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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61H
管理番号 1331101
審判番号 不服2015-21341  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-01 
確定日 2017-08-09 
事件の表示 特願2011-136725号「体力向上装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年1月7日出願公開、特開2013-470号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成23年6月20日の出願であって、平成27年2月24日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月16日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月25日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成27年12月1日に本件審判の請求と同時に手続補正がなされ、当審において、平成28年9月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月12日に意見書の提出とともに手続補正がなされた。さらに、当審において、平成29年2月6日付けで審尋がなされ、これを受けて、同年4月7日に回答書とともに手続補足書(以下、同手続補足書により提出された実験成績証明書を、単に「実験成績証明書」という。)が提出されたものである。
そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成28年12月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。(以下「本願発明1」ないし「本願発明7」という。また、これらをまとめて「本願発明」という。)

「 【請求項1】
多角形状をなす基板と、
前記基板の周縁部に設けられ、負に帯電させた粒状又は粉末状のSi,SiOx (0<x≦2),Al,P,Ge,Sn,Pb,Ni又はFeを封入してある、複数の円錐状又は円筒状のガラス容器と、
前記基板上における、前記ガラス容器の内側に設けられた発振部と、
前記基板上における、前記ガラス容器の内側に設けられ、0.5Hz以上の断続周波数で、前記発振部に駆動電圧を与える駆動回路と
を含むことを特徴とする体力向上装置。
【請求項2】
前記発振部は、圧電ブザー又はリレーであることを特徴とする請求項1に記載の体力向上装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、3Hz以上10Hz以下の断続周波数で、前記発振部に駆動電圧を与えることを特徴とする請求項1又は2に記載の体力向上装置。
【請求項4】
前記ガラス容器を3個以上備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の体力向上装置。
【請求項5】
前記基板は四角形状をなし、前記基板に、前記ガラス容器を、四角形の頂点及び該四角形の内部に配置してあることを特徴とする請求項4に記載の体力向上装置。
【請求項6】
前記基板は六角形状をなし、前記ガラス容器を6個有し、
前記基板に、前記ガラス容器を、六角形の頂点に配するように設けてあることを特徴とする請求項4に記載の体力向上装置。
【請求項7】
前記ガラス容器を前記発振部に備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の体力向上装置。 」

第2 当審の拒絶理由
当審において、平成28年9月8日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願明細書の記載等によれば、本願発明1ないし7は、「簡単な構成で、症状及び薬の服用等に関わらず使用することができ、速効性良好に体力を向上することができる体力向上装置を提供すること」を課題とするものであるところ、発明の詳細な説明の記載をみても、出願時の技術常識を考慮しても、本願発明1ないし7に係る「体力向上装置」が「速効性良好に体力を向上することができる」ものであることを当業者が認識することはできない。
したがって、本願の特許請求の範囲の請求項1?7の記載は、明細書のサポート要件を満たしていない、というものである(特許法第36条第6項第1号違反)。

第3 当審の判断
1 明細書のサポート要件
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号、また、知財高裁平成21年(行ケ)第10296号参照)。
これを踏まえ、本願の特許請求の範囲の記載が、上記規定に適合するか否かについて検討する。

2 特許請求の範囲の記載について
本願の特許請求の範囲の記載は、上記第1に示したとおりである。

3 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着することで体力が増強される体力向上装置に関する。」

