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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01Q
管理番号 1330132
異議申立番号 異議2017-700343  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-10 
確定日 2017-07-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6005120号発明「ロッド形状の磁気コア要素および誘導性部品」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6005120号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6005120号の請求項1ないし14に係る特許についての出願は,平成26年11月4日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2013年11月5日 ドイツ)に特許出願され,平成28年9月16日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人 三俣 弘文 により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6005120号の請求項1ないし14の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 三俣 弘文 は,主たる証拠として特開2002-319817号公報(甲第1号証),従たる証拠として米国特許出願公開第2005/0285708号明細書(甲第2号証),実願昭59-142121号(実開昭61-57704号)のマイクロフィルム(甲第3号証),中国実用新案第201478032号明細書(甲第4号証),特開2002-261536号公報(甲第5号証),特表2005-522858号公報(甲第6号証),特開2005-98510号公報(甲第7号証),特開平10-214725号公報(甲第8号証)及び特願2014-224379号に対する平成28年1月7日付け拒絶理由通知書(甲第9号証)を提出し,請求項1ないし14に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

第4 各甲号証の記載について
1.甲第1号証及び甲1発明について
甲第1号証には,図2(B)に記載されたアンテナ装置300について,モノポールエレメントの管部材11内において,円柱形状の複数の磁性部材22Bを積み重ねるように縦列に配置されており,この管部材内の個々の磁性部材22Bは磁力により結合され(【0030】),前記磁性部材22Bは,円柱部201と,該円柱部201の上部の凸面を有する凸部202と,該円柱部201の下部の凹面を有する凹部203を有し(【0031】),前記凸面の曲率と凹面の曲率は同等であり(【0032】),複数の磁性部材22Bを積み上げたとき磁性部材22Bの上部の凸部が次の磁性部材22Bの下部の凹部に接合するようになされており(【0030】),前記モノポールエレメントを折り曲げた場合は,その接合部分(接触部)がスライドする(【0033】)ことが記載されている。この場合,接合される2つの磁性部材22Bは,接合部分のスライド量によって曲げる角度を可変にし得るといえる。
そうすると,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「複数の円柱形状の磁性部材を備えたアンテナ装置であって,
それぞれの前記磁性部材は,凹部を有する下部と,該凹部と同等の曲率を有する凸部を有する上部とを備え,このうち接合される2つの磁性部材の接合部分は曲げる角度を可変にし得て,
前記複数の磁性部材は,管部材内に縦列に配置されて個々の磁性部材が磁力により結合されて成る,
アンテナ装置。」

2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には,複数のフェライトコア20で形成されたフェライトコア組立体26が記載され(図3,[0033])ている。
なお,甲第2号証には,前記フェライトコア20同士を接着することは記載されておらず,異議申立人が指摘した箇所([0046]の下線部)は,その前の文に「一繋がりのコアアセンブリ76は、螺線状コアアセンブリを形成するためにケーブルの周囲に巻き付けてもよい。」とあるから,「前記コアアセンブリは,例えば接着剤や熱収縮チューブを使用して,(ケーブルの周囲に)取り付けられてもよい。」と解すべきである。

3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には,フェライトコアを薄型としても外力によって折れることがない,バーアンテナ装置を提供すること(2頁下から4?2行)を技術課題として,「2つのフェライトコア2,3のそれぞれの端面は,可撓性のある連結部材4により連結される。」(4頁1?7行)ことが記載されている。

4.甲第4号証の記載事項
甲第4号証には,車載用アンテナに関連する組み立て式軟磁性フェライトコアにおいて,コアの長さを任意に調節することができ,生産しやすく,コストが低く,さらに隣接するコア間に発生する反磁場のコアの有効透磁率に対する影響を効果的に低減するために([0002][0003]),「組み立て式軟磁性フェライトコアにおいて,前記フェライトコアは,第1コアと第2コアとを有し,前記第1コアの凸型球状冠が前記第2コアの凹型球状冠内に嵌まり込み,前記第1コアの一端と第2コアの一端とは,接着して固定されること。」が記載されていると認める。

