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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61K |
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管理番号 | 1330059 |
異議申立番号 | 異議2016-700246 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-24 |
確定日 | 2017-05-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5785077号発明「崩壊温度より高温での凍結乾燥」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5785077号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-25〕について訂正することを認める。 特許第5785077号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5785077号の請求項1?25に係る特許についての出願は、平成21年8月5日(優先権主張 2008年8月5日、米国)を国際出願日として特許出願され、平成27年7月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 野村 恒(以下、「申立人」という。)により請求項1?20に係る特許に対して特許異議の申立てがなされた。そして、平成28年5月23日付けで取消理由が通知され、平成28年8月22日に意見書が提出され、平成28年11月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年2月20日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、これに対して、申立人から平成29年3月31日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1?25について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。 (訂正事項1) 請求項1において、「液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法であって、液体製剤の水を氷にする凍結ステップ、それに続いて一次乾燥ステップが行われる、を含み、一次乾燥ステップは、医薬物質中の水を直接昇華することにより除去し、ケーク崩壊を回避することなく崩壊温度または崩壊温度より高温ではあるが共晶融点より低い温度で実行され、崩壊温度は凍結乾燥ケークがもとの構造を失うか変化する温度であり、凍結乾燥された医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性がある物質に復元するのに適切である、液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法。」とあるのを、「液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法であって、液体製剤の水を氷にする凍結ステップ、それに続いて一次乾燥ステップが行われる、を含み、一次乾燥ステップは、医薬物質中の水を直接昇華することにより除去し、ケーク崩壊を回避することなく崩壊温度または崩壊温度より高温ではあるが共晶融点より低い温度で実行されケークが視覚的に検出可能な崩壊をする、崩壊温度は凍結乾燥ケークがもとの構造を失うか変化する温度であり、凍結乾燥された医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性がある物質に復元するのに適切である、液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法。」に訂正する。 (訂正事項2) 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?25について、実質的に、上記訂正事項1と同様に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1、2に関連する記載として、本件特許明細書には「いくつかの実施形態では、本発明は、(a)凍結乾燥生成物のバッチからの1種または複数の試料を評価するステップであって、少なくとも1種の試料がケーク崩壊(例えば、微量崩壊、視覚的に検出可能または大量な崩壊)を特徴とするステップと、(b)ステップ(a)からの評価結果に基づいて凍結乾燥生成物のバッチをリリースするステップとを包含する、凍結乾燥生成物のバッチを評価する方法を提供する。」(【0018】)、「ケーク外観の徹底した目視分析から、ケークの底がある程度崩壊したことが示された(左のバイアル、図2)。」(【0054】)なる記載があり、「ケークが視覚的に検出可能な崩壊をする」ステップを含む液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法は本件特許明細書に記載されているものと認められる。 そうすると、上記訂正事項1、2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、ケーク崩壊を回避することなく崩壊温度または崩壊温度より高温ではあるが共晶融点より低い温度で実行される一次乾燥ステップでケークが崩壊しているかについて特定されていなかったものを「ケークが視覚的に検出可能な崩壊をする」発明に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 独立特許要件について 訂正前の請求項21?25に対しては、特許異議の申立てがされていないので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条第7項で規定される、いわゆる独立特許要件について検討する。 