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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M |
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管理番号 | 1330383 |
審判番号 | 不服2016-6758 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-09 |
確定日 | 2017-07-13 |
事件の表示 | 特願2011-280186「リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日出願公開、特開2013-131395〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年12月21日の特許出願であって、平成26年12月 2日付けで手続補正書が提出され、平成27年 7月 3日付けで拒絶理由が通知され、同年 9月 7日付けで意見書と手続補正書が提出され、平成28年 1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年 5月 9日付けで拒絶査定不服の審判請求がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は、平成27年 9月 7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 「【請求項1】 正極および負極と共に電解液を備え、 前記負極は、SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有し、 前記電解液は、下記の式(2)および式(3)のそれぞれで表される不飽和環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含有し、 前記電解液中における前記不飽和環状炭酸エステルの含有量は、0.01重量%?10重量%である、 リチウムイオン二次電池。 【化2】 (R5?R10のそれぞれは、水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基である。R5およびR6は互いに結合されていてもよいし、R7?R10のうちの任意の2つ以上は互いに結合されていてもよい。)」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」という理由を含んでいる。 記 引用文献1:特開2009-218057号公報 第4 引用文献1の記載事項 引用文献1には、次の記載がある(当審注:「…」は記載の省略を表す。)。 (1)「(実施例2-4?2-7) 溶媒として、化12に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルである炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)(実施例2-4)、または化13に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC:実施例2-5)あるいはトランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(t-DFEC:実施例2-6)、または化16に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC:実施例2-7)を加えたことを除き、実施例1-4と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるDFDMC等の添加量を5重量%とした。 … これらの実施例2-1?2-7および比較例2-1?2-3の二次電池についてサイクル特性および保存特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。 【表2】 … …FEC等を用いた実施例2-4?2-7では、実施例1-4よりも常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率が高くなった。… なお、ここでは、溶媒として化12に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステル、化13に示したハロゲンを有する環状炭酸エステル、および化16に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果だけを示しており、化17あるいは化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果を示していない。しかしながら、化17に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステル等は、化16に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルと同様に常温サイクル放電容量維持率および高温保存放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。 これらのことから、負極34が負極活物質としてケイ素を含む本発明の二次電池では、溶媒の組成を変更しても、サイクル特性および保存特性が向上することが確認された。この場合には、溶媒として、化12に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステル、化13に示したハロゲンを有する環状炭酸エステル、あるいは化16?化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いれば、特性がより向上することも確認された。」(【0212】?【0220】) (2)「(実施例1-2?1-7) 化11(1)の化合物の含有量を…3重量%(実施例1-4)…としたことを除き、実施例1-1と同様の手順を経た。」(【0196】) (3)「(実施例1-1) 以下の手順により、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料であるケイ素を用いて、…ラミネートフィルム型の二次電池を作製した。この際、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。 まず、正極33を作製した。… 次に、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体34A(厚さ=15μm)を準備したのち、電子ビーム蒸着法によって負極集電体34Aの両面に負極活物質としてケイ素を堆積させて負極活物質層34Bを形成することにより、負極34を作製した。