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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1330136 |
異議申立番号 | 異議2016-701011 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-10-21 |
確定日 | 2017-07-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5933441号発明「熱伝導性シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5933441号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5933441号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成23年8月19日(優先権主張 平成22年8月31日)を国際出願日とする出願であって、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1?6に係る特許について、特許異議申立人柏木里実(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年2月28日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年4月26日に意見書が提出されたものである。 2.本件発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 樹脂組成物と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物が、メッシュシートの両面を被覆して熱伝導層を形成する熱伝導性シートにおいて、 メッシュシートが経糸と緯糸の互いに交差する2方向の線材のみで網目を形成し、メッシュシートの厚みが該経糸と該緯糸の線径の合計の50%?90%の長さであって、前記線材の交点に、経糸と緯糸が交差する隙間を減じて熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備えており、 該気泡防止部が前記交点で経糸と緯糸が扁平に潰れて前記隙間を無くす潰れ部であることを特徴とする熱伝導性シート。 【請求項2】 前記網目の幅が、経糸または緯糸の線径の5倍?40倍に形成される請求項1記載の熱伝導性シート。 【請求項3】 樹脂組成物と熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性組成物が、メッシュシートの両面を被覆して熱伝導層を形成する熱伝導性シートにおいて、 メッシュシートが互いに交差する線材で網目を形成し、 前記線材が交わる交点に、熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備えており、 該気泡防止部が、前記交点で前記線材が扁平に潰れて前記交点での前記線材間の隙間を無くす潰れ部であることを特徴とする熱伝導性シート。 【請求項4】 気泡防止部が前記交点で前記線材を熱融着または溶接した融着部である請求項1?請求項3何れか1項記載の熱伝導性シート。 【請求項5】 気泡防止部が前記交点で前記線材を圧着した圧着部である請求項1?請求項3何れか1項記載の熱伝導性シート。 【請求項6】 熱伝導層を粘着層と非粘着層との積層物で形成し、 メッシュシートを粘着層内、非粘着層内、または粘着層と非粘着層との界面の何れかに埋設した請求項1?請求項3何れか1項記載の熱伝導性シート。」 3.取消理由の概要 当審において、本件発明1?6に係る特許に対して、通知した上記取消理由の要旨は、次のとおりである。 なお、当該取消理由の通知により、本件特許異議申立ての全ての理由が通知された。 1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 甲第1号証:特開2005-187686号公報 甲第2号証:特開平11-61596号公報 甲第3号証:特開平10-25657号公報 甲第4号証:再公表特許第2004/027136号 甲第5号証:繊維学会編、「第2版繊維便覧」、丸善、平成6年3月25日、359?360頁 甲第6号証:特開平10-183110号公報 (1)[理由1](29条) ア.本件発明1?3について 本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証?甲第5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ.本件発明4について 本件発明4は、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証?甲第5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ.本件発明5について 本件発明5は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項、甲第3号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証?