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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1329802
審判番号 不服2014-15145  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2017-06-28 
事件の表示 特願2011-528010「マイクロアレイ基板上の生体物質の選択的プロセシング」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月25日国際公開、WO2010/033844、平成24年 2月 2日国内公表、特表2012-502660〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成21年9月18日(パリ条約による優先権主張 2008年9月22日、2008年10月16日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?6に係る発明は、平成28年11月7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】標的配列の核酸物質を回収し、マイクロアレイスライドに結合した該核酸物質を利用する方法であって:
マイクロアレイスライドから回収されるべき標的配列の核酸物質を選択すること;
マイクロアレイスライド表面上の個別の(distinct)空間領域内の標的配列の核酸物質を検出すること;
該個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域から選択されていない核酸物質を溶出することなく、標的配列の核酸物質の少なくとも一部を該個別の空間領域から溶出すること;ならびに
該標的配列の核酸物質をin situハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用することを含み、溶出が、個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除いた、前記個別の空間領域への、マイクロアレイスライドから標的配列の核酸物質の一部を遊離させるように作用する変性バッファーの添加を含む、上記方法。」

2.当審における拒絶理由
一方、当審において平成28年6月2日付けで通知した拒絶理由の概要は、請求項1?3に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用文献の記載事項
当審の拒絶理由で引用文献1として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2002-253238号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。

ア.「【請求項1】基材と、この基材上にそれぞれ分離して固定された2種以上の一本鎖核酸とを有する核酸固定化基材に試料核酸溶液を接触させることにより、前記一本鎖核酸と相補的な一本鎖核酸をハイブリダイズさせる工程と、前記核酸固定化基材を一体のまま、ハイブリダイズした一本鎖核酸を、前記の固定された一本鎖核酸の場所毎に分離して回収する工程とを含む核酸分離回収法。
【請求項2】前記核酸固定化基材が、カルボジイミド基を有する化合物を担持した基材である、請求項1記載の核酸分離回収法。
【請求項3】前記核酸固定化基材がDNAマイクロアレイである、請求項1または2記載の核酸分離回収法。
【請求項4】前記基材が平板状である請求項1?3のいずれか一項に記載の核酸分離回収法。」(【特許請求の範囲】)

イ.「本発明者は、上記課題を解決するため、複数種の核酸が固定された基材を用いてハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズされた核酸のそれぞれを分離して、一体のままの基材から直接回収することによって、核酸を簡便に分離・回収できることを見出し、本発明の完成に至った。」(【0005】)

ウ.「2種以上の一本鎖核酸は互いに分離された状態で固定化される。分離された1つの場所に固定化される一本鎖核酸は、1種類の一本鎖核酸からなるものでもよいし、一本鎖核酸の混合物からなるものでもよい。従って、「2種以上」とは、固定化される一本鎖核酸の塩基配列が相違すること、及び/又は、固定化される一本鎖核酸を構成する混合物の組成が異なることを意味する。また、各核酸の配置等については、得られる核酸固定化基材の使用形態、用途等により適宜選択されうる。」(【0018】)

エ.「核酸固定化基材は、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)として用いられてもよい。この場合には、核酸固定化基板をDNAマイクロアレイとして用いるのに適した大きさ及び配置で2種以上の一本鎖核酸がスポットされる。」(【0047】)

オ.「<核酸分離回収法>
本発明の核酸分離回収法は、上述した核酸固定化基材に試料核酸溶液を接触させることにより、核酸固定化基材に担持された2種以上の一本鎖核酸と相補的な一本鎖核酸をハイブリダイズさせる工程と、この核酸固定化基材を一体のまま、ハイブリダイズした一本鎖核酸を、固定された一本鎖核酸の場所毎に分離して回収する工程とを含む。
・・・・・・・・・
ハイブリダイズされた一本鎖核酸を回収する方法としては、核酸固定化基材を一体のまま、ハイブリダイズした一本鎖核酸を、固定された一本鎖核酸の場所毎に分離して回収できる限り、公知の各種の方法を用いることができ、例えば、以下の方法を用いることができる。
1.マイクロピペットのチップの先などでハイブリダイゼーション後の核酸固定化基材の核酸が固定された部位のみをこすり取る。
2.ピン先をシャベル状に変形させたスポッターを用いて基材ごと核酸が固定化された部位(ドット)を削り取る。
3.スポッターのピンまたはキャピラリーピペットにアルカリ溶液などのDNA変性剤を充填し、これらピンまたはキャピラリーピペットの先端を、核酸固定化基材上の回収したい核酸がハイブリダイズされたドットに接触させて核酸を変性させ、ピンまたはキャピラリーピペット内に核酸を移動させる。このピンまたはキャピラリーピペットを他の溶液中に浸漬することにより核酸を回収してもよいし、ピンまたはキャピラリーピペット内の核酸を他の容器に物理的に移して回収してもよい。
または、核酸固定化基材のドット上に上記変性剤を滴下することによって核酸を変性させる。この核酸をメンブレン等により吸い取ってそのままメンブレンに固定してもよいし、空のキャピラリーピペット等により上記核酸を吸い取って回収してもよい。また、ピンの先にスポンジ等の吸収体を固定したものを用いて核酸を回収してもよい。
4.スポッターのピンまたはキャピラリーピペットに水または緩衝液を充填し、これらピンまたはキャピラリーピペットの先を核酸固定化基材上の回収したい核酸がハイブリダイズされたドットに接触させた状態で基材を加熱するか、またはドット上に上記水または緩衝液を滴下した後に基材を加熱することによって核酸を変性させる。変性させた核酸は上記3.と同様の方法により回収する。」(【0048】?【0056】)