請求項21?25は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用しており、訂正後の請求項1に係る発明は下記「第3 4」で述べるとおり、その特許を取り消すべき理由が見当たらないものであるから、訂正後の請求項1に係る発明の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである訂正後の請求項21?25に係る発明についても、その特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見当たらない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?25]について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?20に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?20に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法であって、液体製剤の水を氷にする凍結ステップ、それに続いて一次乾燥ステップが行われる、を含み、一次乾燥ステップは、医薬物質中の水を直接昇華することにより除去し、ケーク崩壊を回避することなく崩壊温度または崩壊温度より高温ではあるが共晶融点より低い温度で実行されケークが視覚的に検出可能な崩壊をする、崩壊温度は凍結乾燥ケークがもとの構造を失うか変化する温度であり、凍結乾燥された医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性がある物質に復元するのに適切である、液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法。 【請求項2】 前記液体製剤の医薬物質が、少なくとも1mg/ml、50mg/mlあるいは100mg/mlの濃度である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記凍結乾燥生成物が、非晶質材料を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。 【請求項4】 前記凍結乾燥生成物が、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 前記液体製剤が、ショ糖ベースの製剤である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 前記液体製剤が、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも1℃、2℃、5℃あるいは10℃高くなるように製剤化される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 前記液体製剤が医薬物質および安定化剤を含み、前記安定化剤と医薬物質の質量比が1000以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、500以下、100以下、50以下、10以下、1以下、0.5以下あるいは0.1以下である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記液体製剤が医薬物質および安定化剤を含み、前記安定化剤が、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、グリシン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 前記液体製剤の医薬物質が、少なくとも1mg/ml、10mg/mlあるいは50mg/mlの濃度である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 前記液体製剤の医薬物質が、少なくとも50mg/mlの濃度のタンパク質であり、一次乾燥温度とガラス転移温度の中間点(Tg’)の差が1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃あるいは10℃である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。 【請求項12】 前記凍結ステップが-20℃以下で実行される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。 【請求項13】 前記凍結ステップが-40℃以下で実行される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。 【請求項14】 前記一次乾燥ステップが800mTorr以下の圧力で行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項15】 前記一次乾燥ステップが500mTorr以下の圧力で行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。 【請求項16】 前記一次乾燥ステップが200mTorr以下の圧力で行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。 【請求項17】 前記医薬物質が、タンパク質、ペプチド、多糖、小分子、天然物、核酸、免疫原、ワクチン、ポリマー、化学化合物、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。 【請求項18】 前記医薬物質がタンパク質である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。 【請求項19】 前記タンパク質が、抗体またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、酵素、キャリアタンパク質、多糖含有抗原、Small Modular ImmunoPharmaceutical(SMIP(商標))、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。 【請求項20】 前記医薬物質が、モノクローナル抗体または単一ドメイン抗体である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。 