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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1330584
審判番号 不服2016-2261  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-15 
確定日 2017-07-20 
事件の表示 特願2012-189278「光学フィルムおよびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月5日出願公開,特開2013-242510〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-189278号(優先権主張 平成24年4月26日,以下「本件出願」という。)は,平成24年8月29日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成27年 9月17日付け:拒絶理由通知書(同年同月29日発送)
平成27年11月26日提出:意見書
平成27年11月26日提出:手続補正書
平成27年12月 9日付け:拒絶査定(同年同月15日送達)
(以下「原査定」という。)
平成28年 2月15日提出:審判請求書
平成28年 2月15日提出:手続補正書
(以下,この手続補正書による補正を,「本件補正」という。)

第2 補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載のうち,請求項1?請求項5の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明及び請求項5に係る発明(請求項1?請求項4の全ての記載を引用して記載されたもの)を,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明5」という。)。
「【請求項1】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含有するアクリル樹脂(A)からなるアクリル樹脂フィルムと,ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)を含有する易接着層(a)と,を有することを特徴とする光学フィルム。

【請求項2】
前記ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)がエポキシ基を有することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルム。

【請求項3】
前記ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)がさらにカルボキシル基を有することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルム。

【請求項4】
前記易接着層(a)が微粒子を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光学フィルム。

【請求項5】
前記易接着層(a)に含有される微粒子の平均一次粒子径が300nm以下であり,前記易接着層(a)に含有される微粒子の粒度分布が1.0?1.4であることを特徴とする請求項4に記載の光学フィルム。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当合議体が付したものである。
「【請求項1】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含有するアクリル樹脂(A)からなるアクリル樹脂フィルムと,ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)を含有する易接着層(a)と,を有し,
前記ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)がエポキシ基およびカルボキシル基を有し,
前記易接着層(a)が微粒子を含有し,当該微粒子の平均一次粒子径が20?200nmであり,当該微粒子の粒度分布が1.0?1.4であることを特徴とする光学フィルム。」

(3) 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1?請求項4の全ての記載を引用して記載された,請求項5に係る発明の微粒子の平均一次粒子径について,本件補正前は「300nm以下」とあったのを,「20?200nm」と限定するものである。また,本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0127】には,「微粒子の粒子径(平均一次粒子径)は,300nm以下であり,好ましくは10?300nm,さらに好ましくは20?200nmであり,さらに好ましくは,30?150nmである。」と記載されている。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに,同条5項2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで,本件補正後発明が,同法同条6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件違反
(1) 引用例1の記載
本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった(インターネットを利用した方法で発行された)国際公開第2011/122209号(原査定の引用文献1,以下「引用例1」という。)には,以下の記載がある。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,熱可塑性樹脂フィルムに樹脂層が積層された積層フィルムに関する。さらに詳しくは,加熱処理した際の熱可塑性樹脂フィルムから析出するオリゴマーに対して,オリゴマー抑制に優れた樹脂層を有する積層フィルムに関する。

背景技術
[0002] 熱可塑性樹脂フィルム,中でも二軸延伸ポリエステルフィルムは,機械的性質,電気的性質,寸法安定性,透明性,耐薬品性などに優れた性質を有することから磁気記録材料,包装材料などの多くの用途において基材フィルムとして広く使用されている。特に近年,フラットパネルディスプレイ関係の表示材料をはじめとした各種光学用フィルムとしての需要が高まっている。このようなフラットパネルディスプレイでは様々な機能を有する複数の光学フィルムを貼り合わせて使用することが多い。このため,従来からポリエステルフィルム表面に接着性を付与する方法が検討されてきた。特にコーティングによる易接着樹脂層の形成により種々の素材との接着ができる。
…(省略)…
発明が解決しようとする課題
[0005] しかしながら,特許文献1?3のようにフィルム表面にアクリル変性ポリエステルを樹脂層として設ける方法は,アクリル変性ポリエステル中にある一定温度以上のガラス転移点を有するアクリル成分を含有するのであるが,樹脂層を硬化する際に,樹脂層に欠点やクラックが起こり,十分なオリゴマー抑制効果が得られないばかりか,積層フィルムの透明性を損ねてしまうことがある。」

イ 「発明を実施するための形態
[0009] 以下,本発明の積層フィルムについて詳細に説明する。
[0010] 本発明は,基材フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に樹脂層が積層された積層フィルムであって,樹脂層はアクリル樹脂成分のガラス転移点が67℃以上であるアクリル変性ポリエステル(A)と,糖アルコール(B1)および/または糖アルコール誘導体(B2)とを含んでいる。そして,必要に応じて無機粒子(D)やオキサゾリン系化合物,カルボジイミド系化合物,エポキシ系化合物およびメラミン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物(C),その他透明性やオリゴマー抑制性を損なわない程度に易滑剤や界面活性剤等の種々の添加剤を用いることができる。
[0011] また,本発明の積層フィルムはヘイズが2.0%以下であることが必要である。より好ましくは1.0%以下である。2.0%以下にすることでディスプレイ用などの光学用フィルムとして用いる場合,例えばディスプレイの白濁を抑制することができ,解像度の低下を抑制することができる。またその他の加熱加工を必要とする透明易接着フィルムとして用いることもでき,汎用的な用途へも使用用途を拡大させることができる。」

