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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1330962
審判番号 不服2017-986  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-24 
確定日 2017-08-22 
事件の表示 特願2015- 68827「マルチコアプロセッサ、情報処理方法、プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月 4日出願公開、特開2016-189111、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月30日の出願であって、平成28年5月11日付けで拒絶理由が通知され、同年7月14日付けで手続補正がされ、同年10月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年1月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年2月21日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年10月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-12に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2005-527010号公報
2.特表2013-518346号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成29年1月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
複数のプロセッサコアを有するマルチコアプロセッサにおいて、
前記各プロセッサコアは、自身が発行した命令を示す発行命令情報と、命令に応じた処理を実行する際の消費電力の変化を示す電力消費情報と、に基づいて、自身が発行した命令を実行する際に消費するエネルギーである消費エネルギーを算出するよう構成されており、
前記電力消費情報は、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際のコア自身と、当該処理を実行する際に利用する共有部分と、の消費電力の変化を示しており、
前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々新規の命令発行の制御を行うよう構成され、
前記各プロセッサコアは、自身に供給される供給エネルギーから自身が算出した前記消費エネルギーを減算することで、命令を処理する際に消費可能な電荷を蓄積する蓄電器に蓄積されている蓄積エネルギー量を算出し、当該算出した蓄積エネルギー量に基づいて各々新規の命令発行の制御を行うよう構成され、
前記各プロセッサコアは、前記消費エネルギーに基づいて算出される許容電力量に基づいて前記供給エネルギーを制御するよう構成されている、
マルチコアプロセッサ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチコアプロセッサにおいて、
前記各プロセッサコアは、前記発行命令情報と、前記電力消費情報と、に基づいて、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際に自己のコアが消費するエネルギーと、当該処理を実行する際に利用する共有部分が消費するエネルギーと、を含む前記消費エネルギーを算出するよう構成されている、
マルチコアプロセッサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチコアプロセッサにおいて、
前記各プロセッサコアは、前記消費エネルギーに基づいて算出される、プロセッサコアにて消費することが許容される許容電力量と、プロセッサコアごとに予め割り当てられている供給量である割当電力量と、のうち小さい値を持つ電力量が前記供給エネルギーとなるように制御する
マルチコアプロセッサ。
【請求項4】
複数のプロセッサコアを有するマルチコアプロセッサにおいて実行される情報処理方法であって、
前記各プロセッサコアは、自身が発行した命令を示す発行命令情報と、当該命令に応じた処理を実行する際に生じる消費電力の変化を示す電力消費情報と、を取得し、取得した前記発行命令情報と前記電力消費情報とに基づいて、自身が発行した命令を実行する際に消費するエネルギーである消費エネルギーをそれぞれ算出し、
前記電力消費情報は、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際のコア自身と、当該処理を実行する際に利用する共有部分と、の消費電力の変化を示しており、
前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々新規の命令発行の制御を行い、
前記各プロセッサコアは、自身に供給される供給エネルギーから自身が算出した前記消費エネルギーを減算することで、命令を処理する際に消費可能な電荷を蓄積する蓄電器に蓄積されている蓄積エネルギー量を算出し、当該算出した蓄積エネルギー量に基づいて各々新規の命令発行の制御を行い、
前記各プロセッサコアは、前記消費エネルギーに基づいて算出される許容電力量に基づいて前記供給エネルギーを制御する、
情報処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理方法であって、
前記各プロセッサコアは、前記発行命令情報と、前記電力消費情報と、に基づいて、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際に自己のコアが消費するエネルギーと、当該処理を実行する際に利用する共有部分が消費するエネルギーと、を含む前記消費エネルギーを算出する、
情報処理方法。
【請求項6】
マルチコアプロセッサが有する複数のプロセッサコアのそれぞれに、
自身が発行した命令を示す発行命令情報と、当該命令に応じた処理を実行する際に生じる消費電力の変化を示す電力消費情報と、に基づいて、自身が発行した命令を実行する際に消費するエネルギーである消費エネルギーを算出させ、
前記電力消費情報は、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際のコア自身と、当該処理を実行する際に利用する共有部分と、の消費電力の変化を示しており、
前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々新規の命令発行の制御を行い、
前記各プロセッサコアは、自身に供給される供給エネルギーから自身が算出した前記消費エネルギーを減算することで、命令を処理する際に消費可能な電荷を蓄積する蓄電器に蓄積されている蓄積エネルギー量を算出し、当該算出した蓄積エネルギー量に基づいて各々新規の命令発行の制御を行い、
前記各プロセッサコアは、前記消費エネルギーに基づいて算出される許容電力量に基づいて前記供給エネルギーを制御する、
プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のプログラムであって、
前記各プロセッサコアに、前記発行命令情報と、前記電力消費情報と、に基づいて、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際に自己のコアが消費するエネルギーと、当該処理を実行する際に利用する共有部分が消費するエネルギーと、を含む前記消費エネルギーを算出させる、
プログラム。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0009】
図1は、本発明に従って構成された新規なデータ処理システム100の概略図である。データ処理システム100は、命令ディスパッチ・ユニット104および複数の実行ユニット106a?nに結合されたメモリ102を含む。命令ディスパッチ・ユニット104は、グローバル・パワー・コントローラ108を含み、それぞれの実行ユニット106a?nは、ローカル・パワー・コントローラ110a?nを含む。メモリ102、命令ディスパッチ・ユニット104、実行ユニット106a?n、ならびにグローバル・パワー・コントローラ108またはローカル・パワー・コントローラ110a?nあるいはその両方は、以下で詳述するように、様々なデータ(オペランドなど)、命令または他の制御信号あるいはその両方を交換するように構成される。」(段落【0009】。下線は当審で付した。以下同様。)

