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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C |
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管理番号 | 1329962 |
審判番号 | 不服2016-11893 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-05 |
確定日 | 2017-07-25 |
事件の表示 | 特願2012-231562「すべり軸受及び軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-210094、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成24月10月19日(優先権主張平成24年2月27日)の出願であって、平成27年9月28日付けで拒絶理由が通知され、同年11月11日に意見書が提出され、平成28年4月21日付け(発送日:同年5月6日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成29年1月10日に上申書が提出されたものである。その後、当審において同年4月6日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月5日に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、同年6月14日に上申書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、平成29年6月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 内燃機関のクランク軸を支承するすべり軸受であって、 前記すべり軸受を構成する一対の半円筒形部材を備え、 前記半円筒形部材は、前記半円筒形部材の内周面における円周方向の端面に隣接する領域に、前記端面に向かって壁厚が薄くなるように形成されたクラッシュリリーフと、前記半円筒形部材の内周面におけるクラッシュリリーフ以外の領域である主円筒面とを有し、 少なくとも一方の前記半円筒形部材の少なくともクランク軸の回転方向の前方側又は両側のクラッシュリリーフは、 前記端面に近い側に半径方向外向きに凸の外向凸曲面と、前記端面から遠い側に半径方向内向きに凸の内向凸曲面と、を有し、前記内向凸曲面は、前記半円筒形部材の内周面より半径方向外側に曲率中心を有し前記クラッシュリリーフ全体の周方向長さが3mm?7mmであり、前記内向凸曲面の周方向長さが、1mm以上であり、仮想主円筒面から前記外向凸曲面と前記内向凸曲面との変曲点までの距離である前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmであることを特徴とするすべり軸受。 【請求項2】 前記内向凸曲面は、前記主円筒面に漸近するように形成されることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。 【請求項3】 前記外向凸曲面は、前記半円筒形部材の半径方向内側に中心が位置する円筒面形状に形成されることを特徴とする請求項2に記載のすべり軸受。 【請求項4】 前記すべり軸受を平面展開した状態において、前記内向凸曲面と、前記主円筒面を前記クラッシュリリーフの領域上に延長した仮想主円筒面と、の間の領域の断面を、前記内向凸曲線の周方向長さの中点を通る線分で区分して、前記端面から遠い第一領域の断面積をA1とし、前記端面に近い第二領域の断面積をA2とした場合に、以下の関係式: A1/A2<0.3 を満たすことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のすべり軸受。 【請求項5】 前記すべり軸受は、クランク軸のクランクピン部を支承するコンロッド軸受である請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のすべり軸受。 【請求項6】 前記すべり軸受は、クランク軸のジャーナル部を支承する主軸受である請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のすべり軸受。 【請求項7】 請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のすべり軸受と、前記すべり軸受を保持するハウジングと、前記すべり軸受に支承されるクランク軸とを備える軸受装置。」 第3.刊行物 1.