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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1330119
異議申立番号 異議2017-700224  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-06 
確定日 2017-07-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第5989291号発明「塗膜保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5989291号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯

特許第5989291号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成28年8月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成29年3月6日付けで特許異議申立人角田朗(以下「申立人」という。)により、「特許第5989291号の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明についての特許は取消されるべきものである。」という趣旨で、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出されたものである。

2 本件発明

本件請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(a)含ケイ素フッ素樹脂および両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤を用いてなるコート層と、
(b)ウレタン層と、
(c)粘着剤層と、を有する、塗膜保護フィルム。
【請求項2】
前記含ケイ素フッ素樹脂が、含フッ素オレフィン、架橋性官能基を有する単量体および反応性シリコーンを共重合体単量体として含む、請求項1に記載の塗膜保護フィルム。
【請求項3】
前記ジイソシアネート化合物がヘキサメチレンジイソシアネートである、請求項1または2に記載の塗膜保護フィルム。」

3 申立理由の概要

申立人は、証拠として以下の甲第1号証?甲第7号証を提出し、請求項1?3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?3に係る発明を取り消すべきものである旨主張し、また、本件明細書の発明の詳細な説明には不備があるから、本件発明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願になされたものである旨主張している。

甲第1号証:特開2008-280657号公報
甲第2号証:特開2007-131700号公報
甲第3号証:特開2009-299035号公報
甲第4号証:特開2005-272558号公報
甲第5号証:特表2008-539107号公報
甲第6号証:特開2009-299053号公報
甲第7号証:特開2008-49524号公報
(以下、上記甲第1号証?甲第7号証を、それぞれ、「刊行物1」?「刊行物7」という。)

具体的には、本件発明1?3は、刊行物1に記載された発明、及び、周知・慣用技術(刊行物3?7)に基づいて、容易に想到し得たことであり、また、本件発明1?3は、刊行物2に記載された発明、及び、周知・慣用技術(刊行物3?7)に基づいて、容易に想到し得たことである旨、申立人は主張している(以下、「申立理由1」という)。

また、本件発明における二官能イソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートは、末端に2つの官能基しかなく、重合後に直線状の構造にしか成り得ないため、生成したポリマーは絡み合った枝状の構造とはならなず、本件明細書には架橋しているかどうかの根拠もなく、また、直線状の構造の樹脂は延伸性を有しないため、本件特許発明の効果を奏しないことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している(以下、「申立理由2」という。)

4 刊行物の記載

(1)刊行物1?7の記載事項(下線は当審が付した。)
ア 刊行物1には、以下のことが記載されている。

記載事項1-A
「【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の表面に貼って物品の被覆などに使用される合成皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料、家具、椅子、等にウレタン製や、塩ビ製の合成皮革等が長らく使われてきている。そして、このようなものは、特許文献1などに記載されている。
【特許文献1】特開2007-31850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような合成皮革を、長期間使用すると、汚れの蓄積による外観不良や、摩耗などによる表面の損傷、剥離等の問題があった。
そして、従来は、この改良手段として、合成皮革にフッ素系樹脂を含む材料などを用いて表面加工する等が試みられてきている。しかし、従来から用いられている表面加工用の材料を用いて防汚加工を行う場合、防汚性能の高い樹脂はモジュラスが高いので、防汚性を向上させるほど柔軟性を低下させて硬くなってしまう。そして、柔軟性が低下して硬くなると、磨耗耐久性も悪くなってしまう。
【0004】
特に合成皮革の場合、通常のフィルムなどと違って、使用時に、揉まれたり、表面が擦れたりすることが多いので、上記の特性を満足させることができる防汚加工を行うことは難しいものであった。
【0005】
そこで、本発明は、防汚性と磨耗耐久性に優れるものであり、特に、家具、椅子に好適な合成皮革を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、上記した目的を達成するため、本発明の合成皮革は、繊維基材と樹脂層とを有する本体材の表面に、防汚層を形成した合成皮革であって、前記防汚層は、フルオロオレフィン、反応性シリコーン及び水酸基含有不飽和単量体とによって構成される水酸基を含有した反応性シリコーン含有フッ素系共重合体と、不飽和イソシアネートとを反応させて生成されたシリコーン含有フッ素系共重合体である2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂を含む材料を用いて行われるものであって、防汚層の厚みは0.1μm以上10μm以下の範囲であり、防汚層に用いられる材料を硬化させた樹脂の破断強度は、12.0?30.MPaであることを特徴とする合成皮革であることを特徴としている。」

記載事項1-B
「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、柔軟性と、耐摩耗性とを兼ね備える合成皮革を提供することができる。」

記載事項1-C
「【0016】
樹脂層16の表皮層22は、湿式凝固層21の表面に重ねられる層である。そして、表皮層22は、樹脂を含む溶液を湿式凝固層21の上から塗って、その後、固化させて形成する。この固化の方法は、樹脂を溶解又は分散させた溶液を用いて、その後乾燥させて形成したり、2液硬化型の樹脂を用いるなどして行われる。
表皮層22に用いられる樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。」

