物(Aspergillus, Rhizopus, Bacillusなど)の使用が引用されてよい。加水分解条件は、生物学的活性ペプチド富化を促進するよう選択される。 【0039】 上記と同じ理由、すなわち、ポリフェノール基質の除去のため、一定量のポリビニルポリピロリドンを、この制御加水分解工程の間に反応媒体に添加する。濾過の後、酵素とポリマーの除去を可能とするよう、得られる濾過物(溶液)は、第一の形態の本発明の活性成分を構成する。 【0040】 この段階で得られる加水分解物を、好ましくは6 kDaより小さい、低分子量画分、およびその特性により製造されるペプチドを選択するために再度精製してよい。有利には、画分化を、生物学的活性ペプチド中の加水分解物を特異的に富化するために、空隙率を減少するフィルターを通す連続的限外濾過により、各工程の濾過物を保存することにより、および/またはクロマトグラフィータイプの方法により、実行してよい。 【0041】 本発明は、水中または水を含む混合物中の希釈のフェーズを実行し、その後0.5から5.5g/lのタンパク質含量を特徴とするペプチド加水分解物を得るために、限外濾過による滅菌を実行する。このペプチド加水分解物は、最も精製された形態の、本発明の活性成分に相当する。 【0042】 本発明により得られるペプチド加水分解物は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)において量的および質的に分析され、(適切な溶媒の勾配により)0.2から25kDaの分子量を有するタンパク質を分析することが可能となる。その後、単離することができる異なるペプチド画分を、それらの生物学的有効性に関して分析する。その後これらの多用な画分を、各ピークからペプチドのアミノ酸含量を特異的に同定するために、マススペクトロメトリーにより分析する。配列解析もまた実行し、生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定した。 【0043】 得られた加水分解物は、6 kDaより低い、優先的に6 kDaより低い分子量を有し、少なくとも1個のグリシン残基、1個のロイシン残基、および1個のグルタミン酸残基を含む4個から6個のアミノ酸由来の生物学的活性ペプチドに富むペプチドからなる。」 オ 「 【0044】 本発明の第二の目的は、生理学的に許容可能な媒体中に、表皮のバリア機能を強化することができる活性成分として、本発明の生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物を含む組成物である。」 カ 「 【0061】 本発明の第四の目的は、化粧品組成物における、ヒトHMG-CoA-リダクターゼを活性化する活性成分としての、有効量のペプチド加水分解物の使用である。 【0062】 ペプチド加水分解物の有効量は、表皮のバリア機能を改善し、表皮分化を刺激する目的において、所望の結果を得る、すなわち、HMG-CoA-リダクターゼを活性化するために必要な量に相当する。 【0063】 「表皮のバリア機能を改善し、表皮分化を刺激する」は、表皮の角質層の保護能力の改善、およびケラチンのような生物学的分化マーカーの発現の改善を指すと理解される。 【0064】 そして、前記活性成分の特別な特性のおかげで、表皮のバリア機能を強化し、かつ表皮分化を刺激することを意図する化粧品組成物にそれを使用することができる。 【0065】 一方、有利にはペプチド加水分解物を、皮膚加齢、特に光誘導皮膚老化(光加齢)の兆候を、予防的および/または治療的に対処することを意図した化粧品組成物において活性成分として使用してよい。老化もしくは光老化の皮膚兆候は、例えば、表皮の角質層の表面のあれ、しわおよび微細なしわのような、老化による皮膚および表皮付属物の外見におけるいずれかの改変のみでなく、例えば紫外線(UV)照射への曝露後の真皮の薄化もしくは他の皮膚の内部分解のような、体系的な改変した外観をもたらさない皮膚の内部改変のいずれかを指すと理解される。 【0066】 本発明の他の態様によれば、有利にはペプチド加水分解物を、全てのタイプの外部ストレスから皮膚を保護することを意図した化粧品組成物中の活性成分として使用することができる。」 キ 「【図面の簡単な説明】 【0071】 【図1】ヒトツブコムギ加水分解物における生物学的活性ペプチドに相当するピークを示す、HPLCにより得られたクロマトグラフィー例。 【図2】ジャガイモ加水分解物における生物学的活性ペプチドに相当するピークを示す、HPLCにより得られたクロマトグラフィー例。 【図3】トウモロコシ加水分解物における生物学的活性ペプチドに相当するピークを示す、HPLCにより得られたクロマトグラフィー例。 【図4】マメ加水分解物における生物学的活性ペプチドに相当するピークを示す、HPLCにより得られたクロマトグラフィー例。 【図5】ダイズ加水分解物における生物学的活性ペプチドに相当するピークを示す、HPLCにより得られたクロマトグラフィー例。 【図6】Saccharomyces cerevisiae加水分解物における生物学的活性ペプチドに相当するピークを示す、HPLCにより得られたクロマトグラフィー例。」 ク 「【発明を実施するための形態】 【0072】 実施例1:ヒトツブコムギ(Triticum monococcum)からのペプチド加水分解物の調製 ヒトツブコムギ種子(Triticum monococcum)を、2 % POLYCLAR(登録商標)10 (ポリビニルピロリドン-PVPP - 不溶性)の存在下で10倍容量の水の溶液中に入れる。混合物を、1M水酸化ナトリウム水溶液で、pH 6から8に調節する。 【0073】 pHを調節したあと、アミラーゼ(ハシダーゼ(hasidase) (登録商標))およびプロテアーゼ(2%のパパイン)を、反応媒体に添加する。50°Cで2時間撹拌後、加水分解物を得る。その後、溶液を80°Cで2時間加熱することにより、酵素を不活性化する。遠心後、粗ヒトツブコムギ加水分解物に相当する、上清水性溶液を回収する。Gly、Leuおよびグルタミン酸残基を含む、4個から6個のアミノ酸の生物学的活性ペプチドの富化を可能とするように、加水分解条件を選択した。 【0074】 加水分解粗精製プロセスは、加水分解物1として記載される、明るく清澄な溶液を得るために、(0.2μmまで)空隙率を減少させたSeitz-Orionフィルタープレートを使用する、連続的な濾過によりスタートする。 【0075】 この工程で、ヒトツブコムギ加水分解物1は、薄い黄色の色、ならびに20から25 g/kgの乾燥抽出物滴定値、10から12 g/lのタンパク質レベル、および5から8 g/lの糖レベルを特徴とする。 【0076】 NuPAGE(登録商標)ビストリスプレキャスト(Invitrogen)ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動解析後、加水分解物1のタンパク質特性を示す。ヒトツブコムギタンパク質加水分解物を、NuPAGE(登録商標) LDSサンプル調製バッファー中、還元変性条件下、70°Cで10分間加熱する。NuPAGE(登録商標)アンチオキシダント溶液を、内部タンク(陽極)に添加し、電気泳動中の還元タンパク質の再酸化を防止する。