カ.「このような本発明の核酸分離回収法は、例えば、以下の用途に用いることができる。
1.発現頻度情報に基づいたライブラリー作製:発現頻度の差を検出したい複数種のサンプル、例えば、ガン組織と正常組織から抽出したmRNAをそれぞれハイブリダイズし、検出した結果が異なるドットのみからハイブリダイズされたサンプルを個々に回収する。ガン組織のみに検出されたドットから回収された核酸(1ドットのみでもよいし、複数ドットを併せてもよい)は、ガン組織特異的発現遺伝子としてcDNAを作製してクローニングしたり、アダプターを利用してPCRを行ったりすることにより、ガン組織特異的発現遺伝子をかなり高確率に回収する(または該遺伝子を高確率で含むライブラリーを作製する)ことができる。また、正常組織のみに検出されたドットから回収された核酸についても同様にクローニングやPCRを行うことにより、ガンにより特異的に発現が阻止される遺伝子を高確率に回収する(または該遺伝子を高確率で含むライブラリーを作製する)ことができる。
ガンと正常細胞の両方に発現している遺伝子でも、その発現量に差が見られたドットは、ドット毎に個別に回収を行うことにより、発現頻度の異なる遺伝子としてクローニングする(またはライブラリーを作製する)ことができる。例えば、ガン細胞で正常細胞の5倍発現している遺伝子(群)としてライブラリーを作製することができる。
・・・・・・・・・
4.ライブラリーチップの作製:核酸固定化基板からの回収物をクローニング処理等を行わずに直接チップ(メンブレン等)に固定化し、ライブラリーチップ等を作製する。例えば、正常組織特異的に発現している遺伝子のライブラリーチップとガン組織特異的に発現している遺伝子のライブラリーチップを、核酸固定化基板からの回収物より作製し、次に、薬剤を投与したガン組織で発現している遺伝子のmRNA等をハイブリダイズさせて薬剤の効果を検出する。
・・・・・・・・・
また、本発明の核酸分離回収法を用いれば、回収した核酸を固相に直接固定し、ハイブリダイゼーションによる調査を行うことが可能となる。」(【0059】?【0067】)

キ.「【実施例1】
(1)オリゴヌクレオチドの準備
DNA合成装置を用いて、配列番号1?3に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、これらを「オリゴマー1?3」ということがある)を作製した。なお、配列番号3に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドは、5’末端にアミノリンカーを付けたものを合成した。
(2)DNA固定化基材の作製
上記(1)で作製したオリゴマー3を含む溶液をDNA固定用基材(スライドガラス)にスポッターおよびマイクロピペットを用いてスポットした。スポッターを用いた場合のDNA溶液のスポットの大きさは、直径が約75μm、250μmおよび350μmの3種類とし、マイクロピペットを用いた場合のDNA溶液の量を0.5μl/スポットおよび3μl/スポットの2種類とした。スポットを行った後、基材をよく乾燥させ、DNA固定化基材とした。
・・・・・・・・・
(4)ハイブリダイゼーション
上記(3)でPCR増幅を行ったターゲット3μlとハイブリダイゼーション溶液(ArrayIt^(TM)(Telechem社製))12μlをエッペンドルフチューブに入れ、100℃で5分間加熱処理し、次いで氷中にて5分間冷却し、ターゲットを1本鎖にした。このターゲット溶液をDNA固定化基材上に滴下し、カバーガラスを被せて42℃で1時間放置した。
・・・・・・・・・
(6)DNA固定化基材からのDNA回収
上記オリゴマー3のスポットされている部分をピペットのチップの先でこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収した。また、オリゴマー3のスポットされていない部分(スポットに近い場所と少し離れた場所の2ヶ所)も同様にピペットのチップの先でこすり、ネガティブコントロールとした。
・・・・・・・・・」(【0069】?【0079】)