ウ 「[0013] (1)アクリル変性ポリエステル(A)
本発明で用いることのできるアクリル変性ポリエステル(A)は,アクリル樹脂成分とポリエステル樹脂成分とが互いに混合および/または結合したものであって,例えばグラフトタイプ,ブロックタイプを包含する。また,アクリル変性ポリエステル(A)中のアクリル樹脂成分とポリエステル樹脂成分とは,どちらの共重合率が高くてもよい。
…(省略)…
[0019] アクリル変性ポリエステル(A)を構成するアクリル樹脂成分は,アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートがアクリル樹脂成分全体に対して50質量%以上97質量%以下含まれ,エポキシ含有アクリルモノマーがアクリル樹脂成分全体に対して3質量%以上50質量%以下含まれていることが好ましい。アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートの含有量は,より好ましくはアクリル樹脂成分全体に対して80質量%以上95質量%以下である。エポキシ含有アクリルモノマーの含有量は,より好ましくはアクリル樹脂成分全体に対して5質量%以上20質量%以下である。なお,「アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートの含有量」とは,アクリル変性ポリエステル(A)がアルキルアクリレートを含まない場合はアルキルメタクリレートの含有量のことであり,アクリル変性ポリエステル(A)がアルキルメタクリレートを含まない場合はアルキルアクリレートの含有量のことであり,アクリル変性ポリエステル(A)がアルキルメタクリレートとアルキルアクリレートの両方を含む場合は両方の合計含有量のことである。
[0020] アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートがアクリル樹脂成分全体に対して50質量%以上含まれていると,アクリル変性ポリエステルの重合が容易となり,97質量%以下含まれていると,後述するエポキシ含有アクリルモノマーの効果を確保することができる。エポキシ含有アクリルモノマーがアクリル樹脂成分全体に対して3質量%以上含まれていると,アクリル樹脂成分の架橋密度が保たれ樹脂層の削れや,加熱加工時の樹脂層の熱変形を抑制することができ,50質量%以下含まれていると,前述したアルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートの効果を確保することができる。
[0021] アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートとしては,メタクリル酸,メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸イソプロピル,メタクリル酸n-ブチル,メタクリル酸イソブチル,メタクリル酸n-ヘキシル,メタクリル酸ラウリル,メタクリル酸2-ヒドロキシエチル,メタクリル酸ヒドロキシプロピル,アクリル酸,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸イソプロピル,アクリル酸n-ブチル,アクリル酸イソブチル,アクリル酸n-ヘキシル,アクリル酸ラウリル,アクリル酸2-エチルヘキシル,アクリル酸2-ヒドロキシエチル,アクリル酸ヒドロキシプロピル,マレイン酸,イタコン酸,アクリルアミド,N-メチロールアクリルアミド,ジアセトンアクリルアミド等を用いるのが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
[0022] またエポキシ基含有アクリル系モノマーはグリシジルアクリレート,グリシジルメタクリレート,アリルグリシジルエーテル等が好ましく挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
[0023] アクリル変性ポリエステルを構成するポリエステル樹脂成分は,主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するものでジカルボン酸成分とジオール成分とから構成される。ポリエステル樹脂を構成するカルボン酸成分としては,芳香族,脂肪族,脂環族のジカルボン酸や3価以上の多価カルボン酸を使用することができる。芳香族ジカルボン酸としては,テレフタル酸,イソフタル酸,オルソフタル酸,フタル酸,2,5-ジメチルテレフタル酸,5-ナトリウムスルホイソフタル酸,1,4-ナフタレンジカルボン酸など,およびそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
[0024] ポリエステル樹脂のグリコール成分としては,エチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,1,3-プロパンジオール,1,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,ネオペンチルグリコール,などを用いることができる。
[0025] またポリエステル樹脂成分を水系溶媒へ溶解,または分散させ水系樹脂組成物として用いる場合にはポリエステル樹脂成分の水溶性化あるいは水分散化を容易にするため,スルホン酸塩基を含む化合物やカルボン酸塩基を含む化合物を共重合することが好ましい。
カルボン酸塩基を含む化合物としては,例えば,トリメリット酸,無水トリメリット酸,ピロメリット酸,無水ピロメリット酸,4-メチルシクロヘキセン-1,2,3-トリカルボン酸,トリメシン酸,1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸,1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸,など,あるいはこれらのアルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩,アンモニウム塩等を挙げることができるが,これらに限定されるものではない。
…(省略)…
[0027] 本発明の樹脂層に用いられるアクリル変性ポリエステルは,以下の製造法によって製造することができる。まずポリエステル樹脂成分を次のように製造する。例えばジカルボン酸成分とグリコール成分を直接エステル化反応させるか,ジカルボン酸成分とグリコール成分をエステル交換反応させる第一段階の工程と,この第一段階の反応生成物を重縮合反応させる第二段階の工程とによって製造する方法などにより製造することができる。この際,反応触媒として,例えば,アルカリ金属,アルカリ土類金属,マンガン,コバルト,亜鉛,アンチモン,ゲルマニウム,チタン化合物などを用いることができる。
[0028] 次にポリエステル樹脂成分を溶媒中に分散させるが,特に水系溶媒への分散手段としてポリエステル樹脂を撹拌下にアンモニア水,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,各種アミン類等のアルカリ性化合物の水溶液に溶解もしくは分散させる。この場合,メタノール,エタノール,イソプロパノール,ブチルセロソルブ,エチルセロソルブ等の水溶性有機溶媒を併用してもよい。
[0029] 続いてアクリル変性ポリエステルを製造するためにポリエステル樹脂成分の分散体中に重合開始剤と必要に応じて乳化分散剤等を添加し,温度を一定に保ちながらアクリル樹脂成分を徐々に添加し,その後数時間反応させてアクリル変性ポリエステルの分散体を製造することができる。得られた分散体はアクリル変性ポリエステル,ポリエステル樹脂成分,アクリル樹脂成分の混合物である。
[0030] 重合開始剤としては特に限定されるものではないが一般的なラジカル重合開始剤,例えば過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム,過酸化水素等の水溶性過酸化物,または過酸化ベンゾイルやt-ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物,あるいはアゾジイソブチロニトリル等のアゾ化合物が使用できる。」

エ 「[0036] (4)無機粒子(D)
本発明に用いることのできる無機粒子としては,例えばシリカ,コロイダルシリカ,アルミナ,カオリン,タルク,マイカ,炭酸カルシウム,硫酸バリウム,カーボンブラック,ゼオライト,酸化チタン,各種金属またはその酸化物からなる微粒子などが好ましい。特に高硬度,耐熱性の点からシリカ,コロイダルシリカ,アルミナが好ましい。無機粒子を用いることで樹脂層の易滑性を向上させ,樹脂層同士の摩擦による樹脂層の劣化を防止し,オリゴマー抑制効果を維持させることができるだけなく,後述する加圧試験やロール状に保管された積層フィルムなど,積層フィルム同士を重ねて圧力をかけた場合に,圧力による変形や破壊から樹脂層を保護し,加圧後の樹脂層からのオリゴマー抑制効果を保持することができる。」

オ 「[0044] (6)オキサゾリン系化合物,カルボジイミド系化合物,エポキシ系化合物およびメラミン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(C)
樹脂層中において,アクリル変性ポリエステル(A)は,オキサゾリン系化合物,カルボジイミド系化合物,エポキシ系化合物およびメラミン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(C)によって架橋されていることが好ましい。
[0045] 本発明に用いることのできるオキサゾリン系化合物としては,オキサゾリン基またはオキサジン基を1分子当たり少なくとも1つ以上有するものであれば特に限定されないが,付加重合性オキサゾリン基含有モノマーを単独で重合,もしくは他のモノマーとともに重合した高分子型が好ましい。高分子型のオキサゾリン化合物を用いることで,本発明の樹脂層を熱可塑性樹脂フィルム上に設け,積層フィルムとしたときに,樹脂層のオリゴマー抑制効果だけでなく,各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性,可撓性,強靭性,耐水性,耐溶剤性が高まるためである。
[0046] 付加重合性オキサゾリン基含有モノマーとしては,2-ビニル-2-オキサゾリン,2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン,2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン,2-イソプロペニル-2-オキサゾリン,2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン,2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンを挙げることができる。これらは,1種で使用してもよく,2種以上の混合物を使用してもよい。これらの中でも,2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは,付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく,例えばアルキルアクリレート,アルキルメタクリレート(アルキル基としては,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,t-ブチル基,2ーエチルヘキシル基,シクロヘキシル基)等の(メタ)クリル酸エステル類やアクリル酸,メタクリル酸,イタコン酸,マレイン酸,フマール酸,クロトン酸,スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩,カリウム塩,アンモニウム塩,第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類,アクリロニトリル,メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミド,メタクリルアミド,N-アルキルアクリルアミド,N-アルキルメタクリルアミド,N,N-ジアルキルアクリルアミド,N,N-ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,t-ブチル基,2-エチルヘキシル基,シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,アクリル酸,メタクリル酸のエステル部にポリアルキレンオキシドを付加させたもの等のビニルエステル類,メチルビニルエーテル,エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類,エチレン,プロピレン等のα-オレフィン類,塩化ビニル,塩化ビニリデン,フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類,スチレン,α-メチルスチレン,等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ,これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
…(省略)…
[0049] 本発明に用いることのできるエポキシ系化合物としては,エポキシ基を1分子当たり少なくとも1つ以上有するものであれば特に限定されなく,モノエポキシ化合物,ジエポキシ化合物,ポリエポキシ化合物,変性エポキシ化合物などを用いることができる。特に2官能以上のエポキシ系化合物を用いることが好ましく,本発明の樹脂層を熱可塑性樹脂フィルム上に設け積層フィルムとしたときに,樹脂層のオリゴマー抑制効果だけでなく,各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性,強靭性,耐水性,耐溶剤性が高まり好ましく用いることができる。エポキシ系化合物として具体的には例えばソルビトールポリグリシジルエーテル,ポリグリセロールポリグリシジルエーテル,ジグリセロールポリグリシジルエーテル,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル,脂肪酸変性グリシジル,グリシジルエーテル,グリシジルメタクリレートなどを用いることができる。
…(省略)…
[0052] 樹脂層中においてアクリル変性ポリエステル(A)が化合物(C)によって架橋されていることが好ましい。架橋形態はアクリル変性ポリエステル(A)のカルボン酸基や水酸基,アミノ基等の親水性基と化合物(C)の反応基による架橋反応が好ましいが,アクリル変性ポリエステル(A)の親水性基の全てが化合物(C)と架橋されている必要はなく,ある一部分はアクリル変性ポリエステル(A)の水酸基以外の部位と反応していてもよく,またある一部分は樹脂層中で化合物(C)同士が1種および/または複数種で架橋してもよく,ある一部分は化合物(C)が架橋せずに存在していてもよい。樹脂層中でアクリル変性ポリエステル(A)と化合物(C)が部分的でも架橋構造を取ることにより樹脂層のオリゴマー抑制効果だけでなく,接着性や耐湿熱接着性,可撓性,強靭性,耐水性,耐溶剤性などが向上し好ましく用いることができる。」

