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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1329764
審判番号 不服2015-13649  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-17 
確定日 2017-07-11 
事件の表示 特願2012- 86301「ナノコンポジット熱電変換材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開,特開2013-219105,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年4月5日の出願であって,平成26年12月5日付けで拒絶理由通知がされ,平成27年2月3日に意見書と手続補正書が提出され,同年4月15日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成27年7月17日に拒絶査定不服審判の請求がされ,平成29年1月27日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,同年3月30日に意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成27年4月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願については,平成26年12月 5日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項 1,2
・引用文献等 2,3
引用文献2(段落[0014]-[0034],図1)には,Bi,Sb,Te,Seのうち任意の2種以上の元素から成る熱電変換材料から成る母材中に,粒径数nm?数十nm程度の不活性超微粒子(本願の「フォノン散乱粒子」に相当)が分散しているナノコンポジット熱電変換材料において,不活性超微粒子は母材と反応しない材料で構成され,不活性超微粒子は母材の粒子間に存在することにより母材同士の結晶化が防止されたナノコンポジット熱電変換材料が記載されている。すなわち,引用文献2には,隣り合って存在する母材の粒子の間に,不活性超微粒子が存在することにより,不活性超微粒子を挟んで存在する複数の母材粒子同士が合体しない旨が記載されている。
引用文献2に記載された不活性超微粒子は母材の結晶粒界にのみ存在しているか不明であるが,引用文献3(段落[0016])には,粒界に分散されていた介在物が結晶粒内に移動すると熱電特性の低下をもたらすので好ましくないため,結晶粒内に移動しないような焼結条件とすることが記載されている。そして,引用文献2に記載された発明において,熱電特性の低下を防ぐために,引用文献3に記載された技術思想を採用して,不活性超微粒子が母相の結晶粒内に移動しないように焼結条件等を好適化することは,当業者が適宜なし得る事項である。
請求項2について,引用文献3(段落[0011])には,前記介在物(フォノン散乱粒子)の含有量として本願の数値範囲と重なる数値が記載されているものと認められる。また,フォノン散乱粒子の含有量をどの程度とするかは,得たい熱電特性等に応じて当業者が適宜設計し得る事項である。

・請求項 3
・引用文献等 2-4
引用文献4(段落[0022]-[0027])には,性能指数ZTを高めるためには,フォノン散乱粒子同士の間隔を10nm以上とすることが記載されている。そして,引用文献2に記載された発明において,性能指数ZTを高めるためには,フォノン散乱粒子同士の間隔を10nm以上とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

出願人は,意見書において,「引用文献3では,熱電特性について,電気抵抗ρと熱伝導度κを同時に小さくするのは非常に難しい(0009)と記載しており,粒界の増大,さらには介在物の粒界分散によるフォノン散乱が熱伝導度を低減させる有効な方法である(0013)と記載していますが,電気抵抗ρを維持する(増加させない)ことについては一切記載または示唆していません。」と主張している。
しかしながら,引用文献3の段落[0009]に,「…ρとκを同時に小さくするのは非常に難しい。したがって,少なくともいずれか一方を制御することにより,高い性能指数を得ることができる。…特に熱電材料の熱伝導度κを小さくすることにより,高い熱電特性をもつ熱電材料を製造する方法を提供するものである。」と記載されているように,引用文献3には,フォノン散乱に有効な超微細な介在物の粒界への分散により(段落[0014]参照)熱伝導度κを小さくすることが記載されている。また,引用文献3の段落[0016]の「粒界に分散されていた介在物が結晶粒内へ移動し,熱電特性の低下をもたらす」との記載は,熱電特性を表す性能指数Zが電気比抵抗ρに反比例すること(段落[0009]参照)と,ZrO_(2)はBi-Sb-Teに対して不活性である(拡散等や反応が少ない)という技術常識(拡散や反応による大きなαの低下はないと考えられること)とから,介在物が結晶粒内へ移動が電気比抵抗ρの増大をもたらすものと当業者が理解し得る記載であると認められる。さらに,引用文献3の表1には,ジルコニアボール等からZrO_(2)を供給して超微細なZrO_(2)介在物を粒界に分散させた実施例(表1上段)の比抵抗が1.660×10^(-3)Ωcm(すなわち電気伝導率が60240 S/m)であり,ZrO_(2)介在物がない比較例(表1下段)の比抵抗が1.534×10^(-3)Ωcm(すなわち電気伝導率が65189 S/m)であることが記載されている。すなわち,引用文献3には,介在物がある物の電気伝導率は介在物が無い物の電気伝導率の92%程度であることが記載されている。これは,本願明細書の段落[0037]の表1に記載された実施例の電気伝導率が無添加の比較例の電気伝導率の90%であるのと同程度である。
したがって,出願人の主張する「電気抵抗ρを維持する(増加させない)こと」という効果は引用文献3や技術常識から予測し得る程度のものであるから,その点に進歩性を見出すことはできない。

