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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1329816
審判番号 不服2015-9024  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-15 
確定日 2017-06-28 
事件の表示 特願2013-500208「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー、ポリマー、眼用レンズおよびコンタクトレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日国際公開、WO2011/116206、平成25年 6月20日国内公表、特表2013-525512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2011年3月17日(パリ条約に基づく優先権主張、2011年3月15日、米国)の国際出願日に出願人ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッドにより出願されたものとみなされる国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
(なお、本願につき平成22年3月18日にされた特願2010-61991号に基づく優先権主張は、出願人相違による方式不備により無効である旨、平成25年4月1日付けで特許庁長官からの通知がされている。)

平成25年 1月24日 出願人名義変更届
平成26年 9月19日付け 拒絶理由通知
平成26年12月 1日 意見書・手続補正書
平成27年 2月 5日付け 拒絶査定
平成27年 5月15日 本件審判請求
平成27年 6月30日 手続補正書(請求理由補充書)
平成28年11月11日付け 拒絶理由通知
平成29年 1月16日 意見書・手続補正書

第2 本願の請求項に記載された事項
平成29年1月16日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6のうち請求項1には、以下の事項が記載されている。

「(メタ)アクリルアミド基と分子内に2つ以上の-OSi繰り返し単位を有する直鎖シロキサニル基とを含み、少なくとも1つの水酸基をさらに含み、かつ、下記一般式(a)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー。
【化1】


(式中、Rは水素原子を表し、R^(1)は水素原子、またはヒドロキシで置換されていてもよい1?3個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(2)はヒドロキシ又はエーテルで置換されていてもよい炭素数2?6のアルキレン基を表し、R^(1)またはR^(2)の少なくとも1つは水酸基を有し、R^(3)?R^(8)はそれぞれ独立に、1個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(9)は炭素数4のアルキル基を表し、nは3である。)
(ただし、下記式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーは除く。
【化2】


(式(b1)又は(b2)中、G^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。G^(5)?G^(9)はそれぞれ独立に炭素数1?20のアルキル基、または炭素数6?20のアリール基を表す。qは1?50の自然数を表す。))」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成28年11月11日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。

「・本願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日(優先日)前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、併せて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願の出願の時において、その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。



引用先願:特願2010-61991号(特開2011-197196号公報)
・・(中略)・・
以上のとおりであるから、本願発明1ないし17は、いずれも先願明細書等に記載された発明と同一である。」

第4 当審の判断
当審は、
上記補正された請求項1に記載された事項で特定される本願発明についても、依然として先願明細書等に記載された発明と同一であり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであり、その余につき検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきもの、
と判断する。

1.本願と先願の出願人及び発明者の異同について
まず、上記先願の出願人及び発明者と本願の出願時の出願人及び発明者との異同につき確認する。

(1)出願人
上記先願の出願人は、本願の出願時において「東レ株式会社」であるのに対して、本願の出願時の出願人は、上記のとおり、「ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド」であるから、異なることが明らかであり、両出願の出願人は同一ではない。

(2)発明者
上記先願に係る発明者は、「トーマス L.マッジオ」、「ミシェル カーマン ターネイジ」、「藤澤 和彦」及び「中村 正孝」の4名であり、本願の出願時における発明者は、「マッジオ・トーマス・エル」、「ターネジ・ミッシェル・カーマン」、「クラーク・マイケル・アール」、「藤澤 和彦」及び「中村 正孝」の5名であるものと認められる。
してみると、両出願の発明者は、本願出願時において完全に一致しているものではないから、発明者が同一ではない。

(3)小括
以上のとおり、出願時における本願に係る出願人及び発明者と先願に係る出願人及び発明者とは、いずれも同一ではない。

2.先願明細書等の記載事項
上記先願明細書等には、以下の事項が記載されている。
(なお、以下の記載事項の摘示における下線は当審が付した。)

(a)
「【請求項1】
複数種のモノマーを含む重合原液を重合することにより得られるシリコーンハイドロゲルであって、該重合原液が、少なくとも1種類のシリコーンモノマーを、モノマー成分およびポリマー成分の合計量に対して30?98重量%含み、かつ少なくとも1種類の、分子内に2つ以上の水酸基を有する非シリコーン系(メタ)アクリルアミドモノマーを、モノマー成分およびポリマー成分の合計量に対して1?50重量%含むことを特徴とするシリコーンハイドロゲル。
【請求項2】
前記重合原液が、さらに分子量1000以上の親水性ポリマーを、モノマー成分およびポリマー成分の合計量に対して、1?30重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のシリコーンハイドロゲル。
【請求項3】
前記シリコーンモノマーのうち少なくとも一部がシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーであって、前記重合原液中のモノマー成分の合計量に対する(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量の合計が90重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコーンハイドロゲル。
【請求項4】
前記シリコーンモノマーが少なくとも1つの水酸基を有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲル。
【請求項5】
前記シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーが下記一般式(a1)または(a2)で表されることを特徴とする請求項4記載のシリコーンハイドロゲル。
【化1】


