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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1330104
異議申立番号 異議2016-700377  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-26 
確定日 2017-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5805066号発明「車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5805066号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第5805066号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第5805066号の請求項2及び3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5805066号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)2月28日(優先権主張、2010年3月5日)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年9月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年4月26日付け(受理日:同年4月28日)で特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月6日付け(受理日:同年5月9日)で特許異議申立人 一條 淳(以下、「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において同年8月12日付けで取消理由が通知され、同年10月12日付け(受理日:同年10月13日)に特許権者 日本エイアンドエル株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年10月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月24日付け(受理日:同年11月28日)で特許異議申立人1から意見書が提出され、同年11月30日付け(受理日:同年12月1日)で特許異議申立人2から意見書が提出され、平成29年1月11日付けで取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)が通知され、同年3月7日付け(受理日:同年3月8日)に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、同年4月4日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月28日付け(受理日:同年5月1日)で特許異議申立人2から意見書が提出され、同年5月1日付け(受理日:同年5月8日)で特許異議申立人1から意見書が提出されたものである。
なお、平成28年10月12日付け(受理日:同年10月13日)でされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示すものである。以下、順に「訂正事項1」ないし「訂正事項3」という。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、「アクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)のトルエン溶媒下でのゲル含有量が80%以上であり、膨潤度が6?35である請求項1に記載の車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。」とある請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「重量平均粒子径が100?400nmのアクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)5?80重量部と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)を重合した(共)重合体(B)20?95重量部((A)と(B)の合計が100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、260℃での、分子量が200未満のモノマー成分、及び重量平均分子量が200?1000のオリゴマー成分を含む総揮発性物質の含有量が該組成物全体の0.7重量%以下、かつ260℃で測定される重量平均分子量が200?1000であるオリゴマー成分の含有量が該組成物全体の0.3重量%以下であり、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)のトルエン溶媒下でのゲル含有量が80%以上であり、膨潤度が6?35であることを特徴とする車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。」に訂正する(当審注:上記記載中の「シアン化ビニル系単体」は、「シアン化ビニル系単量体」の誤記と認める。以下、「シアン化ビニル系単量体」と記載する。)。
また、当該請求項2を引用する請求項3も併せて訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3が請求項1?2の何れかを引用する記載であるところ、請求項1を引用しないものとし、請求項2のみを引用するものに訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による訂正に伴い、訂正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を、請求項1を引用しないものに改めるとともに、訂正前の請求項1の「260℃での総揮発性物質」を「260℃での、分子量が200未満のモノマー成分、及び重量平均分子量が200?1000のオリゴマー成分を含む総揮発性物質」として、「総揮発性物質」をさらに限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3が、訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び2を引用する記載であったのを、請求項1を削除したことに伴い、請求項1を引用しないものとするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項
本件訂正の請求による訂正は、訂正後の請求項1ないし3についての訂正であるが、訂正前の請求項2及び3は訂正前の請求項1を引用するものであるので、訂正前の請求項1ないし3は、一群の請求項である。したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項第1、3及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3及び4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、平成29年3月7日付け(受理日:同年3月8日)で提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、本件特許発明2は、取消理由(決定の予告)通知時の本件特許の請求項2に係る発明と実質的に同じものであり、本件特許発明3は、取消理由(決定の予告)通知時の本件特許の請求項2を引用する請求項3に係る発明と実質的に同じものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
重量平均粒子径が100?400nmのアクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)5?80重量部と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)を重合した(共)重合体(B)20?95重量部((A)と(B)の合計が100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、260℃での、分子量が200未満のモノマー成分、及び重量平均分子量が200?1000のオリゴマー成分を含む総揮発性物質の含有量が該組成物全体の0.7重量%以下、かつ260℃で測定される重量平均分子量が200?1000であるオリゴマー成分の含有量が該組成物全体の0.3重量%以下であり、
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)のトルエン溶媒下でのゲル含有量が80%以上であり、膨潤度が6?35であることを特徴とする車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物から製造されるランプハウジング成形品。」

2 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。
なお、取消理由(決定の予告)における本件特許発明1ないし3は、平成28年10月12日付け(受理日:同年10月13日)で提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明のことである。

(1)本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明、技術常識並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明2は、引用文献1に記載された発明、技術常識及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明3は、本件特許発明1と同様に、引用文献1に記載された発明、技術常識並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)以上のとおり、本件特許発明1及び3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
他方、本件特許発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではないから、その特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

引用文献1:特開2003-138089号公報
引用文献2:特開2005-320466号公報
引用文献3:特開2005-132987号公報
引用文献4:特開平3-231907号公報
(引用文献1ないし3は、特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第1ないし3号証であり、引用文献4は、特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第5号証である。)