以上のとおりであるから,請求項1-3について,前記理由2は依然として解消していない。

<引用文献等一覧>
2.特開平10-242535号公報
3.特開2001-223395号公報
4.特開2008-305919号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 この出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号,第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能性)について
ア 「のみ」について
請求項1及び請求項1を引用する請求項は,「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在すること」を発明特定事項とする発明である。
しかしながら,本願の発明の詳細な説明は,「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在する」ナノコンポジット熱電変換材料を作製することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。

すなわち,本願の発明の詳細な説明の【0035】には,「<顕微鏡組織の観察>実施例で作製したサンプルの組織をTEM観察した。図2に熱処理温度に対してTEM組織を示す。熱処理温度が300℃の場合は,結晶粒内と結晶粒界の両方にシリカ粒子(黒い斑点)が存在することが認められた。これに対し,熱処理温度が370℃および470℃の場合は,結晶粒界のみにシリカ粒子が存在することが認められた。」と記載されている。
そして,「TEM」とは,透過型電子顕微鏡のことであり,薄片化(例えば,100nm以下)した試料に対し,電子線を照射し,前記試料を透過した電子を用いて観察をする方法である。
そうすると,前記発明の詳細な説明の記載は,熱処理温度が370℃および470℃である実施例のサンプルの特定の位置から切り出された薄片状の試料に対して,電子を照射し,当該試料を透過する電子を用いて観察して,当該薄片に含まれるシリカ粒子が,結晶粒界のみに存在することを確認したものと理解される。
しかしながら,本願発明において,ナノコンポジット熱電変換材料が,「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在する」ものであるためには,サンプルに含まれる「全て」のフォノン散乱粒子が,「熱電変換材料の結晶粒界にのみ」存在することを,具体的に確認することを要するものといえる。
そうすると,「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在する」ことを知るためには,実施例のサンプルの特定の位置から切り出された薄片状の試料を観察して,当該薄片に含まれるシリカ粒子が,結晶粒界のみに存在することを確認するだけでは十分ではなく,当該サンプルにおいて,切り出された薄片状の試料の観察面から,垂直な方向に離れた位置に存在するフォノン散乱粒子,すなわち,前記薄片状の試料に含まれない,当該サンプルに含まれる全てのシリカ粒子についても,「熱電変換材料の結晶粒界にのみ」存在することを知る必要があるところ,本願の発明の詳細な説明には,全てのシリカ粒子が,熱電変換材料の結晶粒界にのみ存在することを確認する方法が記載されておらず,また,出願時の技術常識から当該確認方法が明らかであるとも認められない。
したがって,本願の発明の詳細な説明は,「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在する」ナノコンポジット熱電変換材料を作製することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。