カ 「[0053] (7)熱可塑性樹脂フィルム
本発明の積層フィルムにおいて,基材フィルムとして用いられる熱可塑性樹脂フィルムとは,熱可塑性樹脂を用いてなり,熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称である。熱可塑性樹脂の例として,ポリエステル樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリエチレンフィルムなどのポリオレフィン樹脂,ポリ乳酸樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリメタクリレート樹脂やポリスチレン樹脂などのアクリル樹脂,ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリウレタン樹脂,フッ素樹脂,ポリフェニレン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂はモノポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。また,複数の樹脂を用いても良い。
[0054] これらの熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性樹脂フィルムの代表例として,ポリエステルフィルム,ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム,ポリ乳酸フィルム,ポリカーボネートフィルム,ポリメタクリレートフィルムやポリスチレンフィルムなどのアクリル系フィルム,ナイロンなどのポリアミドフィルム,ポリ塩化ビニルフィルム,ポリウレタンフィルム,フッ素系フィルム,ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを挙げることができる。」

キ 「[0061] (8)樹脂層の形成方法
本発明では,前述したアクリル変性ポリエステル(A)と,糖アルコール(B1)および/または糖アルコール誘導体(B2)とを含有する樹脂組成物を熱可塑性樹脂フィルム上へ塗布し,必要に応じて溶媒を乾燥させることによって,熱可塑性樹脂フィルム上に樹脂層を形成することができる。この樹脂組成物とは,アクリル樹脂成分のガラス転移点が67℃以上であるアクリル変性ポリエステル(A)と,糖アルコール(B1)および/または糖アルコール誘導体(B2)とを含み,アクリル変性ポリエステル(A)の含有量と,糖アルコール(B1)および糖アルコール誘導体(B2)の合計含有量との質量比が(A/(B1+B2))=75/25以上97/3以下であり,樹脂組成物固形分に対する,アクリル変性ポリエステル(A),糖アルコール(B1)および糖アルコール誘導体(B2)の合計含有量が65質量%以上である樹脂組成物である。
[0062] また本発明では,溶媒として水系溶媒(F)を用いることが好ましい。水系溶媒を用いることで,乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき,均一な組成物層を形成できるだけでなく,環境負荷の点で優れているためである。
…(省略)…
[0064] 樹脂組成物の熱可塑性樹脂フィルムへの塗布方法はインラインコート法,オフコート法のどちらでも用いることができるが,好ましくはインラインコート法である。
[0065] インラインコート法とは,熱可塑性樹脂フィルムの製造の工程内で塗布を行う方法である。具体的には,熱可塑性樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し,通常は,溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)熱可塑性樹脂フィルム(Aフィルム),その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Bフィルム),またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
[0066] 本発明では,結晶配向が完了する前の上記Aフィルム,Bフィルム,の何れかの熱可塑性樹脂フィルムに,樹脂組成物を塗布し,その後,熱可塑性樹脂フィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸し,溶媒の沸点より高い温度で熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともに樹脂層を設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば,熱可塑性樹脂フィルムの製膜と,樹脂組成物の塗布乾燥(すなわち,樹脂層の形成)を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。また,塗布後に延伸を行うために樹脂層の厚みをより薄くすることが容易である。
[0067] 中でも,長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に,コーティング用組成物を塗布し,その後,幅方向に延伸し,熱処理する方法が優れている。未延伸フィルムに塗布した後,二軸延伸する方法に比べ,延伸工程が1回少ないため,延伸による樹脂層の欠陥や亀裂が発生しづらく,透明性や平滑性に優れた組成物層を形成できるためである。
…(省略)…
[0069] 本発明において樹脂層は,上述した種々の利点から,インラインコート法により設けられることが好ましい。
[0070] よって,本発明において最良の樹脂層の形成方法は,水系溶媒(F)を用いた樹脂組成物を,熱可塑性樹脂フィルム上にインラインコート法を用いて塗布し,乾燥することによって形成する方法である。またより好ましくは,一軸延伸後のBフィルムに樹脂組成物をインラインコートする方法である。さらに樹脂組成物の固形分濃度は10質量%以下であることが好ましい。固形分濃度が10質量%以下とすることにより,樹脂組成物に良好な塗布性を付与でき,透明かつ均一な組成物層を設けた積層フィルムを製造することができる。
[0071] (9)水系溶媒(F)を用いた樹脂組成物の調整方法
水系溶媒(F)を用いた樹脂組成物は,必要に応じて水分散化または水溶化したアクリル変性ポリエステル(A),糖アルコール(B1)および/または糖アルコール誘導体(B2)の水系化合物および水系溶媒(F)を任意の順番で所望の質量比で混合,撹拌することで作製することができる。次いで,必要に応じて化合物(C)を上記樹脂組成物に任意の順番で所望の質量比で混合,撹拌することで作製することができる。
[0072] 混合,撹拌する方法は,容器を手で振って行ったり,マグネチックスターラーや撹拌羽根を用いたり,超音波照射,振動分散などを行うことができる。また必要に応じて易滑剤や無機粒子,有機粒子,界面活性剤,酸化防止剤などの各種添加剤を,樹脂組成物により設けた樹脂層の特性を悪化させない程度に添加してもよい。」

ク 「産業上の利用可能性
[0155] 本発明は透明かつ熱処理によるオリゴマー抑制能に優れた積層フィルムに関するものであり,ディスプレイ用途の光学用易接着フィルムや各種加熱加工を必要とする易接着フィルムへ利用できる。」

ケ 「請求の範囲
[請求項1]
熱可塑性樹脂フィルム基材の少なくとも片面に樹脂層が設けられた積層フィルムであって,
該樹脂層が,アクリル樹脂成分のガラス転移点が67℃以上であるアクリル変性ポリエステルと,糖アルコールおよび/または糖アルコール誘導体とを含み,
該アクリル変性ポリエステルと,該糖アルコールおよび該糖アルコール誘導体との質量比(アクリル変性ポリエステルの質量/糖アルコールおよび糖アルコール誘導体の合計質量)が75/25以上97/3以下であり,
該樹脂層全体に対する,該アクリル変性ポリエステル,該糖アルコールおよび該糖アルコール誘導体の合計含有量が65質量%以上であり,
該積層フィルムのヘイズ値が2.0%以下である積層フィルム。
…(省略)…
[請求項4]
前記樹脂層が無機粒子を含み,該樹脂層の厚みをdとしたとき,該無機粒子の粒径分布のピークのうち最も高いピークが,粒径1.05d以上4.50d以下の範囲内にある,請求項1?3のいずれかの積層フィルム。」

