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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1330711
審判番号 不服2016-17788  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-29 
確定日 2017-07-27 
事件の表示 特願2015-222667「カルボニル化プロセスにおけるヨウ化水素含量の減少」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月 7日出願公開、特開2016-121126〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成27年11月13日〔パリ条約による優先権主張 2014年11月14日(US)米国、2015年4月23日(US)米国、及び2015年10月2日(US)米国〕を出願日とする特許法第36条の2第1項の規定による特許出願であって、
平成28年2月25日付けの拒絶理由通知に対して、平成28年5月31日付けで意見書及び手続補正書が提出され、
平成28年7月27日付けの拒絶査定に対して、平成28年11月29日付けで審判請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年11月29日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成28年11月29日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成28年11月29日付け手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項1?4、9、14及び19を削除するとともに、補正前の請求項5?8、10?13及び15?18の各々を補正後の請求項1?4、5?8及び9?12の各々に改める補正からなるものであって、
補正前の請求項10における
「【請求項10】
反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化物塩、並びに場合によっては酢酸及び限定量の水を含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;
粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;
軽質留分カラム内において、フラッシングされた第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;
第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;
吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、第1の吸収剤、並びに吸収されたヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;
第1の抽出物を、直接か又は間接的に軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;
吸収塔への第1の吸収剤の供給を減少させ;
吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、第2の吸収剤及び吸収されたヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;
第2の抽出物を、直接か又は間接的に反応器に送る;
ことを含む酢酸の製造方法。」との記載を、
補正後の請求項5における
「【請求項5】
反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル及びヨウ化物塩を含み、場合によっては酢酸及び限定量の水を更に含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;
前記粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;
軽質留分カラム内において、フラッシングされた前記第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;
前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;
前記吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第1の吸収剤、並びに吸収された前記ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;
前記第1の抽出物を、直接か又は間接的に前記軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;
ついで、前記吸収塔への前記第1の吸収剤の供給を減少させ;
前記吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第2の吸収剤及び吸収された前記ヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;そして
前記第2の抽出物を、直接か又は間接的に前記反応器に送る;
ことを含む酢酸の製造方法。」との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)新規事項追加
ア.補正の内容と検討事項
上記補正後の請求項5についての補正は、補正前の請求項10に記載された「第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;」という事項を、補正後の請求項5に記載された「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」という事項に改める補正を含むものである。
そして、この点に関して、平成29年1月6日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由(手続補正書の第3頁)において、審判請求人は『拒絶査定時の明細書の[0062]、[0063]及び[0098]、請求項10、並びに図1及び図3の記載に基づいて、拒絶査定において指摘された不明りょうな記載(理由4)を明確な記載に補正した上で、拒絶査定時の請求項10を請求項5とする補正を行いました。本補正は、限定的減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たします。まず、補正後の請求項5においては、「第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;」を「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」とする補正を行っています。』との釈明をしている。
そこで、補正後の請求項5に組み入れられた「、前記軽質留分カラムから直接、」という事項が『当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである』か否か〔参考判決:平成18年(行ケ)第10563号〕について、以下に検討する。

イ.本願出願当初明細書の記載
本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(特許法第36条の2第8項の規定により願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた外国語書面の翻訳文。以下「当初明細書等」という。)には、次のとおりの記載がある。

(ア)複数の吸収剤の切り換え方法などの説明
「【0062】[0068]複数の吸収剤を用いる一態様においては、吸収塔は、第1の吸収剤及び第2の吸収剤を交互に用いる。幾つかの場合においては、第1の吸収剤の使用の停止と、第2の吸収剤の使用の開始との間に移行期間が存在し、逆も成り立つ。幾つかの場合においては、移行期間は、20分間未満、例えば15分間未満、10分間未満、5分間未満、又は3分間未満であってよい。一態様においては、反応器を始動する前に運転していた精製システムに酢酸を送ることができるので、ユニット始動中においては酢酸を吸収剤として用いる。理論には縛られないが、反応器を運転する前にメタノールを用いると、メタノールをその後に処理する箇所がないと考えられる。酢酸を用いる始動期間は、数時間、例えば15時間未満、10時間未満、又は5時間未満継続させる。一態様においては、第2の吸収器戻り流の移送は、移行期間中に、第2の抽出物を反応器に送り;そして移行期間の後に、第2の吸収器戻り流を反応器に供給し続ける;工程を含む。これらの場合において、第2の吸収剤、例えばメタノールへの移行が行われたら、吸収剤流を反応器に供給し続けて、メタノールを反応物質として消費し、MeIを反応器に戻す。
【0063】[0069]幾つかの場合においては、本方法は反応システムを始動する方法に関する。例えば、吸収塔への供給によって始動期間を開始することができ、始動期間中においては、本明細書において議論するように、吸収塔供給流を第1の吸収剤と接触させ、第1の抽出物を軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送る。始動から定常運転への移行は、第1の吸収剤の吸収塔への供給を停止することによって(切り替え期間中に)開始することができる。第2の吸収剤を吸収塔に供給することができる。切り替え期間の少なくとも一部の間に、酢酸、メタノール、及びヨウ化メチルを吸収塔に供給して、これによって酢酸、メタノール、及びヨウ化メチルを含む混合吸収器戻り流を形成することができる。混合吸収器戻り流は、吸収塔から反応器に送ることができる。定常状態運転は、切り替え期間の後に開始することができる。定常状態運転中において、本明細書において議論するように、第2の蒸気流を第2の吸収剤と接触させることができる。定常状態運転中において、第2の吸収器戻り流をメタノール又はその反応性誘導体と混合して混合流を形成することができ、混合流は反応器に送ることができる。一態様においては、吸収塔への第1の吸収剤の供給の停止、及び吸収塔へ第2の吸収剤を供給することは、実質的に同時に、例えば1分間未満の内、5分間未満の内、又は20分間未満の内に行う。」

(イ)塔頂蒸気流126などの説明
「【0098】[0105]フラッシャー112からの塔頂流は、蒸気生成物流122として軽質留分カラム124に送り、ここで蒸留によって、低沸点の塔頂蒸気流126、好ましくは側流128によって取り出される精製された酢酸生成物、及び高沸点の残渣流116を得る。側流128によって取り出される酢酸は、好ましくは、水から酢酸を選択的に分離するために、乾燥カラム130などにおいて更なる精製にかける。塔頂蒸気流126の少なくとも一部は、ライン126を通して熱交換器127に送って、ここでライン126の内容物を凝縮して、凝縮された軽質留分戻り流129及び軽質留分排出蒸気流137を形成する。塔頂蒸気流126の少なくとも一部、例えば軽質留分排出蒸気流137は、吸収塔109に送る。凝縮された軽質留分戻り流129は、反応器104に再循環するか、又は場合によっては軽質留分カラム124に戻す(図示せず)。」

(ウ)出願当初の請求項10の記載
平成28年5月31日付けの手続補正(以下「第1回目の手続補正」という。)による補正は、補正前の請求項20?29を削除する補正のみであって、補正前の請求項1?19の記載内容は何ら改められていない。
それ故、出願当初の請求項10の記載は、上記「1.補正の内容」の「補正前の請求項10」に示したとおりである。

(エ)図1?図3の記載










ウ.判断
補正後の請求項5に記載された「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」という事項について、当初明細書等の記載には、吸収塔供給流を『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』することを明示した記載がない。
そして、審判請求人の釈明にある当初明細書等の段落0062?0063の記載は、始動期間に用いる第1の吸収剤と定常状態運転中に用いる第2の吸収剤の「複数の吸収剤」について、その移行期間(切り換え期間)における運用操作を説明しているにすぎないので、この記載が『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』する態様の説明として記載されていないことは明らかである。
また、当初明細書等の段落0098には「塔頂蒸気流126の少なくとも一部は、ライン126を通して熱交換器127に送って、ここでライン126の内容物を凝縮して、凝縮された軽質留分戻り流129及び軽質留分排出蒸気流137を形成する。塔頂蒸気流126の少なくとも一部、例えば軽質留分排出蒸気流137は、吸収塔109に送る。」との記載があるところ、この記載では「塔頂蒸気流126の少なくとも一部」が「ライン126」を経由して「熱交換器127」に送られ、ここで「凝縮」という工程を経た後に「軽質留分排出蒸気流137」として「吸収塔109」に送られると説明されている。
すなわち、段落0098に記載されたものは、少なくとも「熱交換器127」における凝集工程を経ているという点において直接的ではなく、この記載が『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』する態様の説明として記載されていないことは明らかである。
同様に、当初明細書等の図1及び図3においては、その「軽質留分カラム124」からの「塔頂蒸気流126」が、先ず「熱交換器127」に送られて、凝縮処理が施された後に、その「少なくとも一部」が「137」を経由して「吸収器109」に送られ、別の「少なくとも一部」が「デカンター134」及び「136」を経由して「吸収器109」に送られ、他の「少なくとも一部」が「129」を経由して「反応器104」に再循環させるものとして図示されており、これらの記載が『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』する態様の説明として記載されていないことは明らかである。
さらに、当初明細書等の請求項10の「第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;」の記載があるが、これが『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』する態様の説明として記載されていないことは明らかである。
なお、本願の図3においては、PRC除去システム132に含まれるカラム160からの「蒸気塔頂流162」として「直接」に吸収器109に供給されている場合の図示がなされ、本願明細書の段落0125には「蒸気塔頂流162の一部は…場合によっては…吸収器109に直接送ることができる。」との記載がなされている。しかしながら、この記載の供給は『吸収塔供給流を、PRC除去システムのカラムから直接、吸収塔に供給』しているものであって、補正後の請求項5のように『吸収塔供給流を、軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給』しているものではない。このため、当該「蒸気塔頂流162」の記載を総合したとしても、吸収塔供給流を『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』する場合の発明を導き出し得るとは認められない。
そして、審判請求人の釈明を参酌し、さらに、当初明細書等の全ての記載を精査しても、吸収塔供給流を『軽質留分カラムから直接吸収塔に供給』することが『当業者によって当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項である』といえる事情は見当たらない。
してみると、補正後の請求項5に組み入れられた「、前記軽質留分カラムから直接、」という事項については、本願の当初明細書等に記載がなされているとは認められない。また、当該事項が、当業者によって当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとも認められない。
したがって、第2回目の手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)独立特許要件
ア.特許請求の範囲の減縮
上記補正後の請求項5についての補正は、補正前の請求項10に記載された「第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;」という事項を、補正後の請求項5に記載された「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」という事項に改める補正を含むものであって、当該補正により補正前の「吸収塔供給流」の「吸収塔」への「供給」の範囲から「間接」に行う場合が排除され、補正後の範囲が「直接」に行う場合のみに限定されており、なおかつ、その補正前の請求項10に記載される発明と補正後の請求項5に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一ではないといえる事情も見当たらない。してみると、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項5に記載されている事項により特定される発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について検討する。