ク.「【実施例2】
(1)オリゴマーの準備
DNA合成装置を用いて、配列番号1?6に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、これらを「オリゴマー1?6」ということがある)を作製した。なお、配列番号3および6に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドは、5’末端にアミノリンカーを付けたものを合成した。
(2)DNA固定化基材の作製
上記(1)で作製したオリゴマー3およびオリゴマー6をそれぞれ含む溶液とをDNA固定用基材(スライドガラス)にスポッターおよびマイクロピペットを用いてそれぞれスポットした。スポッターを用いた場合のDNA溶液のスポットの大きさは、直径が約75μm、250μmおよび350μmの3種類とし、マイクロピペットを用いた場合のDNA溶液の量を0.5μl/スポットおよび3μl/スポットの2種類とした。スポットを行った後、基材をよく乾燥させ、DNA固定化基材とした。
・・・・・・・・・
(4)ハイブリダイゼーション
上記(3)でPCR増幅を行ったターゲット(124bp)およびターゲット(187bp)各1.5μlをエッペンドルフチューブ内にて混合し、ハイブリダイゼーション溶液(ArrayIt^(TM)(Telechem社製))12μlを添加後、100℃で5分間加熱処理し、次いで氷中にて5分間冷却し、ターゲットを1本鎖にした。このターゲット溶液をDNA固定化基材上に滴下し、カバーガラスを被せて42℃で1時間放置した。
・・・・・・・・・
(6)DNA固定化基材からのDNA回収
上記オリゴマー3のスポットされている部分のそれぞれをピペットのチップの先でこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収した。また、別のピペットのチップの先でオリゴマー6のスポットされている部分のそれぞれをこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収した。さらに、オリゴマーのスポットされていない部分も同様にピペットのチップの先でこすり、ネガティブコントロールとした。
(7)DNA回収の確認
・・・・・・・・・
オリゴマー3を固定した全ての大きさのスポットから、ハイブリダイゼーションの目的物である124bpのDNAのPCR増幅を確認した。なお、この場合、187bpのDNAのPCR増幅は確認されなかった。また、オリゴマー6を固定した全ての大きさのスポットから、ハイブリダイゼーションの目的物である187bpのDNAのPCR増幅を確認した。なお、この場合、124bpのDNAのPCR増幅は確認されなかった。オリゴヌクレオチドがスポットされていない部分をこすったピペットのチップについては、いずれのPCR増幅(124bp/187bp)も確認されなかった。これより、DNA固定化基材にハイブリダイゼーションした複数種類のDNAをチップ上でそれぞれ分離し、回収できることを確認した。」(【0080】?【0092】)