記載事項1-D
「【0020】
本発明に用いられる2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂は、フルオロオレフィン、反応性シリコーン及び水酸基含有不飽和単量体とによって構成される水酸基を含有した反応性シリコーン含有フッ素系共重合体と、不飽和イソシアネートとを反応させて生成されるものであり、これらを反応させてできるシリコーン含有フッ素系共重合体によって、防汚層11が形成される。」

記載事項1-E
「【0022】
また、硬化剤としては、多価イソシアネート類を用いることができ、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの無黄変性ジイソシアネートやその付加物、イソシアヌレート類を有する多価イソシアネートが好ましく挙げられるが、これらの中でイソシアヌレート類を有する多価イソシアネートが特に有効である。イソシアネート類を用いて常温硬化を行わせる場合には、ジブチル錫ジラウレート等の公知触媒の添加によって硬化を促進させることができる。」

記載事項1-F
「【0025】
湿式凝固層はポリウレタン系の樹脂を用いた。そして、この湿式凝固層を形成するため、表1に示した配合の配合物Aを調製した。
なお、この配合物の粘度は、1000±100kPa・sである。
【表1】

【0026】
表皮層は、耐久性の高いポリカーボネート系ウレタン樹脂を使用した。そして、この表皮層を形成するため、表2に示した配合の2種類の配合物B1、配合物B2を調製した。
なお、この配合物の粘度は、4000±500kPa・sである。
【表2】

【0027】
防汚層は、2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂を使用した。そして、この防汚層を形成するため、2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂として、関東電化工業株式会社製 エフクリア KD270 30%溶液を用い、硬化剤としてポリイソシアネートを用いて、表3に示した配合の配合物Cを調製した。
なお、この配合物Cの粘度は、200±100kPa・sの範囲となっている。
【0028】
【表3】

【0029】
そして、実施例1の合成皮革を製作は、以下の通り行った。
まず、繊維製の基材の上に、表1に示す配合の配合物Aを平方メートル当たり930g塗布し、その後、30℃、DMF濃度10%の水浴中で水凝固させる。さらに、凝固後に、60℃の温水洗いし、140℃の乾燥温度で乾燥させて、湿式凝固層を形成する。
【0030】
また、離型紙を別途用意し、この離型紙の上に、表2に示す配合の配合物B1を平方メートル当たり80 gを塗布し、その後、80?130℃の乾燥温度で乾燥させる。
さらに、重ねて、表2に示す配合の配合物B2を平方メートル当たり80g塗布し、その後、80?130℃の乾燥温度で乾燥させ、表皮層を形成する。
【0031】
次に、基材の上に湿式凝固層を形成したものに、離型紙上に形成した表皮層を重ねて、ロールで130℃加熱圧着し、その後、60℃で48時間熟成し反応を完了させる。
【0032】
上記熟成後、離型紙を剥離し、防汚層となる配合物Cを、100メッシュのグラビアロールで平方メートル当たり20g塗布し、140℃で乾燥し、更に60℃で48時間熟成して、実施例1の合成皮革を製作した。
また実施例1の合成皮革の防汚層の厚みは4.2μmである。」

イ 刊行物2には、以下のことが記載されている。

記載事項2-A
「【請求項1】
1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)および水酸基を有する(メタ)アクリレート(b)が反応してなる活性エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート(c)および光重合開始剤(d)を含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物。

・・・(中略)・・・

【請求項6】
水酸基を有する(メタ)アクリレート(b)が、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種である請求項1?5のいずれかの項に記載の活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物。

・・・(中略)・・・

【請求項9】
請求項1?8のいずれかの項に記載の活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物からなるトップコート剤。
【請求項10】
請求項9に記載のトップコート剤をプラスチックフィルムに塗布、硬化してなるトップコートフィルム。」

