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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65G
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65G
管理番号 1330129
異議申立番号 異議2017-700349  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-10 
確定日 2017-07-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6011741号発明「台車の搬送装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6011741号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6011741号の請求項1ないし13に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、2015年6月4日(優先権主張2014年8月19日、日本国)を国際出願日とするものであって、平成28年9月30日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人岩崎勇(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6011741号の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。

「【請求項1】
キャスター車輪付きの台車を、台車を複数台収容でき、かつ入口と出口とを備える直線状の搬送経路に沿って搬送する搬送装置であって、
前記搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、前記台車の下部側面に接触するに適した高さに配置されている複数のサイドローラと、
前記サイドローラを搬送経路内の前記台車の下部側面に接触するように付勢する付勢部材と、
少なくとも一部のサイドローラを駆動するモータとを備え、
モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され、
モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるように構成されていることを特徴とする、台車の搬送装置。
【請求項2】
前記搬送経路内の1つのスペースに台車が存在して次のスペースが空であれば、モータ駆動のサイドローラにより台車を次のスペースへ前進させることにより、前詰めで整列させるように構成されていることを特徴とする、請求項1の台車の搬送装置。
【請求項3】
前記搬送経路内の台車1台分のスペース毎に、台車の有無を検出するセンサが設けられ、台車を一台ずつ搬送することにより、前詰めで整列させるように構成されていることを特徴とする、請求項1または2の台車の搬送装置。
【請求項4】
搬送経路内の1つのスペースに台車が存在して、搬送経路内の次のスペースが空であることを、前記センサにより検出すると、前記1つのスペースのモータ駆動のサイドローラと前記次のスペースのモータ駆動のサイドローラとを回転させることにより、台車を前記1つのスペースから前記次のスペースへ前進させるように構成されていることを特徴とする、請求項3の台車の搬送装置。
【請求項5】
前記搬送経路の両側に、前記モータと、前記モータ駆動のサイドローラと、前記付勢部材とを収容しているパネルが設けられていることを特徴とする、請求項1?4のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項6】
前記台車は、複数個のキャスター車輪と、下部の4側面のフレームと、フレームから上方へ伸びるパイプとを備えたカゴ台車であることを特徴とする、請求項1?5のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項7】
前記サイドローラは空気入りのゴムタイヤであることを特徴とする、請求項1?6のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項8】
前記モータはブレーキを備えていないことを特徴とする、請求項1?7のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項9】
前記搬送経路は前記台車を人力で移動自在に構成されていることを特徴とする、請求項8の台車の搬送装置。
【請求項10】
前記搬送経路は、人力で前記台車を搬送経路内へ移動させ、かつ人力で前記台車を搬送経路から取り出し自在に構成されていることを特徴とする、請求項1?9のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項11】
前記サイドローラとして、モータにより駆動されないサイドローラがさらに設けられていることを特徴とする、請求項1?10のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項12】
前記サイドローラが高さ方向に沿って少なくとも2段に重ねられていることを特徴とする、請求項1?11のいずれかの台車の搬送装置。
【請求項13】
前記モータと前記モータ駆動のサイドローラと前記付勢部材とを備える搬送ユニットが、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に複数個ずつ配置されていることを特徴とする、請求項1?12のいずれかの台車の搬送装置。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人の主張する申立理由1ないし3の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1
本件発明1ないし13は、搬送装置の搬送対象である「台車」の構成などが何ら具体的に規定されておらず、その目的を達成できないようなものまで包含しているため、及び全体として技術的に特定できず意味が不明確であるため、特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反してされたものであるから、本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべきものである。

2 申立理由2
本件発明1ないし13は、サイドローラの構成及びサイドローラの対での配置などについて何ら規定されておらず、その効果を十分に奏することができないようなものまで包含しているため、本願発明1ないし13に係る特許は特許法第36条第6項第1号、及び特許法第36条第4項第1号に規定される要件に違反してされたものであるから、本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべきものである。

3 申立理由3
本件発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項の組み合わせ、又は甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項の組み合わせから、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明1に係る特許を取り消すべきものである。
また、本件発明2ないし13は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2ないし13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明2ないし13に係る特許を取り消すべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特表2013-536106号公報
甲第2号証:特開2005-81950号公報
甲第3号証:国際公開第2009/060528号
甲第4号証:特開昭60-15303号公報
甲第5号証:特開2002-173219号公報
甲第6号証:特開2006-151255号公報