イ 「ナノサイズ」について
発明の詳細な説明には,粒径が5nmのSiO_(2)を用いた場合に,結晶粒界のみにシリカ粒子が存在することが認められたとする製造方法が記載されている。
一方,本願発明は,「ナノサイズのフォノン散乱粒子」を発明特定事項とするから,フォノン散乱粒子は,少なくとも,粒径が1nmである場合,及び,粒径が100nmである場合を含むといえる。
そして,フォノン散乱粒子が,熱電変換材料の結晶の粒内から粒界へと押し出される際に,当該フォノン散乱粒子の粒径の違いによって,前記粒内から粒界への押し出され易さが異なることは明らかと認められるところ,本願の発明の詳細な説明には,前記フォノン散乱粒子の粒径が,本願の実施例における,5nmとは異なる場合において,製造方法をどのように変更することによって,「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在する」ことを可能とすることができるかについて,何らの記載も示唆も認められない。
そうすると,フォノン散乱粒子の粒径が,ナノサイズであるとする,本願の請求項の記載によって特許を請求しようとする範囲の全てについて,過度の試行錯誤を要することなく当業者が発明を実施することができる程度に,発明の詳細な説明の記載が,明確かつ十分なものであるとは認められない。

ウ 「1?30vol%」について
発明の詳細な説明には,「図2に熱処理温度に対してTEM組織を示す。・・・いずれも,シリカ粒子の含有量は6.7vol%であった。」と記載されている。
しかしながら,図2から,どのようにして,「シリカ粒子の含有量」を「6.7vol%」と算出することができるのか,具体的な算出方法が明らかでなく,また,出願時の技術常識であったとも認められない。
したがって,本願の発明の詳細な説明に基づいて,「シリカ粒子の含有量」を算出することができたとはいえないから,本願の発明の詳細な説明は,本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認めることはできない。

加えて,発明の詳細な説明には,シリカ粒子の含有量が6.7vol%であったとする製造方法が記載されている。
一方,請求項2は,「熱電変換材料マトリクス中のフォノン散乱粒子の含有量は,1?30vol%とすること」を発明特定事項とするから,フォノン散乱粒子の含有量が,30vol%である場合を含むといえる。
そして,フォノン散乱粒子が,熱電変換材料の結晶の粒内から粒界へと押し出される際に,当該フォノン散乱粒子の含有量の違いによって,前記粒内から粒界への押し出され易さが異なることは明らかと認められるところ,本願の発明の詳細な説明には,前記フォノン散乱粒子の含有量が,30vol%である場合に,シリカ粒子の含有量が6.7vol%であったとする場合の製造方法に対して,どのような条件をどのように変更することで,熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在するように製造することができるかについて,何らの記載も示唆もされていない。
そうすると,フォノン散乱粒子の含有量が,1?30vol%であるとする範囲の全てについて,本願の発明の詳細な説明に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく当業者が発明を実施することができるとは認められない。

ウ 「フォノン散乱粒子同士の間隔が5nm以上」について
発明の詳細な説明には,フォノン散乱粒子同士の間隔を調整する方法が記載されていない。
また,発明の詳細な説明の実施例で作製したサンプルの,フォノン散乱粒子同士の間隔の値も明らかでない。
したがって,本願の発明の詳細な説明に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,「フォノン散乱粒子同士の間隔が5nm以上」とする本願発明を,当業者が実施することができるとは認められない。

加えて,発明の詳細な説明には,「フォノン散乱粒子同士の間隔」を測定する方法が記載されていない。
「フォノン散乱粒子同士の間隔」が,「5nm以上」であるという本願発明の発明特定事項を満たすことを確認するためには,本願の図2に示されるような,サンプルの一断面におけるフォノン散乱粒子同士の間隔だけではなく,ナノコンポジット熱電変換材料に含まれる全てのフォノン散乱粒子の三次元的な位置と,それぞれのフォノン散乱粒子の形状を明らかとした後に,隣接するフォノン散乱粒子の最近接箇所同士の距離を算出する必要があるところ,発明の詳細な説明には,当該算出を可能とする方法が記載されておらず,また,本願の出願時において周知であったとも認められない。
したがって,当業者が本願発明を実施することができない。