… 次に、電解液を調製した。最初に、炭酸エチレン(EC)と、炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、化3に示したイソシアネート化合物である化11(1)の化合物を加えて、溶媒を準備した。この際、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で30:70とし、溶媒中における化11(1)の化合物の含有量を0.01重量%とした。この化11(1)の化合物の含有量(重量%)は、溶媒の総和(EC+DEC+化11(1)の化合物)を100重量%としたときの割合である。こののち、溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6) )を溶解させた。この際、六フッ化リン酸リチウムの含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。 最後に、正極33および負極34と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。…」(【0191】?【0195】) (4)「本発明の一実施の形態に係る電解液は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。 溶媒は、化3で表されるイソシアネート化合物を含有している。電解液の化学的安定性が向上するからである。化3に示したイソシアネート化合物は、イソシアネート基と電子吸引性基(カルボニル基)とが結合された部位をz個有し、そのz個の部位がR1に結合された構造を有している。 【化3】 (R1はz価の有機基であり、zは2以上の整数である。ただし、カルボニル基中の炭素原子はR1中の炭素原子に結合している。) … 化3に示したイソシアネート化合物は、中でも、化4で表される化合物であるが好ましい。…化4に示した化合物は、化3中のR1が2価の基であると共にzがz=2である化合物である。 【化4】 (R2は2価の有機基である。ただし、カルボニル基中の炭素原子はR2中の炭素原子に結合している。) … 化4に示した化合物の具体例としては、化11の(1),(2)で表される化合物が挙げられる。容易に入手可能であると共に、電解液において高い化学的安定性および優れた溶解性が得られるからである。 【化11】 」(【0014】?【0035】) (5)「また、溶媒は、化16?化18で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。 【化16】 (R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。) … 【化18】 (R27はアルキレン基である。) 化16に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。… 化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン…などが挙げられる。…」(【0050】?【0056】) (6)「【請求項1】 化1で表されるイソシアネート化合物を含有する溶媒を含むことを特徴とする電解液。 【化1】 (R1はz価の有機基であり、zは2以上の整数である。ただし、カルボニル基(-CO-)中の炭素原子はR1中の炭素原子に結合している。) … 【請求項8】 前記溶媒は、化5?化7で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有することを特徴とする請求項1記載の電解液。 【化5】 (R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。) … 【化7】 (R27はアルキレン基である。) 【請求項9】 前記化5に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレンであり、…前記化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレンであることを特徴とする請求項8記載の電解液。 …」(【特許請求の範囲】) 第5 当審の判断 5-1 引用文献1に記載された発明 ア. 上記第4の(1)によれば、引用文献1には、化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた二次電池は、化16に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた二次電池(実施例2-7)と同様に実施例1-4の二次電池よりも常温サイクル放電容量維持率(以下、「サイクル特性」という。)および高温保存放電容量維持率(以下、「保存特性」という。)を増加させる結果が得られることは明らかであることから、負極34が負極活物質としてケイ素を含む二次電池では、溶媒として、化16?化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いれば、サイクル特性および保存特性がより向上することが確認されたとの記載があると認められる。 ここで、上記第4の(1)によれば、溶媒として化16に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた二次電池とは、負極34が負極活物質としてケイ素を含む、実施例2-7の二次電池のことであるのに対し、溶媒として化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた二次電池とは、負極34が負極活物質としてケイ素を含む、実施例2-7のような二次電池において、不飽和結合を有する環状炭酸エステルが化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルである二次電池のことであり、換言すると、溶媒中における添加量を5重量%として、化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを加えたことを除き、実施例1-4と同様の手順を経た、負極34が負極活物質としてケイ素を含む二次電池であると認められる。 イ. そして、上記第4の(2)?(3)によれば、上記ア.