2 取消理由の概要 請求項1?20に係る特許に対して平成28年11月17日付けで当審から特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 請求項1?3、5?10、12?20に係る発明は、甲第1号証(以下、「甲1」という)に記載された発明であるから、請求項1?3、5?10、12?20に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してされたものであり、請求項4、11に係る発明は甲1に記載された発明に基づいて容易になし得たものであるから、請求項4、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1?20に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 甲号証の記載事項及び引用発明 (1)本件優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である「J.D.Colandene et. al.,Journal of Pharmaceutical Sciences,2007年,Vol.96,No.6,p.1598-1608」(甲1)には、以下の事項が記載されている。(甲1は英文につき、当審による訳文で記す。) 1a:1598頁 タイトル 「結晶性充填剤を含まない高濃度のモノクロナール抗体製剤の凍結乾燥サイクルの開発」 1b:1598頁 要約 「結晶性充填剤を含まない高濃度のモノクロナール抗体製剤のための効率的なフリーズ-ドライサイクルが開発された。多数のタンパク質濃度における製剤がDSC及びフリーズドライ顕微鏡を使って特徴づけられた。DSCにより決定される低タンパク質濃度における最大凍結濃度溶液のガラス転移温度(Tg’)は、フリーズドライ顕微鏡で決定される崩壊温度に近似していた。しかし、タンパク質濃度が高くなるほど、崩壊温度とTg’との差違は漸進的に大きくなった。崩壊開始温度と完全崩壊温度との差違もタンパク質濃度が高くなるほど大きくなった。実験研究のJMP(登録商標)デザインが、冷凍速度、一次乾燥棚温度、一次乾燥生成物温度におけるチャンバー圧力、一次乾燥の長さ、及び生成物品質属性への影響の評価において使用された。一次乾燥は、生成物への不利益な影響なしに、生成物温度が実質的にTg’を超過するという条件に調節することにより、顕著に短縮された。」 1c:1598頁左欄最終行?右欄5行 「フリーズドライの一つの不利な点は、充填-仕上げプロセスのコストを著しく増加させることである。このコストは、フリーズドライサイクルを最適化すること(すなわち、生成物の品質や安定性を損なうことなく費やす時間が最少となるサイクルを開発すること)で最小化しうる。」 1d:1599頁左欄31行?右欄6行 「一般に、一次乾燥は、Tg’以下あるいは崩壊開始温度以下で実施することが推奨されている。製剤中に結晶性充填剤を用いることの一つの利点は、フリーズドライ中の生成物に高い崩壊温度を与えることであろう。結晶性充填剤を包含することはその製剤の非晶質成分のTg’より上の生成物温度で一次乾燥することを許容するかもれない。……しかしながら、製剤中に比較的高濃度の二糖類の添加を必要とする場合には結晶性充填剤の使用は可能ではなくなるだろう。なぜなら、高濃度の二糖類が結晶性充填剤の結晶化を妨げ、実際には崩壊温度を低下させるかもしれないからである。」 1e:1599頁右欄28行?32行 「我々は、結晶性充填剤を含まず、主要な賦形剤としてショ糖を用いて製剤化された独自のモノクロナール抗体のTg’と崩壊温度の決定にDSCとフリーズドライ顕微鏡を利用した(表1)。」 1f:1599頁表1 「表1.研究に用いられた製剤組成 --------------------------------- 成分/賦形剤 濃度 目的 --------------------------------- クエン酸ナトリウム、pH6.5 10mM 緩衝剤 ショ糖 8%(w/v) 冷凍/分散保護剤 ポリソルベート-80 0.04%(w/v) 界面活性剤 mAB 変化させる(0-100mg/mL) 活性薬物成分 」 1g:1600頁左欄2行?14行 「材料 ヒューマン ゲノム サイエンシズ社(……)の標準技術によって、独自のモノクロナール抗体(mAB)を生産し、精製し、透析ろ過し、フォーミレーションバッファーに希釈した。フォーミレーションバッファーは研究を通して一定に保たれた。mAB濃度のみを幾つかの実験で変化させた。……製剤(表1に示される)はmAB濃度の広い範囲にわたって生成物を安定化するために主にショ糖から成っていた。」 1h:1601頁右欄32行?39行 「熱的分析 DSC 最大凍結濃縮液のガラス転移温度(Tg’)を決定するためにDSC実験が行われた。Tg’へのmAB濃度の影響を決定するために複数の生成物濃度(0?100mg/mLの範囲)が試験された。」 1i:1602頁左欄5行?右欄10行 「フリーズドライ顕微鏡 崩壊温度へのタンパク質濃度の影響を決定するため、そして、崩壊温度をTg’と比較するためにフリーズドライ顕微鏡研究が実行された。フリーズドライ顕微鏡実験は2組行われ、その平均の結果が表2に示されている。フリーズドライ顕微鏡における外見評価の主観性のために、崩壊温度は半定量的である。崩壊はある温度範囲で起こり、ケーク構造はこの温度範囲において徐々に消失するであろう。乾燥プロセス中に見られる初期の構造変化は、崩壊の開始と考えられるであろう。この崩壊の開始が観察された温度を、本報告における崩壊開始温度(Tc,on)と呼び、構造変化が生成物の隅から隅まで完全に見られる温度を完全崩壊温度(Tc,com)と呼ぶ。 図2は、80mg/mLにおけるmABサンプルをフリーズドライ顕微鏡にかけ、-24℃は変化前の温度(A)、-19℃はTc,onとして(B)、-12℃はTc,comとして(C)、そして、-7℃は融解温度として(D)観察された「スナップ写真」を示す。」 1j:1602頁右欄24行?27行 「フリーズドライサイクルの開発 凍結乾燥サイクルの開発における標的濃度として80mg/mLのタンパク質濃度を選択した。」 1k:1602頁 表2 「 ![]() 」 1l:1602頁右欄28行?1603頁左欄9行 「熱処理 製剤が結晶性充填剤を欠いていたので、初期のサイクルはアニーリングまたは熱処理ステップを欠いていた。しかし、アニーリングが、より大きく、かつまたは均質な氷晶の促進に有効であることが場合によってはあるので、アニーリングの効果を評価した。アニーリングステップが加えられた以外は、上記と同じパラメーターを用いてサイクルは行われた。それは、手順の前に、-45℃での初期凍結後の、-18℃までの棚温度の上昇と5時間保持、続いて-45℃までの再冷却と?3時間の保持から成っていた。