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証について
甲第1号証(特表2013-536106号公報)には、「台車式搬送装置」に関し、図面(特に図1ないし図4参照)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)「【0013】
図1に示す自動車組立てラインは、搬送台車1の無端状循環走行経路で構成されたもので、第一作業区間A-B、第一中継区間B-C、第二作業区間C-D、第二中継区間D-E、第三作業区間E-F、第三中継区間F-G、第四作業区間G-H、及び空搬送台車戻し区間H-J-Aを備えている。そして、第二中継区間D-Eに対しては、緩衝区間D-K-L-Eが並列に接続されると共に、臨時的に使用される補助区間M-Nが分岐されている。各中継区間B-C,D-E,F-Gの両端B?G、空搬送台車戻し区間H-J-Aの始端Hと中間転向点J、緩衝区間D-K-L-Eの中間転向点K,L、及び補助区間M-Nの始端Mには、夫々ターンテーブルと呼称されるような搬送台車転向装置Pが配設されている。
【0014】
前記搬送台車転向装置Pは、従来周知のものであって、上手側の走行経路から乗り移った搬送台車1を水平に回転させて下手側の走行経路に送り出すものであり、所定角度(一般的には90度)の範囲で正逆回転するターンテーブル上に、上手側の走行経路と下手側の走行経路に択一的に接続される搬送台車支持案内用ガイドレール、上手側の走行経路から乗り移った搬送台車1をターンテーブル上の所定位置まで引き込む引込み用駆動手段、及びターンテーブル上の所定位置にある搬送台車1を下手側の走行経路へ送り出す送出し用駆動手段を備えている。又、各作業区間A-B,C-D,E-F,G-H、空搬送台車戻し区間H-J-A、各中継区間B-C,D-E,F-G、及び緩衝区間D-K-L-Eには、搬送台車1を定速走行させるための摩擦駆動装置Qが併設されている。この摩擦駆動装置Qは、基本的には上手側から送られてくる搬送台車1を引き継いで下手側に送り出すものであるが、図示の各作業区間A-B,C-D,E-F,G-Hなどで示すように、所要台数の搬送台車1を前後突き合う状態で一体に定速走行させる区間では、当該区間の始端部と終端部とに配設される。
【0015】
上記構成の図示の自動車組立てラインでは、第一作業区間A-Bの始端Aにおいて搬送台車1上にワーク(自動車車体)Wが積載される。このワークWを積載した搬送台車1が第一作業区間A-B、第二作業区間C-D、第三作業区間E-F、及び第四作業区間G-Hに順次送り込まれ、各作業区間内を定速前進走行する間に、各搬送台車1に搭乗した作業者によって、各作業区間に定められた所定の作業がワークWに対して行われる。而して、第一作業区間A-Bと第四作業区間G-Hでは、ワークWの低い部位に対する作業が行われるが、第二作業区間C-Dと第三作業区間E-Fでは、その入口側のワーク支持高さ切換え位置C1,E1を通過するときに、各搬送台車1が備えるワーク支持台の高さが所定の高レベルまで上げられ、そして出口側のワーク支持高さ切換え位置C2,E2を通過するときに、前記ワーク支持台の高さが所定の低レベルまで下げられるので、第二作業区間C-Dのワーク支持高さ切換え位置C1,C2間と第三作業区間E-Fのワーク支持高さ切換え位置E1,E2間では、そのときのワークWの支持高さに対応した高い部位に対する作業が行われることになる。」

(2)「【0019】
以下、上記搬送台車1の詳細を、図2?図5に基づいて説明すると、搬送台車1は、その平面矩形の台車本体1aの中央部の上側にワーク支持台2が昇降駆動手段3によって昇降自在に支持され、走行経路側の床面上に敷設された左右一対のガイドレール4a,4b上を走行出来るように、台車本体1aの底部に左右一対、前後二組の車輪ユニット5a?5dが設けられている。各車輪ユニット5a?5dは、ガイドレール4a,4b上を転動する支持用車輪6と、ガイドレール4a,4bの上面を清掃するブラシなどから成る清掃具7を備えると共に、片側のガイドレール4bに対応する前後一対の車輪ユニット5b,5dには、図5に示すように、ガイドレール4bを左右両側から挟むように垂直軸の周りに回転自在に軸支された振れ止め用ローラー8が設けられている。」

(3)「【0022】
尚、摩擦駆動装置Qの一例を図2?図4に基づいて説明すると、この摩擦駆動装置Qは、搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bから構成されたもので、各駆動ユニット12a,12bは、垂直支軸13の周りに一定範囲内で水平揺動自在に軸支された可動台14、この可動台14上に垂直向きに取り付けられた減速機付きモーター15、可動台14の下側で前記減速機付きモーター15の垂直出力軸に取り付けられた摩擦駆動輪16、及びこの摩擦駆動輪16を搬送台車1の走行経路側へ移動させる方向に可動台14を付勢するスプリング17から構成されている。而して、両駆動ユニット12a,12bの摩擦駆動輪16が、減速機付きモーター15により互いに逆向きに同一周速度で回転駆動されている状態において、搬送台車1の台車本体1aにおける互いに平行で直線状の垂直左右両側面で形成された摩擦駆動面1b,1cにスプリング17の付勢力で圧接することにより、搬送台車1を定速で前進走行させることが出来る。尚、摩擦駆動装置Qの位置を通過するときの搬送台車1の姿勢を走行経路方向(ガイドレール4a,4bの長さ方向)と完全な平行姿勢に保持させるために、図4に示すように、各駆動ユニット12a,12bに、摩擦駆動輪16の前後両側で搬送台車1の摩擦駆動面1b,1cに当接する回転自在な前後一対のガイドローラー18a,18bを設けておくことが出来る。」

(4)上記(1)の段落【0014】及び段落【0015】の記載を参照すれば、図1には、第1作業区間A-Bが直線状であり、かつ始端Aと終端Bを有することが分かる。

(5)図3には、摩擦駆動輪16が、搬送台車1の下部に配置された台車本体1aの側面である摩擦駆動面1b、1cに圧接することが示されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本件発明1に則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「車輪ユニット5aないし5d付きの搬送台車1を、搬送台車1を複数台収容でき、かつ始端Aと終端Bを備える直線状の第1作業区間A-Bに沿って搬送する自動車組立てラインであって、
前記第1作業区間A-Bに沿ってかつ搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bに設けられ、前記搬送台車1の下部側面に接触するに適した高さに配置されている複数の摩擦駆動輪16と、
前記摩擦駆動輪16を搬送台車1の走行経路側へ移動させる方向に前記可動台14を付勢するスプリング17と、
少なくとも一部の摩擦駆動輪16を回転駆動する前記減速機付きモーター15とを備え、
減速機付きモーター15により回転駆動された摩擦駆動輪16が複数個、第1作業区間A-Bの始端と終端に、搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bに配置され、
減速機付きモーター15により回転駆動された摩擦駆動輪16により、搬送台車1を第1作業区間A-Bの始端Aから終端B側へ搬送して第1作業区間A-B内の複数の搬送台車1を前後突き合う状態で一体に定速走行させるように構成されている、自動車組立てライン。」

