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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1330878
審判番号 不服2016-6448  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-08-03 
事件の表示 特願2012-536435「GaNベース半導体結晶成長用多結晶窒化アルミニウム基材およびそれを用いたGaNベース半導体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日国際公開,WO2012/043474〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,2011年9月26日(優先権主張2010年9月27日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成27年6月26日付けで拒絶理由を通知し,同年8月31日に意見書と手続補正書が提出され,平成28年1月28日付けで拒絶査定され,同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成29年3月21日付けで,当審から拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,同年5月23日に意見書と手続補正書が提出されたものである。
そして,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,平成29年5月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての多結晶窒化アルミニウム基材であって,
前記多結晶窒化アルミニウム基材は,窒化アルミニウム粉末に焼結助剤として3?5質量%のY_(2)O_(3)を添加して焼結したものであり,
熱伝導率150W/m・K以上,かつ,基板表面に最大径200μmを超える凹部がなく,
前記凹部の最大径が39μm以下であり,
前記焼結助剤は前記焼結により,Y,Y_(2)O_(3)およびY-Al-O化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む焼結助剤成分として,前記多結晶窒化アルミニウム基材中に含まれ,
前記凹部が,ポア,AlN結晶粒子の脱粒,および焼結助剤成分の脱粒からなる群から選択されるいずれか1種であり,
前記多結晶窒化アルミニウム基材が,窒化アルミニウム結晶と粒界相とを含んでなり,前記窒化アルミニウム結晶粒子の平均粒径が7μm以下であり,
前記多結晶窒化アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)が0.01μm以下であり,
前記基板の直径が50mm以上であり,
基板表面のスキューネス(Rsk)が,+0.1?-0.2の範囲である,ことを特徴とする,GaNベース半導体結晶成長用多結晶窒化アルミニウム基材。」

2 当審の拒絶理由
一方,当審において,平成29年3月21日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-3
・引用文献等1,2
・備考
・請求項1について
引例1の請求項1-2,請求項5-8,【0017】,【0020】,【0021】-【0023】,【0024】-【0026】,【0034】,実施例等の記載を参照されたい。
引例1の実施例15-17,19は,【0076】の記載によれば,引例1の実施例3と同様にして作製されたものである。
してみれば,表1ないし表8の記載に照らして,引例1には,平均粒子径が0.8μmのAlN粉末と,焼結助剤として5質量%のY_(2)O_(3)粉末を原料として,ドクターブレード法により板状に成形し,焼成することで製造した,熱伝導率が209W/m・Kかつ,基板表面のAlN結晶粒の脱粒痕の大きさの最大値が5?15μm,AlN結晶粒の平均粒径が3?5μm,粒径分布の標準偏差が1?1.9μm,表面粗さ(Ra)が,0.05μm以下,R_(sk)が+0.5?0である窒化アルミニウム焼結体からなる,金属薄膜を形成する窒化アルミニウム基板に係る発明(引例発明)が記載されていると認められる。

引用発明と本願発明1とを対比すると,引用発明には,「GaNベース半導体結晶を成長させること」(相違点1),及び,「基板の直径が50mm以上であ」ること(相違点2)が特定されていない点で,本願発明1と相違する。

以下,相違点について検討する。
・相違点1について
本願発明1は,「GaNベース半導体を粒成長させるための基板材料としての多結晶窒化アルミニウム基材であって」・・・「GaNベース半導体結晶成長用多結晶窒化アルミニウム基材。」というものである。
そうすると,本願発明1は,「多結晶窒化アルミニウム基材」という「物」に,「GaNベース半導体結晶成長用(GaNベース半導体を粒成長させるための)」という用途限定を付した発明であると解される。
しかしながら,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても,本願発明1の「GaNベース半導体結晶成長用」という用途限定が,その用途に特に適した構造等を意味すると解釈することはできない。
したがって,「GaNベース半導体結晶成長用」という特定は,「多結晶窒化アルミニウム基材」という「物」に係る発明を特定するための意味を有するとは認められないから,相違点1は実質的なものとはいえない。(要すれば,「特許・実用新案 審査基準第III部第2章第4節3.物の用途を用いてその物を特定しようとする記載(用途限定)がある場合」の説明を参照されたい。)

なお,仮に,「GaNベース半導体結晶成長用(GaNベース半導体を粒成長させるための)」という用途限定が,実質的な相違点であったとしても,AlN焼結体からなる基板上にGaNを成長させることは,引例2の23ページにも記載されているように周知技術であるから,引用発明において,金属薄膜に換えてGaN半導体結晶を粒成長させることは,当業者であれば容易に想到し得たものである。また,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。

審判請求書には,引例1(拒絶査定時の引用文献2である特開2003-081676号公報)について,「実際,引用文献2の表7には,AIN結晶粒子の脱粒痕の最大径が15μmである基板が記載され,また,単位面積100μm×100μmあたり,直径10μm以上の凝集体又はポアが2個存在することが記載されております。さらに,引用文献2の[0026]には,焼結助剤の凝集体の大きさを20μm以下に制御していることが記載されております。以上の記載から,引用文献2の窒化アルミニウム基板表面の凹部の大きさは55μm(20μm×2+15μm)と算出されます。」と主張するが,そのような計算式が成立する理由を,審判請求の理由の記載から理解することができない。
表7に,AIN結晶粒子の脱粒痕の最大径が15μmと記載されている場合には,窒化アルミニウム基板表面の凹部の大きさは15μm以下であると理解されるものと認められる。
したがって,審判請求人の前記主張は採用することはできない。

・相違点2について
引用発明は,平均粒子径が0.8μmのAlN粉末と,焼結助剤として5質量%のY_(2)O_(3)粉末を原料として,ドクターブレード法により板状に成形し,焼成することで製造した発明である。
一方,窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を用いることで作製される基板として,外形が1000mm程度までのものが容易に作製できることは引例2の第23ページ第6-7行に記載されているように周知である。
そして,引用発明のドクターブレード法による成形に際して,基板の直径が50mm以上となるように成形することに格別の困難は認められない。
したがって,引用発明において,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

したがって,請求項1に係る発明は,引用文献1,2に記載されている発明に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。

・請求項2,3について
薄膜を成膜する基板の表面が平滑であることが望ましいことは引例1の【0007】等にも記載されているように周知の課題であって,引例1に記載された発明において,凹部及びマイクロポアの個数を,請求項2,3に記載された程度のものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