イ.明確性要件及びサポート要件
補正後の請求項5の「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」との記載における「直接」という発明特定事項の意味するところが明確ではない。
ここで、特許法施行規則様式第29〔備考〕8においては、「用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。ただし、特定の意味で使用しようとする場合において、その意味を定義して使用するときは、この限りでない。」と規定されているところ、本願明細書及び特許請求の範囲には、当該「直接」という用語について、その意味を定義する記載が見当たらない。
そして、当該「直接」という用語の意味を普通の意味で解釈すると、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」という事項を満たす発明の記載が見当たらないので、当該「直接」とは、具体的にどのような場合のものまでをも意味するのか、その意味する範囲を明確に把握することができない。
さらに、当該「直接」という用語の意味は、第一の解釈として、軽質留分カラム(本願の図1の124)と吸収塔(同109)とを「直結」させて吸収塔供給流を供給する場合のみを意味するのか、第二の解釈として、軽質留分カラム(同124)から「塔頂蒸気流126」の図示にある「導管」のような設備を経由して吸収塔(同109)に供給する場合をも含めて意味するのか、第三の解釈として、軽質留分カラム(同124)から「熱交換器127」や「デカンター134」のような各種の処理装置を経由した「流れ137」や「流れ136」として吸収塔(同109)に供給する場合までをも含めて意味するのか、或いはそれ以外の解釈によるものを意味するのか、本願明細書の全記載を精査しても、その意味するところが明確ではない。
したがって、補正後の請求項5の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、補正後の請求項5に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものはない。
また、当該「直接」の意味が上記「第一の解釈」又は「第二の解釈」を意味するとした場合(普通の意味で解した場合)には、上記『2.(1)新規事項追加』の項で検討したのと同様の理由により、補正発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないので、補正後の請求項5の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものはない。

ウ.新規性及び進歩性
(ア)引用文献等及びその記載事項
A.引用文献1(特表2011-518879号公報)
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献1には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1?2及び5
「【請求項1】
(a)酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤を含む、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化するための反応器;
(b)一酸化炭素、及びメタノール又はその反応性誘導体を反応器に供給するための供給システム;
(c)反応混合物の流れを受容し、それを(i)少なくとも第1の液体再循環流、及び(ii)酢酸を含む粗プロセス流に分離するように構成されているフラッシュシステム;
(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させるように構成されている第1の蒸留カラム;
ここで、第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;
(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチルを除去するように構成されており、また、異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;及び
(f)第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;
を含む酢酸を製造するための装置。
【請求項2】
第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み、第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成される、請求項1に記載の装置。…
【請求項5】
吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される、請求項1に記載の装置。」

摘記1b:段落0002、0004及び0012
「【0002】本発明は酢酸の製造に関し、特に、異なるスクラバー溶媒を用い、使用した溶媒をカルボニル化システムに戻すように構成されている軽質留分吸収器を有するメタノールカルボニル化システムに関する。…
【0004】伝統的なMonsantoメタノールカルボニル化プラントには、スクラバー溶媒として酢酸を用いる高圧及び低圧吸収器が含まれる。酢酸溶媒は、その後、通常は他の精製カラムにおいて軽質留分をストリッピングして、酸を廃棄しないようにしなければならない。かかるカラムはジルコニウム合金などのような高耐腐食性の材料で構成しなければならないので、かかるカラムは高価である。更に、酸から軽質留分をストリッピングするためには蒸気が必要であり、これは運転費用の一因となる。…
【0012】排気ガスを処理するための複数のスクラバー溶媒のオプションを有する吸収塔を有する酢酸製造用のカルボニル化システムが提供される。吸収器においては、スクラバー溶媒を用いて排気ガスからヨウ化メチル及び酢酸メチル蒸気のような他の揮発分が回収され、塔は異なるスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている。典型的には、定常状態の運転モードにおいてはスクラバー溶媒としてメタノールを用い、一方、ユニットの始動又は過渡運転中は酢酸を用いることができる。或いは、切替システムによって、塔にメタノール又は酢酸のいずれかを二者択一的に供給し、溶媒及び回収された揮発分を更なる反応のためにカルボニル化システムに戻す。」

摘記1c:段落0019、0021及び0030
「【0019】「揮発性」成分とは、蒸気相、及び/又は、ヨウ化メチルなどの、酢酸メチルのもの以下の沸点を有する化合物である。…
【0021】ここで記載するプロセスの反応混合物中に保持されるヨウ化物塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の可溶性塩、或いは第4級アンモニウム又はホスホニウム塩の形態であってよい。特定の態様においては、触媒共促進剤は、ヨウ化リチウム、酢酸リチウム、又はこれらの混合物である。ヨウ化物塩は、ヨウ化リチウム及びヨウ化ナトリウム及び/又はヨウ化カリウムの混合物のような塩の混合物として加えることができる。或いは、反応系の運転条件下においては、アルカリ金属酢酸塩のような広範囲の非ヨウ化物塩前駆体がヨウ化メチルと反応して対応する共促進剤であるヨウ化物塩安定剤を生成するので、ヨウ化物塩をその場で生成させることができる。…
【0030】酢酸は、典型的には反応のための溶媒として反応混合物中に含ませる。好適なメタノールの反応性誘導体としては、酢酸メチル、ジメチルエーテル、ギ酸メチル、及びヨウ化メチルが挙げられる。メタノール及びその反応性誘導体の混合物を、本発明方法において反応物質として用いることができる。好ましくは、反応物質としてメタノール及び/又は酢酸メチルを用いる。」