(2)「【0017】
図4および図5は、図1および図2の本発明のデータ処理システム100の実行ユニット106a?nのローカル・パワー・コントローラ110a?nによって実施することができる、電力を節約するための例示的な処理400のフローチャートである。便宜上、処理400について、図1および図2のローカル・パワー・コントローラ110aを参照して説明する。ローカル・パワー・コントローラ110b?nのうちの1つまたは複数もまた、同様の処理を実施できることが理解されよう。
【0018】
図4および図5を参照すると、ステップ401で、処理400が開始されている。ステップ402で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、実行ユニット106aが命令ディスパッチ・ユニット104から新しい命令を受け取り、その新しい命令を復号化しているか(または復号化したか)どうかを判断する。そうである場合は、処理400は、ステップ403に進み、そうでない場合は、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aが新しい命令を受け取ったかどうかを再チェックする(ステップ402)。
【0019】
ステップ403で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、実行ユニット106aによって受信された新しい命令が以前に受信されたことがあるかどうかを(たとえば命令の演算コードすなわち「命令コード」に基づいて)判断する。そうである場合は、処理400は、ステップ404に進み、そうでない場合は、処理400は、ステップ405に進む。
【0020】
ステップ404で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aによって命令が前回実行されたときに基づいて、新しい命令を実行するのに必要な予測電力(「Predicted_Power」)を決定する。たとえば、RAM208(図2)は、命令実行のため以前に必要とされた電力を格納することができる。ローカル・パワー・コントローラ110aは、命令が前回実行されたときに使用されたオペランドをも決定する。Last_Operandsも同様に、RAM208に格納することができる。次いで、処理400は、ステップ406に進む。
【0021】
ステップ403で、実行ユニット106aによって受信された新しい命令が、実行ユニット106aによってそれ以前に受信されていなかった場合には、ステップ405で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、(たとえば図2のROM206に格納されている)シミュレーション・データに基づいて、Predicted_PowerおよびLast_Operandsを決定する。たとえば、Predicted_Powerは、シミュレーションからの平均電力とすることができ、Last_Operandsは、シミュレーション時に使用される典型的なオペランドであり得る。上記で援用した米国特許第6,167,524号に記載されているものなど、適切な任意のシミュレーション技術を用いることができる。次いで、処理400は、ステップ406に進む。
【0022】
ステップ406で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、Predicted_Powerに基づいて、新しい命令の実行に必要な実際の電力(「True_Power」)を計算する。本発明の少なくとも1つの実施形態では、以下で詳述するように、True_Powerは、Predicted_Powerに、新しい命令(「New_Operands」)およびLast_Operandsに関連する実際のオペランドに対して実施される、XNORまたは他のXORライクな(XOR-like)演算の結果である遷移係数(「Transition_Factor」)を掛けることによって計算される。ステップ407で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、次に実行ユニット106aによって命令が次に実行されるときに備えて、RAM208に、True_PowerおよびNew_Operandsを格納する。
【0023】
ステップ408で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、現在のクロック・サイクル中に、実行ユニット106aが使用できる使用可能電力(「Avail_Power」)を計算する。本発明の少なくとも1つの実施形態では、Avail_Powerは、実行ユニット106aのパワー・バジェット(たとえばローカル・パワー・コントローラ110aのレジスタ210に格納された「EX_Power_Budget」)から、グローバル・パワー・コントローラ108またはローカル・パワー・コントローラ110aによって凍結された以前のクロック・サイクルからの命令を終了するのに必要な何らかの電力を減算したものに等しい(以下で詳述する)。
【0024】
ステップ409で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、True_Power(命令実行のため実行ユニット106aが必要とする電力)がAvail_Power(実行ユニット106aが使用できる電力)より大きいかどうかを判断する。つまり、ローカル・パワー・コントローラ110aは、新しい命令が実行された場合に、実行ユニット106aがパワー・バジェット超過になるかどうかを判断する。そうでない場合は、ステップ410で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aが命令の実行を続行できるようにするが、そうでない場合(当審注:「そうである場合」の誤記と認められる。)は、ステップ411で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、(以下で詳述するように)実行ユニット106aが命令を実行できないようにする。命令の実行は、実行前でも、実行中でも停止(凍結)することができる。少なくとも1つの実施形態では、ローカル・パワー・コントローラ110aは、命令の実行を完了するのに必要な電力量を(たとえば図2のレジスタ212内に)格納する。この格納された電力量を、実行ユニット106aのAvail_Powerを次に計算するときに使用することができる(ステップ408)。」(段落【0017】-【0024】)

