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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q
管理番号 1330989
審判番号 不服2016-17522  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-24 
確定日 2017-08-30 
事件の表示 特願2012-184177「導波管スロットアレイアンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月6日出願公開,特開2014-42197,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年8月23日の出願であって,平成27年12月25日付けで拒絶理由が通知され,平成28年3月1日付けで手続補正がされ,同年5月16日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年7月6日付けで手続補正がされ,同年8月23日付けで同年7月6日付け手続補正についての補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年11月24日付けで拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年8月23日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要
1.平成28年8月23日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。
平成28年7月6日付け手続補正は,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが,当該補正後の本願請求項1に係る発明は,引用文献1-3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであり,独立特許要件を満たさないから,平成28年7月6日付けの手続補正は却下すべきものである。

<引用文献等一覧>
1.特開平3-7406号公報
2.特開2003-318648号公報
3.特開2003-8341号公報

2.原査定(平成28年8月23日付け拒絶査定)の概要は,以下のとおりである。
本願請求項1-5に係る発明は,引用文献1,2及びA(当審注:引用文献Aは原査定の引用文献3のことであるが,補正の却下の決定の引用文献3と区別するため,「引用文献A」と称することとする。)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(請求項6-8,引用文献4,5については省略。)

<引用文献等一覧>
1.特開平3-7406号公報
2.特開2003-318648号公報
A.特開2007-228313号公報

第3 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,平成28年11月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
並列に配置された複数条の導波路と,個々の導波路に沿って設けられた複数の放射スロットとを有する導波管スロットアレイアンテナであって,
それぞれが給電口を有する複数の導波管を並列接続してなり,
個々の導波管は,管軸方向と直交する断面で有端状をなし,相手側と接合されることにより1条の導波路を画成する第1及び第2の導波管形成部材からなり,
第1及び第2の導波管形成部材は,何れも,樹脂の射出成形品であると共に,少なくとも導波路を画成する部位の内面に形成された導電性被膜を有し,
第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方に放射スロットが設けられると共に,他方に放射スロットの直下位置における導波路の断面積を縮小させる複数の内壁が一体的に設けられ,前記複数の内壁は管軸方向で相互に離間して配置されると共に,各内壁の高さ寸法は給電口との離間距離が拡大するほど大きくなっており,
前記一方は,内底面に一の放射スロットが形成された複数の凹部を有することを特徴とする導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項2】
第1及び第2の導波管形成部材は,何れも,導波管の管軸方向と直交する断面で角部を備えた形状を有する請求項1に記載の導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項3】
前記樹脂は,液晶ポリマーを主成分とし,充填材としてのグラスファイバーが添加されたものである請求項1又は2に記載の導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項4】
前記導電性被膜の膜厚を0.3μm以上1.0μm以下とした請求項1?3の何れか一項に記載の導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項5】
前記導電性被膜は,二種以上の金属メッキ被膜を積層させたものである請求項1?4の何れか一項に記載の導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項6】
前記1条の導波路が,平面視でU字状をなす請求項1?5の何れか一項に記載の導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項7】
複数の導波管が,分離可能に並列接続された請求項1?6の何れか一項に記載の導波管スロットアレイアンテナ。
【請求項8】
ミリ波帯で用いられる請求項1?7の何れか一項に記載の導波管スロットアレイアンテナ。」

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
補正の却下の決定の理由及び原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-7406号公報(引用文献1)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「〔従来の技術〕
(中略)第5図はこの導波管(9)を組合せて構成したアンテナの1例を示したものであり,電波を受信するためのスロット群(8)が設けられた導波管(9)を複数個組合わせることによってアレイ化され,各々の導波管(9)内を伝播した信号は給電部(10)に集められ,コンバーター(11)に入力されるようになっている。」(1頁左下欄17行?右下欄15行)

イ 「すなわち,本発明は,電波を受信するアンテナ部および受信した電波信号をコンバーターまで導く給電部を基本構造部とし,該アンテナ部および給電部は導波管で構成されてなる導波管アンテナに於いて,該導波管はプラスチックよりなり,その内表面に少なくとも使用周波数帯域に於ける表皮厚さ以上の導電層を設けて導波路を形成したことを特徴とする導波管アンテナであり,表面が導電化されたプラスチックを組合せて内壁面を導波路とすることによって,従来の金属導波管と遜色ない線路損失値を維持しながら,線路の加工の自由度の向上や軽量化を図ることができることを見い出したのである。」(2頁左上欄14行?右上欄6行)