摘記1d:段落0038?0046
「【0038】反応器から、反応混合物の流れを、導管28を通してフラッシャー26へ連続的に供給する。フラッシャーを通して、生成物酢酸及び軽質留分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水)の大部分を反応器触媒溶液から分離し、粗プロセス流38を溶解ガスと共に単一段階フラッシュの蒸留又は精製区域30に送る。触媒溶液は、導管40を通して反応器に再循環する。
【0039】酢酸の精製は、典型的には、軽質留分カラム、脱水カラム、及び場合によっては重質留分カラム内での蒸留を含む。フラッシャーからの粗蒸気プロセス流38を軽質留分カラム32中に供給する。ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水の一部が軽質留分カラム内で塔頂流中に凝縮されて、受容器42内で2つの相(有機及び水性)が形成される。両方の塔頂液相を、再循環ライン44を通して反応区域に戻す。場合によっては、軽質留分カラムからの液体再循環流45も反応器に戻すことができる。
【0040】精製されたプロセス流50を軽質留分カラム32の側部から抜き出し、脱水カラム34中に供給する。このカラムから水及び若干の酢酸が分離され、これは、示すように再循環ライン44を通して反応システムに再循環する。精製し乾燥した脱水カラム34からのプロセス流52は樹脂床36に供給し、示されるように56においてそこから生成物を回収する。カルボニル化システム10は、2つのみの主精製カラムを用い、好ましくは「低エネルギーカルボニル化プロセス」と題されたScatesらの米国特許6,657,078(その開示事項は参照として本明細書中に包含する)により詳細に記載されているように運転する。システムによって、一般に更なるカラムを所望のように用いる。
【0041】受容器42は、ライン60を通して図2に示す軽質留分回収システム70に排気する。これは、以下に説明するように、システム70を選択的にスクラバー溶媒源に接続し、使用したスクラバー溶媒をカルボニル化システムにおける所望の位置に戻すための複数のバルブ及びポンプを有する切替システム72を含む。反応器12は、必要な場合にはライン24を通してシステム70に直接排気することができることも注意されたい。
【0042】軽質留分回収システム70は、ライン80を通して排気ガス、及びライン82を通してスクラバー溶媒が供給される吸収塔75を有する。好ましくは、スクラバー溶媒は、塔75に供給する前に冷却器84で冷却し、塔75では、溶媒を、排気ガスに対して対向流で流し、戻りライン84を通して塔から排出する前にヨウ化メチル及び更なる関係する成分を吸収して、カルボニル化ユニットに戻す。スクラビングされた排気ガスが86において塔から排出され、更に処理される。例えば、所望の場合には燃焼処理の前に、第2段階の水スクラビングを用いて、酢酸メチル、メタノール、酢酸などを除去することができる。或いは、所望の場合には、塔75内において第2段階の水スクラビングを与えることができる。好ましくは、ヨウ化メチルの90%超を排気ガスから除去する。スクラバー流体は、一般に塔内で使用する前に約5℃?約25℃の温度に冷却するが、但しスクラバー溶媒として酢酸を用いる場合には、溶媒の温度を17℃以上に保持して凍結を防ぐ。
【0043】切替システム72は、バルブ90、92、94、96、98のような複数のバルブ、及び必要な場合には戻りライン104、106、108、110内の圧力を上昇させるための1以上のポンプ100、102を含む。供給バルブ96、98を用いて、塔75の運転モードに応じてタンク16からのメタノール又は流れ56からの酢酸であってよいスクラバー溶媒を選択する。
【0044】カルボニル化システム10の定常状態運転においては、バルブ98を閉止し、開放バルブ96を通してライン112を介してメタノールをタンク16から冷却器84に供給し、ここでメタノールを冷却する。冷却器からメタノールを塔75に供給し、ここで排気ガスと対向流で流して、ライン84を通してカラムから排出する前にそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を吸収する。吸収されたヨウ化メチルを含む使用した溶媒は、ポンプ100、102によってライン106を通して反応器12又はタンク16へポンプで戻す。この運転モードにおいては、バルブ92、94を閉止し、バルブ90を開放する。
【0045】システムの始動又は停止中においては、スクラバー溶媒として酢酸を用いて塔75を運転することが望ましい可能性がある。この運転モードにおいては、バルブ98を開放し、バルブ96を閉止する。所望の場合には、酸を生成物流56又は(TF)からのタンクから得ることができる。酸は、ライン112を通して冷却器84に流し、ここで冷却して、ライン82を通して塔75に供給し、上記したようにライン60、80を通して供給される排気ガスをスクラビングする。酸は、ライン84を通して塔75から排出され、ポンプ100、102によって、ライン104、108を通してカルボニル化システムにポンプで戻される。塔75のこの運転モードにおいては、バルブ90、94を閉止し、バルブ92を開放して、使用した酢酸を、軽質留分カラム32、脱水カラム34、或いは精製システム内の他の箇所にストリッピングのために戻す。
【0046】メタノールから酢酸のように1つの溶媒から他の溶媒への切替中においては、スクラバー流体をメタノール供給システム又は軽質留分カラムに戻すことは、非効率性を引き起こすので一般に望ましくない。かかる場合に関しては、切替は約5?約20分で行うことができ、この時間の間には使用したスクラバー溶媒は触媒貯留器22に供給する。切替モードにおいては、バルブ90、92を閉止し、バルブ94を開放する。而して、システムは一般に、(a)ヨウ化メチル及び場合によっては更なる揮発性成分を含むカルボニル化ユニットからの排気ガスを吸収塔に供給し;(b)実質的に酢酸から構成される第1のスクラバー溶媒を吸収塔に供給し;(c)排気ガスを第1のスクラバー溶媒と接触させ、それによってガスからヨウ化メチル及び場合によっては更なる揮発性成分を除去し、ヨウ化メチル及び場合によっては更なる揮発性成分を第1のスクラバー溶媒中に吸収させ;(d)第1のスクラバー溶媒、及び吸収されたヨウ化メチル、及び場合によっては更なる吸収された揮発性成分を含む吸収器戻り流を、軽質留分カラム、脱水カラム、或いは精製システム内の他の箇所に供給し;(e)吸収塔への第1のスクラバー溶媒の供給を停止し;(f)実質的にメタノールから構成される第2のスクラバー溶媒を吸収塔に供給し;(g)排気ガスを第2のスクラバー溶媒と接触させて、それによってヨウ化メチル、及び場合によっては更なる揮発性成分をガスから除去し、ヨウ化メチル、及び場合によっては更なる揮発性成分を第2のスクラバー溶媒中に吸収させ;(h)第1のスクラバー溶媒、第2のスクラバー溶媒、吸収されたヨウ化メチル、及び場合によっては更なる吸収された揮発性成分を含む吸収器戻り流を、吸収塔から反応器に供給し;そして(i)過渡期の後に、第2のスクラバー溶媒、及び吸収されたヨウ化メチル、及び場合によっては更なる吸収された揮発性成分を含む吸収器戻り流の反応器への供給を継続する;ことによって運転する。吸収塔への供給は、バルブ96、98の操作によって選択する。」

摘記1e:図1




摘記1f:図2




B.引用文献3(国際公開第2014/097867号)
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献3には、次の記載がある。

摘記3a:段落0052
「[0052]前記揮発相(2A)及びオーバーヘッド(3A)を複数の冷却コンデンサを用いて冷却して凝縮することにより、アセトアルデヒドを効率よく濃縮している。より詳細には、前記酢酸の製造において、揮発相(2A)、オーバーヘッド(3A)などのプロセス流(混合物)には、沸点の異なる種々の成分、例えば、酢酸(118℃)、水(100℃)、メタノール(64.1℃)、酢酸メチル(57.5℃)、ヨウ化メチル(42.5℃)、アセトアルデヒド(21℃)、ジメチルエーテル(-23.6℃)、ヨウ化水素(-35.4℃)などが含まれている(括弧内に沸点を示す)。これらの成分の中で、通常、微量存在するヨウ化水素、ジメチルエーテルは沸点が0℃以下であり、アセトアルデヒドはヨウ化メチルと沸点が近いため、単なる蒸留で混合物からアセトアルデヒドだけを又は優先的に分離除去することは困難である。」

摘記3b:段落0077?0078
「[0077]反応器1からのベントガス(排ガス)A、フラッシャー2からの揮発相の冷却・凝縮により生成したベントガスB(第2のガス成分、非凝縮成分)、スプリッターカラム3からの第1のオーバーヘッドの冷却・凝縮により生成したベントガスC(第2のガス成分、非凝縮成分)、デカンタ4又はホールドタンク5からのベントガスD、および蒸留塔6からの第2のオーバーヘッドの冷却・凝縮により生成したベントガスE(ガス成分、非凝縮成分)には、微量のアセトアルデヒド、ヨウ化メチルなどが含まれている。…
[0078]また、ベントガスB?Eは、合流してライン106により低圧吸収塔102に供給され、ライン104から供給された吸収溶媒(メタノール及び/又は酢酸)で気液接触により吸収処理され、前記と同様にアセトアルデヒド、ヨウ化メチルなどが吸収溶媒に吸収された混合液が生成する。この混合液は、低圧吸収塔102の缶出からライン108から抜取られ、前記ライン109を通じて、前記放散塔(ストリッピング塔)103に供給される。」

摘記3c:段落0157
「[0157][オフガスの処理]本発明では、酢酸の製造プロセスから発生するオフガス(ベントガス)は少なくともヨウ化メチル及びアセトアルデヒドを含んでいる。そのため、オフガス(ベントガス)から、少なくともヨウ化メチル及びアセトアルデヒドを濃縮又は回収して分離又は有効利用してもよい。例えば、反応工程、フラッシュ蒸発工程、少なくとも1つの蒸留工程、及び少なくとも1つのホールド(貯留)工程のうち少なくとも1つの工程から生じるオフガス(ベントガス)を吸収溶媒と接触させ、この吸収溶媒をストリッピングして少なくともヨウ化メチル及びアセトアルデヒドを含むガス相(5A)を生成させ、このガス相からアセトアルデヒドを分離除去し、酢酸を製造してもよい。吸収溶媒としては、メタノール及び酢酸から選択された少なくとも一種が利用できる。このような方法では、オフガス(ベントガス)中の揮発性成分(例えば、主に、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、酢酸メチル、水、酢酸など、特に、アセトアルデヒド及びヨウ化メチル)の濃度が低濃度であってもストリッピングにより揮発性成分の濃度をさらに高めることができる。また、リサイクル(例えば、ヨウ化メチルを含む有機相の反応系へのリサイクル)により有用成分を有効に利用できる。」

C.引用文献4(特開2004-300072号公報)
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記引用文献4には、次の記載がある。

摘記4a:段落0010
「【0010】反応器1、フラッシュカラム2及び蒸留システム3からは、それぞれオフガスが排出される。これらのオフガスは未反応一酸化炭素のほか、気化したヨウ化メチルや有機溶媒などを含んでいるため、吸収塔5及び6により、それらの有効成分を回収した後にインシネレータ4で焼却する。このとき、反応器1からのオフガスは加圧されているため、3?5MPaの加圧下にある高圧吸収塔5で処理するが、フラッシュカラム2及び蒸留システム3からのオフガスはほぼ常圧なので、低圧(常圧)吸収塔6で処理する。このように高圧及び低圧吸収塔を並列使用することにより、原料メタノール全量をオフガス中の有効成分吸収剤として有効に用いることができる。なお、高圧吸収塔5で処理したオフガスをさらに低圧吸収塔で処理することもできるが、そのような構成を採用する際には、回収効果と装置コストとの関係を考慮すべきである。」

摘記4b:図1




D.参考文献A(特開平10-231267号公報)
本願優先日当時の技術水準を示すために提示する上記参考文献Aには、次の記載がある。

摘記A1:段落0002
「【0002】【従来の技術】…従来広く実施されている可溶性ロジウム錯体を触媒として用いてカルボン酸を合成するモンサント法は、反応系に約15%という比較的多量の水を存在させることから、得られる反応生成液は、2万?4万ppmという多量のヨウ化水素を含み、金属に対する腐食性の著しく高いものであった。…ヨウ素化物の混入のない高純度酢酸を得ようとすると、蒸留処理や吸着処理等の精製技術に要する設備コストが非常に高くなるという問題を生じる。」