5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証には,外力を受けても破壊しにくく,通信特性が安定で耐久性に優れた小型アンテナを提供すること,及び,このような小型アンテナを安価に製造する方法を提供するため(【0006】)に,「フェライトからなる複数の平板状に形成された単体コアを,各単体コアの片面に配置される弾性体によって連結すること。」(【請求項1】,【0023】,【0024】)が記載されていると認める。

第5 判断
1.請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲1発明とを対比すると,
a 甲1発明の「磁性部材」は,下記相違点1を除いて請求項1に係る発明の「磁気コア要素(100)」に相当し,甲1発明の「アンテナ装置」は,下記相違点2を除き,複数の磁気コア要素を備える点で請求項1に係る発明の「磁気コアモジュール」に相当する。
b 甲1発明の凸部及び凹部は,「同等の曲率を有する」こと,及び図3の記載からみて「球状」といえる。そうすると,甲1発明の「それぞれの前記磁性部材は,凹部を有する下部と,該凹部と同等の曲率を有する凸部を有する上部とを備え」は,請求項1に係る発明の「各々の前記磁気コア要素(100)は,球形もしくは円筒形凹部(110)または球形もしくは円筒形接続突起部(120)を有する第1の端(102)と,球形もしくは円筒形凹部(110)または球形もしくは円筒形接続突起部(120)を有する第2の端(103)とを備え」のうち,択一的に把握される「各々の前記磁気コア要素(100)は,球形凹部(110)を有する第1の端(102)と,球形接続突起部(120)を有する第2の端(103)とを備え」に相当する。
c 甲1発明の曲げる角度を可変にし得る「接合部分」は,請求項1に係る発明の「曲げ接続部」に相当し,「可変に調節可能」である点でも共通する。
d 請求項1に係る発明の「前記複数の磁気コア要素からの少なくとも2つの磁気コア要素は、接着結合によって互いに接続される」と,甲1発明の「前記複数の磁性部材は,管部材内に縦列に配置されて個々の磁性部材が磁力により結合されて成る」は、下記の相違点2を除き「前記複数の磁気コア要素からの少なくとも2つの磁気コア要素は所定の手段によって互いに接続される」点で共通する。
よって,請求項1に係る発明と甲1発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。

<一致点>
「複数の磁気コア要素を備えた磁気コアモジュールであって,
各々の前記磁気コア要素は,球形凹部を有する第1の端と,球形接続突起部を有する第2の端とを備え,それによって,少なくとも2つの磁気コア要素の曲げ接続部は可変に調節可能であり,
前記複数の磁気コア要素からの少なくとも2つの磁気コア要素は所定の手段によって互いに接続される,
磁気コアモジュール。」

<相違点1>
一致点である「磁気コア要素」について,請求項1に係る発明では「ロッド形状」であるのに対し,甲1発明では「円柱形状」である点。

<相違点2>
一致点である「所定の手段」が,請求項1に係る発明では,「接着結合」であるのに対し,甲1発明では,「管部材内に縦列に配置されて個々の磁性部材が磁力により結合され」るものである点。

事案に鑑み,まず相違点2について検討する。
甲1発明は,「反復屈曲操作に強いアンテナ体を構成できるようにすること」を技術課題(【0014】)とし,「モノポールエレメント301を構成する樹脂製のチューブ63に外部から折り曲げストレスが加わった場合でも、チューブ63内の個々の凹凸面付き円柱形状の磁性部材22B間の磁気結合力とチューブ63の可撓性とによって当該折り曲げストレスを吸収することができる。」(【0062】)とともに「外力を加えてモノポールエレメント301を折り曲げた場合でも、その外力を取り去るとモノポールエレメント301が元の位置に戻るようになされる。」(【0060】)ものである。
そうすると,甲第4号証に記載された「組み立て式軟磁性フェライトコアにおいて,前記フェライトコアは,第1コアと第2コアとを有し,前記第1コアの凸型球状冠が前記第2コアの凹型球状冠内に嵌まり込み,前記第1コアの一端と第2コアの一端とは,接着して固定されること。」は,公知の技術事項ではあるが,甲1発明は,「磁性部材」の「接合部分」が常に「曲げる角度を可変にし得」る構成とすることで上記技術課題を解決する発明であるから,甲1発明に,甲第4号証に記載された技術事項を適用することには阻害要件があると認める。
また,甲第2号証または甲第3号証に記載された技術事項を甲1発明に適用したとしても,相違点2に係る請求項1の構成を導き出すことはできない。
よって,相違点1について検討するまでもなく,請求項1に係る発明は,甲1発明と甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術事項から,当業者が容易に発明することができたものではない。
なお,異議申立人が異議申立の理由において甲第5号証ないし甲第9号証に記載した技術事項が,前記相違点2に係る構成を充足しないことは,明らかである。