(式(a1)、(a2)中、R^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。R^(2)は少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1?20のアルキル基、R^(3)はそれぞれ独立に置換されていてもいい炭素数1?20のアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基を表す。R^(4)は置換されていてもよい炭素数1?20のアルキル基またはアリール基を表す。Aはシロキサニル基を表す。)
【請求項6】
前記シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーが下記式(b1)?(b4)のいずれかで表されることを特徴とする請求項3記載のシリコーンハイドロゲル。
【化2】


(式(b1)?(b4)中、R^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。R^(5)?R^(13)はそれぞれ独立に炭素数1?20のアルキル基、または炭素数6?20のアリール基を表す。nは1?50の自然数を表す。)
【請求項7】
前記シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーが式(b1)または(b2)で表されることを特徴とする請求項3記載のシリコーンハイドロゲル。
【請求項8】
前記分子内に2つ以上の水酸基を有する非シリコーン系(メタ)アクリルアミドモノマーが下記一般式(c1)?(c3)のいずれかで表されることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲル。
【化3】


(式(c1)?(c3)中、R^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。)
・・(中略)・・
【請求項14】
請求項1?13のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルからなる眼用レンズ。
【請求項15】
請求項1?13のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルからなるコンタクトレンズ。」

(b)
「【技術分野】
【0001】
本発明はシリコーンハイドロゲルに関するもので、該シリコーンハイドロゲルは、眼用レンズ、内視鏡、カテーテル、輸液チューブ、気体輸送チューブ、ステント、シース、カフ、チューブコネクター、アクセスポート、排液バック、血液回路、創傷被覆材および各種の薬剤担体などの医療用具、中でもコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などに特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、連続装用に用いられるコンタクトレンズの素材として、シリコーンハイドロゲルが知られている。シリコーンハイドロゲルは、シリコーン成分と親水性成分を組み合わせて得られるものであり、その一例として、シリコーンアクリルアミドモノマーと親水性アクリルアミドモノマー、親水性メタクリル酸エステル、および表面に濡れ性を付与するための内部湿潤剤を含む重合原液を重合して得られるシリコーンハイドロゲルが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、特許文献1、2記載の組成ではメタクリル酸エステルを比較的多く含むため、単独重合ではメタクリル酸エステルよりも高い重合速度定数を有するアクリルアミドモノマーが十分な重合速度を発揮できず、結果として系全体の重合速度が低下するという問題があった。
【0004】
一方、特許文献3、4にはシリコーンアクリルアミドモノマーと親水性アクリルアミドモノマーからなるシリコーンハイドロゲルが開示されている。これらは組成の大半がアクリルアミド系モノマーであり、系全体の重合速度の向上が期待される。しかしながら、アクリルアミド基のアミド結合は高い親水性を有するため、高酸素透過性を付与するための十分な量のシリコーン成分と、レンズに柔軟性を与えるための十分な含水率を両立した上で、透明なレンズを得ることは困難であるという問題があった。特に表面の濡れ性を高めるために内部湿潤剤を加えた場合には透明なレンズを得ることは極めて困難であった。」

(c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アクリルアミドモノマー含有率が高く、かつ透明で含水率、濡れ性のバランスに優れたシリコーンハイドロゲルを提供することを目的とする。該シリコーンハイドロゲルは各種医療用具、中でもコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズに好適に用いられ、コンタクトレンズに特に好適である。」

