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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1330643
審判番号 不服2016-3451  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-07 
確定日 2017-07-19 
事件の表示 特願2012-554232「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための固有抵抗の使用及び相応する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日国際公開、WO2011/103941、平成25年 6月 6日国内公表、特表2013-520810〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年12月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月25日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年 9月27日 翻訳文の提出
平成25年12月25日 審査請求
平成26年12月25日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年 3月25日 意見書及び手続補正書の提出
平成27年11月 2日 拒絶査定(起案日)
平成28年 3月 7日 審判請求、手続補正書の提出
平成28年 7月26日 上申書の提出


第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年3月7日に提出された手続補正書によりなされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正の概要
平成28年3月7日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本願の特許請求の範囲を補正するものであって、その概要は、補正前の請求項7、11、12を削除し、請求項8?10、13の項番号を請求項7?9、10に繰り上げるとともに、補正前の請求項1、4、5、8及び13を、以下のとおり、補正後の請求項1、4、5、7及び10に補正するものである。
<本件補正前>
「 【請求項1】
シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法において、シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造し、その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定し、その際、該方法はシラン又はゲルマンの工業的製造及び充填に利用されるものであり、かつ、プラントが、製造しかつ充填のために準備したシラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むことを特徴とする方法。」

「 【請求項4】
純度が、元素周期律表の第3主族の元素及び第5主族の元素の全含分に関するものであって、それぞれの主族への分類を行わない、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。」

「 【請求項5】
純度が、一方では元素周期律表の第3主族の元素及び/又は他方では元素周期律表の第5主族の元素の全含分に関するものであって、それぞれの主族への分類を行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。」

「 【請求項8】
シラン又はゲルマンの純度の測定を、該シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填の範囲内で、純度の継続的な監視の意味で繰り返し行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。」

「 【請求項13】
製造し、かつ/又は充填のために準備したシランないしゲルマンの品質管理のためのステーションを含む、シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填のためのプラントにおいて、品質管理のための該ステーションが、表面上に析出したシリコン膜又はゲルマニウム膜の固有抵抗を測定するための機器を含むことを特徴とするプラント。」

<本件補正後>
「 【請求項1】
シラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラントにおいて、シラン又はゲルマンを工業的製造及び充填する際に、シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法において、シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造し、その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定し、製造したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有していることを特徴とする方法。」

「 【請求項4】
純度が、元素周期律表の第3主族の元素及び第5主族の元素の全含分に関するものである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。」

「 【請求項5】
純度が、一方では元素周期律表の第3主族の元素の全含分、又は他方では元素周期律表の第5主族の元素の全含分に関するものである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。」

「 【請求項7】
シラン又はゲルマンの純度の測定を、純度の継続的な監視の意味で繰り返し行う、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。」

「 【請求項10】
シラン又はゲルマンの工業的製造及び充填のための、シランないしゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラントにおいて、品質管理のための該ステーションが、表面上に析出したシリコン膜又はゲルマニウム膜の固有抵抗を測定するための機器を含み、析出したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有していることを特徴とするプラント。」

(2)補正事項
本件補正の補正事項は、以下のとおりである。
ア 補正事項1
補正前の請求項7、11、12を削除し、これに伴い、補正前の請求項8?10、13の項番号を補正後は請求項7?9、10に繰り上げるとともに、従属請求項である補正後の請求項7?9が引用する請求項の項番号を補正する。

補正後の請求項1についての補正事項を整理すると次のとおりとなる。
イ 補正事項2
本件補正前の「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法」であって「その際、該方法はシラン又はゲルマンの工業的製造及び充填に利用されるものであり、かつ、プラントが、製造しかつ充填のために準備したシラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含む」という記載を、本件補正後は「シラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラントにおいて、シラン又はゲルマンを工業的製造及び充填する際に、シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法」と補正する。
ウ 補正事項3
本件補正後は「製造したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有している」という事項を追加する。

補正後の請求項4についての補正事項を整理すると次のとおりとなる。
エ 補正事項4
本件補正前の「それぞれの主族への分類を行わない」という事項を削除する。

補正後の請求項5についての補正事項を整理すると次のとおりとなる。
オ 補正事項5
本件補正前の「それぞれの主族への分類を行う」という事項を削除するとともに、引用する請求項から請求項4を外す。

補正後の請求項7についての補正事項を整理すると次のとおりとなる。
カ 補正事項6
本件補正前の「シラン又はゲルマンの純度の測定を、該シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填の範囲内で、純度の継続的な監視の意味で繰り返し行う」を、本件補正後は「シラン又はゲルマンの純度の測定を、純度の継続的な監視の意味で繰り返し行う」と補正する。

補正後の請求項10についての補正事項を整理すると次のとおりとなる。
キ 補正事項7
本件補正前の「製造し、かつ/又は充填のために準備したシランないしゲルマンの品質管理のためのステーションを含む、シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填のためのプラント」を、本件補正後は「シラン又はゲルマンの工業的製造及び充填のための、シランないしゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラント」と補正する。
ク 補正事項8
本件補正後は「析出したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有している」という事項を追加する。

2 新規事項の追加の有無、及び、補正の目的等について
以下、各補正事項について、新規事項の追加の有無、及び、補正の目的等を検討する。
(1)補正事項1について
補正事項1の本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とすると認められる。
そして、補正事項1の本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合することは明らかである。

(2)補正事項2について
ア 平成24年9月27日付けで提出された翻訳文は、特許法第184条の6第2項の規定により、本願に係る国際出願日における願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲又は図面とみなされる。
補正事項2は、前記翻訳文における、段落【0004】の「本発明の課題は、シラン及びゲルマンの品質管理のための方法、特に元素周期律表の第3主族及び第5主族の元素に関する純度を管理するための方法を提供することであり、その際、該方法は、シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填の連続的運転において、同時ないしは時間的に近いモニタリングの意味での品質管理を可能とするのに好適であることが望ましい。」等の記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項2の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ そして、補正事項2の本件補正は、平成27年11月2日付けの拒絶査定において、「補正された請求項1に記載の、「その際、該方法はシラン又はゲルマンの工業的製造及び充填に利用されるものであり、かつ、プラントが、製造しかつ充填のために準備したシラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含む」は、拒絶理由通知の F.で指摘したように文章の意味が不明であり、依然として、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。」と指摘されたことを受けて、特許請求の範囲の記載を明確にしようとしたものと認められる。
したがって、補正事項2の本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とすると認められる。