甲第5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 エ.本件発明6について 本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された事項及び周知技術(甲第2号証?甲第5号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)[理由2](36条) ア.本件発明1の構成要件のうち「メッシュシートの厚みが該経糸と該緯糸の線径の合計の50%?90%の長さ」及び「該気泡防止部が前記交点で経糸と緯糸が扁平に潰れて前記隙間を無くす潰れ部である」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることが明確かつ十分に記載したものではない。 したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する、本件発明2、4?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることが明確かつ十分に記載したものではない。 イ.本件発明3の構成要件のうち「該気泡防止部が、前記交点で前記線材が扁平に潰れて前記交点での前記線材間の隙間を無くす潰れ部である」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることが明確かつ十分に記載したものではない。 したがって、本件発明3及び本件発明3を引用する、本件発明4?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることが明確かつ十分に記載したものではない。 4.甲各号証の記載 (1)甲第1号証(以下、各甲号証を「甲1」等という。また、各号証に記載された発明及び事項を、「甲1発明」、「甲2記載事項」等という。)(特開2005-187686号公報) 甲1には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 未硬化の状態で自立した形状に賦形され、25℃におけるウイリアムス可塑度が、100?500の範囲にあるシリコーン接着性成分を含有する硬化可能なシリコーン接着剤であって、1層以上のメッシュ状シート部材を具備していることを特徴とするシリコーン接着剤。」 「【0001】 本発明は、未硬化の状態で自立した形状に賦形されたシリコーン接着剤に関する。」 「【0006】 しかし、上記のような導電機能や熱伝導機能を有する機能部材は、構造物に装着するにあたり、予め機能性部材に金属箔等や導電性編組体などの導電性部材や熱伝導性部材を裏打ちして接着一体化させるために、煩雑な別途成形工程を必要とする等の経済的に不利な問題がある。」 「【0066】 (実施例3) 熱伝導性充填剤として、鱗片状の平均大きさ15μmの窒化ホウ素を用い、これに表面処理剤としてケイ素原子結合アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンを熱伝導性充填剤100質量部に対して1質量部添加、混合して表面処理熱伝導性充填剤を得た。 参考例1で得た縮合硬化型シリコーン接着性成分に、上記で得た表面処理熱伝導性充填剤を添加後の組成物全量の50質量%となるように添加して、ニーダーで混練して熱伝導性充填剤が均一に分散した熱伝導機能を有するシリコーン接着性成分を得た。このシリコーン接着剤の混練直後のウイリアムス可塑度は254であった。 絶縁性メッシュ状補強性シート部材として、プライマーで表面処理した重さ110g/m^(2)、厚み0.13mm、密度19本/25mm(約20メッシュ)の平織りガラスクロスを用いた。 低湿度環境下(23℃、10%RH)でカレンダーロールを用いて、熱伝導機能を有するシリコーン接着性成分を絶縁性メッシュ状補強性シート部材の両面に0.5mmの厚みのシート形状に賦形し、図3に示すように、平織りガラスクロス20の両面に熱伝導性充填剤含有シリコーン接着性成分82を積層したシート状シリコーン接着剤80を得た。 そして、その両面にOPPフィルム(40μm)を貼り付け、密封シール可能な包装形態により、低湿度状態を保持した状態で保存した。 この熱伝導性シート状シリコーン接着剤を装着部に押圧すると、押圧力により装着部の間隙や凹凸に追従してシリコーン接着剤が流動して所定の装着部に間隙無く密着させることができた。 また、装着後には、装着部と接着硬化して強固な接着性、耐久性が得られた。 この熱伝導性シート状シリコーン接着剤80は複合されたガラスクロスによって、熱伝導機能を有するシリコーン接着剤が補強され、高い機械的強度を示すものであった。また、発熱・冷却による部材間の伸縮に良好な追従性を示した。 この熱伝導性シート状シリコーン接着剤80は6.7W/(m・K)の熱伝導率を示し、パワートランジスターやサイリスタの実装に段差があるような複数の発熱素子にも追従して、ヒートシンクとの相互接着を可能とするものなどに有効な構成であった。」 「【0078】 20 平織りガラスクロス ・・・ 80 シート状シリコーン接着剤 82 熱伝導性充填剤含有シリコーン接着性成分」 「 」 甲1の上記記載事項(特に【0066】の実施例3)によれば、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。 