(d)
「【0022】
本発明のシリコーンハイドロゲルに用いられるシリコーンモノマーの例として、下記一般式(a1)?(a4)
【0023】
【化4】


【0024】
で表されるシリコーンモノマーが挙げられる。
式(a1)?(a4)中、R^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。これらのうち、より重合速度を高めるために好ましいのは水素である。
【0025】
R^(2)は少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1?20のアルキル基を表す。その例として、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、2,3-ジヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル基などが挙げられる。
【0026】
R^(3)は置換されていてもいい炭素数1?20のアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基を表す。その例としてメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、オクチレン基、デシレン基、フェニレン基などが挙げられる。前記アルキレン基、アリーレン基は分岐状であっても直鎖状であってもよい。
【0027】
R^(4)は水素、置換されていてもよい炭素数1?20のアルキル基またはアリール基を表す。その例として、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、s-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、イコシル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。前記アルキル基は分岐状であっても直鎖状であってもよい。R^(4)の炭素数が多すぎると相対的にシリコーン含有量が下がり酸素透過性が低下することから、水素、または炭素数1?10のアルキル基またはアリール基がより好ましく、水素、または炭素数1?4のアルキル基が最も好ましい。
【0028】
Aはシロキサニル基を表す。その好適な例として、下記一般式(f)
【0029】
【化5】


【0030】
で表されるシリコーン基が挙げられる。
【0031】
一般式(f)中、E^(1)?E^(11)はそれぞれが互いに独立に水素、置換されていてもよい炭素数1?20のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6?20のアリール基のいずれかを表す。
【0032】
一般式(f)中、hは0?200の整数を表し、i、j、kはそれぞれが互いに独立に0?20の整数を表す(ただし、h=i=j=k=0の場合を除く)。h+i+j+kの合計は、小さすぎると十分な酸素透過性が得られず、大きすぎると親水性モノマーとの相溶性が低下することから、2?100が好ましく、2?10がより好ましく、3?8が最も好ましい。また、得られるシリコーンプレポリマーを重合して得られるポリマーの形状回復性の点で好ましいのは、i=j=k=0である。
【0033】
これらのうち、系全体の重合速度向上の点で好ましいのは、一般式(a1)、(a2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーである。」

(e)
「【0037】
式(b1)?(b4)中、R^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。これらのうち、重合速度を向上させる点でより好ましいのは水素である。
【0038】
R^(5)?R^(13)はそれぞれ独立に炭素数1?20のアルキル基、または炭素数6?20のアリール基を表す。R^(5)?R^(8)の炭素数は多すぎると相対的にケイ素原子の含有量が低下し、シリコーンハイドロゲルの酸素透過性の低下を招くことから、炭素数1?10のアルキル基、または炭素数6?10のアリール基がより好ましく、炭素数1?4のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1のメチル基が最も好ましい。R^(9)の炭素数は少なすぎるとポリシロキサン鎖が加水分解しやすくなり、多すぎるとシリコーンハイドロゲルの酸素透過性の低下を招くことから、炭素数1?10のアルキル基、または炭素数6?10のアリール基がより好ましく、炭素数1?6のアルキル基がさらに好ましく、炭素数2?4のアルキル基が最も好ましい。R^(9)?R^(13)の炭素数は多すぎるとシリコーンハイドロゲルの酸素透過性が低下することから、1?10のアルキル基、または6?10のアリール基がより好ましく、1?4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基またはエチル基が最も好ましい。
【0039】
nは1?50の自然数を表す。nの値が小さすぎると十分な酸素透過性が得られず、大きすぎると親水性成分との相溶性が低下することから、2?30がより好ましく、3?10がさらに好ましく、3?8が最も好ましい。」

(f)
「【0049】
本発明のシリコーンハイドロゲルを得るための重合原液は、さらに下記(D)を満たすことが好ましい。
(D)シリコーンモノマーのうち少なくとも一部がシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーであって、重合原液中のモノマー成分の合計量に対する(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量の合計が90重量%以上
本発明のシリコーンハイドロゲルの重合に用いられるモノマー成分のうち、非アクリルアミドモノマーは、多すぎると全体の重合速度を低下させることから、重合原液中のモノマー成分の合計量に対する(メタ)アクリルアミドモノマーの含有量の合計は90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、99重量%以上がさらに好ましい。
【0050】
本発明のシリコーンハイドロゲルは、分子内に2つ以上の水酸基を有する非シリコーン系アクリルアミドモノマーの他に、第2の非シリコーン系アミドモノマーを用いてもよい。その例として、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらのうち、親水性とシリコーンモノマーとの相溶性のバランス、および重合速度の点で好ましいのは、N,N-ジメチルアクリルアミドである。」