の、実施例1-4と同様の手順を経た、負極34が負極活物質としてケイ素を含む二次電池とは、正極33および負極34と共に電解液を用いて組み立てた、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池であって、負極34は、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体の両面に、負極活物質としてケイ素を電子ビーム蒸着法によって堆積させて負極活物質層を形成した負極であり、電解液は、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とが重量比30:70で混合され、化3に示したイソシアネート化合物である化11(1)の化合物が、溶媒の総和(EC+DEC+化11(1)の化合物)を100重量%としたときに3重量%で含有された溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6) )を1mol/kg溶解させた電解液であるという、リチウムイオン二次電池である。 ウ. ここで、上記イ.の、化3に示したイソシアネート化合物である化11(1)の化合物とは、上記第4の(4)によれば、具体的には で表される化合物(以下、「化11(1)のイソシアネート化合物」という。)である。 エ. 上記イ.?ウ.からすると、上記ア.の、実施例1-4と同様の手順を経た、負極34が負極活物質としてケイ素を含む二次電池は、具体的には、「正極および負極と共に電解液を用いて組み立てた、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池であって、前記負極は、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体の両面に、負極活物質としてケイ素を電子ビーム蒸着法によって堆積させて負極活物質層を形成した前記負極であり、前記電解液は、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とが重量比30:70で混合され、化11(1)のイソシアネート化合物が、溶媒の総和(EC+DEC+化11(1)のイソシアネート化合物)を100重量%としたときに3重量%で含有された溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6) )を1mol/kg溶解させた前記電解液である、リチウムイオン二次電池」であるといえる。 オ. また、上記ア.の、化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルとは、上記第4の(5)?(6)によれば、具体的には、 (R27はメチレン基である。) で表される、炭酸メチレンエチレン(以下、単に、「炭酸メチレンエチレン」という。)であるといえる。 カ. 上記ア.?オ.の検討を踏まえると、上記ア.の、溶媒として化18に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた二次電池に注目すると、引用文献1には、「正極および負極と共に電解液を用いて組み立てた、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池であって、前記負極は、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体の両面に、負極活物質としてケイ素を電子ビーム蒸着法によって堆積させて負極活物質層を形成した前記負極であり、前記電解液は、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とが重量比30:70で混合され、化11(1)のイソシアネート化合物、炭酸メチレンエチレンが、溶媒の総和(EC+DEC+化11(1)のイソシアネート化合物+炭酸メチレンエチレン)を100重量%としたときに、それぞれ、3重量%、5重量%含有された溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF_(6) )を1mol/kg溶解させた前記電解液である、リチウムイオン二次電池」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 5-2 本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比するに、引用発明における「正極および負極と共に電解液を用いて組み立てた」こと、「前記負極は、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体の両面に、負極活物質としてケイ素を電子ビーム蒸着法によって堆積させて負極活物質層を形成した前記負極であ」ること、「ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池」は、技術常識からすると、それぞれ、本願発明における「正極および負極と共に電解液を備え」ること、「前記負極は、SiおよびSnのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を含有」すること、「リチウムイオン二次電池」に相当し、また、引用発明における「炭酸メチレンエチレン」は、上記5-1のオ.に表した構造式からして、本願発明における「下記の式(2)および式(3)のそれぞれで表される不飽和環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方」に相当するし、また、引用発明における「炭酸メチレンエチレンが、溶媒の総和(EC+DEC+化11(1)のイソシアネート化合物+炭酸メチレンエチレン)を100重量%としたときに、」「5重量%含有された」ことは、本願発明における「前記電解液中における前記不飽和環状炭酸エステルの含有量は、0.01重量%?10重量%である」ことに相当する。 (R5?R10のそれぞれは、水素基、ハロゲン基、1価の炭化水素基、1価のハロゲン化炭化水素基、1価の酸素含有炭化水素基または1価のハロゲン化酸素含有炭化水素基である。R5およびR6は互いに結合されていてもよいし、R7?R10のうちの任意の2つ以上は互いに結合されていてもよい。) してみると、両者の間に相違点は見出されないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。 5-3 小括 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 5-4 補足 ア. 請求人の主張 上記第3に示した原査定の拒絶の理由に対し、請求人は、平成28年 5月 9日付けの審判請求書で、「 (ア) 引用文献1の実施例において用いられている不飽和結合を有する環状炭酸エステルの種類は、[0212]、[0215]および[0242]などから明らかなように、炭酸ビニレン系化合物(VC)であり、本願発明のメチレン系不飽和環状炭酸エステルに該当する炭酸メチレンエチレン系化合物(以下、「メチレン系不飽和環状炭酸エステル」と説明する。)