タンパク質移動を、分子量マーカーとして標準SeeBlue Plus2をとともに、NuPAGE(登録商標) MES移動バッファー中で実行する。タンパク質着色を、クーマシーブルー(登録商標) R-250を使用することにより実行する。これらの条件下で、酵素に相当する24kDaのバンドが観察され、タンパク質は6kDaより小さかった。 【0077】 その後加水分解物1を、酵素の痕跡を除去するために、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 5 kDaを使用して超遠心することにより精製する。精製の最後に、黄オレンジ色で、明るくクリアなペプチド加水分解物が得られる。タンパク質含量1.5から3.5 g/lを特徴とするペプチド加水分解物を得るために、希釈フェーズを実行する。このペプチド加水分解物は、本発明による活性成分に相当する。 【0078】 その後このペプチド加水分解物を、ChemStationソフトウェアにより稼動するHP1100装置を使用する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析する。加水分解物の溶出中に使用するカラムは、Nucleosil(登録商標) 300-5 C4 MPN (125 x 4 mn) カラムであり、これにより0.2kDaから25kdaの分子量を有するタンパク質を以下の条件でクロマトグラフ化することが可能となる。 メタノール勾配: - Uptisphere OPB 125 x 3 mmカラム - 溶媒A:0.1%ヘプタフルオロブチリル酸(HFBA)を含むHPLCグレード水 - 溶媒B:HPLCグレードメタノール - 勾配:13分間に100%から40%溶媒A、その後5分間に40%から10%。 【0079】 これらのクロマトグラフィー条件下で、複数のペプチド画分を単離することができた。HPLCにより得られたクロマトグラム(高圧液相におけるクロマトグラフィー)の例は、ペプチド加水分解物に相当するピークが、図1に示される。 【0080】 その後これらの多様な画分を、各ピーク由来のペプチドのアミノ酸含量を特異的に同定するために、マススペクトロメトリーにより解析する。配列解析もまた実行し、生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定する。 【0081】 本発明の活性成分のアミノ酸における組成物の決定もまた実行した。これは、アミノ酸加水分解およびPICT(フェニルイソチオシアネート)でのプレ誘導化を使用する高圧液相クロマトグラフィーにより同定して実行した。 【0082】 加水分解物のアミノ酸組成物の例は、以下の表に(%で)示される。 【0083】 【表1】 」 【図1】 ケ 「 【0084】 実施例2:Solanum tuberosum種に属する塊茎由来のペプチド加水分解物の調製 ジャガイモ塊茎(Solanum tuberosum)を、2 % POLYCLAR(登録商標)10 (ポリビニルピロリドン-PVPP - 不溶性)の存在下で10倍容量の水の溶液中に入れる。混合物を、1M水酸化ナトリウム水溶液で、pH 6から8に調節する。その後酸性媒体における沈殿を実行する。ペレットを溶液に戻し、pHの調節後、2%のパパインを反応媒体に添加する。55°Cで2時間撹拌後、加水分解物を得る。その後、溶液を80°Cで2時間加熱することにより、酵素を不活性化する。遠心後、粗ジャガイモ加水分解物に相当する、上清水性溶液を回収する。Gly、Leuおよびグルタミン酸残基を含む、4個から6個のアミノ酸の生物学的活性ペプチドの富化を可能とするように、加水分解条件を選択した。 【0085】 加水分解粗精製プロセスは、加水分解物1として記載される、明るく清澄な黄色溶液を得るために、(0.2μmまで)空隙率を減少させたSeitz-Orionフィルタープレートを使用する、連続的な濾過によりスタートする。 【0086】 この工程で、ジャガイモ加水分解物1は、40から60 g/kgの乾燥抽出物滴定値、20から25 g/lのタンパク質レベル、および1から3 g/lの糖レベルを特徴とする。 【0087】 NuPAGE(登録商標)ビストリスプレキャスト(Invitrogen)ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動解析後、加水分解物1のタンパク質特性を示す。ジャガイモタンパク質加水分解物を、NuPAGE(登録商標) LDSサンプル調製バッファー中、還元変性条件下、70°Cで10分間加熱する。NuPAGE(登録商標)アンチオキシダント溶液を、内部タンク(陽極)に添加し、電気泳動中の還元タンパク質の再酸化を防止する。タンパク質移動を、分子量マーカーとして標準SeeBlue Plus2をとともに、NuPAGE(登録商標) MES移動バッファー中で実行する。タンパク質着色を、クーマシーブルー(登録商標) R-250を使用することにより実行する。これらの条件下で、得られるタンパク質が6kDaより小さい分子量を有することが観察される。 【0088】 その後加水分解物1を、接線流体濾過を使用することにより、5kDaより小さい分子量を有するペプチドのみを保持するために、精製する。このために加水分解物1を、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 5 kDaを装着したPellicon(登録商標)サポートを通した圧力下でポンピングする。精製の最後に、明るくクリアなペプチド加水分解物が得られる。タンパク質含量3.5から5.5 g/lを特徴とするペプチド加水分解物を得るために、希釈フェーズを実行する。このペプチド加水分解物は、本発明による活性成分に相当する。 【0089】 その後このペプチド加水分解物を、ChemStationソフトウェアにより稼動するHP1100装置を使用する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析する。加水分解物の溶出中に使用するカラムは、Nucleosil(登録商標) 300-5 C4 MPN (125 x 4 mn) カラムであり、これにより(実施例1と同一の条件で)0.2kDaから25kdaの分子量を有するタンパク質をクロマトグラフ化することが可能となる。これらのクロマトグラフィー条件下で、複数のペプチド画分を単離することができた。 【0090】 その後これらの多様な画分を、各ピーク由来のペプチドのアミノ酸含量を特異的に同定するために、マススペクトロメトリーにより解析する。配列解析もまた実行し、生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定する。 【0091】 HPLCにより得られたクロマトグラム(高圧液相におけるクロマトグラフィー)の例は、ペプチド加水分解物に相当するピークが、図2に示される。 【0092】 本発明の活性成分のアミノ酸における組成物の決定もまた実行した。これは、アミノ酸加水分解およびPICT(フェニルイソチオシアネート)でのプレ誘導化を使用する高圧液相クロマトグラフィーにより同定して実行した。 【0093】 加水分解物のアミノ酸組成物の例は、以下の表に(%で)示される。 