(2)特許法第36条第6項第2号(発明の明確性)について
請求項1に記載された発明の発明特定事項である「ナノサイズ」及び「フォノン散乱粒子」の定義が明確でない。したがって,前記「ナノサイズ」及び「フォノン散乱粒子」を含む請求項1及び請求項1を引用する請求項に係る発明は明確でない。
すなわち,「ナノサイズ」という発明特定事項によって特定されるフォノン散乱粒子のサイズに係る数値範囲の上限及び下限が明確でない。(仮に,【0017】の記載から,「ナノサイズ」を「1?100nm程度」と解したとしても,当該「1?100nm程度」という記載における「程度」という用語の使用は,特許を受けようとする発明の範囲を不明確とするものである。)
さらに,前記「ナノサイズ」によって特定される数値範囲が,本願発明に係るナノコンポジット熱電変換材料に含まれるフォノン散乱粒子のサイズの算術平均を特定しようとするものなのか,中央値を特定しようとするものなのか,あるいは,本願発明に係るナノコンポジット熱電変換材料に含まれるフォノン散乱粒子の全てが前記「ナノサイズ」の数値範囲内に含まれるものであることを特定しようとするものであるか等について,明確に把握することができない。
また,本願の【0016】には「マトリクス中に分散するフォノン散乱粒子については,組成を特に限定する必要はないが,典型的にはセラミックス粒子であり,例えばSiO_(2),TiO_(2),ZrO,MgO,Al_(2)O_(3),希土類酸化物等である。」と記載されているが,「フォノン散乱粒子」として,SiO_(2),TiO_(2),ZrO,MgO,Al_(2)O_(3),希土類酸化物等のセラミックス粒子以外に,どのようなものまで含まれるか,その外延が明らかでない。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本願の請求項1-3には,以下の発明が記載されている。
【請求項1】
Bi,Sb,Te,Seのうち任意の2種以上の元素から成る熱電変換材料から成るマトリクス中に,ナノサイズのフォノン散乱粒子が分散しているナノコンポジット熱電変換材料において,
熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在することを特徴とするナノコンポジット熱電変換材料。
【請求項2】
請求項1において,熱電変換材料マトリクス中のフォノン散乱粒子の含有量は,1?30vol%とすることを特徴とするナノコンポジット熱電変換材料。
【請求項3】
請求項1または2において,フォノン散乱粒子同士の間隔が5nm以上であることを特徴とするナノコンポジット熱電変換材料。」

すなわち,本願の請求項1-3に記載された発明は,フォノン散乱粒子を,例えば,30vol%含有する場合を含むものである。

一方,発明の詳細な説明には,「【発明が解決しようとする課題】本発明は,熱電変換材料マトリクス中にナノサイズのフォノン散乱粒子を分散させて熱伝導率を低減しつつ,高い電気伝導率を確保することにより,高い熱電性能を有するナノコンポジット熱電変換材料を提供することを目的とする。」と記載されており,熱伝導率を低減しつつ,高い電気伝導率を確保することが,発明が解決しようとする課題であると理解される。
そして,発明の詳細な説明には,粒径5nmのシリカを,結晶粒界のみに,6.7vol%含有するナノコンポジット熱電変換材料の電気伝導率が,比較例(シリカ無添加)の場合に対し,90%の電気伝導率であることが示されている。

しかしながら,ナノサイズのフォノン散乱粒子を結晶粒界のみに偏在させる本願発明において,当該ナノサイズのフォノン散乱粒子の含有量が増えるに従って,前記結晶粒界におけるフォノン散乱粒子同士の間隔が狭まることは自明であるから,フォノン散乱粒子の含有量が,例えば,30vol%である場合には,前記ナノサイズのフォノン散乱粒子は,結晶粒界に密に存在することになり,電気伝導率は極端に低下するものと認められる。
そうすると,フォノン散乱粒子を,例えば,30vol%含有する場合を含む,請求項1-3に係る発明の範囲まで,「高い電気伝導率を確保する」という効果を奏するとは,本願の発明の詳細な説明の記載からは認めることができない。