(2)「【背景技術】
【0002】
人体の体表面又は体内がプラスに帯電している場合、血液及びリンパ液等の体液、並びに気の流れが悪くなり、血圧上昇、血糖増加、血管収縮及び利尿抑制等の生体作用が生じ、その結果、細胞の活性が減じ、人は興奮しやすくなり、不快感があり、不眠になり、食欲が減退する等の症状が現れ、美容上のトラブル、筋肉痛等の健康障害及び疾病が誘発されることが知られている。
従って、静電気を軽減除去して体力の増強を図ることが求められている。
静電気を軽減除去する方法としては、物体の導電性を高めて電荷を迅速に逃す方法(例えば一端が地中に埋め込まれたアース線に接続する方法)、発生した電荷にアイソトープ、交流コロナ放電を利用した除電器で異極性のイオンを供給しこれを中和する方法、空中放電する方法等がある。
また、正の静電気を中和し、又は負に転じさせて美容上のトラブル、健康障害及び疾病の発生を防止するために、負電荷が発生する機能が付加された空気清浄機等の種々の機器、寝具(布団、枕)及び衣類等が開発されている。
そして、特許文献1には、もろみ酢に酵素処理ヘスペリジン、マリンコラーゲン、オリゴ糖を添加することにより、もろみ酢を飲みやすくすると共に、冷え症を改善する作用、コレステロールを低下させる作用、体調を整える(体力増強、睡眠改善、胃腸や肌状態を改善)作用の付加を図った飲食品の発明が開示されている。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述の方法では静電気を完全に除去することは困難であり、まして正の静電気を負に転じるには大がかりな装置が必要であった。
また、上述の機器等からは大気中に負電荷が拡散し、人体に直接作用する負電荷の量は少なく、人体に帯電している静電気の中和、即ち静電気の軽減除去が十分でなかった。従って、それらの機器等は十分に機能していないという問題があった。
そして、特許文献1の飲食品の場合、該飲食品を4?8週間摂取することで効果が現れており、速効性がない。また、該飲食品はオリゴ糖を含むので肥満等により生活習慣病を患っている者は飲食用することができない。他の体力増強を目的とする健康食品及び薬品も、症状及び他の薬の常用等により飲食用できない場合があった。そして、これらの健康食品及び薬品を服用しても静電気は軽減除去されないので、十分に体力を増強することができない。
また、神経活動を活発化して体力を向上することも求められている。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、症状及び薬の服用等に関わらず使用することができ、速効性良好に体力を向上することができる体力向上装置を提供することを目的とする。」

(4)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、発振部を含む基板を人体に装着することによって、体力が向上し、種々の症状が軽減されることを見出し、さらに、円錐状又は円筒状をなし、負に帯電した粒状又は粉末状のSi,SiOx (0<x≦2),Al,P,Ge,Sn,Pb,Ni又はFeを封入してある1又は複数のガラス容器を基板に備えることにより、発振のノイズが低減し、さらに体力が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、負に帯電するとは、負電荷を与えられること、負の静電気を帯びることを意味し、マイナスイオン化ともいう。・・・
【0007】
第1発明の体力向上装置は、多角形状をなす基板と、前記基板の周縁部に設けられ、負に帯電させた粒状又は粉末状のSi,SiOx (0<x≦2),Al,P,Ge,Sn,Pb,Ni又はFeを封入してある、複数の円錐状又は円筒状のガラス容器と、前記基板上における、前記ガラス容器の内側に設けられた発振部と、前記基板上における、前記ガラス容器の内側に設けられ、0.5Hz以上の断続周波数で、前記発振部に駆動電圧を与える駆動回路とを含むことを特徴とする。
・・・
【0017】
本発明の体力向上装置は簡単な構成を有し、人体に装着するのみでよく、体力増強のための他の飲食品と異なり、症状及び薬の服用等に関わらず使用することができる。
本発明の体力向上装置は、0.5Hz以上の振動数で、振動、音波等を与える発振部を備えており、詳細な理由は明らかでないが、神経活動が活発化すると考えられ、速効性良好に体力が向上するのが確認されている。負に帯電したSi等が封入されたガラス容器をさらに備えることにより、このガラス容器の端部から負電荷が放出され、発振部で生じる磁界に作用して、発振のノイズが除去され、より体力が向上することが確認されている。負電荷が生体に供給され、患部に帯電していた正の静電気が軽減除去されると、体液等の流れが良くなり、血圧下降、血糖減少、血管拡張及び利尿促進等の生体作用が生じることが知られている。この体力向上装置を使用することにより、上述したように、発振のノイズが除去され、神経活動がより活発化されるとともに、負電荷が人体に効率よく供給されて人体に帯電していた静電気が軽減除去され、体力がより向上する。
・・・」

(5)「【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、速効性良好に体力が向上する。
そして、本発明の体力向上装置は簡単な構成を有し、人体に装着するのみでよく、体力増強のための他の飲食品と異なり、症状及び薬の服用等に関わらず使用することができる。」