アニーリングを欠くサイクルと比較したとき、どちらのサイクルにおいても完全な一次乾燥にかかる時間に顕著な差違はなく、両サイクルとも最終生成物の復元時間と残留水分が等価の結果となった。それゆえ、以降の我々の方針は非アニーリングサイクルの開発であった。」 1m:1603頁右欄15行?36行 「JMP(登録商標)DOEソフトウェアを使って分析された出力応答は、一次乾燥条件のみによって影響されるものであった。これらの応答は一次乾燥時間と最大生成物一次乾燥温度であった(表3)。ここで、一次乾燥時間は一次乾燥の開始(目標棚温度が達成されるやいなや)からピラニゲージで測定されるチャンバー圧が減少し、キャバシタンスマノメーターゲージで測定されるチャンバー圧に向けて平らになる点までにかかった時間として近似された。後者は、すべての生成物熱電対が棚温度に達した後、数時間の範囲内のいつかで首尾一貫して起こった。ここで、最大生成物一次乾燥温度は、氷の昇華が完了する直前に生成物が受けている外見上の最大温度と定義した。この温度の測定は、熱電対曲線(平均値)における、生成物温度が棚温度に向けて上昇し始めた時の屈曲点がとられた。」 1n:1603頁右欄37行?43行 「最大生成物一次乾燥温度は、一つのサイクルを除いて全てTg’を超えており、二つのサイクルではTg’および崩壊開始温度の双方を超えていた(表2)。サイクル#6(表3)は、崩壊開始温度を6℃超えると思われる最大生成物一次乾燥温度を示した。」 1o:1603頁右欄44行?1604頁左欄3行 「DOE分析のために使われた一次乾燥に特有の応答の記録に加えて、生成物の物性と安定性が評価された。これらには、目視検査とタンパク質凝集に対する安定性指示分析(SCE-HPLC)、荷電変化(IEC-HPLC)が含まれた。外観または安定性指示分析により評価されたどのサンプルにも顕著な差違はなかった。加えて、6つのJMP実験それぞれからの復元されたサンプルにおいてFTIR分析が行われた。全てのサンプルの復元後のスペクトルを元となる凍結乾燥前のスペクトルと重ね合わせたところ、全てのサンプルは復元後に天然構造が維持されていることが示唆された。」 1p:1604頁 表3 「 ![]() 」 1q:1607頁左欄50行?右欄3行 「さらにまた、我々は、(フリーズドライ顕微鏡に基づいた)崩壊開始温度を少し超える温度で一次乾燥を行うことができた。これは、生成物のエレガントさ、品質、または安定性になんら明白な影響なしで行なわれた。」 1r:1607頁左欄45行?50行 「この研究からの興味深い発見は、結晶性充填剤を含まない製剤において、より高いタンパク質濃度おいて、そのタンパク質への悪影響及び崩壊(collapse)なしに、実質的にTg’以上で一次乾燥を行うことができたということであった。」 1s:1607頁右欄3行?6行 「我々のショ糖ベースの製剤(タンパク質濃度80mg/mL)において、Tg’以上で十分に乾燥した際に肉眼で見える(macroscopic)崩壊がないことを説明するために以下のとおり仮説を述べる。」 (2)上記(1)によれば、甲1には「結晶性充填剤を含まない高濃度のモノクロナール抗体製剤の凍結乾燥サイクルの開発」(1a)に関する技術について、費やす時間が最少となりコストを最小化しうる効率的な凍結乾燥サイクルの開発のために、一次乾燥条件を評価し、生成物温度を調節することより生成物への不利益な影響なしに一次乾燥が短縮された旨記載されている(1b、1c)。 また、その研究に用いた製剤組成が表1(1f)に記載され、結晶性充填剤を含まず、主要な賦形剤としてショ糖を用いて製剤化された独自のモノクロナール抗体mABのTg’(最大凍結濃縮濃度におけるガラス転移温度)と崩壊温度の決定をDSCとフリーズドライ顕微鏡で決定したこと(1e、1g)が記載され、異なるタンパク質濃度で製剤化したmABに関する測定結果が表2(1k)に示され、80mg/mL濃度のmABを含む製剤ではDSCによるTg’±SD(℃)が-25.9±0.2、フリーズドライ顕微鏡による崩壊開始温度Tc,onが-19℃、完全崩壊温度Tc,comが-12℃、凍結溶液の融解温度は-7℃であったこと(1i、1k)が記載されている。 さらに、緩衝剤であるクエン酸ナトリウム10mM、冷凍/分散保護剤であるショ糖8%(w/v)、界面活性剤のポリソルベート-80 0.04%(w/v)、mAB 80mg/mLを含む製剤を用いて(1f、1j)、このサンプルを庫内圧力、棚温度及び凍結速度のパラメーターを変化させて一次乾燥を行い、一次乾燥時間、最大生成物一次乾燥温度の測定結果が表3(1p)に示されており、その#6サイクルでは、庫内圧力75mTorr、棚温度0℃、凍結速度0.9℃/分で、一次乾燥時間が25時間、最大生成物一次乾燥温度が-13℃であったことが記載されている。 以上の記載によれば、甲1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「緩衝剤であるクエン酸ナトリウム10mM、冷凍/分散保護剤であるショ糖8%(w/v)、界面活性剤のポリソルベート-80 0.04%(w/v)、活性薬物成分であるモノクロナール抗体mAB 80mg/mLを含む製剤(ここで、この製剤におけるTg’±SD(℃)が-25.9±0.2、崩壊開始温度Tc,onが-19℃、凍結溶液の融解温度は-7℃である。)を凍結乾燥する方法であって、庫内圧力75mTorr、棚温度0℃、凍結速度0.9℃/分の条件で最大生成物一次乾燥温度が-13℃となるまで一次乾燥を行う、製剤の凍結乾燥方法」 (3)本件優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である「R.E.Johnson et. al.,Monnitol-Sucrose Mixtures-Versatile Formulations for Protein Lyophilization, Journal of Pharmaceutical Sciences,2002年,Vol.91,No.4,p.914-922」(甲第2号証、以下「甲2」という。)には、以下の事項が記載されている。(甲2は英文につき、当審による訳文で記す。) 2a:914頁要約 「要約:ショ糖(凍結保護剤)とマンニトール(充填剤)との混合物はタンパク質の凍結乾燥のための賦形剤として研究されてきた。4%マンニトールと1%ショ糖の製剤において4つのタンパク質が開発され、結晶性マンニトールと非晶質ショ糖のケークを生成する凍結乾燥サイクルを用いて凍結乾燥に成功した。