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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B60C 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C |
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管理番号 | 1330735 |
審判番号 | 不服2016-5265 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-04-08 |
確定日 | 2017-08-15 |
事件の表示 | 特願2012-125407号「多層構造体、空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日出願公開、特開2013- 10495号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年5月31日(優先権主張平成23年5月31日)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成27年 9月 4日付け 拒絶理由通知 11月13日 意見書、手続補正書の提出 12月28日付け 拒絶査定 平成28年 4月 8日 審判請求書及び手続補正書の提出 12月20日付け 拒絶理由通知 平成29年 3月 1日 意見書、手続補正書の提出 3月15日付け 拒絶理由通知 5月15日 意見書、手続補正書の提出 5月31日付け 拒絶理由通知 6月20日 意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1?7に係る発明(以下、「本願発明1?7」という。)は、平成29年6月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明であるところ、本願発明1は次のとおりである。 「【請求項1】 バリア層とエラストマー層とを備える多層構造体において、 前記バリア層及び前記エラストマー層を、交互に、合計で9層以上積層し、 全体の厚さが1?500μmであり、前記バリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体からなり、該バリア層の一層あたりの厚さが0.001?10μm以下で、且つ、20℃、65%RHにおける酸素透過量が、10.0 cc・mm/m^(2)・day・atm以下であり、前記エラストマー層の占める厚さの割合が80%以上であることを特徴とする多層構造体。」 なお、本願発明2?7は本願発明1を減縮した発明である。 第3 引用文献 1.引用文献1に記載された事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-263653号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレンビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、 前記粘弾性体(C)の-30℃における100%モジュラスが6MPa未満であることを特徴とするフィルム。 ・・・ 【請求項13】 前記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。 ・・・ 【請求項15】 前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を一層以上備えることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。 ・・・ 【請求項17】 前記樹脂組成物(D)からなる層が前記補助層(F)に挟まれていることを特徴とする請求項15記載のフィルム。 ・・・」 イ 「【0001】 本発明は、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることができ、更に冬場等の低温時の走行においても割れることなくバリア性を発揮することが可能なタイヤ用インナーライナーに用い得るフィルムに関するものである。」 ウ 「【0068】 更に、上記樹脂組成物(D)からなる層の一層あたりの厚さは、500μm以下であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.5?100μmの範囲であることが更に好ましく、1?70μmの範囲であることが一層好ましい。樹脂組成物(D)からなる層の厚さが500μmを超えると、フィルムをインナーライナーとして用いる際に、従来のブチルゴム系のインナーライナーに対して重量の低減効果が小さくなる上、耐屈曲性及び耐疲労性が低下し、フィルム使用時にかかる屈曲変形により破断・亀裂が生じ易くなり、また、亀裂が伸展し易くなるため、フィルムのガスバリア性が使用前に比べて低下することがある。一方、0.1μm未満では、ガスバリア性が不十分で、タイヤの内圧保持性を十分に確保できないことがある。 【0069】 本発明のフィルムは、上記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を1層以上備えることが好ましい。・・・」 エ 「【0071】 また、本発明のフィルムにおいて、複数の前記樹脂組成物(D)と前記補助層(F)とが積層されている場合、前記樹脂組成物(D)が前記補助層(F)に挟まれていること(例えば、(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)/(D)/(F))が好ましい。なお、積層は、例えばTダイ法、インフレ法などの共押し出しで行うことができる。ここで、補助層(F)は、積層することが可能であり、種々の特性を持つエラストマーからなる補助層を多層化することが特に好ましい。なお、これらエラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。」 オ 「【0103】 次に、得られた樹脂組成物(D)と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルムである実施例1、2、7?11、15(熱可塑性ポリウレタン層/樹脂組成物(D)層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各フィルムに使用した各層の厚みを表1?3に示す。