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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
管理番号 1330027
審判番号 不服2015-10468  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2017-07-05 
事件の表示 特願2011-539044「新規の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月17日国際公開、WO2010/066655、平成24年 5月24日国内公表、特表2012-511507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成21年12月7日(パリ条約に基づく優先権主張 平成20年12月9日,グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)にされたとみなされる特許出願であって,平成26年9月2日に特許請求の範囲が補正され,平成27年1月28日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年6月3日に拒絶査定不服審判が請求され,平成28年6月30日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。

第2 本願発明及び本件拒絶理由について
本願の請求項1?6に係る発明は,平成26年9月2日に補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
また,本件拒絶理由の内容は,本審決末尾に掲記のとおりである。

第3 むすび
請求人は,本件拒絶理由に対して,指定期間内に特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,本件拒絶理由を覆すに足りる根拠は見いだせず,本願は本件拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

以下,本件拒絶理由の内容を掲記する。

1.本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,特許を受けることができない。
2.本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.本件出願は,明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第1 本願発明について
本願の請求項1?6に係る発明は,平成26年9月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものである。(なお,請求項1に係る発明を,以下便宜的に「本願発明」という。)

第2 拒絶理由について
1.理由1
(1)引用する刊行物
刊行物1:特開2000-63250号公報(原査定の引用文献1)

(2)刊行物に記載された事項
刊行物1には,以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体を歯垢形成抑制剤として含有することを特徴とする口腔用組成物」
イ.「【0008】本発明の口腔用組成物には,口腔内に適用される各種の製品が包含される。このような製品には,練歯磨,液状歯磨,洗口剤,口中清涼剤,チューインガム等が挙げられる。
【0009】
【発明の効果】本発明の口腔用組成物は,ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体を含有し,歯垢抑制効果が高く,商品価値の高いものである。」 ウ.「【0013】なお,表中に示したLuviskol VA64Eは,BASF社製のビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体〔ビニルピロリドン/酢酸ビニルモル比=60/40,重量平均分子量60,000?70,000〕である。……。これらの結果は,本発明の組成物が歯垢形成の抑制に有効であることを示している。」
エ.「【0014】実施例2?14
以下において,本発明の具体的組成物(重量%)例を示す。
【0015】
【表2】
(審決注:表2の記載を省略する。) 」

(3)刊行物1に記載された発明
摘示エの表2において,「Luviskol VA64E」は,摘示ウによればビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体であるから,本願発明の「コポビドン」に相当する。(本願明細書の【0027】参照)
そうすると,上記ア?エの記載,特に実施例2?9の成分組成を総合的にみて,刊行物1には,
「フッ化ナトリウム,並びに組成物の総量の0.1?0.6重量%の量で存在するキサンタンガム,組成物の総量の0.9?1.3重量%の量で存在するカルボキシメチルセルロースナトリウム,及び組成物の総量の0.1?4.0重量%の量で存在するコポビドンからなるトリプルポリマーシステムを含む歯垢形成の抑制に有効な口腔用組成物」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

(4)対比・判断
引用発明の「カルボキシメチルセルロースナトリウム」及び「フッ化ナトリウム」は,それぞれ本願発明の「カルボキシメチルセルロース」及び「フッ化物イオン供給源」に相当する。(本願明細書の【0026】及び【0028】参照)
また,引用発明の「口腔用組成物」は,本願発明の「口腔ケア組成物」に相当する。
さらに,引用発明の各成分の含有量は,本願発明における相当する成分の含有量と重複している。
したがって,両者は,
「フッ化物イオン供給源,ならびに組成物の総量の0.001?1.0重量%の量で存在するキサンタンガム,組成物の総量の0.02?20重量%の量で存在するカルボキシメチルセルロースおよび組成物の総量の0.1?20重量%の量で存在するコポビドンからなるトリプルポリマーシステムを含む,口腔ケア組成物」の点で一致し,次の点で一応相違している。

相違点:
口腔ケア組成物について,本願発明が「歯牙侵食および/または歯質喪失を防ぐための口腔洗浄液の形態」としているのに対し,引用発明1においては,「歯垢形成の抑制に有効な」ものとしている点

この相違点について検討する。
本願発明の「口腔洗浄液の形態」については,その目的である歯牙侵食および/または歯質喪失を防ぐためのものであるから,組成物は歯に接触することにより作用効果を奏するものである。
そして,本願発明の「歯牙侵食および/または歯質喪失を防ぐ」作用は,酸による侵食または酸による摩耗(歯牙侵食),または,練り歯磨きを使用したブラッシングに関連するもの(歯質喪失)(【0005】,【0006】の記載参照。)であり,さらに,トリプルポリマーシステムにより,フッ化物が歯の表面に保持するのを助け,それによって歯の再石灰化を増加させ,歯の酸耐性を増加させ,フッ化物単独の場合よりも歯牙侵食の影響からよりよく表面を保護するもの(【0021】参照。)であることが記載され,また,本願発明組成物は,う蝕を防ぐためにも有用であること(【0023】)が記載されている。