刊行物1 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平4-219521号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ジャーナル軸受」に関して、図面(特に、【図1】ないし【図5】、【図7】参照。)とともに、次の事項が記載されている。 下線は当審が付した。 (1)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明はエンジンのためのジャーナル軸受に関し、特に、ジャーナル軸受を通る潤滑剤の流れを定量制御する偏心の潤滑剤供給溝を有するジャーナル軸受に関する。」 (2)【0009】 【実施例】図1には、シリンダブロック14と着脱自在な軸受キャップ16とにより画定された円筒状ボア12内で回転支持されたクランクシャフトジャーナル10を示す。ジャーナル軸受18は円筒状ボア12内で固定されていて、クランクシャフトジャーナル10と回転可能な状態で接触している。軸受ジャーナル18は分割線24で端部どうしが当接した一対の半円筒形の軸受シェル即ちインサート20、22を有する。ジャーナル軸受18とクランクシャフトジャーナル10との間には間隙が設けられ、この間隙内に荷重支持潤滑油薄膜(フィルム)を形成して、回転中のジャーナル軸受とクランクシャフトジャーナルとの直接接触を阻止する。オイル(油)供給チャンネル26は、シリンダブロック14のオイル室又は他の外部オイル供給源からの潤滑油を、軸受シェル20の潤滑剤供給開口28を通してジャーナル軸受18へ供給する。 【0010】図4、5に示す好ましい実施例においては、軸受シェル20の内向きの軸受表面30は、円周方向において、円筒状ボア12の中央軸線34に中心を置く同心の中央部分32と、中央軸線34から偏心した軸線38を有する一対の偏心端部分36とに分割される。同心の中央部分32はすべての地点で中央軸線34から等距離に位置し、所定の角度距離だけ円周方向に延び同心端部40で終端している。偏心端部分36は同心中央部分32の各同心端部40から外方へ漸進的に延びて、軸受シェル20の外端42で終端する。偏心端部分36の実際の曲率は軸線38の位置に依存する。軸受シェル20の軸方向全長にわたって延びる偏心端部分36は分割線24での半径方向のリリーフ(逃がし手段)を提供し、変動荷重又は組立て期間中の外端42の僅かな不整合による円筒状ボア12の変形に起因する分割線での軸受シェル20、22の不整合による軸受欠陥を防止する。 【0011】クランクシャフトジャーナル10とジャーナル軸受18との間に必要な潤滑剤薄膜を確立するのに十分な潤滑剤を供給するためには、図2、3に示す潤滑剤供給溝44は軸受シェル20の内向きの軸受表面30に形成される。潤滑剤供給溝44は中央軸線34から偏心した軸線46(図4)上にその中心を置く。その結果、潤滑剤供給溝44はその最深部(同心中央部分32の中心に位置するのが好ましい)から傾斜して、軸受シェル20の中心とその外端42との中間の位置で終端する。それ故、潤滑剤供給溝44は所定の長さを有する。内向きの軸受表面30とクランクシャフトジャーナル10との間にごみや汚物が溜まるのを阻止するためにジャーナル軸受18を通る潤滑剤の十分な流れを提供するため、(偏心した)軸線46は、潤滑剤供給溝44が各偏心端部分36内で終端し、同心中央部分32と偏心端部分36と(偏心した)潤滑剤供給溝44との交差点で潤滑剤定量供給オリフィス48を形成するように、位置している。この結果、分割線へ延びる潤滑剤供給溝を有するジャーナル軸受に通常関連するオイル圧力損失を減少でき、(オイル圧力を維持するためのエンジンパワーが少なくて済むので)エンジン効率を向上させることができる。また、潤滑剤定量供給オリフィス48が提供されるので、潤滑油の制御された流れ即ち定量流れをジャーナル軸受18に流通させ、ジャーナル軸受内での有害なごみや沈着物の蓄積を防止できる。本発明の基本的な利点は、潤滑剤供給溝の終端地点を変えるように即ち潤滑剤定量供給オリフィス48の寸法を変えるように軸線46の偏心度を変更することにより、ジャーナル軸受18を通る潤滑剤の流量を調整できることである。それ故、潤滑剤定量供給オリフィス48及び軸受シェル20を通る潤滑剤の体積は潤滑剤供給溝44の端部でのクランクシャフトジャーナル10と内向きの軸受表面30との間の間隙に依存する所定の値となる。その結果、特定のエンジン仕様にジャーナル軸受を合わせることができる。」 (3)上記(2)の「軸受ジャーナル18は分割線24で端部どうしが当接した一対の半円筒形の軸受シェル即ちインサート20、22を有する。」(段落【0009】)との記載、及び、上記(2)の「偏心端部分36は同心中央部分32の各同心端部40から外方へ漸進的に延びて、軸受シェル20の外端42で終端する。」