<引用文献等一覧>
1.特開2003-081676号公報
2.国際公開第2004/005216号 」

3 引用例の記載と引用発明
(1)当審拒絶理由で,「引用文献1」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-81676号(以下「引用例1」という。)には,「窒化アルミニウム基板およびそれを用いた薄膜基板とその製造方法」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。(下線は当審において付した。以下同じ。)
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 焼結助剤成分として希土類酸化物を含む窒化アルミニウム焼結体を具備する窒化アルミニウム基板であって,
前記窒化アルミニウム基板は算術平均粗さRaが0.5μm以下となるように加工された表面を有し,かつ前記加工表面に存在する前記焼結助剤成分の凝集体の大きさが20μm以下であると共に,前記加工表面の単位面積当りに占める前記凝集体の面積の総和が5%以下であることを特徴する窒化アルミニウム基板。
【請求項2】 請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体において,
前記窒化アルミニウム焼結体は,平均粒径が3?5μmの範囲で,かつ粒径分布の標準偏差が2μm以下の窒化アルミニウム結晶粒を有することを特徴とする窒化アルミニウム基板。
【請求項3】 請求項1または請求項2記載の窒化アルミニウム基板において,
前記窒化アルミニウム基板を40℃に保温された20%希釈濃度の酸液に60分間浸漬した後の質量減少率が0.1%以下であることを特徴とする窒化アルミニウム基板。
【請求項4】 請求項1または請求項2記載の窒化アルミニウム基板において,
前記窒化アルミニウム基板を40℃に保温された20%希釈濃度の酸液に60分間浸漬した後に3点曲げ強度を測定したとき,前記酸液に浸漬する前の3点曲げ強度値に対する前記酸液に浸漬した後の3点曲げ強度値の減少率が30%以下であることを特徴とする窒化アルミニウム基板。
【請求項5】 請求項1または請求項2記載の窒化アルミニウム基板において,
前記加工表面は,算術平均粗さRaが0.05μm以下であると共に,スキューネスRskが0以上1以下の表面粗さを有することを特徴する窒化アルミニウム基板。
【請求項6】 請求項5記載の窒化アルミニウム基板において,
前記加工表面の100×100μmの単位面積当りに存在する,大きさ10μm以上の前記焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が,合計数で3個以下であることを特徴とする窒化アルミニウム基板。
【請求項7】 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の窒化アルミニ
ウム基板において,
前記窒化アルミニウム焼結体は,前記希土類酸化物として少なくとも酸化イットリウムを含むことを特徴とする窒化アルミニウム基板。
【請求項8】 請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の窒化アルミニウム基板において,
常温での熱伝導率が160W/m K以上であることを特徴とする窒化アルミニウム基板。
【請求項9】 請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の窒化アルミニウム基板と,
前記窒化アルミニウム基板の前記加工表面に形成された金属薄膜と
を具備することを特徴とする薄膜基板。」

・「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで,従来の窒化アルミニウム焼結体においては,鏡面加工時や酸洗い時に焼結体表面に存在する粒界相成分の脱落や溶解などが生じやすく,このために薄膜を精度よく形成することが難しいという問題がある。上述した特開平11-31869号公報に記載されているように,従来の窒化アルミニウム焼結体の表面を単に鏡面研磨しただけでは,表面に析出した粒界相成分や窒化アルミニウム結晶粒が脱落したり,また酸洗い時に粒界相成分の溶解などが生じやすい。これらは比較的大きな凹部の発生原因となる。このような凹部を有する基板表面に薄膜を形成すると,薄膜と基板との間に空隙が生じてしまう。窒化アルミニウム基板と薄膜との間の空隙は,その後の製造工程や回路使用時に印加される熱により膨れを生じさせ,回路精度の低下や薄膜の剥がれの原因となる。
・・・<途中省略>・・・
【0010】本発明はこのような課題に対処するためになされたもので,窒化アルミニウム基板の高放熱特性を活かした上で,各種回路の形成などに使用される金属薄膜との密着性や薄膜形成精度などを高めることを可能にした窒化アルミニウム基板を提供することを目的としており,さらにそのような窒化アルミニウム基板を用いることによって,信頼性や動作特性などの向上を図った薄膜基板とその製造方法を提供することを目的としている。」

・「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の窒化アルミニウム基板は,請求項1に記載したように,焼結助剤成分として希土類酸化物を含む窒化アルミニウム焼結体を具備する窒化アルミニウム基板であって,前記窒化アルミニウム基板は算術平均粗さRaが0.5μm以下となるように加工された表面を有し,かつ前記加工表面に存在する前記焼結助剤成分の凝集体の大きさが20μm以下であると共に,前記加工表面の単位面積当りに占める前記凝集体の面積の総和が5%以下であることを特徴している。
【0012】本発明の窒化アルミニウム基板は,さらに請求項2に記載したように,前記窒化アルミニウム焼結体が平均粒径が3?5μmの範囲で,かつ粒径分布の標準偏差が2μm以下の窒化アルミニウム結晶粒を有することを特徴としている。
【0013】本発明の窒化アルミニウム基板は,加工後の基板表面(加工表面)に存在する焼結助剤成分の凝集体の大きさ,並びに凝集体の面積の総和を所定の範囲内に制御している。ここで,窒化アルミニウム焼結体を薄膜形成用基板として使用する場合には,その表面(薄膜形成面)を鏡面加工する必要があり,さらに酸洗いを施すことが有効である。
【0014】従って,窒化アルミニウム焼結体の表面に析出する焼結助剤成分の凝集体の大きさや面積の総和を低減することによって,鏡面加工工程や酸洗い工程における焼結助剤成分の凝集体の脱落や溶解に起因する凹部(陥没部)の発生を抑制することができる。特に,酸洗い工程時に焼結助剤成分の凝集体が溶解することで発生する凹部を大幅に抑制することが可能となる。これによって,窒化アルミニウム基板の表面にスパッタ法や蒸着法などのPVD法で金属薄膜を形成した際に,金属薄膜の密着性や形成精度などを大幅に高めることができる。」

・「【0019】上記した加工表面1a上には金属薄膜2が形成されており,これらにより薄膜基板3が構成されている。ここで,加工表面1aの表面粗さはJIS B0601-1994で規定する算術平均粗さRaで0.5μm以下とされている。算術平均粗さRaが0.5μmを超えるような加工表面1aは,金属薄膜2の形成面としての要求特性を満たすことができない。」

・「【0028】ここで,AlN基板1の加工表面1aに存在する焼結助剤成分の凝集体4は,加工表面1aを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したり,あるいは加工表面1aの元素分布を電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)で調べることにより確認することができる。焼結助剤成分の凝集体4は,AlN結晶粒5間に存在する粒界相とは存在形態が明らかに異なるものであり,SEMやEPMAにより確認することができる。例えば,焼結助剤としてY_(2)O_(3)を使用した場合,Y_(2)O_(3)を含む化合物(例えばY-Al-O(-N)系の化合物)の凝集体4をEPMAで確認すると,Yの濃度比が粒界相より濃く検出される。SEM像においても,Y_(2)O_(3)を含む化合物の凝集体4はAlN結晶粒5間に存在する粒界相とは異なる濃度で写し出される。」

