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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1330372
審判番号 不服2015-5726  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-26 
確定日 2017-07-14 
事件の表示 特願2013-106529「ペルチェ素子での融雪等利用に係る方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 8日出願公開、特開2014-229668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成25年5月20日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 6月21日 審査請求
平成26年 4月 9日 拒絶理由通知
平成26年 6月25日 意見書
平成27年 1月21日 拒絶査定
平成27年 3月26日 審判請求
平成28年 8月26日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という。)
平成28年11月18日 意見書
平成29年 1月 6日 審尋
平成29年 2月24日 上申書

2 本願出願について
(1)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項で特定される次のとおりのものと認める。ただし,請求項1に記載された「過熱」は「加熱」の誤記と認める。
「2種類のペルチェ素子の一方に温度差をつけてゼーベック効果に起因する起電力を発生させ,もう1種類のペルチェ素子にペルチェ効果に起因する加熱・冷却を行わせることによる省エネ型の融雪装置及び省エネ型の装置。」
(2)引用文献1の記載
ア 引用文献1
当審拒絶理由に引用した,特開2006-074919号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,融雪または着雪防止のための発熱部と,その発熱部の駆動電力を供給する発電部とを備える熱発電システムに関する。」
(イ)「【0007】
そこで,省エネルギ且つ確実に融雪または着雪防止を実現可能な熱発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る熱発電システムは,融雪または着雪防止のための発熱部(10:この欄においては,発明に対する理解を容易にするため,必要に応じて「発明を実施するための最良の形態」欄で用いた符号を付すが,この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。)と,その発熱部の駆動電力を供給する発電部(20)とを備え,発電部として,温度差によって発電する熱電素子を用いたことを特徴とする。熱電素子表面/裏面に温度差を与えることにより起電力が発生する現象を「ゼーベック効果」というが,発電部に用いた熱電素子はこの効果を利用して発電するため,バッテリ等の特段の電力供給源を準備しなくても,温度差が生じさえすれば発電するため,省エネルギ且つ確実に発電部から駆動電力を供給できる。その駆動電力によって発熱部を発熱させれば,融雪または着雪防止を実現できる。
【0009】
この熱発電システムの適用先は種々考えられる。省エネルギ且つ確実に発電部から駆動電力を供給できることから,例えば鉄道車両や自動車などの移動体に搭載すれば,走行中であっても融雪または着雪防止が実現できて好ましい。また,移動体だけでなく家屋等に利用することも可能である。家屋の場合には,家屋の内外の温度差を利用して発電させることが考えられ,特に融雪または着雪防止が必要とされる冬季においては,暖房によって相対的に高温の家屋内と外気にさらされる外壁や窓ガラス等の温度差を利用すれば効率的に発電でき,例えば屋根上部に設置した発熱部にて屋根上の積雪を軽減できる。」
(ウ)「【0018】
[第一実施形態]
図1は,熱発電システムの一実施形態を示す説明図である。本実施形態の熱発電システム1は,発熱部10と,その発熱部10の駆動電力を供給する発電部20とを備えており,これら発電部20及び発熱部10にはいずれも熱電素子が用いられている。具体的には,発電部20には,温度差によって発電する熱電素子を用いられている。つまり,熱電素子の表面/裏面に温度差を与えることにより起電力が発生する現象を「ゼーベック効果」というが,発電部20に用いた熱電素子はこの効果を利用して発電する。 一方,発熱部10には電力供給を受けて発熱する熱電素子が用いられている。これは熱電素子のいわゆる「熱電効果」を利用したものである。材質の異なる2種類の抵抗を直列に接続すると,それぞれの抵抗を通過する電流の大きさは等しいが自由電子が運ぶ運動エネルギの合計に差があるため,抵抗の接続部において熱の発生/吸収が起き,このことにより表面/裏面で温度差が生じる。この現象を利用して発熱させるのである。
【0019】