「絶縁性メッシュ状補強性シート部材として、重さ110g/m^(2)、厚み0.13mm、密度19本/25mm(約20メッシュ)の平織りガラスクロスを用い、 熱伝導機能を有するシリコーン接着性成分を絶縁性メッシュ状補強性シート部材の両面に0.5mmの厚みのシート形状に賦形し、平織りガラスクロスの両面に熱伝導性充填剤含有シリコーン接着性成分を積層した熱伝導性シート状シリコーン接着剤。」 2.甲第2号証(特開平11-61596号公報) 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【0011】 糸を扁平化すること。つまり、糸自体の厚みが薄くなることで、表面凹凸の程度が小さくなることが必要となる。これらの条件を達成することにより、表層の樹脂層の分布ばらつきが小さくなり、硬化収縮による積層板の表面凹凸をなくすことが可能となり、本発明に至った。 (ii)ガラスクロスの組成;プリント配線板等に使用される積層板のガラスクロスには、通常Eガラス(無アルカリガラス)と呼ばれるガラスが使用されるが、Dガラス、Sガラス、高誘電率ガラス等を使用しても、ガラス種によって本発明の効果が損なわれることはない。」 「【0013】2) また、織成されたガラスクロスを高温脱糊処理を施す前の状態(生機という)で連続的に加圧する方法、溶媒を浸漬した後に加圧する方法、溶媒中で加圧もしくは高周波振動処理して加圧する方法等により、扁平化し、その後、常法である高温脱糊処理し、シランカップリング剤等による表面処理をし、積層板用として使用することにより、または、高温脱糊処理し、シランカップリング剤等による表面処理をした後、高圧のエアジェットや、ウォータージェットを均一に噴射させて開繊する方法やそれと同時に扁平化する方法等、従来公知の各種方法を採用することにより、扁平化のガラスクロスを得ることが可能となる。」 「【0020】(実施例2)ガラスクロスとして、タテ糸及びヨコ糸にECG75 1/0 0.3Zを使用し、エアジェットルームでタテ糸40本/25mm、ヨコ糸36本/25mmの織物密度で重量210g/m2 、厚さ0.17mmのガラスクロスを製織し、扁平化加工として、水中で高周波振動処理を施し、ニップロールで絞液する方法を採用した。後、400℃で24時間高温脱糊した。続いて、表面処理としてシランカップリング剤であるSZ6032(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を用いて処理液とし、ガラスクロスを浸漬し、絞液した後、120度1分乾燥した。さらに、高圧ウォータージェットにより開繊し、実施例2のガラスクロスを得た。」 「【0026】 【表1】 」 「 」 (3)甲第3号証(特開平10-25657号公報) 甲3には、以下の事項が記載されている。 「【0007】すなわち、本発明は; 経糸、緯糸を織成してなるガラスクロス織布を扁平化する方法であって、該織布が生機であり、該織布に溶媒を付与する工程と、該織布を加熱する工程と、さらに該織布を連続的に圧縮する工程からなる織布の扁平化方法である。・・・」 「【0018】(ヘ) 圧縮工程:単糸を含めた糸の均一な分布、再配列をするための連続的な均一圧縮は、ロール圧縮により達成される。ロール圧縮は対となる少なくとも2本のロールの組み合わせからなり、必要に応じて複数のロール対により実施される。圧縮の圧力は線圧で5?100Kg/cm、好ましくは10?70Kg/cmが選択される。線圧が5Kg/cm未満では圧縮の効果が得られず、100Kg/cmを越すと、圧力のためにガラス糸の単糸切れが顕著となる。・・・」 (4)甲第4号証(再公表特許第2004/027136号) 甲4には、以下の事項が記載されている。 「【請求項2】 ガラスクロスにかかる張力がガラスクロスの幅1mあたり49N/m以下で扁平化加工を行うことにより製造され得る請求項1に記載のガラスクロス。」 「本発明のガラスクロスを得るためには、通常使用される撚り数、(0.7?1.0回/インチ)を有するガラス糸でも可能ではあるが、ガラス糸の撚り数を0.5回/インチ以下、好ましくは0.3?0回/インチに低撚糸化することが好ましい。低撚糸化された糸を使用することにより、より糸幅は拡がり易く、ガラスクロスの厚みが低減可能となる。また、糸が扁平化し、糸自体の断面形状が楕円の形状から平板の形状に近づくため、ガラスクロス中のガラス繊維の分布をより均一にできる。 また、例えば、水流による圧力による開繊加工、液体を媒体とした高周波の振動による開繊加工、連続超音波加工開繊、ロールによる加圧等を施すことにより、ガラスクロスを構成する糸の扁平化加工を行うことが好ましい。扁平化加工を行うことにより、より糸幅は拡がり、タテ糸及びヨコ糸ともに隣り合う糸同士が実質的に隙間なく配列された構造を形成しやすくなる。また、糸が扁平化し、糸自体の断面形状が楕円の形状から平板の形状に近づくため、上述の低撚糸化と同様に、ガラスクロス中のガラス繊維の分布をより均一にできる。 扁平化加工として、水流による圧力による開繊加工を行う場合には、スプレイ加工又は柱状流加工が好ましい。」(5頁11?25行) (5)甲第5号証(「第2版繊維便覧」) 甲5には、以下の事項が記載されている。 「目ずれを防止するため熱処理や樹脂加工が行われる。」(359頁左欄末行?360頁左欄1行) (6)甲第6号証(特開平10-183110号公報) 甲6には、以下の事項が記載されている。 