・「【0033】薄膜形成面となるAlN基板1の表面1aは,上述したように表面粗さが少なくとも算術平均粗さRaで0.5μm以下となるように加工される。基板表面1aの薄膜形成面としての特性をより一層高める上で,AlN基板1の表面1aはRaが0.05μm以下となるように鏡面加工することが好ましい。Raを0.05μm以下とした鏡面加工面によれば,金属薄膜2の形成精度や密着性をさらに高めることができる。
【0034】表面粗さRaを0.05μm以下とした基板表面は,さらにJIS B0601-1994で規定するスキューネス(ゆがみ値)Rskの値が0以上1以下であることが好ましい。すなわち,AlN基板1の鏡面加工面の表面粗さが,Raで0.05μm以下であると共に,スキューネスRskで0以上1以下である場合に,スパッタ法や蒸着法などにより形成する金属薄膜2の密着性や形成精度などを大幅に高めることが可能となる。
【0035】ここで,スキューネスRskは表面のゆがみを表した値であり,以下のようにして求められる。すなわち,振幅分布曲線と呼ばれる粗さ曲線の最も高い山頂と最も低い谷底との間を等間隔に分割し,2本の平行線内の領域に存在するデータの数と全データ数との比を横軸に,各データの粗さ曲線における高さ方向の値を縦軸にとってプロットする。このプロットの上下方向の偏りを表す。
【0036】このようなスキューネスRskが0未満(Rsk<0),すなわちマイナスの値を示すということは,下方にへこみが多いことを表し,主として焼結助剤成分の凝集体の脱落やAlN結晶粒の脱粒などにより基板表面に形成されるポアが多数発生していることを示す。なお,基板表面に形成されるポアは,研磨加工時に発生する脱粒痕のみではなく,基板表面に形成されたAlN結晶粒などの欠落した部分を含むものである。従って,金属薄膜2を形成した際に膜厚が不均一になったり,AlN基板1と金属薄膜2との間に空隙などが生じやすくなる。これらは金属薄膜2を用いて形成した回路の精度低下や剥がれの原因となる。
【0037】一方,鏡面加工面のスキューネスRskが1を超える(Rsk>1)と,全体的に上方への山が多くなりすぎ,このような場合にも金属薄膜2による回路の形成精度が低下することになる。言い換えると,AlN基板1の鏡面加工面のRaを0.05μm以下とすると共に,スキューネスRskを0以上1以下に制御することことによって,薄膜回路などとして使用される金属薄膜2の密着性や形成精度などを大幅に高めることが可能となる。
【0038】AlN基板1の表面1aをRaが0.05μm以下となるように鏡面加工する場合には,当然ながらRaを0.5μm以下とする場合に比べて,より厳しい条件下で研磨加工などを施す必要がある。具体的には,基板表面に遊離砥粒を用いたポリッシング加工を施す。このような場合においても,AlN焼結体の表面に析出する焼結助剤成分の凝集体の大きさや総面積を低減することによって,Raが0.05μm以下の鏡面加工面を再現性よく得ることが可能となる。」

・「【0054】AlN基板1の表面を算術平均粗さRaが0.05μm以下となるように鏡面加工する場合には,スキューネスRskを0以上1以下の範囲に制御する上で,表面加工条件を適切化することも重要である。具体的には,AlN焼結体の表面を例えば325?400メッシュのダイヤモンド砥石で中仕上げする際に,加工面のスキューネスRskが-1以上(Rsk≧-1)となるように加工する。
【0055】AlN焼結体をダイヤモンド砥石で中仕上げする際の加工面の表面粗さを制御することによって,鏡面加工後の表面粗さを所望の値にすることができる。すなわち,ダイヤモンド砥石による中仕上げ後の加工面のスキューネスRskが-1より小さい(Rsk<-1)と,その後の鏡面加工条件を制御しても,鏡面加工面の表面粗さを所望の値とすることができないおそれが大きい。そして,中仕上げ後の加工面に対して,Raが0.05μm以下となるように鏡面加工を施す。これによって,最終的な鏡面加工面のスキューネスRskを0以上1以下の範囲とすることができる。」

・「【0057】AlN基板1の加工表面(薄膜形成面)1aには金属薄膜2が形成され,これにより薄膜基板3が構成される。金属薄膜2は,例えばスパッタ法,真空蒸着法,分子線エピタキシー(MBE)法,イオンプレーティング法,レーザデポジション法,イオンビームデポジション法などのPVD法により形成される。また場合によっては,熱CVD法,プラズマCVD法,光CVD法などのCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長)法を適用してもよい。金属薄膜2は回路構造を有するものに限らず,ベタ膜であってもよい。金属薄膜2は単一の金属膜および複数の金属膜の積層膜のいずれであってもよいが,膜の総厚は3μm以下とする。
【0058】上述したように,焼結助剤成分の凝集体4の大きさや凝集体の面積の総和を低減したAlN基板1の加工表面1a上に金属薄膜2を形成することによって,その密着性並びに形成精度を大幅に高めることが可能となる。特に,基板表面の凹部が原因となって生じる,金属薄膜2の膜厚の不均一化やAlN基板1と金属薄膜2との間の空隙などが抑制できることから,金属薄膜2による回路の精度や信頼性を大幅に高めることが可能となる。なお,AlN基板1は薄膜形成面が所定の構成を有していれば所期の効果を得ることができる。従って,薄膜を形成しない基板表面は必ずしも上述したような構成とする必要はない。
【0059】このような金属薄膜(回路)2を有する薄膜基板3は,例えば光通信用ハイブリッドIC,移動体通信用ハイブリッドIC,レーザダイオード用ハイブリッドIC,自動車用ハイブリッドICなどのマイクロ波集積回路用の基板として好適に用いられるものである。さらに,金属薄膜2を有する薄膜基板3は,VLD(Visible Laser Diode)などのレーザダイオードが搭載されるサブマウント基板としても有効である。特に,本発明のAlN基板は板厚を0.1?1.5mmの間で調整可能であることから,マイクロ波集積回路用基板やサブマウント基板などの様々な分野に適用することができる。」