ウ 「第1図(a)ないし(f)は,本発明のアンテナに用いる導波管の断面の一例を示す図である。導波路(1)は基本的には底材(2)とフタ材(3)で構成される。底材(2)は内寸が使用する周波数に合った金属導波管の内寸と同一であり,プラスチックの成形,加工方法は特に限定するものではないが,その内壁には後に述べる方法で導電層(4)が形成されている。」(2頁右上欄8行?15行)

エ 「第1図(a)に示した導波管は,底材(2)にフタ材(3)として同じように表面が導電化されたプラスチック平板を,その導電層(4)を底材(2)に向けて貼合わせた例である。また,第1図(b)は(a)の場合と同様な構造であるが,フタ材(3)として金属箔を貼合せた通常の印刷回路用基板を,その導電層(4)を底材(2)に向けて貼合せた例を示している。
このように,本発明に於ける導電化の方法としては,真空蒸着法,スパッタリング法などいわゆる真空環境下での金属分子,原子あるいはイオンの積層法や,無電解メッキないし無電解メッキと電解メッキを組合せたいわゆるメッキ法でもかまわないし,前記図(b)の例のように金属箔を貼合せる方法であってもよい。」(2頁右上欄16行?左下欄10行)

オ 「本発明に於いて導波管を構成するプラスチックの材質としては,特に底材(2)では,成形・加工の容易なものから選ばれるが,導電化の方法として例えばメッキ法を選んだ場合,ABS樹脂,ポリカーボネート,PPS樹脂あるいはこれらのアロイポリマーなどが好適である。さらに,底材(2)とフタ材(3)との接合方法として,後に述べる高温硬化型導電接着剤を選んだ場合,耐熱性が接着剤の硬化温度より高く,線膨脹のできるだけ小さい耐熱グレードのプラスチックを選択することが好ましい。」(2頁右下欄1行?11行)

カ 「また,本発明に於いては,第1図(a)あるいは(b)の例で示したように,底材(2)とフタ材(3)の接合だけを限定するものでなく,第1図(f)に例として挙げたように,底材(2)と同形状の底材(2′)を組合せてもかまわない。この場合,接合後の底材(2)および(2′)の凹部でつくられた溝が,使用する周波数に於いて通常使用される金属導波管の内寸と同じであるよう設計すればよい。なお,底材(2)および(2′)の接合方法は,ネジ止め,導電性接着剤による貼合せ,あるいは嵌合等のいずれであってもよい。」(3頁左上欄17行?右上欄7行)

キ 「第2図は,本発明にもとづく導波路のフタ材(3)に電波の受入口となるスロット群(8)を形成した例の模式図であり,このような導波路を複数並べたものは,電波を受信するアンテナ部として使用することができる。スロットの形状,ピッチ,個数などは,どのような目的のアンテナを得るかによって最適設計すればよく,その設計法は本発明でなんら限定するものではない。」(3頁左下欄1行?8行)

ク 「第3図(a)および(b)は本発明にもとづく導波路をアンテナの給電部に使用する場合の溝つき底材(2)の平面図で,導波路となる溝(12)はこのような複雑な形状も可能で,従来の金属導波管では不可能であった複雑な形状も容易に実現することができる。」(3頁左下欄9行?14行)

ケ 上記カ及び第1図(f)より,「底材2」及び「底材2’」は,長手方向と直交する断面で有端状をなし,互いに接合されることにより1つの導波路を画成することが見て取れる。

コ 第2図より,スロット群(8)が導波路に沿って設けられていることが見て取れ,該スロット群を構成する個々のスロットを「スロット」と称することは任意である。

サ 上記イより,引用文献1には「導波管アンテナ」について記載され,上記キより導波路のフタ材(3)(第1図(f)では「底材2’」)に電波の受入口となるスロット群(8)を形成した導波路を複数並べたものとすることができ,そのようなものは上記ア,第5図より,「アレイ化」されたものといえるから,上記「導波管アンテナ」を「導波管スロットアレイアンテナ」と称することは任意である。そして,上記「導波管スロットアレイアンテナ」は,上記ア,第5図のように各々の導波管(9)内を伝播した信号は給電部(10)に集められることが明らかであるから,前記各々の導波管(9)は,給電部に接続する「給電口」を有するといえる。

上記イないしクの記載事項及び図面の記載並びに上記ケないしサより,引用文献1には,第1図(f)の形態に対応して次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「複数並べて配置された導波路と,個々の導波路に沿って設けられている複数のスロットとを有する導波管スロットアレイアンテナであって,
それぞれが給電口を有する導波管を複数並べたものとし,
個々の導波管は,長手方向と直交する断面で有端状をなし,互いに接合されることにより1つの導波路を画成する底材2及び底材2’からなり,
前記底材2及び底材2’は,いずれもプラスチックよりなり,その内表面に導電層が設けられ,
前記底材2’にスロットが設けられる,
導波管スロットアレイアンテナ。」