3 取消理由(決定の予告)についての判断
3-1 引用文献の記載等
(1)引用文献1の記載等
ア 引用文献1の記載
引用文献1(特開2003-138089号公報)には、「熱板溶着用熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品」に関して、次の記載(以下、総称して「引用文献1の記載」という。)がある。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量平均粒子径100?300nmであり、粒子径累積重量分率において、100nm未満が15重量%以下、300nm超が10重量%以下であり、ゲル含有量が50?95重量%の交叉結合を有するゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体(A)20?70重量%と、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体を重合させてなるビニル系共重合体(B)80?30重量%を配合してなることを特徴とする熱板溶着用熱可塑性樹脂組成物。
・・・(略)・・・
【請求項6】 請求項1?4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする車輌灯具用樹脂組成物。」

・「【0006】その例として、ヘッドランプやリアコンビネーションランプをはじめとする自動車用ランプハウジングが挙げられる。これらの樹脂成形品は、コストや耐薬品性の面からポリプロピレンが使用され、ホットメルト法と呼ばれる方法により、2種以上の成形品を接合していたが、この方法では接着強度に問題があり、熱可塑性樹脂溶着性が良好なABS等のスチレン系樹脂が採用されてきた。しかしながら、最近の自動車ランプの性能向上に伴い、ランプ内部の温度が高温領域になることから、これらの樹脂では成形品の形状や設計面を大幅に制限され、高温領域で使用可能な樹脂が自動車ランプ業界にて求められている。」

・「【0022】本発明に使用されるグラフト共重合体(A)とは、重量平均粒子径100?300nmであり、粒子径累積重量分率において、100nm未満が15重量%以下、300nm超が10重量%以下であり、ゲル含有量が50?95重量%の交叉結合を有するゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体及び/又は該ゴム質重合体にグラフト重合させる上記単量体の単独又は共重合体との混合物である。
【0023】本発明で使用されるグラフト重合体(A)中のゴム質重合体は、ポリブタジエン、ブタジエンと共重合可能なビニル単量体との共重合体、アクリル酸エステル重合体単独、該アクリル酸エステル重合体と共重可能なビニル単量体との共重合体等、更にエチレン-プロピレン系ゴム質重合体単独と、該エチレン-プロピレン系ゴム質重合体と共重可能なビニル単量体との共重合体及びポリオルガノシロキサン等が挙げられる。」

・「【0027】ゴム質グラフト重合体に使用される、上記ゴム質重合体の粒子径は、特定の粒子径の範囲に入る必要がある。すなわち、ゴム質重合体の重量平均粒子径は、100?300nmであり、好ましくは100?200nmである。100nm未満では衝撃性が低く、また、耐薬品性も悪化し、300nmを超えると流動性が悪化する上に、製品外観が著しく低下する。」

・「【0040】本発明で使用されるビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体と、更に必要に応じて用いられる共重合可能な他の単量体を共重合してなるもので、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体と、更に必要に応じて用いられる共重合可能な他の単量体は、グラフト重合体(A)にグラフト重合させる単量体と同様な単量体が使用できる。」

・「【0042】本発明において、グラフト重合体(A)とビニル系共重合体(B)とのブレンドにおいて、その配合比はグラフト重合体(A)20?70重量%、ビニル系共重合体(B)80?30重量%であり、特にグラフト重合体(A)30?50重量%、ビニル系共重合体(B)70?50重量%が物性面から好ましい。グラフト重合体(A)が20重量%未満では耐衝撃性が低下し、70重量%を超えると流動性、製品外観が悪化する。」