【0094】 【表2】 」 【図2】 コ 「 【0095】 実施例3:トウモロコシ胚ケーキ(Zea mays L.)由来のペプチド加水分解物の調製 トウモロコシ胚ケーキ(Zea mays L.)を、2 % POLYCLAR(登録商標)10 (ポリビニルピロリドン-PVPP - 不溶性)の存在下で10倍容量の水の溶液中に入れる。混合物を、1M水酸化ナトリウム水溶液で、pH 6から8に調節する。 【0096】 pHの調節後、2%のパパインを反応媒体に添加する。55°Cで2時間撹拌後、加水分解物を得る。その後、溶液を80°Cで2時間加熱することにより、酵素を不活性化する。遠心後、粗トウモロコシ加水分解物に相当する、上清水性溶液を回収する。Gly、LeuおよびGlu残基を含む、4個から6個のアミノ酸の生物学的活性ペプチドの富化を可能とするように、加水分解条件を選択した。 【0097】 加水分解粗精製プロセスは、加水分解物1として記載される、明るく清澄な黄色溶液を得るために、(0.2μmまで)空隙率を減少させたSeitz-Orionフィルタープレートを使用する、連続的な濾過によりスタートする。 【0098】 この工程で、トウモロコシ加水分解物1は、20から30 g/kgの滴定値、20から25 g/lのタンパク質レベル、および2から5 g/lの糖レベルを特徴とする。 【0099】 NuPAGE(登録商標)ビストリスプレキャスト(Invitrogen)ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動解析後、加水分解物1のタンパク質特性を示す。トウモロコシタンパク質加水分解物を、NuPAGE(登録商標) LDSサンプル調製バッファー中、還元変性条件下、70°Cで10分間加熱する。NuPAGE(登録商標)アンチオキシダント溶液を、内部タンク(陽極)に添加し、電気泳動中の還元タンパク質の再酸化を防止する。タンパク質移動を、分子量マーカーとして標準SeeBlue Plus2をとともに、NuPAGE(登録商標) MES移動バッファー中で実行する。タンパク質着色を、クーマシーブルー(登録商標) R-250を使用することにより実行する。これらの条件下で、6kDa以下の分子量を有するタンパク質が観察される。 【0100】 その後加水分解物1を、5kDaより小さい分子量を有するペプチドのみを保持するために、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 5 kDaによる限外濾過により高分子量タンパク質を除去して精製する。 【0101】 この最後の精製後、タンパク質レベル3.5から5.5 g/lを特徴とするペプチド加水分解物を得るために、希釈フェーズを実行する。このペプチド加水分解物は、本発明による活性成分に相当する。 【0102】 その後このペプチド加水分解物を、ChemStationソフトウェアにより稼動するHP1100装置を使用する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析する。加水分解物の溶出中に使用するカラムは、Nucleosil(登録商標) 300-5 C4 MPN (125 x 4 mn) カラムであり、これにより(実施例1と同一の条件で)0.2kDaから25kdaの分子量を有するタンパク質を以下の条件でクロマトグラフ化することが可能となる。これらのクロマトグラフィー条件下で、複数のペプチド画分を単離することができた。 【0103】 HPLCにより得られたクロマトグラム(高圧液相におけるクロマトグラフィー)の例は、ペプチド加水分解物に相当するピークが、図3に示される。 【0104】 その後これらの多様な画分を、各ピーク由来のペプチドのアミノ酸含量を特異的に同定するために、マススペクトロメトリーにより解析する。配列解析もまた実行し、生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定する。 【0105】 本発明の活性成分のアミノ酸における組成物の決定もまた実行した。これは、アミノ酸加水分解およびPICT(フェニルイソチオシアネート)でのプレ誘導化を使用する高圧液相クロマトグラフィーにより同定して実行した。加水分解物のアミノ酸組成物の例は、以下の表に(%で)示される。 【0106】 【表3】 」 【図3】 サ 「 【0107】 実施例4:マメ(Pisum sativum L.)由来のペプチド加水分解物の調製 ペプチド加水分解物を、Pisum sativum L種の植物抽出物より得る。もちろん、抽出物を、Pisum属に属する多くの変種、および種の少なくともいずれか一つの植物から調製してよい。 【0108】 最初の工程において、外皮除去したマメ1 kgを、有機溶媒:ヘキサンの作用により脱脂する。 【0109】 そして、得られたマメ粉末を、2 % POLYCLAR(登録商標)10 (ポリビニルピロリドン-PVPP-不溶性)の存在下で10倍容量の水の溶液中に入れる。混合物を、1M水酸化ナトリウム水溶液で、pH 6から7に調節する。 【0110】 pHの調節後、2%のflavourzyme(登録商標)を反応媒体に添加する。50°Cで2時間撹拌後、加水分解物を得る。その後、溶液を80°Cで2時間加熱することにより、酵素を不活性化する。そして得られた反応混合物は、マメ抽出物に相当する。Gly、Leuおよびグルタミン酸残基を含む、4個から6個のアミノ酸の生物学的活性ペプチドの富化を可能とするように、加水分解条件を選択した。 【0111】 加水分解粗精製プロセスは、明るく清澄な黄色溶液を得るために、(0.2μmまで)空隙率を減少させたSeitz-Orionフィルタープレートを使用する、連続的な濾過によりスタートする。この工程で、マメ加水分解物は、70から80 g/kgの乾燥抽出物、55から65 g/lのタンパク質レベル、および2から5 g/lの糖レベルを特徴とする。 【0112】 ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動により、この加水分解物のタンパク質特性を示す。この解析のために、NuPAGE(登録商標)ビストリスプレキャスト(Invitrogen)ゲルを使用する。マメペプチド加水分解物を、NuPAGE(登録商標) LDSサンプル調製バッファー中、還元変性条件下、70°Cで10分間加熱する。NuPAGE(登録商標)アンチオキシダント溶液を、内部タンク(陽極)に添加し、電気泳動中の還元タンパク質の再酸化を防止する。タンパク質移動を、分子量マーカーとして標準SeeBlue Plus2をとともに、NuPAGE(登録商標) MES移動バッファー中で実行する。タンパク質着色を、クーマシーブルー(登録商標) R-250を使用することにより実行する。これらの条件下で、2つの大きなタンパク質ファミリーが観察される:第一のファミリーは、25から20 kDaの分子量のタンパク質に相当し、最後のファミリーは、5 kDaより小さい分子量のタンパク質に相当する。 【0113】 その後溶液を、接線流体濾過を使用することにより、5kDaより大きい分子量を有するペプチドを除去し、精製する。 【0114】 このためにマメ加水分解物を、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 30 kDaを装着したPellicon(登録商標)サポートを通した圧力下でポンピングする。