2 甲第2号証について
甲第2号証(特開2005-81950号公報)には、「摩擦駆動の台車式搬送装置」に関し、図面(特に図1、図3参照)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)「【0001】
本発明は、比較的全長が長く且つ全長にわたって水平方向の関節部を持たない一体型の搬送用台車を使用する摩擦駆動の台車式搬送装置に関するものである。」

(2)「【0011】
以下に本発明の具体的実施例を添付図に基づいて説明すると、図1及び図2に示すようにこの実施形態で使用される搬送用台車1は、自動車ボディなどのワークWを搭載する、長さ方向の中間に水平方向の関節部を持たない長尺一体型の台車本体2の下側に、左右一対前後2組の自在車輪3と、前後方向中心線上の中央寄り位置に前後一対設けられた主被ガイド部材4,5と、この主被ガイド部材4,5よりも前方で前後方向中心線に対し右方へ外れた位置(左方でも良いが、以下の実施形態の説明は、図示の構造に基づいて説明する)に前後一対設けられた前側副被ガイド部材6,7と、主被ガイド部材4,5よりも後方で前後方向中心線に対し左方へ外れた位置に前後一対設けられた後側副被ガイド部材8,9とを備えている。又、台車本体2の左右両側に走行方向と平行な被摩擦面10a,10bを備えている。この被摩擦面10a,10bは、台車本体2の左右両側面そのものを利用して構成しても良いし、台車本体2に取り付けた前後方向部材の側面で構成しても良い。尚、前側副被ガイド部材6,7間の間隔と後側副被ガイド部材8,9間の間隔とは等しい。」

(3)「【0014】
上記搬送用台車1の走行経路には、図1A及び図2Aに示すように摩擦駆動手段16が併設されている。この摩擦駆動手段16は、それぞれ垂直軸心の周りに回転自在な摩擦駆動ローラー17とバックアップローラー18を備えている。摩擦駆動ローラー17は、図示省略された付勢手段により台車本体2の被摩擦面10a,10bの一方に圧接されるもので、モーター19により回転駆動される。バックアップローラー18は、台車本体2の被摩擦面10a,10bの他方に当接する。尚、摩擦駆動手段16は、バックアップローラー18を省いて摩擦駆動ローラー17のみから構成することもできるし、或いは図3に20で示す摩擦駆動手段のように、バックアップローラー18を使用しないで摩擦駆動ローラー17を左右一対並設して構成することもできる。
【0015】
図3は、上記搬送用台車1の閉ループ状走行経路における直線往行経路部21の終端と直線復行経路部22の始端とをつなぐターン経路部を示すもので、当該ターン経路部は、2つの90度ターン部23,24及び両90度ターン部23,24間をつなぐ直線経路部25から成り、当該直線経路部25を横断する通路26が設けられている。この通路26を含む直線経路部25の長さは、上手側のターン部23を通過して直線経路部25に入った搬送用台車1の前端が直ぐに通路26内に進入し、通路26から下手側へ抜け出た搬送用台車1が直ぐに下手側のターン部24内に入り込む程度に短い。そしてこの通路26内となる領域には、主ガイドレール14は設けられておらず、自在車輪走行面を構成する帯状板13a,13bのみが敷設されている。又、各ターン部23,24の内側には、走行方向に適当間隔おきに並ぶ複数(図示例は3つ)の摩擦駆動ローラー17を備えたターン部摩擦駆動手段27,28が併設され、更に直線経路部25には、通路26の直前直後の両箇所に摩擦駆動ローラー17を備えた摩擦駆動手段29,30が併設されている。」

(4)図3には、摩擦駆動ローラー17を左右一対並設して構成された摩擦駆動手段20が、走行経路に複数配置されることが示されている。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本件発明1に則って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「自在車輪3付きの搬送用台車1を、閉ループ状走行経路に沿って搬送する台車式搬送装置であって、
前記走行経路に沿ってかつ走行経路の両側に、前記搬送用台車1の側面に接触するに適した高さに配置されている複数の摩擦駆動ローラー17と、
前記摩擦駆動ローラー17を走行経路内の前記搬送用台車1の側面に圧接するように付勢する付勢手段と、
少なくとも一部の摩擦駆動ローラー17を駆動するモーター19とを備え、
モーター19により駆動される摩擦駆動ローラー17が複数個、走行経路の両側に配置される、搬送用台車1の台車式搬送装置。」