・「【0060】
【実施例】次に,本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0061】実施例1
まず,焼結助剤として純度99%,平均粒子径が1.0μmのY_(2)O_(3)粉末を用意し,このY_(2)O_(3)粉末を有機溶媒(エタノール)中に投入して撹拌した。撹拌はボールミルを使用して実施した。このY_(2)O_(3)粉末の撹拌時間(予備混合時間)は10分とした。一方,平均粒子径が1.0μmで,不純物酸素量が0.8質量%のAlN粉末に,適量の有機バインダと溶媒などを加えて混合してスラリー状とした。上記したY_(2)O_(3)粉末の分散体をAlNスラリーに,Y_(2)O_(3)の配合量が5質量%となるように添加した。これをさらにボールミルで24時間混合した。各原料の条件は表1に示す通りである。
【0062】次に,上記した原料スラリーをドクターブレード法により板状に成形し,このAlN成形体を600?800℃の温度で脱脂した。この脱脂後のAlN成形体を以下のようにして焼成した。すなわち,脱脂後の複数のAlN成形体を,高純度AlN(純度99.9質量%以上)製の密閉型焼成容器中に配置した。焼成容器中へのAlN成形体の充填量は体積比で50%とした。このような焼成容器をカーボン製円筒部材中に入れた状態で焼成炉内に配置した。二重容器内の焼成容器の充填量は体積比で40%とした。焼成は1750?1900℃×1?8時間の条件で実施した。焼成雰囲気は純度99%以上の窒素ガスとし,焼成炉内の圧力は3×10^(5)?7×10^(5)Paの範囲とした。さらに設定圧力値に対して炉内圧力が±0.3×10^(5)Paの範囲となるように調整した。焼成条件は表2に示す通りである。
【0063】このようにして得たAlN焼結体の平均結晶粒径と結晶粒径分布を調べた。AlN結晶粒の粒径については,AlN焼結体の破断面の任意の3箇所で単位面積50×50μm内の結晶粒径を測定し,これらの平均値に基づいて平均粒径および粒径分布を求めた。なお,結晶粒径を測定する単位面積のうち,少なくとも1箇所は加工面に隣接するAlN結晶粒を含む箇所とすることが望ましい。さらに,AlN焼結体の熱伝導率を測定した。これらの測定結果を表3に示す。
【0064】次に,上記したAlN焼結体にダイヤモンド砥石による中仕上げ加工と鏡面加工(Raで0.5μm以下に設定)を施してAlN基板(厚さ0.635mm)を作製した。このAlN基板の加工表面に存在する焼結助剤成分の凝集体の大きさおよび面積率(総和)を測定した。なお,焼結助剤成分の凝集体の存在形態については,鏡面加工面の任意の3箇所をSEM(必要に応じてEPMAを使用)で観察し,これらの観察結果から凝集体の大きさと単位面積(100×100μm)当りに占める凝集体の面積率(平均値)を求めた。さらに,AlN基板を20%硫酸(40℃)に60分間浸漬した。そして,酸液に浸漬した後の質量減少率と3点曲げ強度の減少率を調べた。これらの測定結果を表4に示す。
【0065】実施例2?9,比較例1?7
AlN粉末と焼結助剤粉末に関する条件と焼成条件をそれぞれ表1および表2に示す条件に変更する以外は,上記した実施例1と同様にして,それぞれAlN焼結体を作製した。これらAlN焼結体の平均結晶粒径および結晶粒径分布の標準偏差,熱伝導率を実施例1と同様して評価した。これらの値を表3に示す。
【0066】さらに,各AlN焼結体に実施例1と同様な加工を施して,それぞれAlN基板を作製した後,加工表面に存在する焼結助剤成分の凝集体の大きさおよび面積率を測定した。さらに実施例1と同様にして,AlN基板の酸液浸漬後の質量減少率と3点曲げ強度の減少率を調べた。酸洗いに使用した酸液は表4に示す通りである。これらの測定結果を表4に示す。」

・【0067】の【表1】から,実施例3で用いる,AlN粉末の平均粒子径が,0.8μm,不純物酸素量が,0.8質量%であり,焼結助剤の種類が,Y_(2)O_(3)であって,配合量が5質量%であることが読み取れる。

・「【0076】実施例15?19,比較例10?12
上述した実施例3と同様にして,複数のAlN焼結体を作製した。ただし,焼成温度は1730?1840℃,焼成時間は3?6時間の範囲で変化させた。得られた各AlN焼結体の平均結晶粒径,結晶粒径分布の標準偏差,および熱伝導率は表6に示す通りである。これらは実施例1と同様して測定した。
【0077】次に,上記した各AlN焼結体に対して,表6に示す条件でそれぞれダイヤモンド砥石による中仕上げ加工(第1の加工工程)と鏡面加工(第2の加工工程)を施し,鏡面加工面の表面状態が異なる複数のAlN基板を作製した。このようにして得た各AlN基板について,鏡面加工面に存在する焼結助剤成分の凝集体およびポアの数や面積比,さらに鏡面加工面のスキューネスRsk,ポア(AlN結晶粒および凝集体の脱粒痕)の最大径を測定した。これらの測定結果を表7に示す。
【0078】なお,スキューネスRskは表面粗さ測定器・フォームタリサーフS4C(テーラーボブソン社製)を用いて測定した。焼結助剤成分の凝集体およびポアの存在形態については,鏡面加工面の任意の3箇所をSEMおよびEPMAにて観察し,これらの観察結果から大きさ10μm以上の凝集体およびポアの単位面積(100×100μm)当りの存在数,さらに大きさ10μm未満の凝集体およびポアの単位面積(100×100μm)当りの存在比率(面積比)を,それぞれ平均値として求めた。ポアの最大径については,鏡面加工面の任意の3箇所について測定し,そのうちの最大径の大きさで示した。」

・【0079】の【表6】から,実施例15によって得た,AlN焼結体の平均結晶粒径が3μm,熱伝導率が,170W/m K,であり,砥石番数が#325のダイヤモンド砥石による中仕上げ加工(第1の加工工程),及び,砥石番数が#600の鏡面加工(第2の加工工程)後の表面のRaが,0.05μm以下であることが読み取れる。

・【0080】の【表7】から,実施例15によって得た,AlN基板の鏡面加工面に存在する,大きさ10μm以上の単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が2であり,鏡面加工面のスキューネスRsk,が0であり,AlN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)が15μmであることが読み取れる。

・「【0081】表6および表7に示したように,実施例15?19による各AlN基板は,いずれも160W/m K以上の熱伝導率を有すると共に,鏡面加工面のスキューネスRskが0以上1以下という値を示している。このような表面状態に基づいて,AlN結晶粒の脱粒痕の最大値が小さいことが分かる。このことはAlN結晶粒の脱粒が抑制されていることを示す。
【0082】一方,比較例10のAlN基板は,AlN結晶粒の平均粒径が大きいことに加えて,表面に10μmを超える焼結助剤成分の凝集体やポアが多く存在していることから,鏡面加工面のスキューネスRskがマイナスの値を示しており,さらにAlN結晶粒の脱粒痕も大きい。また,比較例11においては,鏡面加工面のスキューネスRskやAlN結晶粒の脱粒痕は比較的良好な値を示しているものの,AlN結晶粒の平均粒径が小さすぎることから熱伝導率が小さい。」

・「【0083】実施例20?24,比較例13?15
上述した実施例15?19および比較例10?12による各AlN基板を用いて,それぞれ鏡面加工面(比較例12のAlN基板についてはダイヤモンド砥石による加工面)上に,Ti膜(厚さ100nm)/Pt膜(厚さ200nm)/Au膜(厚さ500nm)構造の金属薄膜をスパッタ法により成膜した。このようにしてそれぞれ薄膜基板を作製した。
【0084】このようにして得た各薄膜基板について,金属薄膜(厚さ約800nmの多層膜)のピール強度を測定した。ピール強度はスコッチテープ法により測定した。具体的には,薄膜回路の面積より広いスコッチテープ(住友スリーエム社製)を貼り,テープを一気に剥がした際に残存する薄膜回路の面積比(残存面積率=(試験後の残存面積/試験前の面積)×100%)を測定した。また,同様にして作製した各薄膜回路基板をホットプレート上にて450℃×10分の条件で加熱し,その際の金属薄膜の膨れの有無を調べた。これらの測定結果を表8に示す。」