この第一の濾過物を、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 5 kDaを通じて濾過し、回収する。精製の最後に、明るくクリアな黄色-ベージュ色のマメペプチド加水分解物が得られる。それは、50から55 g/kgの乾燥抽出物、50から52 g/lのタンパク質含量を特徴とする。 【0115】 その後この溶液を、ChemStationソフトウェアにより稼動するHP1100装置を使用する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析する。マメ加水分解物の溶出中に使用するカラムは、Nucleosil(登録商標) 300-5 C4 MPN (125 x 4 mn) カラムである。このカラムにより(実施例1と同一の、適切な溶媒勾配で)0.2kDaから25kdaの分子量を有するタンパク質をクロマトグラフ化することが可能となる。これらのクロマトグラフィー条件下で、複数のペプチド画分を単離することができた。 【0116】 その後これらの多様な画分を、各ピーク由来のペプチドのアミノ酸含量を特異的に同定するために、マススペクトロメトリーにより解析する。配列解析もまた実行し、生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定する。HPLCにより得られたクロマトグラム(高圧液相におけるクロマトグラフィー)の例は、ペプチド加水分解物に相当するピークとして、図4に示される。 【0117】 本発明の活性成分のアミノ酸における組成物の決定もまた実行した。これは、アミノ酸加水分解およびPICT(フェニルイソチオシアネート)でのプレ誘導化を使用する高圧液相クロマトグラフィーにより同定して実行した。」 【図4】 シ 「 【0129】 実施例6:Saccharomyces cerevisiae酵母由来のペプチド加水分解物の調製 ペプチド加水分解物を、Saccharomyces cerevisiae種由来の酵母の抽出物から取得してよい。酵母を、その生育のために適した培地中で、特にラクトースの存在下で培養し、その後遠心してバイオマスを回収する。サッカロミセスバイオマスを、2 % POLYCLAR(登録商標)10 (ポリビニルピロリドン-PVPP-不溶性)および0.2%活性炭素の存在下で10倍容量の水の溶液中に入れる。混合物を、1M水酸化ナトリウム水溶液で、pH 6から7に調節する。 【0130】 pHの調節後、2%のパパインを反応媒体に添加する。55°Cで2時間撹拌後、加水分解物を得る。その後、溶液を80°Cで2時間加熱することにより、酵素を不活性化する。遠心後、サッカロミセス抽出物に相当する反応混合物が得られる。Gly、Leuおよびグルタミン酸残基を含む、4個から6個のアミノ酸の生物学的活性ペプチドの富化を可能とするように、加水分解条件を選択した。 【0131】 精製プロセスは、明るく清澄な溶液を得るために、(0.2μmまで)空隙率を減少させたSeitz-Orionフィルタープレートを使用する、連続的な濾過によりスタートする。この工程で、サッカロミセス抽出物は、25から35 g/kgの乾燥抽出物、10から15 g/lのタンパク質レベル、および5から10 g/lの糖レベルを特徴とする。 【0132】 ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動により、この抽出物のタンパク質特性を示す。この解析のために、NuPAGE(登録商標)ビストリスプレキャスト(Invitrogen)ゲルを使用する。ペプチド加水分解物を、NuPAGE(登録商標) LDSサンプル調製バッファー中、還元変性条件下、70°Cで10分間加熱する。NuPAGE(登録商標)アンチオキシダント溶液を、内部タンク(陽極)に添加し、電気泳動中の還元タンパク質の再酸化を防止する。タンパク質移動を、分子量マーカーとして標準SeeBlue Plus2をとともに、NuPAGE(登録商標) MES移動バッファーを使用して実行する。タンパク質着色を、クーマシーブルー(登録商標) R-250を使用することにより実行する。これらの条件下で、3つの大きなタンパク質ファミリーが観察される:第一のファミリーは、75 kDaより大きい分子量のタンパク質に相当し、第二のファミリーは、20から25 kDaの分子量のタンパク質に相当し、最後のファミリーは、5 kDaより小さい分子量のタンパク質に相当する。 【0133】 その後溶液を、接線流体濾過を使用することにより、5kDaより大きい分子量を有するペプチドを除去し、精製する。 【0134】 このためにサッカロミセスペプチド加水分解物を、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 50 kDaを装着したPellicon(登録商標)サポートを通した圧力下でポンピングする。この第一の濾過物を、Pellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 10 kDaを通じて濾過し、回収する。第二の濾過物を、最後のPellicon(登録商標) 2 Biomax cassette 5 kDaを通じて再度溶出し、回収する。精製の最後に、ベージュ色の明るくクリアなサッカロミセス植物抽出物が得られる。それは、35から45 g/kgの乾燥抽出物、30から40 g/lのタンパク質含量を特徴とする。 【0135】 その後この溶液を、ChemStationソフトウェアにより稼動するHP1100装置を使用する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析する。サッカロミセス加水分解物の溶出中に使用するカラムは、Nucleosil(登録商標) 300-5 C4 MPN (125 x 4 mn) カラムである。このカラムにより(実施例1と同一の、適切な溶媒勾配で)0.2kDaから25kdaの分子量を有するタンパク質をクロマトグラフ化することが可能となる。これらのクロマトグラフィー条件下で、複数のペプチド画分を単離することができた。 【0136】 その後これらの多様な画分を、各ピーク由来のペプチドのアミノ酸含量を特異的に同定するために、マススペクトロメトリーにより解析する。配列解析もまた実行し、生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定する。 【0137】 本発明の活性成分のアミノ酸における組成物の決定もまた実行した。これは、アミノ酸加水分解およびPICT(フェニルイソチオシアネート)でのプレ誘導化を使用する高圧液相クロマトグラフィーにより同定して実行した。」 【図6】 ス 「 【0138】 実施例7:実施例1による加水分解物により処理したヒトケラチノサイトにおけるラメラ体の超構造研究 この研究の目的は、超構造的な手法で、透過電子顕微鏡において、1%の実施例1による加水分解物により処理したヒトケラチノサイトを研究することである。 【0139】 プロトコール:培養中の正常ヒトケラチノサイトを、実施例1による1%加水分解物溶液で48時間処理する(活性成分が存在する培地を、24時間ごとに交換する)。