記載事項2-B
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン(メタ)アクリレートを用いた活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物に関する。さらに詳しくは、硬化後の耐摩耗性とソフトフィーリング性を両立した活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物に関する。また、該樹脂組成物を用いたトップコート剤および該トップコート剤を用いたトップコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル用途、洗濯機など家電機器のメンブレンスイッチ用途や携帯電話のキーパッド部分などのインサート成形用途などにおいて、表面保護や装飾性、防汚性付与などの目的で、表層にトップコートが施されたフィルム(以下、トップコートフィルムという)の使用が急速に拡大している。これらのトップコートには、表面保護の観点で耐摩耗性が必須の特性として要求される他、変形を受けてもひび割れが生じないために可撓性が要求される。また、さらに付加価値を高める観点で、パネルなどに触れた際に柔らかい感触を与えるソフトフィーリング性を付与することが要望されている。
【0003】
従来から、耐摩耗性と可撓性を有するトップコートフィルムとしては、ウレタンアクリレートを用いたコーティング剤が塗布されたフィルムが知られている(例えば、特許文献1?3参照)。また、ソフトフィーリング性(ソフトタッチ感)を有するものとしては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主成分とする表面層を有する積層シートが知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、耐摩耗性とソフトフィーリング性を同時に満たすフィルムは未だ知られていないのが現状である。
【0004】
一方、トップコート用途以外ではあるが、ポリエステルポリオールとイソシアネートからなるウレタンアクリレートおよび水酸基含有アクリレートを用いた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献5、6参照)。しかし、これらについては、フィルムなどのシート用途への適用すらなされておらず、上記課題の解決は全くなされていない。
【0005】
【特許文献1】特開平11-42746号公報
【特許文献2】特開平11-70606号公報
【特許文献3】特開2001-113648号公報
【特許文献4】特開2003-71988号公報
【特許文献5】特開2004-115771号公報
【特許文献6】特開2005-113101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フィルムなどに塗布した後、紫外線などにより硬化可能な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物であって、硬化後に優れた耐摩耗性、可撓性およびソフトフィーリング性を有するトップコート用として有用な活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、さらには、該樹脂組成物からなるトップコート剤とそれを塗布してなるトップコートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の組成からなるイソシアネート化合物とアクリレートの反応により得られるウレタン(メタ)アクリレートおよび光重合開始剤からなる樹脂組成物によって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)および水酸基を有する(メタ)アクリレート(b)が反応してなる活性エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート(c)および光重合開始剤(d)を含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物を提供する。」

記載事項2-C
「【発明の効果】
【0018】
本発明の活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物は、可撓性に優れているため、加工や使用の際の変形に対してひび割れなどを起こしにくく、また、耐摩耗性に優れているため、例えば、タッチパネル用途として使用した際に、長期使用によっても傷が付きにくい。さらに、ソフトフィーリング性に優れるため、手触りがよく、人の手に触れるタッチパネル、メンブレンスイッチの部材として好適である。」

記載事項2-D
「【0020】
本発明の活性エネルギー線硬化型トップコート用組成物は、活性エネルギー線硬化性のウレタン(メタ)アクリレート(以下、ウレタン(メタ)アクリレート(c)という)および光重合開始剤(d)を必須成分として含有する。本発明の樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性であるため、硬化までの時間が短く、加工性が良好で、例えば、長尺フィルムに加工することなどが可能となる。なお、本発明の組成物の硬化に用いられる活性エネルギー線は、可視光、紫外線、電子線など、特に限定されないが、反応性、コストなどの観点から、紫外線を用いることが好ましい。」

記載事項2-E
「【0044】
本発明のトップコートフィルムは、少なくともプラスチックフィルム層とトップコート層を有する。本発明のトップコートフィルムに用いられるプラスチックフィルムとしては、既存の素材を用いることが可能であり、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂などが例示される。中でも、特に好ましくは、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂である。」

記載事項2-F
「【0064】
実施例1
温度計、攪拌装置を備えたセパラブルフラスコにイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ(株)製「デュラネート X03-237」(ポリカプロラクトン由来のポリカプロラクトントリオールとヘキサメチレンジイソシアネートからなるイソシアネート化合物、重量平均分子量:2500、分子量分布(Mw/Mn):1.36)を400部充填し内温を70℃にした後、ヒドロキシエチルアクリレート103部、ジブチル錫ジラウート200ppm(得られるウレタンアクリレートに対する添加量)、ハイドロキノンモノメチルエーテル800ppm(得られるウレタンアクリレートに対する添加量)を加えた。3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.1%以下になったことを確認して反応を終了させ、活性エネルギー線硬化性ウレタンアクリレート(c-1)を得た。(c-1)の重量平均分子量は4000であった。」

ウ 刊行物3には、以下のことが記載されている。

記載事項3-A
「【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともウレタンポリマーを含む複合フィルムを備えた基材を有する塗膜保護用粘着シートに関し、特に、良好な柔軟性を有する塗膜保護用粘着シートに関する。」

記載事項3-B
「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた柔軟性を有する塗膜保護用粘着シートを実現することができる。この塗膜保護用粘着シートは、特に、曲面に対する柔軟性や塩化ビニルゾル塗装部分の凹凸面に対する柔軟性を有する。」

記載事項3-C
「【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の塗膜保護用粘着シートは、基材層および粘着剤層を有し、この基材層は複合フィルムを含む。」

記載事項3-D
「【0069】
本発明の塗膜保護用粘着シートは、高強度と高破断伸びを両立することができ、また、曲面に対する柔軟性に優れており、塩化ビニルゾル塗装部分の凹凸面に対する柔軟性にも優れている。さらにまた、良好な接着性も有する。したがって、自動車、航空機等の塗装面を保護するための保護用粘着シート等に好適であり、例えば、自動車の塗装面や建造物等の被着体に、この塗膜保護用粘着シートを貼り合わせて使用することができる。」