(6)「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る体力向上装置1を示す斜視図である。
体力向上装置1は、合成樹脂製で矩形をなす基板2と、該基板2に設けてあり、円錐状をなし、後述するようにして負に帯電させた粒状のメタリックシリコン8を封入してある5個のガラス容器3と、ボタン型電池を収容する電池収容部5と、圧電ブザー(発振部)6と、タイマーIC(駆動回路)7とを備える。電池収容部5、圧電ブザー6、及びタイマーICは電気的に接続してあり、電気回路が構成されている。
この体力向上装置1においては、基板2に、4個のガラス容器3を四角形の頂点をなすように配し、1個のガラス容器3を該四角形の中心部に配するようにして設けてある。
【0022】
体力向上装置1においては、電池収容部5に収容されたボタン型電池により電力が与えられて、タイマーIC7によりパルスが発生し、該パルスに従って0.5Hz以上の適宜の回数、圧電ブザー6が発振するように構成されている。
・・・
【0027】
以上のように構成された体力向上装置1は、足のすね、膝、足首、頭等にバンド等を用いて装着される。
本実施の形態においては、ガラス容器3及び4により負電荷が、0.5Hz以上の適宜の断続周波数で振動(音波)を与える圧電ブザー6に効率よく供給されて発振のノイズが低減され、神経活動が活発化し、速効性良好に体力が向上する。
そして、本実施の形態の体力向上装置1は簡単な構成を有し、人体に装着するのみでよく、体力増強のための他の飲食品と異なり、症状及び薬の服用等に関わらず誰でも使用することができる。」

(7)「【0028】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係る体力向上装置15を示す斜視図である。図中、図1と同一部分は同一符号を付して詳細な説明を省略する。
体力向上装置15は、ガラス容器3の個数が3個であり、この3個のガラス容器3を三角形の頂点をなすように基板2上に配してあること以外は、実施の形態1に係る体力向上装置1と同一の構成を有する。
【0029】
本実施の形態においては、人体に装着した場合、ガラス容器3により負電荷が圧電ブザー6で生じる磁界に供給されて発振のノイズが低減し、神経活動が活発になるので、速効性良好に体力が向上し、筋力及び瞬発力が向上する。」

(8)「【0033】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4に係る体力向上装置51を示す斜視図である。
体力向上装置51は、合成樹脂製で矩形をなす基板52と、該基板52に設けてあり、円錐状をなし、上述のようにして負に帯電させた粒状のメタリックシリコン8を封入してある5個のガラス容器53と、電池を収容する電池収容部55と、タイマーIC57と、リレー58とを備える。前記電池としては、例えば12Vのアルカリ積層電池が挙げられる。なお、電圧は1.5Vであってもよい。
この体力向上装置51においては、基板52に、4個のガラス容器53を四角形の頂点をなすように配し、1個のガラス容器53を該四角形の中心部に配するようにして設けてある。
【0034】
体力向上装置51においては、電池収容部55に収容された電池により電力が与えられて、タイマーIC57によりパルスが発生し、該パルスに従って0.5Hz以上の適宜の振動数で、リレー57が発振するように構成されている。
【0035】
以上のように構成された体力向上装置51は、人のすね、頭等にバンド等を用いて装着される。
本実施の形態においては、ガラス容器53により負電荷がリレー57に供給されてリレー57で生じた磁界に作用し、発振のノイズが低減し、神経活動が活発になるので、速効性良好に体力が向上する。
そして、本実施の形態の体力向上装置51は簡単な構成を有し、人体に装着するのみでよく、体力増強のための他の飲食品と異なり、症状及び薬の服用等に関わらず誰でも使用することができる。」

(9)「【実施例】
【0039】
・・・
[実施例1]
前記実施の形態1に係る体力向上装置1に相当する、実施例1の体力向上装置を作製した。・・・
・・・
【0042】
[実施例4]
前記実施の形態4の体力向上装置51の基板52にガラス容器53を設けず、電池収容部55と、タイマーIC57と、リレー58とを含む電気回路のみを設けた、実施例4の体力向上装置を作製した。・・・
【0043】
[実施例5]
前記実施の形態4の体力向上装置51に相当する、実施例5の体力向上装置を作製した。すなわち、ガラス容器53を基板52に設けること以外は、実施例4と同様にして、実施例5の体力向上装置を作製した。」

