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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1330016
審判番号 不服2015-14357  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-30 
確定日 2017-07-04 
事件の表示 特願2009-288201「アミドまたはエステル脂肪を含むケラチン繊維の酸化染色のための組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日出願公開、特開2010-143912〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月18日(パリ条約による優先権主張 2008年12月19日 フランス)を出願日とする特許出願(特願2009-288201号)であって、平成26年3月12日付けで拒絶理由が通知され、同年8月18日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正されたが、平成27年3月25日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲が補正され、同年9月9日に手続補正書(方式)で審判請求書の請求の理由が補正されたものである。

第2 本件補正及び本願発明
平成27年7月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1における「一種または複数の」という表現(4箇所)を「一種以上の」という表現に補正したものである。
これは請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)の何れの目的にも該当しないから、本件補正は、厳密にいうと補正目的違反である。
しかしながら、事案に鑑み、本件補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるとし、またいわゆる新規事項を追加するものでもないため、本件補正を却下しないこととする。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という)。

「A)少なくとも25%の1種以上の脂肪を含み、前記脂肪のうちの少なくとも1種は脂肪酸アミド及び脂肪酸のエステルから選択され、さらに、B)1種以上の染料前駆体と、C)1種以上の酸化剤と、任意で、D)1種以上のアルカリ性作用剤とを含む、ケラチン繊維の酸化染色のための組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、要するに、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)を満たしていないというものである。

第4 当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号について

特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」という規定に適合するものでなければならないとするものである。

その趣旨は、特許制度は発明を公開させることを前提に特許を付与するものであるところ、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると、公開されていない発明について権利を請求することになるから、これを防止するというものである。

そして、特許請求の範囲に記載した発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、単に表現上の整合性のみで足りるのではなく、発明の詳細な説明の記載により当業者がその発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、あるいはその記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らしてその発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する必要がある。

そこで、これらの点を考慮して以下に検討する。

2 本願明細書の発明の詳細な説明

(ア)「【0011】
本発明の目的は、従来の技術の欠点がないケラチン繊維の酸化染色のための新規な組成物を得ることである。とりわけ、本発明の目的は、所望される明色化が実現できるよう改善された染色特性を発揮し、容易に混合及び施用でき、特に流れずに、よって施用した箇所に留まるようなケラチン繊維の酸化着色のための組成物を得ることである。「改善された染色特性」とは、特に、染色の深み/強さ及び/または一様性に関しての改善を意味する。」

(イ)「【0012】
したがって、この目的は、ケラチン繊維、特に髪などのヒトのケラチン繊維の酸化染色のための組成物であって、
A)1種または複数の脂肪であって、このうちの少なくとも1種の脂肪が脂肪酸アミド及び脂肪酸のエステルから選択される脂肪を少なくとも25%と、
B)1種または複数の染料前駆体と、
C)1種または複数の酸化剤と、
任意で、
D)1種または複数のアルカリ性作用剤と
を含む組成物に関する本発明によって達成される。
【0013】
本発明による組成物は、改善された染色特性を特徴とする。特に、本発明の組成物によって、深み及び/または強さに優れた、及び/または髪の先端から根まで、繊維に沿って、色の一様性(着色の選択性とも呼ばれている)が優れた、及び/または色度に優れた着色が得られる。本発明の組成物は、流れずに、ケラチン繊維に容易に施用することができる。この組成物はまた、着色処理中のケラチン繊維の劣化が少ない。」

(ウ)「【0182】
(実施例1)
【0183】
【表1】


【0184】
【表2】


【0185】
【表3】



(エ)「【0186】
(実施例2)
【0187】
【表4】


【0188】
【表5】


【0189】
この実施例に使用した組成物3は、実施例1に記載したものと同一である。」

(オ)「【0190】
各実施例の組成物1、2及び3は、使用時に、組成物1を10g及び組成物1を4gと、組成物3を16gの割合で混合する。混合物を、白髪が90%混じった天然の白髪の房に、毛髪1gに対して混合物10gの割合で施用する。30分間待った後、髪を濯ぎ、標準のシャンプーで洗浄し、乾燥する。
【0191】
毛染めを視覚的に評価する。
【0192】
【表6】



3 本願がサポート要件を満たさない具体的理由について
(1)本願発明について
ア 本願明細書の記載によれば、本願発明は「所望される明色化が実現できるよう改善された、染色の深み/強さ/一様性を発揮し、容易に混合及び施用でき、特に流れずに、よって施用した箇所に留まるようなケラチン繊維の酸化着色のための組成物を得ること」を解決課題とするものであり(上記摘示(ア))、発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明は、「A)少なくとも25%の1種以上の脂肪を含み、前記脂肪のうちの少なくとも1種は脂肪酸アミド及び脂肪酸のエステルから選択され、さらに、B)1種以上の染料前駆体と、C)1種以上の酸化剤と、任意で、D)1種以上のアルカリ性作用剤とを含む、ケラチン繊維の酸化染色のための組成物。」とすること、すなわち本願発明の構成を全て備えることで、上記課題を解決するとされている(上記摘示(イ))。なお、本願発明の構成のうち、「D)1種以上のアルカリ性作用剤」は、任意であるから、本願発明の課題は、「D)」を除く組成物によっても解決できるとされる。