2.請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明と甲1発明とを対比すると,請求項1に係る発明と請求項2に係る発明とで共通する構成については、前記「1.請求項1に係る発明について」の項のa,b及びcのとおりである。
請求項2に係る発明の「前記複数の磁気コア要素からの少なくとも2つの磁気コア要素は、引張ばねシステムによって互いに接続される」と,甲1発明の「前記複数の磁性部材は,管部材内に縦列に配置されて個々の磁性部材が磁力により結合されて成る」は、下記の相違点4を除き「前記複数の磁気コア要素からの少なくとも2つの磁気コア要素は所定の手段によって互いに接続される」点で共通する。
よって,請求項2に係る発明と甲1発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。

<一致点>
「複数の磁気コア要素を備えた磁気コアモジュールであって,
各々の前記磁気コア要素は,球形凹部を有する第1の端と,球形接続突起部を有する第2の端とを備え,それによって,少なくとも2つの磁気コア要素の曲げ接続部は可変に調節可能であり,
前記複数の磁気コア要素からの少なくとも2つの磁気コア要素は所定の手段によって互いに接続される,
磁気コアモジュール。」

<相違点3>
一致点である「磁気コア要素」について,請求項2に係る発明では「ロッド形状」であるのに対し,甲1発明では「円柱形状」である点。

<相違点4>
一致点である「所定の手段」について,請求項2に係る発明では,「引張ばねシステムによって互いに接続される」のに対し,甲1発明では,「管部材内に縦列に配置されて個々の磁性部材が磁力により結合され」るものである点。

事案に鑑み,まず相違点4について検討する。
請求項2に係る発明の「引張ばねシステム」に関し,明細書に「図8は,引張ばねシステムによる少なくとも2つの磁気コア要素100の接続部を示す。この場合,各磁気コア要素100は保持部材130,131を含み,これは好ましくはプラスチック製であり,ゴムリング132,133を用いることによって球形磁気コア端110,120を互いに接続する。」(【0034】)と記載され,図8に図示されている。
一方,甲第5号証には「フェライトからなる複数の平板状に形成された単体コアを,各単体コアの片面に配置される弾性体によって連結すること。」が記載されているものの,甲1発明の「磁性部材」が「円柱形状」であるのに対し,甲第5号証の「単体コア」は「平板状」であるため,甲第5号証に記載された技術事項を甲1発明に適用する動機付けが見当たらず,仮に適用したとしても,「引張ばねシステムによって互いに接続される」に相当する構成を導き出すことはできない。
したがって,相違点3について検討するまでもなく,請求項2に係る発明は,甲1発明と甲第5号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。
なお,異議申立人が異議申立の理由において甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第6号証ないし甲第9号証に記載した技術事項が,前記相違点4に係る構成を充足しないことは,明らかである。

3.請求項3ないし14に係る各発明について
請求項3ないし14に係る各発明は,上記請求項1または請求項2を直接又は間接的に引用する発明であるから,相違点2に係る請求項1に係る発明の構成,又は,相違点4に係る請求項2に係る発明の構成を有している。
よって,請求項3ないし14に係る各発明は,請求項1に係る発明についての理由,又は,請求項2に係る発明についての理由と同様の理由により,甲1発明と甲第2号証ないし甲第9号証に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。

第7 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし14に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-29 
出願番号 特願2014-224379(P2014-224379)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米倉 秀明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 吉田 隆之
中野 浩昌
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6005120号(P6005120)
権利者 スミダ・コンポーネンツ・アンド・モジュールズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
発明の名称 ロッド形状の磁気コア要素および誘導性部品  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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