エ 刊行物4には、以下のことが記載されている。

記載事項4-A
「【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関し、特には、自動車の塗装鋼板表面上に貼着するための粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装鋼板表面には、種々の粘着テープ、例えば、耐チッピングシート、マーキングシート、又は表面保護シートなどが貼着されている。
一方、自動車の塗装鋼板の表面は、平坦面のみではなく、三次凹曲面や三次凸曲面などが存在し、例えば、帯状の溝や突起などが設けられている。特に、耐チッピングシートを貼着する部位には、細い帯状溝や帯状突起が比較的多く設けられている。すなわち、チッピングとは、自動車の走行時に、路面上の小石や小物体が車輪によって跳ね上げられて車体に衝突し、車体塗装面を損傷させる現象であり、特に、寒冷地において、降雪時や凍結した道路の安全走行用に散布される砂、砂利、又は岩塩などによるチッピングは、車体塗装面を著しく損傷させる。こうしたチッピングは、上塗層、中塗層、又は下塗層の剥離や、素地金属の錆の原因になるため、自動車車体のサイドシル、ドアの下部、フロントフェンダやリアフェンダーのホイールアーチ部の下部などには、耐チッピング性塗膜を設けたり、耐チッピング粘着シートの貼着が行われている。こうした部位には、車体の構造上やデザイン上から、多くの細い帯状溝や帯状突起が設けられている。」

記載事項4-B
「【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題は、本発明により、基材と前記基材の少なくとも片方の面に形成された粘着剤層とを含む粘着シートであって、
(a)前記基材のヤング率が20?110MPaであり、
(b)前記粘着シート全体を或る一方向に200mm/minの速度で徐々に伸張させた場合に、10%伸び状態での応力と40%伸び状態での応力との伸長応力の変化率が-50%?+60%であり、かつ、
(c)前記粘着シート全体を或る一方向に40%伸び状態まで伸長させ、その状態で伸張を停止してから3分間経過後の応力緩和率が30%以上である
ことを特徴とする粘着シートによって解決することができる。」

記載事項4-C
「【発明の効果】
【0010】
本発明の粘着シートによれば、例えば、自動車塗装鋼板用の粘着テープ(例えば、耐チッピングシート、マーキングシート、又は表面保護シート)としての物性を維持したまま、三次凹曲面に貼着した場合でも、浮きやトンネリングが発生しにくい。」

オ 刊行物5には、以下のことが記載されている。

記載事項5-A
「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を保護するために使用される多層膜、特に、乗り物(例えば、自動車、航空機、船など)の表面(例えば、塗面)を保護するために使用されるような膜、及びより具体的には、感圧接着剤で裏加工され且つポリウレタン層を熱可塑性ポリウレタン層の最上部に有するような多層保護膜に関する。本発明は更に、乗り物、又はその本体部分で、多層膜で保護されているもの並びに多層保護膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1つ以上のポリウレタン材料の層を含む多層膜が知られている。これらの膜のいくつかは、米国特許第6,607,831号、米国特許第5,405,675号、米国特許第5,468,532号及び米国特許6,383,644号並びに国際(PCT)特許出願番号PCT/EP93/01294(即ち、PCT国際公開特許WO 93/24511)に開示されている。これらの膜のいくつかは、表面保護の用途に使用されてきた。例えば、選択された車体部品の塗面を保護するために使用されてきた実際の膜製品としては、3M社(ミネソタ州、セントポール)製の多層膜(製品名、スコッチカル(Scotchcal)(登録商標)、高性能保護膜、PUL0612、PUL1212及びPUL1212DC)が挙げられる。これら3M社製の膜製品は各々、感圧接着剤(PSA)にて主表面の1つを裏加工し且つ水系ポリエステルポリウレタン層で反対側主表面を被覆した熱可塑性ポリエステルポリウレタン層を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような多層保護膜技術における改善である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様によれば、多層保護膜は第1の層、第2の層及びPSA層で構成される。前記第1の層は、主として溶剤系又は水系ポリウレタンから構成され、又は少なくともそれらを含む。前記ポリウレタンは、ポリエステルベースのポリウレタン、ポリカーボネートベースのポリウレタン又は両方の組み合わせ若しくはブレンドである。前記第2の層は、主としてポリカプロラクトンベースの熱可塑性ポリウレタンから構成され、又は少なくともそれを含む。前記PSA層は、感圧接着剤、さらに好ましくは室温で粘着性であるものを含む。前記第1の層の1つの主表面を、前記第2の層の1つの主表面に結合させ、且つ前記PSA層を前記第2の層の反対側主表面に結合させて、前記第2の層が前記第1の層と前記PSA層との間に挟まれるようにする。」

カ 刊行物6には、以下のことが記載されている。

記載事項6-A
「【0001】
本発明は塗膜保護用粘着シートに関し、特に、アクリル系ポリマー及びウレタンポリマーを含む複合フィルムを有する塗膜保護用粘着シートに関する。」