・「【0047】
【実施例】以下に製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何らその範囲を限定するものではない。尚、以下において、「部」は重量部を意味するものとし、またゴム質重合体の粒子径は、日機装(株)製Microtrac Model:9230UPAを用いて動的光散乱法より求めた。得られる値は、重量平均(体積)粒子径と粒子径分布、粒子径分布の累積重量分布である。また、ビニル系重合体の重量平均分子量は、東ソー(株)製:GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)を用いた標準ポリスチレン換算法にて算出した。
【0048】<合成例1>:アクリル酸エステル系ゴム質重合体の合成
耐圧容器に以下の材料を仕込み、
半硬化牛脂ソーダ石鹸 1.5部
ピロリン酸ナトリウム 0.3部
脱イオン水 200部
窒素気流下で、80℃まで昇温し、
ブチルアクリレート 100部
過硫酸カリウム 0.3部
トリアリルシアヌレート 0.3部
を4時間に亘って滴下し、重合させた。滴下終了後、1時間放置後、冷却して反応を終了させた。得られたラテックス(Lx-1)は、固形分32.5重量%、平均粒子径85nmであった。
【0049】(実験例1)合成例1にて得られたアクリル酸エステル系ゴム質重合体ラテックス(Lx-1)100部(固形分)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.15部を添加した。その後、5%酢酸水溶液を30分間に亘って連続的に、合計60部の酢酸水溶液を滴下した。酢酸水溶液の滴下終了後に、10%水酸化ナトリウム水溶液を10分間に亘り、連続的に滴下した。滴下終了後のラテックス中のゴム質重合体の平均粒子径は150nmであり、塊状物は0.05重量%であった(BLx-1)。
【0050】(実験例2)実験例1において、酢酸水溶液や水酸化ナトリウム量等を調整して肥大化させ、ラテックス中のゴム質重合体の平均粒子径は180nmであり、塊状物は0.08重量%であった(BLx-2)。
【0051】<合成例2>:グラフト重合体(A-1)の合成
実験例1にて得られたラテックス(BLx-1)を用いて、以下の配合にてグラフト重合体を合成した。
【0052】
脱イオン水 240部
半硬化牛脂ソーダ石鹸 1.5部
水酸化カリウム 0.05部
BLx-1 60部
アクリロニトリル 12部
スチレン 28部
クメンハイドロパーオキサイド 0.25部
硫酸第一鉄 0.004部
ピロリン酸ナトリウム 0.02部
結晶ブドウ糖 0.2部
オートクレーブに脱イオン水、半硬化牛脂ソーダ石鹸、水酸化カリウム及びポリブチルアクリレート・ラテックスを仕込み、60℃に加熱後、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム及び結晶ブドウ糖を添加し、60℃に保持したままスチレン、アクリロニトリル及びクメンハイドロパーオキサイドを2時間かけて連続添加し、その後70℃に昇温して1時間保って反応を完結した。かかる反応によって得た重合体を硫酸により凝固し、充分水洗後、乾燥してグラフト共重合体(A-1)を得た。」

・「【0063】
<合成例11>:ビニル系重合体の合成(B-1)
窒素置換した反応器に水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部と、アクリロニトリル35部及びスチレン65部からなるモノマー混合物を加え、開始温度60℃として5時間加熱後、120℃に昇温し、4時間反応後、重合物を取り出した。転化率は96%で、重量平均分子量は96000であった。」

・「【0066】表2及び表3に示すような割合にて、上記、製造例で得られたグラフト重合体(A)、ビニル系共重合体(B)及び/又はポリカーボネート樹脂(C)と、アルコール系滑剤を0.5部、フェノール系酸化防止剤を0.3部添加し、バンバリーミキサーにて均一に混練した後、ペレタイザーによりペレットを得た。得られたペレットを射出成形機を用い、必要なテストピースを作製した。」

・「【0071】
・テストピース外観外観状態をスガ試験器(株)製デジタル変角光度計UGV-5Dを用い、入射角60°、反射角60°での光沢度の測定を行う。
【0072】・拡散反射率
180×35×2mmのテストピースを成形後、常法に基づいて、アルミニウムを蒸着させた。この蒸着した成形品の、45度拡散反射率を、デジタル反射計(TR-1100AD;東京電飾センター製)を用いて測定した。ここで、拡散反射率が高いほど、製品外観が良好であり、乱反射が起こり難く、例えば、車輌用ランプハウジングなどに好適に用いられるが、拡散反射率が低いと、乱反射が起こり易く(つまり、製品外観が不良)、ランプハウジング等には、使用できなくなる。」

・「【0075】
【表2】



イ 引用発明
引用文献1の記載を整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「重量平均粒子径が100?300nmのゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)20?70重量%と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体を重合させてなるビニル系共重合体(B)80?30重量%を配合してなる、車輌用ランプハウジング用熱板溶着用熱可塑性樹脂組成物。」

(2)引用文献2の記載
引用文献2(特開2005-320466号公報)には、「成形材料及び成形品」に関して、次の記載がある。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)からなる成形材料であって、前記ゴム強化スチレン系樹脂(A)は、メタクリル酸エステルと必要に応じて他のビニル系単量体とからなる(共)重合体(B)を含み、ゴム質重合体の含有量が前記ゴム強化スチレン系樹脂(A)全体の2?35質量%であり、メタクリル酸エステル含有量が前記ゴム強化スチレン系樹脂(A)全体の30?90質量%であり、オリゴマーの含有量が2500ppm以下である成形材料。
【請求項2】
請求項1の成形材料からなる成形品。
【請求項3】
押出成形されてなる請求項2記載の成形品。
【請求項4】
屋外で使用される成形品である請求項2又は3記載の成形品。
【請求項5】
筐体として使用される成形品である請求項2?4の何れか1項記載の成形品。」

・「【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂および耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などで代表されるゴム強化スチレン系樹脂は、機械的特性、物理的特性、電気的特性等に優れることから、電気・電子分野、OA・家電分野、車輌分野、サニタリー分野等で幅広く使用されている。」