それ自体ではケークの崩壊を防ぐためには-35℃以下での一次乾燥が要求されるところ、結晶性マンニトールは、ショ糖が非晶質であっても-10℃の生成物温度で一次乾燥を行うことを許容する。……」 2b:914頁左欄1行?右欄1行 「緒言 良好な結果のタンパク質の凍結乾燥は競合する二つの要求:一次乾燥中に崩壊しない粗ケークと、賦形剤分子がタンパク質と自由に相互作用する非晶質相の存在、を包含する。容易に非晶質相を形成するショ糖のような賦形剤の挙動は、ガラス-ゴム転移理論に支配され、ケークの崩壊を防ぐためには、常態ではTg’(しばしば-30から-35℃)以下で一次乾燥を受けなければならない。このことは、数日かかる凍結乾燥サイクルに帰着できる。結晶ケークを容易に形成させるマンニトールのような添加剤は、一次乾燥をそれらの共晶点(マンニトールでは-1.5℃)の直下の温度で行わせることができ、それにより一次乾燥にわずか数時間しか必要としない凍結乾燥サイクルをもたらすことができる。」 2c:920頁左欄11行?22行 「我々は、約-10℃の生成物温度での一次乾燥を行うことができる、マンニトールとショ糖の混合物を用いた4つのタンパク質の凍結乾燥製剤の開発に成功した。この温度では、氷の昇華は、ショ糖をゴム状の非晶質状態とさせているが、マンニトールは少なくとも部分的に結晶であり、MacKenzieが示唆するのように、ケークの一体性を維持するのに必要な足場を明らかに提供している。Wangは、これを”微量崩壊した”ケークと呼ぶ。」 4 当審の判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について (1-1)特許法第29条第1項第3号について ア 本件訂正発明1について ア-1 本件訂正発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の製剤は、凍結乾燥前は溶液状態の製剤であることは明らかであり、活性薬物成分であるモノクロナール抗体mABは医薬物質といえるから、引用発明の「緩衝剤であるクエン酸ナトリウム10mM、冷凍/分散保護剤であるショ糖8%(w/v)、界面活性剤のポリソルベート-80 0.04%(w/v)、活性薬物成分であるモノクロナール抗体mAB 80mg/mLを含む製剤」は本件発明1の「液体製剤」に相当する。また、引用発明の「製剤の乾燥方法」は、製剤中の活性薬物成分であるモノクロナール抗体mABを凍結乾燥していることに他ならないから、本件発明1の「液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法」に相当する。 (イ)引用発明は、凍結乾燥方法である以上、当然、凍結乾燥前の溶液状態の製剤を凍結させる工程(凍結ステップ)を含んでいることは明らかであり、その凍結工程で溶液中の水が氷となることは自明のことである。 (ウ)引用発明において、一次乾燥は上記凍結工程に続いて行われるものであり、一次乾燥の際に、凍結した氷が直接昇華して除去されることも自明である。 (エ)甲1の「全てのサンプルは復元後に天然構造が維持されていることが示唆された」(1o)との記載から、引用発明のmABは生物学または薬剤学的に活性がある物質に復元されることが示唆されているから、引用発明の一次乾燥は、凍結乾燥された医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性がある物質に復元するのに適切であるといえる。 (オ)本件特許明細書【0035】の「本明細書では、用語「崩壊温度(Tc)」は、崩壊が起こる温度またはそれより高温でのフリーズドライ中の温度(例えば、生成物温度)を指す。」、【0036】の「一般に、凍結乾燥プロセス中の無傷な構造の最初の変化または損失は、崩壊の開始と考えられる。この最初の変化が観察された温度を、一般に、開始崩壊温度と称す。構造損失または構造変化がケーク全体に完了したように見える温度を、崩壊完了温度と称す。」、【0037】の「凍結乾燥中の生成物における崩壊は、生成物温度測定装置、フリーズドライ顕微鏡、または電気抵抗を検出する機器を包含するがそれらだけに限らない様々な機器によって検出することができる。」、及び、実施例2に関する【0062】の「Tg’よりかなり高温でのフリーズドライ中に総崩壊がないにもかかわらず、構造変化(孔のサイズの増大として見られる)が、-18℃から開始し(崩壊の開始)、-6℃で非常に明白になることが観察された。したがって、-18℃が、TMS中の10mg/mlタンパク質Jの崩壊温度と考えられる。」との記載によれば、本件訂正発明1の「凍結乾燥ケークがもとの構造を失うか変化する温度である」ところの「崩壊温度」とは、フリーズドライ顕微鏡等によって検出され、「崩壊の開始」が観察される「開始崩壊温度」と称される温度のことを指すものと解される。 (カ)引用発明の「凍結溶液の融解温度」は、本件訂正発明1の「共晶融点」に相当するといえるところ、そもそも生成物温度が融解温度より高くなっては、凍結されたものが溶け出してしまうので、製剤の凍結乾燥方法における一次乾燥は、生成物温度が融解温度より低い状態で行うのは技術常識であるから、引用発明の一次乾燥は、共晶融点より低い温度で行われていることが明らかであるといえる。 (キ)引用発明の「最大生成物一次乾燥温度」とは、甲1の「ここで、最大生成物一次乾燥温度は、氷の昇華が完了する直前に生成物が受けている外見上の最大温度と定義した。この温度の測定は、熱電対曲線(平均値)における生成物温度が棚温度に向けて上昇し始めた時の屈曲点がとられた。」(1m)との記載からして、生成物温度を示す曲線が棚温度に向けて上昇し始めた屈曲点の温度を指すものといえる。そして、生成物温度が棚温度に向けて上昇し始めた屈曲点の温度が-13℃であるということは、甲1の1nに記載のとおり、屈曲点においてTc,onより6℃高い温度に達しているわけであるから、引用発明において一次乾燥中に生成物温度がTc,on=-19℃を超えていることは明らかであって、引用発明は、Tc,onすなわち崩壊温度より高い温度で一次乾燥を行っているといえる。 (ク)そうすると、本件訂正発明1と引用発明とは、少なくとも次の点で相違する。 <相違点1>: 本件訂正発明1は、一次乾燥ステップで「ケークが視覚的に検出可能な崩壊をする」ものであるのに対して、引用発明はそのような特定がされていない点。 ア-2 <相違点1>について検討する。 本件特許明細書の「ケーク崩壊(例えば、微量崩壊、視覚的に検出可能または大量な崩壊)」(【0018】)、「ケーク外観の徹底した目視分析から、ケークの底がある程度崩壊したことが示された」(【0054】)との記載からみて、本件訂正発明1における「ケークが視覚的に検出可能な崩壊をする」とは、ケーク外観の目視分析でケークの崩壊が検出できることをいうものであって、それは、「微量崩壊」とは区別されるものといえる。 