すなわち,出願時の技術常識に照らしても,請求項1-3に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって,本願の請求項1-3に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

2 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
3 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-3
・理由 2,3
・引用文献1

・備考
引例1の図3及び【0002】-【0008】の記載を参照されたい。
引例1に【従来の技術】として示された熱電材料は,本願のナノコンポジット熱電変換材料である。
すなわち,引例1の「『熱電材料における熱伝導の主要因であるフォノンを散乱させて,熱伝導率κを低減することができる』(【0003】)『熱電材料の母材と反応しない粒径数nm?数十nmの超微粒子(不活性超微粒子)』(【0003】)」は,本願発明の「ナノサイズのフォノン散乱粒子」に相当する。
してみれば,引例1に記載された「図3に示すように出発原料の粒子101同士が接触すると共に粒子101間の隙間に不活性超微粒子102が存在する状態」(【0007】),すなわち,「不活性超微粒子102が分散されることはないので,焼結後の熱電材料は巨大な結晶粒の隙間に微小な不活性超微粒子102が位置した状態」(【0008】)は,本願発明の「熱電変換材料の結晶粒界にのみフォノン散乱粒子が存在する」状態を表しているものと理解できる。
加えて,引例1の図3の記載も,前記理解に沿ったものと認められる。
そして,引例1の図3及び【0002】-【0008】には,熱電材料の粒子の組成が明記されていないが,引例1の【0022】,【0027】等の記載を参酌すれば,引例1の【従来の技術】として示された熱電材料の粒子の組成は,「Bi,Sb,Te,Seのうち任意の2種以上の元素から成る熱電変換材料」を含むものと解されるから,引例1の図3及び【0002】-【0008】に,熱電材料の粒子の組成が明記されていない点は,実質的な相違点とは認められない。
したがって,引例1には,本願発明が記載されていると認められる。
また,仮に,相違点が存在したとしても,当該相違点について本願発明の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことであり,当該構成を採用したことによる効果は格別のものとは認められない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平10-242535号公報

第4 当審拒絶理由について
1 記載要件について
(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能性)について
当審では,請求項1-3の「のみ」,「ナノサイズ」,「1?30vol%」,「フォノン散乱粒子同士の間隔が5nm以上」が明確でないから,本願の発明の詳細な説明は,本願発明に係るナノコンポジット熱電変換材料を作製することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。との拒絶の理由を通知しているが,平成29年3月30日付けの補正において,「粒径5nmのシリカ」を用いた,具体的な「ナノコンポジット熱電変換材料の製造方法」に補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(2)特許法第36条第6項第2号(発明の明確性)について
当審では,請求項1-3の「ナノサイズ」及び「フォノン散乱粒子」の定義が明確でない。との拒絶の理由を通知しているが,平成29年3月30日付けの補正において,「粒径5nmのシリカ」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
当審では,請求項1-3の「フォノン散乱粒子を,例えば,30vol%含有する場合を含む,請求項1-3に係る発明の範囲まで,『高い電気伝導率を確保する』という効果を奏するとは,本願の発明の詳細な説明の記載からは認めることができない。」という点は,発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年3月30日付けの補正において,補正前の「ナノコンポジット熱電変換材料」から,「ナノコンポジット熱電変換材料の製造方法」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

2 新規性進歩性について
(1)本願発明
本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,平成29年3月30日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
塩化ビスマス,塩化テルル,及び粒径5nmのシリカのスラリーをエタノール中に溶解させて原料溶液を得ること,
水酸化ホウ素ナトリウムをエタノールに溶解させて還元剤溶液を得ること,
前記原料溶液を攪拌しながら前記還元剤を滴下して,Bi粒子及びTe粒子を生成させ,シリカ粒子との粒子混合物スラリーを得ること,
前記粒子混合物スラリーをエタノールと混合し,水熱処理を施して,BiTe合金粒子とシリカ粒子との混合粉末を得ること,及び
前記混合粉末を圧粉成形し,次いで,370?470℃で熱処理し自然冷却した後,さらに焼結すること,
を含む,
ナノコンポジット熱電変換材料の製造方法。」