・【0085】の【表8】から,実施例15のAlN基板を用いた実施例20の,ピール試験結果が50%であって,比較例13ないし15の5ないし25%よりも優れた数値であり,また,加熱試験後の膨れがないことが読み取れる。

・「【0086】表8から明らかなように,実施例20?24の各薄膜基板は,いずれも薄膜回路の密着性に優れ,また加熱した際に膨れなどが生じることもなく,マイクロ波集積回路用基板やレーザダイオード用サブマウント基板に好適であることが分かる。さらに,実施例20?24の各薄膜基板は,AlN基板の薄膜形成面の表面粗さRaが実施例1?9のAlN基板に比べて小さいことから,金属薄膜による回路の形成精度がより一層優れるものであった。」

(2)そして,上記【0060】ないし【0086】に記載された各「実施例」は,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であるから,引用例1の「【特許請求の範囲】」の「【請求項1】 焼結助剤成分として希土類酸化物を含む窒化アルミニウム焼結体を具備する窒化アルミニウム基板であって,前記窒化アルミニウム基板は算術平均粗さRaが0.5μm以下となるように加工された表面を有し,かつ前記加工表面に存在する前記焼結助剤成分の凝集体の大きさが20μm以下であると共に,前記加工表面の単位面積当りに占める前記凝集体の面積の総和が5%以下であることを特徴する窒化アルミニウム基板。」,及び,「【請求項9】 請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の窒化アルミニウム基板と,前記窒化アルミニウム基板の前記加工表面に形成された金属薄膜とを具備することを特徴とする薄膜基板。」との記載に照らして,前記【表7】の「『焼結助剤成分の凝集体とポア』『大きさ10μm以上の単位面積当たりの数(個)』」が,「大きさ10μm以上であって20μm以下である単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数」を表すことは明らかであり,また,前記各「実施例」に記載された「AlN基板」は,加工表面に金属薄膜を形成させるための基板材料としてのAlN基材ということができる。
そうすると,上記の記載に照らして,引用例1には,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例15として,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「加工表面に金属薄膜を形成させるための基板材料としてのAlN基材であって,
焼結助剤として純度99%,平均粒子径が1.0μmのY_(2)O_(3)粉末を用意し,このY_(2)O_(3)粉末を有機溶媒(エタノール)中に投入して撹拌し,
一方,平均粒子径が0.8μmで,不純物酸素量が0.8質量%のAlN粉末に,適量の有機バインダと溶媒などを加えて混合してスラリー状とし,
上記したY_(2)O_(3)粉末の分散体をAlNスラリーに,Y_(2)O_(3)の配合量が5質量%となるように添加し,これをさらにボールミルで24時間混合した原料スラリーをドクターブレード法により板状に成形し,
このAlN成形体を600?800℃の温度で脱脂し,
この脱脂後のAlN成形体を高純度AlN(純度99.9質量%以上)製の密閉型焼成容器中に配置し,このような焼成容器をカーボン製円筒部材中に入れた状態で焼成炉内に配置し,焼成して得た,AlN焼結体に,
砥石番数が#325のダイヤモンド砥石による中仕上げ加工と,砥石番数が#600の鏡面加工を施して作製したAlN基板(厚さ0.635mm)であって,
AlN焼結体の平均結晶粒径が3μm,熱伝導率が,170W/m K,AlN基板の鏡面加工面に存在する,大きさ10μm以上であって20μm以下の単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が2であり,鏡面加工面のスキューネスRsk,が0であり,AlN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)が15μmであり,表面のRaが,0.05μm以下である,金属薄膜形成用AlN基材。」

(3)当審拒絶理由で,「引用文献2」として引用した,本願の優先権主張の日前に外国において頒布された刊行物である国際公開2004/005216号(以下「引用例2」という。)には,「薄膜形成用基板,薄膜基板,光導波路,発光素子,及び発光素子搭載用基板」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。

・「発明の開示
本発明は上記に示したような課題を解決するためになされたものである。本発明者は窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする単結晶薄膜を形成するための基板として窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を中心に各種セラミック材料を主成分とする焼結体を検討しその中でも特に窒化アルミニウムを主成分とする焼結体からなる基板を用いることで窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムを主成分とするより結晶性に優れた単結晶薄膜が直接形成できることを見出し特願2002-362783,特願2003-186175等にて提案してきた。今回上記のように窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムを主成分とする単結晶薄膜が直接形成し得る窒化アルミニウムなどのセラミック材料を主成分とする焼結体には無定形薄膜,多結晶薄膜,配向性多結晶薄膜など必ずしもエピタキシャル成長した単結晶薄膜ではない窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする薄膜であっても直接形成できることを見出した。さらにこのような各種結晶状態の薄膜をあらかじめ形成した窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を基板として用いこの基板に窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする単結晶薄膜を成長させた時,得られる該単結晶薄膜は窒化アルミニウムを主成分とする焼結体に直接形成した単結晶薄膜より結晶性が優れていること,などを見出した。
このように本発明において窒化アルミニウムを主成分とする焼結体は窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする結晶性に優れた単結晶薄膜を形成できることが見出され,また窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を用いることで上記窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする結晶性に優れた単結晶薄膜を形成した薄膜基板が得られることが見出された。
上記の薄膜を形成していない窒化アルミニウムを主成分とする焼結体,及び上記窒化アルミニウムを主成分とする焼結体に窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする薄膜が形成された薄膜基板を用いることで従来からのサファイア基板を用いて作製される発光素子と比較して少なくとも同等以上,最大4?5倍以上の発光効率を有する発光素子が製造できる。さらに上記薄膜基板を用いることで伝送損失が小さくかつ紫外光の伝送が低損失で可能な光導波路が製造できることが明らかとなった。」(第4ページ第14-42行)

・「・・・すなわち焼結体の場合例えば外形0.01mm?1000mm,厚み1μm?20mm程度のものは容易に作製できる。
また本発明において窒化アルミニウムを主成分とする焼結体に形成された窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする単結晶,無定形,多結晶,配向性多結晶など各種結晶状態の薄膜と窒化アルミニウムを主成分とする焼結体とは強固に接合し,形成された薄膜内のクラックや該薄膜と窒化アルミニウムを主成分とする焼結体との接合界面での剥離などは見られない。接合性については例えば形成した上記薄膜に粘着テープを接着し引き剥がしテストを行っても該薄膜と窒化アルミニウムを主成分とする焼結体との接合界面での剥離や破壊は見られない。また窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする単結晶,無定形,多結晶,配向性多結晶など各種結晶状態の薄膜と窒化アルミニウムを主成分とする焼結体との間の接合性は通常垂直引張り強度で2Kg/mm^(2)以上でありさらに垂直引張り強度4Kg/mm^(2)以上の接合のものも得られる。」(第23ページ第6-18行)