一方、甲1の1sには「我々のショ糖ベースの製剤(タンパク質濃度80mg/mL)において、Tg’以上で十分に乾燥した際に肉眼で見える(macroscopic)崩壊がない」と記載されているから、上記「我々のショ糖ベースの製剤」に該当するものである、ショ糖8%(w/v)及びモノクロナール抗体mAB(タンパク質)80mg/mLを含む製剤の凍結乾燥方法である引用発明では、「肉眼で見える(macroscopic)崩壊がない」ものである。 そして、この「肉眼で見える(macroscopic)崩壊」が正に、「視覚的に検出可能な崩壊」に相当するものといえる。 そうすると、引用発明は「ケークが視覚的に検出可能な崩壊をする」ものではないから、本件訂正発明1は、<相違点1>の点で引用発明と実質的に相違する。 ア-3 したがって、本件訂正発明1は、引用発明と同一であるとはいえない。 イ 本件訂正発明2、3、5?10、12?20について 本件訂正発明2、3、5?10、12?20は、いずれも本件訂正発明1に係る請求項1を直接又は間接的に引用しており、本件訂正発明1が上記ア-3のとおり、引用発明と同一であるとはいえないのであるから、本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明2、3、5?10、12?20についても、引用発明と同一であるとはいえない。 (1-2)特許法第29条第2項について ウ 本件訂正発明4、11について ウ-1 本件訂正発明4、11は、いずれも本件訂正発明1に係る請求項1を引用するものであるから、まず、本件訂正発明1が、引用発明及び甲1に記載される事項に基づいて容易になし得たものか検討する。 (ケ)上記(1-1)アで検討したとおり、本件訂正発明1は、<相違点1>において引用発明と相違するところ、甲1には、引用発明において、<相違点1>に係る、一次乾燥ステップでケークが視覚的に検出可能な崩壊をするものとすることを示唆する記載は見当たらない。 (コ)むしろ、甲1の1rの「タンパク質への悪影響及び崩壊なしに、実質的にTg’以上で一次乾燥を行うことができた」なる記載によれば、一次乾燥において崩壊は望ましくないとの示唆を受けるものといえる。 (サ)一方、本件訂正発明1は<相違点1>に係る構成をとることにより、一次乾燥時間の短縮等の本件特許明細書記載の効果を奏するものである。 (シ)してみると、本件訂正発明1は、引用発明及び甲1に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない。 ウ-2 本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明4、11は、上記ウ-1に述べたのと同様の理由により、引用発明及び甲1に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない。 (1-3)小括 したがって、本件訂正発明1?3、5?10、12?20は、いずれも甲1に記載された発明とは同一であるとはいえないので、本件訂正発明1?3、5?10、12?20に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してされたものあるとの取消理由には理由がない。 また、本件訂正発明4、11は、甲1に記載された発明に基づいて容易になし得たものであるとはいえないので、本件訂正発明4、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとの取消理由には理由がない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (2-1)申立人は、請求項2、6、8、9、17、19、20に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項4に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張しているので検討する。 (2-2)請求項2、6、8、9、17、19、20に対する甲1に基づく特許法第29条第2項について エ 本件訂正発明2、6、8、9、17、19、20は、いずれも本件訂正発明1に係る請求項1を引用するものであるところ、上記(1-2)ウ-1で検討したとおり、本件訂正発明1は引用発明及び甲1に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない以上、本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明2、6、8、9、17、19、20は、同様の理由により、引用発明及び甲1に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない。 (2-3)請求項4に対する甲1及び甲2に基づく特許法第29条第2項について オ-1 本件訂正発明4は 本件訂正発明1に係る請求項1を引用するものであるから、まず本件訂正発明1が、甲1及び甲2に記載される事項に基づいて容易になし得たものか検討する。 (ス)本件訂正発明1と甲1に記載された引用発明とは、上記(1-1)アのとおり、<相違点1>において相違する。 (セ)ここで、甲2は、マンニトールとショ糖の混合物を用いたタンパク質の凍結乾燥製剤に関する技術文献であるが、要約(2a)には、「それ自体ではケークの崩壊を防ぐためには-35℃以下での一次乾燥が要求されるところ、結晶性マンニトールは、ショ糖が非晶質であっても-10℃の生成物温度で一次乾燥を行うことを許容する。」、緒言(2b)には、「ケークの崩壊を防ぐためには、常態ではTg’(しばしば-30から-35℃)以下で一次乾燥を受けなければならない。このことは、数日かかる凍結乾燥サイクルに帰着できる。結晶ケークを容易に形成させるマンニトールのような添加剤は、一次乾燥をそれらの共晶点(マンニトールでは-1.5℃)の直下の温度で行わせることができ、それにより一次乾燥にわずか数時間しか必要としない凍結乾燥サイクルをもたらすことができる。」と記載されており、マンニトールとショ糖の混合物を用いたタンパク質の凍結乾燥製剤の製造において、約-10℃の生成物温度での一次乾燥におけるケークの状態を「”微量崩壊した”ケーク」と称している(2c)。 (ソ)そうすると、甲2においてもケークの崩壊は防ぐべきものであり、甲2は、マンニトールとショ糖の混合物を用いたタンパク質の凍結乾燥製剤の製造において、約-10℃の生成物温度で一次乾燥できること、一次乾燥の際にケークが微量崩壊することを開示するにとどまり、甲2の開示を参酌しても、引用発明において、<相違点1>に係る構成とすることを導き出すことはできない。 (タ)一方、本件訂正発明1は<相違点1>に係る構成をとることにより、一次乾燥時間の短縮等の本件特許明細書記載の効果を奏するものである。 (チ)してみると、本件訂正発明1は、引用発明及び甲2に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない。 オ-2 上記オ-1で検討したとおり、本件訂正発明1は引用発明及び甲2に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない以上、本件訂正発明1の特定事項をすべて含み、さらに技術的限定を加えて特定したものである本件訂正発明4は、同様の理由により、引用発明及び甲2に記載される事項に基づいて容易になし得たものとはいえない。 (2-4)小括 上記(2-2)エ、(2-3)オ-2のとおりであるから、上記(2-1)の申立人の主張には理由がない。 (3)申立人の平成29年3月31日付け意見書における主張について カ 申立人は訂正事項により追加された「視覚的に検出可能な崩壊」について、本件特許明細書【0035】の記載を挙げて、「人間の肉眼によって、ケークが『少なくとも0.1%』崩壊しているか否か精密に判断することは不可能である」こと、また、「『微量崩壊』の意味と明確に区別されていない」ことから、本件訂正発明1?20は不明確である旨主張するので検討する。 (ツ)本件訂正発明1は、ケークの崩壊が肉眼で確認できればよいものであって、ケークの崩壊の割合「%」を算出するようなことまで規定するものではない。 (テ)そして、本件特許明細書【0035】の記載は以下のとおりとなっている。 「いくつかの実施形態では、微量崩壊は、視覚的に検出不可能である。いくつかの実施形態では、微量崩壊は、もとの無傷な構造(例えば、凍結乾燥ケークの構造)の約1%未満(例えば、約0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、または0.01%未満)の損失を指す。……一般に、総崩壊または大量崩壊は、凍結乾燥生成物中に視覚的に検出可能な崩壊をもたらす。本明細書では、用語「総崩壊」、「大量崩壊」、および「視覚的に検出可能な崩壊」は、互換的に使用される。いくつかの実施形態では、総崩壊、大量崩壊、または視覚的に検出可能な崩壊は、もとの無傷な構造(例えば、凍結乾燥ケークの構造)の少なくとも0.1%(例えば、少なくとも約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%)の損失を指す。」 (ト)かかる記載においては、「微量崩壊は、もとの無傷な構造(……)の約1%未満」と「視覚的に検出可能な崩壊は、もとの無傷な構造(……)の少なくとも0.1%」との箇所で数値範囲が重複しているが、「(例えば、約0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、または0.01%未満)の損失」と「(例えば、少なくとも約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%)の損失」と例示される数値は「1%」を境に「微量崩壊」と「視覚的に検出可能な崩壊」とで数値範囲が明確に区別されており、当該【0035】の記載が「微量崩壊」と「視覚的に検出可能な崩壊」とを区別できないとするほど不明確なものであるとはいえない。 (ナ)そうすると、訂正事項により追加された「視覚的に検出可能な崩壊」は、上記(ツ)のとおり肉眼で確認できればよいものてあって、そのこと自体が特段不明確であるとはいえないし、本件特許明細書の【0035】を併せ見ても「微量崩壊」とは区別されるものである。 (ニ)結果として、本件訂正発明1?20が不明確であるとはいえない。 キ なお、申立人は、平成29年3月31日付け申立人意見書の2頁19行?8頁25行において、参考資料1?3を提示して、これら資料のみに基づいて本件訂正発明1?20が特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反する旨を主張するが、これら新たな取消理由は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとは認められず、採用できない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、当審からの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1?20に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1?20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法であって、液体製剤の水を氷にする凍結ステップ、それに続いて一次乾燥ステップが行われる、を含み、一次乾燥ステップは、医薬物質中の水を直接昇華することにより除去し、ケーク崩壊を回避することなく崩壊温度または崩壊温度より高温ではあるが共晶融点より低い温度で実行されケークが視覚的に検出可能な崩壊をする、崩壊温度は凍結乾燥ケークがもとの構造を失うか変化する温度であり、凍結乾燥された医薬物質が生物学的または薬剤学的に活性がある物質に復元するのに適切である、液体製剤の医薬物質を凍結乾燥する方法。 【請求項2】 前記液体製剤の医薬物質が、少なくとも1mg/ml、50mg/mlあるいは100mg/mlの濃度である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記凍結乾燥生成物が、非晶質材料を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。 