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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47L
管理番号 1330592
審判番号 不服2016-8979  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-16 
確定日 2017-07-20 
事件の表示 特願2015- 95539「自走式電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月27日出願公開、特開2015-134297〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月30日に出願した特願2013-114178号の一部を平成27年5月8日に新たな特許出願としたものであって、平成28年3月15日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成28年6月16日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成29年2月20日付けで拒絶理由が通知され、それに対し平成29年4月21日に意見書が提出されたものである。


第2 本願発明について
1 本願発明
特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「底板を有する筐体と、
該筐体を支持する左右一対の駆動輪ユニットと、
該駆動輪ユニットを前記底板から下方へ突出させる方向に弾発付勢する弾発部材とを備え、
前記一対の駆動輪は、同一方向に正回転して前進し、同一方向に逆回転して後退するように制御され、
前記駆動輪ユニットは、駆動輪と、該駆動輪を第1軸心廻りに回転可能に保持する駆動輪ホルダとを有し、
前記駆動輪ホルダは、前記第1軸心よりも後方に配置され、前記第1軸心と平行な第2軸心廻りに回動可能として前記筐体に取り付けられており、
前記弾発部材は、前端が前記筐体内の特定位置に取り付けられ、後端が前記駆動輪ホルダに取り付けられており、
前記駆動輪が床面に接地した状態において、床面から前記第2軸心の高さが前記第1軸心の高さよりも低く設定されていることを特徴とする自走式電子機器。」

2 引用例
(1) 引用例
当審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である韓国公開特許第10-2007-0070658号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(原文は省略し、当審による翻訳のみ記載する。下線は当審による。)
(ア)「請求項 1.
掃除ロボット本体の下側に結合され、駆動モータが設置された支持体と、上記支持体に回転可能に結合され、掃除される床と接触された状態で上記駆動モータによって一方向に回転されたとき、上記掃除ロボット本体が前方に移動されるようにするホイールを含む掃除ロボット本体用ホイールアセンブリにおいて、上記支持体は、上記掃除ロボット本体に上記ホイールが上記床に接触される方向と離間する方向に回動可能にヒンジ結合されており、上記支持体を上記ホイールが上記床に接触する方向に弾性的に加圧するスプリングを含むことを特徴とする掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ。」(1頁下から4行?2頁4行))

(イ)「これらの掃除ロボットは、本体に装着された各種センサとそのセンサに受信された信号を処理する信号処理部などを備えて障害物や壁などを自ら感知して掃除領域を決定し、最適なパスを計算した後、その計算された最適パスに沿って移動しながら清掃を実施する。この過程で、掃除ロボットは、ホイールの回転数を検出して、自分の位置を把握して計算されたパスを移動する。」(2頁下から3行?末行)

(ウ)「発明が解決しようとする課題
本発明は、上述した問題点を解決するために導き出されたものであって、凹凸のある面でもホイールが床面に常に接地されるようにする掃除ロボット用ホイールアセンブリを提供することにその目的がある。」(3頁9?11行)

(エ)「本発明の一実施形態に係る掃除ロボット用ホイールアセンブリは、掃除ロボット本体(1)を掃除される床(2)の上で前方に移動するようにするためのものであって、支持体(10)とホイール(20)とスプリング(30)で構成されている。
上記支持体(10)は、上記ホイール(20)を回転可能に支持する。上記支持体(10)には、駆動モータ(11)が設置されており、その内部には、上記駆動モータ(11)の回転を上記ホイール(20)に伝達するギア列(図示せず)が内蔵されている。
上記支持体(10)は、上記掃除ロボット本体(1)の下側に結合されているが、上記ホイール(20)の前方に一定距離離隔された地点から、上記掃除ロボット本体(10)に対して上記ホイールが床(2)に接触される方向と離間する方向に回動可能にヒンジ結合(12)されている。すなわち、上記支持体(10)は、一側が固定された状態で上下方向に回動可能にヒンジ結合(12)されているのである。」(3頁下から2行?4頁5行)

(オ)「上記スプリング(30)は、上記支持体(10)を上記ホイール(20)が、上記底(2)床に接触する方向に弾性的に加圧するものであって、一端は、ホイール(20)の後方に一定距離離隔されたポイントに固定されており、他端部は、上記支持体(10)の接続部(15)に固定されている。本実施例では、引張スプリング(30)が一つ使用されているが、場合によって複数のテンションスプリングまたは圧縮スプリングを使用することができ、その取り付け位置も製作しようとする掃除ロボットの内部事情やスプリングの種類に応じて適切に選択することができる。」(4頁21?25行)

