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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G01J
管理番号 1331086
審判番号 不服2016-5378  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-12 
確定日 2017-08-29 
事件の表示 特願2012- 33812「分光測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 2日出願公開、特開2013-170867、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年2月20日の出願であって、平成27年10月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年1月13日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)されたところ、同年4月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後当審において平成29年1月30日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年3月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月18日に当審において面接審理を行い、同月19日付けで最後の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年7月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要

原査定の概要は以下のとおりである。

本願請求項1ないし5に係る発明は、以下の引用例A及びBに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例一覧
A.特開2006-178320号公報
B.特開平5-223637号公報

第3 当審拒絶理由の概要

1 当審拒絶理由1

当審拒絶理由1の概要は以下のとおりである。

[理由1]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に係る発明は、ギャップ量変更部に印加される電圧が変更される度に、1つのバンドパスフィルタから他のバンドパスフィルタに変更されるものであるが、発明の詳細な説明に記載された作用効果は実現できないものを含むものである。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし5に係る発明についても同様である。

[理由2]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明には、どのようにすれば、「反射膜間ギャップG1のギャップ量を変更する毎に、2つのピーク波長の光を取得することが可能となる」のか、十分に記載されておらず、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし5に係る発明についても同様である。

[理由3]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ギャップ量変更部に印加される電圧の切り替えられる大きさにかかわらず、電圧を切り替えられる度に、光路に配置されるバンドパスフィルターを切り替えることの技術的意義が不明である。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし5に係る発明についても同様である。

[理由4]
本願請求項1ないし5に係る発明は、以下の引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例一覧
1.特開2000-329617号公報
2.特開2006-178320号公報(拒絶査定時の引用例A)

2 当審拒絶理由2

当審拒絶理由2の概要は以下のとおりである。

[理由]
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

反射膜間ギャップのギャップ量を変化させ、透過する光の波長が切り替えられる場合に、必ず、バンドパスフィルターを切り替え、透過波長を異ならせることの技術的意義が不明であり、請求項1に係る発明が明確に把握できない。
請求項1の記載を引用する請求項2ないし5に係る発明についても同様である。

第4 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成29年7月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められる。
そのうち、「本願発明1」は、分説してA)ないしG)の符号を付与すると、以下の事項により特定される発明である。

【請求項1】
A) 測定対象光が入射されるテレセントリック光学系と、
B) 前記テレセントリック光学系を透過した光から所定波長の光を取り出す波長可変干渉フィルターと、
C) 透過波長が異なる複数のバンドパスフィルターと、前記複数のバンドパスフィルターの各々の位置を切り替えるフィルター切替手段と、を有する波長切替部と、
D) 前記波長可変干渉フィルターおよび前記波長切替部を透過した光を受光する受光部と、
を含み、
E) 前記波長可変干渉フィルターは、
第一基板と、
前記第一基板に対向して配置された第二基板と、
前記第一基板に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板に設けられ、前記第一反射膜に反射膜間ギャップを介して対向して配置された第二反射膜と、
前記反射膜間ギャップのギャップ量を変化させるギャップ量変更部と、
を含み、
F) 前記波長切替部は、前記測定対象光の測定対象光光路、前記テレセントリック光学系と前記波長可変フィルターとの間、または、前記波長可変フィルターと前記受光部との間に配置され、前記ギャップ量が変更され、変更された値になる毎に、前記複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの第1光を前記受光部が受光する状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの前記第1光とは波長が異なる第2光を前記受光部が受光する状態とを切り替えること
G) を特徴とする分光測定装置。