細胞をPBS中で洗浄し、その後Karnosky高張固定(0.08 Mリン酸バッファー中の4%パラホルムアミド、5%グルタルアルデヒド)で、1時間周辺温度、その後4°Cで24時間固定する。細胞を、掻き取ることにより支持体から脱着させ、1000 rpmで5分間遠心する。上清を除去し、1Mカコジル酸ナトリウムバッファーで残余物を沈殿させる。細胞を2 %アガーと混合し、その後オスミウムテトラオキシドにより1時間、後固定する。その後試料を、連続して一連のアルコール(50%から100%)中に通過させることにより、脱水する。その後細胞を樹脂中で被覆する重合を、60°Cでおよそ12時間実行する。0.5 μmの半薄切片を、ウルトラミクロトームで作製する。切片を、熱結合スライドに置き、その後トルイジンブルーで着色する。その後スライドを、再び脱水し、適切な媒体中にマウントする。最適な研究ゾーンを選択したあと、ブロックを所望のサイズに再びカットし、超薄切片を作製し、銀灰色で適切なサイズの切片のみを、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛の両方でラベルした電子顕微鏡グリッド上にマウントし、60または80 KVで透過電子顕微鏡により試験する。 【0140】 結果:超構造研究により、コントロール細胞よりも、ゴルジ複合体が実質的により発達していることが示される。この増大は、脂質合成の増大の兆候であるラメラ体(またはOdland体)の過剰な生成に関連付けられる。 【0141】 結論:1%の実施例1による加水分解物は、正常ヒトケラチノサイトにおいて脂質合成の増大を誘導することができる。」 セ 「 【0142】 実施例8:実施例2による加水分解物により処理したヒト線維芽細胞における「カベオラ(caveolae)」の超構造研究 この研究の目的は、ヒト表皮線維芽細胞におけるカベオラを超構造レベルで研究することである。 【0143】 プロトコール:培養中の正常ヒト表皮線維芽細胞を、実施例2による加水分解物1%で48時間処理する(活性成分を含む培地を、24時間ごとに交換する)。 【0144】 結果:超構造研究により、非処理コントロール細胞に比較して、実施例2による加水分解物1%で処理した細胞のカベオラが顕著に増大していることが示される。カベオラは、コレステロールのような分子の外化を可能とする細胞膜の陥入であるため、これらの結果は、活性成分の陽性効果の兆候である。 【0145】 結論:1%の実施例2による加水分解物は、コレステロールの外化を伴う膜構造の増大をもたらす。」 ソ 「 【0146】 実施例9:実施例2による加水分解物により処理したヒトケラチノサイトの分化研究 この研究の目的は、表皮分化に対する、特に、ケラチノサイト分化マーカーである、全てのサイトケラチン(またはパンケラチン)の発現に対する、実施例による加水分解物の影響を決定することである。 【0147】 プロトコール:培養中の正常ヒトケラチノサイトを、実施例2による加水分解物1%で48時間処理する(活性成分が存在する培地を、24時間ごとに交換する)。その後細胞を洗浄し、4°Cで4分間、冷メタノールで固定する。細胞を、1:200の抗サイトパンケラチンモノクローナル抗体の存在下、周辺温度で1時間インキュベートし、その後蛍光染料「Alexa 488」と接合した1:50の2次抗体により、周辺温度で1時間、暴露する。その場の培地中にマウントした後、スライドを落射蛍光顕微鏡により観察する。 【0148】 結果:実施例2による加水分解物は、処理細胞でパンケラチンの発現を増大する。 【0149】 結論:1%の実施例2による加水分解物は、正常ヒトケラチノサイトにおいてサイトケラチンの発現を増大することができる。実施例2による加水分解物の存在下において、細胞は刺激され、分化の経路にある。」 タ 「 【0150】 実施例10:紫外線(UVB)照射された皮膚細胞に対する実施例2による加水分解物の保護効果の研究 この研究の目的は、UVB照射によるストレスに暴露された正常ヒトケラチノサイトに関連する、実施例2による加水分解物の保護効果を決定することである。このために、細胞の生存試験を、MTT技術により実行した。 【0151】 プロトコール:正常ヒトケラチノサイトを、実施例2による加水分解物0.5%で24時間処理し、UVB (50 mJ/cm^(2))により照射し、その後同じ濃度の実施例2による加水分解物の存在下で再び24時間培養する。非処理および非照射コントロールを、同じ条件で実行する。実験の最後に、細胞を0.1 mg/mlのMTT (3-[4, 5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2, 5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を含む溶液中でインキュベートする。この化合物は、生きた細胞により吸収され、ミトコンドリアの酵素により青紫色の化合物ホルマザンに代謝され、それは540 nmで吸光光度計によりアッセイされる。そして光学濃度(O.D.)は、ミトコンドリア酵素活性ならびに生きた細胞の数に直接比例する。 【0152】 結果:MTT技術による細胞生存度の評価により、実施例2による加水分解物が、UVB照射後の細胞生存度を16%増大させることが示される。 【0153】 結論:0.5%の実施例2による加水分解物は、UVB照射の細胞毒性効果から皮膚細胞を効果的に保護し、細胞の生存度を増大させる。」 チ 「 【0154】 実施例11:実施例1による加水分解物の存在下における皮膚生検中のHMG-CoAレダクターゼの発現の研究 この研究の目的は、0.5%の実施例1による加水分解物の、HMG-CoAレダクターゼの発現に対する影響を決定することである。 【0155】 プロトコール:ヒト皮膚のサンプルを、空気/液体界面の培養中に設置する。0.5%の実施例1による加水分解物を、局所的に適用し、その後サンプルを24時間または48時間インキュベートする。 【0156】 その後これらの皮膚サンプルをホルムアルデヒドで固定し、その後パラフィンで封入する。その後2から3 μmの切片を作成する。マイクロウェーブ処理による特異的部位のアンマスキング後に免疫標識を行い、その後トリプシン中でインキュベートする。HMG-CoAレダクターゼに特異的なラビットポリクローナル抗体(Millipore, Upstate)、および蛍光染料に接合した二次抗体を使用して、免疫標識を実行する。 【0157】 結果:顕微鏡観察により、非処理コントロールに比較して、表皮の上層において、0.5%の実施例1による加水分解物により処理した皮膚において、より強い蛍光が示される。 【0158】 結論:実施例1による加水分解物は、表皮の上層においてHMG-CoAレダクターゼの発現を刺激する。」 ツ 「 【0159】 実施例12:実施例2による加水分解物の存在下における正常ヒトケラチノサイト中のHMG-CoAレダクターゼの発現の研究 この研究の目的は、正常ヒトケラチノサイト中における、実施例2による加水分解物の、HMG-CoAレダクターゼの発現に対する影響を決定することである。 