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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1330049
異議申立番号 異議2016-700983  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-12 
確定日 2017-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5905983号発明「光透過性導電性フィルム、そのフィルムロール及びそれを有するタッチパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5905983号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6〕について、訂正することを認める。 特許第5905983号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 特許第5905983号の請求項1に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5905983号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年7月27日に特許出願され、平成28年3月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人岩崎勇により特許異議の申立てがされ、平成28年12月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月3日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年3月14日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

ア.請求項2に
「請求項1に記載の光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、
(C)光学透明粘着層
が直接配置されている、光透過性導電性フィルム。」とあるのを
「(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmであり、
前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、
(C)光学透明粘着層
が直接配置されている、光透過性導電性フィルム。」に訂正する。

イ.請求項6に
「(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmである光透過性導電性フィルムの製造方法であって、
大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理及びコロナ処理からなる群より選択される少なくとも一種の処理により、前記表面をぬれ張力が34?46dyn/cmとなるように加工する工程
を含むことを特徴とする、製造方法。」とあるのを
「(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmであり、前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、(C)光学透明粘着層が直接配置されている、光透過性導電性フィルムの製造方法であって、
大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理及びコロナ処理からなる群より選択される少なくとも一種の処理により、前記表面をぬれ張力が34?46dyn/cmとなるように加工する工程
を含むことを特徴とする、製造方法。」に訂正する。

ウ.請求項1を削除する。これに伴い、請求項1を引用する請求項において引用関係を整合させる。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
アの訂正は、請求項1を引用する請求項2を、独立形式とし、引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イの訂正は、請求項6の「光透過性導電性フィルム」に「前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、(C)光学透明粘着層が直接配置されている」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウの訂正は、請求項1を削除し、これに伴い引用関係を整合するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これら訂正は、請求項ごと(イ)、一群の請求項ごと(ア、ウ)に請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号、及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1ないし6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された以下のとおりのものである。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmであり、
前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、
(C)光学透明粘着層
が直接配置されている、光透過性導電性フィルム。
【請求項3】
前記ぬれ張力が36dyn/cm?46dyn/cmである、請求項2に記載の光透過性導電性フィルム。
【請求項4】
請求項2?3のいずれか一項に記載の光透過性導電性フィルムを巻き取ってなる、フィルムロール。
【請求項5】
請求項2?3のいずれか一項に記載の光透過性導電性フィルムを含む、タッチパネル。
【請求項6】
(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmであり、前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、(C)光学透明粘着層が直接配置されている、光透過性導電性フィルムの製造方法であって、
大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理及びコロナ処理からなる群より選択される少なくとも一種の処理により、前記表面をぬれ張力が34?46dyn/cmとなるように加工する工程
を含むことを特徴とする、製造方法。

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

1)本件特許の請求項1、3?5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件特許の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.特開2014-44839号公報
2.特開2006-231845号公報
3.特開2014-188937号公報
4.特開2011-224956号公報
5.特開2003-197034号公報
6.特開2000-108241号公報
7.特開2013-69679号公報
(刊行物1?7は、甲第1?7号証と同じ。)

(第29条第1項第3号)
請求項1、3?5に対し、刊行物1?4のいずれかと同一。

(第29条第2項)
請求項1、3?5に対し、刊行物1?4のいずれかにより、容易想到。
請求項2、4、5に対し、刊行物1?4のいずれかに、刊行物5?7の周知技術(粘着層、フィルムロール、タッチパネル)を適用し、容易想到。
請求項6に対し、刊行物1?4のいずれかに、刊行物1?6の周知技術(プラズマ処理、コロナ処理)を適用し、容易想到。

(3)刊行物の記載
刊行物1?4のいずれにも、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されている、
光透過性導電性フィルム。

さらに、刊行物1には段落0121に、刊行物2には請求項1に、刊行物3には請求項1に、「表面エネルギー」に関する記載がある。
刊行物4には段落0117に、「表面自由エネルギー」に関する記載がある。
刊行物5?7には「光学透明粘着層」に関する記載がある。

(4)判断
ア.特許法第29条第1項
訂正により、対象である請求項1、及びこれを引用する請求項3?5が削除された。

イ.特許法第29条第2項
(ア)本件発明2
本件発明2と引用発明とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は「光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cm」であるが、引用発明は明らかでない点。
相違点2:本件発明1は「光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、(C)光学透明粘着層が直接配置されている」が、引用発明は光学透明粘着層を有しない点。