記載事項6-B
「【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の塗膜保護用粘着シートは、基材層および粘着剤層を有し、この基材層は特定のコート層が設けられた複合フィルムを含む。」

キ 刊行物7には、以下のことが記載されている。

記載事項7-A
「【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体およびその組成物によるコーティング層が形成されたアクリル系樹脂フィルムに関する。本発明はまた、このアクリル系樹脂フィルムを他のフィルムもしくはシートに積層した多層のフィルムまたはシート、また、このアクリル系樹脂フィルムもしくは多層のフィルムまたはシートが熱可塑性樹脂成形体の表面に積層一体化された積層成形体に関する。」

記載事項7-B
「【0058】
本発明で得られる積層品の製造方法は特に制限されるものではないが、二次元形状の積層品で、かつ基材が熱融着出来るものの場合は、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。また熱融着しない基材に対しては、プライマー層または接着層を介して貼り合せることが可能である。三次元形状の積層品の場合は、加飾フィルムを成型品の最表面とするインサート成形法、インモールド成形法等の公知の方法を用いることができる。射出成形される樹脂としては、種類は問わず射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。
【0059】
本発明の積層品の使用方法は特に制限されるものではないが、自動車内装や自動車外装等の各種乗り物の内装、外装部品に特に適している。また人の汗や指紋が付着するような場所、例えばAV機器、パソコン機器、家具製品、携帯電話、各種ディスプレイ、レンズ、窓ガラス、小物、雑貨等のその他各種用途等に使用することができる。」

(2)刊行物に記載の発明

ア 刊行物1に記載の発明
刊行物1の上記記載事項1-F(【0029】?【0032】)には、合成皮革の製作方法として、繊維製の基材の上に湿式凝固層を形成させたものを用意し、他方で、離型紙の上に表皮層を形成させたものを用意し、これらを重ね合わせて、上から順に、離型紙/表皮層/湿式凝固層/基材からなる積層体を作成し、その後、離型紙を剥離して防汚層を形成させ、防汚層/表皮層/湿式凝固層/基材からなる合成皮革を製作する旨記載されている。そして、同じく上記記載事項1-F(【0025】?【0028】)には、それぞれの層の材料として、防汚層には、2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂としてのエフクリアKD270(関東電化工業株式会社製)と、ポリイソシアネートとを含む配合物を用いることが記載され、表皮層には、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を使用することが記載され、湿式凝固層には、ポリウレタン系の樹脂を用いることが記載されている。
したがって、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂としてのエフクリアKD270(関東電化工業株式会社製)とポリイソシアネートとを用いてなる防汚層と、ポリカーボネート系ウレタン樹脂を含む表皮層と、ポリウレタン系の樹脂を含む湿式凝固層と、を有する合成皮革」

イ 刊行物2に記載の発明
刊行物2の上記記載事項2-A(【請求項1】、【請求項9】、【請求項10】)には、「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)および水酸基を有する(メタ)アクリレート(b)が反応してなる活性エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート(c)」を含む「トップコート用組成物」からなる「トップコート剤」を、プラスチックフィルムに塗布、硬化してなる「トップコートフィルム」が記載されている。そして、上記記載事項2-E(【0044】)には、トップコートフィルムは、少なくともプラスチックフィルム層とトップコート層を含むことが記載されている。
したがって、刊行物2には、次のとおりの発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)および水酸基を有する(メタ)アクリレート(b)が反応してなる活性エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート(c)を含むトップコート用組成物を有するトップコート層と、プラスチックフィルム層とを含むトップコートフィルム。」

5 判断

(1)申立理由1(特許法第29条第2項)について

ア 本件発明1と引用発明1との対比

引用発明1の「2液硬化型含シリコーン・フッ素樹脂としてのエフクリアKD270(関東電化工業株式会社製)」は、本件明細書の【0050】においてもそれが含ケイ素フッ素樹脂である旨開示されているとおり、本件発明1における「含ケイ素フッ素樹脂」に相当する。
また、架橋剤について、引用発明1の「ポリイソシアネート」と、本件発明1の「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」とを対比すると、両者は、「イソシアネート系架橋剤」という点で共通している。
そして、引用発明1の「防汚層」は、表面を保護するという機能からみて、本件発明1の「コート層」に相当し、本件発明引用発明1の「ポリカーボネート系ウレタン樹脂からなる表皮層」と「ポリウレタン系の樹脂からなる湿式凝固層」は共に、ウレタン樹脂からなる層であるから、この二つの層は一体として、本件発明1における「ウレタン層」に相当しているといえる。
また、引用発明の「合成皮革」と、本件発明1の「塗膜保護フィルム」とを対比すると、両者は「積層体」として共通している。

したがって、本件発明1と引用発明1は、「含ケイ素フッ素樹脂およびイソシアネート系架橋剤を用いてなるコート層と、ウレタン層とを有する、積層体。」である点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