本実施形態では,図1に示すように,発電部20に配置した熱電素子の表面と発熱部10に配置した熱電素子の裏面が配線によって電気的に接続されており,発電部20に配置した熱電素子と発熱部10に配置した熱電素子との間の配線中には「発光手段」としての発光ダイオード30が設けられている。これにより,発電部20の熱電素子の表面/裏面に温度差が生じると,その発電部20の熱電素子から発熱部10の熱電素子へ電力供給がなされ,発熱部10の熱電素子にて発熱すると共に,電力供給がなされている状態では発光ダイオード30が発光するよう構成されている。
【0020】
そして,この発電部20は当然であるが熱電素子の表面/裏面にて温度差が生じやすい部位に配置する。鉄道車両や自動車などの車輪の回転により推進する移動体に搭載する場合であれば,例えばモータやエンジンなどの推進力発生装置,変速装置などの推進力伝達装置,車輪の回転部分の軸受等の回転機構に配置することが考えられる。これらの部分は,移動体の走行に伴って自然に熱を発生する部位である。したがって,外気との相対的な温度差を大きく取り易くなり,発熱度合いも大きくできる。このため,バッテリ等の特段の電力供給源を準備しなくても,温度差が生じさえすれば発電することができる。したがって,省エネルギ且つ確実に発電部20から駆動電力を供給できる。それだけでなく,移動体が留置あるいは停止状態にあるときには,上述した外気との相対的な温度差は小さくなり,温度差がなくなれば発熱しなくなる。つまり,特段の制御装置を付加しないでも自動的に電力供給が停止されるため,発熱部10における発熱が停止する。そのため,移動体停止時における発熱による悪影響を排除できて安全面でもより好ましい。一方,発熱部10は,融雪または着雪を防止したい部位に配置する。」
イ 引用発明1
当該技術分野における技術常識に照らせば,引用文献1に記載された「熱電効果」(前記ア(ウ))は「ペルチェ効果」のことであると認められる。そして,前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「発電部には,温度差によって発電する熱電素子を用いゼーベック効果を利用して発電し,一方,発熱部にはペルチェ効果を利用して発熱する熱電素子を用いた省エネルギ且つ融雪を実現可能な熱発電システム。」
(3)引用文献2の記載事項
ア 引用文献2
当審拒絶理由に引用した,特開昭63-163746号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「問題点を解決するための手段
本発明は前記問題点を解決するために,外界との熱交換機能を有する吸熱部と排熱部とを有する熱電素子群のゼーベック効果を利用して発電する回路と,他の熱電素子群のペルチェ効果を利用して冷暖房する回路とを,電流電圧制御部を介して連結し,前者発電回路への熱入力により後者冷暖房回路で冷暖房をするように構成したものである。
作用
上記構成における作用について以下に述べる。
熱電素子としては熱電対に利用されている異種金属二種を接合したものと,P型N型の半導体を接合したものとが知られているが,発電及び冷暖熱の発生には効率面で半導体系の方が優れている。発電回路に組み込んだ半導体系熱電素子の吸熱部であるP-N接合端に熱入力を与え,排熱部である他端を冷却すると両端の温度差に応じて,P型側をプラス,N型側をマイナスとする直流の熱起電力を発生する。このとき接合端は直接的にまたは導電体を介して間接的に接合してもよく,また温度差は大きいほど起電力も大きくなるが,高温側は材料自体の耐熱性で決定される。そしてここで発生した電力をいったん電流電圧制御部で適切な電流と電圧に変換したのちに,今度は冷暖房回路に供給する。このときN型側をプラス,P型側をマイナスに設定すると,吸熱部であるP-N接合端は冷却され排熱部である多端は発熱状態となる。また電流を逆に供給すると吸発熱部は逆転するので,冷房,冷凍,暖房等の目的に応じて電流の方向を任意に設定あるいは切り替えしてやればよい。このようにして熱駆動型の冷暖房装置すなわちヒートポンプシステムが構成されることになる。」(2頁左上欄2行-同右上欄14行)
(イ)「また具体的な用途については,総合効率が既存の熱駆動型冷房機(例えば水-リチウムブロマイド吸収式)に比較してかなり小さいので,同じような規模の大型装置への適用でなく,小型でかつ今まで利用されずに捨てられていた比較的高温の廃熱が大量にある場所への適用が好ましい。たとえば,自動車等のエンジン廃熱を利用した冷房システムである。一般の小型自動車でさえ通常走行時において数万キロカロリー/時の廃熱が外部に廃棄されている。この熱を利用して車内の冷房を上記実施例でのシステムで行い,数千キロカロリー/時の出力が得られた。走行状態により,得られる最高出力は異なるが,概ね十分な能力であった。」(3頁左上欄4-17行)
イ 引用発明2
前記アより,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「熱電素子群のゼーベック効果を利用して発電する回路への熱入力により他の熱電素子群のペルチェ効果を利用して冷暖房する回路からなる自動車等のエンジン廃熱を利用した冷房システム。」
(4)対比