【0160】 プロトコール:培養物中の正常ヒトケラチノサイトを、0.5%の実施例2による加水分解物で24時間または48時間処理する(活性成分が存在する培地を、24時間ごとに交換する)。その後細胞を洗浄し、4°Cで4分間、冷メタノールで固定する。細胞を、HMG-CoAレダクターゼに特異的なラビットポリクローナル抗体(Millipore, Upstate) 、その後蛍光染料に接合した二次抗体の存在下でインキュベートする。その後細胞を、落射蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse E600顕微鏡)により試験する。 【0161】 結果:顕微鏡観察により、0.5%の実施例2による加水分解物により処理した細胞において、より強い細胞質蛍光が示される。 【0162】 結論:0.5%の実施例2による加水分解物は、正常ヒトケラチノサイトにおいてHMG-CoAレダクターゼの発現を刺激する。」 (3)本願発明1について ア 本願発明1は、 「表皮のバリア機能を強化するための化粧用途用の、生物学的活性ペプチドに富むペプチド加水分解物を含む組成物であって、前記ペプチド加水分解物が、ヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)、マメ(ピサム・サティバム)の中から選択される植物の加水分解、又はサッカロミセス属の酵母の加水分解に由来し、前記生物学的活性ペプチドが、配列: (配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Ser のペプチドであることを特徴とする組成物。」 であるから、本願の発明の詳細な説明の記載が本願発明1について上記「(1) (i)ないし(iii)」を満たすためには、 (i) 植物であるヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)及びマメ(ピサム・サティバム)の加水分解、並びに、サッカロミセス属の酵母の加水分解に由来するペプチドが、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを含むことが読み取れること、 (ii) 植物であるヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)及びマメ(ピサム・サティバム)の加水分解、並びに、サッカロミセス属の酵母の加水分解により、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドが得られるように記載されていること、 (iii) ペプチド加水分解物が配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを有し、このペプチドが表皮のバリア機能を強化するための化粧用途として生物学的活性を有すると解される記載がなされていること、 を満たすものでなければならない。 イ (i)について 本願の発明の詳細な説明には、「(2)ウ」に摘記したように、実施態様の特に好ましい方法によると、生物学的活性ペプチドは、配列:(配列番号1) Ala-Glu-Gly-Leu-Ser-Ile、(配列番号2) Leu-Gly-Glu-Ser-Leu、(配列番号3) Val-Gly-Glu-Leu-Thr、(配列番号4) Ile-Gly-Glu-Leu-Ser、(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Ser、(配列番号6) Gly-Glu-Leu-Thr-Ile、(配列番号7) Gly-Glu-Leu-Serを有すること、特に興味深い実施態様によると、生物学的に活性なペプチドは、配列番号5の配列に相当すること、好ましい実施態様によれば、活性成分は、ヒトツブコムギ、ジャガイモ、トウモロコシ、マメ、ダイズの中から選択される植物タンパク質又はSaccharomyces属由来の酵母タンパク質の加水分解物に由来することが記載されている。 しかしながら、生物学的活性ペプチドの配列とその由来となるタンパク質との対応関係は示されていない。 また、上記の植物タンパク質及び酵母タンパク質の全ての加水分解物のそれぞれに、配列番号1ないし7の全てのペプチドが含まれているとも記載されていない。 本願の発明の詳細な説明には、「(2)ク」に摘記したように、実施例1としてヒトツブコムギ(Triticum monococcum)からのペプチド加水分解物の調製に関する記載があり、得られたペプチド加水分解物をHPLCにより解析して図1のクロマトグラムが得られたこと、各ピーク由来のペプチドのアミノ酸含有量をマススペクトロメトリーで解析したこと、配列解析を実行し生物学的活性ペプチドのペプチド配列を決定したこと、活性成分のアミノ酸における組成物を決定したことが記載されている。 しかしながら、解析結果については、加水分解物のアミノ酸組成物の%が【表1】に示されているのみであり、配列解析により決定された配列については何ら記載されていない。 また、「(2)ケ」ないし「(2)シ」に摘記したように、実施例2としてSolanum tuberosum種に属する塊茎由来のペプチド加水分解物の調製、実施例3としてトウモロコシ胚ケーキ(Zea mays L.)由来のペプチド加水分解物の調製、実施例4としてマメ(Pisum sativum L.)由来のペプチド加水分解物の調製、及び実施例6としてSaccharomyces cerevisiae酵母由来のペプチド加水分解物の調製に関する記載があるが、実施例1のヒトツブコムギ(Triticum monococcum)からのペプチド加水分解物の調製と同様に、配列解析により決定された配列については何ら記載されていない。 してみると、本願の発明の詳細な説明の記載からは、植物であるヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)及びマメ(ピサム・サティバム)の加水分解、並びに、サッカロミセス属の酵母の加水分解に由来するペプチドが、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを含むことを読み取ることはできないといわざるを得ない。 よって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1について明確に説明されているとはいえない。 ウ (ii)について 上記イで説示したように、本願の発明の詳細な説明の記載からは、植物であるヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)及びマメ(ピサム・サティバム)の加水分解、並びに、サッカロミセス属の酵母の加水分解に由来するペプチドが、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを含むことを読み取ることはできないのであるから、本願の発明の詳細な説明は、植物であるヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)及びマメ(ピサム・サティバム)の加水分解、並びに、サッカロミセス属の酵母の加水分解により、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドが得られるように記載されているとはいえない。 