(10)「【0045】
[評価試験1]
被験者A、B、Cがそれぞれ上述の実施例1の体力向上装置を頭部に4箇所、両足首に各1箇所、バンドを用いて装着した場合と、該体力向上装置を装着していない場合(比較例)とで50m走ったときのタイムを計測した。計測はストップウオッチを用いて行った。その結果を下記の表1に示す。被験者Aは70歳の女性、被験者Bは63歳の女性、被験者Cは60歳の男性である。
【0046】
【表1】

【0047】
表1より、実施例1の体力向上装置を装着した場合、装着しなかった場合と比較してタイムが著しく短くなっていることが分かる。この効果は、高齢者である被験者A、Bにおいて特に顕著である。
【0048】
被験者Aが前記体力向上装置を装着した場合、装着しなかった場合それぞれにつき50m走ったときの様子をビデオ撮影し、複数の時点で速度を求めた。その結果を図14及び図15のグラフに示す。
図14は前記体力向上装置を装着した場合の時間と速度との関係を示すグラフ、図15は前記体力向上装置を装着しなかった場合の時間と速度との関係を示すグラフである。
図14及び図15のグラフより、体力向上装置を装着しなかった場合、経時的に速度が低下するが、体力向上装置を装着した場合、速度は略一定に保持され、体力が低下しないことが分かる。
以上より、本発明の体力向上装置を装着することにより体力が向上することが確認された。」

(11)「【0049】
[評価試験2]
被験者A、D、Eが、上述の実施例4の体力向上装置、及び実施例5の体力向上装置をそれぞれ頭部に4箇所、両足首に各1箇所、装着した場合と、装着していない場合(比較例)とで50m走ったときのタイムを計測した。計測はストップウオッチを用いて行った。その結果を下記の表2に示す。被験者Aは上述の70歳の女性、被験者Dは90歳の女性、被験者Eは91歳の女性である。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、実施例4及び実施例5の体力向上装置を装着した場合、装着しなかった場合と比較してタイムが短くなっていることが分かる。基板52に、リレー58に加えて、ガラス容器53を設けた実施例5の体力向上装置の場合、よりタイムが短くなっていることが分かる。」

(12)「【0052】
[評価試験3]
被験者F(97歳の女性、介護認定:要介護4)に、本願出願人による特許第4282316号の施術用ベッドに寝てもらい、実施例4の体力向上装置を頭部に4箇所、両足首に各1箇所に装着した。10日間で、完全寝たきりの状態から、上体を斜めに起こして食事を取ることができるようになり、血色も良くなった。
次に、実施例5の体力向上装置を部に4箇所、両足首に各1箇所に装着した。
被験者Fは、略5分後、足をばたつかせることができるようになり、ベッドの金具を掴んで寝返りを打てるようになった。
略12分後、上体を完全に起こせるようになった。
略19分後、ベッドに腰掛けようと努力するようになり、これを繰り返しているうちに、略26分後、自力でベッドに腰掛けることができるようになった。
また、被験者Fの頭髪の静電気測定を静電気測定機(セルミ医療器株式会社製の「FMX002 SER.No.02983」)を用いて行った。施術用ベッドに寝る前、施術用ベッドに寝て10日後、実施例5の体力向上装置を装着してから1週間後に静電気測定を行ったところ、それぞれ0.8kV、0.1?0.4kV、0kVであり、被験者Fの頭髪に帯電していた静電気が除去されたことが確認された。」

(13)「【0053】
以上より、本発明の体力向上装置は発振部を備えるので、人体に装着することにより、体力が向上し、さらにガラス容器を備えることにより、発振のノイズが低減して、より体力が向上することが確認された。」