(g)
「【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0081】
測定方法
(1)全光線透過率
SMカラーコンピュータ(型式SM-7-CH、スガ試験機株式会社製)を用いて測定した。レンズ状サンプルの水分を軽く拭き取り、光路上にセットして測定を行った。ABCデジマチックインジケータ(ID?C112、株式会社ミツトヨ製)を用いて厚みを測定し、厚みが0.14?0.15mmであるものを測定に用いた。
【0082】
(2)弾性率・伸度
レンズ状サンプルから、最も狭い部分の幅5mmのアレイ型サンプルを切り出し、ABCデジマチックインジケータ(ID?C112、株式会社ミツトヨ製)を用いて厚みを測定し、テンシロン(東洋ボールドウィン社製RTM-100、クロスヘッド速度100mm/分)により、弾性率、伸度を測定した。
【0083】
(3)含水率
シリコーンハイドロゲルの含水状態の重量(W1)、および乾燥状態の重量(W2)を測定し、次式により含水率を算出した。
【0084】
含水率(%)=(W1-W2)/W1×100
ただし、本発明においてシリコーンハイドロゲルの含水状態とは、シリコーンハイドロゲルを25℃の純水に6時間以上浸漬した状態を意味する。また、シリコーンハイドロゲルの乾燥状態とは真空乾燥機で40℃、16時間以上乾燥させた状態を意味する。
【0085】
(4)動的接触角
レンズ状サンプルから、幅5mmの短冊状サンプルを切り出し、レスカ社製動的接触角計WET-6000を用いて動的接触角の測定を行った(浸漬速度7mm/分)。
【0086】
(5)応力ゼロ時間
レンズ中央付近から幅5mm、長さ約1.5cmの短冊状サンプルを切り出し、(株)サン科学製レオメータCR-500DXを用いて測定した。チャック幅を5mmに設定してサンプルを取り付け、速度100mm/分で5mm引っ張った後、同速度で初期長(5mm)まで戻す操作を3回繰り返した。2回目の初期長まで戻す途中の応力がゼロになった時点から、3回目の引っ張りを開始した後の応力がかかり始める(ゼロではなくなる)時点までの時間の長さを求め、応力ゼロ時間とした。応力ゼロ時間は、短いほどシリコーンハイドロゲルの形状回復性が良好であることを示し、2秒以下が好ましく、1.5秒以下がより好ましく、1.2秒以下が最も好ましい。
【0087】
実施例1
下記式(s1)
【0088】
【化8】


【0089】
で表されるシリコーンモノマー(0.925g、56.06重量%)、N,N-ジメチルアクリルアミド(0.510g、31.27重量%)、下記式(h1)
【0090】
【化9】


【0091】
で表される非シリコーン系アクリルアミドモノマー(0.017g、1重量%)、ポリビニルピロリドン(PVP K90、0.132g、8重量%)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA、0.018g、1.10重量%)、紫外線吸収剤2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(0.036g、2.22重量%)、3-メチル-3-ペンタノール(3M3P、1.350g)、光開始剤イルガキュア1850(0.004g、0.25重量%)を混合し撹拌した。得られたモノマー混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。窒素雰囲気下のグローブボックス中で、レンズ形状を有する透明樹脂(フロントカーブ側:ゼオノア、ベースカーブ側:ポリプロピレン)製モールドの空隙にモノマー混合物を充填し、光照射(フィリップスTL03、1.6mW/cm2、15分間)して硬化させることによりレンズを得た。得られたレンズを、70%(体積比)2-プロパノール(IPA)水溶液に室温で70分間浸漬することにより、モールドから剥離および残存モノマーなどの不純物の抽出を行った。水中に10分間浸漬後、5mLバイアル瓶中のホウ酸緩衝液(pH7.1?7.3)に浸漬し、該バイアル瓶をオートクレーブに入れ、120℃で30分間煮沸処理を行った。
得られたレンズ状サンプルの全光線透過率、含水率、弾性率、伸度は表1の通りであり、透明で良好な物性バランスを有するレンズが得られた。
【0092】
【表1】


・・(中略)・・
【0101】
実施例12?16
シリコーンアクリルアミドモノマーとして、下記式(s2)
【0102】
【化12】


【0103】
で表されるモノマーを用い、非シリコーン系アクリルアミドモノマーとして式(h1)または(h2)で表されるモノマーを用い、表2の組成で実施例1と同様にしてレンズ状サンプルを作製した。得られたサンプルの全光線透過率、含水率、弾性率、伸度は表2の通りであった。
【0104】
【表2】


・・(中略)・・
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明はシリコーンハイドロゲルに関するもので、該シリコーンハイドロゲルはコンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などに特に好適に用いられる。」