3 甲第3号証について
甲第3号証(国際公開第2009/060528号)には、「駆動ユニット及び搬送システム」に関し、図面(特に図1、図3、図11参照)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)「[0055] 図1は、本発明の実施例の(本発明の好適一実施の形態に係る)駆動ユニットの略式平面図であり、図2は、当該駆動ユニットを図1中の下側から視た略式側面図であり、図3は、当該駆動ユニットの略式正面図である。そして、図4は、かかる駆動ユニットを実際に製品の生産等を行うライン上に用いた場合の部分拡大した略式斜視図である。当該駆動ユニット100は、ワーク等の被搬送物を積載してパレット50を搬送するようにワンフロアー全体が平らな床面20に設置される搬送・組立ライン(以下、「ライン」という)において配置される。なお、図4において、被搬送物の搬送方向を矢印Pで示しているが、ライン上で、被搬送物の向きについて述べる場合は、以下において、上流側を後方と下流側を前方として扱うものとする。
[0056] 当該駆動ユニット100は、搬送方向Pに沿って設置される略平行な一対のレール102L及び102Rを含む基台110と、前記パレット50の第1(一方)の側面52(図21、22を参照)に当接してトラクションにより駆動させる駆動装置130と、第1の側面52と反対側の第2(他方)の側面54(図21、22を参照)に当接して前記駆動装置130側へ押圧する付勢装置150と、前記基台110に備えられて前記パレット50の下面の対向する両縁部に接触して支持する支持部材180(図3参照)とで基本的に構成されている。」

(2)「[0059] 駆動ユニット100に備えられる駆動装置130は、搬送方向Pの前方を向いて左手側のレール102Lの(パレット50搬送位置から)外側に、駆動ユニット100の前方及び後方にそれぞれ1機ずつ設けられている。それぞれの駆動装置130は、駆動力を付与するモータユニットであって、モータ本体131と、モータ軸が搬送方向略直角に内側に向かって差し込まれる変速機としてのギアボックス140と、該ギアボックス140から上記モータ軸に対して略直角な向きであって、鉛直下向きに突出する回転軸136と、この回転軸136により駆動されるトラクションローラたる駆動ローラ134とから主に構成される。また、前方及び後方の駆動装置130、130の配置間隔L1は、パレット50の搬送方向長さL2よりも短い配置間隔で配置されている。
[0060] 駆動ローラ134には、下向き戴頭円錐形状の部材135が備えられ、そのテーパー面により、パレット50の上側辺部を上から拘束し、パレット50が駆動ローラ134の外周面から外れることを防止する。駆動ローラ134のトラクション面である外周面は、パレット50の側面52に当接するが、駆動ローラ134の幅は、パレット50の側面の高さに略一致、若しくは、駆動ローラ134の外周面の幅の方がやや大きい。そして、駆動ローラ134は、的確なトラクション力を伝えるため、適度な摩擦力が必要である。また、パレット50の側面52との適度な接触面積を有することが好ましく、駆動ローラ134は比較的軟らかいゴム(硬質ゴムを含む)等から構成される。また、適度な弾力を与えるために、空気が入るタイヤのような構造にしてもよい。また、必要に応じて表面(即ち摺動面)に凹凸(例えば、縦溝、横溝、パターン等)を形成しても良い。
[0061] 駆動ユニット100は、レール102Lの外側に接する取付部材190の上に固定される水平な板状の駆動ベース132にボルトで固定される。従来、モータ本体131等は、パレット50の上面よりも下方に構成されており、作業者の歩行の障害にならないように、床を掘削して床下にモータを設置していた。また、連結した複数枚のパレット50の移送を最適な移送力(トルク)で行うためにパレット50の枚数に応じてモータの出力を選定し構成していた。しかしながら、本実施の形態においては、パレット50の移動抵抗の低減や、トラクション力の効率的伝達を工夫することにより、モータ本体131をパレット50の上面より上方に配置することを可能とした。これにより、支持部材180上に載置されたパレット50の上面を、典型的に、床から例えば約20cm(作業者が床面とパレットの上面とを容易に乗降できる高さ)のところまで下げることができる。また、前述した支持部材180は、床面20に直接的に横設されたレール102L及び102Rに載置されているので、支持ローラ184がパレット50の裏面と接触するトップまでの高さを低く抑えることができる。その結果、図4に記した作業者10は、このパレット50上に容易に乗降することが可能となる。
[0062] ここでは、前方及び後方の駆動ユニット100は、同一(特にモータの規格)であるとしてきたが、それぞれの規格を違うものにしてもよい。例えば、該駆動ユニットの外であって前方にあるパレット50を該駆動ユニットの内にある後方のパレット50が押し出す場合は、駆動ユニット100の前方のモータを、後方側のモータよりも高出力のものとしてもよい。若しくは、該駆動ユニットの外であって後方から搬送されてきたパレット50を該駆動ユニットの内に入ったところで前方側へ引っ張る場合は、駆動ユニット100の後方のモータの出力を、前方側のモータよりも高くしてもよい。また、駆動ローラ134の材質を適宜選択して最適化を図ってもよい。
[0063] また、前方及び後方の駆動装置130、130の配置間隔L1は、パレット50の搬送方向Pの長さL2よりも短い方が好ましい。このように2つの駆動装置130、130を所定の間隔を空けて駆動ユニット100に配置し、同時に駆動することにより、パレット50の移送を安定化させやすくなる。また、レール102Lの外側であり、前方及び後方の駆動装置130、130の間には、カバー146が構成され、作業者10はその上を移動することができる。従って、カバー146は、作業者が乗ってもその重量に耐え得る強度で形成されて構成され、カバー146の上面の床面からの高さH2は、パレット50の上面の床面からの高さH1と略同じ高さ(ここでは、約20cm)となり、作業者10が容易に昇降することが可能である。
[0064] 図1から3を参照すれば、4つの付勢装置150が、レール102Rに沿って配置されている。これらの付勢装置150は、実質的に同じものである。図3に示すように、レール102Rの前端部及び後端部に配置される付勢装置150、150は、前記基台110を挟んで駆動装置130、130と対向する位置に配置される。該付勢装置150は、スライド部材154と、このスライド部材154に回転自在に軸支される付勢ローラ152と、該付勢ローラ152に付勢力を与えるバネ158と、付勢装置150を固定する付勢ベース160と、から構成される。ここで用いられる付勢ローラ152は、従動ローラであるため、駆動装置を備える必要もなく、さしたる抵抗もなく回転するローラであることが好ましい。かかる付勢ローラ152と、前述した駆動ローラ134との間にパレット50が搬送されてきた場合であって、駆動ローラ134がパレット50に駆動力を付与する際は、付勢ローラ152が、パレット50の向きが曲がらないように、動きを制限すると共に、パレット50を駆動ローラ134側へ押付け、付勢する。これにより駆動ローラ134の駆動力が確実にパレット50に伝達される。
[0065] かかる付勢装置150を複数配置する場合、これらの付勢装置150・・は、少なくとも所定距離(望ましくは、パレット50の搬送方向Pの長さ以下であって、駆動ローラ134と共にパレット50を挟んだときに、ズレが生じ難い距離)だけ離すことが好ましい。」

