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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F21S
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F21S
審判 全部申し立て 特123条1項5号  F21S
審判 全部申し立て 発明同一  F21S
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F21S
管理番号 1330131
異議申立番号 異議2017-700337  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-05 
確定日 2017-07-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6002193号発明「発光ダイオード用途に使用するための赤色線放出蛍光体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6002193号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6002193号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2007年(平成19年)2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年2月28日、米国)を国際出願日とする特願2008-557338号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成26年10月31日に新たな特許出願としたものであって、平成28年9月9日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人永井義久(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6002193号の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1?5の発明を、項番号に応じて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
440?480nmのピーク放出波長を有する放射を放出する発光ダイオード(LED)光源;及び少なくとも第1の蛍光体材料及び第2の蛍光体材料の混合物を含む蛍光体ブレンドを含む光放出照明装置であって、
前記第1の蛍光体材料が、Ce^(3+)で活性化されるガーネットから構成され、前記第2の蛍光体材料が、少なくとも光源から放出される放射の部分を610?650nmのピーク放出波長を有する光へ転換することができ、前記第2の蛍光体材料が、Mn^(4+)で活性化された複合フッ化物蛍光体を含み、及び、
前記複合フッ化物蛍光体が、AがLi、Na、K、Rb、Cs、NH_(4)及びその組み合わせから選択され、MがGe、Si、Sn、Ti、Zr及びその組み合わせから選択されるA_(2)[MF_(6)]:Mn^(4+)を含む、
光放出照明装置。
【請求項2】
前記装置が90より大きい一般CRIを有する、請求項1記載の照明装置。
【請求項3】
前記複合フッ化物蛍光体が、K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)を含む、請求項1記載の照明装置。
【請求項4】
Mn^(4+)で活性化された、610?650nmのピーク放出波長を有する赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料、ここで、前記複合フッ化物蛍光体は、AがLi、Na、K、Rb、Cs、NH_(4)及びその組み合わせから選択され、MがGe、Si、Sn、Ti、Zr及びその組み合わせから選択されるA_(2)[MF_(6)]:Mn^(4+)を含む;510?550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体;及び440?480nmのピーク放出波長を有する青色LEDチップ;を含むバックライト装置であって、前記装置が、CIE1931x,y図のNTSCの域の90%より大きい域を有し、かつ、280lm/Wより大きいLERを有する、前記バックライト装置。
【請求項5】
前記複合フッ化物蛍光体が、K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)を含む、請求項4記載のバックライト装置。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として米国特許出願公開第2006/0169998号明細書(甲第1号証。以下、甲各号証を項番号に応じて、単に「甲1」などという。)、国際公開第2007/100824号(甲2)、特表2009-528429号公報(甲2の1)、平成26年12月1日付け手続補正書(甲2の2)、特開2007-39303号公報(甲3)、JIS Z9112(改訂1990年)(甲4)、特開2005-321727号公報(甲5)、及び、特開2006-253336号公報(甲6)を提出し、次の(1)?(4)の点によって、本件特許1?5を取り消すべきものである旨主張している。
(1)(原文新規事項の追加)
本件発明1?3は、「440?480nmのピーク放出波長を有する放射を放出する発光ダイオード(LED)光源」を発明特定事項に備えた「バックライト装置」以外の装置に関するところ、原出願に係る国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「国際出願の明細書等」という。)には、「赤色複合フッ化物蛍光体」と「440?480nmのピーク放出波長を発する青色LED」との組み合せに係る態様が記載されておらず、本件発明1?3は、特許法第184条の4第1項の外国語特許出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「国際出願の明細書等」という。)に記載した事項の範囲内にないから、特許法第184条の18において読み替えて適用する同法第113条第1項第5号に該当する。

