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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1330864
審判番号 不服2015-11883  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-24 
確定日 2017-08-03 
事件の表示 特願2011-165193「液晶ポリエステル組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年3月8日出願公開、特開2012-46742〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成23年7月28日(優先権主張 平成22年7月30日) に出願された特許出願であって、以降の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年10月14日付け 拒絶理由通知
平成26年11月25日 意見書、手続補正書
平成27年 3月16日付け 拒絶査定
平成27年 6月24日 審判請求書、手続補正書
平成27年 6月26日 手続補足書
平成27年 9月16日付け 前置報告書
平成28年12月 2日付け 拒絶理由通知
平成29年 2月 6日 意見書、手続補正書
平成29年 2月10日付け 拒絶理由通知
平成29年 5月12日 意見書、手続補正書

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年5月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「ベント部を有する押出機に、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを供給し、該多価アルコール脂肪酸エステルの多価アルコールがペンタエリスリトールもしくはジペンタエリスリトールであり、前記脂肪酸の炭素数が10?22であり、前記ベント部の減圧度がゲージ圧で-0.06MPa以下の状態で、溶融混練し、
前記押出機は、メインフィード口と、前記メインフィード口から下流側に設けられたサイドフィード口と、を備え、
前記液晶ポリエステルと前記多価アルコール脂肪酸エステルとを、前記メインフィード口から供給して溶融混練する組成物の製造方法。」

第3 当審の拒絶理由通知の概要
当審は、平成29年2月10日付けで、概略、下記のとおりの拒絶理由を通知した。

「本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・・・
第2 刊行物及びその記載事項等
1 刊行物
特開2009-108297号公報
特開平11-246654号公報」

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1:特開2009-108297号公報
本願優先日前に頒布され、当審の拒絶理由に引用された特開2009-108297号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。下線は、他の文献も含め、当審で付したものである。

(1)「【0006】
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されている液晶ポリエステル組成物では、得られる成形体と金型との離型性は必ずしも十分とはいえなかった。また、本発明者等が検討したところ、上記特許文献1に具体的に記載されている内部離型剤であるペンタエリスリトールステアリン酸エステルを使用した場合、得られる成形体に対し半田処理を行うと、成形体表面にブリスターと呼ばれる膨れ状の形状不良(発泡)を発生し易いことが判明した。このような半田処理は表面実装部品等の電気・電子部品には必要な処理であり、ブリスターが発生し易い成形体は表面実装部品等に適用することが困難となる。
【0008】
そこで、本発明の目的は液晶ポリエステル組成物の溶融成形により成形体を製造する際、溶融成形に使用する金型に対して良好な離型性を有し、ブリスター等の発生を十分防止できる成形体を製造し得る液晶ポリエステル組成物を提供することにある。
・・・」(段落【0006】?【0008】)

(2)「【0043】
<液晶ポリエステル組成物の調製方法>
本発明の液晶ポリエステル組成物は、上述の溶解度パラメーターを満たす、(A)液晶ポリエステルと(B)多価アルコール脂肪酸エステルとを混合することで得られるものである。
また、本発明の液晶ポリエステル組成物には、本発明の企図する目的を著しく損なわない範囲で、ガラス繊維などの充填剤、染料,顔料などの着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤などの添加剤を添加してもよい。
【0044】
液晶ポリエステル組成物の調製方法は特に限定されないが、液晶ポリエステル、多価アルコール脂肪酸エステル及び必要に応じて使用される充填剤や添加剤を、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練することが好ましく、かかる溶融混練によってペレット化してもよい。」(段落【0043】及び【0044】)