(カ)「本発明の一実施例ではホイールアセンブリは、掃除ロボット本体(1)を移動させるための構造として、支持体(10)に結合されている駆動モータ(11)が一方向に回転すると、その回転が上記支持体(10)に内蔵されたギア列によってホイール(20)に伝達され、その回転力によってホイール(20)がきれいになる床(2)と接触された状態で回転することにより、掃除ロボット本体(1)が予め入力された、あるいは自ら計算された方向に移動することになる。一般的に、掃除ロボット本体(1)には、一対のホイールアセンブリが使用される。
床(2)が平らな場合には、図3aに示すように掃除ロボット本体(1)の自重によってスプリング(30)が引張された状態で掃除ロボットが走行することになる。このような状態では、ホイール(20)が底(2)と接触された状態が維持されるため、優れた走行性能を維持した状態で清掃を行うことになる。
しかし、床(2)に屈曲が形成されており、へこみの状態では、図3bに示すようにスプリング(30)の復元力によって支持体(10)が、ホイール(20)が底(2)に接触される方向に回動になり、それに応じてホイール(20)も底(2)に接触される方向に回動するようになり、底(2)に溝がある場合でも、ホイール(20)と床(2)の接触状態が維持される。
掃除ロボットが床(2)に溝がある状態を走行して再度平らな床(2)を走行することになる場合には、再度掃除ロボットの自重によって図3aに示された状態に戻る。」(4頁27?末行)

(キ)「一方、上記で説明したように、支持体(10)がホイール(20)の前方で一定距離離隔された部分にヒンジ結合(12)されているが、このような構造をとる場合、床(2)に、小さな岩などの障害物がある場合にも、その障害物を効果的に乗り越えながら走行が可能な利点が生じることになる。障害物を越えて走行するためには、障害物がある方向への進行のための駆動力も重要だが、その障害物とホイール(20)との間の摩擦力も非常に重要な要素である。一定程度の摩擦力が作用していない場合には、ホイール(20)が無駄にホイールを回す場合が発生するようになり、そのような場合には、障害物を超えることができなくなるのである。摩擦力は垂直抗力と摩擦係数を乗じた値として定義され、摩擦係数はホイールの外周面の材質や形状、障害物の表面の材質などによって決定される物質固有の性質であり、垂直抗力はホイール(20)と障害物の接点でホイール(20)が障害物に対して垂直に加える力として、主に掃除ロボットの自重による重力の中でホイール(20)が障害物に対して垂直に加える力の成分である。本実施例では、支持体(10)がホイール(20)の前方にヒンジ結合(12)されており、支持体(20)に固定されたスプリングは、ホイール(20)の後方に一定距離離隔された地点に固定されているので、ホイールを中心に掃除ロボット本体(1)の前方側に回転させようと力が作用するようになる効果が生じるが、これらの力によって垂直抗力が増加する効果が生じることになる。ホイール(20)が障害物に作用する垂直抗力が増加するにつれてホイール(20)と障害物との間の摩擦力も比例して増加することになるので、障害物を効率的に進むことができるようになるのである。
上記では、支持体がホイールの前方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合された実施例について説明し、そのような構成をとることが望ましいが、必ずしも支持体はホイールの前方に一定距離離隔された地点でヒンジ結合しなければならないわけではなくホイールの後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合されたり、他の適切な位置にヒンジ結合されることもあり、そのような構成も本発明の技術的思想に反するものではなく、むしろ、本発明の技術的思想に含まれるものと見るべきである。」(5頁16?32行)

(ク)「図面の簡単な説明
図1は、掃除ロボットの斜視図。
図2は、本発明の一実施形態に係る掃除ロボット用ホイールアセンブリの斜視図。
図3aは、底が平らな場合、図2に図示された掃除ロボット用ホイールアセンブリのスプリングが引張された状態でホイールと床が接触された状態を示した図。
図3bは、床に屈曲がある場合、図2に図示された掃除ロボット用ホイールアセンブリのスプリングが一定程度復元された状態で、ホイールと床が接触された状態を示した図。
図3cは、床にたわみがひどく、図2に図示された掃除ロボット用ホイールアセンブリのスプリングが復元され、安全スイッチが接続された状態を示した図。
図4は、図1に図示された掃除ロボットに、図2に図示された掃除ロボット用ホイールアセンブリが結合された状態を示した図。」(6頁10?19行)