イ しかしながら、 本願明細書の発明の詳細な説明の実施例以外には、「A)少なくとも25%の1種以上の脂肪を含み、前記脂肪のうちの少なくとも1種は脂肪酸アミド及び脂肪酸のエステルから選択され、さらに、B)1種以上の染料前駆体と、C)1種以上の酸化剤と、任意で、D)1種以上のアルカリ性作用剤とを含む、ケラチン繊維の酸化染色のための組成物。」と、上記課題との関連性については、何ら示されていない。
具体的にいえば、A)の脂肪、B)の染料前駆体、C)の酸化剤を組み合わせることによって、上記課題を解決するとは記載されていないし、A)の脂肪、B)の染料前駆体、C)の酸化剤の各々の成分についても、上記課題を解決するために配合するとも記載されていない。

ウ また、本願明細書の実施例について検討するに、本願発明の実施例である実施例1(上記摘示(ウ))及び実施例2(上記摘示(エ))の組成物が奏する効果としては、各々「自然な明るい栗色」、「マホガニーレッドの光沢のある暗い栗色」であると記載されているのみで(上記摘示(オ))、施用中の状態は記載すらされていないのであるから、上記課題のうち、施用中の課題である「容易に混合及び施用でき、特に流れずに、よって施用した箇所に留まるようなケラチン繊維の酸化着色のための組成物を得ること」を解決できたことを当業者が認識することはできない。
また、本願発明の他の課題である「所望される明色化が実現できるよう改善された染色の深み/強さ/一様性を発揮」することに関しても、実施例1は「明るい」のに対し、実施例2は「暗い」との評価であることからみて、実施例の組成物の全てが、明色化が実現できたものとはいえないし、染色の深み、強さ、一様性の程度は記載すらされていないから、やはり「所望される明色化が実現できるよう改善された染色特性を発揮」する組成物を得るとの本願発明の課題を解決できたことを当業者が認識することができない。
以上より、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明の上記課題を解決できると認識できるに足る実施例の記載はない。
そうすると、本願明細書の全体の記載からは、本願発明の課題とその解決手段との間に何らかの関連性を見いだすことはできず、したがって、本願明細書には、本願発明の組成物と本願発明の課題との関係の技術的意味が当業者に理解できるように記載されているということはできない。

(2)技術常識について
本願出願時(優先日)の技術常識を参酌しても、本願発明に記載されている構成によって、上記課題が解決できることが自明であったともいえない。

(3)請求人の主張について
ア 審判請求人が平成26年8月18日付けで提出した意見書には、本願発明による組成物の追加実施例が、以下のとおり、示されている。

(カ)「【表4】



(キ)「・染色特性
髪の色を、L^(*)a^(*)b^(*)系を利用し、MINOLTA CM2600(・・・)分光光度計で測定した。
この系によれば、L^(*)は明度を表す。L^(*)の値が最低であれば、髪の色の強度が最高である。」(5頁下から7行?3行)

(ク)「【表5】


本発明による組成物A4は、A1、A2、及びA6の比較例組成物よりも低いL^(*)の値を示す。組成物A4によって得られる色は、より強力であった。」

(ケ)「【表6】


本発明による組成物A5は、A1、A3、及びA7の比較例組成物よりも低いL^(*)の値を示す。組成物A4によって得られる色は、より強力であった。」

イ そして、請求人は上記追加実施例を踏まえ、「以上の比較実験結果によっても、脂肪成分を合計で少なくとも25%含み、そのうちの少なくとも1種が脂肪酸アミドまたは脂肪酸エステルである本願発明の組成物を使用することで、より優れた染色効果が得られたことが明らかであると思料いたします。」(6頁【表6】の下より3?5行)と主張する。

ウ しかし、上記追加実施例は、請求人が主張する本願発明の優れた効果を示すどころか、本願発明がサポート要件を満たさないことの証左となる。
というのは、脂肪酸のエステルであるジステアリン酸エチレングリコールを30.34質量%含むA2+B+Cの組成物や、脂肪酸アミドであるコカミドMEAを30.34質量%含むA3+B+Cの組成物は、脂肪成分を合計で少なくとも25%以上含み、そのうち少なくとも1種が脂肪酸アミドまたは脂肪酸エステルであるから、本願発明の実施例であるといえるにもかかわらず、上記(キ)(ク)(ケ)に記載されているように、これらの組成物によって得られる色の明度の評価は、脂肪酸アミド及び脂肪酸のエステルは含有しないものの、脂肪として流動パラフィンを30.34質量%含むA1+B+Cの組成物と比較して明度値が低いものであることが明らかであることからすると、請求人の主張する追加実施例によれば、請求人は、本願発明を満たす組成物が、課題を解決できないことを自ら認めていることになるからである。

5 まとめ
以上より、本願発明は、本願明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということはできず、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるといわざるを得ない。請求項1の記載は、いわゆるサポート要件に違反するものである
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-31 
結審通知日 2017-02-06 
審決日 2017-02-17 
出願番号 特願2009-288201(P2009-288201)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也八次 大二朗  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小川 慶子
齊藤 光子
発明の名称 アミドまたはエステル脂肪を含むケラチン繊維の酸化染色のための組成物  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  

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