上記記載事項オ.の記載中、「3.スポッターのピンまたはキャピラリーピペットにアルカリ溶液などのDNA変性剤を充填し、これらピンまたはキャピラリーピペットの先端を、核酸固定化基材上の回収したい核酸がハイブリダイズされたドットに接触させて核酸を変性させ、ピンまたはキャピラリーピペット内に核酸を移動させ」た場合に、核酸がドットから遊離して溶出されることは明らかである。
よって、上記記載事項ア.?ク.によると、引用文献1には、「標的配列の核酸物質を回収し、マイクロアレイスライドに結合した該核酸物質を利用する方法であって:
マイクロアレイスライド表面上のドット内の標的配列の核酸物質を検出すること;
標的配列の核酸物質の少なくとも一部を該ドットから溶出すること;ならびに
溶出が、前記ドットへの、マイクロアレイスライドから標的配列の核酸物質の一部を遊離させるように作用する変性バッファーの添加を含む、上記方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願明細書には、「本明細書において用いられる場合、「個別の空間的位置」という用語は、生体物質が回収され得るマイクロアレイスライド上の個別の空間的位置を指す。1つの態様では、個別の空間的位置は、周囲に明確な境界を有するプローブコレクションであり得る。このような境界は、付着したプローブを含まないスライド表面上の空間を包含し得る。他の態様では、個別の空間的位置は、マイクロアレイスライドの表面上のより大きなプローブ付着領域に位置するプローブコレクションであり得、このような場合には、プローブを含まない、個別の空間的位置の周囲の領域はない場合がある。」(【0015】)、「プローブのコレクションは様々な方法で定義され得、そのすべては本発明の範囲内に含まれるべきであることに留意しなければならない。1つの態様では、例えば、プローブのコレクションは、マイクロアレイスライド上の個別の空間的位置またはスポットに付着する多数のプローブの混合物を含みうる。このような場合、プローブは、個別の空間的位置全体にわたって均一に混合されうる。このプローブのコレクションにハイブリダイズしている生体物質の回収は、その個別の位置に付着したプローブの混合物に対応する生体物質の混合物を含有するであろう。他の態様では、プローブのコレクションは、個別の空間的位置が多数の単一または複数のプローブスポットを含みうるように、マイクロアレイスライド上に付着され得る。言い換えれば、個別の空間的位置は、多数のより小さいプローブスポットで構成されてもよく、そこでは、それぞれのプローブスポットはプローブのコレクション全体の一部を含有するが、プローブのコレクション全体はプローブスポットのコレクション全体にわたって表される。1つの特定の態様では、各プローブスポットは、単一のプローブ配列を含み得る。他の特定の態様では、各プローブスポットは、コレクション全体に由来するプローブ配列の一部を含み得る。生体物質は、個別の空間的位置全体にわたって、またはある場合には、プローブコレクション内のプローブスポットの一部から回収され得る。個別の空間的位置が、単一のプローブ配列を含有するプローブスポットのコレクション、および2つ以上のプローブ配列を含有するプローブスポットのコレクションで構成され得ることもまた企図される。」(【0023】)と記載されており、本願発明の「個別の(distinct)空間領域」は、プローブ核酸が付着した領域を示すものと認められ、これは、引用文献1に記載されている「核酸が固定化された部位(ドット)」に該当するといえるから、引用発明の「ドット」は、本願発明の「個別の(distinct)空間領域」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「標的配列の核酸物質を回収し、マイクロアレイスライドに結合した該核酸物質を利用する方法であって:
マイクロアレイスライド表面上の個別の(distinct)空間領域内の標的配列の核酸物質を検出すること;
標的配列の核酸物質の少なくとも一部を該個別の空間領域から溶出すること;ならびに
溶出が、前記個別の空間領域への、マイクロアレイスライドから標的配列の核酸物質の一部を遊離させるように作用する変性バッファーの添加を含む、上記方法。」である点で一致し、両者は以下の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「マイクロアレイスライドから回収されるべき標的配列の核酸物質を選択すること」を含むのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点で相違する。

相違点2:本願発明は、「該標的配列の核酸物質をin situハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用すること」を含むのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点で相違する。

相違点3:本願発明は、「該個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域から選択されていない核酸物質を溶出することなく、」溶出すること、「個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除いた」個別の空間領域への変性バッファーの添加であるのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点で相違する。

5.相違点に対する当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点1について
引用文献1には、「上記オリゴマー3のスポットされている部分のそれぞれをピペットのチップの先でこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収した。また、別のピペットのチップの先でオリゴマー6のスポットされている部分のそれぞれをこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収した。」(上記記載事項ク.)と記載されているように、「マイクロアレイスライドから回収されるべき標的配列の核酸物質」は選択されているといえるから、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

相違点2について
引用文献1には、「核酸固定化基板からの回収物をクローニング処理等を行わずに直接チップ(メンブレン等)に固定化し、ライブラリーチップ等を作製する。例えば、正常組織特異的に発現している遺伝子のライブラリーチップとガン組織特異的に発現している遺伝子のライブラリーチップを、核酸固定化基板からの回収物より作製し、次に、薬剤を投与したガン組織で発現している遺伝子のmRNA等をハイブリダイズさせて薬剤の効果を検出する。・・・・・・また、本発明の核酸分離回収法を用いれば、回収した核酸を固相に直接固定し、ハイブリダイゼーションによる調査を行うことが可能となる。」と記載されている(上記記載事項カ.)ように、回収した核酸をハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用することが記載されており、また、核酸をin situハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用することは、本願優先日前周知慣用技術であるから、引用発明において、溶出して回収した標的配列の核酸物質をin situハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点3について
引用文献1には、「2種以上の一本鎖核酸は互いに分離された状態で固定化され」(上記記載事項ウ.)、「スポッターのピンまたはキャピラリーピペットにアルカリ溶液などのDNA変性剤を充填し、これらピンまたはキャピラリーピペットの先端を、核酸固定化基材上の回収したい核酸がハイブリダイズされたドットに接触させて核酸を変性させ、ピンまたはキャピラリーピペット内に核酸を移動させる」(上記記載事項オ.)と記載されており、また、実施例においても、オリゴマー3のスポットされている部分をピペットのチップの先でこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収し、別のピペットのチップの先でオリゴマー6のスポットされている部分をこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収し(上記記載事項ク.)、オリゴマー3のスポットされている部分をピペットのチップの先でこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収し、オリゴマー3のスポットされていない部分(スポットに近い場所と少し離れた場所の2ヶ所)をこすり、ネガティブコントロールとしている(上記記載事項キ.)から、マイクロアレイスライドから標的配列の核酸物質の一部を遊離させるように作用する変性バッファーを添加して溶出させる際に、「該個別の空間領域内ではないマイクロアレイスライドの領域から選択されていない核酸物質を溶出することなく、」溶出すること、「個別の空間領域の実質的に外側のマイクロアレイスライドの領域を除いた」個別の空間領域へ変性バッファーを添加することは、当業者が容易になし得ることである。