第5 引用例、引用発明等

1 引用例1

当審拒絶理由1に引用された引用例1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

「【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の分光画像入力システムの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の分光画像入力システムの光学系全体の概略構成を示す断面図である。本実施形態の分光画像入力システムは、マルチチャンネルの2次元画像データを取得し表示する画像データ取得装置1と、画像データ取得装置1で取得した画像データの任意の位置のスペクトルデータを取得するスペクトルデータ取得装置2からなる。
【0023】スペクトルデータ取得装置2は、画像データ取得装置1に対して自由度を持つ連結部25で連結されており、ピッチ方向26とヨー方向27に回動自在である。連結部25において、3はピッチ方向の回転軸、4はヨー方向の回転軸である。スペクトルデータ取得装置2は、不図示の駆動機構により2つの回転軸3、4を中心に回動され、画像データの任意の位置のスペクトルデータを取得することができる。
【0024】画像データ取得装置1においては、不図示の対象物からの光のうち、レンズ5を通過した光が、フィルター円板7上に取り付けられているフィルター6を通って2次元撮像素子8上に結像する。図2にフィルター円板7の詳細を示す。図2に示すように、フィルター円板7には、それぞれ異なる分光透過特性を有する複数(図2においては6枚)のフィルター6が取り付けられている。画像データ取得装置1では、フィルター円板7を回転させて光が透過するフィルター6を切り替えることにより、撮像素子8上において、波長域の異なる複数の分光画像の画像データが得られる。
【0025】スペクトルデータ取得装置2においては、対象物からの光のうち、レンズ10を通過した光が、フィルター円板13上に取り付けられているフィルター11を通って干渉光形成撮像部14に入射する。レンズ10を含むスペクトルデータ取得装置2の光学系は、画像データ取得装置1で取得される画像データ内の狭い範囲に対応する光(画像データの1画素?数画素に相当する部分に対応する光)を干渉光形成撮像部14に導いて結像させる。
【0026】図3に、フィルター円板13の詳細を示す。図3に示すように、フィルター円板13には分光透過率の異なる複数(図3においては4枚)のフィルター11が取り付けられている。フィルター円板13を回転させてレンズ10からの光路上に位置するフィルター11を替えることにより、干渉光形成撮像部14に入射する光の波長域を切り替えることができる。
【0027】干渉光形成撮像部14では、入射した光のうち特定の波長の光を干渉させて、干渉光を撮像する。図4に、干渉光形成撮像部14の概略構成の断面図を示す。干渉光形成撮像部14は、平行に配置された可動平板15と固定平板16とを備えている。可動平板15と固定平板16の互いに対向する面15a、16aは半透鏡となっており、ファブリ-ペロー干渉計30を構成している。
【0028】干渉光形成撮像部14において、光は入射窓14aから干渉計30に入射する。干渉計30では、2つの半透過面15a、16aを反射されずに透過する光と、半透過面15aを透過した後、半透過面16a、15aで反射され、半透過面16aを透過する光が生じる。すなわち、半透過面15a、16aの空気間隔をdとすると、これらの光の光路長には2dの差が生じる。したがって、2d=mλ(mは整数)を満たす波長λを有する光は干渉する。干渉光は、最も強い光として光センサー17で撮像される。よって、光センサー17で検出される最高強度が干渉光の強度に対応する。また、干渉光の波長λは、2d=mλを満たすので、空気間隔dより波長λが求められる。以下、干渉光の波長λを透過強度ピーク波長という。
【0029】干渉計30において、空気間隔dは可変であり、空気間隔dを変化させると、さまざまな波長λの干渉光の強度が検出される。空気間隔dは、2つの平板15、16の間に挿入されている圧電素子18の変位により可動平板15の固定平板16に対する位置が変わることで変化する。空気間隔dは、既知の波長の光を干渉計に入射させて、圧電素子18に印加する電圧と干渉波長の関係を調べておき、印加電圧からの計算によって得る。なお、間隔dを測るための測長装置を装置内に組み込んでおき、これにより測長して求めてもよい。この場合、可動平板15は、例えばモータなどの駆動手段により駆動させるような構成も可能である。」
「【0036】本実施形態では、干渉計30の空気間隔dを400nmから750nmまで変化させる際に、分光透過率の異なる2つのフィルター11を使用する。具体的には、空気間隔dが400nmから550nmまでの範囲のときは、フィルター11のうち、350nm以上600nm以下の波長の光を選択的に透過させるものを光路上に位置させる。また、空気間隔dが550nmから750nmまでの範囲のときは、フィルター11のうち、510nm以上800nm以下の波長の光を選択的に透過させるものを光路上に位置させる。
【0037】このようにすると、表1より明らかなように、400nmから550nmまでのどの空気間隔dについても、また、550nmから750nmまでのどの空気間隔dについても、対応するピーク波長が1つになる。したがって、太線の範囲内に示したように、干渉計30で観測されるピーク波長は常にただ1つに限定される。これにより、可視領域全体のスペクトルデータを誤りなく、かつ容易に取得することができる。
【0038】なお、ここではm=2での干渉を利用して空気間隔dに等しい波長の光を検出するようにしているが、必ずしもこのような設定とする必要はない。例えば、m=1での干渉を利用して、空気間隔dの2倍の波長の光を検出するようにすることもできる。
【0039】また、可視領域のスペクトルデータを取得する場合を例として掲げたが、スペクトルデータ取得装置2で取得し得るスペクトルデータは可視領域のものに限られない。例えば、赤外領域のスペクトルデータを取得することも可能であり、フィルター11には赤外領域の光を選択的に透過させるものも含まれている。」
「図1