(2)引用文献記載事項,及び,引用発明
平成29年1月27日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。以下同じ。)
「【0002】
【従来の技術】熱電材料の電気的性能は性能指数Zにより示される。この性能指数Zは,数式1に示すように材料の熱伝導率κ,電気抵抗率ρ,ゼーベック係数αの3つの物性値で決定される。
【0003】
【数1】Z=α^(2)/(ρ×κ)
この性能指数Zが大きいほど熱電材料として高性能である。このため,性能指数Zを向上させる手段の1つとして材料の熱伝導率κを低減することが望まれる。すなわち,熱電材料は温度差により発電するものなので,熱伝導率κが低い程,温度差を生じ易いということになる。
【0004】材料の熱伝導率κを低減するために,熱電材料の出発原料の粒子に熱電材料の母材と反応しない粒径数nm?数十nmの超微粒子(不活性超微粒子)を添加することがある。これにより,不活性超微粒子が熱電材料における熱伝導の主要因であるフォノンを散乱させて,熱伝導率κを低減することができる。
【0005】そこで,従来の熱電材料は,粒径1μm?数十μm(多くの場合には数十μmオーダ)程度の熱電材料の粒子を出発原料として用い,これに上述の不活性超微粒子を添加してから合金化し,更にこれを所定形状に成形してから2?3時間加熱・焼結することによって作製されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の熱電材料では,図3に示すように不活性超微粒子102が偏在することによって,不活性超微粒子102によるフォノンの散乱効果より
も不活性超微粒子102の偏在による電気抵抗率等の他の物性値の悪化が起こり
,熱電材料の性能向上が妨げられている。
【0007】不活性超微粒子102が偏在する原因は,出発原料の粒子101の粒径と不活性超微粒子102の粒径比(出発原料の粒径/不活性超微粒子の粒径)が大きかったためと考えられる。すなわち,出発原料の粒子101の粒径は小さくても1μm程度はあるので,焼結前の状態で出発原料の粒子101と不活性超微粒子102との粒径比は少なくとも100程度になる。このため,この巨大な出発原料の粒子101の粒子と微小な不活性超微粒子102とを混合すると,図3に示すように出発原料の粒子101同士が接触すると共に粒子101間の隙間に不活性超微粒子102が存在する状態,即ち不活性超微粒子102が偏在した状態となってしまう。
【0008】さらに,この状態で2?3時間かけて焼結される間に,隣り合って接触する出発原料の粒子101同士が一体化して結晶粒になって成長する。このとき,不活性超微粒子102が分散されることはないので,焼結後の熱電材料は巨大な結晶粒の隙間に微小な不活性超微粒子102が位置した状態,即ち不活性超微粒子102が偏在した状態となってしまう。これにより,フォノンの散乱による熱伝導率κの低減よりも電気抵抗率ρやゼーベック係数αの悪化の方が上回ってしまい,熱電材料の熱伝導率κが低減しても熱電材料の性能指数Zの向上を図ることができなかった。」