相違点1について検討する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。

【0007】
本発明者らは、光透過性導電性フィルムにOCAを貼付してからベーク工程を行うと、OCAに気泡ボイドが発生してしまうという課題を見出した。
【0008】
また、本発明者らは、光透過性導電性フィルムにOCAを貼付してからロール搬送を行うと、OCAフィルムが部分的に剥離し、光透過性導電性フィルムとの接着面にずれが生じることにより、光透過性導電性フィルムの端部からはみ出してしまうという課題も見出した。
【0009】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、光透過性導電性フィルムの、OCAが貼付される面のぬれ張力を特定の範囲内とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。

【0037】
このような構成であるため、本発明の光透過性導電性フィルムは、OCA又はOCAフィルムを当該面に貼付した際に、光透過性導電層に(あるいはその上層に)銀ペーストを塗布後、ベーク工程を行ったとしても、OCAに気泡ボイドが発生しにくい。また、OCAフィルムを貼付した光透過性導電性フィルムをロール搬送により巻き取る際にも、OCAフィルムが剥離しにくく、光透過性導電性フィルムとの接着面にずれが生じにくい。
【0038】
かかる効果の点で、上記ぬれ張力は、34dyn/cm以上であれば好ましく、36dyn/cm以上であればより好ましい。なお、上記ぬれ張力の上限は、特に限定されないが、通常、50dyn/cm以下であり、白化が生じにくいことから、48dyn/cm以下であることが好ましく、46dyn/cm以下であることがより好ましい。

段落0080の表1には、ぬれ張力が所定範囲(34?46dyn/cm)を超える実施例4、5、9、10は、「白化」が「○」又は「×」で「◎」より劣ること、ぬれ張力が所定範囲未満の比較例1、2は、「気泡」が「×」で「◎」又は「○」より劣ることが、示されている。

すなわち、本件発明2が、「ぬれ張力が34?46dyn/cm」とした技術的意義は、気泡、ずれ、白化防止であると解される。

刊行物1ないし3には「表面エネルギー」、刊行物4には「表面自由エネルギー」に関する記載があり、これは「ぬれ張力」と関係している。
しかし、刊行物1ないし4のいずれにも、「表面エネルギー」又は「表面自由エネルギー」を所定範囲とすることで、気泡、ずれ、白化防止という効果を生じる点については、記載も示唆もない。
本件発明2は、段落0080のとおり、「ぬれ張力が34?46dyn/cm」の上限値、下限値ともに技術的意義を有する。
相違点1を容易想到とすることはできない。

申立人は、気泡、ずれ、白化防止という課題、効果は、参考資料1?5のように周知であり、刊行物1?4の中には、ぬれ張力の所定範囲に含まれるものもある旨、主張する。

しかし、本件発明2は、上記のとおり、「ぬれ張力」と「気泡、ずれ、白化防止」との関係に着目した技術思想であり、それぞれ個別の証拠をもとに、容易想到とすることはできない。

よって、相違点2について判断するまでもなく、本件発明2を容易想到とすることはできない。

(イ)本件発明3?6
本件発明3?5は、本件発明2を引用し、本件発明2の構成を全て含む。 本件発明6は、製造方法の発明であって、本件発明2の構成を全て含む。
よって、本件発明2と同様の理由により、本件発明3?6を容易想到とすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項2ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項1は、訂正により削除され、特許異議申立ての対象が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導伝層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmであり、
前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、
(C)光学透明粘着層
が直接配置されている、光透過性導電性フィルム。
【請求項3】
前記ぬれ張力が36dyn/cm?46dyn/cmである、請求項2に記載の光透過性導電性フィルム。
【請求項4】
請求項2?3のいずれか一項に記載の光透過性導電性フィルムを巻き取ってなる、フィルムロール。
【請求項5】
請求項2?3のいずれか一項に記載の光透過性導電性フィルムを含む、タッチパネル。
【請求項6】
(A)光透過性支持層;及び
(B)光透過性導電層
を含有する光透過性導電性フィルムであって、
前記光透過性導電層(B)が、前記光透過性支持層(A)の一方の面に、直接又は一以上の他の層を介して配置されており、かつ前記光透過性支持層(A)の前記光透過性導電層(B)とは反対側の表面のぬれ張力が34?46dyn/cmであり、前記光透過性導電性フィルムの、ぬれ張力が34?46dyn/cmである前記表面に、さらに、(C)光学透明粘着層が直接配置されている、光透過性導電性フィルムの製造方法であって、
大気圧プラズマ処理、低圧プラズマ処理及びコロナ処理からなる群より選択される少なくとも一種の処理により、前記表面をぬれ張力が34?46dyn/cmとなるように加工する工程
を含むことを特徴とする、製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-08 
出願番号 特願2015-147738(P2015-147738)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中川 裕文増田 亮子  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 谿花 正由輝
千葉 成就
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5905983号(P5905983)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 光透過性導電性フィルム、そのフィルムロール及びそれを有するタッチパネル  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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