E.参考文献B:(特開2006-160645号公報)
本願優先日当時の技術水準を示すために提示する上記参考文献Bには、次の記載がある。

摘記B1:段落0002?0003、0007及び0010
「【0002】酢酸の製造において、水、ヨウ化水素、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸などを含む溶液を蒸留精製すると、ヨウ化水素が水と共沸組成を形成するため、ヨウ化水素が蒸留塔内に濃縮され、混合物を蒸留してもヨウ化水素を効率よく除去することが困難である。また、ヨウ化水素濃度が高いと、蒸留塔本体の腐蝕が促進される。
【0003】そこで、蒸留塔内でのヨウ化水素濃度を低減するため、蒸留塔の中間段からメタノールなどの成分を仕込み、ヨウ化水素をヨウ化メチルに変換させることが提案されている。…
【0007】しかし、ヨウ化水素濃度を低減するためには、第2の蒸留塔に導入するメタノールとヨウ化水素とを反応させる必要があるため、簡単な蒸留操作でヨウ化水素濃度を有効に低減することは困難である。…
【0010】従って、本発明の目的は、ヨウ化水素が蒸留系内で濃縮するのを有効に防止し、蒸留系の腐蝕を抑制できる方法(蒸留方法)を提供することにある。」

(イ)引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項1?2及び5(摘記1a)の記載からみて、引用文献1には、
『(a)酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤を含む、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化するための反応器;
(b)一酸化炭素、及びメタノール又はその反応性誘導体を反応器に供給するための供給システム;
(c)反応混合物の流れを受容し、それを(i)少なくとも第1の液体再循環流、及び(ii)酢酸を含む粗プロセス流に分離するように構成されているフラッシュシステム;
(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させるように構成されている第1の蒸留カラム;
ここで、第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;
(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチルを除去するように構成されており、また、異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;及び
(f)第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;
(g)を含む酢酸を製造するための装置であって、
(h)第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み、第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成され、
(i)吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される、酢酸を製造するための装置。』についての発明(以下「装置発明」という。)が記載されている。

そして、引用文献1の段落0021(摘記1c)の「プロセスの反応混合物中に保持されるヨウ化物塩…ヨウ化リチウム…反応系の運転条件下においては…共促進剤であるヨウ化物塩安定剤を生成するので、ヨウ化物塩をその場で生成させることができる。」との記載からみて、装置発明の「(a)酢酸反応混合物中の…触媒、並びにヨウ化メチル促進剤を含む、メタノール又はその反応性誘導体」に「ヨウ化リチウム」などの「ヨウ化物塩」が生成して含まれていることは明らかである。
また、同段落0038(摘記1d)の「フラッシャーを通して、生成物酢酸及び軽質留分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、水)の大部分を反応器触媒溶液から分離し、粗プロセス流38を…精製区域30に送る。」との記載、及び上記発明の「(d)…ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離」との記載からみて、装置発明の「(c)…(ii)酢酸を含む粗プロセス流」に対応する「粗プロセス流38」の中に「ヨウ化メチル」を含む低沸点成分が「酢酸」とともに含まれていることは明らかである。
また、同段落0039?0040(摘記1d)の「フラッシャーからの粗蒸気プロセス流38を軽質留分カラム32中に供給する。ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水の一部が軽質留分カラム内で塔頂流中に凝縮されて、受容器42内で2つの相(有機及び水性)が形成される。…場合によっては、軽質留分カラムからの液体再循環流45も反応器に戻すことができる。精製されたプロセス流50を軽質留分カラム32の側部から抜き出し、脱水カラム34中に供給する。」との記載、並びに図1(摘記1e)の破線45の記載からみて、装置発明の「(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させるように構成されている第1の蒸留カラム;」が、具体的には「(d)フラッシュシステム(26)に接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分(塔頂流中)を粗プロセス流(38)から分離し、精製プロセス流(50)を生成させ、液体再循環流(45)を反応器に戻すことができるように構成されている第1の蒸留カラム(軽質留分カラム32);」を構成するものであることは明らかである。
また、同段落0044(摘記1d)の「塔75に供給し…ヨウ化メチル及び他の揮発性成分を吸収する」との記載、並びに同段落0046(摘記1d)の「(c)…ヨウ化メチル及び場合によっては更なる揮発性成分を第1のスクラバー溶媒中に吸収させ;…(g)…ヨウ化メチル、及び場合によっては更なる揮発性成分を第2のスクラバー溶媒中に吸収させ;」との記載からみて、装置発明の「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチルを除去するように構成」は、具体的には「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成」されているものであることが明らかである。
また、同段落0002(摘記1b)の「本発明は酢酸の製造に関し」との記載からみて、装置発明の「(g)…酢酸を製造するための装置」が「酢酸の製造」のために用いられる装置であることは明らかである。

以上の点を踏まえると(上記発明に補足した部分に下線を付す)、引用文献1には、
『(a)酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤及びヨウ化物塩を含む、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化するための反応器;
(b)一酸化炭素、及びメタノール又はその反応性誘導体を反応器に供給するための供給システム;
(c)反応混合物の流れを受容し、それを(i)少なくとも第1の液体再循環流、及び(ii)酢酸及びヨウ化メチルを含む粗プロセス流に分離するように構成されているフラッシュシステム;
(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させ、液体再循環流を反応器に戻すことができるように構成されている第1の蒸留カラム;
ここで、第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;
(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成されており、また、異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;及び
(f)第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;
(g)を含む酢酸を製造するための装置を用いる酢酸の製造方法であって、
(h)第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み、第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成され、
(i)吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される、上記方法。』についての発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)対比
A.補正発明の「直接」の解釈及び分説
補正後の請求項5の記載は、上記「イ.明確性要件及びサポート要件」の項に示したように、その「直接」という発明特定事項の意味するところが明確ではないが、その解釈として「軽質留分カラム124」から「吸収塔109」までの間が「直結」又は「導管のみ」で連結された場合のみを意味するものと解し、例えば「熱交換器127」や「デカンター134」などの各種の処理装置が介在する場合を意味しないものとして解釈する。
また、補正発明の理解を助けるために、本願明細書並びに図1及び2に付された符合を括弧書きで付すとともに、その発明特定事項を以下のように分説した上で検討する。
『(A1)反応器内(104)において、
(A2)メタノール(101)、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、
(A3)金属触媒、ヨウ化メチル及びヨウ化物塩を含み、場合によっては酢酸及び限定量の水を更に含む反応媒体中で
(A4)カルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;
(B1)前記粗酢酸生成物を、
(B2)熱を加えるか又は加えないでフラッシング(112)して、
(B3)酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流(122)、並びに
(B4)金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流(110)を形成し;
(C1)軽質留分カラム(124)内において、
(C2)フラッシングされた前記第1の蒸気流(122)を分離して、
(C3)ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流(126)、
(C4)精製された酢酸生成物を含む側流(128)、及び
(C5)第2の液体残渣流(116)を形成し;
(D1)前記第2の蒸気流(126)の少なくとも一部(熱交換器127を介した流れ137及びデカンター134を介した流れ136)を含む吸収塔供給流(204)を、
(D2)前記軽質留分カラム(124)から直接、吸収塔(209)に供給し;
(E1)前記吸収塔供給流(125)を、
(E2)酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤(222)と接触させて、
(E3)ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、
(E4)前記第1の吸収剤(222)、並びに吸収された前記ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物(232)を形成し;
(F)前記第1の抽出物(232)を、直接か又は間接的に前記軽質留分カラム(124)及び/又は乾燥カラム(130)に送り;
(G)ついで、前記吸収塔(209)への前記第1の吸収剤(222)の供給を減少させ(202);
(H1)前記吸収塔供給流(125)を、
(H2)メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤(220)と接触させて、
(H3)ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、
(H4)前記第2の吸収剤(220)及び吸収された前記ヨウ化メチルを含む第2の抽出物(230)を形成し;そして
(I)前記第2の抽出物(230)を、直接か又は間接的に前記反応器(104)に送る;
(J)ことを含む酢酸の製造方法。』

B.補正発明のA1?A4及びB1?B4の構成
先ず、引用発明の「(a)酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤及びヨウ化物塩を含む、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化するための反応器;」及び「(b)一酸化炭素、及びメタノール又はその反応性誘導体を反応器に供給するための供給システム;」並びに「(c)反応混合物の流れを受容し、」と、
補正発明の「反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル及びヨウ化物塩を含み、場合によっては酢酸及び限定量の水を更に含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;」について対比する。
(A1)前者の「反応器」は、摘記1e(図1)の「反応器12」に対応し、本願の図1の「反応器104」に対応することから、後者の「反応器」に相当する。
(A2)前者の「メタノール又はその反応性誘導体」は、摘記1b(段落0030)の「メタノールの反応性誘導体としては、酢酸メチル、ジメチルエーテル…が挙げられる」との記載も参酌するに、後者の「メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つ」に相当する。
(A3)前者の「酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤及びヨウ化物塩を含む」は、ロジウム触媒などが「金属触媒」の一種であることが自明であり、後者の「場合によっては…を更に含む」は必須の発明特定事項ではないから、後者の「金属触媒、ヨウ化メチル及びヨウ化物塩を含み、場合によっては酢酸及び限定量の水を更に含む反応媒体中」に相当する。
(A4)前者の前段の「酢酸反応混合物中の…メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化する」及び後段の「反応混合物の流れ」は、その中段の(b)の工程により供給される「メタノール」及び「一酸化炭素」からなる原料を、その前段の(a)の工程において「ロジウム触媒」などの金属触媒や「ヨウ化メチル」など存在下に「カルボニル化」の反応をさせて「酢酸」を生成し、その後段の(c)の工程の「反応混合物の流れ」として形成しているものであるから、後者の「メタノール…を…反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成」に相当する。