・「実施例2
次に,窒化アルミニウムを主成分とする焼結体からなる基板上に直接形成される窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムのうちから選ばれた少なくとも1種以上を主成分とする単結晶薄膜の結晶性に対して窒化アルミニウムを主成分とする焼結体の組成や焼結体の微構造,光透過率などの特性による影響を調べた。実験に用いた焼結体作製用原料粉末は実施例1で使用したのと同じ高純度窒化アルミニウム粉末〔徳山曹達株式会社(現:株式会社トクヤマ)製「F」グレード〕を用意した。この原料粉末は酸化物還元法にて製造されたものである。この原料粉末に適宜焼結助剤などの添加物や黒色化剤などを加えエタノールとともにボールミルで24時間混合後乾燥しエタノールを揮散した後パラフィンワックスを粉末混合体に対して5重量%加え成形用粉末を作製し,直径25.4mm×厚み1.5mm及び直径32mm×厚み1.5mmの円形粉末成形体を一軸プレス成形により得た。その後減圧下300℃でパラフィンワックスを脱脂し,焼成用治具としてタングステン製のセッターを使用して還元性雰囲気にならないよう純窒素雰囲気中で被焼成物である粉末成形体の周囲をタングステン製の枠で囲んで常圧焼成,雰囲気加圧焼成(ガス圧焼成)を行ない各種窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を作製した。また,ホットプレス,HIP(ホットアイソスタチックプレス:静水圧加圧焼結)により各種窒化アルミニウムを主成分とする焼結体も作製した。焼成条件の詳細は表2に記載されている。得られた焼結体を直径25.4mm×厚み0.5mmの寸法に研削,及び研磨加工し窒化アルミニウムを主成分とする焼結体からなる基板を作製した。なお,得られた各種窒化アルミニウム焼結体中には原料粉末中の酸素などの不可避混入成分や希土類元素化合物,アルカリ土類金属化合物などの焼結助剤,アルカリ金属,珪素成分,モリブデン,タングステン,ニオブ,チタン,カーボン,鉄,ニッケルなどの成分は殆ど揮散・除去されないで粉末成形体中とほぼ同量存在している。
このようにして得られた各種基板を用い実施例1と同様の高周波加熱によるMOCVD(有機金属化学気相分解)装置を用いた方法により窒化ガリウム,窒化インジウム,窒化アルミニウムを主成分とする薄膜を基板表面に形成した。」(第218ページ第11-35行)

4 当審の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 「結晶成長」は,「薄膜形成」の一態様といえる。また,引用発明1の「AlN」は,「窒化アルミニウム」のことであり,さらに,引用発明1のAlN基板の「平均結晶粒径が3μm」であることから,引用発明1の「AlN基板」は,多結晶基材といえる。
そうすると,引用発明1の「加工表面に金属薄膜を形成させるための基板材料としてのAlN基材」と,本願発明1の「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての多結晶窒化アルミニウム基材」とは,以下の相違点1ないし6を除いて,「薄膜を形成させるための基板材料としての多結晶窒化アルミニウム基材」である点で一致する。

イ 引用発明1は,「AlN焼結体の平均結晶粒径が3μm」というものであるから,「窒化アルミニウム結晶」を含むことは明らかである。そして,複数の「窒化アルミニウム結晶」がある場合に,引用例1の【0007】に,「従来の窒化アルミニウム焼結体においては,鏡面加工時や酸洗い時に焼結体表面に存在する粒界相成分の脱落や溶解などが生じやすく」と記載されていることからも明らかなように,隣接する「窒化アルミニウム結晶」の間には「粒界相」が存在するといえる。したがって,引用発明1は,「窒化アルミニウム結晶と粒界相とを含んでな」るものといえる。

したがって,上記の対応関係から,本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「薄膜を形成させるための基板材料としての多結晶窒化アルミニウム基材であって,
前記多結晶窒化アルミニウム基材は,窒化アルミニウム粉末に焼結助剤として3?5質量%のY_(2)O_(3)を添加して焼結したものであり,
熱伝導率150W/m・K以上であり,
前記多結晶窒化アルミニウム基材が,窒化アルミニウム結晶と粒界相とを含んでなり,前記窒化アルミニウム結晶粒子の平均粒径が7μm以下であり,
基板表面のスキューネス(Rsk)が,+0.1?-0.2の範囲である薄膜形成用多結晶窒化アルミニウム基材。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1の「多結晶窒化アルミニウム基材」が,「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるため」のものである,「GaNベース半導体結晶成長用」多結晶窒化アルミニウム基材であるのに対して,引用発明1の「AlN基材」が,「加工表面に金属薄膜を形成させるため」のものである,「金属薄膜形成用」AlN基材である点。

・相違点2:本願発明1の多結晶窒化アルミニウム基材は,「基板表面に最大径200μmを超える凹部がなく,前記凹部の最大径が39μm以下であ」るのに対して,引用発明1は,「『AlN基板の鏡面加工面に存在する,大きさ10μm以上であって20μm以下の単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が2であり』『AlN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)が15μmであ』」る点。

・相違点3:本願発明1が,「前記焼結助剤は前記焼結により,Y,Y_(2)O_(3)およびY-Al-O化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む焼結助剤成分として,前記多結晶窒化アルミニウム基材中に含まれ」るのに対して,引用発明1では特定されていない点。

・相違点4:本願発明1が,「前記凹部が,ポア,AlN結晶粒子の脱粒,および焼結助剤成分の脱粒からなる群から選択されるいずれか1種であ」るのに対して,引用発明1では特定されていない点。

・相違点5:本願発明1が,「前記多結晶窒化アルミニウム基材の表面粗さ(Ra)が0.01μm以下であ」るのに対して,引用発明1では,「表面のRaが,0.05μm以下」とされている点。

・相違点6:本願発明1が,「前記基板の直径が50mm以上であ」るのに対して,引用発明1では特定されていない点。

(2)判断
・相違点1について
本願発明1は,「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての多結晶窒化アルミニウム基材であって」・・・「GaNベース半導体結晶成長用多結晶窒化アルミニウム基材。」というものである。
そうすると,本願発明1は,「多結晶窒化アルミニウム基材」という「物」に,「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての」という用途限定を付した発明であると解される。
しかしながら,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても,本願発明1の「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての」という用途限定が,その用途に特に適した,多結晶窒化アルミニウム基材の構造等を意味しているものとは理解することができない。
したがって,「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての」という特定は,「多結晶窒化アルミニウム基材」という「物」に係る発明を特定するための意味を有するとは認められないから,相違点1は実質的なものとはいえない。
なお,仮に,「MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料としての」という用途限定が,実質的な相違点であったとしても,AlN焼結体からなる基板上に,MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させることは,引用例2の上記摘記箇所にも記載されているように周知技術であるから,引用例2の上記記載に接した当業者であれば,引用発明1のAlN基材を,MOCVD法によりGaNベース半導体を結晶成長させるための基板材料として用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。また,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。