(相違点1)
本件発明1は「塗膜保護フィルム」の発明であるのに対し、引用発明1は「合成皮革」の発明である点。

(相違点2)
本件発明1は「粘着剤層」を有しているのに対し、引用発明1は「粘着剤層」があるのか否かが明らかでない点。

(相違点3)
使用する架橋剤について、本件発明1は「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」に特定しているのに対し、引用発明1ではそれが特定されておらず、単なる「ポリイソシアネート系架橋剤」である点。

以下相違点について検討する。

(ア)相違点1、2について

本件発明1の「塗膜保護フィルム」は、本件明細書の【0002】の記載によれば、例えば、自動車車体の外装部材表面に形成される意匠性や防錆性を高める塗装による塗膜を保護するものとして使用するものであるといえる。
一方、引用発明1の「合成皮革」とは、上記記載事項1-Aの【0001】の記載によれば、物品の表面に貼って物品の被覆などに使用されるものであって、塗膜の被覆に使用されるものとはいえない。そして、「合成皮革」の使用は、物品に皮革の風合いを持たせることも意図しているといえる。
そうすると、例えば、自動車車体の外装部材表面に形成される意匠性や防錆性を高める塗装を保護するために、「合成皮革」を使用することは想定されないといえるから、「合成皮革」を「塗膜保護フィルム」へ転用することは、当業者であっても容易に想到し得るものとはいえない。
また、「合成皮革」は、物品の被覆に用いられるものであるとしても、刊行物3?刊行物7に記載された樹脂フィルムとは、技術分野及び用途が異なるのであるから、刊行物3?刊行物7において、シート又は膜の貼付に粘着剤層を用いることが記載されているからといって、「合成皮革」を物品の被覆に用いる際に粘着剤層を用いようとすることは、当業者にとって容易に想到し得ることであるとまではいえない。
よって、上記相違点1及び2は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(イ)相違点3について

本件発明の解決すべき課題は、「曲面性の高い部位にもフィルムが追従延伸する、すなわち延伸性が高いともに、汚染防止能の高い塗膜保護フィルムを提供する」(【0006】)ことである。
そして、本件明細書の【0010】には、「一般的に曲面にフィルムを追従させるために、フィルムを柔らかくしようとすると汚染防止性が低下する傾向にある。ケイ素を含まない含フッ素樹脂をコート層に用いた場合、伸びは比較的高く、曲面追従性は高いが、長期間の汚染防止性が低下する(後述の比較例参照)。上記第一実施形態においては、含ケイ素フッ素樹脂と、イソシアネート系架橋剤とを組み合わせて用いることによって、延伸性と長期の汚染防止性の両立が図れる。換言すれば、第一実施形態の塗膜保護フィルムは、含ケイ素フッ素樹脂およびイソシアネート系架橋剤を用いてなるコート層をウレタン層に積層させる構成をとることによって、曲面追従性が高いとともに、汚染防止能の高い塗膜保護フィルムとなる。」と記載されている。
さらに、本件明細書の【0055】には、「中でも、延伸性の観点から、イソシアネート系架橋剤は、両末端にジイソシアネート(好適には、ヘキサメチレンジイソシアネート)がウレタン結合した二官能型(以下、単に二官能型イソシアネートとも称する)であることが好ましい。具体的には、イソシアネート系架橋剤は、ジオール(HO-R-OH)の両末端の水酸基(-OH)と、ジイソシアネート化合物(好適には、ヘキサメチレンジイソシアネート)のイソシアネート基(-NCO)とがウレタン結合している二官能型のウレタンプレポリマーであることが好ましい。二官能型イソシアネートを用いることで、コート層の延伸性が一層向上する。これは、架橋剤による架橋後の樹脂が比較的緩やかな架橋構造をとることができ、架橋による樹脂の収縮を抑制することができるためであると考えられる。」と記載されている。
してみると、これらの記載からすれば、塗膜保護フィルムは、一般的に、「延伸性」と「汚染防止性」とを両立させることが困難であったところ、本件発明は、含ケイ素フッ素樹脂およびイソシアネート系架橋剤を用いてなるコート層をウレタン層に積層させる構成をとることによって、それを解決し、しかも、コート層に用いる架橋剤において、単なるヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物ではなく、「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」とすることで、さらに一層延伸性を向上させることが可能であることがわかる。

他方、刊行物1についてみると、上記記載事項1-A(【0005】、【0006】)によれば、「防汚性と磨耗耐久性に優れるものであり、特に、家具、椅子に好適な合成皮革を提供する」ことを発明の課題としており、特定の「シリコーン含有フッ素系共重合体」を防汚層に用いることで、その課題を解決しているといえる。しかしながら、架橋剤(硬化剤)については、上記記載事項1-E(【0022】、【0027】、【0028】)によれば、例えばヘキサメチレンジイソシアネート等の「多価イソシアネート類」を用いることができると記載されてはいるものの、実施例では「ポリイソシアネート」が使用されているのみで、本件発明における、「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」については、開示も示唆もない。
そして、刊行物1をみても、「延伸性」と「汚染防止性」とを両立させるといった課題は記載されておらず、また、刊行物3?刊行物7をみても、「延伸性」と「汚染防止性」とを両立させるという観点で「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」を採用することに関する記載もないから、引用発明1における「ポリイソシアネート」を「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」に置換する動機付けがあるとはいえない。
したがって、引用発明1に記載された発明に基づいて、架橋剤を「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」に特定することは、当業者が容易に想到し得ることであるとまではいえない。