(3)「【0049】
<成形体の用途>
本発明の液晶ポリエステル組成物から得られる成形体の用途としては、電気・電子機器用の筐体や発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネット、ソケット、リレーケース等の電気機器部品用途に適している。また、センサー、LEDランプ、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、コネクタ、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハードディスクドライブ部品(ハードディスクドライブハブ、アクチュエーター、ハードディスク基板等)、DVD部品(光ピックアップ等)等の電子部品にも好適である。
また、半導体素子、コイルなどの封止用樹脂、カメラなどの光学機器用部品、軸受けなどの高い摩擦熱が発生する部品、自動車・車両関連部品などの放熱部材や電装部品絶縁板にも適用できる。
これらの中でも、比較的複雑な形状を必要とし、薄肉部を有することもある、リレーケースやコネクタを成形する上で、本発明の液晶ポリエステル組成物は特に有用である。
【実施例】
【0050】
・・・
【0051】
内部離型剤としては下記の離型剤1?4を使用した。
離型剤1:ジペンタエリスリトールヘキサステアレート
溶解パラメーター:9.0(cal/cm^(3))^(1/2)
5%重量減少温度(TB) 260℃
離型剤2:ペンタエリスリトールテトラステアレート
溶解パラメーター:8.7(cal/cm^(3))^(1/2)
5%重量減少温度(TB) 310℃
離型剤3:トリグリセリンステアレート
溶解パラメーター:6.7(cal/cm^(3))^(1/2)
5%重量減少温度(TB) 340℃
離型剤4:ソルビタントリステアレート
溶解パラメーター:9.7(cal/cm^(3))^(1/2)
5%重量減少温度(TB) 280℃
【0052】
・・・
【0058】
(液晶ポリエステルの製造)
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸 621g(4.5モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル279g(1.5モル)、テレフタル酸149.4g(0.9モル)、イソフタル酸99.6g(0.6モル)及び無水酢酸841.5g(8.25モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、この温度を保持して30分還流させた。
【0059】
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら3時間30分かけて315℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して粉末とした後、この粉末を窒素雰囲気下、室温から230℃まで1時間かけて昇温し、230℃から250℃まで50分かけて昇温し、さらに250℃で10時間保持することで、固相重合を行った。このようにして得られた液晶ポリエステルをLCP1とする。LCP1の溶解パラメーターσ_(A)は13.0(cal/cm^(3))^(1/2)と算出された。また、LCP1の流動開始温度は290℃であった。
【0060】
製造例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p?ヒドロキシ安息香酸830.7g(5.0モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル465.5g(2.5モル)、テレフタル酸394.6g(2.375モル)、イソフタル酸20.8g(0.125モル)、無水酢酸1153g(11.0モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して3時間還流させた。
【0061】
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーは室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して粉末とした後、この粉末を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から320℃まで5時間かけて昇温し、さらに320℃で3時間保持することで、固相重合を行った。得られた液晶ポリエステルをLCP2とする。LCP2の溶解パラメーターσ_(A)は、13.3(cal/cm^(3))^(1/2)と算出された。また、LCP2の流動開始温度は380℃であった。
【0062】
実施例1?3、比較例1?5
製造例1で得られたLCP1、前記に示した離型剤1?離型剤5の何れか、及びガラス繊維(平均繊維長75μm、セントラル硝子(株)製)を、表2又は表3に示す組成(なお、組成はLCP1 100重量部に対する、離型剤の使用重量部、ガラス繊維の使用重量部で表す。)で、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を用いて340℃で溶融混練してペレット化した。
【0063】
得られたペレットを、射出成型機(日精樹脂工業(株)ES-400型)を用いて、上記の各種評価に用いる試験片をそれぞれ成形し、ブリスター(発泡)評価、引張強度及び引張弾性率、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。結果を表2又は表3に示す。
【0064】
実施例4
製造例2で得られたLCP2及び離型剤1、ガラス繊維(平均繊維長75μm、セントラル硝子(株)製)を表2に示す組成(なお、組成はLCP2 100重量部に対する、離型剤の使用重量部、ガラス繊維の使用重量部で表す。)で、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を用い、380℃で溶融混練してペレット化した。
【0065】
得られたペレットを、射出成型機(日精樹脂工業(株)ES-400型)を用いて、上記の各種評価に用いる試験片をそれぞれ成形し、ブリスター(発泡)評価、引張強度及び引張弾性率、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
・・・
【0068】
(総合評価)
実施例1?4、比較例1?5の液晶ポリエステル組成物において、離型抵抗が100kg/cm^(2)以下であり、ブリスター(発泡)も「○」であるものを、総合評価「○」とした。一方、離型抵抗が100kg/cm^(2)を超えるか、ブリスター(発泡)が「×」であれば総合評価「×」とした。
【0069】
表1の結果から、実施例1?4の液晶ポリエステル組成物は、(A)液晶ポリエステルの溶解度パラメーターσ_(A)が13.0(cal/cm^(3))^(1/2)以上13.5(cal/cm^(3))^(1/2)以下であり、(B)多価アルコール脂肪酸エステルの溶解度パラメーターσ_(B)が9.0(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.5(cal/cm^(3))^(1/2)以下であり、その差分(σ_(A)-σ_(B))が3.8(cal/cm^(3))^(1/2)以上4.5(cal/cm^(3))^(1/2)以下である。結果として、当該実施例の液晶ポリエステル組成物は、離型抵抗が100kg/cm^(2)以下であり、ブリスター(発泡)発生も認められないため、離型性及び半田に対する耐久性に極めて優れていることが判明した。」(段落【0049】?【0069】)