(ケ)図2




(コ)図3a




(サ)図3b




(シ)図3c




(ス)図4




(セ)図4から、掃除ロボット本体(1)が底板を有していること及び掃除ロボット本体用ホイールアセンブリが左右一対であることが看取できる。

(ソ)図2を参照すると、図3aにおいて、支持体(10)内の円のうち駆動モータ(11)が示される円の次に大きな円内にホイール(20)の軸心が存在することは、ホイール(20)の外径との関係から明らかである。そして、上記(カ)の記載によると、図3aは床(2)が平らな場合の掃除ロボットの走行時の状態を表しており、床(2)からヒンジ結合(12)の軸心の高さがホイール(20)の軸心の高さよりも低いことが、図3aより看取できる。

(2) 引用例に記載された発明及び事項
上記記載事項(キ)に「上記では、支持体がホイールの前方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合された実施例について説明し、そのような構成をとることが望ましいが、必ずしも支持体はホイールの前方に一定距離離隔された地点でヒンジ結合なければならないわけではなくホイールの後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合されたり、他の適切な位置にヒンジ結合されることもあり、そのような構成も本発明の技術的思想に反するものではなく、むしろ、本発明の技術的思想に含まれるものと見るべきである。」と記載されており、支持体が、ホイールの後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合されたものが記載されている。そして、掃除ロボット本体用ホイールアセンブリが支持体、ホイール及びスプリング等で構成されており、スプリングの一端部が掃除ロボット本体に固定され、他端部が支持体に固定されることでホイールを床に接触する方向に弾性的に加圧する必要のあることを考慮すれば、ヒンジ結合の位置をホイールの前方から後方に変えることは、単に掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ自体の向きを前後で反転させることと理解するのが自然であり、結果、スプリング(30)は、一端部がホイール(20)の前方に一定距離離隔されたポイントに固定されており、他端部が支持体(10)の接続部(15)に固定されることとなる。
ここで、請求人は、平成29年4月21日の意見書において、単に掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ自体の向きを前後で反転させることは、重心位置や回転性能等種々の問題が生じることからそのような解釈には至らない旨主張する((1)B.)。
しかし、単に掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ自体の向きを前後で反転させた場合、請求人が主張する種々の問題が生じる可能性があるとしても、掃除ロボットとしての機能を果たせないものとまではいえず、上記のとおり、「ホイールの後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合され」るとの記載に触れた当業者であれば、掃除ロボット本体用ホイールアセンブリの構造から、単に掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ自体の向きを前後で反転させることと理解するものであるから、請求人の主張は採用できない。

そうすると、引用例には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「底板を有する掃除ロボット本体(1)と、
支持体(10)とホイール(20)とスプリング(30)で構成され、掃除ロボット本体(1)の下側に結合された左右一対の掃除ロボット本体用ホイールアセンブリと、
スプリング(30)は、掃除ロボット本体用ホイールアセンブリの支持体をホイール(20)が床に接触する方向に弾性的に加圧するものであり、
支持体(10)には、駆動モータ(11)が設置されており、その内部には、駆動モータ(11)の回転をホイール(20)に伝達するギア列が内蔵され、
支持体(10)は、ホイール(20)の後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体(1)にヒンジ結合(12)され、
スプリング(30)は、一端部がホイール(20)の前方に一定距離離隔されたポイントに固定されており、他端部が支持体(10)の接続部(15)に固定されており、
床(2)が平らな場合の掃除ロボットの走行時の状態において、床(2)からヒンジ結合(12)の軸心の高さがホイール(20)の軸心の高さよりも低い掃除ロボット。」

3 本願発明と引用発明1の対比
(1) 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「掃除ロボット本体(1)」は、本願発明でいう「筐体」を備えることは明らかであり、引用発明1の「左右一対の掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ」は、その作用から本願発明の「左右一対の駆動輪ユニット」に相当し、以下同様に、「スプリング(30)」は「弾発部材」に、「ホイール(20)」は「駆動輪」に、「ホイール(20)の軸心」は「第1軸心」に、「支持体(10)」は「駆動輪ホルダ」に、「ヒンジ結合(12)の軸心」は「第2軸心」に、「床(2)」は「床面」にそれぞれ相当するする。

(イ)引用発明1の「掃除ロボット本体(1)の下側に結合された左右一対の掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ」は、掃除ロボット本体用ホイールアセンブリが掃除ロボット本体(1)を支持しているといえるから、本願発明の「該筐体を支持する左右一対の駆動輪ユニット」に相当する。

(ウ)引用発明1の「掃除ロボット本体用ホイールアセンブリの支持体をホイール(20)が床に接触する方向に弾性的に加圧するスプリング(30)」は、「掃除ロボット本体用ホイールアセンブリの支持体を」「弾性的に加圧する」ことが掃除ロボット本体用ホイールアセンブリを弾性的に加圧することであって、「ホイール(20)が床に接触する方向」は掃除ロボット本体(1)の底板より下方へ突出する方向であるから、本願発明の「該駆動輪ユニットを前記底板から下方へ突出させる方向に弾発付勢する弾発部材」に相当する。