「図3


「図4



したがって、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「スペクトルデータを取得するスペクトルデータ取得装置2であり、
レンズ10を通過した光が、フィルター11を通って干渉光形成撮像部14に入射し、
レンズ10からの光路上に位置するフィルター11を替えることにより、干渉光形成撮像部14に入射する光の波長域を切り替えることができ、
干渉光形成撮像部14は、平行に配置された可動平板15と固定平板16とを備え、
可動平板15と固定平板16の互いに対向する面15a、16aは半透鏡となっており、ファブリ-ペロー干渉計30を構成し、
半透過面15a、16aの空気間隔dは可変であり、
2つの平板15、16の間に挿入されている圧電素子18の変位により可動平板15の固定平板16に対する位置が変わり、
2d=mλ(mは整数)を満たす波長λを有する干渉光は、最も強い光として光センサー17で撮像され、
空気間隔dが400nmから550nmまでの範囲のときは、フィルター11のうち、350nm以上600nm以下の波長の光を選択的に透過させるものを光路上に位置させ、空気間隔dが550nmから750nmまでの範囲のときは、フィルター11のうち、510nm以上800nm以下の波長の光を選択的に透過させるものを光路上に位置させ、干渉計30で観測されるピーク波長は常にただ1つに限定され、
フィルター11には赤外領域の光を選択的に透過させるものも含まれ、赤外領域のスペクトルデータを取得することも可能である、
スペクトルデータ取得装置2。」

2 引用例2

当審拒絶理由1に引用された引用例2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

「【0029】
図10(a),(b)は本発明の実施例4にかかる、本発明の分光透過率可変素子を内視鏡装置の光学系に用いた状態を示す要部説明図である。
実施例4の内視鏡装置の光学系は、実施例3とは分光透過率可変素子の構造が異なる。実施例4の分光透過率可変素子13は、実施例2と同様に対向配置された基板の対向面に複数の微小反射鏡を配置し、基板同士のギャップを可変に構成したものを用いている。これは、略テレセントリック光学系にエタロンを配置してあるため、エタロンへの入射角度は位置によらず同一であり、このためエアギャップを2枚の基板のみを制御すれば受光領域全域で同一の波長で分離して検出できる。このように構成しても、各微小反射鏡の有効光束径(面精度を保つ面積)を小型化でき、光学薄膜のコーティングによる基板の反りを生じさせることなく、撮像素子14の撮像領域全体に対応した分光透過率可変素子が得られる。そして、内視鏡装置等に適用可能な大有効径に対応した分光透過率可変素子の製造が容易となり、装置全体の製造コストを低減することができる。
なお、図10(b)の光学系では、実施例1の図4、図5に示した分光透過率可変素子と同様に、一つの微小反射鏡4、5を複数の画素を単位とした一部の受光領域に対応させた分光素子を用いた構成としている。この場合、反射鏡の数量を減らすことが出来、コーティングのマスクの製作やエッチング処理等の製造が容易にできる。」

したがって、引用例2には、基板同士のギャップを可変に構成したエタロンを配置するにあたって、略テレセントリック光学系を採用した点が記載されていると認められる。

第6 対比・判断

1 本願発明1について

本願発明1と引用発明とを対比する。

(1) 本願発明1のA)の特定事項について
ア 引用発明の「レンズ10」と本願発明1の「テレセントリック光学系」は、「光学系」である点で共通する。
イ 引用発明の「光」は、「スペクトルデータを取得する」対象となる光であるから「測定対象光」といえる。
ウ よって、本願発明1と引用発明は、「測定対象光が入射される光学系」を備える点で共通する。