(2) 引用発明
引用例1の段落[0009]?[0011]には,「基材フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に樹脂層が積層された積層フィルム」が開示されている。また,引用例1の段落[0070]には,「本発明において最良の樹脂層の形成方法は,水系溶媒(F)を用いた樹脂組成物を,熱可塑性樹脂フィルム上にインラインコート法を用いて塗布し,乾燥することによって形成する方法である」と記載されている。さらに,引用例1の段落[0155]には,産業上の利用可能性として,「ディスプレイ用途の光学用易接着フィルム」「へ利用できる」ことが記載されている。
そうしてみると,引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 基材フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に樹脂層が積層された積層フィルムであって,
樹脂層は,アクリル樹脂成分のガラス転移点が67℃以上であるアクリル変性ポリエステル(A)と,糖アルコール(B1)および/または糖アルコール誘導体(B2)とを含み,そして,無機粒子(D)やオキサゾリン系化合物,カルボジイミド系化合物,エポキシ系化合物およびメラミン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物(C)を用い,水系溶媒(F)を用いた樹脂組成物を,熱可塑性樹脂フィルム上にインラインコート法を用いて塗布し,乾燥することによって形成され,
ヘイズが2.0%以下であり,ディスプレイ用途の光学用易接着フィルムへ利用できる,
積層フィルム。」

(3) 引用例2?引用例5の記載
ア 引用例2
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2012-32768号公報(拒絶査定の引用文献2,以下「引用例2」という。)には,以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,表面に易接着層が形成されたアクリル樹脂フィルムから構成される光学フィルムと,その製造方法とに関する。さらに,本発明は,当該光学フィルムを備える光学部材および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される(メタ)アクリル重合体を含むアクリル樹脂は,光線透過率などの光学特性に優れるとともに,機械的強度,成形加工性および表面硬度のバランスに優れる。このため,アクリル樹脂は,自動車,家電製品をはじめとする各種の工業製品に,透明材料として幅広く使用されている。近年,アクリル樹脂が光学関連用途に使用されるケースが増えている。特に,液晶表示装置(LCD),プラズマディスプレイパネル(PDP),有機EL表示装置(OELD)のような画像表示装置に組み込まれる光学フィルムへのアクリル樹脂の応用が進められている。
【0003】
光学フィルムは,他の機能性フィルムと積層された状態で使用されることがある。例えば,光学フィルムの一種である偏光子保護フィルムは,通常,偏光子と積層された偏光板の状態で画像表示装置に使用される。偏光板は,通常,偏光子と,当該偏光子の少なくとも一方の面に接着層を介して貼り合わされた偏光子保護フィルムとを含む構成を有する。
【0004】
アクリル樹脂を光学フィルムに使用する際に,他の機能性フィルムとの積層を考慮して,当該光学フィルムの表面に易接着層が形成されることがある。易接着層は,光学フィルムの接着性を向上させ,接着層を介した他のフィルムとの積層を確実にする層である。」

(イ)「【0015】
[アクリル樹脂フィルム]
アクリル樹脂フィルムは,(メタ)アクリル重合体を含むアクリル樹脂から構成されるフィルムである。アクリル樹脂フィルムは,アクリル樹脂の成形により得られる。
…(省略)…
【0021】
(メタ)アクリル重合体は,主鎖に環構造を有することが好ましい。アクリル樹脂フィルムは,主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含むことが好ましい。この場合,光学フィルムの耐熱性および硬度が向上する。これに加えて,主鎖の環構造は,延伸によってアクリル樹脂フィルムが大きな位相差を発現することに寄与する。この特徴は,位相差フィルムまたは位相差フィルムの機能を有する偏光子保護フィルムとしての,本発明の光学フィルムの使用を可能とする。
【0022】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に有していてもよい環構造は,例えば,N-置換マレイミド構造,無水マレイン酸構造,グルタルイミド構造,無水グルタル酸構造およびラクトン環構造から選ばれる少なくとも1種である。N-置換マレイミド構造は,例えば,シクロヘキシルマレイミド構造,メチルマレイミド構造,フェニルマレイミド構造,ベンジルマレイミド構造である。光学フィルムの耐熱性の観点からは,当該環構造は,ラクトン環構造,環状イミド構造(例えば,N-アルキル置換マレイミド構造,グルタルイミド構造),環状無水物構造(例えば,無水マレイン酸構造および無水グルタル酸構造)が好ましい。本発明の光学フィルムが位相差フィルムである場合,当該フィルムに対して正の位相差が付与される観点からは,当該環構造は,ラクトン環構造,グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造が好ましい。位相差フィルムにおける複屈折の波長分散性が向上する観点からは,当該構造はラクトン環構造が好ましい。
【0023】
ラクトン環構造は,通常,4?8員環であり,構造の安定性の観点から5?6員環が好ましく,6員環がより好ましい。6員環のラクトン環構造は,以下の式(1)に示す構造が好ましい。式(1)に示す構造は,以下の利点を有する:環化反応によりラクトン環構造を主鎖に導入する前の前駆体の重合収率が高い;当該環構造の含有率が高い(メタ)アクリル重合体を得やすい;メタクリル酸メチル(MMA)のような(メタ)アクリル酸エステル単量体との共重合性が高い。
【0024】
【化1】

【0025】
式(1)において,R^(1),R^(2)およびR^(3)は,互いに独立して,水素原子または炭素数1?20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
…(省略)…
【0029】
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体は,公知の方法により形成できる。
【0030】
主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体は,例えば,特開2000-230016号公報,特開2001-151814号公報,特開2002-120326号公報,特開2002-254544号公報,特開2005-146084号公報に記載されている重合体であり,当該公報に記載されている方法により形成できる。」

(ウ)「【0052】
[易接着層]
本発明の光学フィルムでは,アクリル樹脂フィルムの表面に易接着層が形成されている。易接着層は微粒子を含む。易接着層に含まれる微粒子の平均一次粒子径は200nmを超え,当該微粒子の粒度分布は1.0?1.4である。本発明の光学フィルムでは,この易接着層により,機能性フィルムのような他の部材への接着性が向上する効果が得られながら,その耐ブロッキング性と透明性とが両立する。従来,光学フィルムの耐ブロッキング性を改善することを目的として易接着層に微粒子を加える場合,微粒子の粒子径が小さい方がよいとされてきた。特許文献2(特開2010-55062号公報)は,易接着層に加える微粒子の平均一次粒子径について,10?200nmが好ましく,20?60nmがより好ましいことを開示する。しかし,本発明者らの検討によれば,このような小さい粒子径の微粒子による耐ブロッキング性の確保は,現実には難しい。一方,光学フィルムの易接着層において,当該層に含まれる微粒子の粒子径を単純に大きくすることはできない。微粒子の粒径が大きくなれば,可視光域における散乱現象が生じ,フィルムが白濁して,光学フィルムとして使用できなくなるからである。本発明者らは,微粒子の平均一次粒子径に加え,その粒度分布を特定の範囲とすることによって,耐ブロッキング性と透明性とが両立した光学フィルムを実現した。
…(省略)…
【0055】
微粒子の平均一次粒子径は,220nm以上が好ましく,250nm以上がより好ましく,280nm以上がさらに好ましい。微粒子の平均一次粒子径の上限は,例えば,1000nm以下であり,好ましくは500nm以下,より好ましくは400nm以下,さらに好ましくは350nm以下である。微粒子の粒度分布は,1.0?1.2が好ましい。微粒子がこのような平均一次粒子径および粒度分布を有することによって,光学フィルムとしての透明性が維持されながら,少ない微粒子の添加量でも良好な耐ブロッキング性が実現する。」