(エ)引用発明1の「掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ」は「左右一対」であるから、ホイール(20)も一対有しており、一対のホイール(20)が制御されることは明らかであるから、引用発明1の当該事項と、本願発明の「前記一対の駆動輪は、同一方向に正回転して前進し、同一方向に逆回転して後退するように制御され」ることとは、「前記一対の駆動輪は、制御され」ていることの限りで共通する。

(オ)引用発明1の「掃除ロボット本体用ホイールアセンブリ」が「支持体(10)とホイール(20)とスプリング(30)で構成され」、「支持体(10)は、ホイール(20)の後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体(1)にヒンジ結合(12)され」ることは、掃除ロボット本体用ホイールアセンブリが、「ホイール(20)」と、「ホイール(20)」を「ヒンジ結合(12)」により回転可能に保持される「支持体(10)」を有することであるから、本願発明の「前記駆動輪ユニットは、駆動輪と、該駆動輪を第1軸心廻りに回転可能に保持する駆動輪ホルダとを有」することに相当する。

(カ)引用発明1の「支持体(10)は、ホイール(20)の後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体(1)にヒンジ結合(12)され」ることは、「ホイール(20)」の軸心より「ヒンジ結合(12)」が後方に配置されており、「ホイール(20)」の軸心と「ヒンジ結合(12)」の軸心とが平行であることは明らかであるから、本願発明の「前記駆動輪ホルダは、前記第1軸心よりも後方に配置され、前記第1軸心と平行な第2軸心廻りに回動可能として前記筐体に取り付けられて」いることに相当する。

(キ)引用発明1の「スプリング(30)は、一端部がホイール(20)の前方に一定距離離隔されたポイントに固定されており、他端部が支持体(10)の接続部(15)に固定されて」いることは、掃除ロボット本体(1)のポイントに固定される他端部が、支持体(10)に固定される一端部より前側にあることとなるから、本願発明の「前記弾発部材は、前端が前記筐体内の特定位置に取り付けられ、後端が前記駆動輪ホルダに取り付けられて」いることに相当する。

(ク)引用発明1の「床(2)が平らな場合の掃除ロボットの走行時の状態」は、ホイール(20)が床(2)に接地した状態であるから、本願発明の「前記駆動輪が床面に接地した状態」に相当するから、引用発明の「床(2)が平らな場合の掃除ロボットの走行時の状態において、床(2)からヒンジ結合(12)の軸心の高さがホイール(20)の軸心の高さよりも低い」ことは、本願発明の「前記駆動輪が床面に接地した状態において、床面から前記第2軸心の高さが前記第1軸心の高さよりも低く設定されている」ことに相当する。

(ケ)引用発明1の「掃除ロボット」は、上記記載事項(イ)を参酌すると、自走式であるから、本願発明の「自走式電子機器」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。

<一致点>
「底板を有する筐体と、
該筐体を支持する左右一対の駆動輪ユニットと、
該駆動輪ユニットを前記底板から下方へ突出させる方向に弾発付勢する弾発部材とを備え、
前記一対の駆動輪は、制御され、
前記駆動輪ユニットは、駆動輪と、該駆動輪を第1軸心廻りに回転可能に保持する駆動輪ホルダとを有し、
前記駆動輪ホルダは、前記第1軸心よりも後方に配置され、前記第1軸心と平行な第2軸心廻りに回動可能として前記筐体に取り付けられており、
前記弾発部材は、前端が前記筐体内の特定位置に取り付けられ、後端が前記駆動輪ホルダに取り付けられており、
前記駆動輪が床面に接地した状態において、床面から前記第2軸心の高さが前記第1軸心の高さよりも低く設定されている自走式電子機器。」

<相違点1>
一対の駆動輪の制御について、本願発明では、同一方向に正回転して前進し、同一方向に逆回転して後退するのに対して、引用発明1は、そのように特定されていない点。

(2) 当審の判断
上記相違点1について検討する。
引用例の記載事項(イ)の記載及び(キ)の「本発明の一実施例ではホイールアセンブリは、掃除ロボット本体(1)を移動させるための構造として、支持体(10)に結合されている駆動モータ(11)が一方向に回転すると、その回転が上記支持体(10)に内蔵されたギア列によってホイール(20)に伝達され、その回転力によってホイール(20)がきれいになる床(2)と接触された状態で回転することにより、掃除ロボット本体(1)が予め入力された、あるいは自ら計算された方向に移動することになる。」との記載から、引用発明1は、所定の経路を移動するものであり、掃除領域に障害物や壁存在することを考慮すれば、当然に前進のみでなく後退することが必要であることは明らかであるから、駆動輪が同一方向に正回転して前進することに加えて、同一方向に逆回転して後退することが実質的に記載されているといえる。
よって、本願発明は、引用発明1と実質的に相違しないから、引用発明1である。