2 引用文献2:特開平11-246654号公報
本願優先日前に頒布され、当審の拒絶理由に引用された特開平11-246654号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0003】一方、液晶性ポリエステルは、高温熱安定性が良いため、高温での熱処理を要する材料に使用される場合が多い。しかし、成形品を高温の空気中及び液体中に長時間放置すると、表面にブリスターと呼ばれる細かい膨れが生じるという問題が起こる。この現象は、液晶性ポリエステルが溶融状態にある時に発生する分解ガスなどが成形品内部に持ち込まれ、その後、高温の熱処理を行う際にそのガスが膨張し、加熱で軟化した成形品表面を押し上げ、ブリスターとして現れる。これは、材料の溶融押出し時にベント孔から充分脱気することや成形する際に成形機内に長く滞留させないことなどによってブリスターの発生を少なくすることも出来るが、非常に条件範囲が狭く、ブリスターの発生を抑えた成形品を得るには充分ではなかった。・・・」(段落【0003】)

3 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、第4 1(3)より、実施例1?3において、「LCP1 100重量部、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート0.1?1重量部及びガラス繊維30重量部を、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を用いて340℃で溶融混練してペレット化したものを製造する方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明の「同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)」について、本願明細書において記載される「同方向2軸押出機(池貝鉄工(株)の「PCM-30」)」(段落【0055】)と型番が一致しているところ、本願明細書では当該PCM-30への各成分の供給方法として、「液晶ポリエステル及び離型剤はメインフィード口から供給し、チョップドガラス繊維、タルク及びマイカはサイドフィード口から供給した」(段落【0055】)ことが記載され、段落【0047】では「液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを上流側フィード口から供給し、繊維状充填材を下流側フィード口から供給」することが示されており、当該PCM-30はメインフィード口と下流側にサイドフィード口を備えた押出機であることが分かる。
してみると、引用発明の「同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)」は、上記のとおりメインフィード口と下流側にサイドフィード口を備えていると考えられることから、本願発明の「メインフィード口と、前記メインフィード口から下流側に設けられたサイドフィード口」を備えた「押出機」に相当する。

引用発明の「LCP1」は、本願発明の「液晶ポリエステル」に相当し、引用発明の「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」は、本願発明の「多価アルコールが」「ペンタエリスリトールもしくはジペンタエリスリトールであり、前記脂肪酸の炭素数が10?22であ」る「多価アルコール脂肪酸エステル」に相当する。

引用発明の各成分を同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を「用いて340℃で溶融混練してペレット化したものを製造する方法」は、本願発明の押出機に各成分を「供給し」「溶融混練」する「組成物の製造方法」に相当する。

そうすると、両者は、
「押出機に、液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとを供給し、該多価アルコール脂肪酸エステルの多価アルコールがペンタエリスリトールもしくはジペンタエリスリトールであり、溶融混練し、
前記押出機は、メインフィード口と、前記メインフィード口から下流側に設けられたサイドフィード口と、を備える、
組成物の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
溶融混練について、本願発明では、押出機が「ベント部」を有し、「前記ベント部の減圧度がゲージ圧で-0.06MPa以下の状態」で溶融混錬するのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。

<相違点2>
成分について、本願発明では「液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステル」が特定されているのに対して、引用発明では「LCP1」と「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」に加え「ガラス繊維」が特定されている点。

<相違点3>
供給方法について、本願発明では、「前記液晶ポリエステルと前記多価アルコール脂肪酸エステルとを、前記メインフィード口から供給」するのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。