(ウ)小括

上記(ア)、(イ)で検討したとおりであるから、本件発明1は、引用発明1、及び、周知・慣用技術(刊行物3?7)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反していない。

イ 本件発明2、3と引用発明1との対比・判断

本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3は、いずれも引用発明1及び周知・慣用技術(刊行物3?刊行物7)に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 申立人の主張について

申立人は申立書(第13頁)において、『甲1発明の課題は「防汚性と摩耗耐久性に優れるものであり、特に、家具、椅子に好適な合成皮革を提供すること」である。さらに、本件特許発明の課題は「延伸性が高いとともに、汚染防止能の高い塗膜保護フィルムを提供すること」であるから、甲1発明の「防汚性と摩耗耐久性に優れた合成皮革」を「塗装保護フィルム」へ転用することは、課題の共通性という動機付けがあり、当業者が容易に想到し得るものである』と主張している点につき以下検討する。
甲1発明(引用発明1)の課題の一つである「防汚性」については、家具、椅子に好適な合成皮革に関する防汚性を前提としており(【0002】、【0005】等)、実施例をみても、JIS L1096(織物及び編物の生地試験方法)、あるいは、JIS L1096(繊維製品の防汚性試験方法)によって評価した合成皮革が記載されているが(【0043】、【0044】等)、他方、本件発明1における課題の一つである「汚染防止能」は、長期間屋外環境で使用することが想定された、自動車等の移動体に施工される塗膜保護フィルムを前提としており(【0005】、【0083】等)、実施例をみても、カーボンブラックによる汚れについての評価を行うものである(【0096】)。
また、甲1発明(引用発明1)の課題の一つである「摩耗耐久性」についても同様に、JIS L1096(織物及び編物の生地試験方法)における摩耗強さ試験等によって評価を行っており、他方、本件発明1の課題の一つである「延伸性」は、曲面性の高い部位にもフィルムが追従延伸することができるかどうかが評価できるように、「コート割れ伸度」や「破断伸度」が実施例における評価項目となっている(【0003】、【0013】、【0014】、【0098】?【0101】)。
したがって、甲1発明(引用発明1)と、本件発明1は互いに、技術分野も課題も共通しているとはいえず、「防汚性と摩耗耐久性に優れた合成皮革」を「塗装保護フィルム」へ転用することに対して動機付けもなく、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記申立人の主張は採用できない。

エ 本件発明1と引用発明2との対比・判断

一般に、ポリオールとジイソシアネートとが反応してなるポリイソシアネート化合物は、硬化剤(架橋剤)として、イソシアネート基を2つ有する「2官能型」のほか、「ビウレット型」、「イソシアヌレート型」、「アダクト型」等が存在することは当業者によく知られた技術事項である(特開2006-233027号公報、特開2009-280665号公報、https://www.akcpc.jp/duranate/ichiran.html等参照)
ここで、引用発明2の「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)」についてみると、実施例において、「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオール」として、「ポリカプロラクトントリオール」を用いていることからみても、「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)」は、2官能型だけでなく、3官能型も含まれているといえるから、引用発明2の「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)」と、本件発明1の「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」とは、「イソシアネート系架橋剤」という点で共通する。
また、引用発明2における「トップコート層」は、表面を保護する機能からみて、本件発明1における「コート層」に相当するが、引用発明2における「プラスチック層」は、本件発明1の「ウレタン層」に必ずしも相当せず、両者は少なくとも樹脂を有する層である点で一致するのみである。そして、引用発明2における「トップコートフィルム」と本件発明1の「塗膜保護フィルム」は、「積層体」である点で一致する。
本件発明1の「含ケイ素フッ素樹脂」は、本件明細書の【0017】によれば、架橋性官能基を有する単量体を共重合成分とした場合を含むものであり、一方、引用発明2の「水酸基を有する(メタ)アクリレート」も上記記載事項1-A(【請求項6】)によれば、水酸基を有する単量体を共重合体単量体とするものであるから、本件発明1の「含ケイ素フッ素樹脂」と引用発明の「水酸基を有する(メタ)アクリレート」は、「架橋性官能基を有する単量体を共重合体成分として含む樹脂」である点で共通している。

以上からすると、本件発明1と引用発明2は、「架橋性官能基を有する単量体を共重合体成分として含む樹脂、及び、イソシアネート系架橋剤を用いてなるコート層と、樹脂からなる層、とを有する積層体。」である点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