4 検討
(1)発明の詳細な説明の記載について
ア 課題
上記3(1)?(3)等によれば、本願明細書に記載された従来技術の問題点及び当該問題点を踏まえた課題は、以下のとおりであると認める。
すなわち、従来、人体がプラスに帯電している場合、体液等の流れが悪くなり、血圧上昇、血糖増加、血管収縮及び利尿抑制等の生体作用が生じる結果、興奮しやすい、不快感、不眠、食欲減退等の症状が現れ、美容上のトラブル、健康障害及び疾病が誘発されることが知られている。このため、人体に負電荷を直接作用させて、静電気(人体をプラスに帯電させる)を軽減除去して「体力」の増強を図ることが求められており、人体の静電気を軽減除去する機器が開発されてきた。しかしながら、従来の機器は大がかりな装置になるなどの問題があった。
「体力」の増強に関しては、従来、コレステロール低下や体調を整えるなどの作用を有する飲食品があったが、飲食品の場合、4?8週間摂取することで効果が現れており速効性がなく、罹患している病や常用している薬等により摂取できない場合があり、また、静電気の軽減除去を比較して十分な効果を期待できない、といった問題があった。
なお、ここで、上記「体力」とは、「美容上のトラブル、健康障害及び疾病の発生を防止する体力」を意味する(以下「本件体力A」という。)。
また、「神経活動を活発化して体力を向上すること」も求められている(以下、「神経活動を活発化して」向上する「体力」を「本件体力B」という。)。本件体力Bの明確な定義は、本願明細書に明記されていないものの、「神経活動が活発になるので・・・筋力及び瞬発力が向上する」(上記3(7))とされていること、及び、本願明細書の評価試験1?3の試験内容(上記3(10)?(12))に照らして、「筋力及び瞬発力等」を意味するものと認める。
本件体力Bに係る従来技術の問題点については、平成28年12月12日付け意見書第1頁に「薬には、速効性はなく、長期間の服用により効果が出るものと、ドーピング剤のように体力向上の速効性はあるが、長期に服用すると副作用が生じるものとがある。本願でいう『症状及び薬の服用等に関わらず使用することができ、速効性良好に体力を向上することができる』とは・・・ドーピング剤のように速効性があり、かつドーピング剤のように服用するものではないので、人体に害が及ばないことをいう。」とあり、「ドーピング剤」が筋力増強のための薬であることを踏まえると、「体力向上の速効性」と「副作用」の回避が両立できない、という問題があったものと認める。
そして、本願発明は、上記事情にかんがみ、簡単な構成で、症状及び薬の服用等に関わらず使用することができ、速効性良好に「体力」を向上することができる「体力向上装置」を提供することを課題とするものであり、かかる「体力」とは、本件体力A及びBの両方を含むものである。

イ 課題解決手段について
上記3(4)によれば、本願明細書には、以下の課題解決手段が記載されているものと認める。
すなわち、上記アの課題を解決するために、「体力向上装置」とされる装置において、「多角形状をなす基板と、前記基板の周縁部に設けられ、負に帯電させた粒状又は粉末状のSi,SiOx (0<x≦2),Al,P,Ge,Sn,Pb,Ni又はFeを封入してある、複数の円錐状又は円筒状のガラス容器と、前記基板上における、前記ガラス容器の内側に設けられた発振部と、前記基板上における、前記ガラス容器の内側に設けられ、0.5Hz以上の断続周波数で、前記発振部に駆動電圧を与える駆動回路とを含む」ことが記載されている。

(2)発明の課題を解決できると認識できる範囲のものか否か
当審は、以下説示するように、本願発明は、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない、と判断する。
以下、上記(1)アの課題のうち「速効性良好に体力を向上することができる」点について検討する。