「【0062】 【実施例5】 図3A?Bは本発明に係る第3番目の熱伝導性シリコーンゲル成形シートの一実施例を示す断面図である。図3A?Bに示すように、本熱伝導性シリコーンゲル成形シートは熱伝導性充填剤配合のシリコーンゲル層1と熱伝導性充填剤配合のシリコーンゲルがゴム状に硬化した薄膜補強層2とシート状の補強材3とで構成されている。なお図3Aは熱伝導性充填剤配合のシリコーンゲル層1の片面表層部にシート状の補強材3を形成し、その表層に熱伝導性充填剤配合のシリコーンゲルがゴム状に硬化した薄膜補強層2を形成した例、図3Bは熱伝導性充填剤配合のシリコーンゲル層1の片面表層部にシート状の補強材3を形成し、その両面表層部に熱伝導性充填剤配合のシリコーンゲルがゴム状に硬化した薄膜補強層2を形成した例である。」 5.判断 (1)理由2(36条) 事案に鑑み、まず理由2(36条)を判断する。 ア.本件発明1の構成要件のうち「該気泡防止部が前記交点で経糸と緯糸が扁平に潰れて前記隙間を無くす潰れ部である」については、本件特許明細書の段落【0034】に「より具体的な気泡防止部18の一実施態様としては、図6で示すように、線材14a,14bの交点で線材14a,14bが潰れた潰れ部18として構成できる。」や「潰れ部18はまた、図7で示すように、交点が圧着されたことによる圧着部18bとしても形成される。」と記載されており、また、図6及び図7に潰れ部18が記載されている。更に、本件特許明細書の段落【0035】に「メッシュシート14の交点に融着部または圧着部として潰れ18が形成されているため、図6や図7で示すように、盛り上がっていた交点部分が扁平化している。換言すれば、経糸14aと緯糸14b(以下、経糸14a及び緯糸14bをまとめて「経緯」ともいう。)との接触面積が増大し、経緯の交点部分での隙間がほとんどなくなるため、メッシュシート14の交点での気泡の発生を起こし難くしている。すなわち、熱伝導性組成物をそのメッシュシート14の両面に被覆して熱伝導性シート11を形成する際に、熱伝導性組成物がメッシュシート14の経緯に満遍なく塗布され易く、空気の混入を抑制することができる。・・・」と記載されている。それらの本件特許明細書の記載に基づけば、「該気泡防止部が前記交点で経糸と緯糸が扁平に潰れて前記隙間を無くす潰れ部である」について、当業者は、実施をすることができる。 さらに、経糸と緯糸が潰れているならば、両糸の交点での糸の線径の合計は、単純に両糸の径を合計したものより小さくなることは当然であり、その具体的な厚さとして、メッシュシートの厚みが経糸と緯糸の線径の合計の50%?90%の長さとすることは、50?90%との数値範囲自体が、当該線径の合計値の半分以上のうちの8割を占める広範なものであるから、当該数値範囲とすることに格別の困難性が存するとは認められない。したがって、「メッシュシートの厚みが該経糸と該緯糸の線径の合計の50%?90%の長さ」についても、当業者が、実施をすることができないとはいえない。 よって、本件発明1及び本件発明1を引用する、本件発明2、4?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることが明確かつ十分に記載されたものである。 イ.本件発明3の構成要件のうち「該気泡防止部が、前記交点で前記線材が扁平に潰れて前記交点での前記線材間の隙間を無くす潰れ部である」については、上記「5.(1)ア.」で「本件発明1の構成要件のうち「該気泡防止部が前記交点で経糸と緯糸が扁平に潰れて前記隙間を無くす潰れ部である」について」で述べた、本件特許明細書の段落【0034】の記載、図6及び図7、段落【0035】の記載に基づけば、当業者は、実施をすることができる。 よって、本件発明3及び本件発明3を引用する、本件発明4?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることが明確かつ十分に記載されたものである。 ウ.小括 以上のとおり、理由2によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。 (2)理由1(29条) ア.本件発明1 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「熱伝導性シート状シリコーン接着剤」は、本件発明1の「熱伝導性シート」に相当する。 甲1発明の「絶縁性メッシュ状補強性シート部材」は、本件発明の「メッシュシート」に相当する。 両者は、少なくとも、以下の相違点1及び相違点2で相違する。 〈相違点1〉本件発明1では、メッシュシートの厚みが該経糸と該緯糸の線径の合計の50%?90%の長さであるのに対し、甲1発明では、絶縁性メッシュ状補強性シート部材がそのようになっているか不明である点。 〈相違点2〉本件発明1では、線材の交点に、経糸と緯糸が交差する隙間を減じて熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備えており、該気泡防止部が前記交点で経糸と緯糸が扁平に潰れて前記隙間を無くす潰れ部であるのに対し、甲1発明では、そのようになっていない点。 まず、相違点2について検討する。 本件特許明細書の段落【0006】?