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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1331123 |
審判番号 | 不服2016-10074 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-04 |
確定日 | 2017-08-10 |
事件の表示 | 特願2012- 76721「偏光板の製造方法および製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 7日出願公開、特開2013-205743〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月29日の出願であって、平成28年1月19日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月17日付けで意見書が提出され、 同年4月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年7月4日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 なお、審判請求人は、平成28年10月13日に、平成28年7月21日作成の特許法第164条第3項の規定に基づく報告(前置報告)に対する意見を記載した上申書(以下単に「上申書」という。)を提出している。 第2 平成28年7月4日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成28年7月4日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 (1)平成28年7月4日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、願書に最初に添付された特許請求の範囲(以下「当初特許請求の範囲」といい、同じく、願書に最初に添付された明細書を「当初明細書」という。)における本件補正前の請求項1に、 「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに、紫外線硬化型接着剤を介して熱可塑性樹脂からなる光学フィルムを貼合して、偏光板を製造する方法であって、 (A)前記偏光フィルムおよび前記光学フィルムの少なくとも一方の貼合面に前記紫外線硬化型接着剤を塗工する塗工工程、 (B)塗工された前記紫外線硬化型接着剤を介して前記偏光フィルムと前記光学フィルムとを重ね合わせて積層体を得る貼合工程、および (C)前記積層体に紫外線を照射して前記紫外線硬化型接着剤を硬化させる紫外線照射工程 を含み、 前記塗工工程(A)、前記貼合工程(B)および前記紫外線照射工程(C)が、400nmを超える波長域に発光波長を有し、250?400nmの波長域に発光波長を有しないLED照明のもとで実施される偏光板の製造方法。」とあったものを、 「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに、紫外線硬化型接着剤を介して熱可塑性樹脂からなる光学フィルムを貼合して、偏光板を製造する方法であって、 (A)前記偏光フィルムおよび前記光学フィルムの少なくとも一方の貼合面に前記紫外線硬化型接着剤を塗工する塗工工程、 (B)塗工された前記紫外線硬化型接着剤を介して前記偏光フィルムと前記光学フィルムとを重ね合わせて積層体を得る貼合工程、および (C)前記積層体に紫外線を照射して前記紫外線硬化型接着剤を硬化させる紫外線照射工程 を含み、 前記塗工工程(A)、前記貼合工程(B)および前記紫外線照射工程(C)が、400nmを超える波長域に発光波長を有し、250?400nmの波長域に発光波長を有しない白色発光のLED照明のもとで実施される偏光板の製造方法。」とする補正を含むものである(下線は当審で付した。以下同様。)。 (2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「LED」が「白色発光」であるものとするものである。 2 本件補正の目的 上記1の補正は、本件補正前の請求項1において記載されていた「LED」を、当初明細書の【0058】の記載に基づいて、「白色発光のLED」であることに限定するものである。 そうすると、本件補正後の請求項1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また、本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。以下「独立特許要件」という。)について以下検討する。 3 引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-134190号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 偏光子の片面または両面にそれぞれ保護フィルムを積層接着する偏光板の製造方法であって、前記偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して重ね合わせて積層体を得、ついで、この積層体の長手方向に沿って円弧状に形成された凸曲面に前記積層体を密着させながら前記接着剤を重合硬化させることを特徴とする、偏光板の製造方法。 【請求項2】 前記凸曲面がロールの外周面である、請求項1に記載の偏光板の製造方法。 