なお、実施例1、2、7?11、15及び比較例1以外は樹脂組成物(D)の単層フィルムとした。 【0104】 ・・・実施例1、7については、得られた架橋フィルムの片面に接着剤層(G)として東洋化学研究所製メタロックR30Mを塗布し、厚さが500μmである補助層(F)の内面に貼り付けてインナーライナーを作製した。・・・」 カ 段落【0109】?【0111】の【表1】には、「実施例1、7」の「フィルムの構成」が「TPU/樹脂組成物(D)/TPU」であること、「各フィルムの厚み(μm)」が「20/20/20」であること、「補助層(ゴム組成物層)厚さ(μm)」が「500」であることが記載されている。 以上のア?カの事項から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 〔引用発明〕 「エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレンビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含み、 前記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であり、 厚さ20μmの樹脂組成物(D)が、厚さ20μmのエラストマーからなる補助層(F)に挟まれて積層され、さらにその片面に厚さ500μmの補助層(F)を貼り付けた、フィルム。」 2.引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/100159号(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 キ 7頁の「表I」の「EVOH配合(重量部)」の欄に「EVOH(L171B,・・・)^(*1)」、「EVOH(G156,・・・)^(*2)」と記載されている。 ク 9頁1?5行に「表I脚注」として「*1:クラレ(株)製エバール L171B(けん化度99%以上)」、「*2:クラレ(株)製エバール G156(けん化度99%以上)」と記載されている。 3.引用文献3に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された“エバールG156”,[online],株式会社クラレ,[平成27年9月4日検索],インターネット<URL,http://www.eval.jp/media/56851/g156___iso.pdf>(以下、「引用文献3」という。)には、エバールG156の「機械特性」として「破断点伸度 % ISO527 14」と記載されている。 4.引用文献4に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された“エバールL171B”,[online],株式会社クラレ,[平成27年9月4日検索],インターネット<URL,http://www.eval.jp/media/56827/l171b___iso.pdf>(以下、「引用文献4」という。)には、エバールL171Bの「機械特性」として「破断点伸度 % ISO527 13」と記載されている。 5.引用文献5に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-132379号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ケ 「【請求項1】 樹脂層上にエラストマー成分を含む組成物を積層し、該樹脂層と該エラストマー成分との間に部分的な架橋を生じさせるのに必要なエネルギー線を照射してなるタイヤ用インナーライナー。 ・・・ 【請求項14】 前記樹脂層は、20℃、65%RHにおける酸素透過係数が9.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下のバリア層を含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。 【請求項15】 前記バリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びポリアミドの何れかを含むことを特徴とする請求項14に記載のタイヤ用インナーライナー。 ・・・」 第4 対比・判断 1.本願発明1 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 後者の「樹脂組成物(D)」は、前者の「バリア層」に相当し、後者の「エラストマーからなる補助層(F)」は、前者の「エラストマー層」に相当する。 後者の「樹脂組成物(D)」と「エラストマーからなる補助層(F)」とからなる「フィルム」は、前者の「バリア層とエラストマー層とを備える多層構造体」に相当する。 後者の「厚さ20μmの樹脂組成物(D)が、厚さ20μmのエラストマーからなる補助層(F)に挟まれて積層され」ることは、前者の「バリア層及びエラストマー層を、交互に、合計で9層以上積層」することと、「バリア層及びエラストマー層を、交互に、積層」することである限りにおいて一致する。 後者の「樹脂組成物(D)」が「エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレンビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた」ものであることは、前者の「バリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体からな」ることに相当する。 後者の「樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であ」ることは、その酸素透過量は1.97cc・mm/m^(2)・day・atm(=3.0×10^(-12)×6.57×10^(11))と換算できるので、前者の「バリア層」が「20℃、65%RHにおける酸素透過量が、10.0 cc・mm/m^(2)・day・atm以下であることに相当する。 後者の「厚さ20μmの樹脂組成物(D)が、厚さ20μmのエラストマーからなる補助層(F)に挟まれて積層され、さらにその片面に厚さ500μmの補助層(F)を貼り付けた」ものにおいては、補助層(F)の占める厚さの割合が80%を超えているので、前者の「エラストマー層の占める厚さの割合が80%以上である」ことを備えている。 