(2)(サポート要件違反・実施可能要件違反)
ア 本件発明1?3について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「バックライト装置」以外の装置については記載されておらず、「バックライト装置」以外の装置をも対象とする本件発明1?3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えるものであって、サポート要件を満たしておらず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「バックライト装置」以外の装置については記載されておらず、光放出照明装置についての記載はないことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、光放出照明装置について、所期の効果を奏するように当業者がこれを製造し、使用することができる程度に明確かつ十分記載されているといえないものであって、実施可能要件を満たしておらず、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当する。
イ 本件発明4、5について
本件発明4、5に係るバックライト装置は、「赤色複合フッ化物蛍光体」のほかに、「510?550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体」、及び「440?480nmのピーク放出波長を有する青色LEDチップ」を含むものであるところ、発明の詳細な説明の【0029】(当審注:特許異議申立書の9頁8行では、「【0024】」を引用しているものの、本件特許明細書の【0024】には、バックライト装置に関する記載はなく、バックライト装置は、原出願の明細書の【0024】に記載され、該【0024】は、本件特許明細書の【0029】に対応するものであるから、特許異議申立書の上記「【0024】」は「【0029】」の誤記と認める。)に記載されたバックライト装置の具体例は、上記本件発明4に係るバックライト装置とは異なるものであるから、実施例にあたるものは開示されておらず、本件発明4、5について、所期の効果を奏するように当業者がこれを製造し、使用することができる程度に明確かつ十分記載されているといえないものであって、実施可能要件を満たしておらず、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当する。
また、発明の詳細な説明の記載は、本件発明4、5の内容を開示されていないのであるから、本件発明4、5は、サポート要件を満たしておらず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、同法第113条第1項第4号に該当する。

(3)(進歩性要件違反)
ア 本件特許の出願日は、補正書が提出された平成26年(2014年)12月1日であり、本件発明1?3は、原出願に係る甲2の訳文である甲2の1(公表日:平成21年8月6日)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当する。
イ 仮に、本件特許の出願日が、国際出願日の平成19年(2007年)2月26日であったとしても、本件発明1?5は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当する。

(4)(拡大先願要件違反)
本件発明1?5は、本件の出願後に出願公開された甲3に係る特願出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明であり、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当する。

4.判断
(1)(原文新規事項の追加)について
(原出願に係る国際出願の明細書等の記載)
原出願に係る国際出願の明細書等には、次の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「()」内は当審による仮訳であり、原出願に係る国際出願の明細書等の翻訳文である甲2の1に基づくものであるが、訳や語順を変える等して、わかりやすく書き改めた箇所もある。「<>」内は、原出願に係る国際出願の明細書等に対応する本件明細書又は図面の記載である。)。
ア 「[0038] It was determined that an apparatus that produces light containing a red line component by using a phosphor material capable of converting at least part of the radiation from a light source into red line emission having a peak wavelength between 610 and 650 nm would be useful e.g. in display or general lighting applications. A highly suitable example of such phosphor material is a complex fluoride phosphor activated with Mn^(4+). Preferred examples for various embodiments will be provided further below.
([0038]光源からの放射の少なくとも一部を、610?650nmのピーク波長を有する赤色線放出へ転換することが可能な蛍光体材料を用いることによって、赤色線構成要素を含有する光を生成する装置は、例えばディスプレイ又は一般照明応用に有用であろうことは明らかであった。かかる蛍光体材料の大いに好適な実施例は、Mn^(4+)で活性化された複合フッ化物蛍光体である。種々の実施形態の好ましい実施例を以下に提供する。)
<【0016】
少なくとも光源からの放射の一部を、610?650nmのピーク波長を有する赤色線放出へ転換することが可能な蛍光体材料を用いることによって、赤色線構成要素を含有する光を生産する装置は、例えばディスプレイ又は一般照明応用に有用であろうことが明らかであった。かかる蛍光体材料の大いに好適な実施例は、Mn^(4+)で活性化された複合フッ化物蛍光体である。種々の実施形態の好ましい実施例を以下に提供する。>」