(2) 本願発明1のB)の特定事項について
ア 引用発明の「レンズ10を通過した光」と、本願発明1の「テレセントリック光学系を透過した光」とは、「光学系を透過した光」である点で共通する。
イ 引用発明において、「ファブリーペロー干渉計30」は、「干渉光形成撮像部14」の一部を成すものであり、「レンズ10を通過した光が、」「入射」するものである。
ウ 引用発明の「ファブリ-ペロー干渉計30」は、「空気間隔dは可変であり」、「2d=mλ(mは整数)を満たす波長λを有する干渉光」を透過するものであるから、所定波長の光を取り出すフィルターであるといえ、引用発明の「ファブリ-ペロー干渉計30」は、本願発明1の「所定波長の光を取り出す波長可変干渉フィルター」に相当する。
エ よって、本願発明1と引用発明は、「光学系を透過した光から所定波長の光を取り出す波長可変干渉フィルター」を備える点で共通する。

(3) 本願発明1のC)の特定事項について
ア 引用発明の「フィルター11」は、「干渉光形成撮像部14に入射する光の波長域を切り替えることができる」ものであって、「350nm以上600nm以下の波長の光を選択的に透過させるもの」、「510nm以上800nm以下の波長の光を選択的に透過させるもの」等を含むことから、複数存在することは明らかであり、本願発明1の「透過波長が異なる複数のバンドパスフィルター」に相当する。
イ 引用発明は、「フィルター11を替えることにより、干渉光形成撮像部14に入射する光の波長域を切り替えることができ」るものである。よって、引用発明の、「フィルター11を替える」手段は、本願発明1の「複数のバンドパスフィルターの各々の位置を切り替えるフィルター切替手段」に相当する。
ウ そして、引用発明の、「フィルター11を替えることにより、干渉光形成撮像部14に入射する光の波長域を切り替える」手段は、本願発明1の「波長切替部」に相当する。

(4) 本願発明1のD)の特定事項について
引用発明の「フィルター11」を「透過」した「2d=mλ(mは整数)を満たす波長λを有する干渉光」を「撮像」する「光センサー17」は、本願発明1の「前記波長可変干渉フィルターおよび前記波長切替部を透過した光を受光する受光部」に相当する。

(5) 本願発明1のE)の特定事項について
ア 引用発明の「可動平板15」は、本願発明1の「第一基板」に相当する。
イ 引用発明の「可動平板15」と「平行に配置された」「固定平板16」は、本願発明1の「第一基板に対向して配置された第二基板」に相当する。
ウ 引用発明の「可動平板15」の「半透鏡となって」いる「面15a」は、本願発明1の「第一基板に設けられた第一反射膜」に相当する。
エ 引用発明の「面15a」と「空気間隔d」で「互いに対向する」「半透鏡となって」いる「固定平板16」の「面」「16a」は、本願発明1の「第二基板に設けられ、」「第一反射膜に反射膜間ギャップを介して対向して配置された第二反射膜」に相当する。
オ 引用発明の「2つの平板15、16の間に挿入されている圧電素子18」は、「変位により可動平板15の固定平板16に対する位置が変わ」るものであるから、本願発明1の「反射膜間ギャップのギャップ量を変化させるギャップ量変更部」に相当する。

(6) 本願発明1のF)の特定事項について
ア 引用発明は、「レンズ10を通過した光が、フィルター11を通って干渉光形成撮像部14に入射」していることから、「フィルター11を替えることにより、干渉光形成撮像部14に入射する光の波長域を切り替える」手段が、「光学系」と「干渉光形成撮像部14」の間に設けられており、その構成は、本願発明1の「波長切替部」が「光学系と前記波長可変フィルターとの間」に配置された構成に相当する。
イ 引用発明の「空気間隔dが400nmから550nmまでの範囲のときは、フィルター11のうち、350nm以上600nm以下の波長の光を選択的に透過させるものを光路上に位置させ、空気間隔dが550nmから750nmまでの範囲のときは、フィルター11のうち、510nm以上800nm以下の波長の光を選択的に透過させるものを光路上に位置させ」ることは、前記「光の波長域を切り替える」手段により、「空気間隔d」に応じて「フィルター11」が選択され、配置されているといえる。
ウ 一方、本願発明1は「波長切替部は、」「ギャップ量が変更され、変更された値になる毎に、前記複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの第1光を前記受光部が受光する状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの前記第1光とは波長が異なる第2光を前記受光部が受光する状態とを切り替え」ていることから、波長切替部により、「複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置」されるといえる。
エ よって、本願発明1と引用発明は、波長切替部により、「複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置」される点で共通する。