「【0021】この熱電材料1を製造する手順を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。本実施形態では,熱電材料1を製造する手順は出発原料及び不活性超微粒子3から合金の微粉末を合成する粉末合成工程(ステップ10?12)とこの微粉末を焼結する焼結工程(ステップ13?14)との2工程から成るものである。
【0022】粉末合成工程では,出発原料として単体のBi,Te,Sb,Seの超微粒子と不活性超微粒子としてのBNの超微粒子とを用意する(ステップ10)。これらの超微粒子の粒径は0.01μm程度である。これらの超微粒子をグローブボックス内に入れて混合粉砕機を用いてメカニカルアローイング法により摩砕,混合する(ステップ11)。これにより,Bi,Te,Sb,Seが合金化して,Bi-Te-Sb-Se系の合金粒子あるいはBi-Te-Sb系の合金粒子と不活性超微粒子とが,例えば合金粒子数個と不活性超微粒子1個の割合で結合した微粉体を構成する(ステップ12)。この微粉体の粒径は0.1μm程度となる。また,合金粒子としては,例えば(Bi_(2)Te_(3))_(90)(Sb_(2)Te_(3))_(5)(Sb_(2)Se_(3))_(5)のn型熱電材料の合金粒子や,(Sb_(2)Te_(3))_(70)(Bi_(2)Te_(3))_(30)のp型熱電材料の合金粒子が作られる。合金粒子の組成はこれらのものに限定されないことは言うまでもない。
【0023】そして,焼結工程では,このBi-Te-Sb-Se系の微粉体を放電プラズマ焼結加工法により焼結する(ステップ13)。具体的には,例えば住石放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業株式会社製)により焼結を行う。これにより,Bi-Te系焼結体を得ることができる(ステップ14)。このBi-Te系焼結体が熱電材料1として使用される。
【0024】したがって,この手順により製造された熱電材料1は,出発原料と不活性超微粒子3とのいずれもが超微粒子で同等の大きさとなるので,出発原料の大きさを基準とすると不活性超微粒子3は結晶粒2に対して偏在することなく分散して均一に分布する。このため,熱電材料1中でフォノンが十分に散乱されて熱伝導率を低減させることができる。また,不活性超微粒子3は均一に分布されているので,熱伝導率以外の電気抵抗率やゼーベック係数の劣化による性能指数の低下量よりも熱伝導率の低減による性能指数の増加量を大きくして性能指数を増加させることができる。
【0025】ここで,熱電材料1中のフォノンは,不活性超微粒子3の粒径よりも大きい波長について散乱される。例えば,不活性超微粒子3の粒径が4nmであれば4nm以上の波長のフォノンが散乱されることになる。そして,フォノンの波長は0.4nm以上であり,4nm程度のものが最も多い。したがって,本実施形態では不活性超微粒子3として大きさの小さいBNを使用しているので,フォノンの波長成分のうち最も多い4nm程度の部分を効率的に散乱することができる。これにより,熱電材料1の熱伝導率を十分に低減させることができる。」

「【0027】なお,上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば,本実施形態では熱電材料1の出発原料としてはBi,Te,Sb,Seの単体の超微粒子を使用しているがこれに限られず,ビスマス-テルル系合金の超微粒子を使用することもできる。これらの場合も焼結後の結晶粒2が超微粒子となるので,不活性超微粒子3を均一に分布させると共に結晶粒2の小さい熱電材料1を得ることができ,熱電材料1の熱伝導率を低減できる。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「出発原料及び不活性超微粒子から合金の微粉末を合成する粉末合成工程(ステップ10?12)とこの微粉末を焼結する焼結工程(ステップ13?14)との2工程から成る熱電材料を製造する方法であって,
粉末合成工程は,
出発原料として単体のBi,Te,Sb,Seの超微粒子と不活性超微粒子としてのBNの超微粒子とを用意する(ステップ10)工程であって,これらの超微粒子の粒径が0.01μm程度である工程と,
これらの超微粒子をグローブボックス内に入れて混合粉砕機を用いてメカニカルアローイング法により摩砕,混合する工程であって,これにより,Bi,Te,Sb,Seが合金化して,Bi-Te-Sb-Se系の合金粒子あるいはBi-Te-Sb系の合金粒子と不活性超微粒子とが,例えば合金粒子数個と不活性超微粒子1個の割合で結合した微粉体を構成する(ステップ11及びステップ12)工程とを含み,
焼結工程は,
このBi-Te-Sb-Se系の微粉体を放電プラズマ焼結加工法により焼結する工程であって,具体的には,例えば住石放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業株式会社製)により焼結を行い,これにより,Bi-Te系焼結体を得ることができる(ステップ13及びステップ14)工程を含む,
熱電材料を製造する方法。」