・「【0005】
そこで、本発明の目的は、ゴム強化スチレン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、耐候性、外観性および耐薬品性に優れ、とりわけ、高光沢性を備え、鮮映性が高く、高硬度で傷が付き難く、したがって無塗装で使用でき、しかも耐薬品性や耐候性に優れた成形品を与える成形材料および該成形材料からなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定量のゴム質重合体を含有するゴム強化スチレン系樹脂において、その単量体成分として特定量のメタクリル酸エステルを使用し、樹脂中のオリゴマーの含有量を特定量以下とすることにより、耐候性、外観性および耐薬品性に優れ、無塗装で使用できる成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一局面によれば、ゴム強化スチレン系樹脂(A)からなる成形材料であって、前記ゴム強化スチレン系樹脂(A)は、メタクリル酸エステルと必要に応じて他のビニル系単量体とからなる(共)重合体(B)を含み、ゴム質重合体の含有量が前記ゴム強化スチレン系樹脂(A)全体の2?35質量%であり、メタクリル酸エステル含有量が前記ゴム強化スチレン系樹脂(A)全体の30?90質量%であり、オリゴマーの含有量が2500ppm以下である成形材料が提供される。
また、本発明の他の局面によれば、上記成形材料からなる成形品が提供される。この成形品は、耐候性、外観性および耐薬品性に優れ、無塗装で使用するのに好適である。また、上記成形材料を押出成形した場合、成形時のガスの発生が少なく、成形品に染みが生じないので良好な外観が得られる。また、上記成形材料を射出成形した場合、成形品の表面は高光沢で鮮映性が高くなるので良好な外観が得られる。本発明の成形品は、耐候性及び耐薬品性にも優れるため、屋外用途に好適であり、また、筐体としても好適である。」

・「【0036】
本発明において、成形品中のオリゴマー含有量は、2500ppm以下、好ましくは2000ppm以下、さらに好ましくは1500ppm以下である。2500ppmを越える場合、成形加工時のガス発生量が多くなり外観性が劣り、耐エタノール性も劣る。成形品中のオリゴマー含有量は、一般に、成形材料のオリゴマー含有量以下となるので、成形材料中のオリゴマー含有量が2500ppm以下、好ましくは2000ppm以下、さらに好ましくは1500ppm以下であれば、本発明の目的とする成形品を得ることができる。
【0037】
上記オリゴマー含有量を達成するためには、例えば、下記(I)?(III)の少なくとも1つの方法を採用することができる。
(I)上記成分(A-1)および/または(A-2)の重合工程で、重合条件を最適化にすることで、オリゴマーの生成を少なくする方法。
(II)上記成分(A-1)および/または(A-2)のペレット押出工程で、オリゴマー除去がしやすい機能を備えた押出機を使用し、押出条件を最適化して押出を行なう方法。
(III)上記成分(A-1)と成分(A-2)を配合してなる混合物のペレット押出工程で、上記(II)と同様にして押出を行なう方法。
【0038】
本発明の成形材料で成形された成形品は、雨樋、エアコンダクトカバー、樹脂サッシ、竹垣などの屋外で使用する成形品の他、テレビフロントパネルや、携帯オーディオ装置、携帯電話、ゲーム機などの筐体等の各種用途に使用できる。」

・「【0040】
〔評価方法〕
1.成形材料中または成形品中のオリゴマー量の測定
成形材料のペレット又は下記シャルピー衝撃強度の測定に使用した成形品をこまかく切断した切断品をサンプルとして、それをメチルエチルケトン溶媒に溶解し、標準物質(p-エチルニトロベンゼン)を加えて混合する。
その後、n-ペンタンでポリマー分を再沈し、その上澄液を濃縮して水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフに注入し、下記試験条件で得られたクロマトグラフより成形材料中または成形品中のオリゴマーを定量する。
試験条件
・ガスクロマトグラフ;島津製作所製GC-14APF
・データー処理機;島津製作所製C-R6A
・カラム;TC-5 0.53mm×30m
・温度;COL 130-(7.5)-290
Inj.Det 290
・Carr;He 20ml/min
【0041】
2.発生ガス量
50mmシート押出装置にて幅90mmのTダイを用いて、幅30mm厚み4mmの平板をシリンダー、ダイ温度180℃にて成形した。そのときの金型ダイより発生するガスを目視観察し判定した。そのときの判定基準は以下のとおり:
○:発生ガス少ない、
△:発生ガスやや多し、
×:発生ガス多い。
なお、発生ガスが多いと環境に悪く、そして、金型汚染が生じ、成形品の表面外観性(光沢、美観、鮮映性等)が劣る。」