次に、引用発明の「(c)反応混合物の流れを受容し、それを(i)少なくとも第1の液体再循環流、及び(ii)酢酸及びヨウ化メチルを含む粗プロセス流に分離するように構成されているフラッシュシステム;」と、
補正発明の「前記粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;」について対比する。
(B1)前者の「反応混合物の流れ」は、摘記1d(段落0038)の「反応器から、反応混合物の流れを、導管28を通してフラッシャー26へ連続的に供給する」との記載にある「導管28」を介した流れであって、摘記1e(図1)の「導管28」に対応し、引用発明の(a)の工程で製造された「酢酸」の「反応混合物」の流れを意味していることが明らかであるから、後者の「前記粗酢酸生成物」に相当する。
(B2)前者の「フラッシュシステム」は、熱を加えるか加えないかの二者択一のいずれか一つの「フラッシング」をするためのシステムに該当することが明らかであるから、後者の「熱を加えるか又は加えないでフラッシングして」に相当する。
(B3)前者の「(ii)酢酸及びヨウ化メチルを含む粗プロセス流」は、摘記1d(段落0038)の「フラッシャーを通して、生成物酢酸及び軽質留分(ヨウ化メチル…)の大部分を…分離し、粗プロセス流38を溶解ガスと共に…蒸留又は精製区域30に送る」との記載にある『生成物酢酸及びヨウ化メチルを含む粗プロセス流38』に対応し、本願の図1の「112」に対応するものであるから、後者の「酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流」に相当する。
(B4)前者の「(i)少なくとも第1の液体再循環流」は、摘記1d(段落0038)の「触媒溶液から分離し…触媒溶液は、導管40を通して反応器に再循環する」との記載における「触媒溶液」を「再循環」させた流れに対応するものであって、その「触媒溶液」の流れの組成に摘記1c(段落0021)の「触媒共促進剤は、ヨウ化リチウム、酢酸リチウム、又はこれらの混合物である」との記載にある「ヨウ化リチウム」などの「ハロゲン化物塩」が「触媒共促進剤」として含まれていることも明らかであって、摘記1e(図1)の「触媒再循環40」に対応し、本願の図1の「110」に対応するものであるから、後者の「金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流」に相当する。また、前者の「(i)…及び(ii)…に分離するように構成されている」は、後者の「第1の蒸気流、並びに…第1の液体残渣流を形成し;」に相当する。

以上小括するに、引用発明の「(a)酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤及びヨウ化物塩を含む、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化するための反応器;」及び「(b)一酸化炭素、及びメタノール又はその反応性誘導体を反応器に供給するための供給システム;」並びに「(c)反応混合物の流れを受容し、」は、補正発明の「反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル及びヨウ化物塩を含み、場合によっては酢酸及び限定量の水を更に含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;」に相当し、
引用発明の「(c)反応混合物の流れを受容し、それを(i)少なくとも第1の液体再循環流、及び(ii)酢酸及びヨウ化メチルを含む粗プロセス流に分離するように構成されているフラッシュシステム;」は、補正発明の「前記粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;」に相当する。

C.補正発明のC1?C5及びD1?D2の構成
先ず、引用発明の「(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させ、液体再循環流を反応器に戻すことができるように構成されている第1の蒸留カラム;」と、
補正発明の「軽質留分カラム内において、フラッシングされた前記第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;」について対比する。
(C1)前者の「フラッシュシステムに接続」された「第1の蒸留カラム」は、摘記1d(段落0039)の「フラッシャーからの粗蒸気プロセス流38を軽質留分カラム32中に供給する」との記載にある「軽質留分カラム32」に対応するものであって、本願の図1の「124」に対応するものであるから、後者の「軽質留分カラム」に相当する。
(C2)前者の「粗プロセス流」は、摘記1d(段落0039)の「フラッシャーからの粗蒸気プロセス流38を軽質留分カラム32中に供給する」との記載にある「粗蒸留プロセス流38」に対応するものであって、本願の図1の「122」に対応するものであるから、後者の「フラッシングされた前記第1の蒸気流」に相当する。
(C3)前者の粗プロセス流から「分離」された「ヨウ化メチルを含む低沸点成分」は、摘記1d(段落0044)の「塔75に供給し…ヨウ化メチル及び他の揮発性成分を吸収する」との記載にあるように、下流の「吸収塔75」において「ヨウ化メチル」以外の「他の揮発性成分」が吸収される組成にあることから、前者の「粗プロセス流」から分離された「低沸点成分」の中に「ヨウ化メチル及び他の揮発性成分」が含まれていることは明らかであり、また、摘記1c(段落0019)の「揮発性…成分とは、ヨウ化メチルなどの、酢酸メチルのもの以下の沸点を有する化合物である」との記載、摘記3a(段落0052)の「酢酸の製造において…プロセス流(混合物)には…酢酸メチル(57.5℃)、ヨウ化メチル(42.5℃)、…ヨウ化水素(-35.4℃)などが含まれている(括弧内に沸点を示す)。」との記載、摘記A1(段落0002)の「可溶性ロジウム錯体を触媒として用いてカルボン酸を合成するモンサント法は…多量のヨウ化水素を含み」との記載、及び摘記B1(段落0002)の「酢酸の製造において…ヨウ化水素が蒸留塔内に濃縮され…効率よく除去することが困難である。」との記載にあるように、酢酸の製造のプロセス流に「ヨウ化水素」が通常含まれていることは本願優先日当時の技術水準における当業者の技術常識であるところ、前者の「低沸点成分」に低沸点(-35.4℃)の「ヨウ化水素」が「他の揮発性成分」として含まれていることも明らかであって、摘記1e(図1)の「軽質留分カラム32」の塔頂部から「受容器42」までの流れが、本願の図1の「126」に対応するから、後者の「ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流」に相当する。
(C4)前者の「精製プロセス流を生成させ」は、摘記1d(段落0040)の「精製されたプロセス流50を軽質留分カラム32の側部から抜き出し…56においてそこから生成物を回収する。」との記載、及び摘記1e(図1)の50、34、52及び36を経由した56の流れの「生成物酢酸」との記載からみて、軽質留分カラム32の「側部」から抜き出される「精製」されたプロセス流れ50の中に「酢酸」が「生成物」として含まれていることが明らかであるから、後者の「精製された酢酸生成物を含む側流」に相当する。
(C5)前者の「液体再循環流を反応器に戻すことができるように構成されている」は、摘記1d(段落0039)の「軽質留分カラムからの液体再循環流45」との記載、及び摘記1e(図1)の破線45で示した流れが、本願の図1の「116」に対応し、前者の「液体再循環流」の「構成」が後者の「第2液体残渣流」の「形成」に対応するから、後者の「第2の液体残渣流を形成し」に相当する。

次に、引用発明の「ここで、第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;」及び「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去する…吸収塔」と、補正発明の「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」について対比する。
(D1)前者の「第1の蒸留カラム…は、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させる」の「排気ガス流」は、摘記1d(段落0039、0041及び0042)の「ヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水の一部が軽質留分カラム内で塔頂流中に凝縮されて、受容器42内で2つの相…が形成される。…受容器42は、ライン60を通して図2に示す軽質留分回収システム70に排気する。…必要な場合にはライン24を通してシステム70に直接排気することができることも注意されたい。…軽質留分回収システム70は、ライン80を通して排気ガス…が供給される吸収塔75を有する。」との記載、摘記1e(図1)の軽質留分カラム32の塔頂部から受容器42を介した流れ60の図示、及び摘記1f(図2)の流れ60が供給される吸収塔75の図示からみて、摘記1e(図1)及び摘記1f(図2)の「ライン60」の流れに対応し、当該「ライン60」の流れの中に「軽質留分カラム32」の「塔頂流」が含まれ、当該「ライン60」の流れは「吸収塔75」に供給されているから、後者の「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流」に相当する。
(D2)前者の「排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去する…吸収塔」は、摘記1d(段落0039、0041及び0042)、摘記1e(図1)、及び摘記1f(図2)の同様な記載からみて、前者の「ライン60」の流れが「軽質留分カラム32」から「受容器42」及び「ライン60」を介して「吸収塔75」に供給されていることが明らかであって、その「軽質留分カラム32」が本願の図1の「124」に対応し、その「吸収塔75」が本願の図2の「209」に対応するから、後者の「前記軽質留分カラムから…吸収塔に供給し」に相当する。

以上小括するに、引用発明の「(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させ、液体再循環流を反応器に戻すことができるように構成されている第1の蒸留カラム;」は、補正発明の「軽質留分カラム内において、フラッシングされた前記第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;」に相当し、
引用発明の「ここで、第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;」及び「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去する…吸収塔」と、補正発明の「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給し;」は、両者とも「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから(直接又は間接に)吸収塔に供給し;」である点において共通する。