ア 本件体力Aについて
本件体力Aについては、本願明細書には、上記3(4)の「本発明者等は、前記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、発振部を含む基板を人体に装着することによって、体力が向上し、種々の症状が軽減されることを見出し・・・」及び「負電荷が生体に供給され、患部に帯電していた正の静電気が軽減除去されると、体液等の流れが良くなり、血圧下降、血糖減少、血管拡張及び利尿促進等の生体作用が生じることが知られている。この体力向上装置を使用することにより・・・負電荷が人体に効率よく供給されて人体に帯電していた静電気が軽減除去され、体力がより向上する」の記載がある。かかる記載によれば、本願発明の「体力向上装置」を使用することにより、当該装置を使用しない場合、すなわち、人体の静電気が軽減除去されていない場合と比較して、本件体力Aが向上することが認識される程度にとどまる。
このように、本願明細書には、上記(1)アの飲食品と比較して、本件体力Aが「速効性良好に」向上することにつき、そのメカニズムの説明が何らなされていない。そうすると、当該点については、試験結果から把握するほかはない。
しかしながら、本願明細書の評価試験1及び2については、50m走のタイムを計測するものであるから、本件体力Aの向上を確認するものではないことは明らかである。
また、本願明細書の評価試験3については、上記3(12)の「・・・実施例4の体力向上装置を頭部に4箇所、両足首に各1箇所に装着した。10日間で、完全寝たきりの状態から、上体を斜めに起こして食事を取ることができるようになり、血色も良くなった。次に、実施例5の体力向上装置を部に4箇所、両足首に各1箇所に装着した。被験者Fは、略5分後・・・略12分後・・・略19分後・・・略26分後、自力でベッドに腰掛けることができるようになった。・・・施術用ベッドに寝る前、施術用ベッドに寝て10日後、実施例5の体力向上装置を装着してから1週間後に静電気測定を行ったところ・・・被験者Fの頭髪に帯電していた静電気が除去されたことが確認された。」との記載がある。かかる記載からは、評価試験3の被験者Fに本願発明の「体力向上装置」(「実施例5の体力向上装置」が該当する。)を使用したところ、静電気の除去について一定の効果があることが窺えるものの、その効果の程度は、そもそも、本願発明には該当しない「実施例4の体力向上装置」等による静電気除去の影響下においては不明である。また、評価試験3の被験者Fに対して、上記(1)アの飲食品を摂取させる比較試験が行われていないことから、本件体力Aが「速効性良好に」向上することについては不明である。
このように、評価試験1?3の試験結果からは、本願発明により「速効性良好に」本件体力Aが向上することを認識することはできない。

イ 本件体力Bについて
本件体力Bは、上記(1)アのとおり「筋力及び瞬発力等」を意味する。
本件体力Bについては、上記3(4)に「本発明の体力向上装置は、0.5Hz以上の振動数で、振動、音波等を与える発振部を備えており、詳細な理由は明らかでないが、神経活動が活発化すると考えられ、速効性良好に体力が向上するのが確認されている。」とあるとおり、「速効性良好に」向上するメカニズムが不明であることが示唆されている。そうすると、本願発明により「速効性良好に」本件体力Bが向上することについては、試験結果から把握するほかはない。

(ア)評価試験1について
評価試験1は、被験者A、B、Cの3名に対して、それぞれ「実施例1の体力向上装置」(図1参照。以下「本件装置1」という。)を頭部に4箇所、両足首に各1箇所、装着した場合(実施例1)と、本件装置1を装着していない場合(比較例)とで50m走ったときのタイムを計測したものである(上記3(10))。
評価試験1の計測順序については、まず、実施例1につき、被験者A、B、Cの順に、50m走ってタイムを計測し、これを2回繰り返し、その後、比較例につき、被験者A、B、Cの順に、50m走ってタイムを計測した。また、計測間隔については、約20分間隔をおいて、次の走行を行った(実験成績証明書第1頁参照)。
なお、被験者Aについては、実施例1、比較例のそれぞれにつき50m走ったときの様子をビデオ撮影し、複数の時点で速度を求めた(上記3(10))。
評価試験1の試験結果については、上記3(10)のとおり「表1より、実施例1の体力向上装置を装着した場合、装着しなかった場合と比較してタイムが著しく短くなっていることが分かる。この効果は、高齢者である被験者A、Bにおいて特に顕著である。」及び「図14及び図15のグラフより、体力向上装置を装着しなかった場合、経時的に速度が低下するが、体力向上装置を装着した場合、速度は略一定に保持され、体力が低下しないことが分かる。」とされ、結論として「以上より、本発明の体力向上装置を装着することにより体力が向上することが確認された。」とされている。