・「【0047】
〔使用成分〕
成分(A-1-1);ポリブタジエンゴム含量42%、アクリロニトリル含量16%、スチレン含量42%の構成成分からなるABS樹脂。グラフト率52%、アセトン可溶分の極限粘度(メチルケトン、30℃)0.45dl/g、オリゴマー含量480ppm。
成分(A-1-2);アクリルゴム含量50%、アクリロニトリル含量14%、スチレン含量36%のASA樹脂。グラフト率65%、アセトニトリル可溶分の極限粘度(メチルケトン30℃)0.51dl/g、オリゴマー含量400ppm。
【0048】
成分(B-1);内容積30Lのリボン翼を備えたジャケット付き重合反応容器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン23部、アクリロニトリル18部、メタクリル酸メチル59部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert-ドデシルメルカプタン0.12部及びトルエン5部の溶液、及び重合開始剤として、1、1´-アゾビス(シクロヘキサン-1-カーボニトリル)0.1部、及びトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は、110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤、及び重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合温度は、130℃で行い、重合転化率は70%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を用いて、200?250℃、真空度-600mmHgの条件で直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、結合メタクリル酸メチル含量72質量%、結合スチレン含量21質量%、結合アクリロニトリル含量7質量%、極限粘度〔η〕0.5dl/g、オリゴマー含量3500ppmのペレット状樹脂(B-1)を得た。
【0049】
成分(B-2);2軸3段ベント付押出機を用いて、200?250℃、真空度-730mmHgの条件で、上記ペレット状樹脂(B-1)を2回通し、オリゴマー成分の低減を行なった。結合メタクリル酸メチル含量72%、結合スチレン含量21%、結合アクリロニトリル含量7%、極限粘度(メチルケトン30℃)0.5dl/g、オリゴマー含量1000ppmの樹脂(B-2)を得た。
【0050】
成分(B-3);オリゴマー含量500ppm、メタクリル酸メチル含量100%、極限粘度(メチルケトン30℃)0.6dl/gのメタクリル酸エステル樹脂。
AS樹脂;オリゴマー含量3000ppm、結合アクリロニトリル含量24%、結合スチレン含量76%のAS樹脂。
【0051】
実施例1?4、比較例1?4
表1に示した配合成分をヘンシエルミキサーを用いて十分に混合し、次いで、実施例1?3、比較例1?4の混合物については2軸1段ベント付押出機を用いて、200℃、真空度-700mmHgの条件で押出し、ペレットを得た。
実施例4の混合物は、2軸3段ベント付押出機を用いて、230℃、真空度-700mmHg条件で2回通して押出し、ペレットを得た。
上記のペレットを用いて、上記評価方法に従って、試験片を作製し、評価した。結果は表1に示す。」

・「【0052】
【表1】



(3)引用文献3の記載
引用文献3(特開2005-132987号公報)には、「熱可塑性樹脂組成物および成形品」に関して、次の記載がある。

・「【0001】
本発明は、耐衝撃性と耐候性に優れると共に、成形時のガス発生量が少ない熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料の耐衝撃性や耐候性を向上させることは、用途の拡大や、成形品の薄肉化や大型化等を可能にすることから、工業的に非常に有用であり、従来から種々検討されてきた。 例えば、ゴム状重合体に硬質樹脂を配合することによって、材料の耐衝撃性を高めたものとして、ABS樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、変性PPE樹脂、MBS樹脂、強化ポリ塩化ビニル樹脂等が実用化されている。中でも、耐衝撃性に加えて良好な耐候性を有するものとして、ゴム状重合体に(メタ)アクリル酸アルキルエステルゴム等の飽和ゴムを用いた樹脂、具体的には耐候性ABS樹脂であるASA樹脂等が提案されており、車両用外装部品、自動販売機、電波中継基地の筐体部品等の屋外電機機器等に利用されてきている。
また、低温での耐衝撃性を向上させる手段として、ゴム状重合体として、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートとの複合ゴムを用いることが提案されている(例えば、特許文献1?3参照)。さらに耐候性と顔料着色性を向上させる手段として、ポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートとの複合ゴムを含むグラフト重合体と、(メタ)アクリル酸エステル系重合体とを配合することも提案されている(例えば、特許文献4?6参照)。
・・・(略)・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、近年、材料に要求される特性は益々厳しくなってきており、先行の熱可塑性樹脂組成物では対応できなくなってきている。具体的には、特に耐候性の要求が厳しくなっており、これに対応すべく、光安定剤の配合が広く行われている。しかしながら、成形加工時にブリードアウトやガス発生を招き、これらが成形品に付着して意匠性を損ねることがあった。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、耐衝撃性と耐候性に優れると共に、低ガス発生性を有する熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品を提供することを目的とする。」

(4)引用文献4の記載
引用文献4(特開平3-231907号公報)には、「耐衝撃性グラフト共重合体及び樹脂組成物」に関して、次の記載がある。

・「特許請求の範囲
(1)ポリオルガノシロキサンゴム成分1?10重量%とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分99?90重量%よりなり、前記両成分が相互に分離しない構造を有し、トルエン溶媒下で測定したゲル含量が85%以上であり、膨潤度が3?15である平均粒子径0.08?0.6μmの複合ゴムに、1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合してなるポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体。」(第1ページ左下欄第4ないし13行)