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

引用発明における「熱電材料」は,本願発明1における「ナノコンポジット熱電変換材料」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「ナノコンポジット熱電変換材料の製造方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は「塩化ビスマス,塩化テルル,及び粒径5nmのシリカのスラリーをエタノール中に溶解させて原料溶液を得ること,水酸化ホウ素ナトリウムをエタノールに溶解させて還元剤溶液を得ること,前記原料溶液を攪拌しながら前記還元剤を滴下して,Bi粒子及びTe粒子を生成させ,シリカ粒子との粒子混合物スラリーを得ること,前記粒子混合物スラリーをエタノールと混合し,水熱処理を施して,BiTe合金粒子とシリカ粒子との混合粉末を得ること,及び前記混合粉末を圧粉成形し,次いで,370?470℃で熱処理し自然冷却した後,さらに焼結すること」という構成を備えるのに対し,引用発明はそのような構成を備えていない点。

(4)相違点についての判断
相違点1に係る本願発明1の「塩化ビスマス,塩化テルル,及び粒径5nmのシリカのスラリーをエタノール中に溶解させて原料溶液を得ること,水酸化ホウ素ナトリウムをエタノールに溶解させて還元剤溶液を得ること,前記原料溶液を攪拌しながら前記還元剤を滴下して,Bi粒子及びTe粒子を生成させ,シリカ粒子との粒子混合物スラリーを得ること,前記粒子混合物スラリーをエタノールと混合し,水熱処理を施して,BiTe合金粒子とシリカ粒子との混合粉末を得ること,及び前記混合粉末を圧粉成形し,次いで,370?470℃で熱処理し自然冷却した後,さらに焼結すること」という構成は,上記引用文献1には記載されておらず,本願の出願前において周知技術であるともいえない。
したがって,本願発明1は,引用例1に記載された発明とはいえない。また,本願発明1は,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第5 原査定についての判断
平成29年3月30日付けの補正により,補正後の請求項1は,「塩化ビスマス,塩化テルル,及び粒径5nmのシリカのスラリーをエタノール中に溶解させて原料溶液を得ること,水酸化ホウ素ナトリウムをエタノールに溶解させて還元剤溶液を得ること,前記原料溶液を攪拌しながら前記還元剤を滴下して,Bi粒子及びTe粒子を生成させ,シリカ粒子との粒子混合物スラリーを得ること,前記粒子混合物スラリーをエタノールと混合し,水熱処理を施して,BiTe合金粒子とシリカ粒子との混合粉末を得ること,及び前記混合粉末を圧粉成形し,次いで,370?470℃で熱処理し自然冷却した後,さらに焼結すること」という技術的事項を有するものとなった。当該「塩化ビスマス,塩化テルル,及び粒径5nmのシリカのスラリーをエタノール中に溶解させて原料溶液を得ること,水酸化ホウ素ナトリウムをエタノールに溶解させて還元剤溶液を得ること,前記原料溶液を攪拌しながら前記還元剤を滴下して,Bi粒子及びTe粒子を生成させ,シリカ粒子との粒子混合物スラリーを得ること,前記粒子混合物スラリーをエタノールと混合し,水熱処理を施して,BiTe合金粒子とシリカ粒子との混合粉末を得ること,及び前記混合粉末を圧粉成形し,次いで,370?470℃で熱処理し自然冷却した後,さらに焼結すること」は,原査定における引用文献2-4には記載されておらず,本願の出願前における周知技術でもないので,本願発明1は,当業者であっても,原査定における引用文献2-4に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-26 
出願番号 特願2012-86301(P2012-86301)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 飯田 清司
加藤 浩一
発明の名称 ナノコンポジット熱電変換材料の製造方法  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 堂垣 泰雄  
代理人 出野 知  
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