イ 「[0061] The relative amounts of each phosphor in the phosphor material can be described in terms of spectral weight. The spectral weight is the relative amount that each phosphor contributes to the overall emission spectra of the phosphor blend. The spectral weight amounts of all the individual phosphors should add up to 1. A preferred blend comprises a spectral weight of from 0.01 to 0.80 of a phosphor having a peak emission of from about 500 to 610 nm, from 0 to 0.19 of an optional phosphor having a peak emission from about 430 to 500 nm (which would not be needed for excitation with a blue or blue-green LED having a peak emission from about 430 to about 500 nm), and the balance of the blend being one of the above described complex fluoride phosphors, as needed to achieve the targeted CCT value. Any known phosphors suitable for use in near- UV to green LED systems and emitting in the above wavelength ranges may be used. Garnets activated with at least Ce^(3+) (e.g. YAG:Ce, TAG:Ce and their compositional modifications known in the art) are particularly preferred phosphors with a peak emission at about 500 to 610 nm. Other particularly preferred phosphors having a peak emission in the latter range are alkaline earth silicates activated with at least Eu^(2+) , e.g. (Ba, Sr, Ca)_(2)SiO_(4) : Eu^(2+) (BOS) and its compositional modifications known in the art.
([0061]蛍光体材料中の各蛍光体の相対量は、スペクトル質量によって記載できる。スペクトル質量とは、蛍光体ブレンド(混合物)の全放出スペクトルに、各蛍光体が寄与する相対量である。個々の蛍光体を全て合わせたスペクトル質量を合計すると1になるべきである。好ましいブレンド(混合物)においては、0.01?0.80のスペクトル質量は、約500?610nmのピーク放出を有する蛍光体であり、0?0.19のスペクトル質量は、(約430?約500nmのピーク放出を有する青色又は青緑色のLEDによる励起は必要とされない)約430?500nmのピーク放出を有する任意の蛍光体を含んでいる。さらに、目的のCCT値を得るために必要なように、ブレンド(混合物)のバランスは、上述の複合フッ化物蛍光体の一つとなっている。近紫外から緑色LEDシステムにおける使用に適し、上述の波長領域における放出に好適なものは、いかなる既知の蛍光体でも使用することができる。少なくともCe^(3+)で活性化されるガーネット(例えばYAG:Ce、TAG:Ce及び従来技術で知られるそれらの組成が修正されたもの)は、約500?610nmのピーク放出を有する蛍光体として特に好ましいものである。他の、後者の領域のピーク放出を有する特に好ましい蛍光体は、少なくともEu^(2+)で活性化されるアルカリ土類珪酸塩であり、例えば(Ba, Sr, Ca)_(2)SiO_(4) : Eu^(2+) (“BOS”)及び従来技術で知られるその組成が修正されたものである。)
<【0027】
蛍光体材料中の各蛍光体の相対量は、スペクトル質量によって記載できる。スペクトル質量は、各蛍光体が蛍光体ブレンドの全放出スペクトルの一因となる相対量である。すべての個々の蛍光体のスペクトル質量(spectral weight amounts)は、1まで増加するべきである。好ましいブレンドは、約500?610nmのピーク放出を有する蛍光体の0.01?0.80のスペクトル質量、約430?500nm(約430?約500nmのピーク放出を有する青色又は青緑色のLEDでの励起に必要とされない)のピーク放出を有する0?0.19の任意の蛍光体を含み、ブレンドのバランスは、目的のCCT値を獲得する必要に応じて、上述の複合フッ化物蛍光体のうちの一つである。近紫外から緑色LEDシステムにおいての使用、及び上述の波長領域における放出に好適な既知の蛍光体を使用することができる。少なくともCe^(3+)で活性化されるガーネット(例えばYAG:Ce、TAG:Ce及び従来技術で知られるそれらの組成上の修正)は、約500?610nmのピーク放出を有する、特に好ましい蛍光体である。他の、後者の領域のピーク放出を有する特に好ましい蛍光体は、少なくともEu^(2+)で活性化されるアルカリ土類珪酸塩であり、例えば(Ba、Sr、Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)(“BOS”)及び従来技術で知られるその組成上の修正である。>」