・「本発明は耐衝撃性、表面硬度並びに表面外観に優れた成形物を与えるポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体及び耐衝撃性樹脂組成物に関するものである。」(第1ページ右下欄第7ないし10行)

・「膨潤度は、ゴムの弾性率と関係するパラメーターである。耐衝撃性能を有効に発現させるためには低い弾性率である必要がありしかも、十分強靭である必要がある。このような耐衝撃性樹脂のゴムに必要な性質は、ゴムの溶媒吸収能力即ち膨潤度で示される。
ポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートどの複合ゴムにおいても、この膨潤度は重要な因子であり、膨潤度が小さいと複合ゴムの弾性率が高くなり耐衝撃性能が悪化する。逆に、膨潤度が大きくなると、複合ゴムの弾性率が低下し耐衝撃性能が向上するが、複合ゴムの強靭性が低下するために、樹脂表面の硬度の低下・成形外観の不良を起こす。」(第3ページ右上欄第2ないし15行)

・「実施例1
グラフト共重合体(S-1)の製造:
テトラエトキシシラン2部、γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し、シロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部を溶解した蒸留水200部に上記混合シロキサン100部を加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備撹拌した後、ホモジナイザーにより200Kg/cm^(2)の圧力で乳化、分散させ、オルガノシロキサンラテックスを得た。この混合液を、コンデンサー及び撹拌翼を備えたセバラブルフラスコ9に移し、撹拌混合しながら80℃で5時間加熱した後20℃で放置し、48時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.5に中和し、重合を完結しポリオルガノシロキサンラテックス-1を得た。得られたポリオルガノシロキサンゴムの重合率は88.5%であり、ポリオルガノシロキサンゴムの平均粒子径は0.24μmであった。
上記ポリオルガノシロキサンゴムラテックス-1(ゴム成分含量=29%)を17部採取し、撹拌器を備えたセパラブルフラスコに入れ、蒸留水200部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n-ブチルアクリレート1.9部、アリルメタクリレート93.1部及びtert-ブチルヒドロペルオキシド0.23部の混合液を仕込み30分間撹拌し、この混合液をポリオルガノシロキサンゴム粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部及び蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で2時間保持し重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。このラテックスを一部採取し、複合ゴムの平均粒P径を測定したところ0.26μmであった。又、このラテックスを乾燥し、複合ゴムの固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ92.8重量%であった。又、複合ゴムのトルエンに対する膨潤度を室温24時間で測定したところ10.3であった。」(第8ページ左下欄第7行ないし第9ページ左上欄第9行)

3-2 対比・判断
(1)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と引用発明を対比する。

引用発明における「重量平均粒子径が100?300nmのゴム質重合体」は、実施例としてアクリル酸エステル系ゴム質重合体が使用されていることから、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「重量平均粒子径が100?400nmのアクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)」に相当する。
また、引用発明における「芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)」に相当する。
したがって、引用発明における「重量平均粒子径が100?300nmのゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)20?70重量%」及び「芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じて共重合可能な他の単量体を重合させてなるビニル系共重合体(B)80?30重量%」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、それぞれ、本件特許発明2における「重量平均粒子径が100?400nmのアクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)5?80重量部」及び「芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)を重合した(共)重合体(B)20?95重量部((A)と(B)の合計が100重量部)」に相当する。
さらに、引用発明における「配合してなる」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明2における「含む」に相当し、以下、同様に、「熱板溶着用熱可塑性樹脂組成物」は「熱可塑性樹脂組成物」に、「車輌用ランプハウジング用」は「車両用ランプハウジング用」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「重量平均粒子径が100?400nmのアクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)5?80重量部と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)を重合した(共)重合体(B)20?95重量部((A)と(B)の合計が100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。」である点で一致し、次の点(以下、「相違点1」及び「相違点2」という。)で相違する。

<相違点1>
本件特許発明2においては、260℃での、分子量が200未満のモノマー成分、及び重量平均分子量が200?1000のオリゴマー成分を含む総揮発性物質の含有量が該組成物全体の0.7重量%以下、かつ260℃で測定される重量平均分子量が200?1000であるオリゴマー成分の含有量が該組成物全体の0.3重量%以下であるのに対し、引用発明においては、そうであるか不明な点。

<相違点2>
本件特許発明2においては、アクリル酸エステル系ゴム状重合体のトルエン溶媒下でのゲル含量が80%以上であり、膨潤度が6?35であるのに対し、引用発明においては、そうであるか不明な点。