3.判断

(1)先願明細書等に記載された発明
上記先願明細書等には、下記一般式(a1)又は(a2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー(摘示(a)【請求項5】参照)、当該モノマーを含む重合原液を重合することにより得られるシリコーンハイドロゲル(摘示(a)【請求項1】参照)及び当該ハイドロゲルからなる眼内レンズ並びにコンタクトレンズ(摘示(a)【請求項14】及び【請求項15】参照)が記載されている。


(式(a1)、(a2)中、R^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。R^(2)は少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1?20のアルキル基、R^(3)はそれぞれ独立に置換されていてもいい炭素数1?20のアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基を表す。R^(4)は置換されていてもよい炭素数1?20のアルキル基またはアリール基を表す。Aはシロキサニル基を表す。)
そして、上記一般式(a1)又は(a2)における「R^(1)」基としては水素、「R^(2)」基としては2,3-ジヒドロキシプロピル基などの少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1?20のアルキル基、「R^(3)」基としては置換されていてもいいプロピレン基などの炭素数1?20のアルキレン基及び「R^(4)」基としてはメチル基などの炭素数1?4のアルキル基が、それぞれ好適な例として挙げられている(摘示(d)【0022】?【0027】参照)。
また、上記一般式(a1)又は(a2)における「A」のシロキサニル基として、下記一般式(f)で表される基が好適な例として挙げられ(摘示(d)【0028】?【0031】参照)、当該一般式(f)におけるシロキシ基の各部の繰り返し単位数を表す「h」、「i」、「j」及び「k」の総和につき2?10が好適であり、特に当該モノマーを重合して得られるポリマーの形状回復性の点から、i=j=k=0が好適であることも記載されている(摘示(d)【0032】参照)。


(一般式(f)中、E^(1)?E^(11)はそれぞれが互いに独立に水素、置換されていてもよい炭素数1?20のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6?20のアリール基のいずれかを表し、hは0?200の整数を表し、i、j、kはそれぞれが互いに独立に0?20の整数を表す(ただし、h=i=j=k=0の場合を除く)。)
さらに、上記先願明細書等には、上記「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」のシロキサニル基部分につき、「R^(5)?R^(8)」、すなわち上記一般式(f)中のE^(1)?E^(9)及びE^(11)に相当する基としてメチル基が好適であり、「R^(9)」、すなわち上記一般式(f)中のE^(10)に相当する基として、炭素数2?4のアルキル基が好適であり、シロキサニル基を構成するシロキシ単位の重合度を表す「n」は、3?8が好適であることが記載されており(摘示(e)参照)、当該「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」の具体例として、3-[n-ブチルジメチルシリルテトラ(ジメチルシロキサニル)]プロピル基がアクリルアミドの窒素原子に結合してなる化合物(式(s1)の化合物)及び3-[3-{n-ブチルジメチルシリルテトラ(ジメチルシロキサニル)}プロピルオキシ]-2-ヒドロキシプロピル基がアクリルアミドの窒素原子に結合してなる化合物(式(s2)の化合物)につきそれぞれ記載されているのに対して、その他のシロキサニル構造を有する「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」については、具体的に記載されていない(摘示(g)、特に「実施例1」【化8】、「実施例12?16」【化12】、【表1】及び【表2】参照)。

してみると、上記先願明細書等には、上記摘示(a)ないし(g)の記載(特に下線部)からみて、
「下記一般式(a1)又は(a2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー。


(式(a1)、(a2)中、R^(1)は水素を表す。R^(2)は2,3-ジヒドロキシプロピル基などの少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1?20のアルキル基、R^(3)は置換されていてもいいプロピレン基などの炭素数1?20のアルキレン基を表す。R^(4)はメチル基などの炭素数1?4のアルキル基を表す。Aは下記一般式(f)で表されるシロキサニル基を表す。)


(一般式(f)中、E^(1)?E^(9)及びE^(11)がいずれもメチル基、E^(10)が炭素数2?4のアルキル基を表し、h+i+j+kの総和は3?8の整数を表し、i、j、kはそれぞれが0である。)」
に係る発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明と先願発明との対比・検討