引用発明1の「熱電素子」はペルチェ効果を利用して発熱しうるものであるから「ペルチェ素子」ということができ,引用発明1における「熱電素子」は,「発電部」の「熱電素子」と,「発熱部」の「熱電素子」の2種類があると認められる。
すると,引用発明1の「発電部には,温度差によって発電する熱電素子を用いゼーベック効果を利用して発電し」は,本願発明の「2種類のペルチェ素子の一方に温度差をつけてゼーベック効果に起因する起電力を発生させ」に相当すると認められる。
また,引用発明1の「発熱部にはペルチェ効果を利用して発熱する熱電素子」は,下記相違点を除いて,本願発明の「もう1種類のペルチェ素子にペルチェ効果に起因する加熱を行わせる」を満たすと認められる。
引用発明1の「省エネルギ且つ融雪を実現可能な熱発電システム」は,本願発明の「省エネ型の融雪装置」に相当すると認められる。
よって,本願発明と引用発明1とを対比すると,下記アの点で一致し,下記イの点で相違すると認められる。
ア 一致点
「2種類のペルチェ素子の一方に温度差をつけてゼーベック効果に起因する起電力を発生させ,もう1種類のペルチェ素子にペルチェ効果に起因する加熱を行わせることによる省エネ型の融雪装置。」
イ 相違点
本願発明においては「もう1種類のペルチェ素子」に「冷却」を行わせる「省エネ型の装置」を構成するのに対し,引用発明1においては「冷却」を行わせて「省エネ型の装置」を構成することは開示されていない点。
(5)検討
引用発明1においては自動車への搭載が例として示されており(前記(2)ア(イ)段落【0009】),自動車において冷房は一般的に行われていることであるから,引用発明1と自動車の冷房システムと併存させることは当業者が容易に想到することである。
そして,引用発明2には自動車の冷房システムが開示されているから,引用発明1に引用発明2を組み合わせ,さらに,この組み合わせにあたり,両者とも熱電素子のゼーベック効果とペルチェ効果を利用するものであるから,引用発明1の熱電素子を用いて引用発明2の冷房システムを実現することは,当業者が容易になし得ることである。すると,そこに「省エネ型の融雪装置及び省エネ型の装置」が構成されるから,引用発明1に引用発明2を組み合わせることにより,前記相違点に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることである。
なお,本願発明の「省エネ」とは「省エネルギ」の略であり,「エネルギを省く,節約する」という意味であり,外部からのエネルギーを省くものである(本願明細書段落0006参照。)。そこに「自然と調和した」といった他意を含めることはできないし,ましてや「地下15mくらいの温度一定の空間を利用する」という特定の意味と解することはできない。
(6)本願発明の効果について
本願発明の省エネ型の装置が提供できるという効果は,引用発明1及び2の構成から当業者が予測できるもので格別なものではない。
(7)審判請求人の意見について
審判請求人は,平成28年11月18日付け意見書において,本願発明は,ゼーベック効果及びペルチェ効果による具体的な起電力を実験で求めることにより,省エネ型装置の設計が可能なシステムを提供しているものである旨主張している。
たしかに,引用文献1及び2には具体的な起電力についての記載はないが,引用文献1には「発電部20は当然であるが熱電素子の表面/裏面にて温度差が生じやすい部位に配置する。・・・自動車などの車輪の回転により推進する移動体に搭載する場合であれば,・・・エンジンなどの推進力発生装置・・・に配置することが考えられる。」(前記(2)ア(ウ)【0020】)と記載されており,また,引用文献2にも「自動車等のエンジン廃熱を利用した」(前記(3)ア(イ))と記載されているから,引用発明1及び2ともに,自動車のエンジンにより生じた温度差を発電に利用するものであることは,当業者が読み取ることができる。してみると,引用発明1及び2においては,ともに,自動車のエンジンにより生じた温度差に対応した同程度の起電力が生じることが,当業者に予測できるから,引用発明1と引用発明2を組み合わせるにあたり,前者における起電力を後者における起電力に利用できることは,具体的な起電力を実験で確かめるまでもなく,引用文献1及び2の記載から,当業者であれば容易に導出できることであると認められる。
なお,審判請求人が提示する,金原寿郎編「基礎物理学下巻」,裳華房,1976,p.88,91,93を検討しても,前記判断を左右するに足りる記載は認められない。
(8)まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 結言
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-03 
結審通知日 2017-04-25 
審決日 2017-05-09 
出願番号 特願2013-106529(P2013-106529)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 深沢 正志
河口 雅英
発明の名称 ペルチェ素子での融雪等利用に係る方法  

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