【請求項4】 前記凍結乾燥生成物が、部分的結晶質/部分的非晶質な材料を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 前記液体製剤が、ショ糖ベースの製剤である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 前記液体製剤が、崩壊温度がガラス転移温度の中間点(Tg’)より少なくとも1℃、2℃、5℃あるいは10℃高くなるように製剤化される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 前記液体製剤が医薬物質および安定化剤を含み、前記安定化剤と医薬物質の質量比が1000以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 前記安定化剤と前記医薬物質の質量比が、500以下、100以下、50以下、10以下、1以下、0.5以下あるいは0.1以下である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記液体製剤が医薬物質および安定化剤を含み、前記安定化剤が、ショ糖、マンノース、ソルビトール、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、塩化ナトリウム、アルギニン、ラクトース、ヒドロキシエチルデンプン、デキストラン、ポリビニルピロリドン、グリシン、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 前記液体製剤の医薬物質が、少なくとも1mg/ml、10mg/mlあるいは50mg/mlの濃度である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 前記液体製剤の医薬物質が、少なくとも50mg/mlの濃度のタンパク質であり、一次乾燥温度とガラス転移温度の中間点(Tg’)の差が1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃あるいは10℃である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。 【請求項12】 前記凍結ステップが-20℃以下で実行される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。 【請求項13】 前記凍結ステップが-40℃以下で実行される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。 【請求項14】 前記一次乾燥ステップが800mTorr以下の圧力で行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項15】 前記一次乾燥ステップが500mTorr以下の圧力で行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。 【請求項16】 前記一次乾燥ステップが200mTorr以下の圧力で行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。 【請求項17】 前記医薬物質が、タンパク質、ペプチド、多糖、小分子、天然物、核酸、免疫原、ワクチン、ポリマー、化学化合物、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。 【請求項18】 前記医薬物質がタンパク質である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。 【請求項19】 前記タンパク質が、抗体またはそのフラグメント、成長因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、酵素、キャリアタンパク質、多糖含有抗原、Small Modular ImmunoPharmaceutical(SMIP(商標))、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。 【請求項20】 前記医薬物質が、モノクローナル抗体または単一ドメイン抗体である、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。 【請求項21】 前記医薬物質が、13価肺炎球菌ワクチンの血清型の1種(SerotypeX)の非結合型多糖である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。 【請求項22】 前記凍結ステップが-40℃以下で実行され、前記一次乾燥ステップが200mTorr以下の圧力で行われる、請求項21に記載の方法。 【請求項23】 前記凍結ステップが-40℃以下で実行され、前記一次乾燥ステップが200mTorr以下の圧力で行われ、前記液体製剤の医薬物質が50mg/mlであり、前記製剤が、5%のショ糖、10mMのヒスチジン、10mMのメチオニンおよび0.01%のポリソルベート80をさらに含む、請求項17に記載の方法。 【請求項24】 前記凍結ステップが-40℃以下で実行され、前記一次乾燥ステップが200mTorr以下の圧力で行われ、前記液体製剤の医薬物質が10mg/mlのタンパク質であり、前記製剤が、10mMのトリス、4%のマンニトール、1%のショ糖をさらに含み、pH7.4である、請求項19に記載の方法。 【請求項25】 前記凍結ステップが-20℃以下で実行され、前記一次乾燥ステップが800mTorr以下の圧力で行われ、前記医薬物質が生ウイルスワクチンである、請求項17に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-05-18 |
出願番号 | 特願2011-522218(P2011-522218) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YAA
(A61K)
P 1 652・ 851- YAA (A61K) P 1 652・ 113- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 辰己 雅夫、杉江 渉 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
関 美祝 小川 慶子 |
登録日 | 2015-07-31 |
登録番号 | 特許第5785077号(P5785077) |
権利者 | ワイス・エルエルシー |
発明の名称 | 崩壊温度より高温での凍結乾燥 |
代理人 | 佐藤 眞紀 |
代理人 | 龍田 美幸 |
代理人 | 四本 能尚 |
代理人 | 佐藤 眞紀 |
代理人 | 龍田 美幸 |
代理人 | 宮澤 純子 |
代理人 | 宮澤 純子 |
代理人 | 四本 能尚 |