(3)補正事項3について
ア 補正事項3は、前記翻訳文における、段落【0018】の「所定の膜厚から生じる固有抵抗の最終値を決定するためには、シリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には、5?100μm、有利には8?50μm、特に有利には10?20μmの厚さを有することが望ましく、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合(例えばフロートゾーンウェハーの場合)には、1?50μm、有利には2?25μm、特に有利には3?10μmの厚さを有することが望ましい。」という記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項3の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ 補正事項3の本件補正は、本件補正前の「ガス状態から表面上に析出させること」によって「製造」した「シリコン膜又はゲルマニウム膜」が、本件補正後は「<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有している」ことを限定するものである。
したがって、補正事項3の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められる。

(4)補正事項4について
ア 補正事項4は、前記翻訳文における、段落【0010】の「特に元素周期律表の第3主族及び第5主族の元素による不純物は、それ以外では極めて高純度のシリコン膜ないしゲルマニウム膜の固有抵抗に影響を及ぼす。従って有利には、「純度」という概念は、測定した膜における、従って該膜の製造に使用したシランないしゲルマンにおける、元素周期律表の第3主族及び第5主族からの元素の -可能な限りわずかな- 濃度を意味する。」の記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項4の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ そして、補正事項4の本件補正は、平成27年11月2日付けの拒絶査定において、「補正された請求項4……に記載の、「それぞれの主族への分類を行わない」……の意味が不明である。」と指摘されたことを受けて、特許請求の範囲の記載を明確にしようとしたものと認められる。
したがって、補正事項4の本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とすると認められる。

(5)補正事項5について
ア 補正事項5は、前記翻訳文における、段落【0014】の「本発明のもう1つの実施態様において、純度は、一方では元素周期律表の第3主族の元素及び/又は他方では元素周期律表の第5主族の元素の全含分に関するものであることができ、その際、該不純物をそれぞれの主族に分類することも可能である。」の記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項5の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ そして、補正事項5の本件補正は、平成27年11月2日付けの拒絶査定において、「補正された請求項……5に記載の、……「それぞれの主族への分類を行う」の意味が不明である。(また、請求項5で引用する請求項4は矛盾している。)」と指摘されたことを受けて、特許請求の範囲の記載を明確にしようとしたものと認められる。
したがって、補正事項5の本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とすると認められる。

(6)補正事項6について
ア 補正事項6は、前記翻訳文における、段落【0019】の「特別な一実施態様において、本発明による方法は、シラン又はゲルマンの純度の決定を、純度の、同時ないしは時間的に近いモニタリングに相応する継続的な監視の意味で繰り返し行うというように構成されていてよい。」の記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項6の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ そして、補正事項6の本件補正は、前記翻訳文の特許請求の範囲の請求項7における「シラン又はゲルマンの純度の測定を、該シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填の範囲内で、純度の継続的な監視の意味で繰り返し行う、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。」という記載に対して、平成26年12月25日付けの拒絶理由通知において、「D.理由1」として「請求項7の「該シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填の範囲内で」は、文章の意味が不明である。」と指摘されたことを受けて、特許請求の範囲の記載を明確にしようとしたものと認められる。
したがって、補正事項6の本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とすると認められる。

(7)補正事項7について
ア 補正事項7は、前記翻訳文における、段落【0029】の「本発明のもう1つの対象は、製造したシランないしゲルマンの品質管理のための、かつ/又は充填のために予定ないし準備したシランないしゲルマンの品質管理のためのステーションを含む、シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は工業的充填のためのプラントにおいて、品質管理のためのステーションが、表面上に析出したシリコン膜ないしゲルマニウム膜の固有抵抗を測定するための機器を含むことを特徴とするプラントである。」等の記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項7の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ そして、補正事項7の本件補正は、前記翻訳文の特許請求の範囲の請求項12における「製造し、かつ/又は充填のために準備したシランないしゲルマンの品質管理のためのステーションを含む、シラン又はゲルマンの工業的製造及び/又は充填のためのプラントにおいて、品質管理のための該ステーションが、表面上に析出したシリコン膜又はゲルマニウム膜の固有抵抗を測定するための機器を含むことを特徴とするプラント。」という記載に対して、平成26年12月25日付けの拒絶理由通知において、「F.理由1」として「請求項12の「かつ/又は充填」、「品質管理のためのステーション」、「工業的製造及び/又は充填のためのプラント」、「品質管理のための該ステーション」は、文章の意味が不明である。」と指摘されたことを受けて、特許請求の範囲の記載を明確にしようとしたものと認められる。
したがって、補正事項7の本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とすると認められる。

(8)補正事項8について
ア 補正事項3について指摘したと同じ理由により、補正事項8の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ 補正事項3について指摘したと同じ理由により、補正事項8の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められる。

(9)発明の特別な技術的特徴について
なお、補正事項1ないし8の補正が請求項1に係る発明の特別な技術的特徴を変更しないことは、明らかである。

(10)検討のまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
(1)検討の前提
以上のとおり、補正事項2の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そこで、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正が、いわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かを、請求項1に係る発明について検討する。

(2)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「シラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラントにおいて、シラン又はゲルマンを工業的製造及び充填する際に、シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法において、シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造し、その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定し、製造したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有していることを特徴とする方法。」

(3)引用例の記載事項及び引用発明
ア 引用例の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知において「引用文献1」として引用され、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭62-145149号公報(以下「引用例」という。)には、「比抵抗値の測定方法」(発明の名称)について、次の事項が記載されている(下線は当審で付加。)。
(ア)従来の技術
「シリコン(Si)系ガスの純度を測定する方法としてはGC、IR、GC-MS、原子吸光、化学分析等ガスを直接分析する方法がある。それとは別にSi系ガスより一旦単結晶薄膜を製作しその電気的性質から単結晶薄膜の純度を測定しその純度の数値から間接的に、その原料であるSi系ガスの純度を評価する方法もある。
……(中略)……
単結晶薄膜の電気的性質を測定する方法としては、V(電圧)、I(電流)を測定する探針法とV(電圧)、C(容量)を測定するC-V法がある。
電気的に測定した単結晶薄膜の純度とは薄膜中の電気的に活性な成分量の表示であり、一般に活性な成分はドーパントと呼ばれる。ドーパントは電気伝導タイプによりP型とN型に分類される。優勢な側のドーパントが単結晶薄膜の電気伝導タイプを決定する。
単結晶薄膜中のドーパント量は、例えば、探針法では、V?I特性から算出された比抵抗値(Ωcm)により直ちに算出される。
そこで、一般に、単結晶薄膜の電気伝導タイプと比抵抗値をもって、そのまま、原料である電気的なシリコン系ガスの純度表示としている。」(第1頁下右欄第4行?第2頁上左欄第16行)