一方,引用発明についても,刊行物1には,口腔用組成物について,液状歯磨としての製品が例示されるとともに,摘示イに「洗口剤」の形態が記載され,実施例11?13(摘示せず)には「洗口剤」の処方も具体的に記載されている。
そうすると,刊行物1には洗口剤,すなわち「口腔洗浄液の形態の口腔ケア組成物」も記載されているに等しいものである。
そして,引用発明の口腔ケア組成物は,歯に接触することにより,歯垢形成抑制作用効果を奏するものであることからみると,結局,引用発明の口腔ケア組成物を使用すると,使用者が意図するか否かにかかわらず,必然的に「歯牙侵食および/または歯質喪失を防ぐ」ことになり,したがって,「歯牙侵食および/または歯質喪失を防ぐ」という用途は口腔ケア組成物として新たな用途を見出したものということはできない。
したがって,上記相違点に係る事項において,両者は実質的には相違しない。

なお,請求人は審判請求書において,
「引用文献1に記載の歯垢形成は,本願明細書[0003]に記載されているように,う蝕の必要条件であり,う蝕は細菌性の酸が表面下の脱灰を引き起こし,それが完全には再石灰化されない結果として,進行性の組織の喪失及び最終的には空洞形成をもたらす多因子性疾患です。
これに対して,本願発明の歯牙侵食(すなわち,酸による侵食又は酸による摩耗)は,本願明細書[0005]に記載されているように,脱灰,及び最終的には,細菌由来ではない酸による歯の表面の完全な溶解を伴う表面の現象です。また,本願明細書[0006]に記載されているように,エナメル質が侵食性の攻撃に曝露されることによって,脱灰し,軟化していた場合は,エナメル質は歯質喪失をより受けやすくなります。
これより,「歯垢形成」は「歯牙侵食及び/又は歯質喪失」とは異なるプロセス及び機構によりもたらされるものであって,引用文献の課題と本願発明の課題は,それぞれ全く別の歯の健康に関する課題です。
つまり,本願発明はう蝕とは異なる歯牙侵食を防ぐために使用する組成物を提供するものです。」
と主張している。
しかし,この主張からすると,引用発明の「歯垢形成」と「歯牙侵食及び/又は歯質喪失」とは,その由来は別にして「酸」による歯の組織の喪失を意味するものであるから,両者は歯に生じる現象として明確に区別できるものではない。そして,「酸」の由来の違いにより特別な組成の口腔ケア組成物を使用するものではないことから,両用途に実質的な相違はないものと解される。