(エ)「【0162】
(製造例7)
ウレタン樹脂(第一工業製薬製,スーパーフレックス210,固形分35重量%)20重量部,アモルファスシリカ微粒子を含むエマルジョン(日本触媒製,シーホスターKE-W30,平均粒径(一次粒子径)0.28μm,粒度分布1.1,固形分20重量%)0.09重量部および純水80重量部を混合して,エマルジョン状の分散体である易接着組成物(1B)を得た。
…(省略)…
【0167】
(製造例12)
ウレタン樹脂(第一工業製薬製,スーパーフレックス210,固形分35重量%)20重量部,アモルファスシリカ微粒子を含むエマルジョン(日本触媒製,シーホスターKE-W10,平均粒径(一次粒子径)0.11μm,粒度分布1.1,固形分15重量%)0.12重量部および純水80重量部を混合して,エマルジョン状の分散体である易接着組成物(6B)を得た。
…(省略)…
【0170】
(実施例1)
製造例1で作製した延伸アクリル樹脂フィルム(F1)の一方の主面に,製造例7で作製した易接着組成物(1B)を,乾燥後の塗布膜の厚さが270nmとなるように塗工試験機を用いて塗布した後,全体を100℃で2分間乾燥した。このようにして,ウレタン樹脂および微粒子を含む易接着層が一方の主面に形成された,アクリル樹脂フィルムから構成される光学フィルムを得た。形成した易接着層に含まれる微粒子は,易接着組成物(1B)中の形状を保持していた。
…(省略)…
【0179】
(比較例2)
易接着組成物(1B)の代わりに,製造例12で作製した易接着組成物(6B)を用いた以外は実施例1と同様にして,ウレタン樹脂および微粒子を含む易接着層が一方の主面に形成された,アクリル樹脂フィルムから構成される光学フィルムを得た。
…(省略)…
【0189】
表1に示すように,実施例1?13では,耐ブロッキング性および透明性が高い光学フィルムが得られた。一方,比較例1では,易接着組成物および当該組成物から形成された易接着層に含まれる微粒子の粒度分布が1.7と実施例よりも大きく,ヘイズ率が高い(透明性に劣る)光学フィルムが形成された。また,比較例2では,易接着組成物および当該組成物から形成された易接着層に含まれる微粒子の平均一次粒子径が110nmと実施例よりも小さく,耐ブロッキング性に劣る光学フィルムが形成された。比較例2の光学フィルムでは,フィルムロールに巻き取る際に,経時的にフィルムのシワおよびロールの変形が発生した。」

イ 引用例3
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-86244号公報(拒絶査定の引用文献3,以下「引用例3」という。)には,以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板及びそれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に用いられる偏光子として,主に,ポリビニルアルコール膜が用いられている。このポリビニルアルコール膜は,吸水性であり,高湿度下に置かれると,吸湿によって偏光性能が変動するので,実際には,その双方の面に保護フィルムを積層した偏光板として,種々の液晶表示装置に用いられている。
特許文献1には,ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂成形体を偏光板の保護フィルムとして用いることが提案されている。また,特許文献2には,偏光子の少なくとも片面に,ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムが接着剤で貼合されている偏光板であって,前記熱可塑性樹脂フィルムの前記偏光子と対向する面に,ポリウレタン樹脂および/またはアミノ基含有ポリマーを含有する易接着層が形成されていることを特徴とする偏光板が提案されている(特許文献2)。
【0003】
ところで,偏光板は,液晶表示装置において,液晶セルよりもさらに外側,例えば,表示面側に配置され,その種々の性能が,液晶表示装置全体の表示性能に大きく影響を与える。したがって,偏光板には,耐水性・耐湿性が高く,初期の偏光性能を種々の環境下で長期的に維持し得ることのみならず,製造時や使用時にゴミの付着や帯電などによって表示性能を低下させないために,高い帯電防止性およびそれが環境によって低下しないことが望まれる。
【特許文献1】特開2006-96960号公報」

(イ)「【発明の実施の形態】
【0007】
以下,本発明について詳細に説明する。なお,本明細書において「?」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
[偏光板]
本発明の偏光板は,偏光子と,少なくとも1種のラクトン環含有重合体を主成分として含む熱可塑性樹脂フィルムと,導電性ポリマーを含む帯電防止層とを少なくとも有することを特徴とする。本発明の偏光板は,前記熱可塑性樹脂フィルムを,偏光子の保護フィルムとして,中でも外側(例えば,表示面)に配置される保護フィルムとして,有しているのが好ましい。本発明の偏光板は,前記熱可塑性樹脂フィルムとともに,偏光子の他方の面を保護する保護フィルムをさらに有しているのが好ましい。また,本発明の偏光板において,帯電防止層は,いずれの位置に配置されていてもよい。
…(省略)…
【0010】
本発明の偏光板において,前記熱可塑性樹脂フィルムと他の層との接着性を高め,耐水性・耐久性をより改善するためには,前記熱可塑性樹脂フィルムの他の層と接する面に,易接着層を形成するのが好ましい。
…(省略)…
【0013】
以下,本発明の偏光板の各部材について詳細に説明する。
(熱可塑性樹脂フィルム)
本発明の偏光板は,少なくとも1種のラクトン環含有重合体を主成分として含む熱可塑性樹脂フィルムを有する。該熱可塑性樹脂フィルムは,偏光子の保護フィルムとして機能しているのが好ましい。前記ラクトン環含有重合体は,下記一般式(1)で表されるラクトン環構造単位を有する重合体であるのが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
式中,R^(1),R^(2)及びR^(3)は,互いに独立して,水素原子または炭素原子数1?20の有機残基を表す;なお,有機残基は酸素原子を含有していてもよい。
…(省略)…
【0021】
前記ラクトン環含有重合体の製造方法は,特に限定されるものではないが,例えば,重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後,得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
【0022】
重合工程においては,例えば,下記式(3)で表される単量体を配合した単量体成分の重合反応を行うことにより,分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体が得られる。
【0023】
【化4】

【0024】
式中,R^(5)およびR^(6)は,互いに独立して,水素原子または炭素原子数1?20の有機残基を表す。
【0025】
上記式(3)で表される単量体としては,例えば,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸n-ブチル,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸t-ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は,単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく,耐熱性を向上させる効果が高いことから,2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0026】
重合工程に供する単量体成分中における上記式(3)で表される単量体の含有割合は,好ましくは5?90質量%,より好ましくは10?70質量%,さらに好ましくは10?60質量%,特に好ましくは10?50質量%である。上記式(3)で表される単量体の含有割合が5質量%未満であると,得られた重合体の耐熱性,耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に,上記式(3)で表される単量体の含有割合が90質量%を超えると,重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が起こることや,得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
【0027】
重合工程に供する単量体成分には,上記式(3)で表される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては,特に限定されるものではないが,例えば,(メタ)アクリル酸エステル,水酸基含有単量体,不飽和カルボン酸,および,下記式(2)で表される単量体などが挙げられる。これらの単量体は,単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
【化5】

【0029】
式中,R^(4)は水素原子またはメチル基を表し,Xは水素原子,炭素原子数1?20のアルキル基,アリール基,-OAc基,-CN基,-CO-R^(5)基,または-CO-O-R^(6)基を表し,Acはアセチル基を表し,R^(5)およびR^(6)は水素原子または炭素原子数1?20の有機残基を表す。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルとしては,上記式(3)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り,特に限定されるものではないが,例えば,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸n-ブチル,アクリル酸イソブチル,アクリル酸t-ブチル,アクリル酸シクロヘキシル,アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸プロピル,メタクリル酸n-ブチル,メタクリル酸イソブチル,メタクリル酸t-ブチル,メタクリル酸シクロヘキシル,メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは,単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち,得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから,メタクリル酸メチルが特に好ましい。」