(イ)発明が解決しようとしている問題点
「シリコン系ガスの純度を測定する方法として、そのシリコン系ガスからエピタキシャル生長により単結晶薄膜を形成し、その薄膜の電気的性質からシリコン系ガスの純度を逆算決定する方法は半導体工業の適切なプロセス管理上必須不可決である。
ところが、従来の測定装置は、複雑高価であり、かつ、サンプルの前処理も長い工程を必要とするという問題点があった。
……(中略)……
またC-V法より簡単な方法に前記したごときV?I関係から薄膜の純度ひいては、シリコン系ガスの純度を決定する探針法がある。
この中では、2探針法(広がり抵抗法)と6探針法は、装置が高価かつ取り扱いが複雑であり、最も簡単な方法である4探針法が広く使用されている。さて2探針法では、単結晶薄膜とSi基板の電気伝導度の正逆の関係は、直接には問題ないけれども、この4探針法では、基板の影響を無くし単結晶薄膜だけのV?I特性を測定するためには、単結晶薄膜と基板との電気伝導タイプを逆にせねばならないという問題点がある。」(第2頁上左欄第18行?第2頁下左欄第4行)
「さて、CVD法で、Si-基板の上にエピタキシャル生長させる場合、通常Si-基板は1000℃以上に加熱される。すると基板中のドーパント(P型としてB、N型としてP、As等)が大量に逃散しエピタキシャル生長中の単結晶薄膜に混入する現象が生ずる。
かかるドーパントの混入現象が起こっても、モノシランガスが低い純度である場合は、比抵抗値に大きな影響を与えずに測定できた。
しかしながら、精製技術が発達し、純度が最低100Ωcm、通常1000?5000Ωcmの超高純度モノシランを対象としなければならない場合は、単結晶薄膜中のドーパント量が極微量であり、かつ一般にN型であるということを考慮する必要がある。Nタイプドーパントによる汚染は単に比抵抗値を下げるだけであり現象は単純であるが、Pタイプドーパントによる汚染はP-タイプドーパントの逃散速度がNタイプドーパントに比較して速い上に、単結晶薄膜を汚染したあとの現象も複雑で、単結晶薄膜の伝導タイプが、P、N混合型やP反転型になったりまた、反転しなくても比抵抗値が非常に大になり、Nタイプで測定不能になってしまう。そのため、超高純度シリコン系ガスの純度分析に、最も簡単な手法であるP型Si基板を用いて、単結晶薄膜を製作し、4探針法で比抵抗値を測定する方法を実用化することはとうてい不可能であった。」(第2頁下左欄第10行?第2頁下右欄第16行)
「本発明は、従来技術の困難を一掃する方法を提供するものである。
即ち、超高純度シリコン系ガスの比抵抗値測定に用いるSi基板を前もってエピタキシャルの全工程で使用される最高温度以上、より好ましくはそれを越える温度で加熱処理することにより、Si基板表層近くに存在するドーパントを前もって逃散させて後、ドライ塩酸エッチング時に、Si基板裏面を超高純度Si系ガスのポリSiでコーティングすることにより、Si基板からのドーパントの逃散を徹底的に防止し、汚染のない単結晶薄膜をエピタキシャル生長させる方法を要旨とするものであり、本発明に従って、はじめて、従来の方法では不可能であった超高純度Si系ガスを簡単、安価かつ正確に測定できるようになったのである。」(第2頁下右欄第17行?第3頁上左欄第11行)

(ウ)発明の目的
「本発明の目的は、超高純度シリコン系ガスの簡便、安価かつ正確な比抵抗値測定方法を提供することにある。」(第3頁上左欄第13?15行)