(段落【0010】)との記載、並びに、【図1】及び【図4】によれば、半円筒形の軸受シェル20,22の内周面における円周方向の外端42に隣接する領域に偏心端部分36を備えることが分かる。 (4)上記(2)の「偏心端部分36は同心中央部分32の各同心端部40から外方へ漸進的に延びて、軸受シェル20の外端42で終端する。」(段落【0010】)との記載、及び、、【図5】によれば、偏心端部分36は、外端42に近い側に半径方向外向きに凸の外向凸曲面と、前記外端42から遠い側に同心端部40を備えることが分かる。 上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「エンジンのクランクシャフトジャーナル10を支承するジャーナル軸受18であって、 前記ジャーナル軸受18を構成する一対の半円筒形の軸受シェル20,22を備え、 前記半円筒形の軸受シェル20,22は、前記半円筒形の軸受シェル20,22の内周面における円周方向の外端42に隣接する領域に、前記外端42に向かって壁厚が薄くなるように形成された偏心端部分36と、前記半円筒形部材の内周面における偏心端部分36以外の領域である同心中央部分32とを有し、 前記半円筒形の軸受シェル20,22のクランクシャフトジャーナル10の回転方向の両側の偏心端部分36は、 前記外端42に近い側に半径方向外向きに凸の外向凸曲面と、前記外端42から遠い側に同心端部40と、を有するジャーナル軸受18。」 2.刊行物2及び刊行物3 (1)原査定に周知技術を示す文献として引用され、本願の優先日前に頒布された特開2005-69283号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「クランクベアリング」に関して、図面(特に、【図1】ないし【図5】参照。)とともに、次の事項が記載されている。 「【0024】 図1は、クランクベアリング1の斜視構造を示す。 図2は、クランクベアリング1の正面構造を示す。 クランクベアリング1は、半円状のアッパベアリング11(第1ベアリング)及びロワベアリング21(第2ベアリング)を一組として構成される。 【0025】 アッパベアリング11は、給油孔12及び給油溝13を有する。 給油孔12は、アッパベアリング11の外周面14と内周面15とを連通する。 給油溝13は、内周面15の周方向に沿って形成されている。また、一方の端面16から他方の端面16まで形成されている。なお、端面16における給油溝13の開口部を開口面13oとする。 【0026】 アッパベアリング11は、端部17の内周面15にクラッシュリリーフ18を有する。また、クラッシュリリーフ18から端面16にかけて面取り部19が形成されている。 クラッシュリリーフ18及び面取り部19は、アッパベアリング11の軸方向に沿って給油溝13から各側面1s(外周面14と内周面15とを接続する円弧状の面)まで形成されている。なお、アッパベアリング11においては、クラッシュリリーフ18及び面取り部19により拡径部が構成されている。 【0027】 ロワベアリング21は、端部22の内周面23にクラッシュリリーフ24を有する。また、クラッシュリリーフ24から端面25にかけて面取り部26が形成されている。 クラッシュリリーフ24及び面取り部26は、ロワベアリング21の軸方向に沿って一方の側面2s(外周面27と内周面23とを接続する円弧状の面)から他方の側面2sまで形成されている。なお、ロワベアリング21においては、クラッシュリリーフ24及び面取り部26により拡径部が構成されている。 【0028】 ちなみに、クラッシュリリーフ18,24は、各ベアリング11,21の組み付けに際して生じる合わせ部のずれを吸収するために形成されている。」 (2)原査定に周知技術を示す文献として引用され、本願の優先日前に頒布された特開2012-2247号公報(以下「刊行物3」という。)には、「半割軸受」に関して、図面(特に、【図1】、【図11】参照。)とともに、次の事項が記載されている。 ア.「【0001】 本発明は、内周面の周方向両端部にクラッシュリリーフが形成された内燃機関のクランク軸用の半割軸受に関するものである。」 イ.「【0020】 以下、本発明の実施形態について図1乃至図11を参照して説明する。図1は、クランク軸10のジャーナル部を支持する一対の半割軸受2,3からなるすべり軸受1の側面図であり、図2は、ジャーナル部用すべり軸受1における上半割軸受2の平面図であり、図3は、ジャーナル部用すべり軸受1における下半割軸受3の平面図であり、図4は、クランク軸10のクランクピン部を支持する一対の半割軸受2,3からなるすべり軸受1の側面図であり、図5は、クランクピン部用すべり軸受1における上半割軸受2の平面図であり、図6は、クランクピン部用すべり軸受1における下半割軸受3の平面図であり、図7及び図8は、クランクピン部用すべり軸受1における異物11の排出メカニズムを説明するためのすべり軸受1の側面図(A)及び平面図(B)であり、図9は、軸線方向溝6の横断面図であり、図10は、クランク軸10のクランクピン部を支持する一対の半割軸受2,3に各々2つの軸線方向溝6を形成したすべり軸受1の側面図であり、図11は、半割軸受2,3における軸線方向溝6を形成する範囲を説明するための半割軸受2,3の側面図である。