ウ 引用例4
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-227530号公報(拒絶査定の引用文献4,以下「引用例4」という。)には,以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,耐熱性透明材料として好適な熱可塑性樹脂組成物からなる偏光子保護フィルムに関する。また,本発明は,上記保護フィルムを備える偏光板と,当該偏光板を備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表される熱可塑性アクリル樹脂(以下,単に「アクリル樹脂」ともいう)は,高い光線透過率を有するなど,その光学特性に優れるとともに,機械的強度,成形加工性および表面硬度のバランスに優れることから,自動車および家電製品をはじめとする各種の工業製品における透明材料として幅広く使用されている。また近年,画像表示装置に用いる光学部材など,光学関連用途への使用が増大している。
…(省略)…
【0004】
ところで,透明性と耐熱性とを兼ね備えたアクリル樹脂として,主鎖に環構造を有する樹脂が知られている。主鎖に環構造を有する樹脂は,主鎖に環構造を有さない樹脂に比べてガラス転移温度(Tg)が高く,例えば,画像表示装置において光源などの発熱部に近接した配置が容易となるなど,実用上の様々な利点を有する。特開2007-31537号公報(特許文献1)には,環構造としてN-置換マレイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂が開示されており,特開2006-328334号公報(特許文献2)には,環構造としてグルタルイミド構造を主鎖に有するアクリル樹脂が開示されている。特開2000-230016号公報(特許文献3)および特開2006-96960号公報(特許文献4)には,環構造としてラクトン環構造を主鎖に有するアクリル樹脂が開示されている。ラクトン環構造は,例えば,分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させて形成できる。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の偏光子保護フィルムは,110℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する熱可塑性樹脂組成物からなり,前記熱可塑性樹脂組成物が,熱可塑性アクリル樹脂(樹脂(A))と,分子量が700以上の紫外線吸収剤(UVA(B))とを含む。
【0011】
本発明の偏光板は,偏光子と,上記本発明の偏光子保護フィルムとを備える。
…(省略)…
【0018】
[樹脂(A)]
樹脂(A)は,熱可塑性アクリル樹脂である限り特に限定されない。ただし,樹脂(A)は,樹脂組成物としてのTgが110℃以上となるアクリル樹脂である必要がある。
…(省略)…
【0022】
樹脂(A)は主鎖に環構造を有していてもよい。この場合,樹脂(A)および樹脂組成物のTgが高くなり,当該組成物から得た樹脂成形品の耐熱性が向上する。このように主鎖に環構造を有する樹脂(A)を含む樹脂組成物から得た樹脂成形品,例えば樹脂フィルムは,画像表示装置における光源などの発熱部近傍への配置が容易となるなど,光学部材としての用途に好適である。
…(省略)…
【0037】
樹脂(A)が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず,例えば4?8員環であってもよいが,環構造としての安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく,6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は,例えば,特開2004-168882号公報に開示されている構造であるが,前駆体(前駆体を環化縮合反応させることで,ラクトン環構造を主鎖に有する樹脂(A)が得られる)の重合収率が高いこと,前駆体の環化縮合反応により,高いラクトン環含有率を有する樹脂(A)が得られること,メタクリル酸メチル単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること,などの理由から,以下の式(3)により示される構造が好ましい。
【0038】
【化3】

【0039】
上記式(3)において,R^(7),R^(8)およびR^(9)は,互いに独立して,水素原子または炭素数1?20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。」

エ 引用例5
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-55062号公報(引用例2の段落【0052】に記載された特許文献2,以下「引用例5」という。)には,以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光子保護フィルムおよび偏光子保護フィルムを用いた偏光板および画像表示装置に関する。より詳細には,本発明は,巻き取り時に生じるブロッキングを抑制し得る偏光子保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置は,その画像形成方式に起因して,液晶セルの両側に偏光板を配置することが必要不可欠である。偏光板は,通常,偏光子の両面に接着剤を用いて偏光子保護フィルムが貼り合わされて形成されている。偏光子保護フィルムの形成材として,アクリル系樹脂フィルムが提案されている。また,偏光子とアクリル系樹脂フィルムとの接着性を向上させるため,偏光子とアクリル系樹脂フィルムとの間に易接着層を設けることが提案されている(例えば,特許文献1)。しかし,易接着層を設けた偏光子保護フィルムをロール状に巻き取る工程において,ブロッキングが生じるという問題がある。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光子保護フィルムは,(メタ)アクリル系樹脂フィルムと,ウレタン樹脂と微粒子とを含む易接着剤組成物で形成された易接着層とを有する。
【0006】
好ましい実施形態においては,上記ウレタン樹脂がカルボキシル基を有する。
【0007】
好ましい実施形態においては,上記微粒子がコロイダルシリカである。
【0008】
好ましい実施形態においては,上記微粒子の粒子径が10?200nmである。
【0009】
好ましい実施形態においては,上記微粒子の含有量が,ウレタン樹脂100重量部に対して0.3?10重量部である。
【0010】
好ましい実施形態においては,上記(メタ)アクリル系樹脂がラクトン環構造を有する。
…(省略)…
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の好ましい実施形態について説明するが,本発明はこれらの実施形態には限定されない。
…(省略)…
【0017】
A-1.(メタ)アクリル系樹脂フィルム
上記(メタ)アクリル系樹脂フィルムは,(メタ)アクリル系樹脂を含む。(メタ)アクリル系樹脂フィルムは,例えば,(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含む樹脂成分を含有する成型材料を,押出し成型にて成型して得られる。
…(省略)…
【0045】
A-2.易接着層
上記易接着層は,ウレタン樹脂と微粒子とを含む易接着剤組成物で形成される。易接着層をこのような易接着剤組成物で形成することにより,巻き取り時に生じるブロッキングを効果的に抑制して,巻取性に優れた偏光子保護フィルムを提供し得る。また,ウレタン樹脂を用いることにより,(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性に優れた易接着層が得られ得る。易接着剤組成物は,好ましくは,水系である。水系は,溶剤系に比べて環境面に優れ,作業性にも優れ得る。
…(省略)…
【0059】
上記微粒子は,任意の適切な微粒子を用い得る。好ましくは,水分散性の微粒子である。具体的には,無機系微粒子,有機系微粒子のいずれも用い得る。無機系微粒子としては,例えば,シリカ,チタニア,アルミナ,ジルコニア等の無機酸化物,炭酸カルシウム,タルク,クレイ,焼成カオリン,焼成珪酸カルシウム,水和珪酸カルシウム,珪酸アルミニウム,珪酸マグネシウム,燐酸カルシウム等が挙げられる。有機系微粒子としては,例えば,シリコーン系樹脂,フッ素系樹脂,(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。これらの中でも,好ましくは,シリカである。ブロッキング抑制能にさらに優れ得,かつ,透明性に優れ,ヘイズを生じず,着色もないので,偏光板の光学特性に与える影響がより小さいからである。また,シリカは易接着剤組成物への分散性および分散安定性が良好であるので,易接着層形成時の作業性にもより優れ得るからである。さらに,シリカは,(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性にも優れる。
【0060】
上記微粒子の粒子径(平均一次粒子径)は,好ましくは10?200nm,さらに好ましくは20?60nmである。このような粒子径の微粒子を用いることにより,易接着層表面に適切に凹凸を形成して,(メタ)アクリル系樹脂フィルムと易接着層および/または易接着層どうしの接触面における摩擦力を効果的に低減し得る。その結果,ブロッキング抑制能にさらに優れ得る。また,平均一次粒子径が可視光波長よりも小さく,かつ小さければ小さいほど,粒子による光散乱を抑制できるので,偏光板の光学特性に与える影響をより抑制し得る。
【0061】
上記易接着剤組成物が水系の場合,好ましくは,上記微粒子は水分散体として配合される。具体的には,微粒子としてシリカを採用する場合,好ましくは,コロイダルシリカとして配合される。コロイダルシリカとしては,市販品をそのまま用い得る。市販品としては,例えば,扶桑化学工業(株)製のクォートロンPLシリーズ,日産化学工業(株)製のスノーテックスシリーズ,日本アエロジル(株)のAERODISPシリーズおよびAEROSILシリーズ等が挙げられる。
…(省略)…
【0096】
((メタ)アクリル系樹脂フィルムの作製)
[下記一般式(1)中,R^(1)は水素原子,R^(2)およびR^(3)はメチル基であるラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2,ラクトン環化率約100%,ラクトン環構造の含有割合19.4%,重量平均分子量133000,メルトフローレート6.5g/10分(240℃,10kgf),Tg131℃}90重量部と,アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20,東洋スチレン社製}10重量部との混合物;Tg127℃]のペレットを二軸押し出し機に供給し,約280℃でシート状に溶融押し出しして,厚さ110μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シートを得た。この未延伸シートを,160℃の温度条件下,縦2.0倍,横2.4倍に延伸して(メタ)アクリル系樹脂フィルム(厚さ:40μm,面内位相差Δnd:0.8nm,厚み方向位相差Rth:1.5nm)を得た。
【0097】
【化1】