6.審判請求人の主張
審判請求人は、平成28年11月7日付け意見書において、以下のア.及びイ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。

ア.引用文献1では、核酸のドット(方法2において一つの部位として記載されている)に言及している。これらの部位は、標的配列の核酸物質の選択のために制限されていない。核酸の部位をこすり取り、ピン先をシャベル状に変形させたスポッターを用いて核酸の部位を削り取り、あるいはスポンジ等を用いて核酸を回収しても、選択されていない部位を取り除くことなく標的配列の核酸物質を取り除くことはできないだろう。これらの方法は、こすり取り、削り取り、又はスポンジ等を用いて回収される等した領域に存在する全てを取り除く。さらに、引用文献1には、これらの方法により、「複数種の核酸を簡便に分離・回収することが」できると記載されている(段落[0066])。引用文献1に記載された方法は、領域中の他の配列を回収することなく、標的配列の核酸物質を簡単に回収することができるものではない。

イ.本願発明の方法は、標的配列の核酸物質を単離するだけでなく、さらなる処理を伴わずに核酸物質を利用することを可能にする。これは、(引用文献1の様な)一般に多くの配列を単離し変性させ、したがって標的配列を単離しプローブとして用いる前に増幅が必要となる先行技術とは異なる。本願発明の方法では、マイクロアレイから取り除かれる多数の配列から、標的配列を増幅及び単離する必要性がない。

主張ア.について
引用文献1に記載されている方法は、「ハイブリダイズした一本鎖核酸を、固定された一本鎖核酸の場所毎に分離して回収する」方法(上記記載事項.ア)、「ハイブリダイズされた核酸のそれぞれを分離して、一体のままの基材から直接回収する」方法(上記記載事項イ.)であり、また、引用文献1には、「上記オリゴマー3のスポットされている部分をピペットのチップの先でこすり、ハイブリダイズしたDNAを回収した。また、オリゴマー3のスポットされていない部分(スポットに近い場所と少し離れた場所の2ヶ所)も同様にピペットのチップの先でこすり、ネガティブコントロールとした。」(上記記載事項キ.)、「オリゴマー3を固定した全ての大きさのスポットから、ハイブリダイゼーションの目的物である124bpのDNAのPCR増幅を確認した。なお、この場合、187bpのDNAのPCR増幅は確認されなかった。また、オリゴマー6を固定した全ての大きさのスポットから、ハイブリダイゼーションの目的物である187bpのDNAのPCR増幅を確認した。なお、この場合、124bpのDNAのPCR増幅は確認されなかった。オリゴヌクレオチドがスポットされていない部分をこすったピペットのチップについては、いずれのPCR増幅(124bp/187bp)も確認されなかった。これより、DNA固定化基材にハイブリダイゼーションした複数種類のDNAをチップ上でそれぞれ分離し、回収できることを確認した。」(上記記載事項ク.)と記載されているように、「領域中の他の配列を回収することなく、標的配列の核酸物質を簡単に回収することができる」ことは明らかであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

主張イ.について
本願発明の「該標的配列の核酸物質をin situハイブリダイゼーションのためのプローブとして利用することを含み、」という記載は、本願出願時の特許請求の範囲の請求項13及び15の記載から明らかなように、「プローブとして利用される前に増幅される」ことを排除する記載ではなく、また、引用文献1には、「核酸固定化基板からの回収物をクローニング処理等を行わずに直接チップ(メンブレン等)に固定化し、ライブラリーチップ等を作製する。」ことも記載されており(上記記載事項カ.)、これは「さらなる処理を伴わずに核酸物質を利用すること」に該当するから、審判請求人の上記主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-30 
結審通知日 2017-01-31 
審決日 2017-02-13 
出願番号 特願2011-528010(P2011-528010)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴原 直司清水 晋治  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 山崎 利直
高堀 栄二
発明の名称 マイクロアレイ基板上の生体物質の選択的プロセシング  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  

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