そうすると、両者は、 「バリア層とエラストマー層とを備える多層構造体において、 前記バリア層及び前記エラストマー層を、交互に、積層し、 前記バリア層がエチレン-ビニルアルコール共重合体からなり、且つ、20℃、65%RHにおける酸素透過量が、10.0 cc・mm/m^(2)・day・atm以下であり、前記エラストマー層の占める厚さの割合が80%以上である、多層構造体。」 である点で一致し、次の点で相違する。 〔相違点〕 本願発明1は、バリア層とエラストマー層とが「合計で9層以上」積層したものであり、「全体の厚さが1?500μmであり」、「バリア層の一層あたりの厚さが0.001?10μm以下」であると特定されているのに対して、引用発明は、樹脂組成物(D)がエラストマーからなる補助層(F)に挟まれて積層されるものの、「合計で9層以上」とは特定されておらず、「さらにその片面に厚さ500μmの補助層(F)を貼り付けた」ものは500μmを超えており、樹脂組成物(D)の厚さは20μmである点。 (2)判断 上記相違点について以下検討する。 引用文献1には、「樹脂組成物(D)からなる層の一層あたりの厚さは、・・・1?70μmの範囲であることが一層好ましい。」と記載されており(上記「第3 1.ウ」段落【0068】参照)、また、「複数の前記樹脂組成物(D)と前記補助層(F)とが積層されている場合、前記樹脂組成物(D)が前記補助層(F)に挟まれていること(例えば、・・・(F)/(D)/(F)/(D)/(F)/(D)/(F))が好ましい。」とも記載されている(上記「第3 1.エ」段落【0071】参照)。 引用文献1の上記記載からは、樹脂組成物(D)を1μmとすること、補助層(F)と合わせて7層まで積層することが、個別に導き出せるといえる。 しかしながら、引用文献1に示されている実施例は、厚さ20μmの樹脂組成物(D)が、厚さ20μmのエラストマーからなる補助層(F)に挟まれて積層された、合計で3層のものであり、本願発明1のように、「バリア層の一層あたりの厚さが0.001?10μm以下」とすることと、バリア層とエラストマー層とが「合計で9層以上」とすることとを組み合わせることまでも示唆しているとはいえない。 加えて、引用文献1の記載からは、本願発明1の「全体の厚さが1?500μmであり」としながら、「エラストマー層の占める厚さの割合が80%以上である」ことまでも導き出せるとはいえない。 引用文献2は、EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)に、「クラレ(株)製エバール L171B」、「クラレ(株)製エバール G156」が用いられていることが記載されており、引用文献3には、「エバールG156」の「破断点伸度」が示され、引用文献4には、「エバールL171B」の「破断点伸度」が示されている。 引用文献5には、バリア層を含む樹脂層上にエラストマー成分を含む組成物を積層し、該樹脂層と該エラストマー成分との間に部分的な架橋を生じさせるのに必要なエネルギー線を照射することが示されている。 そうすると、引用文献2?5のいずれも、相違点に係る本願発明1の構成を示唆するものではない。 したがって、引用発明を、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、引用文献1?5に記載された事項から当業者が容易に想到しうるとはいえない。 よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献1?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 2.本願発明2?7 本願発明2?7は、本願発明1のすべての発明特定事項を備えるものであるから、上記「1.」で述べたと同様に、当業者であっても引用発明、引用文献1?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、本願発明1?7は、引用文献1?5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年6月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された本願発明1?7は、上記「第4」で述べたとおり、引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献1?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審において通知した、平成28年12月20日付けの拒絶理由は特許法第36条第6項第1号及び第2号に関するものであり、平成29年3月15日付けの拒絶理由は特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に関するものであり、平成29年5月31日付け拒絶理由は特許法第36条第6項第2号に関するものであり、いずれも、応答期間内になされた手続補正により解消している。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1?7は、当業者が引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由及び当審において通知した拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-07-31 |
出願番号 | 特願2012-125407(P2012-125407) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(B60C)
P 1 8・ 121- WY (B60C) P 1 8・ 536- WY (B60C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 森本 康正、梶本 直樹 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
平田 信勝 出口 昌哉 |
発明の名称 | 多層構造体、空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 冨田 和幸 |
代理人 | 冨田 和幸 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 吉田 憲悟 |
代理人 | 吉田 憲悟 |