よって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1を作れるように記載されているとはいえない。 エ (iii)について 本願の発明の詳細な説明には、実施例1による加水分解物の効果を示す実施例として、「(2)ス」に摘記したように、実施例7として、実施例1による加水分解物により処理したヒトケラチノサイトにおけるラメラ体の超構造研究についての記載があり、実施例1による加水分解物により処理した細胞はコントロール細胞よりもゴルジ複合体が実質的により発達し、実施例1による加水分解物は脂質合成の増大を誘導することができる旨記載され、「(2)チ」に摘記したように、実施例11として、実施例1による加水分解物の存在下における皮膚生検中のHMG-CoAレダクターゼの発現の研究についての記載があり、実施例1による加水分解物は表皮の上層においてHMG-CoAレダクターゼの発現を刺激する旨記載されている。 また、本願の発明の詳細な説明には、実施例2による加水分解物の効果を示す実施例として、「(2)セ」に摘記したように、実施例8として、実施例2による加水分解物により処理したヒト線維芽細胞における「カベオラ(caveolae)」の超構造研究についての記載があり、実施例2による加水分解物により処理した細胞はコントロール細胞よりもカベオラが顕著に増大し、実施例2による加水分解物はコレステロールの外化を伴う膜構造の増大をもたらすことができる旨記載され、「(2)ソ」に摘記したように、実施例9として、実施例2による加水分解物により処理したヒトケラチノサイトの分化研究についての記載があり、実施例2による加水分解物はサイトケラチン(パンケラチン)の発現を増大し、細胞を刺激して分化させる旨記載され、「(2)タ」に摘記したように、実施例10として、紫外線(UVB)照射された皮膚細胞に対する実施例2による加水分解物の保護効果の研究についての記載があり、実施例2による加水分解物により処理した細胞はコントロール細胞よりもUVB照射後の細胞生存度が増大し、実施例2による加水分解物は、UVB照射の細胞毒性効果から皮膚細胞を効果的に保護し、細胞の生存度を増大させる旨記載され、「(2)ツ」に摘記したように、実施例12として、実施例2による加水分解物の存在下における正常ヒトケラチノサイト中のHMG-CoAレダクターゼの発現の研究についての記載があり、実施例2による加水分解物は正常ヒトケラチノサイトにおいてHMG-CoAレダクターゼの発現を刺激する旨記載されている。 これら実施例7ないし12の記載から、実施例1のヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)由来のペプチド加水分解物の全体、及び実施例2のジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)由来のペプチド加水分解物の全体が、表皮のバリア機能を強化する生物学的活性を有することは認識できる。 しかしながら、ヒトツブコムギ加水分解物のHPLCクロマトグラムを表す図1、及びジャガイモ加水分解物のHPLCクロマトグラムを表す図2に複数のピークが存在することが示されていることから、実施例1の加水分解物及び実施例2の加水分解物は、複数種類のペプチドを包含するものと認められる。そのため、実施例7ないし12で示される効果は、実施例1及び2の加水分解物に含まれる複数のペプチドのうち、いずれのペプチドによりもたらされるものであるのか、複数種のペプチドの相互作用によりもたらされるものであるのかは、不明であるといわざるを得ない。 しかも、上記イで説示したように、実施例1のヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)及び実施例2のジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)の加水分解に由来するペプチドが、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを含むことを読み取ることはできないのであるから、実施例7ないし12は、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドが表皮のバリア機能を強化する生物学的活性を有することを裏付ける実施例とはいえない。 さらに、本願の発明の詳細な説明には、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)、マメ(ピサム・サティバム)、及びサッカロミセス属の酵母の加水分解物の効果を示す実施例は記載されていない。 加えて、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドが、表皮のバリア機能を強化するための化粧用途として生物学的活性を有すると解される記載を、他のいかなる発明の詳細な説明からも見いだすことができない。 よって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1を使用できるように記載されているとはいえない。 オ 小括 以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 (4)本願発明2について 本願発明2は、本願発明1に対してペプチド加水分解物がサッカロミセス・セレビシエ種の酵母の加水分解に由来することを特定するものであるが、上記(3)で検討したように、本願の発明の詳細な説明の記載からは、サッカロミセス・セレビシエ種を含むサッカロミセス属の酵母の加水分解に由来するペプチドが、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを含むことを読み取ることはできない。 よって、本願発明1と同様の理由により、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 (5)本願発明3ないし14について 本願発明1又は2を引用して特定される本願発明3ないし14についても、本願発明1と同様の理由により、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明3ないし14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たすか否かは、請求項に係る発明と発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比し、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを検討して判断すべきものである。 本願の発明の詳細な説明の記載からみて、本願発明が解決しようとする課題は、表皮のバリア機能を強化するための化粧用途として生物学的活性を有するペプチドに富むペプチド加水分解物を提供すること(上記「1(2)イ」参照。)である。 