ウ 「[0065] Advantageously, virtually any complex fluoride phosphor activated with Mn^(4+) is a suitable example for said red line-emitting phosphor. Non-limiting examples of suitable red line emitting phosphors include the phosphors described herein, as well as those described in parent applications U.S. Patent Applications Nos. 11/364,611, 11/049,598 and 11/285,442, the disclosures of which are incorporated herein by reference in their entirety. A particularly preferred example of such a phosphor is a complex fluoride with coordination number of 6, e.g. A_(2)[MF_(6)]:Mn^(4+), where A is selected from Li, Na, K, Rb, Cs, NH_(4), and combinations thereof; and where M is selected from Ge, Si, Sn, Ti, Zr, and combinations thereof. A non-limiting example of a suitable green emitting phosphor is an alkaline earth thiogallate, thioaluminate or a solid solution thereof activated with Eu^(2+) , e.g. strontium thiogallate activated with Eu^(2+) (STG) SrGa_(2)S_(4) :Eu^(2+) , and a non-limiting example of a suitable blue-emitting phosphor is strontium chloroapatite activated with Eu^(2+) (SECA) Sr_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+).
([0065] 有利なことに、Mn^(4+)で活性化された実質上のいずれの複合フッ化物蛍光体も、前記赤色線放出蛍光体の好適な実施例である。好適な赤色線放出蛍光体の非制限的実施例は、親出願の米国特許出願番号11/364,611、11/049,598及び11/285,442に記載される蛍光体同様、ここに記載される蛍光体を含み、それらの開示は参照のためここに全体を組み込んでいる。かかる蛍光体の特に好ましい実施例は、例えばA_(2)[MF_(6)]:Mn^(4+)の配位数6の複合フッ化物であり、AがLi、Na、K、Rb、Cs、NH_(4)及びその組み合わせから選択され、MがGe、Si、Sn、Ti、Zr及びその組み合わせから選択される。好適な緑色放出蛍光体の非制限的実施例は、アルカリ土類チオガレート、チオアルミネート(thioaluminate)又はEu^(2+)で活性化されたその固溶体であり、例えばEu^(2+) で活性化されたストロンチウムチオガレート (STG) SrGa_(2)S_(4) :Eu^(2+)が挙げられ、好適な青色放出蛍光体の非制限的実施例は、Eu^(2+) で活性化されたストロンチウムクロロアパタイト(SECA) Sr_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)である。)
<【0028】・・・(略)・・・
有利なことに、Mn^(4+)で活性化された実質上のいずれの複合フッ化物蛍光体も、前記赤色線放出蛍光体の好適な実施例である。好適な赤色線放出蛍光体の非制限的実施例は、親出願の米国特許出願番号11/364,611、11/049,598及び11/285,442に記載される蛍光体同様、ここに記載される蛍光体を含み、それらの開示は参照のためここに全体を組み込んでいる。かかる蛍光体の特に好ましい実施例は、例えばA_(2)[MF_(6)]:Mn^(4+)の配位数6の複合フッ化物であり、AがLi、Na、K、Rb、Cs、NH4及びその組み合わせから選択され、MがGe、Si、Sn、Ti、Zr及びその組み合わせから選択される。好適な緑色放出蛍光体の非制限的実施例は、アルカリ土類チオガレート、チオアルミネート(thioaluminate)又はEu^(2+)で活性化されたその固溶体であり、例えばEu^(2+)(“STG”)SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)で活性化されたストロンチウムチオガレートが挙げられ、好適な青色放出蛍光体の非制限的実施例は、Eu^(2+)(“SECA”)Sr_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)で活性化されたストロンチウムクロロアパタイトである。>」