D.補正発明のE1?E4及びH1?H4の構成
引用発明の「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成されており、また、異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;」及び「(h)第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み、第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成され、」並びに「(i)吸収塔からの戻り流」と、
補正発明の「前記吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第1の吸収剤、並びに吸収された前記ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;」及び「前記吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第2の吸収剤及び吸収された前記ヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;」について対比する。
後者のE1?E4の構成は、本願明細書の段落0103の「システムの始動又は停止中」に対応(摘記1dの「【0045】システムの始動又は停止中」に対応)し、
後者のH1?H4の構成は、同段落0102の「カルビニル化システムの定常状態運転」に対応(摘記1dの「【0044】カルボニル化システム10の定常状態運転」に対応)するところ、
(E1)前者の「排気ガス流」は、摘記1e(図1)及び摘記1f(図2)の「ライン60」に対応し、本願の図2の「107,125,136,及び137」の流れに対応することから、後者の前段の「前記吸収塔供給流」に相当する。
(H1)前者の「排気ガス流」は、同様に、後者の後段の「前記吸収塔供給流」に相当する。
(E2)前者の「第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成」は、摘記1f(図2)の「バルブ98」を介して供給され、同「バルブ92」を介して排出される「ライン108」の流れに対応し、本願の図2の「222」から「216」の「232」の流れに対応することから、後者の「酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤」に相当する。
(H2)前者の「第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み」は、摘記1f(図2)の「バルブ96」を介して供給され、同「バルブ90」を介して排出される「ライン106」の流れに対応し、本願の図2の「220」から「214」の「230」の流れに対応することから、後者の「メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤」に相当する。」
(E3)前者の「スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成されており」のスクラバー溶媒が「第2のスクラバー溶媒」である場合のものは、摘記1d(段落0045)の「上記したように…排気ガスをスクラビングする」という工程に対応するものであって、本願明細書の段落0103の「上述したように…排出気体をスクラビングする」という工程と同じ工程で処理し、当該「他の揮発性成分」に「ヨウ化水素」が含まれることが明らかであるから、後者の前段の「ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して」に相当する。
(H3)前者の「スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成されており」のスクラバー溶媒が「第1のスクラバー溶媒」である場合のものは、摘記1d(段落0044)の「排気ガス…ヨウ化メチル及び他の揮発性成分を吸収する」という工程に対応するものであって、本願明細書の段落0102の「排出気体…ヨウ化メチル及び他の揮発成分を吸収する」という工程と同じ工程で処理し、当該「他の揮発性成分」に「ヨウ化水素」が含まれることが明らかであるから、後者の後段の「ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して」に相当する。
(E4)前者の「異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔」並びに「吸収塔からの戻り流」は、摘記1d(段落0045)に記載されたヨウ化メチル及び他の揮発性成分のスクライビング処理を行った後の酢酸(第2のスクラバー溶媒)を「酸は…ライン…108を通して…ポンプで戻される。…バルブ92を開放して、使用した酢酸を、軽質留分カラム32…に戻す」ことによって形成された「戻り流」であって、当該「バルブ92」を介して戻される酢酸(ライン108)の「戻り流」の形成が、後者の「前記第1の吸収剤、並びに吸収された前記ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し」に相当する。
(H4)前者の「異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔」並びに「吸収塔からの戻り流」は、摘記1d(段落0044)に記載されたヨウ化メチル及び他の揮発性成分のスクライビング処理を行った後のメタノール(第1のスクラバー溶媒)を「吸収されたヨウ化メチルを含む使用した溶媒は…ライン106を通して反応器12…へポンプで戻す。…バルブ90を開放する」ことによって形成された「戻り流」であって、当該「バルブ90」を介して戻される溶媒(ライン106)の「戻り流」の形成が、後者の「前記第2の吸収剤及び吸収された前記ヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し」に相当する。

以上小括するに、引用発明の「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成されており、また、異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;」及び「(h)第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み、第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成され、」は、補正発明の「前記吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第1の吸収剤、並びに吸収された前記ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;」及び「前記吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第2の吸収剤及び吸収された前記ヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;」に相当する。

E.補正発明のF、G及びIの構成
引用発明の「(i)吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される、」及び「(f)第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;」と、
補正発明の「前記第1の抽出物を、直接か又は間接的に前記軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;ついで、前記吸収塔への前記第1の吸収剤の供給を減少させ;」及び「前記第2の抽出物を、直接か又は間接的に前記反応器に送る;」について対比する。
(F)前者の「吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される」のうち『第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続』される「吸収塔からの戻り流」は、摘記1f(図2)の「バルブ92」を介して排出される「ライン108」の流れに対応した「戻り流」として第1の蒸留カラム(軽質留分カラム32)に戻されるものであるから、後者の「前記第1の抽出物を、直接か又は間接的に前記軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;」に相当する。
(G)前者の「第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;」は、摘記1d(段落0046)の「(b)実質的に酢酸から構成される第1のスクラバー溶媒を吸収塔に供給し;…(e)吸収塔への第1のスクラバー溶媒の供給を停止し;(f)実質的にメタノールから構成される第2のスクラバー溶媒を吸収塔に供給し;」という切り換えを行うものであって、その「(e)吸収塔への第1のスクラバー溶媒の供給を停止し;」が、後者の「ついで、前記吸収塔への前記第1の吸収剤の供給を減少させ;」に相当する(なお、本願明細書の段落0047の『本明細書において用いる「停止」という用語は、吸収剤の供給を縮小又は減少させることを含む。』との記載をも参酌するに、前者の「停止」を行った場合にスクラバー溶媒の供給量が「減少」することは明らかである。)。
(I)前者の「吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される」のうち『反応器への供給システムに選択的に接続』される「吸収塔からの戻り流」は、摘記1f(図2)の「バルブ90」を介して排出される「ライン106」の流れに対応した「戻り流」として反応器(12)に戻されるものであるから、後者の「前記第2の抽出物を、直接か又は間接的に前記反応器に送る;」に相当する。
以上小括するに、引用発明の「(i)吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される、」及び「(f)第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;」は、補正発明の「前記第1の抽出物を、直接か又は間接的に前記軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;ついで、前記吸収塔への前記第1の吸収剤の供給を減少させ;」及び「前記第2の抽出物を、直接か又は間接的に前記反応器に送る;」に相当する。

F.補正発明のJの構成
引用発明の「(g)を含む酢酸を製造するための装置を用いる酢酸の製造方法」は、補正発明の「酢酸の製造方法」に相当する。

G.対比の総括
以上総括するに、補正発明と引用発明は、両者とも『反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル及びヨウ化物塩を含み、場合によっては酢酸及び限定量の水を更に含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;
前記粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;
軽質留分カラム内において、フラッシングされた前記第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;
前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから(直接又は間接に)吸収塔に供給し;
前記吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第1の吸収剤、並びに吸収された前記ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;
前記第1の抽出物を、直接か又は間接的に前記軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;
ついで、前記吸収塔への前記第1の吸収剤の供給を減少させ;
前記吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、前記第2の吸収剤及び吸収された前記ヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;そして
前記第2の抽出物を、直接か又は間接的に前記反応器に送る;
ことを含む酢酸の製造方法。』に関するものである点において一致し、
次の〔相違点1〕においてのみ相違している。

〔相違点1〕
その「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから(直接又は間接に)吸収塔に供給し;」という工程が、
前者においては、軽質留分カラム(本願の図1の124)から「直接」に吸収塔(本願の図2の209)に供給するものとして特定されるのに対し、
後者においては「第1の蒸留カラム…は、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;…排気ガス流…からヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去」するように「吸収塔」が構成されるものとされ、その「第1の蒸留カラム」からの「排気ガス流」の供給が「吸収塔」に対してどのように接続されるのか(直接を含むのか否か)までは明確に特定されていない点。

(エ)判断
上記〔相違点1〕について検討する。
本願明細書の段落0099の「代表的な吸収塔及び付随の部品を図2に示す。…流れ107、125、136、及び137の1以上を吸収器システム200に送る。」との記載、並びに同段落0125の「図3において示されるように…蒸気塔頂流162の一部は…場合によっては…吸収器109に直接送ることができる。」との記載を含む本願明細書の全体の記載を精査しても、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給」する場合の「酢酸の製造方法」についての発明の記載がない。
また、本願明細書の段落0098及び図1に記載されている「熱交換器127」や「デカンター134」などの処理装置を経由した「流れ137」及び「流れ136」の態様のものに比べて、上記「直接」の解釈における態様のもの(本願の図1の「軽質留分カラム124」から「吸収塔109」までの間が「直結」又は「導管のみ」で連結された場合のもの)に格別の技術上の意義があると認めるに足る事情も見当たらない。
このため、補正発明において当該「直接」という態様をとることに格別の技術上の意義があると認められない。

そして、引用文献4の段落0010(摘記4a)の「フラッシュカラム2及び蒸留システム3からは、それぞれオフガスが排出される。これらのオフガスは…気化したヨウ化メチル…などを含んでいるため、吸収塔5及び6により、それらの有効成分を回収」するとの記載、及びその図1(摘記4b)において「フラッシュカラム2」からのオフガス(補正発明の「第1の蒸気流」及び本願の図1の「122」に相当)並びに「蒸留システム3」からのオフガス(補正発明の「第2の蒸気流」及び本願の図1の「126」に相当)が「吸収塔6」に「直接」に排出されている態様の記載にあるように、補正発明の「前記第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を、前記軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給」する工程を備えた「酢酸の製造方法」は本願優先日当時、当業者であれば通常採用し得る構成となっていたことが理解できる。
また、引用発明の「排気ガス流」は、その「(d)…第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;」との記載にあるように、第1の蒸留カラム(軽質留分カラム32)からの排気ガス流のみならず、フラッシュシステム(フラッシャー26)や反応器(反応器12)などの様々な由来の排気ガス流を軽質留分回収システム70にある吸収塔75に供給する場合(及び摘記1dの「【0041】…システム70に直接排気」する場合)をも含むものであって、
引用発明の「(e)排気ガス流を受容し、…異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;」との記載にある「吸収塔」に「受容」される「排気ガス流」は、引用文献1の段落0039及び0041(摘記1d)において具体的に説明されている「軽質留分カラム32」から「受容器42」及び「ライン60」を経由して「吸収塔75」に供給する場合の「排気ガス流」のみに限られるものではない。
してみると、補正発明の「直接」については、格別の技術上の意義が認められないところ、引用発明の「第1の蒸留カラム(軽質留分カラム32)」から「吸収塔」に送られる「排気ガス流」の供給を、摘記1dの「受容器42」及び「ライン60」を経由した「間接」的なものから、摘記4a及び4bに記載された「直接」的なものに変更することは、当業者にとって適宜なし得る設計事項にすぎない。