(エ)問題点を解決するための手段
「本発明は、
シリコン系ガスの純度を評価するに当たり、該シリコン系ガスを用いてシリコン基板上にエピタキシャル生長させた単結晶薄膜の比抵抗値を探針法で測定する方法において、まず、
(1) 該シリコン基板をエピタキシャル生長までの全工程で使用させる最高温度以上の温度で加熱処理し、
(2)サセプターを上記シリコン系ガスのポリシリコンによりコーティングし、
(3)該処理を行ったサセプターの上で、上記処理したシリコン基板をドライ塩酸によりエッチング処理した後、
(4)上記シリコン系ガスを用いて上記シリコン基板上に単結晶薄膜をエピタキシャル生長させ該単結晶薄膜の比抵抗を測定することを特徴とする高純度シリコン系ガスの純度評価のための比抵抗値の測定方法、
要旨とするものである。」(第3頁上左欄第17行?第3頁上右欄第15行。審決注:上記の( )付き数字は、原文では丸付き数字で表記されていた。)
「以下本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においてシリコン系ガスとは、モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライド;
四塩化ケイ素(SiCl_(4))、ヘキサクロルジシラン(Si_(2)Cl_(6))、ジクロルシラン(SiH_(2)Cl_(2))、トリクロルシラン(SiHCl_(3))等のシリコンクロライド;
テトラフルオロシラン(SiF_(4))、ジフロルシラン(SiH_(2)F_(2))、トリフルオロシラン(SiHF_(3))等のシリコンフルオライド 等の例が好ましいものとして挙げられるが、その他のものであっても、要するにSi基板上に、エピタキシャル生長によりSiの単結晶薄膜を製作する原料となりうるものであればいかなるシリコン系ガスでもかまわない。
なお、ここでガスと称しているが、常温で液体であっても使用時ガス状であるものはシリコン系ガスに含まれる。
本発明で云う超高純度とは、比抵抗値で表した値がおよそ最低100Ωcm,通常1000Ωcm以上のものである。
本発明においては、エピタキシャル成長させる手法を使用するが、このエピタキシャル生長させる手法は通常CVD法と呼ばれるものである。
エピタキシャル生長させる装置は、通常使用される方法でよく、加熱方法は高周波加熱、抵抗加熱があげられ反応管は石英製が好ましく縦型でも横型でも良い。またサセプターは石英、Si板、グラファイトで作られるが、特にSiCでコートしたグラファイトサセプターが好ましい。
このサセプターは、純度分析の資料にするシリコン系ガスによりポリシリコンコーティングしておく。
このポリシリコンの一部は、後述するようにドライ塩酸によるエッチング時にSi基板裏面に蒸着し、Si基板の裏面をカバーしてSi基板内部からのドーパントの逃散とそれによる単結晶Si基板の汚染を防ぐ作用をする。
Si基板の結晶型は(100)でも(111)でも良い。その電気伝導タイプは、2探針法の場合は、Pタイプでも、Nタイプでもよいが、4探針法を使用する場合は、前記したとおり、単結晶薄膜の導電タイプと逆であらねばならず、従ってSi基板とその上のエピタキシャル生長した単結晶薄膜はP-N接合を形成している必要がある。
比抵抗値は、入手しうるどのような値のものでもよいが余りに低いとSi基板の加熱処理時間を延長しなければならないし、逃散したドーパントはすべては排気され反応系を汚染する。また余りに高いと、基板からの汚染は少ないが、単結晶薄膜とSi基板との境界面がはっきりせず、単結晶薄膜の膜厚測定が困難になる。例えば、P-N接合面のステインがうまく行かず、ドリラー法での膜厚測定が不可能になる。
したがって通常10?500Ωcmが好ましい。
CVDによる単結晶薄膜の製作条件は、通常公知の方法でよく、例えば、シリコン系ガスをH_(2)等の希釈ガスにて0.01?0.5%程度に希釈して、サセプターで加熱したSi基板上に通加させる。この際のSi基板の温度は通常、1000?1100℃程度である。
エピタキシャル生長した単結晶薄膜は当然、欠陥、異常析出があってはならないが、分析値に影響しない程ごく少量存在する程度はさしつかえない。
単結晶薄膜の膜厚は、特に制限はないが、5?50μの範囲が製作速度、欠陥形状の大少や個数から見て好ましい。
本発明の方法で得られた単結晶薄膜を測定する探針法は、4探針法が簡便で最も好ましいが、2探針法で、測定しても支障は無い。
エピタキシャル生長により完全な単結晶薄膜を製作するには、CVD装置の操作条件を最高に設定せねばならないことはいうまでもないが、Si基板の前処理も重要である。
Si基板は、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、アンモニア、過酸化水素等を組合せて用いて化学薬品洗浄することが好ましい。
しかるのち、Si基板は石英反応管に設置して本発明の特徴である、エピタキシャル生長までの全工程で使用される最高温度以上より好ましくはこれを越える温度で加熱処理をし、しかるのち、ドライ塩酸によるエッチングを行う。
このエッチング工程においてはSi基板の表面はエッチングされるけれども、基板の裏面においては、SiC-コートグラファイトサセプターに前もってコーティングしておいたポリSi層が転写する結果、Si基板裏面からのドーパントの逃散と単結晶薄膜への汚染が効果的に防止されるのである。
そのあと、直ちにCVD装置で、その基板上に単結晶薄膜を製作する。」(第3頁上右欄第16行?第4頁下左欄第5行)

(オ)発明の要旨
「以上述べた本発明の特徴点をここで簡単に要約しておく。
超高純度シリコン系ガスの純度を探針で比抵抗値を測定することにより決定する場合、そのガスをもとに、エピタキシャル生長している単結晶薄膜を、Si基板から逃散してくるドーパントによる汚染から徹底的に防ぐ必要がある。
シリコン系ガスと同じ電気伝導タイプのSi基板を用いる場合は、基板からの汚染により比抵抗値は必ず低くなる。比抵抗値の高い超高純度シリコン系ガスの測定値が常に低く測定されることは非常に具合の悪い点であるが、測定値の信頼性から言えば、測定値が安全サイドによっていることで好ましい傾向である。即ち、汚染を少くすれば比抵抗値は高くなる、言いかえれば、高い比抵抗値が得られればそれだけ真値に近づいていて好ましい結果が得られたことになる。」(第5頁上右欄第14行?第5頁下左欄第10行)
「今般、我々は、上記した手法により、Si-基板からのドーパントの逃散を徹底的に阻止することに成功し、その結果、資料ガスと同じ電気伝導タイプのSi基板を用いてもよい2探針法のみならず、逆タイプのSi基板を用いてのみ可能な、簡便安価な4探針法をも超高純度シリコン系ガスの純度測定に応用することに成功したものである。
その特徴的な要件のひとつは、Si基板の加熱処理によるSi基板表面層からのドーパントの除去であり、他のひとつは、ドライ塩酸エッチング時においてSi基板裏面を、純度を評価すべき資料のシリコン系ガスを用いて生成したポリシリコンによりコーティングすることである。」(第5頁下右欄第8?20行)

(カ)発明の効果
「本発明の方法に従えば、簡便安価な探針法を用いて超高純度シリコン系ガスの純度を分析評価することができる。
超高純度シリコン系ガスの需要は、半導体工業において最近急速に増大しており、したがってその純度に関し簡便安価な測定方法を提供する本発明の産業上の利用可能性は、極めて大きいと言わねばならない。」(第6頁上左欄第2?9行)

(キ)実施例1
「A.Si基板
4インチφ、(111)面、P型(Bドープ)、50Ωcm 片面鏡面研磨のSiウェハーを10等分し、各々を硫酸、過酸化水素水による表面洗浄を行いさらに純水で洗浄乾燥した。これをSi基板として用いた。」(第6頁上左欄第16行?第6頁上右欄第1行)
「C.実験方法
Si基板の加熱処理は、水素気流中で、1150℃30分加熱して行った。
サセプターのポリSiコーティングは、モノシラン3ml/minで希釈して、1050℃に加熱したサセプター上に60分にわたって流通させて行った。
加熱処理したSi基板を、ポリSiコーテングしたサセプター上にセットし、石英反応管内に設置した。
高周波により加熱し、Si基板を1130℃に保った。ドライ塩酸40ml/minを水素2.0l/min により希釈して10分間流通し、ドライ塩酸によるエッチングを行った。しかるのち、Si基板1030℃に保ち、モノシラン3ml/min を水素4.5l/minに希釈して、60分間流通させ、Siの単結晶薄膜をエピタキシャル生長させた。」(第6頁上右欄第15行?第6頁下左欄第10行)
「D.結果
4探針測定器を用いて測定したV(mv)/I(μA)は86.5であった。
ドリラー法により測定したSiの単結晶薄膜の厚さは25μであった。
……(中略)……
本実験によって得られた単結晶薄膜はNタイプ、980Ωcmであり、CV法の値と良い一致を示したた。」(第6頁下左欄第11行?第6頁下右欄第8行)