なお、上記した図は、実施形態に係るすべり軸受1の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。 【0021】 まず、クランク軸10のジャーナル部に本発明の半割軸受2,3を適用した第1実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、内燃機関のクランク軸10を回転可能に支持するすべり軸受1は、半割形状に形成された一対の半割軸受2,3を上下2個組み合わせて円筒形状となるように形成されている。この半割軸受2,3の内周面2a,3aは、耐焼付性など半割軸受2,3の軸受特性を満足するために、例えば、鋼裏金に銅系合金、アルミニウム合金、錫系または鉛系合金等の摺動材がライニングされており、必要に応じて錫系または鉛系合金や合成樹脂系等のオーバーレイが施されている。 【0022】 また、図2に示すように、半割軸受2,3のうち上半割軸受2の内周面2aには、半割軸受2,3と該半割軸受2,3に支持されるクランク軸10との間に潤滑油を供給するための油溝4が、円周方向の全体に沿って幅方向ほぼ中央に形成されている。この油溝4は、円周方向の所定の範囲に亘って一定の深さ、若しくは深さを漸減または漸増するように形成される。また、油溝4には、外部から油の供給を受けるための供給穴4aが、上半割軸受2の半径方向に貫通して形成されている。 【0023】 また、図2及び図3に示すように、半割軸受2,3の内周面2a,3aには、凹形状に 切り欠かれたクラッシュリリーフ5が、幅方向の全体に亘って周方向両端部に形成されている。このクラッシュリリーフ5は、図1に示すように、2つの半割軸受2,3を組み合わせて円筒形状にした際、クランク軸10表面との間にリリーフ隙間7が形成されることになり、半割軸受2,3の突き合わせ端面での位置ずれや変形を吸収し、クランク軸10との局部当たりを防止するものである。なお、半割軸受2,3のクランク軸10の相対回転方向の後方側にあたる周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5は、クランク軸10の相対回転方向の前方側へ向かって次第にリリーフ隙間7が小さくなり、半割軸受2,3のクランク軸10の相対回転方向の前方側にあたる周方向端部に形成されたクラッシュリリーフ5は、クランク軸10の相対回転方向の後方側へ向かって次第にリリーフ隙間7が小さくなるように形成されている。」 (3)上記(1)及び(2)によれば、「すべり軸受の半円筒形部材において、前記半円筒形部材の内周面における円周方向の端面に隣接する領域に、前記端面に向かって壁厚が薄くなるようにクラッシュリリーフを設けること。」という技術事項は本願優先日前において周知の技術(以下、「周知技術」という。)であると認められる。 第4.対比・判断 1.本願発明1について 本願発明1と引用発明とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、引用発明における「エンジン」は本願発明1における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「クランクシャフトジャーナル10」は「クランク軸」に、「ジャーナル軸受18」は「すべり軸受」に、「半円筒形の軸受シェル20,22」は「半円筒形部材」に、「外端42」は「端面」に、「同心中央部分32」は「主円筒面」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「偏心端部分36」は「薄肉部分」という限りにおいて、本願発明1における「クラッシュリリーフ」に相当する。 そして、引用発明における「同心端部40」は「内向凸部」という限りにおいて、本願発明1における「凸部半径方向内向きに凸の内向凸曲面」に相当する。 したがって、両者は、 「内燃機関のクランク軸を支承するすべり軸受であって、 前記すべり軸受を構成する一対の半円筒形部材を備え、 前記半円筒形部材の内周面における円周方向の端面に隣接する領域に、前記端面に向かって壁厚が薄くなるように形成された薄肉部分と、前記半円筒形部材の内周面における薄肉部分以外の領域である主円筒面とを有し、 前記半円筒形部材のクランク軸の回転方向の両側の薄肉部分は、 前記端面に近い側に半径方向外向きに凸の外向凸曲面と、前記端面から遠い側に内向凸部と、を有する、すべり軸受。」 