(3)「[0072] 図11は、図9に示した搬送システムの部分ラインを表した他の実施例の説明図である。図11(a)に示す部分ラインは、上流ユニット600、駆動ユニット100、4台の移送ユニット500、500、500、500、駆動ユニット100’、長尺移送ユニット550、移送ユニット500、駆動ユニット100、下流ユニット650の順に配置され、部分ラインを形成している。この部分ラインでは、パレット50が上流ユニット600からライン上流側(作業ラインS1の上流端側に配置される)の駆動ユニット100に所定のタイミングで次々と搬送される。すると駆動ユニット100は、パレット50を所定の搬送速度で移送ユニット500(作業ラインS1)へ移送する。移送されたパレット50は、移送ユニット500に前もって移送されていたパレット50の後端に接触し、これと連結する。このように順次連結した複数のパレット50・・(図11(a)においては4台のパレット50、50、50、50)が、駆動ユニット100と駆動ユニット100’の間を覆うことにより、作業者10が歩行可能となるような擬似的な床を形成する。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の事項が記載されている(以下「甲第3号証に記載された事項」という。)。

「モータ本体131により駆動される駆動ローラ134が設けられる駆動装置130が複数個、パレット50の搬送方向Pの長さL2よりも短い配置間隔で、作業ラインS1の片側に配置され、モータ本体131により駆動される駆動ローラ134により、パレット50を作業ラインの入口から出口側へ搬送するように構成されている、パレット50の搬送システム。」

第5 判断
1 申立理由1について
(1)特許異議申立人は本件発明1の台車について、「台車は、『キャスター車輪付きの』台車であるとしか規定されておらず、台車の具体的な構成は何ら規定されていない。即ち、本件特許の請求項1の台車は、本件特許の目的を達成できないようなあらゆる形状や形態の台車が包含されている。」と主張する。

しかしながら、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが特許法第36条第6項第2号に規定された明確性の要件である。そして、本件発明1の台車は、「キャスター車輪付きの台車」として当業者がその請求項に係る発明の範囲を理解できるように記載されていることから、本件発明1は同法第36条第6項第2号に規定する要件に違反しているとはいえない。

また、本件発明1を引用する本件発明2ないし13についても、同様に特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反しているとはいえない。

(2)特許異議申立人は本件発明1について、「全ての台車が『下部側面』を有するわけではなく、例えば、スーパーマーケットで使用されるカゴ台車の場合、通常、台車の下部は、軽量化のために棒状のフレームのみで構成されており、サイドローラが安定して接触するような下部側面は存在しない。従って、構成要件(B)及び(C)において、台車の『下部側面』は、具体的に台車との関係で何を指し、どのような構成のものであるかは不明確である。してみれば、この『下部側面』とサイドローラとの接触を規定する構成要件(B)及び(C)も、全体として技術的に特定できず、意味が全く不明確と言わざるをえない。」と主張する。

しかしながら、本件発明1の「台車の下部側面」との記載が、台車の下部の側面を示していることは当業者にとって明らかである。そうすると、本件発明1は当業者がその請求項に係る発明の範囲を理解できるように記載されていることから、同法第36条第6項第2号に規定する要件に違反しているとはいえない。

また、本件発明1を引用する本件発明2ないし13についても、同様に特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反しているとはいえない。

2 申立理由2について
(1)特許異議申立人は本件発明1について、「サイドローラの構成を具体的に規定しないと、本件特許の目的を十分に達成することができないことは明らかである。まず、本件特許のサイドローラの形態が全く不明である。単にサイドにローラがあるという規定では、どのような形態及び配置のローラで台車の下部側面に抵触するかが不明である。サイドローラの形態及び配置を具体的に規定しないと、本件特許の目的を達成できないものも包含されることとなってしまう。さらに述べると、本件特許の作用機構を考慮すると、まずサイドローラは、その表面が特定の弾性の材料から形成されていなければ、本件特許の作用効果を十分に奏することができないはずである。」と主張する。