2.引用文献2について
補正の却下の決定の理由及び原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-318648号公報(引用文献2)には,図1及び図2とともに次の事項が記載されている。

「【0032】
【発明の実施の形態】以下,この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.図1はこの発明の実施の形態1によるスロットアレーアンテナの構成を示す斜視図であり,図2はこの発明の実施の形態1によるスロットアレーアンテナを正面から透視して示す図である。図において,11aは第1の放射導波管,11bは第2の放射導波管であり,それぞれの幅広面の幅寸法がa,奥行き寸法がbの方形導波管である。(略)
【0033】第1の放射導波管11aにおいて,前述の幅寸法aで規定される幅広面(図中正面)には,配列間隔dyで複数の放射スロット(第1の放射スロット)21aが形成されている。(略)
【0034】同様にして,第2の放射導波管11bにおいて,前述の幅寸法aで規定される幅広面(図中正面)には,配列間隔dyで複数の放射スロット(第2の放射スロット)21bが形成されている。(略)
【0036】そして,ショート板31bによって短絡面が規定される。第1の放射導波管11aには第1の給電導波管41aから電波が給電され,第2の放射導波管11bには第2の給電導波管41bから電波が給電される。(略)
【0037】次に動作について説明する。いま,第1の給電導波管41aに入射した電波Aは,給電スロット51aを介して第1の放射導波管11aに給電される。(略)
【0038】一方,第2の給電導波管41bに入射した電波Bは,給電スロット51bを介して第2の放射導波管11bに給電される。」

上記記載と図1,図2との対応から,引用文献2には以下の技術事項(以下,「技術事項1」という。)が記載されていると認める。

「スロットアレーアンテナにおいて,導波管の放射スロットが形成された面と対向する面に給電スロットを形成すること。」

3.引用文献3について
補正の却下の決定で新たに引用された特開2003-8341号公報(引用文献3)には,実施の形態3について図3とともに以下のア、イの事項が記載されている。なお、アはイを補足するための実施の形態1の事項である。

ア 「【0024】次に,動作について説明する。まず,電源(図示しない)から給電された送信電力が給電プローブ5から送信電波として導波路4内に放出される。この送信電波は導波路4内を給電プローブ5から放射状に伝搬していき,各アンテナ素子7の結合プローブ9に分岐供給される。送信電波が供給された各アンテナ素子7は,それぞれ励振し,この送信電波は放射部10を介してアンテナ外部に同位相で放射される。(略)
【0026】この平面アレーアンテナ1は,給電プローブ5から側板8に近づくに従って,導波路厚さ形成手段11の対向面11aが結合プローブ9の先端部9aに近づくように階段状に形成されている。従って,各結合プローブ9の先端部9aと各対向面11aとの間のキャパシタンスは側板8に近づくほど大きくなっている。結合プローブ9と対向面11aとの間のキャパシタンスが大きいほど結合プローブ9と導波路4との結合度が大きくなることから,結合プローブ9と対向面11aとの距離が近い側板8側の結合プローブ9と導波路4との結合度は,結合プローブ9と対向面11aとの距離が離れている給電プローブ5側の結合プローブ9と導波路4との結合度より大きくなる。従って,送信電波密度の小さいところで対向面11aを結合プローブ9に近づけ,その結合度により送信電波密度を補うように調整されていることにより,各アンテナ素子7に同一の送信電力が与えられ,各アンテナ素子7は同一振幅で励振される。」