(4) 対比
本件補正後発明と引用発明を比較すると,以下のとおりである。
ア アクリル樹脂フィルム
引用発明の「積層フィルム」は,「基材フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に樹脂層が積層された積層フィルム」である。
そうしてみると,引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム」と本件補正後発明の「アクリル樹脂フィルム」は,「樹脂フィルム」の点で共通する。

イ ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)
引用発明の「樹脂層」は,「アクリル樹脂成分のガラス転移点が67℃以上であるアクリル変性ポリエステル(A)」を含む。ここで,「アクリル変性ポリエステル(A)」は,その文言のとおり,ポリエステル樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂である。また,引用発明の「積層フィルム」は,「ディスプレイ用途の光学用易接着フィルムへ利用できる」ものであるところ,この易接着性は「樹脂層」の機能によるものである(引用例1の段落[0002],[0049]及び[0052]の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「樹脂層」は,本件補正後発明の「易接着層(a)」に相当する。また,引用発明の「樹脂層」は,本件補正後発明の「易接着層(a)」における「ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)を含有する」の要件を満たす。

ウ 微粒子
引用発明の「樹脂層」における「無機粒子(D)」は,樹脂層において用いられるものであるから,微粒子と称するに相応しい,微小なものといえる。
そうしてみると,引用発明の「無機粒子(D)」は,本件補正後発明の「微粒子」に相当する。

エ 光学フィルム
引用発明の「積層フィルム」は,「ヘイズが2.0%以下であり,ディスプレイ用途の光学用易接着フィルムへ利用できる」ものである。
そうしてみると,引用発明の「積層フィルム」は,本件補正後発明の「光学フィルム」に相当する。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 樹脂フィルムと,ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)を含有する易接着層(a)と,を有し,
前記易接着層(a)が微粒子を含有する光学フィルム。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の構成で相違する。
(相違点1)
本件補正後発明の「樹脂フィルム」は,「主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含有するアクリル樹脂(A)からなるアクリル」樹脂フィルムであるのに対して,引用発明のものは,「熱可塑性フィルム」ではあるが,「主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含有するアクリル樹脂(A)からなるアクリル」樹脂フィルムであるとは特定されていない点。

(相違点2)
本件補正後発明の「ポリエステル-アクリル複合樹脂(B)」は,「エポキシ基およびカルボキシル基を有し」ているのに対して,引用発明のものは,「エポキシ基およびカルボキシル基を有し」ているとは特定されていない点。

(相違点3)
本件補正後発明の「微粒子」は,「平均一次粒子径が20?200nmであり」,「粒度分布が1.0?1.4である」のに対して,引用発明の「無機粒子(D)」は,「平均一次粒子径が20?200nmであり」,「粒度分布が1.0?1.4である」とは特定されていない点。

(6) 判断
ア 相違点1について
光学フィルムの技術分野において,主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体を含有するアクリル樹脂(A)からなるアクリル樹脂フィルムは,例えば,前記(3)ア(イ),前記(3)イ(イ),前記(3)ウ(イ)及び前記(3)エ(イ)の記載からみて,周知である(以下「周知技術」という。)。また,上記周知技術の用途には,画像表示装置の偏光子の保護フィルムが含まれ,また,上記周知技術を採用すると,耐熱性が向上するとされている。
ここで,引用発明は,「基材フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に樹脂層が積層された積層フィルムであって,…ディスプレイ用途の光学用易接着フィルムへ利用できる,積層フィルム」である。したがって,引用発明の積層フィルムにおいても,耐熱性が求められることは,自明である。加えて,引用発明の「基材フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルム」は,アクリル樹脂であることを排除しない(引用例1の段落[0053]参照。)。
そうしてみると,引用発明の基材フィルムとして,周知技術のものを採用することにより,相違点1に係る本件補正後発明の構成を具備するものとすることは,当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

イ 相違点2について
まず,引用例1の段落[0019],[0020]及び[0049]には,それぞれ,「アクリル変性ポリエステル(A)を構成するアクリル樹脂成分は,…エポキシ含有アクリルモノマーがアクリル樹脂成分全体に対して3質量%以上50質量%以下含まれていることが好ましい。」,「エポキシ含有アクリルモノマーがアクリル樹脂成分全体に対して3質量%以上含まれていると,アクリル樹脂成分の架橋密度が保たれ樹脂層の削れや,加熱加工時の樹脂層の熱変形を抑制することができ…る。」及び「本発明に用いることのできるエポキシ系化合物としては,…特に2官能以上のエポキシ系化合物を用いることが好ましく,本発明の樹脂層を熱可塑性樹脂フィルム上に設け積層フィルムとしたときに,樹脂層のオリゴマー抑制効果だけでなく,各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性,強靭性,耐水性,耐溶剤性が高まり好ましく用いることができる。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明のアクリル樹脂成分中にエポキシ含有アクリルモノマーを含めること(エポキシ基を有する樹脂層とすること)は,引用発明が予定していることにすぎない。
次に,引用例1の段落[0019],[0021]及び[0025]には,それぞれ,「アクリル変性ポリエステル(A)を構成するアクリル樹脂成分は,アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートがアクリル樹脂成分全体に対して50質量%以上97質量%以下含まれ…ていることが好ましい。」,「アルキルメタクリレートおよび/またはアルキルアクリレートとしては,メタクリル酸,…アクリル酸,…マレイン酸,イタコン酸…を用いるのが好ましい。」及び「ポリエステル樹脂成分を水系溶媒へ溶解,または分散させ水系樹脂組成物として用いる場合にはポリエステル樹脂成分の水溶性化あるいは水分散化を容易にするため,…カルボン酸塩基を含む化合物を共重合することが好ましい。カルボン酸塩基を含む化合物としては,例えば,トリメリット酸,無水トリメリット酸,ピロメリット酸,無水ピロメリット酸,4-メチルシクロヘキセン-1,2,3-トリカルボン酸,トリメシン酸,1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸,1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸…等を挙げることができる」と記載されている。
そうしてみると,引用発明のアクリル樹脂成分として,上記化合物を採用すること(カルボキシル基を有する樹脂層とすること)も,引用発明が予定していることにすぎない。
したがって,相違点2は,引用発明が具備するに等しい構成であり,少なくとも,引用発明において相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用することは,引用例1の記載が示唆する範囲内の構成にすぎない。