また、仮に補正発明の「直接」の意味するところが、本願の図1の「熱交換器127」及び「流れ137」を経由した場合をも意図するものである場合においては、例えば、引用文献3の段落0077?0078(摘記3b)の「反応器1からのベントガス…A、フラッシャー2からの…ベントガスB…、スプリッターカラム3からの第1のオーバーヘッドの冷却・凝縮により生成したベントガスC(第2のガス成分、非凝縮成分)、デカンタ4…からのベントガスD、および蒸留塔6からの…ベントガスE…には…ヨウ化メチルなどが含まれている。…ベントガスB?Eは、合流してライン106により低圧吸収塔102に供給され、ライン104から供給された吸収溶媒(メタノール及び/又は酢酸)で気液接触により吸収処理され、前記と同様にアセトアルデヒド、ヨウ化メチルなどが吸収溶媒に吸収された混合液が生成する。」との記載にあるように、スプリッターカラム3(本願の図1の「軽質留分カラム124」に相当)からのオーバーヘッド(同「126」に相当)を冷却・凝縮(同「熱交換器127」に相当)させてから低圧吸収塔102(同「吸収塔109」に相当)に供給させる「酢酸の製造方法」も本願優先日当時、当業者が通常採用し得る構成となっていたといえるので、引用発明の「排気ガス流」の供給を冷却・凝縮などの処理を行う装置を経由させる構成に変更することは、当業者にとって適宜なし得る設計事項にすぎない。

そして、補正発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0038には「ここに記載するスクラビング溶媒の具体的な組み合わせによって、それぞれのプロセス流からヨウ化水素が有効に除去されて、その腐食効果が有利に減少する。その結果、反応及び分離区域全体における金属学的な問題が最小になる。更に、驚くべきことに、本発明の具体的な溶媒の使用によって、更なるヨウ化メチルの形成を有益にもたらすことができ、次にこれを用いて反応区域(又は他の箇所)内における触媒の安定性を増大させることができることが見出された。理論には縛られないが、メタノール及び/又は酢酸メチルをスクラビング溶媒、例えば第2のスクラビング溶媒として用いると、メタノール及び/又は酢酸メチルは、種々の酢酸製造プロセス流中のヨウ化水素と反応して更なるヨウ化メチルを形成することができる。本発明のプロセスは、ヨウ化水素の除去を向上させ、ヨウ化メチルの形成を増加させ、及び全体的な触媒の安定性を有益に向上させることによって粗酢酸生成物の精製を向上させる。」との記載がなされている。
しかしながら、例えば、摘記A1の「可溶性ロジウム錯体を触媒として用いてカルボン酸を合成するモンサント法は…多量のヨウ化水素を含み、金属に対する腐食性の著しく高い」との記載、及び摘記B1の「ヨウ化水素濃度が高いと、蒸留塔本体の腐蝕が促進される。…そこで、蒸留塔内でのヨウ化水素濃度を低減するため、蒸留塔の中間段からメタノールなどの成分を仕込み、ヨウ化水素をヨウ化メチルに変換させる」との記載にあるように、ロジウム触媒を用いたメタノールのカルボニル化反応において「ヨウ化水素」が不可避的に生成し、プラント装置の腐蝕が生じるため、メタノールなどの成分でヨウ化水素をヨウ化メチルに変換させてプラント内のヨウ化水素濃度を低減させること(並びに反応系内でヨウ化水素がメタノールと反応してヨウ化メチルに変換されること)は、本願優先日当時、当業者にとって技術常識になっているといえる。
してみると、引用発明は「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成」されているところ、この構成によって吸収・除去される「他の揮発性成分」の中に「ヨウ化水素」が含まれていることは当業者に明らかであって、引用発明において「他の揮発性成分」が「スクラバー溶媒」に吸収・除去されることにより、補正発明の「ヨウ化水素が有効に除去されて、その腐食効果が有利に減少する」という効果が奏され、引用発明の「ヨウ化メチル促進剤」という促進剤としての「ヨウ化メチル」の「更なる形成」によって「触媒の安定性」が増大する効果が奏されることも当業者が予測し得たことといえる。
そして、補正発明は上記〔相違点1〕の「直接」の点においてのみ引用発明と相違するところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「直接」の構成を備えた「酢酸の製造方法」の発明が示唆を含めて記載されているとはいえず、当該「直接」の構成を備えることによって、有利な効果が得られるとの記載もないので、補正発明に格別の効果があるとは認められない。

したがって、補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献3?4に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(オ)審判請求人の主張
平成29年1月6日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由(手続補正書の第8頁)において、審判請求人は『(2)本願発明5(審決註:「補正発明」のことである。以下同じである。)と引用文献1に記載の発明との対比…引用文献1においては、軽質留分カラム32の塔頂流を、本願発明5のように「軽質留分カラムから直接、吸収塔に供給」するものではなく、受容器42に送るものです。また、引用文献1に記載のライン60を通って軽質留分回収システム70(吸収塔)へ送られる排気流は、受容器42において分離工程を経ているので、本願発明5の「第2の蒸気流」と同じものではなく、その内容物も本願発明5の「第2の蒸気流」とは全く異なります(以下「相違点(a)」といいます)。…また、引用文献1は、本願発明5のように、軽質留分カラム32の塔頂流を処理してヨウ化水素を除去することは開示も教示もしていません。…引用文献1の記載からは、本願のように、ヨウ化水素の除去の課題を把握できず、その解決手段も得られないものと思量致します(以下「相違点(b)」といいます)。』との主張をしている。
しかしながら、引用文献1に記載された発明は、その段落0004(摘記1b)の「メタノールカルボニル化プラント…高耐腐食性の材料で構成し…カラムは高価である」との記載にあるとおりの従来技術の問題点を解決するための発明であって、その段落0044(摘記1d)の「カルボニル化システム10…排気ガス…それからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を吸収する」との記載にあるように「カルボニル化システム10」からの「排気ガス」に含まれる「他の揮発性成分」をも吸収・除去することを意図し、なおかつ、その段落0041(摘記1d)の「必要な場合にはライン24を通してシステム70に直接排気することができる」との記載にあるように「ライン60」以外のラインからの「排気ガス」も「吸収塔75」を有する「システム70」に「直接」供給することをも意図しているものであって、例えば、引用文献4の図1(摘記4b)に記載されるように、排気ガス(オフガス)を軽質留分カラム(蒸留システム3)から吸収塔(吸収塔6)に「直接」供給することも知られている。
そして、引用発明は「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成」されているものであるから、その「排気ガス流」が「受容器42」の分離工程(気化しにくい凝縮性物質と低沸点の非凝縮性物質とを分離し、ヨウ化メチルよりも低沸点の非凝縮性物質を「他の揮発性成分」の「排気ガス」として「ライン60」から「吸収塔75」に排気し、凝集性物質を「軽質留分カラム32」及び/又は「ライン44」を経由して「反応器12」に再循環させる工程)を経ていたとしても、その中に低沸点の揮発性成分(ヨウ化水素など)が分離工程の前段階よりも更に濃縮されて含まれていることは明らかであるから、上記『その内容物も本願発明5の「第2の蒸気流」とは全く異なります』との主張は採用できない。
また、酢酸の製造のプロセス流に「ヨウ化水素」が通常含まれ、これがプラント装置の腐蝕の原因になることは、当業者にとって技術常識にすぎないところ、引用発明は「プラント」の「腐食性」に由来したコストの低減を課題とした発明であって、ヨウ化メチル及びこれより低沸点の揮発性成分(ヨウ化水素など)を「スクラバー溶媒」に吸収・除去させるように構成されているものであるから、上記『ヨウ化水素の除去の課題を把握できず、その解決手段も得られない』との主張も採用できない。

3.まとめ
以上総括するに、第2回目の手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、仮に当該要件を満たすとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、第2回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定〕の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、第1回目の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
そして、本願請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記『第2 1.補正の内容』の「補正前の請求項10」について記載されたとおりのものである。

2.原査定の理由
原査定の理由は『この出願については、平成28年2月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由2-4によって、拒絶をすべきものです。』というものである。
そして、平成28年2月25日付けの拒絶理由通知書には、理由2として「2.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」との理由と、
理由3として「3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示され、
その「記」には「●理由2(新規性)、理由3(進歩性)について ・請求項 1-4、10-14 ・引用文献等 1」との指摘と、上記『第2 2.(2)ウ.(ア)A.』に示した引用文献1(特表2011-518879号公報)が提示されている。