また、上記(1)及び図1によれば、データ処理システム100は、命令ディスパッチ・ユニット104、複数の実行ユニット106a?nおよび前記複数の実行ユニット106a?nに結合されたメモリ102を含むことが理解される。

以上を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「命令ディスパッチ・ユニット104、複数の実行ユニット106a?nおよび前記複数の実行ユニット106a?nに結合されたメモリ102を含むデータ処理システム100において、
それぞれの実行ユニット106a?nは、ローカル・パワー・コントローラ110a?nを含み、
ステップ401で、データ処理システム100の実行ユニット106a?nのローカル・パワー・コントローラ110a?nによって実施することができる、電力を節約するための例示的な処理400が開始され、
ステップ402で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、実行ユニット106aが命令ディスパッチ・ユニット104から新しい命令を受け取り、その新しい命令を復号化しているか(または復号化したか)どうかを判断し、そうである場合は、処理400は、ステップ403に進み、
ステップ403で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、実行ユニット106aによって受信された新しい命令が以前に受信されたことがあるかどうかを(たとえば命令の演算コードすなわち「命令コード」に基づいて)判断し、そうである場合は、処理400は、ステップ404に進み、
ステップ404で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aによって命令が前回実行されたときに基づいて、新しい命令を実行するのに必要な予測電力(「Predicted_Power」)を決定し、次いで、処理400は、ステップ406に進み、
ステップ406で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、Predicted_Powerに基づいて、新しい命令の実行に必要な実際の電力(「True_Power」)を計算し、
ステップ408で、ローカル・パワー・コントローラ110aが、現在のクロック・サイクル中に、実行ユニット106aが使用できる使用可能電力(「Avail_Power」)を計算し、Avail_Powerは、実行ユニット106aのパワー・バジェットから、グローバル・パワー・コントローラ108またはローカル・パワー・コントローラ110aによって凍結された以前のクロック・サイクルからの命令を終了するのに必要な何らかの電力を減算したものに等しく、
ステップ409で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、True_Power(命令実行のため実行ユニット106aが必要とする電力)がAvail_Power(実行ユニット106aが使用できる電力)より大きいかどうかを判断し、そうでない場合は、ステップ410で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aが命令の実行を続行できるようにするが、そうである場合は、ステップ411で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aが命令を実行できないようにし、命令の実行は、実行前でも、実行中でも停止(凍結)することができる、
データ処理システム100。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の段落【0019】、【0022】-【0024】及び図1の記載からみて、当該引用文献2には、電力スロットリング(電力抑制)論理部110は、プロセッサで発生する各種イベント130について、消費される電力の量を推定し、推定値を累積して、この累積した電力が所定の閾値を超えると、電力スロットリング論理部110がスロットル信号140をアサートして、さらなる命令の実行または発行を停止するという技術的事項が記載されていると認められる。