(5)請求項2
刊行物1には,アルカリ金属フッ化物(フッ化ナトリウム)を口腔ケア組成物に配合することが記載されている。

(6)請求項5,6
請求項5,6に係る発明は請求項1に係る発明と実質的に同一の発明であり,したがって,請求項1(本願発明)について判断したとおりである。

2.理由2
(1)請求項3,4
脱感作剤は,口腔ケア組成物として周知の成分であり,上記引用発明においてこれらの成分を使用することは格別ではない。

3.理由3
(1)請求項1
本願明細書には,
「【図4】口腔洗浄液製剤(またはSensodyne Pronamel練り歯磨き)で処理した後48時間にわたるヒトエナメル質人工的侵食性病変の再硬化を示す。
【図5】口腔洗浄液製剤(またはSensodyne Pronamel練り歯磨き)で処理した後クエン酸に曝露したヒトエナメル質についての相対的微小硬度値を示す。」(【0024】)
「【実施例3】
酸により軟化したエナメル質の再硬化
人工的侵食性病変を,アクリル樹脂に固定した磨いたヒトエナメル質から調製した。病変は,固定した試料をpH3.8の1.0%w/wクエン酸溶液に30分間接触させることにより調製した。Vickersダイアモンド圧子を取り付けたStruers Duramin Microindentorを使用して,各々の侵食試料のベースライン硬度を測定した。硬度値は,Vickers Hardness Numbers(VHN)で表した。1.961Nの荷重を20秒の滞留時間で試料に加えた。次いで,試料を無作為化し,4つの処理群(n=6)に分けた。
6個のエナメル質試料を2種の口腔洗浄液製剤,水,または増強フッ化物練り歯磨き(1450ppmF)から調整した攪拌した1:3w/wスラリーのうちの1つの中に120秒間置いた。増強フッ化物練り歯磨きは,WO2006/100071に記載されており,Sensodyne Pronamelとして市販されている。2種の口腔洗浄液製剤は,Colgate Plax Sensitive(225ppmF)およびProRinse(450ppmF),すなわちWO2006/013081に記載されている種類の本発明において有用なテスト口腔洗浄液であり,pH7.0で,全て組成物の総量基準で,フッ化ナトリウム0.1重量%ならびにコポビドン0.75重量%,カルボキシメチルセルロース0.2重量%およびキサンタンガム0.01%重量からなるトリプルポリマーシステムを含んでいた。調査を検証するために,基準として働くためのSensodyne Pronamel練り歯磨き処理肢(treatment leg)を調査に含めた。次いで,試料を取り出し,ムチンを含まない人工唾液中に置いた。微小押込を使用して,24時間後および48時間後に試料の再硬化を測定した。各々の時点で各々の試料につき6個のくぼみを得た。
再硬化調査の結果を図4に要約する。エナメル質硬度の値は,エナメル質の酸による軟化後に得られた値に対して正規化した。したがって,後続の時点におけるデータは,エナメル質の再硬化を反映している。人工唾液,および口腔洗浄液製剤またはSensodyne Pronamel練り歯磨きのいずれかによる処理に曝された期間中に再硬化された全エナメル質は,両時点において,水による処理よりも統計的に大きい再硬化をもたらした。さらに,24時間の再石灰化後,Sensodyne Pronamel練り歯磨きまたはProRinseのいずれかによる処理は,Colgate Plax Sensitive口腔洗浄液と比較して統計的に大きい再硬化をもたらした。しかしながら,人工唾液中での48時間のインキュベーション後,2種の口腔洗浄液製剤のいずれかまたは歯磨剤による処理後の再石灰化の程度に差はなかった。
【実施例4】
酸による侵食の影響からの保護
行った調査は,上記の2種の口腔洗浄液製剤(再硬化調査で使用した)のうちの1種,水,またはSensodyne Pronamel練り歯磨きによる2分間の処理後に,ヒトエナメル質を0.1%クエン酸(pH3.8)に曝露することを含んだ。処理と酸への曝露との間に試料を水で洗浄した。調査した酸への侵食時間は10,20および30分であり,試料を蒸留水で再度徹底的に洗浄した後,各々の時点で微小硬度測定を行った。全時点で各々のエナメル質試料につき6個のくぼみを得た。6個の個々の試料に各々の処理を行った。
軟化調査の結果を図5に要約する。エナメル質硬度の値は,個々のベースライン微小硬度値に対して正規化したので,後続の時点におけるデータはエナメル質の軟化を反映している。10分間の酸への曝露後,ProRinse製剤は,他の処理のいずれよりも,統計的に大きいエナメル質表面軟化からの保護をもたらした。20分間の酸への曝露後,ProRinse口腔洗浄液およびSensodyne Pronamel練り歯磨き処理は,水処理よりも統計的に少ないエナメル質の軟化をもたらしたが,Colgate Plax Sensitive口腔洗浄液処理よりも方向的に少ない軟化をもたらした。30分の侵食時点において,ProRinse口腔洗浄液製剤は,水処理よりも統計的に大きい表面軟化からの保護をもたらし,Colgate Plax Sensitive口腔洗浄液よりも方向的に大きい軟化からの保護をもたらした。」(【0053】?【0057】)
と記載されている。
しかしながら,上記記載からは,「Sensodyne Pronamel練り歯磨き」,「ProRinse口腔洗浄液」及び「Colgate Plax Sensitive口腔洗浄液」がどのような組成を有する口腔ケア組成物であるのか不明であるから,本願発明の口腔ケア組成物との関係を理解することができない。
そうすると,実施例3の「酸により軟化したエナメル質の再硬化」及び実施例4の「酸による侵食の影響からの保護」の試験の結果から,本願発明が優れた効果を奏したものであることを把握することができない。
そうであれば,本願発明の課題を解決することのできる口腔ケア組成物については,当業者が容易に実施をする程度に記載されているとはいえず,したがって,発明の詳細な説明には,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)請求項2?4
請求項2?4に係る発明は,請求項1に係る発明を直接あるいは間接に引用するものであるから,請求項1について記載した理由と同様であって,発明の詳細な説明には,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(3)請求項5,6
請求項5,6に係る発明は請求項1に係る発明と実質的に同一の発明であるから,請求項1について記載した理由と同様であって,発明の詳細な説明には,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
 
審理終結日 2017-02-02 
結審通知日 2017-02-07 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2011-539044(P2011-539044)
審決分類 P 1 8・ 113- WZF (A61K)
P 1 8・ 536- WZF (A61K)
P 1 8・ 121- WZF (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 小川 慶子
須藤 康洋
発明の名称 新規の使用  
代理人 田中 夏夫  
代理人 平木 祐輔  
代理人 新井 栄一  
代理人 藤田 節  

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