【請求項3】 前記偏光子が、一軸延伸されヨウ素又は二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムであり、前記保護フィルムの一方が非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムで、他方がトリアセチルセルロースフィルムである、請求項1または2に記載の偏光板の製造方法。 【請求項4】 前記凸曲面に密着した積層体に活性エネルギー線を照射して重合硬化させる、請求項1?3のいずれかに記載の偏光板の製造方法。 【請求項5】 保護フィルムの片面または偏光子の両面に接着剤を塗布する手段と、偏光子の片面または両面に接着剤層を介して保護フィルムを重ね合わせる手段と、接着剤を重合硬化させるための手段とを備えた偏光板の製造装置であって、前記接着剤を重合硬化させるための手段が保護フィルムを重ね合わせた偏光子を外周面に密着させながら搬送するロールと、このロールの外周面に向かって活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置とを含むことを特徴とする偏光板の製造装置。 【請求項6】 前記活性エネルギー線照射装置が紫外線照射装置である、請求項5記載の偏光板の製造装置。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用な偏光板の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 偏光板は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用である。図4は、液晶セルに偏光板の1種である直線偏光フィルムを積層した構造を示している。液晶表示パネルを構成する液晶セル10の光源側表面には、接着剤層11により直線偏光フィルム12が貼着積層され、液晶表示パネルが構成されている。 【0003】 偏光板は通常、偏光子の両面に保護フィルムを積層した状態で、液晶表示装置に組み込まれて使用される。すなわち、図5に示すように、通常の偏光板20は、偏光子21の両面に保護フィルム22、23が接着剤層24、25を介して積層して接着されている(特許文献1、特許文献2等)。 【0004】 ところが、このようにして製造される偏光板は、液晶セルに貼着する側が凹となるようにカールしたり(以下、「逆カール」と称する。)、偏光板全体が波打ったようになる(以下、これを「ウェーブカール」と称する。)などの問題がある。かかる逆カールおよびウェーブカールは、液晶セルに貼着する際に、接着面に気泡が残りやすくなり液晶パネルに不良を発生する原因となる。このため、偏光板は逆カールおよびウェーブカールを発生させず、カールしないか、あるいはカールしても液晶セルに貼着する側が凸となるようにカール(以下、「正カール」と称する。)とすることが望まれている。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の目的は、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制された偏光板の製造方法および製造装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、偏光子の片面または両面に保護フィルムを接着剤を介して積層した積層体を正カールとなるように曲げた状態で接着剤を重合硬化させることにより、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制されることを見出し、本発明を完成した。 【0007】 すなわち本発明の偏光板の製造方法は、偏光子の片面または両面にそれぞれ保護フィルムを積層接着する偏光板の製造方法であって、前記偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して重ね合わせて積層体を得、ついで、この積層体の長手方向(搬送方向)に沿って円弧状に形成された凸曲面に前記積層体を密着させながら前記接着剤を重合硬化させることを特徴とする。前記凸曲面には、例えば、ロールの外周面を用いることができる。 【0008】 前記偏光子としては、一軸延伸されヨウ素又は二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムが、前記保護フィルムの一方としては非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムが、他方としてはトリアセチルセルロースフィルムが挙げられるが、これらのみに限定するものではない。 【0009】 前記凸曲面に密着した積層体に活性エネルギー線を照射して重合硬化させるのが好ましいが、加熱して 重合硬化させてもよい。 【0010】 また、本発明の偏光板の製造装置は、保護フィルムの片面または偏光子の両面に接着剤を塗布する手段と、偏光子の両面に接着剤層を介して保護フィルムを重ね合わせる手段と、接着剤を重合硬化させるための手段とを備えた偏光板の製造装置であって、前記接着剤を重合硬化させるための手段が保護フィルムを重ね合わせた偏光子を外周面に密着させながら搬送するロールと、このロールの外周面に向かって活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射装置とを含む。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、偏光子と保護フィルムとを接着剤を介して重ね合わせた積層体を、この積層体の長手方向(搬送方向)に沿って円弧状に形成された凸曲面に密着させながら活性エネルギー線を照射して接着剤を重合硬化させることにより、偏光板を液晶セルに接着させる際に、接着面に気泡が残って液晶パネルに不良を発生させる原因となる逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制される。」 