第6 判断
相違点1?3について、以下に検討する。

(1)相違点1について
引用文献2の記載(第4 2の段落【0003】)によれば、当該技術分野では、液晶性ポリエステルの材料を溶融押出しする際にベント孔から充分脱気することにより、液晶性ポリエステル成形体表面のブリスターの発生を少なくできることは技術常識といえる。
また、当該技術分野では、液晶性ポリエステル材料の溶融混練をベント部の減圧度をゲージ圧で-0.06MPa以下で行うことは周知の技術事項である(例えば、特開2008-143996号公報の段落【0066】、特開2005-248052号公報の段落【0100】、特開平10-175250号公報の【請求項1】、段落【0016】、段落【0018】等参照)。
そうしてみると、液晶ポリエステル成形体表面のブリスターの発生を十分防止しようとしている引用発明において(第4 1(1)の段落【0008】参照)、液晶ポリエステル成形体表面のブリスターの発生をさらに少なくするために、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を用いて液晶性樹脂組成物を溶融混練する際に、当該押出機にベント部を設けて充分に脱気することは当業者が容易に想到することであって、その際に例えばゲージ圧で-0.06MPa以下にまで減圧して溶融混練することは、当業者が容易になし得たことである。
また、その効果についても、引用文献2ではベント孔から充分脱気することで液晶性ポリエステル成形体表面のブリスターを防止できることが記載され、より減圧すれば脱気も進みブリスターの防止に寄与することは明らかであるから、当該効果は、引用文献1及び2に記載された技術事項並びに周知の技術事項からみて、当業者が予測できない格別顕著なものであるとはいえない。

(2)相違点2について
本願発明の「組成物」について、本願明細書では「液晶ポリエステルには、必要に応じて、無機充填材を1種以上配合してもよい。この無機充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、粒状充填材であってもよい。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維・・・が挙げられる」(段落【0035】)ことが記載されており、任意成分としての「ガラス繊維」が開示されている。そうすると、本願発明の「組成物」における「液晶ポリエステルと多価アルコール脂肪酸エステル」は、必須成分として列挙されているが、他の成分を含むことを排除していないと解することが相当であり、本願発明の「組成物」は任意成分として「ガラス繊維」を含む場合も包含するものといえる。
してみると、引用発明の「ガラス繊維」を含むペレット化したものは、本願発明の「組成物」に包含されるものであり、上記相違点2は実質的な相違点とはいえない。

また、仮に本願発明が「ガラス繊維」含まないものであったとしても、引用発明では「ガラス繊維」は任意成分であることから(第4 1(2)の段落【0044】)、当該「ガラス繊維」を含まないものとすることは当業者が適宜なし得たことに過ぎない。

(3)相違点3について
引用文献1では液晶ポリエステル組成物の調製方法として、「液晶ポリエステル、多価アルコール脂肪酸エステル及び必要に応じて使用される充填剤や添加剤を、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて混合した後、押出機を用いて溶融混練」(第4 1(2)の段落【0044】)することが記載され、ガラス繊維は充填剤の一種であることを踏まえると(第4 1(2)の段落【0043】)、引用発明の「LCP1」、「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」及び「ガラス繊維」は、ヘンシェルミキサー、タンブラー等を用いて一度混合された後、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を用いて溶融混錬されるものと解される。
そして、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)は、上記第5 対比での検討のとおり、メインフィード口と下流側にサイドフィード口を有するものであるところ、引用文献1では上記混合した後、単に押出機を用いて溶融混錬することが示されている(第4 1(2)及び(3)の段落【0044】及び段落【0062】)。してみると、上記混合後の混合物の押出機への供給方法としては、メインフィード口のみから供給する場合、サイドフィード口のみから供給する場合、又は両フィード口から供給する場合の3つの場合分けが形式上、可能であるが、サイドフィード口のみから供給することは一般的な押出機の利用態様として考え難く、その様な方法を採用する必然性もないことから、当該方法は採用されていないと解するのが自然である。
してみると、引用発明で採用される供給方法としては、メインフィード口のみから供給する場合や両フィード口から供給する場合が想定されるが、2つの方法は少なくともメインフィード口から「LCP1」、「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」及び「ガラス繊維」を供給する点で共通している。
そして、上記(2)相違点2についての検討のとおり、本願発明はガラス繊維を任意成分として含み得ることを踏まえると、引用発明におけるメインフィード口から「LCP1」、「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」及び「ガラス繊維」を供給することは、本願発明における「前記液晶ポリエステルと前記多価アルコール脂肪酸エステルとを、前記メインフィード口から供給」することを満たすものといえることから、上記相違点3は実質的な相違点とはいえない。
仮に相違するとしても、引用文献1では「LCP1」と「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」とは同時に供給するものとして記載されているのであるから、これらをメインフィード口から供給することを選択することは、当業者が容易に想到したことにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1及び2に記載の技術事項並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 請求人の主張
請求人は、平成29年5月12日提出の意見書において、以下の点を主張する。