第4 当審の判断
1.理由1及び2について
(1)引用文献1の記載事項
上記引用文献1には、上記『第2 2.(2)ウ.(ア)A.』に示したとおりの記載がある。

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記『第2 2.(2)ウ.(イ)』に示したとおりの「引用発明」が記載されている。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明は、上記補正発明のA1?A4と同じ構成を有するところ、引用発明の「(a)酢酸反応混合物中の、ロジウム触媒、イリジウム触媒、及びこれらの混合物から選択される触媒、並びにヨウ化メチル促進剤及びヨウ化物塩を含む、メタノール又はその反応性誘導体をカルボニル化するための反応器;」及び「(b)一酸化炭素、及びメタノール又はその反応性誘導体を反応器に供給するための供給システム;」並びに「(c)反応混合物の流れを受容し、」は、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)B.』に示したのと同様な理由により、本願発明の「反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化物塩、並びに場合によっては酢酸及び限定量の水を含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;」に相当する。

本願発明は、上記補正発明のB1?B4と同じ構成を有するところ、引用発明の「(c)反応混合物の流れを受容し、それを(i)少なくとも第1の液体再循環流、及び(ii)酢酸及びヨウ化メチルを含む粗プロセス流に分離するように構成されているフラッシュシステム;」は、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)B.』に示したのと同様な理由により、本願発明の「粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;」に相当する。

本願発明は、上記補正発明のC1?C5と同じ構成を有するところ、引用発明の「(d)フラッシュシステムに接続され、ヨウ化メチルを含む低沸点成分を粗プロセス流から分離し、精製プロセス流を生成させ、液体再循環流を反応器に戻すことができるように構成されている第1の蒸留カラム;」は、平成28年2月29日付けの拒絶理由通知書の第5頁の『引用文献1の…工程で得られる反応器排出流は本願発明と同じ条件下での処理工程を経て得られるものであり、反応器排出流中には本願発明と同じ成分が含まれると考えるのが妥当である。』との指摘のとおり、その「ヨウ化メチルを含む低沸点成分」の中に本願発明と同じ成分(ヨウ化水素)が含まれると考えるのが妥当であり、また、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)C.』に示した理由をも参酌するに、本願発明の「軽質留分カラム内において、フラッシングされた第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;」に相当する。

本願発明は、上記補正発明のD1?D2の構成を包含し、上記補正発明のD2の構成のように吸収塔供給流の供給が「直接」の場合に限定されるものではないところ、引用発明の「ここで、第1の蒸留カラム、並びに場合によっては反応器及びフラッシュシステムは、ヨウ化メチルを含む揮発性有機成分を含む排気ガス流を生成させるようにも機能し;」及び「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去する…吸収塔」は、本願発明の構成が、上記『第2 2.(2)ウ.新規性及び進歩性』の項で検討した補正発明の構成から「、前記軽質留分カラムから直接、」という発明特定事項を削除した範囲のものであることから、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)G.』に示した〔相違点1〕が、本願発明と引用発明との相違点を構成するものではなく、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)C.』に示した理由をも参酌するに、本願発明の「第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;」に相当する。

本願発明は、上記補正発明のE1?E4及びH1?H4と同じ構成を有するところ、引用発明の「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成されており、また、異なる第1及び第2のスクラバー溶媒を供給することができる第1及び第2のスクラバー溶媒源に接続されている吸収塔;」及び「(h)第1のスクラバー溶媒がメタノールを含み、第2のスクラバー溶媒が実質的に酢酸から構成され、」は、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)D.』に示したのと同様な理由により、本願発明の「吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、第1の吸収剤、並びに吸収されたヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;」及び「吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、第2の吸収剤及び吸収されたヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;」に相当する。

本願発明は、上記補正発明のF、G及びIと同じ構成を有するところ、引用発明の「(i)吸収塔からの戻り流が、反応器への供給システム、或いは第1及び/又は第2の蒸留カラムに選択的に接続される、」及び「(f)第1又は第2のスクラバー溶媒を、第1のスクラバー溶媒源又は第2のスクラバー溶媒源のいずれかから二者択一的に吸収塔に供給するための切替システム;」は、上記『第2 2.(2)ウ.(ウ)E.』に示したのと同様な理由により、本願発明の「第1の抽出物を、直接か又は間接的に軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;吸収塔への第1の吸収剤の供給を減少させ;」及び「第2の抽出物を、直接か又は間接的に反応器に送る;」に相当する。

本願発明は、上記補正発明のJと同じ構成を有するところ、引用発明の「(g)を含む酢酸を製造するための装置を用いる酢酸の製造方法」は、本願発明の「酢酸の製造方法」に相当する。

以上総括するに、本願発明と引用発明は、両者とも『反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルの少なくとも1つを、金属触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化物塩、並びに場合によっては酢酸及び限定量の水を含む反応媒体中でカルボニル化して酢酸を含む粗酢酸生成物を形成し;
粗酢酸生成物を、熱を加えるか又は加えないでフラッシングして、酢酸及びヨウ化メチルを含む第1の蒸気流、並びに金属触媒及びハロゲン化物塩を含む第1の液体残渣流を形成し;
軽質留分カラム内において、フラッシングされた第1の蒸気流を分離して、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第2の蒸気流、精製された酢酸生成物を含む側流、及び第2の液体残渣流を形成し;
第2の蒸気流の少なくとも一部を含む吸収塔供給流を吸収塔に供給し;
吸収塔供給流を、酢酸、メタノール、及び酢酸メチルからなる群から選択される第1の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、第1の吸収剤、並びに吸収されたヨウ化メチル及びヨウ化水素を含む第1の抽出物を形成し;
第1の抽出物を、直接か又は間接的に軽質留分カラム及び/又は乾燥カラムに送り;
吸収塔への第1の吸収剤の供給を減少させ;
吸収塔供給流を、メタノール及び/又は酢酸メチルを含む第2の吸収剤と接触させて、ヨウ化メチル及びヨウ化水素を吸収して、第2の吸収剤及び吸収されたヨウ化メチルを含む第2の抽出物を形成し;
第2の抽出物を、直接か又は間接的に反応器に送る;
ことを含む酢酸の製造方法。』に関するものである点において一致し、両者に相違する点はない。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

ここで、平成28年5月31日付けの意見書の第6頁において、審判請求人は『2-3)…引用文献1には、受容器42からライン60を通って吸収塔へ送られる排気流が、ヨウ化水素を含むことが記載も示唆もされていないことから、引用文献1に記載の発明は、本願発明10のように、酢酸製造におけるプロセス流からヨウ化水素を除去しているか否か不明です(相違点ニ)。また、引用文献1の[0041]及び図1に記載されているように、引用文献1に記載の受容器42からライン60を通って吸収塔へ送られる排気流は、軽質留分カラム32の塔頂流を受容器42において相分離して全く異なる流れを形成し、吸収塔へ排気するものであり、軽質留分カラムから直接送られる本願発明10の吸収塔供給流に含まれる「第2の蒸気流」とは全く異なるものです(相違点ホ)。そして、上記相違点ニ及びホについて、引用文献1に記載も示唆もされていない以上、本願発明10を当業者が容易に想到すると論理付けできるものではありません。』と主張している。
しかしながら、当該(相違点ニ)について、引用発明は「(e)排気ガス流を受容し、スクラバー溶媒によってそれからヨウ化メチル及び他の揮発性成分を除去するように構成」されているものであって、当該「他の揮発性成分」に低沸点の揮発性成分である「ヨウ化水素」が含まれ、これが「スクラバー溶媒」によって吸収・除去されていることも明らかであるから、当該(相違点ニ)について実質的な差異があるとは認められない。
そして、当該(相違点ホ)について、そもそも本願発明は供給流を「軽質留分カラムから直接送られる」ものとして特定されておらず、また、引用発明は引用文献1の発明の詳細な説明に記載された様々な実施態様のうちの一例として具体的に記載された「受容器42」を具備した態様のみに限定されるものではないから、当該(相違点ホ)について実質的な差異があるとは認められない。
さらに、仮に本願発明が供給流を「直接」送られるもののみを意図しているとしても、引用文献1に記載された態様の中には、その段落0041(摘記1d)の「システム70に直接排気することができる」との記載にあるように「排気ガス」を「吸収塔75」に「直接」供給する場合の態様も教示されており、引用文献3の段落0157(摘記3c)の「少なくとも1つの蒸留工程…から生じるオフガス(ベントガス)を吸収溶媒と接触させ…酢酸を製造してもよい。」との記載や、引用文献4の段落0010(摘記4a)の「蒸留システム3から…のオフガスは…気化したヨウ化メチル…を含んでいるため、吸収塔5及び6により、それら…を回収」との記載にあるように、軽質留分カラムからの塔頂流を「受容器42」などの処理装置を経由することなく吸収塔に供給することも、上記『第2 2.(2)ウ.(エ)』に示したとおり本願優先日当時、当業者であれば通常採用し得る構成となっているとともに、これによって何ら技術的意味が生じるともいえない。
してみると、軽質留分カラムから吸収塔への供給流を、引用文献1の段落0041(摘記1d)に具体的に記載された実施態様のように「受容器42」を経由するものとするか、当該「受容器42」を経由しないものとするかは、当業者にとって変更可能な設計事項にすぎないものと認められる。
したがって、仮に本願発明が「直接」送られるもののみを意図しているとしても、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-03 
結審通知日 2017-03-06 
審決日 2017-03-17 
出願番号 特願2015-222667(P2015-222667)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 561- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水島 英一郎  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 加藤 幹
木村 敏康
発明の名称 カルボニル化プロセスにおけるヨウ化水素含量の減少  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 松山 美奈子  
代理人 竹内 茂雄  

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