・相違点2について
ア 引用発明1は,「AlN基板の鏡面加工面に存在する,大きさ10μm以上であって20μm以下の単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が2であり」「AlN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)が15μmであり」というものである。
そして,鏡面加工面に存在する,大きさ10μm以上であって20μm以下の単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が2であり,AlN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)が15μmであると文献に記載されている場合に,前記2つの凝集体およびポア,あるいは,AlN結晶粒の脱粒痕は,互いに離隔して存在すると理解することが自然といえる。
すなわち,仮に,AlN基板の鏡面加工面に,大きさ「a」のポアと,大きさ「b」のポアが,連続して存在することで,大きさ「a+b」のポアが観察される場合には,大きさ「a+b」のポアが1つ存在すると計上することが通常の集計方法であると認められる。
そうすると,引用例1には,凹部の最大径が20μm以下の凝集体およびポアと,凹部の最大径が15μmのAlN結晶粒の脱粒痕が存在するといえるから,上記相違点2は,実質的なものではない。

イ また,仮に,相違点2が実質的なものであったとしても,以下の理由から,引用発明1において,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことと認められる。
すなわち,引用例1には,「これらは比較的大きな凹部の発生原因となる。このような凹部を有する基板表面に薄膜を形成すると,薄膜と基板との間に空隙が生じてしまう。窒化アルミニウム基板と薄膜との間の空隙は,その後の製造工程や回路使用時に印加される熱により膨れを生じさせ,回路精度の低下や薄膜の剥がれの原因となる。」(【0007】),「本発明はこのような課題に対処するためになされたもので,窒化アルミニウム基板の高放熱特性を活かした上で,各種回路の形成などに使用される金属薄膜との密着性や薄膜形成精度などを高めることを可能にした窒化アルミニウム基板を提供することを目的としており,さらにそのような窒化アルミニウム基板を用いることによって,信頼性や動作特性などの向上を図った薄膜基板とその製造方法を提供することを目的としている。」(【0010】),「【課題を解決するための手段】本発明の窒化アルミニウム基板は,請求項1に記載したように,焼結助剤成分として希土類酸化物を含む窒化アルミニウム焼結体を具備する窒化アルミニウム基板であって,前記窒化アルミニウム基板は算術平均粗さRaが0.5μm以下となるように加工された表面を有し,かつ前記加工表面に存在する前記焼結助剤成分の凝集体の大きさが20μm以下であると共に,前記加工表面の単位面積当りに占める前記凝集体の面積の総和が5%以下であることを特徴している。本発明の窒化アルミニウム基板は,さらに請求項2に記載したように,前記窒化アルミニウム焼結体が平均粒径が3?5μmの範囲で,かつ粒径分布の標準偏差が2μm以下の窒化アルミニウム結晶粒を有することを特徴としている。本発明の窒化アルミニウム基板は,加工後の基板表面(加工表面)に存在する焼結助剤成分の凝集体の大きさ,並びに凝集体の面積の総和を所定の範囲内に制御している。ここで,窒化アルミニウム焼結体を薄膜形成用基板として使用する場合には,その表面(薄膜形成面)を鏡面加工する必要があり,さらに酸洗いを施すことが有効である。従って,窒化アルミニウム焼結体の表面に析出する焼結助剤成分の凝集体の大きさや面積の総和を低減することによって,鏡面加工工程や酸洗い工程における焼結助剤成分の凝集体の脱落や溶解に起因する凹部(陥没部)の発生を抑制することができる。特に,酸洗い工程時に焼結助剤成分の凝集体が溶解することで発生する凹部を大幅に抑制することが可能となる。これによって,窒化アルミニウム基板の表面にスパッタ法や蒸着法などのPVD法で金属薄膜を形成した際に,金属薄膜の密着性や形成精度などを大幅に高めることができる。」(【0011】?【0014】),及び,「上述したように,焼結助剤成分の凝集体4の大きさや凝集体の面積の総和を低減したAlN基板1の加工表面1a上に金属薄膜2を形成することによって,その密着性並びに形成精度を大幅に高めることが可能となる。特に,基板表面の凹部が原因となって生じる,金属薄膜2の膜厚の不均一化やAlN基板1と金属薄膜2との間の空隙などが抑制できることから,金属薄膜2による回路の精度や信頼性を大幅に高めることが可能となる。なお,AlN基板1は薄膜形成面が所定の構成を有していれば所期の効果を得ることができる。」(【0058】)ことが記載されている。
そうすると,上記記載から,引用発明1は,比較的大きな凹部を有する基板表面に薄膜を形成すると,薄膜と基板との間に空隙が生じ,窒化アルミニウム基板と薄膜との間の当該空隙は,その後の製造工程や回路使用時に印加される熱により膨れを生じさせ,回路精度の低下や薄膜の剥がれの原因となるとの知見に基づく発明であって,窒化アルミニウム基板の薄膜形成面の,算術平均粗さRa,加工表面に存在する前記焼結助剤成分の凝集体の大きさ,窒化アルミニウム焼結体の平均粒径等の構成を所定のものとすることで,凹部(陥没部)の発生を抑制して,薄膜の密着性や形成精度などを大幅に高めた発明であると認められる。

ウ 一方,引用発明1は,「AlN基板の鏡面加工面に存在する,大きさ10μm以上であって20μm以下の単位面積当たりの焼結助剤成分の凝集体およびポアの数が2であり」「AlN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)が15μmであり」というものである。
そして,引用発明1において,凝集体およびポア,AlN結晶粒の脱粒痕によって形成される凹部の大きさが大きい場合には,上記イに照らして,当該凹部によって窒化アルミニウム基板と薄膜との間に空隙が形成され,当該空隙が,その後の製造工程や回路使用時に印加される熱により膨れを生じさせ,回路精度の低下や薄膜の剥がれの原因となることは,当業者であれば直ちに理解することである。

エ そうすると,引用発明1において,凹部の最大径が小さいことが望まれていることは明らかであるから,凝集体およびポア,AlN結晶粒の脱粒痕が連続して存在することで,これらの凹部の大きさが合計されてより大きな値を示す場合に,当該凹部の最大径が小さいものとなるように,引用発明1で特定される製造条件等を修正して,例えば,「基板表面に最大径200μmを超える凹部がなく,前記凹部の最大径が39μm以下であ」るものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

オ そして,本願明細書の【表1】,【表2】及び【表3】には,
・「基板表面粗さRa(μm)」が「0.02」であり,「基板表面の凹部の最大径(μm)」が「46」である,「参考例3(実施例3)」を用いた「実施例3A」の「膜はがれの有無」が,「○」であり,
・「基板表面粗さRa(μm)」が「0.05」であり,「基板表面の凹部の最大径(μm)」が「86」である,「参考例2(実施例2)」を用いた「実施例2A」の「膜はがれの有無」が「△」であることが示されている。
そうすると,「凹部の最大径」が39μmを超えても,少なくとも,「凹部の最大径」が,46μmまでは,膜はがれが無いといえるから,凹部の最大径の「39μm以下」という数値限定に臨界的な意義を認めることはできない。
したがって,引用発明1において,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