3.その他の文献について
前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献3(特開2006-185407号公報)の段落【0128】-【0154】及び図9の記載からみて、当該引用文献3には、第1デバイス6、第2デバイス7、第3デバイス8を含む装置において、これらデバイスの起動組み合わせを生成するとともに、起動組み合わせ毎の合計消費電力を算出し、合計消費電力が任意に定められる電力許容値の範囲内の起動組み合わせを選出するという技術的事項が記載されていると認められる。


第5 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.引用発明の「複数の実行ユニット106a?n」及び「データ処理システム100」は、それぞれ本願発明1の「複数のプロセッサコア」及び「マルチコアプロセッサ」に相当する。
そして、引用発明において、「複数の実行ユニット106a?n」は「データ処理システム100」に含まれるから、本願発明1と引用発明とは、「複数のプロセッサコアを有するマルチコアプロセッサ」を有する点で一致する。

イ.引用発明は、実行ユニット106a?nに含まれる「ローカル・パワー・コントローラ110a?n」のそれぞれが、「命令ディスパッチ・ユニット104から新しい命令を受け取り、」「受信された新しい命令が以前に受信されたことがあるかどうかを(たとえば命令の演算コードすなわち「命令コード」に基づいて)判断」し、「そうである場合は、」「実行ユニット106aによって命令が前回実行されたときに基づいて、新しい命令を実行するのに必要な予測電力(「Predicted_Power」)を決定し、」さらに「Predicted_Powerに基づいて、新しい命令の実行に必要な実際の電力(「True_Power」)を計算」するものである。
ここで、「新しい命令を受け取る」ことは、本願発明1の「発行命令情報」を受け取ることにほかならず、「実行ユニット106aによって命令が前回実行されたときに基づいて」決定される「新しい命令を実行するのに必要な予測電力(「Predicted_Power」)」は、本願発明1の「命令に応じた処理を実行する際の消費電力の変化を示す電力消費情報」に相当し、「Predicted_Powerに基づいて、新しい命令の実行に必要な実際の電力(「True_Power」)を計算」することは、本願発明1の「命令を実行する際に消費するエネルギーである消費エネルギーを算出する」ことに相当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記各プロセッサコアは、発行命令情報と、命令に応じた処理を実行する際の消費電力の変化を示す電力消費情報と、に基づいて、命令を実行する際に消費するエネルギーである消費エネルギーを算出するよう構成されて」いる点で共通する。

ウ.引用発明の「実行ユニット106aによって命令が前回実行されたときに基づいて」決定される「新しい命令を実行するのに必要な予測電力(「Predicted_Power」)」は、消費電力の変化を示すものであるから、本願発明1の「前記電力消費情報は、少なくとも、命令に応じた処理を実行する際のコア自身と、当該処理を実行する際に利用する共有部分と、の消費電力の変化を示して」いる構成と、「前記電力消費情報は、消費電力の変化を示して」いる点で共通する。

エ.引用発明は、「True_Power(命令実行のため実行ユニット106aが必要とする電力)がAvail_Power(実行ユニット106aが使用できる電力)より大きいかどうかを判断し、」「そうである場合は、ステップ411で、ローカル・パワー・コントローラ110aは、実行ユニット106aが命令を実行できないようにし、命令の実行は、実行前でも、実行中でも停止(凍結)することができる」ものであるから、本願発明1の「前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々新規の命令発行の制御を行うよう構成され」る点と、「前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々命令の制御を行うよう構成され」る点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「複数のプロセッサコアを有するマルチコアプロセッサにおいて、
前記各プロセッサコアは、発行命令情報と、命令に応じた処理を実行する際の消費電力の変化を示す電力消費情報と、に基づいて、命令を実行する際に消費するエネルギーである消費エネルギーを算出するよう構成されており、
前記電力消費情報は、消費電力の変化を示しており、
前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々命令の制御を行うよう構成される、
マルチコアプロセッサ。」