本件発明1が解決しようとする課題は、「キャスター車輪付きの台車をピット無しで搬送」することである(出願当初の本件明細書の段落【0004】)。これに対し、本件発明1は、上記課題を解決するための手段として、「搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、台車の下部側面に接触するに適した高さに配置されているサイドローラ」を設けたものである。また、サイドローラの材料は、台車の搬送に必要な摩擦力が得られる範囲で当業者が適宜選択すべきものにすぎず、上記課題を解決するために具体的な特定が必要な構成ではない。
そうすると、本件発明1には、上記課題を解決するためのサイドローラの構成が具体的に記載されていることから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反しているとはいえない。

また、当該サイドローラの具体的な構成は、出願当初の本件明細書の段落【0012】の「図1は搬送対象の台車4と搬送装置2の要部とを示し、台車4は例えばカゴ台車で、下部の4側面にフレーム6,7を備え、パイプ8がフレーム6,7に取り付けられて、カゴを形成している。」との記載、同段落【0013】の「搬送装置2は、台車の搬送方向(搬送装置2の長手方向で、図3の左から右への方向)に沿って搬送ユニット12を複数備え、その構造を図1,図2に示す。14は空気入りのタイヤで、例えば上下2段に重ねられているが、3段以上でも、あるいは高さ方向に1段のみでも良い。タイヤ14は表面に水切りの溝16を備える空気入りのゴムタイヤであるが、ウレタンゴムタイヤ等のソリッドゴムタイヤでも良い。」との記載、「また搬送ユニット12は、上下一対のタイヤ14,14を搬送方向に沿って例えば2組備え、チェーン24等の駆動媒体によりモータ18から離れた位置のタイヤ14,14を回転させる。」との記載、同段落【0014】の「タイヤ14,モータ18等は可動フレーム25に取り付けられて、台車4の搬送方向に水平面内で直角な方向に、スライド自在である。」との記載、同段落【0015】の「図3に示すように、搬送ユニット12を搬送方向に沿って複数配列したパネル3が、搬送経路36の両側に配置されて、台車の搬送装置2を構成している。そして台車の搬送装置2は、図3の左側から搬送経路36へ入ってきた台車4を、複数台前詰めで整列させる。また搬送方向に沿って、モータ18により駆動するタイヤ14,14の間隔は、台車4の長さよりも短く、搬送経路36内の各位置から台車4を搬送できるように、実施例では、台車4の長さ当たり2個の搬送ユニット12を配置する。なおモータ18により駆動されず、台車4の側面と接触してガイドするだけのサイドローラを別途に設けても良く、このようなサイドローラの間隔は重要ではない。」との記載、同段落【0017】の「搬送装置2は、搬送経路36内の台車1台分のスペース毎に台車4の有無を監視し、1つのスペースに台車4が存在して次のスペースが空であれば、これらのスペースの搬送ユニット12を動作させて、タイヤ14と台車4のフレーム6,7との摩擦力により台車4を前進させる。」との記載により、本件発明1について当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に示されていることから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に違反しているともいえない。

また、本件発明1を引用する本件発明2ないし13についても、同様に特許法第36条第6項第1号、及び同法第36条第4項第1号に規定する要件に違反しているとはいえない。

(2)特許異議申立人は本件発明1について、「本件特許の目的を達成するために必要である、サイドローラが搬送経路の両側に対をなして配置されていることは何ら規定されていない。請求項1において、サイドローラのこの対での配置の規定がないと、実際には台車を効果的に前進させることができず、本件特許発明の効果を十分に奏することができない。」と主張する。

本件発明1が解決しようとする課題は、「キャスター車輪付きの台車をピット無しで搬送」することである(出願当初の本件明細書の段落【0004】)。これに対し、本件発明1は、上記課題を解決するための手段として、「モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させる」構成を設けたものである。そうすると、本件発明1は、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送させることができるようにサイドローラが配置されるものであることは明らかである。
そうすると、本件発明1には、上記課題を解決するためのサイドローラの配置が記載されているに等しいから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反しているとはいえない。

また、サイドローラの配置は、出願当初の本件明細書の段落【0015】の「図3に示すように、搬送ユニット12を搬送方向に沿って複数配列したパネル3が、搬送経路36の両側に配置されて、台車の搬送装置2を構成している。そして台車の搬送装置2は、図3の左側から搬送経路36へ入ってきた台車4を、複数台前詰めで整列させる。また搬送方向に沿って、モータ18により駆動するタイヤ14,14の間隔は、台車4の長さよりも短く、搬送経路36内の各位置から台車4を搬送できるように、実施例では、台車4の長さ当たり2個の搬送ユニット12を配置する。」との記載により、本件発明1について当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に示されていることから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に違反しているともいえない。

また、本件発明1を引用する本件発明2ないし13についても、同様に特許法第36条第6項第1号、及び同法第36条第4項第1号に規定する要件に違反しているとはいえない。

3 申立理由3について
(1)甲第1号証及び甲第3号証の組み合わせにより容易に発明できたとする主張について
対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「車輪5aないし5d」は前者の「キャスター車輪」に相当し、以下同様に、「搬送台車1」は「台車」に、「始端A」は「入口」に、「終端B」は「出口」に、「第1作業区間A-B」は「搬送経路」に、「自動車組立てライン」は「搬送装置」に、「減速機付きモータ-15」は「モータ」に、それぞれ相当する。