なお,審判請求人は,平成29年5月23日に提出した意見書において,以下のように主張する。
・「引例1の例えば表7の実施例15を見ますと,「焼結助剤成分の凝集体とポア」の欄の「大きさ10μm以上の単位面積当たり数(個)」が2となっております。また,引例1の段落[0026]には,焼結助剤成分の凝集体4の大きさを20μm以下に制御することが記載されており,この記載から凝集体の最大サイズは20μmであると仮定できます。そうすると,ポアの大きさは20μm×2=40μmになります。また,表7の実施例15には,「AIN結晶粒の脱粒痕の大きさ(最大)」が15μmであることが記載されております。凝集体の脱落に起因するポアと脱粒痕の位置が近くにあると,両者に起因する凹部の大きさは40μm+15μm=55μmとなります。」
しかしながら,引用例1の記載,及び,技術常識に照らして,引用例1の実施例15における,前記2つの,大きさ10μm以上であって20μm以下の焼結助剤成分の凝集体およびポアが,いずれも「大きさ10μm以上であって20μm以下」という数値範囲の上限である20μmであって,さらに,これら2つのポア等が当該ポア等の長軸方向に連続して一列に存在するものであり,その結果として,引用例1の実施例15が,「20μm×2=40μm」のポアを有するものであったとすることは不自然であるから,そのように理解することはできない。
また,仮に,引用例1の実施例15の凹部の最大径が,審判請求人の主張するように,40μm,あるいは,55μmであったとしても,引用発明1は,「凹部(陥没部)の発生を抑制すること」によって,薄膜を形成した際の「密着性や形成精度などを大幅に高めること」を目的とした発明であるから,前記凹部の大きさをより小さく,例えば,「基板表面に最大径200μmを超える凹部がなく,前記凹部の最大径が39μm以下であ」るものとすることは当業者が適宜なし得たことである。
したがって,審判請求人の主張は採用することができない。

・相違点3について
引用発明1のAlN基材は,焼結助剤として純度99%,平均粒子径が1.0μmのY_(2)O_(3)粉末を,配合量が5質量%となるように添加して,焼成して得たものである。
そして,引用例1の上記【0028】には「ここで,AlN基板1の加工表面1aに存在する焼結助剤成分の凝集体4は,加工表面1aを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したり,あるいは加工表面1aの元素分布を電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)で調べることにより確認することができる。焼結助剤成分の凝集体4は,AlN結晶粒5間に存在する粒界相とは存在形態が明らかに異なるものであり,SEMやEPMAにより確認することができる。例えば,焼結助剤としてY_(2)O_(3)を使用した場合,Y_(2)O_(3)を含む化合物(例えばY-Al-O(-N)系の化合物)の凝集体4をEPMAで確認すると,Yの濃度比が粒界相より濃く検出される。SEM像においても,Y_(2)O_(3)を含む化合物の凝集体4はAlN結晶粒5間に存在する粒界相とは異なる濃度で写し出される。」と記載されている。
してみれば,引用発明1は,「前記焼結助剤は前記焼結により,Y,Y_(2)O_(3)およびY-Al-O化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含む焼結助剤成分として,前記多結晶窒化アルミニウム基材中に含まれ」るものと理解されるから,相違点3は,実質的なものではない。

・相違点4について
引用例1の,「表面に析出した粒界相成分や窒化アルミニウム結晶粒が脱落したり,また酸洗い時に粒界相成分の溶解などが生じやすい。これらは比較的大きな凹部の発生原因となる。」(【0007】),「主として焼結助剤成分の凝集体の脱落やAlN結晶粒の脱粒などにより基板表面に形成されるポアが多数発生していることを示す。なお,基板表面に形成されるポアは,研磨加工時に発生する脱粒痕のみではなく,基板表面に形成されたAlN結晶粒などの欠落した部分を含むものである。」(【0036】),及び,「ポア(AlN結晶粒および凝集体の脱粒痕)の最大径を測定した。」(【0077】)との記載から,引用例1において,凹部は,「ポア」,「AlN結晶粒子の脱粒」,及び,「焼結助剤成分の(凝集体の)脱粒」からなる群から選択されるいずれか1種であることを想定しているものと理解される。したがって,相違点4は,実質的なものではない。

・相違点5について
引用例1の上記「【0033】薄膜形成面となるAlN基板1の表面1aは,上述したように表面粗さが少なくとも算術平均粗さRaで0.5μm以下となるように加工される。基板表面1aの薄膜形成面としての特性をより一層高める上で,AlN基板1の表面1aはRaが0.05μm以下となるように鏡面加工することが好ましい。Raを0.05μm以下とした鏡面加工面によれば,金属薄膜2の形成精度や密着性をさらに高めることができる。」との記載に照らして,引用発明1のRaは,小さいほど望ましいことが理解されるから,引用発明1において,薄膜の形成精度や密着性の必要度に応じて,基板表面の薄膜形成面としての特性をより一層高めるために,Raの値をさらに小さく設定して,例えば,表面粗さ(Ra)が0.01μm以下となるようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。
なお,本願明細書の【表1】,【表2】及び【表3】には,
・「基板表面粗さRa(μm)」が「0.02」であり,「基板表面の凹部の最大径(μm)」が「46」である,「参考例3(実施例3)」を用いた「実施例3A」の「膜はがれの有無」が,「○」であり,
・「基板表面粗さRa(μm)」が「0.05」であり,「基板表面の凹部の最大径(μm)」が「86」である,「参考例2(実施例2)」を用いた「実施例2A」の「膜はがれの有無」が「△」であることが示されている。
そうすると,「表面粗さ(Ra)」が0.01μmを超えても,少なくとも,「表面粗さ(Ra)」が,0.02μmまでは,膜はがれが無いといえるから,表面粗さ(Ra)の「0.01μm以下」という数値限定に臨界的な意義を認めることはできない。
したがって,引用発明1において,相違点5について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点6について
引用発明1は,平均粒子径が0.8μmのAlN粉末と,焼結助剤として5質量%のY_(2)O_(3)粉末を原料として,ドクターブレード法により板状に成形し,焼成するものである。
一方,窒化アルミニウムを主成分とする焼結体を用いることで作製される基板として,外形が1000mm程度までのものが容易に作製できることは引用例2の第23ページ第6-7行に記載されているように周知である。
そして,引用発明1の前記ドクターブレード法による成形に際して,基板の直径が50mm以上となるように成形することに格別の困難は認められない。
したがって,引用発明1において,相違点6について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・効果について
引用発明1において,相違点1ないし6について,本願発明1の構成を採用したことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものであり,格別のものとは認められない。

(3)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用例1及び2に記載された発明から容易に発明をすることができたものである。
したがって,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-08 
結審通知日 2017-06-09 
審決日 2017-06-22 
出願番号 特願2012-536435(P2012-536435)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杢 哲次溝本 安展  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
発明の名称 GaNベース半導体結晶成長用多結晶窒化アルミニウム基材およびそれを用いたGaNベース半導体の製造方法  
代理人 中村 行孝  
代理人 関根 毅  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 関根 毅  
代理人 永井 浩之  
代理人 浅野 真理  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  
代理人 鈴木 順生  
代理人 永井 浩之  
代理人 浅野 真理  
代理人 鈴木 順生  

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