イ 引用発明
上記の(ア)?(キ)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリコン系ガスの純度を測定する方法として、シリコン系ガスより一旦単結晶薄膜を製作しその比抵抗値から単結晶薄膜の純度を測定しその純度の数値から間接的に、その原料であるシリコン系ガスの純度を評価する方法であって、
加熱処理により表面層からのドーパントを除去し、ドライ塩酸エッチング時において裏面に純度を評価すべき資料のシリコン系ガスを用いて生成したポリシリコンによりコーティングしたシリコン基板の上に、前記シリコン系ガスを用いて単結晶薄膜をエピタキシャル生長させ、
前記シリコン系ガスの純度を評価するに当たり、前記単結晶薄膜の比抵抗値を探針法で測定する方法であって、
前記シリコン系ガスは、モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含み、
前記シリコン基板の比抵抗値は、入手しうるどのような値のものでもよく、
前記単結晶薄膜の膜厚は、製作速度、欠陥形状の大少や個数から見て5?50μの範囲が好ましいことを特徴とする高純度シリコン系ガスの純度評価のための比抵抗値の測定方法。」

(4)対比
ア 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「シリコン系ガス」は、「モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含」む。
したがって、引用発明の「シリコン系ガスの純度を測定する方法として、シリコン系ガスより一旦単結晶薄膜を製作しその比抵抗値から単結晶薄膜の純度を測定しその純度の数値から間接的に、その原料であるシリコン系ガスの純度を評価する方法」と、補正発明の「シラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラントにおいて、シラン又はゲルマンを工業的製造及び充填する際に、シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法」とは、「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法」である点で共通する。

(イ)引用発明において、前記「モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含」む「前記シリコン系ガスを用いて単結晶薄膜をエピタキシャル生長させ」ることは、補正発明において、「シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造」することに相当する。
そして、本願明細書には、段落【0007】に「固有抵抗(比抵抗又は抵抗率の略記)」と記載されている。
したがって、引用発明において、「前記シリコン系ガスの純度を評価するに当たり、前記単結晶薄膜の比抵抗値を探針法で測定する」ことは、補正発明において、「その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定」することに相当する。

イ 一致点と相違点
以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違している。
(一致点)
「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法において、シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造し、その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定することを特徴とする方法。」

(相違点)
(相違点1)
補正発明は、「シラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むプラントにおいて、シラン又はゲルマンを工業的製造及び充填する際に、シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定する」のに対して、引用発明の「シリコン系ガスの純度を評価する方法」は、如何なる場所で如何なる場合に実行されるのか特定されていない点。
(相違点2)
補正発明の「純度を間接的に決定する」ために「製造したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有している」のに対して、引用発明の「前記シリコン基板の比抵抗値は、入手しうるどのような値のものでもよく」、「エピタキシャル生長」させた「前記単結晶薄膜の膜厚は、製作速度、欠陥形状の大少や個数から見て5?50μの範囲が好ましい」点。

(5)各相違点についての当審の判断
ア 相違点1について
引用例には、第2の3(3)ア(カ)で摘記したように、「超高純度シリコン系ガスの需要は、半導体工業において最近急速に増大しており、したがってその純度に関し簡便安価な測定方法を提供する本発明の産業上の利用可能性は、極めて大きいと言わねばならない。」(第6頁上左欄第5?9行)と記載され、当該記載より、「超高純度シリコン系ガス」を、その需要に応えて、製造販売することは、引用例が日本国内において頒布された当時、当該技術分野では普通に行われていたものと認められる。
してみれば、引用例の上記の記載から、「超高純度シリコン系ガス」を製造販売するにあたり、「超高純度シリコン系ガス」の純度測定拠点を設け、そこで品質管理のため、前記「超高純度シリコン系ガス」を製造した際に、もしくは、販売のため容器に充填する際に、当該「超高純度シリコン系ガス」の純度を測定することは、当業者により普通に行われてきたものと認められる。
そして、引用例には、上記の記載に加え、第2の3(3)ア(イ)で摘記したように、「シリコン系ガスの純度を測定する方法として、そのシリコン系ガスからエピタキシャル生長により単結晶薄膜を形成し、その薄膜の電気的性質からシリコン系ガスの純度を逆算決定する方法は半導体工業の適切なプロセス管理上必須不可決である。」(第2頁上左欄第18行?第2頁上右欄第3行)と記載されている。
そうすると、引用発明において、「モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含」む「シリコン系ガス」を販売のためにプラントで製造するようにし、当該プラントに前記「シリコン系ガス」の品質管理を行う拠点を設け、そこで、前記「シリコン系ガス」を製造した際、ないしは、容器に充填する際に、引用発明の「シリコン系ガスの純度を評価する方法」を実行することは、引用例の記載に接した当業者が普通に行い得るものと認められる。
以上から、引用発明において、相違点1に係る構成とすることは、当業者が普通に行い得るものと認められる。