エ 「【0016】 次に図面を参照しながら本発明の偏光板の製造装置および製造方法を説明する。図1は本発明の偏光板の製造装置の一実施形態を示す概略図である。 【0017】 図1に示す偏光板の製造装置30は、保護フィルム31、32の片面に接着剤を塗布するための接着剤塗工装置33、34と、保護フィルム31、32、偏光子35を重ね合わせるためのニップロール36と、前記保護フィルム31、32と偏光子35とが貼合された積層体37を密着させるためのロール38と、該ロール38の外周面と相対する位置に設置された第1の活性エネルギー線照射装置39、40と、さらにこれより搬送方向下流側に設置された第2の活性エネルギー線照射装置41と、搬送用ニップロール42とを搬送方向に沿って順に設けている。 【0018】 すなわち、ロール状に巻回された状態から連続的に繰り出される保護フィルム31、32は、接着剤塗工装置33、34によって片面に接着剤が塗布される。そして、前記保護フィルム31、32と同様にして連続的に繰り出された偏光子35の両面にそれぞれ保護フィルム31、32がニップロール36によって接着剤を介して重ね合わされ積層体37が形成される。この積層体37をロール38の外周面に密着させながら搬送する過程で、第1の活性エネルギー線照射装置39、40からロール38の外周面に向かって活性エネルギー線を照射し、接着剤を重合硬化させる。なお、搬送方向下流側に配置される第2の活性エネルギー線照射装置41は接着剤を完全に重合硬化させるための装置であり、必要に応じて省略することができる。 【0019】 保護フィルム31、32への接着剤の塗工方法は特に限定されないが、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。このうち、薄膜塗工、パスラインの自由度、幅広への対応などを考慮すると、接着剤塗工装置33、34としてはグラビアロールが好ましい。 【0020】 接着剤塗工装置33,34としてグラビアロールを用いて接着剤の塗布を行う場合、接着剤層の厚さはライン速度に対するグラビアロールの速度比であるドロー比によって調整する。保護フィルム31、32のライン速度を15?50m/分とし、グラビアロールを該保護フィルム31、32の搬送方向と逆方向に回転させ、グラビアロールの速度を5?500m/分(ドロー比1?10)とすることで、接着剤層の塗布厚を約1?10μmに調整する。 【0021】 ロール38は、外周面が鏡面仕上げされた凸曲面を構成しており、その表面に積層体37を密着させながら搬送し、その過程で活性エネルギー線照射装置39、40により接着剤を重合硬化させる。接着剤を重合硬化させ、積層体37を充分に密着させる上で、ロール38の直径は特に限定されないが、接着層が未硬化状態の積層体37が、ロール38を通過する間に活性エネルギー線を紫外線の積算光量で30mJ/cm^(2)で照射されるようにすることが好ましい。ロール38は、積層体37のラインの動きに従動または回転駆動させてもよく、あるいは固定させて表面を積層体37が滑るようにしてもよい。また、ロール38は、活性エネルギー線の照射による重合硬化時に積層体37に熱が加わりにくくするために冷却ロールとして作用させてもよい。その場合の冷却ロールの表面温度は、20?25℃が好ましい。 【0022】 活性エネルギー線の照射により重合硬化を行う場合、用いる光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。エポキシ樹脂組成物への光照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであって、やはり特に限定されないが、開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1?100mJ/cm^(2)であることが好ましい。樹脂組成物への光照射強度が0.1mJ/cm^(2)未満であると、反応時間が長くなりすぎ、100mJ/cm^(2 )を超えると、ランプから輻射される熱及び組成物の重合時の発熱により、エポキシ樹脂組成物の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。 【0023】 組成物への活性エネルギー線の照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10?5,000mJ/cm^(2)となるように設定されることが好ましい。上記エポキシ樹脂組成物への積算光量が10mJ/cm^(2 )未満であると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる保護フィルムの硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が5,000mJ/cm^(2)を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。 【0024】 紫外線を活性エネルギー線とするとき、積層体37のライン速度は特に限定されず、長手方向(搬送方向)に100?800Nの張力下、また、少なくとも照射強度を30mJ/cm^(2)以上、照射時間を0.3秒以上の条件下で、積層体37に活性エネルギー線を照射することが好ましい。また、活性エネルギー線装置39、40による活性エネルギー線の照射で積算光量が不十分な場合は、補助的に第2の活性エネルギー線装置41を設け、活性エネルギー線を追加照射させて積層体37の接着剤の重合を完了させてもよい。 