イ 判断
そこで、相違点について検討する。

(ア)相違点1について
熱可塑性樹脂組成物中の総揮発性物質及びオリゴマー成分は、金型汚染を生じさせ、熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品の品質に悪影響を与えるので、熱可塑性樹脂組成物中の総揮発性物質及びオリゴマー成分は少なくすべきものであることは、引用文献2の記載(特に、段落【0006】、【0036】及び【0041】を参照。)及び引用文献3の記載からみて、本件特許の優先日前に当業者にとって技術常識(以下、「技術常識1」という。)であり、また、揮発成分の金型への付着・堆積に伴う金型汚れが連続成形の妨げとなることも、特開2002-206043号公報(本件特許の優先日前に日本国内で頒布された刊行物であり、平成28年11月24日付け(受理日:同年11月28日)で特許異議申立人1が提出した意見書に添付された甲第7号証である。)の記載(特に、段落【0001】及び【0002】を参照。)からみて、本件特許の優先日前に当業者にとって技術常識(以下、「技術常識2」という。)である。
そして、引用文献2には、成形材料中のオリゴマー成分をどの程度少なくするかの基準として、2500ppm、すなわち成形材料全体の0.25重量%以下(段落【0040】によると、測定条件は、カラム温度を130から290℃に昇温させ、Inj.Detの温度を290℃とすることである。)が記載されている。
他方、本件特許明細書の【表2】及び【表3】において、200℃で測定した場合のオリゴマー成分の量よりも260℃で測定した場合のオリゴマー成分の量の方が大きく測定されることからみて、測定温度が低ければオリゴマー成分の量は小さく測定されるといえるので、引用文献2において、カラム温度を130から290℃に昇温させ、Inj.Detの温度を290℃とするという測定条件で測定した場合に成形材料中のオリゴマー成分量が0.25重量%以下であるということは、260℃の温度で測定した場合には、当然0.25重量%以下になっているというべきである。
また、本件特許明細書には、「290℃」よりも低い温度である「260℃」で測定することの技術的意義は特に記載されていないし、成形加工温度における発生ガス(総揮発性物質及びオリゴマー成分)量を少なくしようとすることは、技術常識1及び2から当業者が当然に想到することといえる。
さらに、引用発明においても、本件特許発明2と同様の原料を使用し、同様の重合を行っている(引用文献1の段落【0047】ないし【0052】及び【0063】等を参照。)ことから、本件特許発明2と同様に、樹脂組成物に含有されるモノマー成分は分子量が200未満のものを含み、オリゴマー成分は重量平均分子量が200?1000のものを含むといえる。

したがって、引用発明において、技術常識1及び2を踏まえて、熱可塑性樹脂組成物中の総揮発性物質及びオリゴマー成分を可能な限り少なくするようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、引用発明において、技術常識1及び2並びに引用文献2及び3に記載された事項を適用する際に、どの程度の重量平均分子量のオリゴマー成分を少なくするかは設計的事項であるから、オリゴマー成分の内、260℃で測定される重量平均分子量が200?1000であるオリゴマー成分に着目し、その含有量を該組成物全体の0.3重量%以下とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、引用発明において、技術常識1及び2並びに引用文献2及び3に記載された事項を適用する際に、総揮発性物質の含有量について、測定条件をオリゴマー成分の測定条件と同様にして、260℃での、分子量が200未満のモノマー成分、重量平均分子量が200?1000であるオリゴマー成分を含む総揮発性物質の含有量を組成物全体の0.7重量%以下とすることも、当業者であれば容易に想到し得たことである。
よって、引用発明において、技術常識1及び2並びに引用文献2及び3に記載された事項を適用し、相違点1に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

なお、特許権者は、平成28年10月12日付け(受理日:同年10月13日)の意見書の「(4-3-1)」において、「さらに、引用発明の明細書の段落0072には、「ここで、拡散反射率が高いほど、製品外観が良好であり、乱反射が起こり難く、例えば、車輌用ランプハウジングなどに好適に用いられるが、拡散反射率が低いと、乱反射が起こり易く(つまり、製品外観が不良)、ランプハウジング等には、使用できなくなる。」と記載されており、ランプハウジング等に適した拡散反射率は高い方がランプハウジングに適している旨の記載がなされている。そうすると、ランプハウジングの内側の面をリフレクターの反射面として拡散反射率が5%以下のものを得ているとする本件特許明細書の段落0002と矛盾した記載になっており、引用発明の技術要素と本件特許発明の作用・効果的な特定事項が異なることから、本件特許発明には引用発明には存在しない技術的意義を有する発明特定事項の存在が推認される。」旨主張するが、平成28年11月24日付け(受理日:同年11月28日)で特許異議申立人1が提出した意見書の「3.(3)」に記載されているように、引用文献1の段落【0072】の「拡散反射率が高いほど、製品外観が良好であり、乱反射が起こり難く」及び「拡散反射率が低いと、乱反射が起こり易く(つまり、製品外観が不良)、ランプハウジング等には、使用できなくなる。」という記載並びに段落【0075】の【表2】の「テストピース外観(光沢、%)」の欄の記載からみて、上記段落【0072】における「拡散反射率」は「正反射率」の誤記と考えるのが合理的であるし、自然であるから、引用文献1の記載と本件特許明細書の記載は矛盾するものとはいえず、特許権者の上記主張は採用できない。