引用発明1の「第1作業区間A-Bに沿ってかつ搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bに設けられ、搬送台車1の下部側面に接触するに適した高さに配置されている複数の摩擦駆動輪16」は、搬送台車1は第1作業区間A-Bに沿って搬送されるものであるから、本件発明1の「搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、台車の下部側面に接触するに適した高さに配置されている複数のサイドローラ」に相当する。

引用発明1の「摩擦駆動輪16を搬送台車1の走行経路側へ移動させる方向に可動台14を付勢するスプリング17」は、「各駆動ユニット12a,12bは、垂直支軸13の周りに一定範囲内で水平揺動自在に軸支された可動台14、この可動台14上に垂直向きに取り付けられた減速機付きモーター15、可動台14の下側で前記減速機付きモーター15の垂直出力軸に取り付けられた摩擦駆動輪16」(甲第1号証の段落【0022】)から構成されるとの記載からみて、本件発明1の「サイドローラを搬送経路内の前記台車の下部側面に接触するように付勢する付勢部材」に相当する。

「モータ駆動のサイドローラが複数個、搬送経路の両側に配置され、モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送する」という限りにおいて、引用発明1における「減速機付きモーター15により回転駆動された摩擦駆動輪16が複数個、第1作業区間A-Bの始端と終端に、搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bに配置され、減速機付きモーター15により回転駆動された摩擦駆動輪16により、搬送台車1を第1作業区間A-Bの始端Aから終端B側へ搬送して第1作業区間A-B内の複数の搬送台車1を前後突き合う状態で一体に定速走行させるように構成されている」ことは、本件発明1における「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され、モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるように構成されている」ことに相当する。

したがって、両者は、
「キャスター車輪付きの台車を、台車を複数台収容でき、かつ入口と出口とを備える直線状の搬送経路に沿って搬送する搬送装置であって、
前記搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、前記台車の下部側面に接触するに適した高さに配置されている複数のサイドローラと、
前記サイドローラを搬送経路内の前記台車の下部側面に接触するように付勢する付勢部材と、
少なくとも一部のサイドローラを駆動するモータとを備え、
モータ駆動のサイドローラが複数個、搬送経路の両側に配置され、
モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送するように構成されている台車の搬送装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
「モータ駆動のサイドローラが複数個、搬送経路の両側に配置され、モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送する」ことに関し、本件発明1は、「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され、モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるように構成されている」のに対し、引用発明1は、「減速機付きモーター15により回転駆動された摩擦駆動輪16が複数個、第1作業区間A-Bの始端と終端に、搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bに配置され、減速機付きモーター15により回転駆動された摩擦駆動輪16により、搬送台車1を第1作業区間A-Bの始端Aから終端B側へ搬送して第1作業区間A-B内の複数の搬送台車1を前後突き合う状態で一体に定速走行させるように構成されている」ものである点。

そこで、相違点について検討する。
本件発明1において、「前詰め」は、前に空いていれば詰めることを意味することは明らかである。これに対し、甲第3号証に記載された事項は、モータ本体131により駆動される駆動ローラ134が設けられる駆動装置130が複数個、パレット50の搬送方向Pの長さL2よりも短い配置間隔で、作業ラインS1の片側に配置され、モータ本体131により駆動される駆動ローラ134により、パレット50を作業ラインの入口から出口側へ搬送する構成であるが、相違点に係る本件発明1の、「モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させる」との発明特定事項を備えておらず、合わせて搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるために設けられた構成である「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され」るとの発明特定事項も備えていない。

以上のように、甲第3号証に記載された事項には、上記相違点に係る構成の「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され、モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させる」との構成について、記載も示唆もされていないから、たとえ引用発明1に甲第3号証に記載された事項を適用したとしても、本件発明1の上記相違点に係る構成に至らない。
したがって、当業者が引用発明1に甲第3号証に記載された事項を組み合わせて、本件発明1の上記相違点に係る構成に至るのが容易であるとはいえない。

このように、本件発明の上記相違点に係る構成に至ることが容易であるとはいえないから、本件発明1は、引用発明1及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2ないし13について
本件発明2ないし13は、本件発明1を引用し、本件発明1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明1と同様に、引用発明1及び甲第3号証に記載された事項、及び甲第4号証ないし甲第6号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)甲第2号証及び甲第3号証の組み合わせにより容易に発明できたとする主張
対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明2とを対比すると、後者の「自在車輪3」は前者の「キャスター車輪」に相当し、以下同様に、「搬送用台車1」は「台車」に、「台車式搬送装置」は「搬送装置」に、「モーター19」は「モータ」に、それぞれ相当する。

引用発明2の「閉ループ状の走行経路」は、「搬送経路」である限りにおいて、本件発明1の「台車を複数台収容でき、かつ入口と出口とを備える直線状の搬送経路」に相当する。

引用発明2の「走行経路に沿ってかつ走行経路の両側に、搬送用台車1の側面に接触するに適した高さに配置されている複数の摩擦駆動ローラー17」は、「搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、台車の側面に接触するに適した高さに配置されている複数のサイドローラ」である限りにおいて、本件発明1の「搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、台車の下部側面に接触するに適した高さに配置されている複数のサイドローラ」に相当する。

したがって、両者は、
「キャスター車輪付きの台車を、搬送経路に沿って搬送する搬送装置であって、
前記搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に、前記台車の側面に接触するに適した高さに配置されている複数のサイドローラと、
前記サイドローラを搬送経路内の前記台車の側面に接触するように付勢する付勢部材と、
少なくとも一部のサイドローラを駆動するモータとを備えた台車の搬送装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件発明1は、「台車を複数台収容でき、かつ入口と出口とを備える直線状の搬送経路」を備えるのに対し、引用発明2は、「閉ループ状走行経路」を備える点。