イ 相違点2について
(ア)はじめに、引用発明における「シリコン基板」の比抵抗値と、「単結晶薄膜」の厚さについて検討する。
a 第2の3(3)ア(イ)で摘記した記載によれば、引用例には、従来の「Si系ガスより一旦単結晶薄膜を製作しその電気的性質から単結晶薄膜の純度を測定しその純度の数値から間接的に、その原料であるSi系ガスの純度を評価する方法」(第1頁下右欄第7?10行)では、「CVD法で、Si-基板の上にエピタキシャル生長させる場合、通常Si-基板は1000℃以上に加熱される。すると基板中のドーパント(P型としてB、N型としてP、As等)が大量に逃散しエピタキシャル生長中の単結晶薄膜に混入する現象が生ずる」(第2頁下左欄第10?15行)ところ、「精製技術が発達し、純度が最低100Ωcm、通常1000?5000Ωcmの超高純度モノシランを対象としなければならない場合は、単結晶薄膜中のドーパント量が極微量であり、かつ一般にN型であるということを考慮する必要がある」(第2頁下左欄第18行?第2頁下右欄第4行)ので、引用例記載の発明は、「超高純度シリコン系ガスの比抵抗値測定に用いるSi基板を前もってエピタキシャルの全工程で使用される最高温度以上、より好ましくはそれを越える温度で加熱処理することにより、Si基板表層近くに存在するドーパントを前もって逃散させて後、ドライ塩酸エッチング時に、Si基板裏面を超高純度Si系ガスのポリSiでコーティングすることにより、Si基板からのドーパントの逃散を徹底的に防止し、汚染のない単結晶薄膜をエピタキシャル生長させる方法を要旨」(第2頁下右欄第19行?第3頁上左欄第8行)とし、それによって、「従来の方法では不可能であった超高純度Si系ガスを簡単、安価かつ正確に測定できるようになった」(第3頁上左欄第9?11行)との作用効果を奏するようにした、ことが記載されている。
ここで、引用例には、Si基板の比抵抗値について、「比抵抗値は、入手しうるどのような値のものでもよいが余りに低いとSi基板の加熱処理時間を延長しなければならないし、逃散したドーパントはすべては排気され反応系を汚染する。また余りに高いと、基板からの汚染は少ないが、単結晶薄膜とSi基板との境界面がはっきりせず、単結晶薄膜の膜厚測定が困難になる。」(第3頁下右欄第20行?第4頁上左欄第6行)との理由で、「通常10?500Ωcmが好ましい」(第4頁上左欄第9行)旨記載されている。
しかし、引用例には、純度を測定する超高純度Si系ガスについて、「比抵抗値で表した値がおよそ最低100Ωcm、通常1000Ωcm以上のものである」(第3頁下左欄第13?15行)旨の記載があり、上記のように、比抵抗値で表した値が、通常1000?5000Ωcmの超高純度モノシランが使用されることに鑑みれば、引用例記載の発明において、超高純度Si系ガスの比抵抗値が大きくなるに従い、Si基板からのドーパントの逃散を徹底的に防止するためにSi基板の比抵抗値を高くしなければならないことは、引用例の記載に接した当業者には自明といえる。
また、引用例記載の発明において、単結晶薄膜とSi基板との境界面が確認可能か否かは、両者の比抵抗値の差に起因するので、超高純度Si系ガスの比抵抗値が大きくなれば、Si基板の比抵抗値を500Ωcmより大きくした場合でも、単結晶薄膜との境界面の確認が可能であることも、引用例の記載に接した当業者には自明といえる。
そうすると、引用例記載の発明において、Si基板の比抵抗値を1000Ωcm以上とすることは、超高純度Si系ガスのとり得る比抵抗値を考慮すれば、引用例の記載に接した当業者が、上記の作用効果を奏するために、普通に行い得るものと認められる。
b 上記(3)イより、引用発明は、「前記シリコン基板の比抵抗値は、入手しうるどのような値でもよく」、「エピタキシャル生長」させた「前記単結晶薄膜の膜厚は、製作速度、欠陥形状の大少や個数から見て5?50μmの範囲が好ましい」ものであるから、「シリコン基板」の比抵抗値によらず、「単結晶薄膜」は、5?50μmの厚さを有していると認められる。
そして、上記aより、引用発明における「シリコン基板」の比抵抗値を1000Ωcm以上とすることは、引用例の記載に接した当業者が、普通に行い得るものと認められる。
そうすると、引用発明において、「シリコン基板」として、その比抵抗値が1000Ωcmより小さいものと、1000Ωcmより大きいものとを使用し、いずれを使用した場合でも、「単結晶薄膜」は5?50μmの厚さを有するものとすることは、引用例の記載に接した当業者が普通に行い得るものと認める。

(イ)次に、補正発明における、相違点2に係る構成の技術的意義について検討する。
本願明細書には、相違点2に係る構成について、以下の記載がある。
・「所定の膜厚から生じる固有抵抗の最終値を決定するためには、シリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には、5?100μm、有利には8?50μm、特に有利には10?20μmの厚さを有することが望ましく、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合(例えばフロートゾーンウェハーの場合)には、1?50μm、有利には2?25μm、特に有利には3?10μmの厚さを有することが望ましい。この最小厚さによって、膜がさらに成長している場合であっても、測定した固有抵抗が通常はもはや著しく変化することがなく、析出させるべきガスによってのみ影響を受けることが保証される。……」(段落【0018】)
・「工程e)において、その都度測定した固有抵抗値を有利には電荷キャリア濃度に換算する。抵抗プロファイルを評価する場合には、抵抗最終値、即ち、膜厚が増加してももはや変化せずに最終的な平坦部を形成する値を把握する(図2を参照のこと)。……」(段落【0027】)
しかし、上記の記載では、補正発明における「製造したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合には1?50μmの厚さを有している」との構成(相違点2に係る構成)と、「膜がさらに成長している場合であっても、測定した固有抵抗が通常はもはや著しく変化することがなく、析出させるべきガスによってのみ影響を受けることが保証される」との作用効果との因果関係について、合理的な説明が記載されているとは認められず、また、当該技術分野における技術常識を参酌しても、上記の記載から、両者の間に因果関係があることが自明とは認められない。
さらに、上記の作用効果が示されているとする図2のグラフにおいて、ウェハーの材料及び固有抵抗、並びに膜の材料、膜厚(d)、及び固有抵抗(ρ)が不明であり、図2からは、補正発明の上記構成と上記作用効果との間に因果関係があるとも認められない。
そうすると、本願明細書の記載からは、相違点2に係る構成により、膜がさらに成長している場合であっても、測定した固有抵抗が通常はもはや著しく変化することがなく、析出させるべきガスによってのみ影響を受けることが保証される」との作用効果を奏するとは認められず、相違点2に係る構成が、格別の技術的意義を有するとは認められない。

(ウ)上記(ア)のとおり、引用発明において、「シリコン基板」として、その比抵抗値が1000Ωcmより小さいものと、1000Ωcmより大きいものとを使用し、いずれを使用した場合でも、「単結晶薄膜」は5?50μmの厚さを有するものとすることは、引用例の記載に接した当業者が普通に行い得るものと認められ、この「シリコン基板」の比抵抗値と「単結晶薄膜」の厚さとの関係は、相違点2に係る構成における「ウェハー」の「固有抵抗」と、「シリコン膜又はゲルマニウム膜」の厚さとの関係に含まれる。
そして、上記(イ)のとおり、本願明細書の記載より、補正発明において、相違点2に係る構成が、格別の技術的意義を有するとは認められないから、補正発明と引用発明との間に、相違点2に係る構成により、作用効果上、格別の相違が生じるとは認められない。
そうすると、相違点2に係る構成は、引用発明において、引用例の記載に接した当業者が普通に行い得るものと認められる。