【0025】 このようにして得られた偏光板は、従来のように活性エネルギー線装置の下を所定の張力で水平に搬送させる通過させる場合(図3を参照)に比して、逆カールおよびウェーブカールの発生が抑制されているので、液晶セルに貼着する際に、接着面に気泡が残らず、従って液晶パネルの不良発生を低減することができる。 【0026】 以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【実施例1】 【0027】 厚さ75μmの非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム「ZEONOR」(日本ゼオン社製)と、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム「KC8UX2MW」(コニカミノルタ社製)とを準備した。非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムおよびトリアセチルセルロースフィルムのそれぞれの片面に接着剤としてエポキシ樹脂組成物「KRX492-30」(ADEKA社製)を接着剤塗工装置であるマイクロチャンバードクター(富士機械社製)を用いて塗工した。積層体のライン速度を11m/分とし、グラビアロールを積層材の搬送方向と逆方向に回転させ、グラビアロールの速度22m/分とすることで、接着剤層の厚さを約2μmとした。 【0028】 次に、厚さ25μmのヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムの両面に前記エポキシ樹脂組成物を介して前記非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムと、前記トリアセチルセルロースフィルムとをニップロールによって重ね合わせた。 【0029】 前記偏光板を紫外線照射装置(GS-YUASA社製)に備えられた紫外線ランプであるEHAN1700NAL高圧水銀ランプ2灯から照射される紫外線中を長手方向に600Nの張力下で、前記偏光板のトリアセチルセルロースフィルムが積層された面を、23℃の冷却ロールの外周面に密着させながらライン速度11m/分で通過させた。その際の紫外線の積算光量は、110(mJ/cm^(2))であった。紫外線の積算光量は、波長域280?320nmのUVB領域での照射を基に計測された。その後、幅方向が1330mmである積層体を長手方向に600mmで切断したのち、下記の方法にてウェーブカールの度合いを評価した。 【0030】 すなわち、図2(A)に示すように、トリアセチルセルロースフィルムが貼合された面を下にした偏光板50の波数、波長、振幅の値をそれぞれ測定した。波数は偏光板50の幅方向に並ぶ波の山の数であり、図2(B)に示すように波長51は偏光板50の波の山の頂点間の距離を測定した。また同図(A)に示すように振幅52は偏光板50を幅方向に5等分したa?eのそれぞれの箇所における山と谷の頂点の長さを測定し、その半分の値とした。それらの測定結果を表1に示す。 【実施例2】 【0031】 紫外線の積算光量を、143(mJ/cm^(2))とした以外は、実施例1と同様にして偏光板を得た。結果を表1に示す。」 オ 「【図1】 」 カ 上記アないしオからみて、引用例1には、実施例1として次の発明が記載されている。 「非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム「ZEONOR」(日本ゼオン社製)およびトリアセチルセルロースフィルム「KC8UX2MW」(コニカミノルタ社製)のそれぞれの片面に接着剤としてエポキシ樹脂組成物「KRX492-30」(ADEKA社製)を接着剤塗工装置であるマイクロチャンバードクター(富士機械社製)を用いて塗工し、 ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムの両面に前記エポキシ樹脂組成物を介して前記非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムと、前記トリアセチルセルロースフィルムとをニップロールによって重ね合わせて積層体を形成し、 前記積層体を紫外線照射装置(GS-YUASA社製)に備えられた紫外線ランプであるEHAN1700NAL高圧水銀ランプ2灯から照射される紫外線中を長手方向に600Nの張力下で、前記積層体のトリアセチルセルロースフィルムが積層された面を、23℃の冷却ロールの外周面に密着させながらライン速度11m/分で通過させ、その際の紫外線の積算光量は、110(mJ/cm^(2))である、 偏光板の製造方法。」(以下「引用発明」という。) キ なお、実施例1において、「【0029】前記偏光板を・・・通過させた。」という記載があるが、「偏光板」は実施例1の説明中には前記されていないだけでなく、引用例1の記載全体をみても、紫外線照射前の「ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルムの両面に前記エポキシ樹脂組成物を介して前記非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムと、前記トリアセチルセルロースフィルムとをニップロールによって重ね合わせた」ものについては、「偏光板」ではなく、「積層体」としている(引用例1の【0017】)から、上記カのように引用発明を認定した。 (2)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-33743号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 口腔内を照明可能な歯科用照明装置であって、 光源である白色LEDと、 前記白色LEDからの出射光を反射して外部に出光可能に設けられた反射板と、 前記白色LEDからの前記出射光のうち所定の波長の光を減じて外部に出光可能とする切替手段と、を備える歯科用照明装置。 【請求項2】 前記切替手段は、 前記所定の波長の光を吸収し、他の波長の光を透過するフィルタと、 前記フィルタを前記白色LEDと前記反射板との間に挿入、及び脱出させる切替機構と、を備え、 前記フィルタの前記挿入時には、前記白色LEDからの出射光は前記フィルタを透過して前記反射板に達し、前記フィルタの前記脱出時には、前記白色LEDからの出射光は直接前記反射板に達することを特徴とする請求項1に記載の歯科用照明装置。 【請求項3】 前記反射板は、その板厚方向に密着及び離脱可能な少なくとも2枚の反射板を有し、 前記少なくとも2枚の反射板のうちの一方の前記反射板は、前記所定の波長の光を透過し、他の波長の光を反射する第一反射板であり、 前記少なくとも2枚の反射板のうちの他方の前記反射板は、少なくとも前記所定の波長の光を反射可能な第二反射板とされ、 前記切替手段は、前記第二反射板を前記第一反射板に前記密着及び離脱させるように移動させる切替機構を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用照明装置。 【請求項4】 前記所定の波長は、前記口腔内に用いられる歯科充填剤が硬化を開始する波長であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の歯科用照明装置。 【請求項5】 前記所定の波長は、500nm以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の歯科用照明装置。 【請求項6】 前記所定の波長は、430nm?500nmであることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の歯科用照明装置。」 イ 「【背景技術】 【0002】 歯科治療等の際に口腔内を照明する装置として通常、無影灯が用いられる。無影灯とは、歯科医や歯科技工士の施術中でも口腔内に影が生じないように形成された照明である。これにより歯科医や歯科技工士は、施術中においても明確に患部を視認することができる。無影灯とするための手段として例えば一灯式で適切な凹凸を設けた反射板により光を提供する方法、多灯で光を提供する方法、及びその両方を備えた方法などを挙げることができる。 【0003】 いずれの方法による歯科用照明装置であっても、少なくとも1つの光源を有している。当該光源として例えばハロゲンランプや蛍光ランプが用いられることが多い(例えば特許文献1、特許文献2)。しかし、ハロゲンランプや蛍光ランプは比較的発熱が大きく、排熱の課題があった。また、点灯、消灯を多く繰り返すという歯科用照明装置の性質上、ランプの寿命も改善すべきとの要望があった。 【0004】 一方、ハロゲンランプや蛍光ランプに変えて白色LEDを用いた歯科用照明装置が提案されている(例えば特許文献3)。白色LEDは、ハロゲンランプや蛍光ランプに比べ、発熱量が小さく、寿命も長いという利点がある。また、消費電力も低く抑えることができる。 ・・・略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、白色LEDを光源とする歯科用照明装置は、一部の施術の際に不具合を生じることがあった。具体的には、照明時に光硬化性樹脂材料を含有する歯科充填剤が、意図しない硬化を始めてしまうというものである。歯科充填剤は、その硬化前に口腔内の適切な位置に適切な態様で配置され、その後硬化させる。従って、硬化は適切なタイミングで開始されるべきであり、意図しないタイミングで硬化を開始してしまうことについて改善が必要であった。 【0006】 そこで、本発明はかかる問題点に鑑み、歯科用照明装置として適切に口腔内を照明することができるとともに、必要に応じて光硬化性樹脂材料の意図しない硬化を抑制することが可能な歯科用照明装置を提供することを課題とする。」 ウ 「【課題を解決するための手段】 【0007】 以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。 【0008】 請求項1に記載の発明は、口腔内を照明可能な歯科用照明装置(1)であって、光源である白色LED(32、32、82、82)と、白色LEDからの出射光を反射して外部に出光可能に設けられた反射板(35、35、76、76、85、85)と、白色LEDからの出射光のうち所定の波長の光を減じて外部に出光可能とする切替手段(21、71)と、を備える歯科用照明装置を提供することにより前記課題を解決する。 【0009】 請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の歯科用照明装置(1)の切替手段(21、71)は、所定の波長の光を吸収し、他の波長の光を透過するフィルタ(26、26)と、フィルタを白色LED(32、32)と反射板(35、35)との間に挿入、及び脱出させる切替機構(21)と、を備え、フィルタの挿入時には、白色LEDからの出射光はフィルタを透過して反射板に達し、フィルタの脱出時には、白色LEDからの出射光は直接反射板に達することを特徴とする。 【0010】 請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の歯科用照明装置の反射板(76、76、85、85)は、その板厚方向に密着及び離脱可能な少なくとも2枚の反射板(76、76、85、85)を有し、少なくとも2枚の反射板のうちの一方の反射板(85、85)は、所定の波長の光を透過し、他の波長の光を反射する第一反射板であり、少なくとも2枚の反射板のうちの他方の反射板(76、76)は、少なくとも所定の波長の光を反射可能な第二反射板とされ、切替手段は、第二反射板を第一反射板に密着及び離脱させるように移動させる切替機構(71)を具備することを特徴とする。 