(相違点4)
本件発明1は「含ケイ素フッ素樹脂」を用いるが、引用発明2は「水酸基を有する(メタ)アクリレート」を用いる点。

(相違点5)
硬化剤(架橋剤)に関し、本件発明1は、「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」であるのに対し、引用発明ではそれが特定されていない点。

(相違点6)
本件発明1は「粘着剤層」を有しているが、引用発明2はそれを有していない点。

(相違点7)
本件発明1は「塗膜保護フィルム」であるが、引用発明2は「トップコートフィルム」である点。

以下相違点について検討する。

(ア)相違点4について

刊行物1の上記記載1-F(【0027】)には、「含ケイ素フッ素樹脂」を用いることが記載されているが、既に述べたとおり、刊行物1に記載された発明の技術分野は、物品の表面に貼って物品の被覆などに使用される合成皮革に関するものであるから、記載刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明を組み合わせる動機が存在しない。また、刊行物3?7をみても、トップコートフィルムの技術分野において「含ケイ素フッ素樹脂」を用いることは記載されておらず、周知技術であるともいえない。
よって、「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオール」に代えて、「含ケイ素フッ素樹脂」を用いることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(イ)相違点5について

上記「(イ)相違点3について」で述べたとおり、本件明細書の【0055】には、「二官能型イソシアネートを用いることで、コート層の延伸性が一層向上する。これは、架橋剤による架橋後の樹脂が比較的緩やかな架橋構造をとることができ、架橋による樹脂の収縮を抑制することができるためであると考えられる。」と記載されており、二官能型であることにより、発明の効果が向上するといえる。
よって、引用発明2における「1分子中に2以上の水酸基を有するポリエステルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとが反応してなるイソシアネート化合物(a)」に代えて、「両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤」とすることは、当業者が容易に発明をすることができたとまではいえない。

(ウ)相違点6、7について

上記記載事項2-A(【0002】)の記載によれば、引用発明2の属する技術分野及び用途は、タッチパネル用途、洗濯機など家電機器のメンブレンスイッチ用途や携帯電話のキーパッド部分などのインサート成形用途であるといえる。
してみると、上記「(ア)相違点1、2について」で述べたことと同様に、トップコートフィルムを、例えば、自動車車体の外装部材表面に形成される意匠性や防錆性を高める塗装を保護するための「塗装保護フィルム」へ転用することができないことは明らかであって、さらに、引用発明2における技術分野及び用途は、刊行物3?刊行物7に記載された発明とは異なるのであるから、刊行物3?刊行物7において、シート又は膜の貼付に粘着剤層を用いることが記載されているからといって、「トップコートフィルム」を物品の被覆に用いる際に、粘着剤層を採用し、「塗膜保護フィルム」である本件発明1とすることは、当業者にとって必ずしも容易に想到し得ることであるとまではいえない。

(エ)小括

上記(ア)?(エ)で検討したとおりであるから、本件発明1は、引用発明2、及び、周知・慣用技術(刊行物3?7)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反していない。

オ 本件発明2、3と引用発明2との対比・判断

本件発明2、3は、本件発明2の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3は、いずれも引用発明2及び周知・慣用技術(刊行物3?刊行物7)に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)申立理由2(特許法第36条第4項第1号)について

申立人は、申立書(第16頁)において、「二官能イソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートは、末端に2つの官能基しかなく、重合後に直線状の構造にしか成り得ないため、生成したポリマー-は絡み合った枝状の構造とはならない。さらに、本件特許明細書には架橋しているかどうかの根拠もない。そして、直線状の構造の樹脂は延伸性を有しないため、本件特許発明の効果を奏しない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。」と主張している。

しかしながら、本件発明で用いる架橋剤(両末端にジイソシアネート化合物がウレタン結合した二官能型であるイソシアネート系架橋剤)は、両末端にそれぞれイソシアネート官能基(-NCO)があり、これと、含ケイ素フッ素樹脂とを架橋させた場合、含ケイ素フッ素樹脂に複数存在する架橋性官能基を有する単量体由来のOH基と、上記イソシアネート官能基とが反応することは明らかであるから、「直線状の構造にしか成り得ない」とする根拠はない。実際に、実施例において用られた「エフクリアKD3100(関東電化社製)」は、イソシアネート硬化剤(架橋剤)と反応して架橋されることは技術的に明らかである(www.kantodenka.co.jp/ecatalogue/dev/fclear/index.html参照)。そして、架橋物(ウレタン樹脂)が延伸性を有することは、当業者にとって技術常識といえる。
したがって、上記申立人の主張は採用することができず、「本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない」とまではいえない。

6 むすび

以上のとおりであるから、本件特許1?3は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということはできず、また、同法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできず、同法第113条第2号または第4号に該当するものではないから、申立書に記載された申立理由によっては、本件特許1?3を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1?3を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-20 
出願番号 特願2016-537573(P2016-537573)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C09J)
P 1 651・ 121- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
井上 能宏
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989291号(P5989291)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 塗膜保護フィルム  
代理人 八田国際特許業務法人  

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