ウ 上申書における主張に対して
(ア)審判請求人は、平成28年7月26日付けで提出した上申書において、
a 「引用文献1に関して、前置報告書内で審査官殿が言及されている単結晶膜の膜厚は、2探針法のように測定自体のために必要な膜厚を意味するのではなく、引用文献1の6ページ、右下欄に示される式から抵抗値を算出するために示されているに過ぎません。つまり、膜厚の有する技術的意義が、本願発明と引用文献1に記載された発明とでは全く異なります。従って、当業者であれば、引用文献1において4探針法による測定に関して記載される膜厚を、2探針法による測定のために必要な膜厚として認識することはありません。」
b 「つまり、引用文献1に記載された発明においては、基板中のドーパントが単結晶(Si)薄膜中に混入することを意図的に阻止しています。
これに対し、本願発明においては、上記本願発明の説明並びに本願明細書の段落番号0033に記載されるとおり、ウェハー中のドーパントと、膜中の不純物との関係により、図2に示される異なる曲線が得られ、その曲線の形状から、膜中の不純物がp型であるかn型であるかを判断しています。……従って、ウェハー(基板)中のドーパントが膜に及ぼす影響を排除するという思想に基づく引用文献1に記載された発明と、本発明の思想とは完全に異なります。」
c 「本願請求項1および10に記載される「5?20μm」、「1?50μm」……とは、測定において必要な最小膜厚の範囲を意味します。そのことは、本願明細書の段落番号0018の記載からも明らかです。
本願請求項1および10における「5?20μmの厚さ」、「1?50μmの厚さ」という記載事項をより明確にするため、「5?20μmの最小厚さ」、「1?50μmの最小厚さ」という記載事項にする補正の用意もございます」
と主張している。

(イ)まず、前記(ア)の主張aについて検討する。
a 引用例には、第2の3(3)ア(キ)で摘記したように、実施例1として「4探針測定器を用いて測定したV(mv)/I(μA)は86.5であった。 ドリラー法により測定したSiの単結晶薄膜の厚さは25μであった。」(第6頁下左欄第12?15行)と記載されている。すなわち、引用例においては、製造した「Siの単結晶薄膜」の測定を、実際の実施例1では、抵抗値については「4探針」法を用いて行い、膜厚については「ドリラー法」を用いて行うことが記載されている。ここで、前記「ドリラー法」とは、半導体ウェハ上の薄膜の膜厚を測定する方法であって、所定のドリラーで前記半導体ウェハに所定形状の穴を掘り、穴の表面に露出した前記薄膜の幾何学形状に基づいて、前記薄膜の膜厚を測定する方法であることは、当業者の技術常識である。(要すれば、特開2006-277534号公報の段落【0006】?【0007】、実願昭48-66368号(実開昭50-15093号)のマイクロフィルムの明細書の第1頁第9?18行を参照)
これに対して、本願明細書の段落【0008】には、「本発明の範囲内では、抵抗及び膜厚の測定をいわゆるSRP法(spreading resistance probe、拡がり抵抗プローブ)により行う。そのために、上記ウェハー片を所定の角度下に基材まで研磨する。その後、抵抗の測定を2つのプローブ先端部を用いて行い、該プローブ先端部はプロファイル全体に所定の間隔で接触し、その都度所定の膜厚に対する抵抗値をもたらす。研磨角度及びパス長から膜厚も算出可能である。」と記載され、「膜厚」は「ウェハー片を所定の角度下に基材まで研磨」して「研磨角度及びパス長から膜厚も算出」することが記載されている。
したがって、「膜厚」の測定方法は、本願明細書に記載の方法と引用例に記載の方法とで、実質的に同じであると認められる。
b そして、本願明細書には、段落【0007】に「固有抵抗(比抵抗又は抵抗率の略記)は、記号ρを有する温度に依存する材料定数である。その長さにわたって一定の横断面積(物体の縦軸に対して垂直な横断面)を有する導体の電気抵抗R=ρA/lであり、ここで、Rは電気抵抗であり、ρは固有抵抗であり、lは長さであり、かつAは導体の横断面積である。従って、公知の形状の導体片の抵抗の測定値からρを求めることができる。」と記載される以外、「固有抵抗」の具体的な測定方法は記載されていない。
してみると、引用例において、「単結晶薄膜の膜厚」は、その第6頁右下欄に記載される式に基づき前記「単結晶薄膜」の「比抵抗値」を算出するために用いられるのと同様に、本願明細書においても、「シリコン膜又はゲルマニウム膜」の「厚さ」は前記「シリコン膜又はゲルマニウム膜」の「固有抵抗」を算出するために用いられていると認められる。
c また、前記a及びbで指摘したように、引用例において、「4探針」法を用いて測定した「Siの単結晶薄膜」の抵抗値は、第6頁右下欄に記載される式に基づき前記「単結晶薄膜」の「比抵抗値」を算出するために用いられるのと同様に、本願明細書においても、「2つのプローブ先端部を用いて」測定した「シリコン膜又はゲルマニウム膜」の抵抗値は前記「シリコン膜又はゲルマニウム膜」の「固有抵抗」を算出するために用いられている。
d そして、引用例において、「Siの単結晶薄膜」の抵抗値の測定を、4探針法を用いて行うか、2探針法を用いて行うかは、単に測定方法が相違するだけであり、引用例には、第2の3(3)ア(エ)で摘記したように、「本発明の方法で得られた単結晶薄膜を測定する探針法は、4探針法が簡便で最も好ましいが、2探針法で、測定しても支障は無い。」(第4頁上右欄第3?5行)と記載されている。
e そうすると、「膜厚」の測定方法は本願明細書に記載の方法と引用例に記載の方法とで実質的に同じものであり、当該「膜厚」及び前記「膜」の抵抗値は、本願明細書及び引用例とも、前記「膜」の固有抵抗を算出するためのものであり、引用例には、前記「膜」の抵抗値を、本願明細書が「2つのプローブ先端部を用いて」測定するように「2探針法で、測定」しても「支障は無い」と記載されていることから、「膜厚」の有する技術的意義が、前記主張aのように、補正発明と引用発明とで実質的に異なるとは、認められない。
f 加えて、補正発明は、「製造した該膜の固有抵抗」の測定・算出方法や、「該膜」の「厚さ」の測定方法を何ら特定していないから、前記主張aは、本件補正後の特許請求の範囲の記載にもとづくものではない。
g 以上から、前記aの主張は当を得ておらず、採用することはできない。

(ウ)また、前記(ア)の主張bについて検討すると、審判請求人は「本願発明」においては「ウェハー中のドーパントと、膜中の不純物との関係」から得られる「曲線の形状から、膜中の不純物がp型であるかn型であるかを判断」していると主張している。
しかし、「ウェハー中のドーパントと、膜中の不純物との関係」から得られる「曲線の形状から、膜中の不純物がp型であるかn型であるかを判断」することは、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、何ら記載されていない。
したがって、前記bの主張は、本件補正後の特許請求の範囲の記載に基づくものでないから、採用することはできない。