でないことに伴い、上記した不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有量は、あくまで炭酸ビニレン系化合物の含有量であり、メチレン系不飽和環状炭酸エステルの含有量でないことから、引用文献1の発明は、負極が金属系材料を含んでいると共に電解液がメチレン系不飽和環状炭酸エステルを含んでいる場合において、その電解液中におけるメチレン系不飽和環状炭酸エステルの含有量が規定されていない点において、本願発明とは明らかに異なっている。 (イ) 引用文献1の実施例では、イソシアネート化合物の有無と電池特性との関係を調べることにより、「電解液がイソシアネート化合物を含んでいない場合よりも、電解液がイソシアネート化合物を含んでいる場合において、電池特性が向上する」という有利な技術的傾向を見出していることに伴い、[0219]に記載されていることは、「電解液がイソシアネート化合物を含んでいない場合よりも電解液がイソシアネート化合物を含んでいる場合において電池特性が向上するという技術的傾向は、その電解液が炭酸ビニレン系化合物(VC)を含んでいる場合においても得られるため、その電解液がメチレン系不飽和環状炭酸エステルを含んでいる場合においても同様に得られる」ことであるのに対して、本願発明において見出されている有利な技術的傾向は、「同じメチレン系環状炭酸エステルを用いたとしても、負極が炭素系材料を含んでいる場合には、メチレン系環状炭酸エステルは電池特性の改善機能を発揮できないが、負極が金属系材料を含んでいる場合には、メチレン系環状炭酸エステルは電池特性の改善機能を発揮できる」という特異的な技術的傾向であることから、本願発明と引用文献1の発明とでは、有利な技術的傾向をもたらすことになる主要な特徴(本願発明では負極活物質の種類と不飽和環状炭酸エステルの種類との関係、引用文献1の発明ではイソシアネート化合物の有無)が全く異なると共に、その主要な特徴に基づいて得られる有利な技術的傾向(本願発明では負極活物質の種類によってはメチレン系環状炭酸エステルが電池特性の改善機能を特異的に発揮できる、引用文献1の発明ではイソシアネート化合物が電池特性を改善できる)も全く異なるにもかかわらず、単に引用文献1の[0219]の記載だけを根拠として「メチレン系不飽和環状炭酸エステルに関しても炭酸ビニレン系化合物(VC)と同程度の含有量とすることで、同様の効果が奏されることは開示されていると認められる」と結論づけることは、技術的にも論理的にも適切でない。 (ウ) 本願発明と引用文献1の発明と対比する上で着目しなければならない技術的観点は、「負極が炭素系材料を含んでいる場合には、電解液が炭酸ビニレン系化合物(VC)を含んでいても電池特性が改善されないという技術的傾向を前提とした際に、当業者は、負極が金属系材料含んでいる場合において電解液がメチレン系不飽和環状炭酸エステルを含んでいると電池特性が改善されるかどうかをわざわざ具体的に検証しようとするかどうか」である。 (エ) 本願発明と引用文献1の発明とでは、電池特性を改善するための手段(本願発明ではメチレン系不飽和環状炭酸エステルと一緒に用いる負極活物質の種類、引用文献1の発明ではイソシアネート化合物の有無)が全く異なっているし、その電池特性を改善するための作用(本願発明では負極活物質の種類に応じて発揮されたり発揮されなかったりするメチレン系不飽和環状炭酸エステルの機能、引用文献1の発明ではイソシアネート化合物の機能)も全く異なっていることから、本願発明と引用文献1の発明とでは、電池特性を改善できるという効果(目的)の面では確かに共通しているが、その効果を達成するための構成(特定の種類の負極活物質(金属系材料)と特定の種類の不飽和環状炭酸エステル(メチレン系不飽和環状炭酸エステル)との組み合わせ)および作用(メチレン系不飽和環状炭酸エステルの特異的な機能)は全く異なっており、本願発明の効果は、当業者であっても具体的に検証してみなければ容易に予測できない効果である。 (オ) 本願発明は、負極が金属系材料を含んでいると共に電解液がメチレン系不飽和環状炭酸エステルを含んでいる場合において、そのメチレン系不飽和環状炭酸エステルの含有量の適正範囲(=0.01重量%?10重量%)を規定している点において、引用文献1の発明とは明らかに異なっているし、しかも、上記したメチレン系不飽和環状炭酸エステルの含有量の適正範囲は、上記したように、そのメチレン系不飽和環状炭酸エステルが電池特性の改善機能を発揮できる条件であり、本願発明の特異的な利点(作用および効果)が得られるか否かを決定的に左右する条件であるため、本願発明を引用文献1の発明から差別化するのに十分な要件である。 」旨主張している。 イ. 当審の見解 しかしながら、請求人の上記ア.に示した主張は、以下の理由により、採用できない。 (ア) 引用文献1に記載された発明とは、引用文献1の記載に基づいて把握されるものであるところ、上記5-1のア.?カ.で検討したとおり、引用文献1には、上記5-1のカ.に示した引用発明が記載されていると認められる。そして、引用発明は、炭酸メチレンエチレンを、溶媒の総和を100重量%としたときに、5重量%含有された溶媒を備えているものであるから、請求人の上記ア.(ア)に示した主張は、引用文献1の記載に照らし、妥当な主張とはいえず、採用できない。 (イ) 上記5-2で検討したとおり、本願発明と引用発明の間に相違点は見出されないことからして、請求人の上記ア.(イ)?(オ)に示した主張も妥当な主張とはいえず、採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に公知となった引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとの、原査定の拒絶の理由は妥当である。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-05-02 |
結審通知日 | 2017-05-09 |
審決日 | 2017-05-25 |
出願番号 | 特願2011-280186(P2011-280186) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H01M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山下 裕久 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
小川 進 宮本 純 |
発明の名称 | リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器 |
代理人 | 特許業務法人つばさ国際特許事務所 |