ア.対比
本願発明と上記先願発明とを対比すると、先願発明の「一般式(a1)又は(a2)」における「R^(1)は水素を表す。」は、本願発明の「一般式(a)」における「Rは水素原子を表し」に相当する。
また、先願発明の「一般式(a1)」における「R^(4)はメチル基などの炭素数1?4のアルキル基を表す。」及び「R^(3)は置換されていてもいいプロピレン基などの炭素数1?20のアルキレン基を表す。」並びに「一般式(a2)」における「R^(2)は2,3-ジヒドロキシプロピル基などの少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1?20のアルキル基を表す。」は、それぞれ、本願発明の「一般式(a)」における「R^(1)は水素原子、またはヒドロキシで置換されていてもよい1?3個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(2)はヒドロキシ又はエーテルで置換されていてもよい炭素数2?6のアルキレン基を表し、R^(1)またはR^(2)の少なくとも1つは水酸基を有し、」に相当することが明らかである。
そして、先願発明の「一般式(a1)又は(a2)」の「A」に係る「一般式(f)で表されるシロキサニル基を表す」における「一般式(f)中、E^(1)?E^(9)及びE^(11)がいずれもメチル基、E^(10)が炭素数2?4のアルキル基を表し、h+i+j+kの総和は3?8の整数を表し、i、j、kはそれぞれが0である。」は、
(a)上記「一般式(f)」において「i、j、kはそれぞれが0であ」り、「h+i+j+kの総和は3?8の整数を表」すということが、「Si(E^(1))(E^(2))O」という直鎖状繰り返し単位がh個(hは3?8)連結し、末端が「Si(E^(9))(E^(10))(E^(11))」というシリル基で封止されている直鎖状のシロキサニル基であることを意味しているから、本願発明における「分子内に2つ以上の-OSi繰り返し単位を有する直鎖シロキサニル基とを含み」に相当することが明らかであり、
(b)上記「E^(1)?E^(9)及びE^(11)がいずれもメチル基、E^(10)が炭素数2?4のアルキル基を表」すことは、本願発明における「R^(3)?R^(8)はそれぞれ独立に、1個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(9)は炭素数4のアルキル基を表し」にそれぞれ相当するものと認められるとともに、
(c)上記「一般式(f)」において「i、j、kはそれぞれが0であ」り、「h+i+j+kの総和は3?8の整数を表」すということが、「Si(E^(1))(E^(2))O」という直鎖状繰り返し単位がh個(hは3?8)連結し、末端が「Si(E^(9))(E^(10))(E^(11))」というシリル基で封止されている直鎖状のシロキサニル基であることが明らかであり、先願明細書等には、先願発明における一般式(f)に係る具体例として「n-ブチルジメチルシリルテトラ(ジメチルシロキサニル)基」が開示されている(摘示(g)、特に「実施例1」【化8】、「実施例12?16」【化12】参照)ことから、本願発明における「nは3である」(すなわち先願発明でいう「h=4」の場合)が、先願発明における「一般式(f)」において「i、j、kはそれぞれが0であ」り、「h+i+j+kの総和は3?8の整数を表」すに相当するものと認められる。
なお、先願発明における「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」が、(メタ)アクリルアミド基を有することは明らかであるから、本願発明における「(メタ)アクリルアミド基・・を含」む「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」に相当することも明らかである。
してみると、本願発明と先願発明とは、
「(メタ)アクリルアミド基と分子内に2つ以上の-OSi繰り返し単位を有する直鎖シロキサニル基とを含み、少なくとも1つの水酸基をさらに含み、かつ、下記一般式(a)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー。
【化1】


(式中、Rは水素原子を表し、R^(1)は水素原子、またはヒドロキシで置換されていてもよい1?3個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(2)はヒドロキシ又はエーテルで置換されていてもよい炭素数2?6のアルキレン基を表し、R^(1)またはR^(2)の少なくとも1つは水酸基を有し、R^(3)?R^(8)はそれぞれ独立に、1個の炭素原子を有するアルキル基を表し、R^(9)は炭素数4のアルキル基を表し、nは3である。)」
の点で一致するものと認められ、下記の点で一応相違するかに見える。

相違点:本願発明では、「(ただし、下記式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーは除く。
【化2】



(式(b1)又は(b2)中、G^(1)はそれぞれ独立に水素またはメチル基を表す。G^(5)?G^(9)はそれぞれ独立に炭素数1?20のアルキル基、または炭素数6?20のアリール基を表す。qは1?50の自然数を表す。))」のに対して、先願発明では、式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーにつき除外することが特定されていない点

イ.検討

(ア)相違点について
上記相違点に係るいわゆる「除くクレーム」において、除外される「式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」は、本願発明における「一般式(a)」で表されるモノマーのうち、「R^(1)=HかつR^(2)=2-ヒドロキシ-4-オキサヘプチレン基」の組合せあるいは「R^(1)=2,3-ジヒドロキシプロピル基かつR^(2)=プロピレン基」の組合せという極めて一部のモノマー化合物を単に除外しただけのものである。
この除外される「式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」を先願発明に係る「一般式(a1)又は(a2)」に当てはめると、「一般式(a1)」における「R^(4)=HかつR^(3)=2-オキサペンチレン基」の場合あるいは「一般式(a2)」における「R^(2)=2,3-ジヒドロキシプロピル基かつR^(3)=プロピレン基」の場合に相当する。
ここで、先願発明における「一般式(a1)」では、「R^(4)=H」の場合が元々除外されているし、「一般式(a2)」においては、上記「R^(2)=2,3-ジヒドロキシプロピル基かつR^(3)=プロピレン基」の場合というただ1つの組合せを除外するに過ぎないものであって、先願発明に係る「一般式(a1)又は(a2)」で表されるモノマー化合物と重複するもの全てを本願発明から除外しているものとは認められない。
例えば、上記除外後の本願発明に係る具体例である「実施例9」の「式(s4)」で表される化合物は、先願発明の「一般式(a1)」における「R^(1)=H、R^(3)=2-オキサペンチレン基、R^(4)=メチル基(炭素数1のアルキル基)」かつ「A」基が「一般式(f)」における「E^(1)=E^(2)=E^(9)=E^(11)=メチル基、E^(10)=n-ブチル基、h=4」であるものに相当する。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、本願発明と先願発明とは、同一である。

ウ.審判請求人の主張について
審判請求人(出願人)は、平成29年1月16日付け意見書において、
「引用先願に記載された事項のうち、出願当初の本願発明と重複するのは、上記一般式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーのみであると考えられる。そこで、引用先願に基づく特許法第29条の2の拒絶理由に対し、審判請求人は、平成26年12月1日付の手続補正書により、請求項1を補正して上記一般式(b1)又は(b2)で表されるシリコーン(メタ)アクリルアミドモノマーを、いわゆる「除くクレーム」によりそっくり除外した。これにより、引用先願に記載された上位概念には包含されるものの、引用先願に具体的に記載されているものとの重複はなくなったと思料する。
さらに、今般、上記の通り、本意見書と同日付の手続補正書により、実施例又は参考例で効果が具体的に確認された化合物のみを過不足なく包含するように、特許請求の範囲を大幅に減縮した。補正後の本願発明は、引用先願に記載されている上位概念には包含されるが、顕著な効果を発揮する、引用先願に開示された化合物と比較して遥かに少数の化合物のみを包含するものである。すなわち、補正後の本願発明を包含する上位概念が引用出願に記載されるが、補正後の本願発明は具体的には引用出願には記載されていない、ということである。
・・(中略)・・
さらに、今回の補正により、実施例又は参考例で効果が具体的に確認された化合物のみを過不足なく包含するように、特許請求の範囲を大幅に減縮したため、補正後の本願発明は、引用出願に対して選択発明に該当するものと思料される。
すなわち、本願明細書の第0195?0198段落に記載されている比較例3及び比較例4は、引用出願に係る発明に包含されている。その効果は、第0199段落の表1に記載されているところ、形状回復性の指標である「応力ゼロ」(小さいほど形状回復性に優れる)が2秒を超えているのに対し、本願の実施例9では、0.84秒であり、形状回復性が遥かに優れている。
このように、補正後の本願発明の化合物を用いて作製したレンズは、形状回復性が、引用出願記載のものよりも遥かに優れているので選択発明が成立するものと思料する(なお、引用出願にも形状回復性が優れたものは記載されているが、それらは除くクレームにより除外されている)。
なお、上位概念に包含される発明であっても、顕著な効果を奏する場合に選択発明として新規性が肯定されることは、審査基準にも明記されており(審査基準第2章2.5(3)(3)(2つ目の(3)は審査基準では丸付き文字)、判例(例えば、東京高裁 昭和34年(行ケ)13号、東京高裁 昭和60年(行ケ)51号等)によっても肯定されている。
以上のように、本願発明が、上位概念である引用出願に包含されていることのみをもって新規性を否定することは妥当ではなく、さらに、補正後の本願発明は、引用出願に係る発明に対して選択発明としても成立すると思料する。」
と主張している(意見書「5.本願発明が特許されるべき理由」の欄)ので、以下検討する。

(a)いわゆる「除くクレーム」とした点
上記審判請求人の主張のうち、補正により先願発明と重複する点につき「除くクレーム」としたことにつき検討すると、先願明細書等の記載に基づき、「一般式(a1)」、「一般式(a2)」及び「一般式(f)」を発明特定事項とすることにより「シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー」に係る先願発明を認定しているのであるから、仮に、先願発明と重複する点を補正により「除くクレーム」とするのであるならば、上記「一般式(a1)」、「一般式(a2)」及び「一般式(f)」で特定される部分を過不足なく除くことを要するものと理解されるところ、審判請求人が主張する上記「除くクレーム」とする補正では、上記イ.で説示したとおり、「一般式(b1)」及び「一般式(b2)」に係る極めて一部の部分を除外するのみであって、先願発明と重複する部分を「そっくり除外した」と評価することができるものではない。

(b)選択発明の成否について
上記審判請求人の主張のうち、本願発明が先願発明に対して選択発明が成立するとの点については、上記イ.で説示したとおり、本願発明が先願明細書等に記載された発明(先願発明)と同一であって、上位概念で表現された先願発明に下位概念で表現された本願発明が包含されているものではないから、そもそも、本願発明につき先願発明に対して選択発明が成立することはないものというべきであって、審判請求人の上記主張は、前提を欠き、当を得ないものである。

なお、念のため、仮に、上位概念で表現された先願発明に下位概念で表現された本願発明が包含されているものであるとして検討すると、まず前提として、選択発明の成否については、「特許に係る発明が、先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは、当該発明は、先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず、かつ、先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果、すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際だって優れた効果を奏する場合を除き、特許性を有しないものと解するべきである」し、「特許出願に係る発明が、先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含される場合に特許性を認めるにあたり、」上記の点が「要件とされる趣旨は、下位概念となる当該発明は、既に公に開示されたものであって、産業の発達に対する新たな寄与をするものではなく、本来特許となり得ない発明ではあるが、上記要件を充足する場合においては、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的とする特許法の精神に合致するという点にあるものと解される。そうすると、上記の各要件は、下位概念となる発明に例外的に特許を付与するための必須の要件であるというべきである。」(知財高裁平成26年(行ケ)10027号判決参照)との考え方で検討するのが妥当である。
なお、上記考え方における「下位概念となる当該発明は、既に公に開示されたものであって、産業の発達に対する新たな寄与をするものではなく、本来特許となり得ない発明ではある」との点は、特許法第29条の2の立法趣旨である「先願の明細書等に記載されている発明は、特許請求の範囲以外の記載であっても、出願公開等により一般にその内容は公表される。したがって、たとえ先願が出願公開等がされる前に出願された後願であってもその内容が先願と同一内容の発明である以上さらに出願公開等をしても、新しい技術を何ら公開するものではない。このような発明に特許権を与えることは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当ではない。」(特許法逐条解説参照)との点と共通であるものといえるから、上記考え方は、本願発明の特許法第29条の2に係る検討においても妥当するものといえる。
そこで、上記考え方に基づき、本願発明に係る選択発明の成否を検討すると、上記先願明細書等には、本願発明には包含されず先願発明には包含される「式(s1)」又は「式(s2)」で表される化合物を使用した場合に、全光線透過率、弾性率及び応力ゼロ時間などの物性に優れたレンズ状サンプル成形物を構成できたことが開示されている(摘示(g)の【表1】「実施例1」及び【表2】「実施例12」?「実施例16」参照)から、本願発明が、先願発明と比較して顕著な特有の効果を奏するものとも認められない。
加えて、先願発明における上記「式(s1)」又は「式(s2)」で表される化合物は、本願明細書に記載された「式(s3)」又は「式(s2)」で表される化合物であるところ、当該各化合物を使用した参考例6ないし11の場合と本願発明に係る唯一の実施例である実施例9の場合とを比較しても、上記全光線透過率、弾性率及び応力ゼロ時間などの物性の点で有意な差異が存するものとも認められない。
してみると、仮に、上位概念で表現された先願発明に下位概念で表現された本願発明が包含されているものであったとしても、本願発明は、先願発明に対して選択発明が成立するものとはいえない。

(c)小括
以上のとおり、審判請求人の上記意見書における主張は、いずれも失当であり、採用することができるものではなく、上記イ.の検討結果を左右するものではない。

エ.検討のまとめ
よって、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願の請求項1に記載された事項で特定される発明(本願発明)は、上記先願明細書等に記載された発明(先願発明)と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その請求項1に係る発明が、特許法第29条の2の規定により、特許をすることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-19 
結審通知日 2017-04-25 
審決日 2017-05-09 
出願番号 特願2013-500208(P2013-500208)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 西山 義之
橋本 栄和
発明の名称 シリコーン(メタ)アクリルアミドモノマー、ポリマー、眼用レンズおよびコンタクトレンズ  
代理人 特許業務法人谷川国際特許事務所  

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