(エ)前記(ア)の主張cについて検討すると、本願明細書の段落【0018】には、「シリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には、5?100μm、有利には8?50μm、特に有利には10?20μmの厚さを有することが望ましく、>1000Ωcmの固有抵抗を有する弱くドープされたウェハーの場合(例えばフロートゾーンウェハーの場合)には、1?50μm、有利には2?25μm、特に有利には3?10μmの厚さを有することが望ましい。」と記載されている。
この記載を字義通りに解すれば、「5?100μm、有利には8?50μm、特に有利には10?20μmの厚さ」及び「1?50μm、有利には2?25μm、特に有利には3?10μmの厚さ」という記載は、「シリコン膜又はゲルマニウム膜」の膜厚の範囲を意味すると認められる。
この理解は、補正発明の「製造したシリコン膜又はゲルマニウム膜が、<1000Ωcmの固有抵抗を有するドープされたウェハーの場合には5?20μmの厚さを有しており」という発明特定事項における「5?20μmの厚さ」は、前記段落【0018】に記載された「5?100μm」における下限値である「5」μmと、「10?20μmの厚さ」における上限値である「20μm」という記載に基づくものと認められることに、裏付けられている。
したがって、前記cの主張のように、本件補正後の請求項1及び10における「5?20μmの厚さ」、「1?50μmの厚さ」という記載を、「5?20μmの最小厚さ」、「1?50μmの最小厚さ」という記載に補正することは、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面とみなされる翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、前記cの主張を採用することはできない。

(6)独立特許要件の検討のまとめ
以上から、引用発明を相違点1ないし相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、補正発明の効果も、当業者が引用発明から予期し得たものと認められる。
したがって、補正発明は、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 小括
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年3月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?13に係る発明は、平成27年3月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものであり、その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、再掲すると、次のとおりのものである。

「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法において、シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造し、その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定し、その際、該方法はシラン又はゲルマンの工業的製造及び充填に利用されるものであり、かつ、プラントが、製造しかつ充填のために準備したシラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含むことを特徴とする方法。」

2 引用例の記載事項及び引用発明
引用例の記載事項は、第2の3(3)ア(ア)?(キ)で摘記したとおりである。
また、引用発明は、第2の3(3)イで認定したとおりのものである。

3 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「シリコン系ガス」は、「モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含」むから、引用発明の「シリコン系ガスの純度を測定する方法として、シリコン系ガスより一旦単結晶薄膜を製作しその比抵抗値から単結晶薄膜の純度を測定しその純度の数値から間接的に、その原料であるシリコン系ガスの純度を評価する方法」は、本願発明の「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法」に相当する。

イ 引用発明において、前記「モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含」む「前記シリコン系ガスを用いて単結晶薄膜をエピタキシャル生長させ」ることは、補正発明において、「シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造」することに相当する。
そして、本願明細書には、段落【0007】に「固有抵抗(比抵抗又は抵抗率の略記)」と記載されている。
したがって、引用発明において、「前記シリコン系ガスの純度を評価するに当たり、前記単結晶薄膜の比抵抗値を探針法で測定する」ことは、補正発明において、「その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定」することに相当する。

(2)一致点と相違点
以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違している。
(一致点)
「シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための方法において、シラン又はゲルマンから、ガス状態から表面上に析出させることによってシリコン膜又はゲルマニウム膜を製造し、その後、製造した該膜の固有抵抗を測定し、該測定値から、予め定められた参照値をもとに該膜の製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定することを特徴とする方法。」

(相違点)
本願発明は「製造に使用したシラン又はゲルマンの純度を推定」する「際、該方法はシラン又はゲルマンの工業的製造及び充填に利用されるものであり、かつ、プラントが、製造しかつ充填のために準備したシラン又はゲルマンの品質管理のためのステーションを含む」ものであるのに対して、引用発明の「シリコン系ガスの純度を評価する方法」は、如何なる場所で如何なる場合に実行されるのか特定されていない点。

4 判断
引用例には、第2の3(3)ア(カ)で摘記したように、「超高純度シリコン系ガスの需要は、半導体工業において最近急速に増大しており、したがってその純度に関し簡便安価な測定方法を提供する本発明の産業上の利用可能性は、極めて大きいと言わねばならない。」(第6頁上左欄第5?9行)と記載され、当該記載より、「超高純度シリコン系ガス」を、その需要に応えて、製造販売することは、引用例が日本国内において頒布された当時、当該技術分野では普通に行われていたものと認められる。
してみれば、引用例の上記の記載から、「超高純度シリコン系ガス」を製造販売するにあたり、「超高純度シリコン系ガス」の純度測定拠点を設け、そこで品質管理のため、前記「超高純度シリコン系ガス」を製造した際に、もしくは、販売のため容器に充填する際に、当該「超高純度シリコン系ガス」の純度を測定することは、当業者により普通に行われてきたものと認められる。
そして、引用例には、上記の記載に加え、第2の3(3)ア(イ)で摘記したように、「シリコン系ガスの純度を測定する方法として、そのシリコン系ガスからエピタキシャル生長により単結晶薄膜を形成し、その薄膜の電気的性質からシリコン系ガスの純度を逆算決定する方法は半導体工業の適切なプロセス管理上必須不可決である。」(第2頁上左欄第18行?第2頁上右欄第3行)と記載されている。
そうすると、引用発明において、「モノシラン(SiH_(4))、ジシラン(Si_(2)H_(6))、トリシラン(Si_(3)H_(8))等のシリコンハイドライドを含」む「シリコン系ガス」を販売のためにプラントで製造するようにし、当該プラントに前記「シリコン系ガス」の品質管理を行う拠点を設け、そこで、前記製造に使用した「シリコン系ガス」の「純度を評価する方法」を、当該「シリコン系ガス」を製造した際、ないしは、容器に充填する際に利用することは、引用例の記載に接した当業者が普通に行い得るものと認められる。
以上から、引用発明において、相違点に係る構成とすることは、当業者が普通に行い得るものと認められる。
そして、本願発明の効果も、引用発明から当業者が予期し得たものと認められる。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結言
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-13 
結審通知日 2017-02-20 
審決日 2017-03-07 
出願番号 特願2012-554232(P2012-554232)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 将之殿川 雅也  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 シラン及びゲルマンの純度を間接的に決定するための固有抵抗の使用及び相応する方法  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  

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