エ 「[0067] The spectrum of an experimental LED having a CCT of 2900K, R_(a) of 82 and LER of 342 lm/W_(opt) is shown in Fig. 9. The spectrum of a second experimental LED having a CCT of 3500K, R 3 of 92 and LER of 312 lm/W_(opt) is shown in Figure 10. Both of these LEDs use a blue chip with a terbium aluminum garnet phosphor activated with Ce^(3+) (Tb_(2.91) Ce_(0.09) Al_(4.90) O_(11.85)) and a red line emitting complex fluoride phosphor (K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)).
[0068] The experimental spectrum of another LED using a blue chip and a blend of the phosphors K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+) and STG is shown in Fig. 12. It has chromaticity coordinates x=0.315 and y=0.335 (corresponding to a CCT of 6300K), LER of 292 lm/W_(opt) and a gamut 101% that of NTSC in the CIE 1931 x, y diagram, as shown graphically in Fig. 13.
([0067]2900KのCCTを有する実験用のLEDスペクトル、82のRa及び342lm/W_(opt)のLERを図9に示す。3500KのCCT、92のR_(a)及び312lm/W_(opt)のLERを有する第二実験用LEDスペクトルを図10に示す。これら双方のLEDは、Ce^(3+) (Tb_(2.91) Ce_(0.09) Al_(4.90) O_(11.85))で活性化されたテルビウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体を有する青色チップ及び赤色線を放出する複合フッ化物蛍光体(K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+))を使用する。
[0068]青色チップ及び蛍光体K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)とSTGのブレンド(混合物)を使用する他のLEDの実験用スペクトルを、図12に示す。図13に図示するように、色度座標x=0.315及びy=0.335(6300KのCCTに対応)292lm/W_(opt)のLER及びCIE1931xy図中のNTSCのLERの域101%を有する。)
<【0029】・・・(略)・・・
2900KのCCTを有する実験用のLEDスペクトル、82のR_(a)及び342Im/W_(opt)のLERを図9に示す。3500KのCCT、92のR_(a)及び312Im/W_(opt)のLERを有する第二実験用LEDスペクトルを図10に示す。これら双方のLEDは、Ce^(3+)(Tb_(2.91)Ce_(0.09)Al_(4.90)O_(11.85))で活性化されたテルビウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体を有する青色チップ及び複合フッ化物蛍光体(K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+))を放出する赤色線を使用する。
青色チップ及び蛍光体K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)とSTGのブレンドを使用する他のLEDの実験用スペクトルを、図12に示す。図13に図示するように、色度座標x=0.315及びy=0.335(6300KのCCTに対応)292Im/W_(opt)のLER及びCIE1931xy図中のNTSCのLERの域101%を有する。>」

オ 「[0085] Apart from white light blends for general illumination, these phosphors can be used either individually or in blends for LEDs for traffic signals, signage, and particularly for LCD backlighting applications. The narrow red line emission allows for a saturated color that is highly desirable for these applications.
([0085]一般照明用の白色光ブレンドに加えて、これらの蛍光体は、単体又はブレンド(混合物)を用いて、交通信号機、標識、及び特に液晶表示器(LCD)のバックライティング応用のためのLEDとして使用できる。細い赤色線放出は、これらの応用に非常に望ましい飽和色になる。)
<【0034】
一般照明用の白色光ブレンドを除いて(当審注:「apart from」は、「?に加えて」という訳もあり、「一般照明用の白色光ブレンドを除いて」という表現では意味不明であって、これは、「一般照明用の白色光ブレンドに加えて」と解するべきである。)、これらの蛍光体は個別に又はブレンドで交通信号機、標識、及び特に液晶表示器(LCD)のバックライティング応用のためのLEDとして使用できる。細い赤色線放出は、これらの応用に非常に望ましい飽和色になる。>」

カ Fig. 12


(当審仮訳 図12
Normallized LED Spectrum(正規化されたLEDスペクトラム)
Red line emission(赤色線放出)
Blue chip bleed(青色チップの放出)
Green phosphor emission(緑色蛍光体放出)
Wavelength(波長))

<【図12】

(当審注:「赤外線放出」と記載されているが、「赤外線放出」として示されたピークは、赤外線ではなく、赤色線であるから、「赤外線放出」は、「赤色線放出」と理解すべきである。)>」