【0011】 請求項4に記載の発明は、請求項1?3のいずれか一項に記載の歯科用照明装置(1)における所定の波長は、口腔内に用いられる歯科充填剤が硬化を開始する波長であること を特徴とする。 【0012】 請求項5に記載の発明は、請求項1?4のいずれか一項に記載の歯科用照明装置(1)における所定の波長は、500nm以下であることを特徴とする。 【0013】 請求項6に記載の発明は、請求項1?4のいずれか一項に記載の歯科用照明装置(1)における所定の波長は、430nm?500nmであることを特徴とする。 【発明の効果】 【0014】 本発明の歯科用照明装置によれば、施術者は、通常には白色による口腔内の照明を得ることができる。一方、光硬化性樹脂を含有する歯科充填剤等を使用するときで、該歯科充填剤等を硬化させたくない場合には、スイッチ操作等により手軽にその硬化を防止しつつ口腔内で施術することが可能となる。」 エ 「【0029】 フィルタ26、26は、所定の光学的特性を有する光学フィルタであり、第二保持部材25、25のうち第一保持部材24と連結された端部とは反対側の端部に取り付けられている。当該フィルタ26、26は、歯科で使用される光硬化性樹脂材料を含有する歯科充填剤等が反応する(硬化を開始する)波長の光を吸収し、それ以外の波長の光を透過可能に形成された光学フィルタである。具体的には歯科に用いられる当該光硬化性樹脂材料は波長が500nm以下の光に反応するものが多いので、フィルタ26、26も波長が500nm以下の光を吸収し、他の波長の光を透過できるものが好ましい。さらに好ましくは400nm?500nmの波長の光を吸収するものである。ただし、これは使用される歯科充填剤等により適宜適用されることを妨げるものではなく、その範囲で変更することができる。」 オ 「【0036】 通常の口腔内観察では図5(a)に示すように、フィルタ26、26は、LED32、32と反射板35、35との間からは抜け出した姿勢(脱出姿勢)にある。これによればLED32、32から出射した光は図6にIで示した光が反射板35、35で反射し、その形状及び単位反射板35a、35a、…の効果により無影灯として口腔内を照明する。従って、口腔内が白色に照らし出され、その色彩(例えば歯茎の赤み等)を適切に判断することが可能となる。 【0037】 一方、例えば口腔内の治療の1つとして光硬化性樹脂を含有する歯科充填剤等を用いるときには、施術者は手元のスイッチ等を利用して、切替装置を動作させ、フィルタ26、26を図5(b)に示した位置に移動させる。これによりLED26、26と反射板35、35との間にフィルタ26、26が入り込んだ姿勢(挿入姿勢)となる。これによれば、LED32、32から出射した光は図6にIIで示した特性を有するフィルタ26、26を透過した後、反射板35、35で反射し、その形状及び単位反射板35a、35a、…の効果により無影灯として口腔内を照明する。従ってこの時には、光硬化性樹脂材料を含有する歯科充填剤が硬化する波長の光が除外されており、その硬化を抑制することができる。そして、施術者は所定の施術をし、最終的には専用の照明を用いて歯科充填剤を硬化させる。 【0038】 このように、本実施形態にかかる本発明の歯科用照明装置1によれば、施術者は、通常には白色による口腔内の照明を得ることができる。一方、光硬化性樹脂を含有する歯科充填剤を使用するときで、歯科充填剤を硬化させたくない場合には、スイッチ操作等により手軽にその硬化を防止しつつ口腔内で施術することが可能となる。」 (3)原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第97/12841号(以下「引用例4」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「さらに、紫外線硬化型樹脂を被覆樹脂として採用した場合、光源から樹脂溜め内に入射する照明光は、その硬化波長帯の成分を持っていないので、樹脂溜め内で被覆樹脂が硬化してしまうような不具合を未然に防止することができる。」(8頁12行ないし15行) イ 「発明を実施するための最良の形態 本発明による光ファイバ被覆方法を実現し得る本発明の光フアイバ被覆装置の実施例について、図1?図7を参照しながら詳細に説明する。 ・・・略・・・ 前記ダイホルダ17の側壁部には、樹脂溜め27に臨む透明な耐圧ガラス製の照明光導入窓39と光フアイバ観察窓40とがX方向およびY方向にそれぞれ対向するように二組配置されている。照明光導入窓39の近傍には、樹脂溜め27の中央部に向けて照明光を照射するための光源41がそれぞれ配置されている。 被覆樹脂14として紫外線硬化型樹脂を用いた場合、この紫外線硬化型樹脂の硬化波長を持たない光源41を採用するか、あるいは光源41と照明光導入窓39との間にこの硬化波長帯域を遮断する紫外線カットフィルタを介装する必要がある。また、光ファイバ観察窓40の近傍には、樹脂溜め27の中央部を観察するためのテレビジョンカメラなどの撮像装置42が配置されている。」(9頁8行ないし12頁6行) ウ 「 」 (4)原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-225803号公報(以下「引用例5」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。 