〔相違点2〕
「サイドローラ」に関し、本件発明1は、「台車の下部側面に接触するに適した高さに配置されている」のに対し、引用発明2は、「搬送用台車1の側面に接触するに適した高さに配置されている」点。

〔相違点3〕
本件発明1は、「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され、モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるように構成されている」のに対し、引用発明2は、「モーター19により駆動される摩擦駆動ローラー17が複数個、走行経路の両側に配置される」ものである点。

事案に鑑み、相違点3を先に検討する。
本件発明1の相違点3に係る構成は、「第5 3(1)ア」において検討した相違点に係る構成と同一である。そうすると、同項において検討したように、甲3号証に記載された事項には、本件発明1の相違点3に係る構成について記載も示唆もされていないから、たとえ引用発明2に甲第3号証に記載された事項を適用したとしても、本件発明1の相違点3に係る構成に至らない。
そうしてみると、当業者が引用発明2に甲第3号証に記載された事項を組み合わせて、本件発明1の相違点3に係る構成に至るのが容易であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点1及び相違点2を検討するまでもなく、引用発明2及び甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

特許異議申立人は、特許異議申立書の第40頁において、本件出願の審査過程において、本件特許権者が平成28年6月27日に提出した意見書における主張1及び2に対する反論として、「まず、本件特許権者の主張1について反論する。主張1は、要するに、本件特許発明の搬送装置は、『前詰め』タイプであるが、引用文献1?6には、搬送装置が『前詰め』タイプであることは開示されておらず、特に引用文献1の搬送装置は、『後押し』タイプであり、本件特許発明のものと相違するというものである。これに対しては、そもそも本件特許発明は『方法』の発明ではなく、『装置』の発明であるので、本件特許権者の主張は考慮されるべきではないことを指摘したい。『前詰め』タイプと『後押し』タイプの相違は、搬送装置をどのように使用するか(つまり、『前詰め』形式で搬送するか、『後押し』形式で搬送するか)という、装置の使用方法における相違にすぎず、装置自体の構成の特徴ではない。なぜなら、同じ構成の装置を『前詰め』形式の搬送にも、『後押し』方式の搬送にも使用することは可能であるからである。この点について、本件特許の請求項1の構成要件(F)には、『モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるように構成されている』と規定されているが、この規定は、『-----ように構成されているという記載から明らかなように、台車を前詰めで整列させたいという希望を述べたにすぎず、台車を前詰めで整列させるための具体的な構成は、本件特許の請求項1では何ら規定されていない。つまり、本件特許の請求項1の構成要件(F)は、『後押し』形式の搬送を不可能にして、『前詰め』形式の搬送のみを可能にするための必須の具体的な要件を何ら規定しておらず、本件特許の請求項1の搬送装置の可能な使用方法の一つを単に希望として記載したにすぎない。従って、本件特許権者の主張1は、本件特許の請求項1の記載による具体的な裏付けを欠いており、本来採用されるべきではなかったことは明らかである。」と主張する。
しかしながら、本件発明1の「モータ駆動のサイドローラにより、台車を搬送経路の入口から出口側へ搬送して搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させるように構成されている」との記載は、装置の使用方法を特定したものではなく、文字通りに装置の構成を特定したものである。また、「搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させる」ための構成は、本件発明1の「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され」るという事項により具体的に特定されているから、かかる主張は理由がない。

特許異議申立人は、「本件特許権者の主張2について反論する。主張2は、要するに、オ-1)で言及した出願1でも、この『前詰め』の特徴により進歩性が認められて特許されており、この出願1の審査経過から見ても、『前詰め』は進歩性のある構成要件であると考えられるというものである。これに対しては、出願1の拒絶理由対応では、単に『前詰め』の特徴のみを主張したのではなく、台車の『前詰め』整列を達成するために必要な台車の構成やその他の目的達成のために必要な構成を具体的に規定していることを指摘したい。一方、主張1に対する反論の部分でも詳述したように、本件特許権者は、『前詰め』の特徴を主張しただけであり、台車の『前詰め』整列を達成するために必要な台車の構成などを何ら具体的に規定していない。従って、本件特許権者の主張2も、本件特許の請求項1の記載による具体的な裏付けを欠いており、本来採用されるべきではなかったことは明らかである。」と主張する。
しかしながら、「搬送経路内の複数の台車を前詰めで整列させる」ための構成は、本件発明1の「モータ駆動のサイドローラが複数個、前記台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路に沿ってかつ搬送経路の両側に配置され」るという事項により具体的に特定されているから、かかる主張は理由がない。

このように、本件発明1の上記相違点に係る構成に至ることが容易であるとはいえないから、本件発明1は、引用発明2及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2ないし13について
本件発明2ないし13は、本件発明1を引用し、本件発明1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明1と同様に、引用発明2及び甲第3号証に記載された事項、及び甲第4号証ないし甲第6号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-26 
出願番号 特願2016-507930(P2016-507930)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B65G)
P 1 651・ 121- Y (B65G)
P 1 651・ 537- Y (B65G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 八板 直人  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 滝谷 亮一
小関 峰夫
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6011741号(P6011741)
権利者 村田機械株式会社
発明の名称 台車の搬送装置  
代理人 塩入 明  
代理人 塩入 みか  

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