(イ)相違点2について
引用文献4には、耐衝撃性、表面硬度並びに表面外観に優れた成形物を与えるために、樹脂組成物の成分である複合ゴムのトルエン溶媒下でのゲル含量を85%以上、膨潤度を3?15とすることが記載されているが、樹脂組成物の成分である複合ゴムのトルエン溶媒下でのゲル含量及び膨潤度を上記範囲内とすれば、光沢と初期及び連続成形後における成形品の拡散反射率を特に優れたものとすることができることは記載されていない。
また、引用文献2及び3にも、樹脂組成物の成分である複合ゴムのトルエン溶媒下でのゲル含量及び膨潤度を上記範囲内とすれば、光沢と初期及び連続成形後における成形品の拡散反射率を特に優れたものとすることができることは記載されていない。
他方、本件特許発明2は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体のトルエン溶媒下でのゲル含量が80%以上であり、膨潤度が6?35であるとすることにより、光沢と初期及び連続成形後における成形品の拡散反射率を特に優れたものにするという効果を奏するものである。
したがって、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された事項からは、本件特許発明2の奏する効果は予測することはできず、引用発明において、引用文献2ないし4に記載された事項を適用して、相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、特許異議申立人2が平成29年4月28日付け(受理日:同年5月1日)で提出した意見書及び特許異議申立人1が同年5月1日付け(受理日:同年5月8日)で提出した意見書(新たに提出された甲第8ないし11号証を含めて。)の内容を検討したが、これらによっても、上記判断は左右されない。
ところで、平成29年5月1日付け(受理日:同年5月8日)で特許異議申立人1が提出した上記意見書の内容は、相違点2に関するものであるが、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項に関するものではなく(形式的にみても、実質的にみても、本件訂正の請求前から本件特許の請求項2に既に記載された事項に関するものであり、特許異議申立書において最初から主張可能なものである。)、また、特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して実質的に新たな内容を含むものである(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書には、取消理由(決定の予告)における引用文献1(特開2003-138089号公報)を主引用文献とする取消理由は記載されていない。)から、平成29年4月4日付けの通知書で示したとおり、新たな取消理由として、そもそも採用されないものでもある。

ウ まとめ
よって、相違点1に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるが、相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえないから、本件特許発明2は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明、技術常識1及び2並びに引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件特許発明3について
本件特許発明3は、請求項2を引用するものであるから、本件特許発明2と同様に、引用文献1に記載された発明、技術常識1及び2並びに引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)むすび
以上のとおり、本件特許発明2及び3は、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではないから、その特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

4 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立理由について
特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由は、取消理由(決定の予告)において採用しなかった特開2006-28393号公報を主引用文献とした新規性違反及び進歩性違反並びに特開2006-131677号公報を主引用文献とした進歩性違反であるが、上記文献の何れにも、相違点1及び2に係る本件特許発明2の発明特定事項は記載も示唆もなく、また、特許異議申立人1の提出した他の文献にも、上記何れかの文献に記載された発明において、相違点1及び2に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないことから、特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。
なお、特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由は、取消理由(決定の予告)と同旨であるから、取消理由(決定の予告)と同様に、特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。

第4 結語
上記第3のとおりであるから、請求項2及び3に係る特許は、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立人1及び特許異議申立人2それぞれが提出した特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項2及び3に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
さらに、本件特許の請求項1は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して、特許異議申立人1及び特許異議申立人2がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
重量平均粒子径が100?400nmのアクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)の存在下、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)5?80重量部と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びマレイミド系単量体よりなる群から選択される1種以上の単量体(a-2)を重合した(共)重合体(B)20?95重量部((A)と(B)の合計が100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、260℃での、分子量が200未満のモノマー成分、及び重量平均分子量が200?1000のオリゴマー成分を含む総揮発性物質の含有量が該組成物全体の0.7重量%以下、かつ260℃で測定される重量平均分子量が200?1000であるオリゴマー成分の含有量が該組成物全体の0.3重量%以下であり、
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(a-1)のトルエン溶媒下でのゲル含有量が80%以上であり、膨潤度が6?35であることを特徴とする車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物から製造されるランプハウジング成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-26 
出願番号 特願2012-503123(P2012-503123)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松浦 裕介繁田 えい子藤井 勲  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加藤 友也
西山 義之
登録日 2015-09-11 
登録番号 特許第5805066号(P5805066)
権利者 日本エイアンドエル株式会社
発明の名称 車両用ランプハウジング用熱可塑性樹脂組成物  
代理人 風間 智裕  
代理人 加納 正裕  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 壽 勇  
代理人 梅田 和功  
代理人 梅田 和功  
代理人 木下 倫子  
代理人 落合 馨  
代理人 加納 正裕  
代理人 木下 倫子  
代理人 壽 勇  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 落合 馨  
代理人 風間 智裕  

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