で一致し、次の点で相違する。 〔相違点〕 「薄肉部分」が、本願発明1は「クラッシュリリーフ」であって、「クラッシュリリーフ」の「内向凸曲面」は、「前記半円筒形部材の内周面より半径方向外側に曲率中心を有し」、「前記クラッシュリリーフ全体の周方向長さが3mm?7mmであり、前記内向凸曲面の周方向長さが、1mm以上であり、仮想主円筒面から前記外向凸曲面と前記内向凸曲面との変曲点までの距離である前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmである」のに対し、引用発明は「偏心端部分36」であって、かかる構成を有しない点。 そこで、相違点について検討する。 相違点に係る本願発明1の「クラッシュリリーフ」の「内向凸曲面」は、「前記半円筒形部材の内周面より半径方向外側に曲率中心を有し」、「前記クラッシュリリーフ全体の周方向長さが3mm?7mmであり、前記内向凸曲面の周方向長さが、1mm以上であり、仮想主円筒面から前記外向凸曲面と前記内向凸曲面との変曲点までの距離である前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmである」という構成は、上記刊行物1ないし3には記載されておらず、本願優先日前において周知の技術であるともいえない。 そして、本願発明1は、かかる構成を備えることにより、明細書の段落【0049】における「このように、外向凸曲面70aと内向凸曲面70bの両方を有する本実施例のクラッシュリリーフ70によれば、潤滑油のくさび油膜圧力Pによって、半円筒形部材31、32のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端部側の内周面と相手軸との直接の接触が防がれ、軸受の内周面の損傷を防止できる。換言すると、まず、外向凸曲面70aによって、クラッシュリリーフ70と軸表面51で囲まれる空間内に一定量の潤滑油を保持できるため、クローズイン現象によって相手軸の軸表面51とすべり軸受の水平方向の内周面(クラッシュリリーフ70の位置)とが近づくときには、流体力学的な絞り作用によってクラッシュリリーフ70内の潤滑油の圧力が上昇してクラッシュリリーフ70内を外向凸曲面70a側から内向凸曲面70b側へ向かう潤滑油の流れが形成される。そして、内向凸曲面70bによって、クローズイン現象によってクラッシュリリーフ70面と相手軸表面51とが最接近する瞬間に、半円筒形部材31、32のクランク軸の回転方向の前方側のクラッシュリリーフ70内では、クランク軸の回転方向とは逆向きの潤滑油の流れが内向凸曲面70bと相手軸表面51との間に形成され、潤滑油が内向凸曲面70bと相手軸表面51との間の急激に狭くなった隙間を通過する際に、流体力学的なくさび作用によって瞬間的に大きなくさび油膜圧力Pを生ずる。このため、相手軸表面51と半円筒形部材31、32のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端部付近の主円筒面71との直接の接触が防がれる。」との効果を奏するものである。 このような本願発明1が奏する効果は、引用発明及び上記周知技術から、当業者が予測できるものではない。 したがって、引用発明において、当業者が上記周知技術を適用して、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。 よって、本願発明1は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2.本願発明2ないし7について 本願発明2ないし7は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ本願発明1と同様に、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5.原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3,5ないし9について上記刊行物1ないし3(刊行物2及び刊行物3は周知技術を示す文献)に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年6月5日の手続補正により補正された請求項1及び請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2ないし7は、それぞれ「クラッシュリリーフ」の「内向凸曲面」は、「前記半円筒形部材の内周面より半径方向外側に曲率中心を有し」、「前記クラッシュリリーフ全体の周方向長さが3mm?7mmであり、前記内向凸曲面の周方向長さが、1mm以上であり、仮想主円筒面から前記外向凸曲面と前記内向凸曲面との変曲点までの距離である前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmである」との事項を備えるものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし7は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6.