【0008】の記載によれば、本件発明1は、網目状補強材を備えた熱伝導性シートにおいて、当該網目状補強材を構成する織物の線材の交点が盛り上がった形態となることにより、製造時に気泡を巻き込んで、熱伝送性能を低下させる空気層が発生する、との問題点を解決することを課題とするものである。そして、当該課題を解決するために、上記相違点2に係る構成を備えるものである。 一方、甲1発明は、甲1の【要約】の課題や段落【0006】?【0008】の記載から、熱伝導性シート状シリコーン接着剤ではあるものの、所定の装着部に間隙なく密着させることが可能となる接着剤を提供することを課題とし、圧接や押圧力でシリコーン接着性成分がメッシュを通って流動するため、メッシュ状シート部材とシリコーン接着剤とが一体化して所定の装着部に間隙なく密着した装着が可能となるものである。そして、甲1には、絶縁性メッシュ状補強性シート部材を構成するガラスクロスにおいて、当該ガラスクロスが経糸及び緯糸から構成されること、そして、製造時に経糸及び緯糸の交点において、気泡を巻き込むとの記載はないし、示唆もない。したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る気泡防止部を備えることの動機付けは存在しない。また、他の甲号証においても、熱伝導性シートを構成する経糸と緯糸から構成されるメッシュシートにおいて、相違点2に係る構成を備えた気泡紡糸部を備えたものは記載されていないし示唆もない。 以上のとおりであるから、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の特定事項の全てを含み、さらに限定したものである。 上記「5.(2)ア.」に示したように、本件発明1は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1をさらに限定した発明である、本件発明2も、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明3 本件発明3と甲1発明を対比すると、少なくとも、以下の相違点3で相違する。 〈相違点3〉本件発明3では、線材が交わる交点に、熱伝導性組成物とメッシュシートの界面への気泡の混入を抑制する気泡防止部を備えており、該気泡防止部が、前記交点で前記線材が扁平に潰れて前記交点での前記線材間の隙間を無くす潰れ部であるのに対し、甲1発明では、そのようになっていない点。 相違点3は、実質的には、相違点2と同じであるから、上記「5.(2)ア.」の相違点2の判断と同じ理由で、相違点3に係る事項は、当業者が容易に想到することができたものではない。 以上のとおりであるから、本件発明3は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.本件発明4について 本件発明4は、本件発明1あるいは本件発明3の特定事項の全てを含み、さらに限定したものである。 上記「5.(2)ア.とウ.」に示したように、本件発明1あるいは本件発明3は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1あるいは本件発明3をさらに限定した発明である、本件発明4も、甲1発明、甲5記載事項及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ.本件発明5について 本件発明5は、本件発明1あるいは本件発明3の特定事項の全てを含み、さらに限定したものである。 上記「5.(2)ア.とウ.」に示したように、本件発明1あるいは本件発明3は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1あるいは本件発明3をさらに限定した発明である、本件発明5も、甲1発明、甲2記載事項、甲3記載事項及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ.本件発明6について 本件発明6は、本件発明1あるいは本件発明3の特定事項の全てを含み、さらに限定したものである。 上記「5.(2)ア.とウ.」に示したように、本件発明1あるいは本件発明3は、甲1発明及び周知技術(甲2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1あるいは本件発明3をさらに限定した発明である、本件発明6も、甲1発明、甲6記載事項及び周知技術(甲第2?甲5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6.むすび 以上のとおりであるから、本件特許異議申立ての全ての理由を含む、上記取消理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-07-10 |
出願番号 | 特願2012-531794(P2012-531794) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中川 裕文、加賀 直人、中村 勇介、増田 亮子 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
蓮井 雅之 小野田 達志 |
登録日 | 2016-05-13 |
登録番号 | 特許第5933441号(P5933441) |
権利者 | ポリマテック・ジャパン株式会社 |
発明の名称 | 熱伝導性シート |
代理人 | 大竹 正悟 |