(7) 本願発明1のG)の特定事項について
引用発明の「スペクトルデータ取得装置2」は、本願発明1の「分光測定装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
測定対象光が入射される光学系と、
前記光学系を透過した光から所定波長の光を取り出す波長可変干渉フィルターと、
透過波長が異なる複数のバンドパスフィルターと、前記複数のバンドパスフィルターの各々の位置を切り替えるフィルター切替手段と、を有する波長切替部と、
前記波長可変干渉フィルターおよび前記波長切替部を透過した光を受光する受光部とを含み、
前記波長可変干渉フィルターは、
第一基板と、
前記第一基板に対向して配置された第二基板と、
前記第一基板に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板に設けられ、前記第一反射膜に反射膜間ギャップを介して対向して配置された第二反射膜と、
前記反射膜間ギャップのギャップ量を変化させるギャップ量変更部と、を含み、
前記波長切替部は、前記光学系と前記波長可変フィルターとの間に配置され、複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置される、
分光測定装置。

<相違点1>
測定対象光が入射される光学系に関して、本願発明1は、テレセントリック光学系であるのに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点2>
波長切替部による複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置されることに関して、本願発明1は、ギャップ量が変更され、変更された値になる毎に、前記複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの第1光を前記受光部が受光する状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの前記第1光とは波長が異なる第2光を前記受光部が受光する状態とを切り替えるのに対して、 引用発明は、そのような切り替えが行われていない点。

事案に鑑みて、上記相違点2について、まず検討する。
上記相違点2に係る構成は、引用例1には記載されておらず、また、当該構成は、引用例2にも記載されていない。
そして、上記構成が、本願出願日前において、周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用例1及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について

本願発明2ないし5は、いずれも、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用例1及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断

平成29年7月11日付けの手続補正により、補正後の請求項1ないし5は、上記相違点2に係る構成を有するものとなった。
そして、上記相違点2に係る構成は、原査定における引用例A及びBには記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1ないし5は、当業者であっても、原査定における引用例A及びBに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断

1 当審拒絶理由1について

(1) 理由1(特許法第36条第6項第1号)について
平成29年7月11日付けの手続補正により、請求項1に係る発明は、ギャップ量が変更され、変更された値になる毎に、複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの第1光を受光部が受光する状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置され、前記ギャップ量が前記変更された値に対応する、前記波長可変干渉フィルターからの光のうちの前記第1光とは波長が異なる第2光を前記受光部が受光する状態とを切り替える点が特定され、発明の詳細な説明に記載された作用効果が実現できないものを含まないものであることが明らかになった。
したがって、当審拒絶理由1の理由1は解消した。

(2) 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
平成29年7月11日付けの手続補正による補正後の請求項1には、当審拒絶理由1の理由2の対象である平成27年12月24日付けの手続補正による補正後の請求項1に存在した「前記ギャップ量変更部に印加される電圧が切り替えられる度に、前記複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置される状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置される状態とを切り替える」との記載は存在しなくなった。
したがって、特許法第36条第4項第1号の判断の根拠であった発明特定事項が請求項1に存在しなくなったことから、当審拒絶理由の理由1の理由2は解消した。

(3) 理由3(特許法第36条第6項第2号)について
平成29年7月11日付けの手続補正による補正後の請求項1には、当審拒絶理由1の理由3の対象である平成27年12月24日付けの手続補正による補正後の請求項1に存在した、「前記ギャップ量変更部に印加される電圧が切り替えられる度に、前記複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置される状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置される状態とを切り替える」との記載は存在しなくなった。
したがって、当審拒絶理由1の理由3は解消した。

(4) 理由4(特許法第29条第2項)について
当審拒絶理由1の理由4についての判断は、上記「第6 対比・判断」において検討したとおりであり、本願発明1ないし5は、引用例1及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 当審拒絶理由2について

平成29年7月11日付けの手続補正による補正後の請求項1には、補正前の請求項1に存在した、「前記ギャップ量変更部に印加される電圧が切り替えられるときに、前記複数のバンドパスフィルターのうちの1つが光路に配置される状態と、前記複数のバンドパスフィルターのうちの他の1つが前記光路に配置される状態とを切り替える」との記載は存在しなくなった。
したがって、当審拒絶理由2は解消した。

第9 むすび

以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-16 
出願番号 特願2012-33812(P2012-33812)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01J)
P 1 8・ 121- WY (G01J)
P 1 8・ 536- WY (G01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松岡 智也
▲高▼橋 祐介
発明の名称 分光測定装置  
代理人 西田 圭介  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 仲井 智至  

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