ア 「【背景技術】 【0002】 青色発光ダイオード(LED)や青色レーザー(LD)等を励起源とし、これを受けて蛍光を発光させ、白色光を発光させる発光装置が、従来の蛍光灯等と比較して消費電力が低く長寿命であることから、種々利用されている。また、これらのLEDを用いた発光装置は、不要な紫外線や赤外線を含まない光が簡単に得られるため、紫外線に敏感な文化財や芸術作品、熱照射を嫌う物等の各種照明等にも好適である。かかる発光装置の蛍光体として、LEDによる発光効率がよく、LEDによる劣化が少ない(Y,Gd)_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce^(3+)等のいわゆるYAG:Ce系蛍光体が使用されている。この種の発光装置として、具体的には、例えば、(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)O_(12):Ceで表され、式中、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種で青色LEDにより励起され黄緑色を発光する蛍光体をモールドした発光ダイオード等が報告されている。しかしながら、これらの発光ダイオードにおいては、青色と黄色の補色による白色であることから、充分な演色性が得られないという問題がある。」 イ 「【0031】 本発明の発光装置の一例として、図2の概略構成図に示すLED素子を挙げることができる。図2に示すLED素子には、主として、リフレクタの機能を有する筐体12と、該筐体に固定されたサブマウント(図示せず)上に固定されたLEDチップ13と、該LEDチップ13を包囲する透明樹脂14と、透明樹脂を覆うように、例えば、ガラス製等の蛍光体含有シート11とが設けられる。LEDチップ13は、Al_(2)O_(3)またはSIOの基板上にGaN等の半導体等が積層されて形成される発光層を有し、該発光層が300?500nmの紫外光から青色光を発光するものが好ましい。LEDチップのLEDは配線15によりその電極がワイヤボンドされて図示しない電源に電気的に接続される。上記透明樹脂はLEDチップの保護のため設けられ、LEDからの発光の透過性に優れ、そのエネルギーに対して耐性を有する、例えば、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂等が好適に用いられる。透明樹脂の上面に設けられる蛍光体含有シート11には式(1)で表される蛍光体が含有される。シート11には、LED素子から発光させる光を所望の波長にする場合、また、更なる演色性を得る場合には、必要に応じて、緑色、黄色、赤色などの蛍光を発光する蛍光体を含有させることができる。」 ウ 「【実施例】 【0039】 以下、本発明の蛍光体を実施例を挙げて更に詳細に説明する。 [実施例1] 粉末原料として、CaCO_(3)を3.08g、Si_(3)N_(4)を1.92g、Eu_(2)O_(3)を0.01g秤量し、原料を混合した。混合物を窒化ホウ素ルツボに充填し、電気炉にセットし、0.9気圧の窒素還元雰囲気中において1500℃で3時間焼成した。焼成後は徐冷して、得られた焼成物を粉砕混合、洗浄して、目的のCa_(7-y)Eu_(y)Si_(10)O_(6)N_(14)(y=0.015)の蛍光体を得た。 【0040】 得られた蛍光体について、以下のように励起光(Photoluminescence Excitation:PLE)測定、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)測定を行った。 【0041】 [PLE測定] 得られた蛍光体について、蛍光分光光度計(RF-5300PC:島津製作所製)により、大気中室温雰囲気下で、励起波長を変化させ、蛍光体の発光ピーク波長をモニターして測定を行った。蛍光体を励起可能な波長範囲は330nm近傍にピークを有し、300?500nmに及んだ。励起光波長に対するPLE強度(励起スペクトル)を図5中の点線で示す。 【0042】 [PL測定] 得られた蛍光体について、励起光として365nmを用いて、蛍光分光光度計(RF-5300PC:島津製作所製)により、大気中室温雰囲気下で行った。発光は490nm近傍にピークを有し、450?600nmに及んだ。得られた蛍光体のPL強度(発光スペクトル)を図5中の実線で示す。 【0043】 [実施例2] 粉末原料として、CaCO_(3)を3.16g、Si_(3)N_(4)を1.73g、Eu_(2)O_(3)を0.01g、SiO_(2)を0.11g秤量して用いた他は、実施例1と同様にして蛍光体を作製し、目的のCa_(7-y)Eu_(y)Si_(10)O_(6)N_(14)(y=0.013)の蛍光体を得た。得られた蛍光体について、PLE測定、PL測定を行った。PLE強度を点線で、PL強度を実線で、図6に示す。」 エ 「【図5】 【図6】 」 (4)原査定の拒絶の理由に引用文献6として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2011-222381号公報(以下「引用例6」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。 「【背景技術】 ・・・略・・・ 【0004】 前述の通り、時代の経過につれて、照明に関する科学技術も飛躍的に進歩している。前述の白熱電球と電球型蛍光ランプのほか、近年は多くの灯具業者から「環境保護とエネルギー対策」をうたい文句としたLEDライトが生産されている。LEDライトの使用寿命は、白熱電球の約40倍で40,000時間に及ぶ。LEDライトの消費電力は、白熱電球と蛍光灯に比べてはるかに低い。