また、引用発明1に同一方向に逆回転して後退することが記載されていないとしても、そのような掃除ロボットは例を挙げるまでもなく周知であるから、引用発明1において、走行性を向上させるために、当該周知技術を適用して本願発明の上記相違点1に係る事項とすることは当業者が容易に想到し得たものであり、その効果も当業者が引用発明1及び当該周知技術から予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

(3) 請求人の主張について
請求人は、平成29年4月21日の意見書において、第2軸心の配置を前方から後方に変更するにあたって第2軸心の高さまで変更する理由はないこと、及び「ホイールの前方に一定距離離隔された地点でヒンジ結合されなければならないものではなくホイールの後方に一定距離離隔された地点で」「ヒンジ結合される」「ことができ」という表現からも、引用例1に触れた当業者は、駆動輪、駆動輪ホルダ及び弾発部材(スプリング(30))を含む駆動輪ユニット自体の前後関係を反転させ、その他の変更は加えないものと解釈することが記載されていない旨主張する。
そこで、仮に請求人が主張するように発明を認定した場合について検討する。
そうすると、引用例には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「底板を有する掃除ロボット本体(1)と、
掃除ロボット本体(1)の下側に結合された左右一対の掃除ロボット本体用ホイールアセンブリと、
掃除ロボット本体用ホイールアセンブリの支持体をホイール(20)が床に接触する方向に弾性的に加圧するスプリング(30)とを備え、
支持体(10)には、駆動モータ(11)が設置されており、その内部には、駆動モータ(11)の回転をホイール(20)に伝達するギア列が内蔵され、
支持体(10)は、ホイール(20)の前方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体(1)にヒンジ結合(12)され、
スプリング(30)は、一端部がホイール(20)の後方に一定距離離隔されたポイントに固定されており、他端部が支持体(10)の接続部(15)に固定されており、
床(2)が平らな場合の掃除ロボットの走行時の状態において、床(2)からヒンジ結合(12)の軸心の高さがホイール(20)の軸心の高さよりも低い掃除ロボット。」

そして、本願発明と引用発明2を対比すると、上記(1)の<相違点1>及び以下の点で一応相違し、その余の点で一致している。

<相違点2>
本願発明では、「前記駆動輪ホルダは、前記第1軸心よりも後方に配置され、前記第1軸心と平行な第2軸心廻りに回動可能として前記筐体に取り付けられており、前記弾発部材は、前端が前記筐体内の特定位置に取り付けられ、後端が前記駆動輪ホルダに取り付けられており、前記駆動輪が床面に接地した状態において、床面から前記第2軸心の高さが前記第1軸心の高さよりも低く設定されている」のに対して、引用発明2では、支持体(10)は、ホイール(20)の前方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体(1)にヒンジ結合(12)され、スプリング(30)は、一端部がホイール(20)の後方に一定距離離隔されたポイントに固定されており、他端部が支持体(10)の接続部(15)に固定されており、床(2)が平らな場合の掃除ロボットの走行時の状態において、床(2)からヒンジ結合(12)の軸心の高さがホイール(20)の軸心の高さよりも低い点。

<当審の判断>
<相違点1>については、上記(2)で検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
<相違点2>について検討する。
引用例1には、引用発明2の支持体がホイールの前方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合されたものに代えて、支持体がホイールの後方に一定距離離隔された地点から掃除ロボット本体にヒンジ結合されたものとすることが記載されている(記載事項(キ))。
そして、上記代えるに際し、ヒンジ軸とホイール軸との関係をそのままとすることは当業者にとって普通の発想であるから、引用発明において、相違点2に係る本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。また、上記代えた際に、請求人が主張するように重心の位置等の問題が生じる場合に、掃除ロボットの重心の位置を走行に好適な位置とするために、各部材の配置を適宜決定することは、当業者が容易になし得ることである。

さらに、本願発明の障害物に乗り上げるまでの摩擦力に関する効果は、その構造から物理法則上、当然に有する効果であるから、当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

4 むすび
したがって、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。
又、本願発明は、引用発明1又は2、及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-18 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-06 
出願番号 特願2015-95539(P2015-95539)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武井 健浩  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐々木 正章
窪田 治彦
発明の名称 自走式電子機器  
代理人 堅田 裕之  

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