当該試験結果について検討するに、50m走などの短距離走において、計測タイムと脚の筋力等との間に相関関係があることは、広く知られていることから、本件体力Bの向上を評価するために、50m走のタイムを計測することには合理性がある。
しかしながら、身体の筋力向上は、対象部位に過負荷を与えた状態でのトレーニングを反復して行った結果として得られるものであり、トレーニングを中止した場合、トレーニングの期間に応じてその効果が失われることは、出願時の技術常識である。そして、評価試験1の試験結果は、当該技術常識と整合するものとはいえない。
すなわち、当該試験結果は、本件装置1を装着した場合のタイムが、当該装着状態から本件装置1を外した場合のタイムより短いことから、「体力が向上することが確認された」と結論付けている。仮に、かかる結論のとおりであるとすると、本件装置1の装着中は「体力が向上」した状態にあり、「体力が向上」した状態から本件装置1を外すと直ちに(計測間隔は20分間である。)、「体力が向上」の効果が失われたことになる。ここでいう「体力」とは、本件体力Bであり、具体的には、50m走のタイム計測の結果であることに照らして、脚の筋力(瞬発力と同義)であると認められる。脚の筋力の向上効果が直ちに失われたとするのは、当該技術常識とは整合しない。
そうすると、評価試験1の試験結果は、本来、各被験者は実施例1で示すタイムで走行する「体力」を有していたところ、比較例においては、「体力」とは関係のない何らかの要因によって、実施例1のタイムより長いタイムとなった結果を示していると考えざるを得ない。

(イ)評価試験2について
評価試験2は、被験者A、D、Eの3名に対して、それぞれ「実施例4の体力向上装置」(ガラス容器を設けていないため、参考例である。)又は「実施例5の体力向上装置」(図8参照。以下「本件装置2」という。)を頭部に4箇所、両足首に各1箇所、装着した場合(実施例4、実施例5)と、当該装置を装着していない場合(比較例)とで50m走ったときのタイムを計測したものである(上記3(11))。
評価試験2の計測順序については、実施例5、実施例4、比較例の順に走行試験を行うことを5回繰り返した。各実施例及び比較例において、被験者の走行順序は、被験者A、D、Eの順である。また、計測間隔については、同一被験者の走行間隔が約15?20分になるようにした(実験成績証明書第2?3頁参照)。
評価試験2の試験結果については、上記3(11)のとおり「表2より、実施例4及び実施例5の体力向上装置を装着した場合、装着しなかった場合と比較してタイムが短くなっていることが分かる。基板52に、リレー58に加えて、ガラス容器53を設けた実施例5の体力向上装置の場合、よりタイムが短くなっていることが分かる。」とされている。

当該試験結果について検討するに、評価試験2も、評価試験1と同じ50走のタイムを計測するものであり、その試験結果は、同様に、上記(ア)の技術常識と整合するものとはいえない。
すなわち、当該試験結果は、本件装置2を装着した場合(実施例5)のタイムが、当該装着状態から本件装置2を外し、実施例4を経て、装置を何も装着しない場合(比較例)のタイムより短く、さらに、実施例5のタイムが短く比較例のタイムが長いという結果が複数回再現されていることを示したものである。仮に、かかる結果から「体力が向上することが確認された」と結論付けるとすると、本件装置2の装着中は「体力が向上」した状態にあったものが、「体力が向上」した状態から本件装置2を外すと直ちに(先行の実施例5と後行の比較例との間隔は約30?40分である)、「体力が向上」の効果が失われ、再び、本件装置2を装着すると直ちに(計測間隔は約15?20分である)、「体力が向上」の効果が得られたことになる。脚の筋力(瞬発力)の向上効果が直ちに失われ、一旦失われた効果が直ちに戻ったとするのは、上記(ア)の技術常識とは整合しない。
そうすると、評価試験2の試験結果は、本来、各試験者は実施例5で示すタイムで走行する「体力」を有していたところ、比較例においては、「体力」とは関係のない何らかの要因によって、実施例5のタイムより長いタイムとなった結果を示していると考えざるを得ない。

なお、平成28年12月12日付け意見書において示された「再試験」は、評価試験2の再試験であり、プラセボ効果による影響の排除を考慮した点で評価試験2とは異なるものの、基本的な試験方法、及び、導こうとする試験結果は、評価試験2と同じである点を付記する(実験成績証明書第3?6頁参照)。