当審拒絶理由について 当審では、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知している。 (1)請求項1において「クラッシュリリーフ」における「内向凸曲面」の長さや深さが不明であるため、明細書の段落【0049】の「このように、外向凸曲面70aと内向凸曲面70bの両方を有する本実施例のクラッシュリリーフ70によれば、潤滑油のくさび油膜圧力Pによって、半円筒形部材31、32のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端部側の内周面と相手軸との直接の接触が防がれ、軸受の内周面の損傷を防止できる。換言すると、まず、外向凸曲面70aによって、クラッシュリリーフ70と軸表面51で囲まれる空間内に一定量の潤滑油を保持できるため、クローズイン現象によって相手軸の軸表面51とすべり軸受の水平方向の内周面(クラッシュリリーフ70の位置)とが近づくときには、流体力学的な絞り作用によってクラッシュリリーフ70内の潤滑油の圧力が上昇してクラッシュリリーフ70内を外向凸曲面70a側から内向凸曲面70b側へ向かう潤滑油の流れが形成される。そして、内向凸曲面70bによって、クローズイン現象によってクラッシュリリーフ70面と相手軸表面51とが最接近する瞬間に、半円筒形部材31、32のクランク軸の回転方向の前方側のクラッシュリリーフ70内では、クランク軸の回転方向とは逆向きの潤滑油の流れが内向凸曲面70bと相手軸表面51との間に形成され、潤滑油が内向凸曲面70bと相手軸表面51との間の急激に狭くなった隙間を通過する際に、流体力学的なくさび作用によって瞬間的に大きなくさび油膜圧力Pを生ずる。このため、相手軸表面51と半円筒形部材31、32のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端部付近の主円筒面71との直接の接触が防がれる。」との効果を奏するための発明特定事項が、請求項1において明確に記載されているとはいえない。 これに対して、平成29年6月5日の手続補正により、請求項1は、「前記クラッシュリリーフ全体の周方向長さが3mm?7mmであり、前記内向凸曲面の周方向長さが、1mm以上であり、仮想主円筒面から前記外向凸曲面と前記内向凸曲面との変曲点までの距離である前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmである」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2)請求項6の「前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmである」との記載に関して、「内向凸曲面の径方向深さ」は、内向凸曲面の周方向に沿ってその深さが変化するものであるから、内向凸曲面のどの部分の径方向深さが「5μm?15μm」であるかが明確でない。 これに対して、平成29年6月5日の手続補正により、請求項6の当該記載は削除され、当該記載を請求項1に加入する際に、「仮想主円筒面から前記外向凸曲面と前記内向凸曲面との変曲点までの距離である前記内向凸曲面の径方向深さが、5μm?15μmである」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第7.むすび 以上のとおり、本願発明1ないし7は、いずれも、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-07-12 |
出願番号 | 特願2012-231562(P2012-231562) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(F16C)
P 1 8・ 121- WY (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 日下部 由泰 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 内田 博之 |
発明の名称 | すべり軸受及び軸受装置 |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |