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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1329858
審判番号 不服2015-9596  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-25 
確定日 2017-07-18 
事件の表示 特願2011-530844「1回当たり100?200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月17日国際公開、WO2011/030774〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年9月8日(優先権主張 平成21年9月9日)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月24日付けで手続補正がなされたが、その後、平成27年2月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年5月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成26年9月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」


3.引用例に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、Osteoporos Int, 1999, 9(4), p.296-306(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(ア)「ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠毎週投与の効果:3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験」(p.296のタイトル部分)

(イ)「要約 ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために、71施設にて骨粗鬆症患者220名を対象として無作為に二重盲検下にて3群に割り付け、hPTH(1-34)の50単位(L群)、100単位(M群)または200単位(H群)を、毎週皮下注射し、骨形成促進剤としての可能性について検討した。二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)で測定したところ、投与後48週目には、腰椎骨密度(BMD)は、L、M及びH群でそれぞれ、0.6%、3.6%及び8.1%増加した。・・・腰椎測定の変動係数が1?2.5%にとどまることから、・・・8.1%の増加は有意であると思われる。」(p.296の要約部分)

(ウ)「試験対象
・・・試験は、厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45から95歳の被検者220人を対象として実施した。このシステムは、・・・複数の因子をスコア化することによって評価して、骨粗鬆症を定義するものである。スコアの合計が4以上の場合(骨粗鬆症と定義)をこの試験への組み入れ基準とした。日本の大部分の開業医が、未だに骨粗鬆症の診断に、もっぱら、脊椎のX線撮影を用いていることから、X線撮影は、骨粗鬆症の診断基準に含める必要があった。X線上の骨減少は、腰椎の側面X線写真における骨梁の希薄化、すなわち、(1)横骨梁欠損による縦骨量の明瞭化、(2)縦骨量の粗化、及び、(3)縦骨量の減少、が認められた場合とした。X線上の骨減少は、BMDで、若年成人の平均値から20%または2.5SDの減少に相当する。・・・X線上の骨減少度が骨減少度1から3度、またはBMDが若年成人の平均値から2.5SD未満の場合はスコア3とした。椎骨骨折が一箇所の場合は、スコア1、同骨折が二箇所以上の場合はスコア2とした。大腿骨頸部骨折がある場合はスコア3とし、撓骨遠位端骨折がある場合はスコア1とした。骨量減少の原因となる骨軟化症、原発性副甲状腺機能亢進症及び腎性骨異栄養症などを除外するために、骨粗鬆症の診断を支持する因子として、正常血清カルシウム水準、同リン水準及び同アルカリホスファターゼ水準に、スコア1を与えることとした。ただし、1つ以上の異常がある場合には、スコア1を引くこととし、同様に、被検者が閉経前である場合にも、スコア1を引くこととした。」(p.297の左欄27行?右欄12行)

(エ)「結果
表1は、試験に参加した被検者における試験組み入れ基準の詳細をまとめたものである。
試験に当初登録した被検者220人を無作為に二重盲検下で割り付け[50単位投与群(L)に73人、100単位投与群(M)に75人、及び200単位投与群(H)に72人]、そのうち41人は、骨粗鬆症の診断基準に適合せず、また、試験前に投与されていた薬の休薬期間が不十分であったため、不適格とした。
正確なBMD測定を阻害する腰椎の退行性変化と圧迫変化を有する患者、及び、指定時間以外に測定した患者を排除したところ、不適格者にはさらに64人が含まれた。このため、腰椎BMDに及ぼす効果の分析は、被検者115人で実施した。内訳は、L群で39人、M群で38人及びH群で38人であった(表2)。・・・
被検者の治療開始時の特徴を各グループで比較したものを表3に示した。・・・
自覚症状
主として背部痛からなる自覚症状は、・・・H群で被検者47人中17人(34%)に、中程度またはやや改善がみられた。・・・
・・・
骨測定
・・・腰椎BMDは、試験開始前と比較して、治療後24と48週目に用量依存的に増加し、L、M及びH群でそれぞれ0.6%、3.6%及び8.1%であった。・・・被検者のうち、年齢が64歳以下と65歳以上、・・・に分類して比較したところ、サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。第二中手骨(皮質骨からなる)のX線写真上の骨密度には有意な差は認められず、各群の間で、皮質骨とX線写真上の骨量減少度が変化せずに一定に保たれていることを示していた。L群で被検者3人、M群で5人、及び、H群で0人に、椎体骨折が発生した・・・。

」(p.299の左欄11行?p.300の右欄末行)

(オ)「hPTH(1-34)が中手骨(ほとんどが皮質骨からなる)の骨密度を減少させることなく、腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を、48週という比較的短期間で有意に用量依存的に増加させたことから、hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療は、きわめて有望なものである。」(p.303の右欄17?23行)

(2)引用例1の記載事項(ア)によれば、引用例1は、3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験による、ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠毎週投与の効果に関するものである。そして、記載事項(イ)によれば、引用例1には、ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために、骨粗鬆症患者220名を対象として無作為に二重盲検下にて3群に割り付け、hPTH(1-34)の50単位(L群)、100単位(M群)または200単位(H群)を、毎週皮下注射し、骨形成促進剤としての可能性について検討したことが記載されている。
また、記載事項(ウ)によれば、上記試験は、厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45から95歳の被検者220人を対象として実施し、複数の因子をスコア化することによって評価して、骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4以上の場合(骨粗鬆症と定義)を上記試験への組み入れ基準としたことが記載されている。
そして、記載事項(ウ)及び(エ)によれば、腰椎BMDに及ぼす効果の分析は、被検者115人で実施し、内訳は、L群で39人、M群で38人及びH群で38人であったところ、投与後48週目には、腰椎骨密度(BMD)は、L、M及びH群でそれぞれ、0.6%、3.6%及び8.1%増加し、8.1%の増加は有意であると思われることが記載され、さらに、記載事項(エ)によれば、主として背部痛からなる自覚症状は、H群で被検者47人中17人(34%)に中程度またはやや改善がみられたこと、第二中手骨は変化せずに一定に保たれていること、及び、H群での椎体骨折の発生は0人だったこと、が記載されている。
最後に、記載事項(オ)によれば、hPTH(1-34)が中手骨の骨密度を減少させることなく、腰椎BMDを、48週という比較的短期間で有意に用量依存的に増加させたことから、hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて有望なものであること、が記載されている。

そうすると、これら引用例1の記載を総合すれば、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する、hPTH(1-34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって、厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45から95歳の被検者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4以上の場合の患者に投与される、骨粗鬆症治療剤。」


4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。まず、引用発明にいう「hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する、hPTH(1-34)を有効成分として含有する」及び「骨粗鬆症治療剤」は、各々、本願発明にいう「1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、」及び「骨粗鬆症治療ないし予防剤」に該当するものである。また、引用発明にいう「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45から95歳の被検者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4以上の場合の患者」も、本願発明にいう「下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である」も、特定の骨粗鬆症患者であることに変わりはない。

したがって、両者は、
「1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、特定の骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする、骨粗鬆症治療ないし予防剤。」
である点で一致し、以下の2点で文言上は相違する。
・特定の骨粗鬆症患者が、引用発明では、
「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45から95歳の被検者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4以上の場合の患者」
であるのに対し、
本願発明では
「下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」
である点(以下、「相違点1」という。)
・「骨粗鬆症治療ないし予防剤」について、本願発明では、さらに、「骨折抑制のための」という事項が追加されている点(以下、「相違点2」という。)。


5.判断
上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用例1の記載事項(イ)によれば、引用発明の骨粗鬆症治療剤の投与対象となったのは、H群の被検者であるから、この被検者がいかなる被検者であるのか検討するに、まず、記載事項(エ)の「Table1」すなわち表1の「GroupH」すなわちH群の「Ovarall Score」すなわち合計スコアの欄によれば、H群の72人中、合計スコア4の13人と同5以上の58人の合計71人が上記試験へ組み入れられたことがわかる。
また、同じく表1の「Radiographic osteopenia」すなわちX線上の骨減少の欄によれば、X線上の骨減少を示すH群の被検者は、「Grade 1?3」すなわち骨減少度1?3度の18+26+27=71人であることがわかる。そして、記載事項(ウ)によれば、X線上の骨減少を示す被検者は、BMDで、若年成人の平均値から20%の減少に相当する、とされるから、本願発明にいう「(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、」という条件を満たす被検者であるといえる。また、記載事項(ウ)によれば、X線上の骨減少を示す被検者は、腰椎の側面X線写真における骨梁の希薄化、すなわち、(1)横骨梁欠損による縦骨量の明瞭化、(2)縦骨量の粗化、及び、(3)縦骨量の減少、が認められる、とされ、これら(1)?(3)の内容は、本願明細書[0069]の骨萎縮度I?III度の内容と同様のものであるから、本願発明にいう「(3)・・・骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」という条件を満たす被検者であるともいえる。してみれば、結局、H群の72人中71人が、本願発明にいう上記(3)の条件を満たす被検者であるといえる。
また、同じく表1の「No. of vertebral fracture」すなわち椎骨骨折数の欄によれば、椎骨骨折を有するH群の被検者は、一箇所の15人と二箇所以上の28人の合計43人、「No. of hip fracture」すなわち大腿骨骨折数の欄によれば、大腿骨骨折を有するH群の被検者は3人、「No. of distal radial fractures」すなわち遠位撓骨骨折数の欄によれば、遠位撓骨骨折を有するH群の被検者は3人であることがわかる。そして、複数種類の骨折を有する被検者があり得ることを考慮すると、骨折を有するH群の被検者は43?49(=43+3+3)人であるといえる。してみれば、H群の72人中43?49人が本願発明にいう上記(2)の条件を満たす被検者であるといえる。
また、記載事項(エ)の「Table3」すなわち表3の「GroupH」すなわちH群の「Age(years)」すなわち年齢(歳)の欄の「71.7±10.78(72)」によれば、H群72人の年齢は、平均71.7歳で標準偏差が10.78であると解されるから、H群72人の中には、65歳以上の被検者、すなわち、本願発明にいう上記(1)の条件を満たす被検者が過半数存在するといえる。
そうすると、引用発明の骨粗鬆症治療剤の投与対象となったH群の被検者72人中71人が上記試験へ組み入れられ、同72人中71人が本願発明にいう上記(3)の条件を満たし、同72人中43?49人が本願発明にいう上記(2)の条件を満たし、同72人中過半数が本願発明にいう上記(1)の条件を満たすこととなるから、それぞれの人数の72人に占める割合の大きさに鑑みれば、H群の被検者72人中に、上記試験へ組み入れられ、かつ、本願発明にいう上記(1)?(3)の全ての条件を満たす被検者が少なからず存在する蓋然性は高い。しかも、高齢者ほど骨粗鬆症の病歴が長くなり、病歴が長くなれば、骨折する機会が増えるのは自明の理であるから、上記(1)の条件を満たす被検者は、同条件を満たさない被検者に比較して、上記(2)の条件も満たす確率が高いので、なおのこと、上記蓋然性は高い。
してみれば、引用発明にいう「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45から95歳の被検者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4以上の場合の患者」の中には、本願発明にいう
「下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」
が少なからず存在する蓋然性が高い点で、両者は重複している、とするのが相当である。

・相違点2について
骨粗鬆症とは、「骨量が減少し、緻密である骨の構造が変化するため、骨が脆くなり骨折しやすくなった病態」で、「骨密度測定を行い、骨量減少の程度を把握する。治療後も定期的に測定し、効果を判定する」(原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、治療, 1998, 80(増刊), p.1060-1061のp.1060左欄の「患者への病気の説明」の欄より。)疾患として、本願優先日前から周知の疾患である。してみると、骨粗鬆症治療剤とは、骨を強くし、骨折しにくくするための治療剤であることは、本願優先日当時、当業者にとって自明の事柄であったといえるし、引用発明の骨粗鬆症治療剤のように、骨密度の有意な増加が見られたとされる骨粗鬆症治療剤においてはなおのこと、骨折しにくくするための治療剤であることは、自明の事柄であったといえる。
してみれば、引用発明にいう「骨粗鬆症治療剤」と本願発明にいう「骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤」の間に実質的な差異はない。また、記載事項(エ)によれば、H群では椎体骨折が発生しなかったのであるから、この点からも、両者の間に実質的な差異はない。

してみると、本願発明と引用発明の間に相違点は見いだせない。

また、仮に、相違点1及び2を相違点であると解したとしても、本願発明に、引用発明に対する進歩性は見いだせない。
すなわち、まず相違点1について検討すると、本願発明にいう「(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者」とは、要するに、より高齢であり、また、既に骨折の経験もあることから、転倒や骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者であり、そのような患者こそ優先的に治療すべきであることは、当業者にとって自明のことである。してみれば、引用例1のH群の被検者の中で、65歳以上で、骨折を有し、X線上の骨減少を示す患者に着目し、引用発明の骨粗鬆症治療剤を適用するものとすることに、当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
また、相違点2について検討すると、先に説示したように、引用発明の骨粗鬆症治療剤が骨折しにくくするための治療剤であることは自明の事柄であったといえるのであるから、引用発明にいう「骨粗鬆症治療剤」を骨折抑制のためのものとすることに、当業者が格別の創意を要したものとはいえない。
続いて本願発明の効果について検討するに、本願発明の効果は、本願明細書の[0013]の記載によれば、PTHの投与量・投与間隔を特定することにより、安全性の高い骨折抑制/予防方法となること、及び、高リスク患者に対して特に効果を奏すること、とされているものと解されるが、骨粗鬆症治療剤なるものは、種類により、また患者の状態により程度の差はあっても、骨折を減らす効果をもつものであることは自明のことであり、引用発明の骨粗鬆症治療剤についても、引用例1において、実際に被験者に投与し、腰椎BMDを有意に増加し、自覚症状に改善がみられ、第二中手骨は変化せずに一定に保たれ、椎体骨折の発生は0人だったことが記載されているのであるから、本願発明の効果は、引用例1の記載から当業者が予測し得る範囲のものに過ぎない。

なお、審判請求人は、原審における意見書において、20xx年x月にラットがん原性試験において骨肉腫の発生が疑われたために臨床試験が中止される前の臨床試験結果に対応するものが、引用例1である、という事情があることを主張する。
しかしながら、引用例1においては、既に患者に対する臨床試験が行われていたのであり、その後の動物実験において骨肉腫の発生が疑われたという事情は、実際に市販しようとする医薬品の開発を慎重に行う理由とはなり得ても、引用例1に引用発明が記載されていると当業者が認識しない理由となるとまではいえない。しかも、本願優先日当時、ラットでのhPTH(1-34)の骨肉腫の発生の危険性がそのままヒトに当てはまるとはいえないという学説も存在した(必要なら、例えば、Toxicologic Pathology (2002), 30(3), 312-321参照。)ことを考慮すればなおのこと、上記事情が、引用例1に引用発明が記載されていると当業者が認識しない理由となるとまではいえない。
してみれば、上記事情によっては、先に説示した認定、判断は、左右されない。

また、審判請求人は、審判請求書において、本願発明の進歩性に関し、



というグラフを示して、本願発明の骨粗鬆症治療剤は、BMD増加効果から予測できないほどの骨折抑制効果を有する旨主張する。
しかしながら、該主張の根拠とされる、これらのグラフの回帰直線は、hPTH(1-34)以外の骨粗鬆症治療剤や、hPTH(1-34)を毎日投与することによる骨粗鬆症治療剤から得られたものであり、先に説示した認定、判断は、これらの骨粗鬆症治療剤の発明に基づくものではないから、上記各グラフに基づく主張によっては、先に説示した認定、判断は左右されない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-30 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2011-530844(P2011-530844)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 貴子小堀 麻子  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 内藤 伸一
川口 裕美子
発明の名称 1回当たり100?200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤  
代理人 城山 康文  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  

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