1 「(iii)引用文献1では、実施例において、本願実施例で用いている2軸押出機と同じ型番の2軸押出機を用いて溶融混練を行っています。そのため、引用文献1で用いている2軸押出機も、メインフィード口とサイドフィード口とを有しているものと考えられます。
しかし、引用文献1においては「製造例1で得られたLCP1、前記に示した離型剤1?離型剤5の何れか、及びガラス繊維(平均繊維長75μm、セントラル硝子(株)製)を、…同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社PCM-30)を用いて340℃で溶融混練してペレット化した。」(段落0062)と記載されているように、離型剤をメインフィード口とサイドフィード口とのどちらから供給するかについて、特定がされていません。
この点、前回(平成28年12月6日付発送)の拒絶理由通知における引用文献1(特開2009-179693号公報)では、離型剤(ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル)を2軸押出機の「サイドから投入し」(段落0078)と記載されています。前回の拒絶理由通知における引用文献1は、離型剤の供給タイミングについて、補正後の本願請求項1とは全く異なる組成物の製造方法が記載されていると言えます。
すなわち、前回の拒絶理由通知における引用文献1のような記載がある以上、今回(平成29年2月14日付発送)の拒絶理由通知における上記引用文献1において、離型剤の投入タイミングが規定されていないからと言って、一般的な技術常識から、離型剤をメインフィード口から供給することが特定できる、というものでもありません。」

2 「(実験結果)
結果を表1に示す。

上記表1に示すように、補正後の本願請求項1を満たす実施例1と比べ、離型剤をサイドフィード口から供給する点のみ変更した比較例7は、離型抵抗比が10%大きくなりました。
この結果より、本願発明にて特定するタイミングで離型剤を供給すると、離型性に優れた液晶ポリエステル組成物を製造することができることが確かめられました。
(v)本願発明における「前記液晶ポリエステルと前記多価アルコール脂肪酸エステルとを、前記メインフィード口から供給して溶融混練する」という製造方法については、引用文献1には記載も示唆もありません。
同様に、引用文献2においても、上記製造方法については記載も示唆もありません。
このように、本願発明の問題意識、および、課題を解決するための技術的思想は引用文献とは全く異なり、引用文献に開示も示唆もされていないものです。したがって、本願発明の構成は、当業者と言え、引用文献1,2に基づいて容易に想到できるものではありません。」

しかし、請求人の上記主張1及び2は、いずれも以下のとおり理由がなく、採用することができない。

上記主張1及び2について、上記第6(3)相違点3についての検討のとおり、引用発明は溶融混錬される成分である「LCP1」、「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」及び「ガラス繊維」を押出機に供給する前に一度混合されるものである。そして、そのような混合物をサイドフィード口のみから供給することは一般的な押出機の利用態様として考え難く、当該方法は採用されていないと解するのが自然であることから、引用発明は、メインフィード口から「LCP1」、「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」及び「ガラス繊維」を供給する工程を有することは明らかであって、「LCP1」と「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」とを、それぞれ別の供給口から供給する工程を有するものではない。
そうすると、引用発明は、離型剤である「ジペンタエリスリトールヘキサステアレート」をメインフィード口から供給して溶融混錬してペレット化したものを製造することから、引用発明のペレット化したものの離型抵抗比は既に10%程度改善しているものといえる。
してみると、上記表1に示される離型抵抗比の向上に係る効果については、引用発明に比べ、当業者にとって格別顕著なものとはいえない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1及び2に記載の技術事項並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願はその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-01 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2011-165193(P2011-165193)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08L)
P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 山本 英一
守安 智
発明の名称 液晶ポリエステル組成物の製造方法  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 加藤 広之  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  
代理人 棚井 澄雄  

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