上記「1(3)エ」で検討したように、本願の発明の詳細な説明の記載から、ヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)由来のペプチド加水分解物の全体、及びジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)由来のペプチド加水分解物の全体が、表皮のバリア機能を強化する生物学的活性を有することが認識できるから、ヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)由来のペプチド加水分解物の全体、及びジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)由来のペプチド加水分解物の全体は、発明の詳細な説明に発明として記載されたものと認められる。 しかしながら、上記「1(3)イ」で検討したように、本願の発明の詳細な説明の記載からは、植物であるヒトツブコムギ(トリチカム・モノコカム)、ジャガイモ(ソラナム・テュベロサム)、トウモロコシ(ズィー・マイズL.)及びマメ(ピサム・サティバム)の加水分解、並びに、サッカロミセス属の酵母の加水分解に由来するペプチドが、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドを含むことは認識できず、さらに、上記「1(3)エ」で検討したように、本願の発明の詳細な説明の記載からは、配列:(配列番号5) Ala-Gly-Glu-Leu-Serのペプチドが表皮のバリア機能を強化するための化粧用途として生物学的活性を有することは認識できない。 してみると、本願発明と発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しているとはいえず、本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものといわざるを得ない。 3 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、 「 本願明細書の図1から4及び6のピーク間の対応関係、ならびに配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、当業者が理解できる程度に明確に発明の詳細な説明に記載されていると思料致します。本願明細書には、最も好ましい生物学的に活性なペプチドが、配列番号5の配列に相当することが記載されております(段落0022)。 そして、本願明細書の図1から4及び6に対応する各実施例に対して、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により得られるクロマトグラムにより(矢印で示される)生物学的に活性なペプチドに対応する特定の「ピーク」が同定されていることも明確であります(段落0071、ならびに図1から4に対して、それぞれ段落0079、0091、0103及び0116)。 以上より、(図1から4及び6に矢印で示されるピークに対応する)生物学的に活性なペプチドが、本願発明の配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであることは明確であります。 ・・・ そして、本願明細書の記載より、図1から4及び6に示される各加水分解物が、少なくとも配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる生物学的に活性なペプチドを含むことは明らかであります(段落0080等)。 また本願明細書の実施例7から12の記載より、(それぞれ実施例1及び2に対応する)ヒトツブコムギ及びジャガイモ由来の加水分解物が、表皮のバリア機能を強化する所望の活性を有することも明らかであります。 以上より、本願明細書図1から4及び6に矢印で示されるピークが配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対応すること、ならびに配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが実際に表皮のバリア機能を強化することは、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて当業者が明確に理解できたものであります。 従って、本願発明は、当業者が実施できる程度に十分かつ明確に発明の詳細な説明に記載されており、かつ十分に発明の詳細な説明に記載されており、該拒絶理由に該当しないと思料致します。」 と主張している。 しかしながら、本願明細書の段落【0022】に「特に興味深い実施態様によると、生物学的に活性なペプチドは、配列番号5の配列に相当する。」と記載されているものの、「興味深い」ことの具体的内容に関する記載はなく、図1ないし4及び6に記載された矢印の意味を説明する記載もないことから、発明の詳細な説明の記載からは、図1ないし4及び6に矢印で示されるピークが配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに対応すること、及び、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが表皮のバリア機能を強化する所望の活性を有することを認識することはできない。 この点について、平成28年10月18日から同年12月22日にかけて行われた電話応対において、当審から請求人に対して図1ないし4及び6に矢印で示されるピークが配列番号5のアミノ酸配列Ala-Gly-Glu-Leu-Serからなるペプチドに対応するものであることを示すデータの提出を求めたが、請求人から提出されたデータは、Saccharomyces cerevisiae種の酵母由来の加水分解物がアミノ酸配列Ala-Gly-Glu-Leu-Ser又はAla-Gly-Glu-Ile-Serのペプチドを含むことを示すにとどまり、図1ないし4及び6に矢印で示されるピークが配列番号5のアミノ酸配列Ala-Gly-Glu-Leu-Serからなるペプチドに対応するものであることを示すデータは提出されなかった。 よって、請求人の上記主張は採用することができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、請求項1ないし14に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、請求項1ないし14に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものでないから同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-18 |
結審通知日 | 2017-01-23 |
審決日 | 2017-02-03 |
出願番号 | 特願2012-505195(P2012-505195) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹内 祐樹 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
関 美祝 渡戸 正義 |
発明の名称 | バリア機能を強化することができるペプチド加水分解物を含む化粧品および/または医薬組成物 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 阿部 達彦 |