(ウ)評価試験3について
評価試験3は、要するに、「完全寝たきり状態」であって、要介護4と認定された被験者Fに対して、本件装置2を頭部に4箇所、両足首に各1箇所に装着したところ、被験者Fは、約5?26分後に、足をばたつかせ、寝返りを打ち、上体を完全に起こし、「自力で」ベッドに腰掛けることができるようになった、とするものである(上記3(12))。
確かに、ベットに寝ている姿勢から、上体を起こしてベッドに腰掛ける動作は、少なくとも上体の筋力を必要とするから、これまで、上体を起こすまでの筋力がなかったところ、筋力向上の結果として、上体を起こしてベッドに腰掛ける動作ができるようになったとするのは、論理的にはあり得る。
しかしながら、本件装置2を装着すると直ちに(5?26分後)、筋力向上の効果が得られたとするのは、上記(ア)の技術常識とは整合しない。また、「完全寝たきり状態」であって「寝返りも自立もできず」(実験成績証明書に添付された「資料」第25頁)と認定されていた者が、直ちに寝返りを打つことができるようになったとするのは、医学常識とも整合しない。
そうすると、被験者Fは、要介護認定に関わらず、本来、寝返りをうち、上体を起こしてベッドに腰掛けることができる「体力」を有していたか、あるいは、「体力」とは関係のない何らかの要因によって、当該動作ができるようになったと考えざるを得ない。
この点、本件装置2を装着した状態において、当該動作ができるようになったといっても、直ちに、「自力で」当該動作ができるようになったと結論付けることができない点も付記する。

(エ)評価試験のデータ全般について
請求人は、当審の審尋に対する平成29年4月7日付け回答書において、「審尋書に依れば、・・・[評価試験1]?[評価試験3]、及び・・・[評価試験2]の再試験について、審尋書に示された事項を証明する書類(実験成績証明書など)を提出するように要請された。そして、当該書類は、その客観性が担保されるように、第三者により作成するとともに、作成者の氏名を明記して押印するように言われた。・・・審判請求人は自力で研究機関等を探し、産業支援センターにも依頼したが、研究機関等を見出すことはできなかった。また、審判請求人が特許庁のホームページで調べたところ、第三者により作成したものではなく、出願人により作成した実験成績証明書を提出して特許を取得した事例が存在することも見出した。」と回答している。
これにつき検討するに、[評価試験1]?[評価試験3]、及び[評価試験2の再試験]の結果のデータは、上記(ア)?(ウ)にて教示したように、技術常識及び医学常識と整合し難いものであるから、技術常識及び医学常識を超えるような本願発明の効果を各評価試験によって証明するためには、高度な客観性及び正確性を有するデータが必要というべきである。
しかしながら、請求人は、第三者たる研究機関等による証明書を提出することなく、これまでの請求人自身が作成したデータに測定方法等を加筆して「実験成績証明書」として提出するのみであり、また、請求人が研究機関等に依頼できなかったという事実は、実験データの客観性及び正確性を否定する方向のものと解すのもやむを得ない。
したがって、これまでの技術常識及び医学常識を超えるような請求人主張の効果を証明するデータは、提出されていないものと考えざるを得ない。

(オ)小括
上記(ア)?(エ)のとおり、評価試験1?3の試験結果に関する本願明細書の記載に基づいて、本願発明により「速効性良好に」本件体力Bが向上することが明らかにされていない。

上記ア及びイのとおりであるから、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
また、本願発明が、発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず、当業者が、出願時の技術常識に照らし、当該課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めるに足る事情もない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成28年12月12日付け意見書において、本願発明により、人体(神経)の帯電が軽減された場合、生体電流が流れやすく、脳からの微弱な電気信号が伝わり易くなり、発振による神経及び脳への作用と、人体(神経)の帯電低減作用の相乗効果により、「人体の動きが俊敏になる、即ち体力が向上する」とも主張する。
しかしながら、本願明細書には、生体電流及び脳からの微弱な電気信号については明記されておらず、人体の帯電の軽減と、生体電流の流れやすさ及び脳からの微弱な電気信号の伝わり易さとの関係があるとする根拠も不明である。また、「体力」の向上を「人体の動きが俊敏になる」ことと言い換えたとしても、当該「体力」とは、結局のところ、評価試験1及び2においては、脚の筋力(瞬発力)であり、評価試験3においては、上体の筋力を意味する。
したがって、請求人の上記主張は、当審の判断を何ら左右するものではない。

(4)小括
よって、本願の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件を満たしていない。すなわち、本願発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-01 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2011-136725(P2011-136725)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 高木 彰
平瀬 知明
発明の名称 体力向上装置  
代理人 河野 英仁  
復代理人 廣田 由利  
復代理人 廣田 由利  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 英仁  
代理人 河野 登夫  

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