(相違点1)
本願発明1では、「各プロセッサコア」が「命令」を発行するのに対し、引用発明では、「複数の実行ユニット106a?n」の外部に設けられた「命令ディスパッチ・ユニット104」が命令を発行している点。

(相違点2)
本願発明1の「電力消費情報」は、「少なくとも、命令に応じた処理を実行する際のコア自身と、当該処理を実行する際に利用する共有部分と、の消費電力の変化を示して」いるのに対し、引用発明の「新しい命令を実行するのに必要な予測電力(「Predicted_Power」)」は、「実行ユニット106aによって命令が前回実行されたときに基づいて」決定するものであって、「当該処理を実行する際に利用する共有部分」の消費電力については、考慮していない点。

(相違点3)
本願発明1では、「前記各プロセッサコアは、各自が算出した前記消費エネルギーに基づいて各々新規の命令発行の制御を行うよう構成され」、より具体的には、「前記各プロセッサコアは、自身に供給される供給エネルギーから自身が算出した前記消費エネルギーを減算することで、命令を処理する際に消費可能な電荷を蓄積する蓄電器に蓄積されている蓄積エネルギー量を算出し、当該算出した蓄積エネルギー量に基づいて各々新規の命令発行の制御を行うよう構成され」るのに対し、引用発明は、「True_Power(命令実行のため実行ユニット106aが必要とする電力)がAvail_Power(実行ユニット106aが使用できる電力)より大きいかどうかを判断し、」「そうである場合は、」「実行ユニット106aが命令を実行できないようにし、命令の実行は、実行前でも、実行中でも停止(凍結)することができる」ものであるものの、命令を実行できないようにする判断基準として「自身に供給される供給エネルギーから自身が算出した前記消費エネルギーを減算することで、命令を処理する際に消費可能な電荷を蓄積する蓄電器に蓄積されている蓄積エネルギー量」を用いることを特定しておらず、また、命令を実行できないようにするための具体的手法として、「新規の命令発行の制御を行う」ことも特定していない点。

(相違点4)
本願発明1では、「前記各プロセッサコアは、前記消費エネルギーに基づいて算出される許容電力量に基づいて前記供給エネルギーを制御するよう構成されている」のに対し、引用発明は当該構成を特定していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討する。

上記「第4 引用文献、引用発明等」で述べたとおり、引用文献2には、電力スロットリング(電力抑制)論理部110は、プロセッサで発生する各種イベント130について、消費される電力の量を推定し、推定値を累積して、この累積した電力が所定の閾値を超えると、電力スロットリング論理部110がスロットル信号140をアサートして、さらなる命令の実行または発行を停止するという技術的事項が記載されている。
さらに、前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、第1デバイス6、第2デバイス7、第3デバイス8を含む装置において、これらデバイスの起動組み合わせを生成するとともに、起動組み合わせ毎の合計消費電力を算出し、合計消費電力が任意に定められる電力許容値の範囲内の起動組み合わせを選出するという技術的事項が記載されている。

しかしながら、上記相違点3に係る本願発明1の構成は、引用文献2-3に記載されておらず、示唆もされていない。
また、相違点3に係る本願発明1の構成が、本願出願前に周知技術であったとも認められない。

したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.請求項2-7について
本願発明4及び6は、本願発明1のカテゴリーを変更したものであって、本願発明2、3、5及び7は、本願発明1、4及び6のいずれかをさらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、当業者であっても引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-7は「前記各プロセッサコアは、自身に供給される供給エネルギーから自身が算出した前記消費エネルギーを減算することで、命令を処理する際に消費可能な電荷を蓄積する蓄電器に蓄積されている蓄積エネルギー量を算出し、当該算出した蓄積エネルギー量に基づいて各々新規の命令発行の制御を行うよう構成され、」という事項又はこれに対応する事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-2に基づいて、容易に発明できたものとは認められない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-07 
出願番号 特願2015-68827(P2015-68827)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三橋 竜太郎宮下 誠  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 山田 正文
土谷 慎吾
発明の名称 マルチコアプロセッサ、情報処理方法、プログラム  
代理人 馬場 資博  
代理人 境 廣巳  

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