(判断)
原出願に係る国際出願の明細書等の[0038] には、赤色線構成要素を含有する光を生成する装置は、例えばディスプレイ又は一般照明応用に有用であることが記載され、同[0065]には、STGは、緑色放出蛍光体であることが記載され、同[0067]には、複合フッ化物蛍光体(K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+))が、赤色線放出蛍光体であることが記載されている。
そして、同[0068]の記載、及び、青色チップとK_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)とSTGのブレンドとを使用するLEDからのスペクトラムを測定した実験結果を示す同図12から、約460nmにピーク放出波長を有する青色チップの放出に対して、その放出の一部が、緑色蛍光体(STG)によって約540nmにピーク放出波長を有する緑色蛍光体放出と、赤色約640nmにピーク放出波長を有する赤色線蛍光体放出に変換されることが看取される。

そうすると、原出願に係る国際出願の明細書等には、青色チップ及びK_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)とSTGのブレンドを使用するLEDからのスペクトラムは、約460nmにピーク放出波長を有する青色チップの放出、約540nmにピーク放出波長を有する緑色蛍光体放出、及び、約640nmにピーク放出波長を有する赤色線蛍光体放出を含むものであることを示す実験結果が記載されていると認められる。

そして、同[0061]には、緑色蛍光体(約500?610nmのピーク放出を有する蛍光体)として、Ce^(3+)で活性化されるガーネットを用いることが記載されている。

また、同[0038]には、赤色線構成要素を含有する光を生成する装置は、例えばディスプレイ又は一般照明応用に有用であることが記載され、同[0085]には、明細書記載の蛍光体を用いたLEDが、一般照明に加えて、交通信号機、標識にも用いられることが記載されている。

以上のことから、原出願に係る国際出願の明細書等には、
「約460nmにピーク放出波長を放出する青色チップ、
青色チップからの放出によって、
約540nmにピーク放出波長を有する緑色蛍光体、及び、
約640nmにピーク放出波長を有する赤色線蛍光体を含み、
緑色蛍光体は、Ce^(3+)で活性化されるガーネットから構成され、
赤色線蛍光体は、K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)から構成され、
緑色蛍光体及び赤色線蛍光体は、ブレンドであり、
一般照明に加えて、交通信号機、標識にも用いられるLED」が記載されていると認められる。

そうすると、原出願に係る国際出願の明細書等の「K_(2)[TiF_(6)]:Mn^(4+)から構成される赤色線蛍光体」及び「約460nmにピーク放出波長を放出する青色チップ」は、本件発明1の「赤色複合フッ化物蛍光体」及び「440?480nmのピーク放出波長を発する青色LED」にそれぞれ相当し、それらの組み合せについて、実験結果とともに記載されているということができることから、原出願に係る国際出願の明細書等には、「赤色複合フッ化物蛍光体」と「440?480nmのピーク放出波長を発する青色LED」との組み合せに係る態様が記載されていないとはいえない。

また、原出願に係る国際出願の明細書等には、上記LEDは、一般照明に加えて、信号機、標識にも用いられることが記載されていることから、「バックライト装置」以外の装置をも対象とする本件発明1?3は、国際出願の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものとはいえない。

したがって、申立人の上記(1)の主張は理由がない。

(2)(サポート要件違反・実施可能要件違反)について
ア 本件発明1?3について
上記(1)で示したように、原出願に係る国際出願の明細書等と同等な内容の記載が本件特許明細書にも認められることから、「バックライト装置」以外の装置も対象とする本件発明1?3が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えているとはいえない。
また、LEDを用いた一般照明装置、交通信号機、標識の構造及び製造方法自体は、原出願に係る国際出願の時点で当業者にとって周知であるから、LEDを用いた一般照明装置、交通信号機、標識の構造及び製造方法が、本件特許明細書に記載されていなくても、本件特許明細書は、本件発明1?3について、所期の効果を奏するように当業者がこれを製造し、使用することができる程度に明確かつ十分記載されていない、とすることはできない。