イ 「【0033】実施の形態3.図3は,この発明の実施の形態3に係る平面アレーアンテナの構成を示す断面図である。図3において,平面アレーアンテナ31は,導波路厚さ形成手段32を備えている。第2金属板3は,各結合プローブ9の先端部9aに導波路4を介して対向した部分にねじ穴3bが設けられている。導波路厚さ形成手段32は,ねじ穴3bに螺合された棒状部材である調整ねじ33を有している。各調整ねじ33は,第2金属板3に垂直方向に導波路4内に挿入されており,その導波路4内の調整ねじ33の先端部が対向面33aとなっている。従って,各結合プローブ9の先端部9aと対向面33aとはそれぞれ導波路4内で対向して配置されている。また,各調整ねじ33は,第2金属板3の中央開孔3aから側板8に近づくに従って,導波路4内に挿入される長さが長くなっている。即ち,各結合プローブ9の先端部9aと各対向面33aとの距離が,中央開孔3aから側板8に近づくに従って,小さくなっている。各調整ねじ33は,ねじ穴3bに螺合されているので,調整ねじ33の軸線周りに回転させることにより,その軸線方向,即ち第2金属板3に垂直な方向に移動可能となっている。他の構成は実施の形態1と同様である。
【0034】このような構成の平面アレーアンテナ31は,各調整ねじ33のねじ対向面33aと各結合プローブ9の先端部9aとの距離で,各結合プローブ9と導波路4との結合度が決まるので,アンテナ組立により生じた誤差に対しても,アンテナ組立後に各調整ねじ33をこれら調整ねじ33の軸線方向に移動させることにより,各結合プローブ9の先端部9aとねじ対向面33aとの距離を調整し,容易に各結合プローブ9と導波路4との結合度を決定することができる。
【0035】なお,調整ねじ33は,実施の形態1と同様の効果を奏するので,第2金属板3に固定されていても構わない。」

上記記載と図3からみて,引用文献3には以下の技術事項(以下,「技術事項2」という。)が記載されていると認める。

「平面アレーアンテナにおいて,各アンテナ素子を同一振幅で励振するため,各アンテナ素子の結合プローブの先端部に導波路を介して対向した部分に調整ねじを配置し,給電プローブから離れるほど各結合プローブの先端部と前記調整ねじとの距離を小さくして前記各結合プローブと前記調整ねじとの結合度を大きくすること。」

4.引用文献Aについて
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-228313号公報(引用文献A)には,図1,図2とともに次の事項が記載されている。

「【0010】
本発明は,上記の課題を達成するために次の各構成を有する。
本発明の第1の構成は,広壁面に管軸方向に複数のスロットを配列した放射導波管をスロット面を揃えて複数平行に配列した導波管スロットアレーアンテナにおいて,
放射導波管内のスロット面とは反対側の広壁面内側が,給電端側から終端側へ進むにつれて,スロット面側へ階段状に近付いていく構造となっており,
階段構造の段差が任意のスロットの管軸方向中央の位置から,終端側への次のスロットの中央位置までの間に1つあることを特徴とする導波管スロットアレーアンテナである。」

「【0015】
また,階段状の構造となっているため,放射導波管の終端側へ行く程,スロット面と反対側の面との距離が近くなり,スロットへの結合量が大きくなる。その結果,導波管内の電磁波伝搬量が終端へ近付くにつれ低下して来ても,結合量の大きさが低下分を補ってスロットからの放射量を,給電端に近い方のスロットと均一にすることができる。
このため,従来のような,スロットからの放射量を均一にするために,終端側に行くにつれオフセット量を大きくするということが必要なくなり,スロットオフセットに起因していた不要な方向への放射を低減することができるという利点がある。」

上記記載と図1,図2からみて,引用文献Aには以下の技術事項(以下,「技術事項3」という。)が記載されていると認める。

「導波管スロットアレーアンテナにおいて,スロットからの放射量を給電端から終端まで均一にするために,放射導波管内のスロット面とは反対側の広壁面内側が,給電端側から終端側へ進むにつれて,スロット面側へ階段状に近付いていく構造を備えること。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを技術常識を踏まえて対比する。
a 引用発明の「スロット」は,上記「第4 1.」の項中の「イ」,「キ」のとおり,受信用であるから,本願発明1の「放射スロット」とは,「スロット」である点で共通する。
そうすると,本願発明1の「並列に配置された複数条の導波路と,個々の導波路に沿って設けられた複数の放射スロットとを有する導波管スロットアレイアンテナ」と引用発明の「複数並べて配置された導波路と,個々の導波路に沿って設けられている複数のスロットとを有する導波管スロットアレイアンテナ」とは,「並列に配置された複数条の導波路と,個々の導波路に沿って設けられた複数のスロットとを有する導波管スロットアレイアンテナ」である点で共通する。
b 上記共通点の「導波管スロットアレイアンテナ」について,引用発明の「それぞれが給電口を有する導波管を複数並べたものとし」は,本願発明1の「それぞれが給電口を有する複数の導波管を並列接続してなり」に相当する。
c 引用発明の「個々の導波管は,長手方向と直交する断面で有端状をなし,互いに接合されることにより1つの導波路を画成する底材2及び底材2’からなり」は,本願発明1の「個々の導波管は,管軸方向と直交する断面で有端状をなし,相手側と接合されることにより1条の導波路を画成する第1及び第2の導波管形成部材からなり」に相当する。
d 引用発明の「プラスチック」は本願発明1の「樹脂」に含まれ,引用発明の「導電層」は本願発明1の「導電性被膜」に相当するから,本願発明1の「第1及び第2の導波管形成部材は,何れも,樹脂の射出成形品であると共に,少なくとも導波路を画成する部位の内面に形成された導電性被膜を有し」と引用発明の「前記底材2及び底材2’は,いずれもプラスチックよりなり,その内表面に導電層が設けられ」とは,「第1及び第2の導波管形成部材は,何れも,樹脂であると共に,少なくとも導波路を画成する部位の内面に形成された導電性被膜を有し」の点で共通する。
e 引用発明の「底材2’」は,本願発明1の「第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方」といえるから,本願発明1の「第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方に放射スロットが設けられる」と引用発明の「前記底材2’にスロットが設けられる」とは,上記aより「第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方にスロットが設けられ」の点で共通する。