ウ 相違点3について
引用発明の「無機粒子(D)」は,樹脂層の易滑性を向上させること等を目的としたものである(前記(1)エ)。そして,引用例2の段落【0052】(前記(3)ア(ウ))には,光学フィルムの耐ブロッキング性及び透明性を両立するために,アクリル樹脂フィルムの表面の易接着層に微粒子を含めることが開示されている。
そうしてみると,引用発明の「無機粒子(D)」として,引用例2に記載された微粒子を採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。
ところで,引用例2の段落【0052】には,平均一次粒子径が200nmを超える微粒子の粒度分布が1.0?1.4であることは明記されているが,平均一次粒径が200nm以下の微粒子については,粒度分布の明記がない。
しかしながら,段落【0052】に記載された特許文献2(引用例5)の段落【0060】及び【0061】(前記(3)エ(イ))には,それぞれ,「上記微粒子の粒子径(平均一次粒子径)は,好ましくは10?200nm,さらに好ましくは20?60nmである。このような粒子径の微粒子を用いることにより,易接着層表面に適切に凹凸を形成して,(メタ)アクリル系樹脂フィルムと易接着層および/または易接着層どうしの接触面における摩擦力を効果的に低減し得る。その結果,ブロッキング抑制能にさらに優れ得る。また,平均一次粒子径が可視光波長よりも小さく,かつ小さければ小さいほど,粒子による光散乱を抑制できるので,偏光板の光学特性に与える影響をより抑制し得る。」及び「上記易接着剤組成物が水系の場合,好ましくは,上記微粒子は水分散体として配合される。具体的には,微粒子としてシリカを採用する場合,好ましくは,コロイダルシリカとして配合される。コロイダルシリカとしては,市販品をそのまま用い得る。市販品としては,例えば,扶桑化学工業(株)製のクォートロンPLシリーズ,日産化学工業(株)製のスノーテックスシリーズ,日本アエロジル(株)のAERODISPシリーズおよびAEROSILシリーズ等が挙げられる。」と記載されている。
他方,本件出願の段落【0129】?【0133】には,以下のとおり記載されている。
「【0129】
前記微粒子の粒度分布は,1.0?1.4であることが好ましく,1.0?1.2がより好ましい。
【0130】
前記微粒子の平均一次粒子径および粒度分布は,レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(例えば,Particle Sizing Systems製,Submicron Particle Sizer NICOMP380)により求めることができる。
【0131】
具体的には,媒体中に分散した状態にある微粒子に対して,前記測定装置により,その等価球形分布を求める。次に,求めた分布における,大粒子側から積算した積算体積分率50%の粒子の粒子径を求め,これを微粒子の平均一次粒子径(d50)とする。
【0132】
これとは別に,当該分布における,大粒子側から積算した積算体積分率25%の粒子の粒子径(d25)および75%の粒子の粒子径(d75)を求め,その比(d25/d75)を微粒子の粒度分布とする。なお,媒体は,粒度分布装置の構成および能力に応じて適宜選択でき,例えば水であるが,液体に限られない。
【0133】
易接着層(a)を形成する組成物が水系の場合,好ましくは,前記微粒子は水分散体として配合される。具体的には,微粒子としてシリカを採用する場合,好ましくは,コロイダルシリカとして配合される。コロイダルシリカとしては,市販品をそのまま用い得る。市販品としては,例えば,扶桑化学工業(株)製のクォートロンPLシリーズ,日産化学工業(株)製のスノーテックスシリーズ,日本アエロジル(株)製のAERODISPシリーズおよびAEROSILシリーズ等が挙げられる。」

すなわち,特許文献2には,本件出願の明細書の段落【0133】において列挙されている市販品と全く同じ市販品が列挙されている。これら市販品は,いずれも,粒径等に応じた種々の製品グレードを有するものであるから,相違点3に係る本件補正後発明の要件を満たさない製品も含まれるが,相違点3に係る本件補正後発明の要件を満たす製品も含まれるといえる。また,引用例2の段落【0162】及び【0167】にも,市販品のシリカ微粒子が開示されているところ,これらシリカ微粒子は,それぞれ平均一次粒子径0.28μmで粒度分布1.1の微粒子,及び平均一次粒子径0.11μmで粒度分布1.1の微粒子である。
そうしてみると,引用例2の段落【0052】には,平均一次粒径が200nm以下かつ粒度分布が1.0?1.4である微粒子も記載されているといえる。

あるいは,以下のようにもいえる。
すなわち,引用例2の段落【0052】には,微粒子の粒径を大きくするとフィルムの白濁が生じることが開示されているところ,引用発明の光学フィルムは「ヘイズが2.0%以下」であることを要件とするものである。
そうしてみると,引用発明において引用例2に記載された微粒子を採用するに際し,粒径分布がシャープに制御された(粒径の大きな微粒子が極力含まれない)微粒子であって,平均一次粒径が20?200nmの範囲内のものを採用することは,引用例2の段落【0052】の記載が示唆する事項にすぎない。

エ 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書(「3.」(2)(2-2)本願発明と引用発明の対比)において,概略,引用例2には平均一次粒子径が200nm以下のシリカ微粒子を除外する技術思想が記載されているから,阻害要因があると主張する。
しかしながら,引用例2の段落【0055】には,微粒子の平均一次粒子径の上限として,「例えば,1000nm以下であり,好ましくは500nm以下,より好ましくは400nm以下,さらに好ましくは350nm以下」というように,明らかに可視光波長に影響を及ぼす平均一次粒径が例示されている(当合議体注:シリカの屈折率は約1.5である。)。また,引用例2には,シリカ微粒子の平均一次粒子径が,0.28μm(実施例1)では耐ブロッキング性が高く,0.11μm(比較例2)では耐ブロッキング性が劣ることが記載されている(段落【0189】)が,易接着層の膜厚は共に270nmであり,シリカ微粒子が,実施例1では凸起となり,比較例2では易接着層中に埋もれる条件とされている。
このような引用例2の記載に接した当業者ならば,引用例2の段落【0052】の記載をそのまま受け入れるとは考えられない。当業者ならば,むしろ,従来のシリカ微粒子の平均一次粒径の範囲内において,引用発明の樹脂層の厚みとの関係が引用例1の[請求項4]に記載されているように(樹脂層の厚みより無機粒子の粒径が大きくなるように)引用発明の「無機粒子(D)」の粒径を設計するといえる。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

(7) 発明の効果について
発明の効果に関して,本件出願の明細書の段落【0025】には,「ハードコート層などの機能性コーティング層との密着性に優れ,強度も向上した光学フィルムおよびそれを用いた偏光子保護フィルム,偏光板並びに画像表示装置を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら,相違点2の判断(前記(6)イ)で述べたとおりであるから,本件補正後発明の効果は,引用発明が予定している効果にすぎない。

(8) 上申書について
審判請求人は,本件出願の易接着層が,ハードコート層との密着性に特に優れるという顕著な効果を奏することを示す実験成績証明書を提出するとともに,請求項2の「機能性コーティング層」を「ハードコート層」に減縮したものを請求項1とする補正を行う用意があると上申する。
しかしながら,審判請求人が主張する効果は,易接着層として,高松油脂株式会社製のペスレジンA-647GEX等の市販品を採用した結果に過ぎず,また,引用例1の段落[0049]に開示された効果にすぎない。

3 小括
本件補正後発明は,引用発明,周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
よって,本件補正は,同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は却下されたので,本願発明1及び本願発明5は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明1は引用発明(引用例1に記載された発明)及び周知技術に基づいて,本願発明5は引用発明,周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例1等に記載の事項
引用例1に記載の事項及び引用発明については,それぞれ前記「第2」2(1)及び(2)に記載のとおりである。また,引用例2に記載の事項及び引用例2に記載された技術については,それぞれ前記「第2」2(3)ア及び(6)ウに記載のとおりである。周知技術を示す引用例2?引用例5の記載及び周知技術については,それぞれ,前記「第2」2(3)ア?エ及び(6)アのとおりである。

4 対比及び判断
本願発明1は,本件補正後発明から,前記相違点2及び相違点3に係る本件補正後発明の構成を除いたものである。また,本願発明5は,本件補正後発明の相違点3に係る数値範囲を「20?200nm」から「300nm以下」に拡張したものである。
そうすると,本願発明1は,前記「第2」2(4)?(7)で述べたとおりの理由(ただし,相違点2及び相違点3の判断部分(前記(6)イ及びウの判断)を除く)により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。また,本願発明5は,前記「第2」2(4)?(7)で述べたとおりの理由により,引用発明,周知技術及び引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明1及び本願発明5は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-19 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-06 
出願番号 特願2012-189278(P2012-189278)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 最首 祐樹  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 光学フィルムおよびその利用  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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