イ 本件発明4、5について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0029】に記載されたバックライト装置の具体例は、本件発明4、5に係るバックライト装置とは異なる点があるとしても、上記(1)で述べたように、原出願に係る国際出願の明細書等の[0067]?[0068]及びFig.12(本件特許明細書の【0029】及び図12)を参照すれば、原出願に係る国際出願の明細書等には、本件発明4、5に係るバックライト装置に係るLEDについて記載されているといえることから、原出願に係る国際出願の明細書等と同等な内容の記載のある本件特許明細書は、本件発明4、5について、所期の効果を奏するように当業者がこれを製造し、使用することができる程度に明確かつ十分記載されていない、とすることはできない。

ウ 以上のア及びイから、申立人の上記(2)の主張は理由がない。

(3)(進歩性要件違反)について
ア 本件特許の出願日は、原出願に係る国際出願の出願日に遡及するものであって、申立人の主張からは、本件特許の出願日が、補正書が提出された平成26年(2014年)12月1日であるとする根拠は見出せない。
そして、甲2の1は、平成21年8月6日に公表された公表特許公報であって、本件特許に係るパリ条約による優先権主張日後で、原出願に係る国際出願の出願後に公知となった文献であるから、甲2の1を根拠として、本件発明が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

イ また、甲3は、本件特許に係るパリ条約による優先権主張日後の平成19年2月15日に公開された公開特許公報であり、本件特許に係るパリ条約による優先権主張日後に公知となった文献であるところ、申立人の主張からは、本件特許に係るパリ条約による優先権主張が認められない根拠を見出すことはできない。
そうすると、甲3は、本件特許に係るパリ条約による優先権主張日前に公知となった文献ではないことから、甲3を根拠として、本件発明が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

ウ 以上のア及びイから、申立人の上記(3)の主張は理由がない。

(4)(拡大先願要件違反)について
甲3には、「発光色変換部材」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化ガラス基材とガラス焼結層とを有する発光色変換部材であって、結晶化ガラス基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光が照射されたときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が互いに異なる波長の蛍光を発する性質を有することを特徴とする発光色変換部材。
・・・(略)・・・
【請求項6】
ガラス焼結層が、青色光の一部または全部を吸収し、赤色及び/または緑色の蛍光を発する性質を有することを特徴とする請求項1、2及び5のいずれかに記載の発光色変換部材。
【請求項7】
結晶化ガラス基材及びガラス焼結層が青色光の一部または全部を吸収し、結晶化ガラス基材からは黄色の蛍光を発し、ガラス焼結層からは赤色及び/または緑色の蛍光を発する性質を有しており、青色光を照射すると、発光色変換部材中を透過する青色光と結晶化ガラス基材及びガラス焼結層から発せられる蛍光とが合成されて、白色光を発することを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の発光色変換部材。
・・・(略)・・・
【請求項10】
結晶化ガラス基材が、ガーネット結晶中にCe^(3+)を含む結晶を析出してなることを特徴とする請求項1?4及び7?9のいずれかに記載の発光色変換部材。」

イ 「【0048】
ガラス焼結層として、ガラス粉末と、無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成してなるものを用いる場合、ガラス焼結層に含まれる無機蛍光体粉末としては、一般的に市中で入手できるものであれば使用でき、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物、ハロリン酸塩化物などからなるものがある。上記の無機蛍光体の中でも、特に、波長300?500nmに励起帯を有し、波長500?780nmに発光ピークを有するもの、特に、赤色及び/または緑色に発光するものを用いることが好ましい。具体的には、青色光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体として、CaS:Eu^(2+)、ZnS:Mn^(2+),Te^(2+)、Mg_(2)TiO_(4):Mn^(4+)、K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)、SrS:Eu^(2+)、Na_(1.23)K_(0.42)Eu_(0.12)TiSi_(4)O_(11)、Na_(1.23)K_(0.42)Eu_(0.12)TiSi_(5)O_(13):Eu^(3+)、CdS:In,Te、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)、CaSiN_(3):Eu^(2+)、(Ca,Sr)_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、Eu_(2)W_(2)O_(7)を用いることができる。また、青色光を照射すると緑色の蛍光を発する蛍光体として、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)、SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、SrBaSiO_(4):Eu^(2+)、CdS:In、CaS:Ce^(3+)、Y_(3)(Al,Gd)_(5)O_(12):Ce^(2+)、Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12):Ce^(3+)、SrSiO_(N):Eu^(2+)を用いることができる。これらの蛍光体の中には、焼結時の加熱によりガラスと反応し、発泡や変色などの異常反応を起こす物もあり、その程度は、焼結温度が高温であればあるほど著しくなる。しかし、このような無機蛍光体であっても、焼成温度とガラス組成を最適化することで使用できる。」