以上を総合すると,本願発明1と引用発明とは以下の点で一致し,また相違する。

<一致点>
「並列に配置された複数条の導波路と,個々の導波路に沿って設けられた複数のスロットとを有する導波管スロットアレイアンテナであって,
それぞれが給電口を有する複数の導波管を並列接続してなり,
個々の導波管は,管軸方向と直交する断面で有端状をなし,相手側と接合されることにより1条の導波路を画成する第1及び第2の導波管形成部材からなり,
第1及び第2の導波管形成部材は,何れも,樹脂であると共に,少なくとも導波路を画成する部位の内面に形成された導電性被膜を有し,
第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方にスロットが設けられる,
導波管スロットアレイアンテナ。」

<相違点1>
一致点である「スロット」について,本願発明1では「放射スロット」であるのに対し,引用発明では放射用とすることが記載されていない点。

<相違点2>
一致点である「第1及び第2の導波管形成部材」について,本願発明1では「射出成形品」であるのに対し,引用発明では「射出成形品」であることが記載されていない点。

<相違点3>
一致点である放射スロットが設けられている第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方に対する他方の導波管形成部材について,本願発明1では,「他方に放射スロットの直下位置における導波路の断面積を縮小させる複数の内壁が一体的に設けられ,前記複数の内壁は管軸方向で相互に離間して配置されると共に,各内壁の高さ寸法は給電口との離間距離が拡大するほど大きくなっており」という構成を有するのに対し,引用発明では,この構成について記載されていない点。

<相違点4>
一致点である放射スロットが設けられている第1及び第2の導波管形成部材の何れか一方について,本願発明1では,「内底面に一の放射スロットが形成された複数の凹部を有する」という構成を有するのに対し,引用発明1では,この構成について記載されていない点。

(2)判断
事案に鑑み,まず相違点3について検討する。
引用文献2,3には,上述の技術事項1及び2が記載されているものの,本願発明1の相違点3に係る構成については記載も示唆もされておらず,当業者に自明な構成でもない。

(3)小括
したがって,相違点1,2,4について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明と技術事項1及び技術事項2から当業者が容易に発明することができたものではない。

2.本願発明2-8について
本願発明2-8は,本願発明1の構成を全て含みさらに他の構成で特定した発明であるから,本願発明1と同様の理由により,引用発明と技術事項1及び技術事項2に基づいて,容易に発明することができたものではない。

第6 原査定について
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明との相違点は,「第5 1.(1)」の項に記載のとおりであり,そのうち,相違点3について検討する。
引用文献Aには,「導波管スロットアレーアンテナにおいて,スロットからの放射量を給電端から終端まで均一にするために,放射導波管内のスロット面とは反対側の広壁面内側が,給電端側から終端側へ進むにつれて,スロット面側へ階段状に近付いていく構造を備えること。」という技術事項3が記載されており,引用発明に技術事項3を適用することにより,「スロットの直下位置における導波路の断面積を縮小させる」ことまでは導き出せるとしても,本願発明1の「前記複数の内壁は管軸方向で相互に離間して配置される」までの構成は導き出すことができない。
また,上述の技術事項1にも相違点3に係る構成については記載されていない。
したがって,本願発明1は,引用発明と技術事項1及び技術事項3に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

2.本願発明2-8について
本願発明2-8は,本願発明1の構成を全て含みさらに他の構成で特定した発明であるから,本願発明1と同様の理由により,引用発明と技術事項1及び技術事項3に基づいて,容易に発明することができたものではない。

3.小括
したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-18 
出願番号 特願2012-184177(P2012-184177)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 米倉 秀明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 吉田 隆之
中野 浩昌
発明の名称 導波管スロットアレイアンテナ  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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