ここで、技術常識に照らせば、「Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12):Ce^(3+)」は、ガーネットと呼べるものであるから、【請求項10】に記載された、結晶化ガラス基材に析出されたガーネット結晶中にCe^(3+)を含む結晶は、青色光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体であり、【0048】に記載された、K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)が用いられたガラス焼結層は、緑色の蛍光を発する蛍光体であるということができる。

そうすると、甲3には、
「結晶化ガラス基材とガラス焼結層とを有する発光色変換部材であって、結晶化ガラス基材の片面若しくは両面にガラス焼結層が形成されてなり、励起光が照射されたときに、結晶化ガラス及びガラス焼結層が互いに異なる波長の蛍光を発する性質を有する発光色変換部材であって、
結晶化ガラス基材が、ガーネット結晶中にCe^(3+)を含む結晶を析出してなり、青色光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体を含み、
ガラス焼結層として、K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)が用いられて、青色光を照射すると緑色の蛍光を発する蛍光体である、発光色変換部材」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

そうすると、甲3発明の「『ガーネット結晶中にCe^(3+)を含む結晶を析出してなり、青色光を照射すると赤色の蛍光を発する蛍光体』を含む『結晶化ガラス基材』」及び「『K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)が用いられて、青色光を照射すると緑色の蛍光を発する蛍光体』である『ガラス焼結層』」が、本件発明1の「第1の蛍光体材料」及び「第2の蛍光体材料」に、それぞれ相当するとしても、本件発明1は、第1の蛍光体材料及び第2の蛍光体材料について、それらの混合物を含む蛍光体ブレンドからなるものであり、甲3発明は、結晶化ガラス基材とガラス焼結層からなるものである点で、両者は相違し、甲3発明において、結晶化ガラス基材とガラス焼結層とを混合物とした蛍光体ブレンドとして用いることは想定されるものではない。

してみると、本件発明1及び本件発明1を引用し、さらに限定した本件発明2?5が、甲3発明と同一であるとはいうことはできない。

また、仮に、申立人が主張するように、甲3に記載された発明として、
「Mn^(4+)で活性化された、610?780nmのピーク放出波長を有する赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料;波長500?535nmに中心波長を有する緑色放出蛍光体;及び430?480nmに中心波長を有する青色LEDチップ、及び330?500nmの励起光源を含み、Mn^(4+)で活性化された前記蛍光体材料が、K及びSiを含む、照明装置」が認定できるとしても、上述のとおり、甲3に記載されたものにおいて、上記赤色線放出複合フッ化物蛍光体及び上記材料緑色放出蛍光体を混合物とした蛍光体ブレンドとして用いることは、想定されるものではないことから、本件発明1及び本件発明1を引用し、さらに限定した本件発明2?5が、甲3に記載された発明と同一であるとはいうことはできない。

したがって、申立人の上記(4)の主張は理由がない。

6.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-03 
出願番号 特願2014-222926(P2014-222926)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (F21S)
P 1 651・ 54- Y (F21S)
P 1 651・ 121- Y (F21S)
P 1 651・ 536- Y (F21S)
P 1 651・ 161- Y (F21S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 天野 宏樹
川端 修
登録日 2016-09-09 
登録番号 特許第6002193号(P6002193)
権利者 ジーイー ライティング ソリューションズ エルエルシー
発明の名称 発光ダイオード用途に使用するための赤色線放出蛍光体  
代理人 西島 孝喜  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山崎 一夫  

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