つまり、LEDライトの消費電力は白熱電球の約十分の一で、蛍光灯の約半分しかない。また、LEDライトは、水銀などの有毒物質を含まず、また、LEDから発生する光スペクトルに紫外線または赤外線を含まないため、投射光線も熱や輻射を発生しない。その上、LEDの製造技術も熟成しつつあり、原価を継続的にコストダウンした結果、電球型蛍光ランプと白熱電球に取り代わって、LEDライトが今日の照明器具の主流となっている。」 4 対比・判断 (1)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルム」は、技術常識からみて、偏光板の偏光フィルムといえるから、本願補正発明の「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム」に相当する。 イ 引用発明は、「前記積層体を紫外線照射装置(GS-YUASA社製)に備えられた紫外線ランプであるEHAN1700NAL高圧水銀ランプ2灯から照射される紫外線中を長手方向に600Nの張力下で、前記積層体のトリアセチルセルロースフィルムが積層された面を、23℃の冷却ロールの外周面に密着させながらライン速度11m/分で通過させ、その際の紫外線の積算光量は、110(mJ/cm^(2))である」という構成を具備する。この構成からみて、引用発明の「『接着剤』としての『エポキシ樹脂組成物』」は、紫外線照射されて硬化される接着剤であることは明らかであるから、本願補正発明の「紫外線硬化型接着剤」に相当する(引用例1の【0021】(上記3(1)エ)の記載からも確認できる事項である。)。 ウ 引用発明の「『非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム』又は『トリアセチルセルロースフィルム』」は、その材質からみて、熱可塑性であることは明らかであるから、本願補正発明の「熱可塑性樹脂からなる光学フィルム」に相当する(なお、本願の明細書の【0022】ないし【0023】の記載からも確認できる事項である。)。 エ 引用発明は、「非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム「ZEONOR」(日本ゼオン社製)」および「トリアセチルセルロースフィルム「KC8UX2MW」(コニカミノルタ社製)」(本願補正発明の「熱可塑性樹脂からなる光学フィルム」に相当。以下「」に続く()内の用語は対応する本願補正発明の用語を表す。)のそれぞれの片面に「接着剤としてエポキシ樹脂組成物「KRX492-30」(ADEKA社製)」(紫外線硬化型接着剤)を接着剤塗工装置であるマイクロチャンバードクター(富士機械社製)を用いて塗工している。したがって、引用発明は、本願補正発明の「(A)前記偏光フィルムおよび前記光学フィルムの少なくとも一方の貼合面に前記紫外線硬化型接着剤を塗工する塗工工程」を含む。 オ 引用発明は、「ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルム」(ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム)の両面に「エポキシ樹脂組成物」(紫外線硬化型接着剤)を介して「非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム」(熱可塑性樹脂からなる光学フィルム)と「トリアセチルセルロースフィルム」(熱可塑性樹脂からなる光学フィルム)とをニップロールによって重ね合わせて積層体を形成しているとの構成を具備する。また、この構成は、「ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルム」(ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム)の一方の面に「エポキシ樹脂組成物」(紫外線硬化型接着剤)を介して「非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム」(熱可塑性樹脂からなる光学フィルム)を、「ヨウ素が吸着配向されたポリビニルアルコール系フィルム」(ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム)の他方の面に「エポキシ樹脂組成物」(紫外線硬化型接着剤)を介して「トリアセチルセルロースフィルム」(熱可塑性樹脂からなる光学フィルム)を、ニップロールによって重ね合わせて積層体を形成する構成を意味する(引用例1の図1からも看取される事項である。)。したがって、引用発明は、本願補正発明の「(B)塗工された前記紫外線硬化型接着剤を介して前記偏光フィルムと前記光学フィルムとを重ね合わせて積層体を得る貼合工程」を含む。 カ 引用発明は、前記積層体を紫外線照射装置(GS-YUASA社製)に備えられた紫外線ランプであるEHAN1700NAL高圧水銀ランプ2灯から照射される紫外線中を長手方向に600Nの張力下で、前記積層体の「トリアセチルセルロースフィルム」(熱可塑性樹脂からなる光学フィルム)が積層された面を、23℃の冷却ロールの外周面に密着させながらライン速度11m/分で通過させ、その際の紫外線の積算光量は、110(mJ/cm^(2))であるという構成を具備する。また、この構成により、積層体の「エポキシ樹脂組成物」(紫外線硬化型接着剤)が硬化していることは明らかである(引用例1の【0021】(上記3(1)エ)の記載からも確認できる事項である。)。そうしてみると、引用発明は、本願補正発明の「(C)前記積層体に紫外線を照射して前記紫外線硬化型接着剤を硬化させる紫外線照射工程」を含む。 キ 上記エないしカからみて、引用発明は、本願補正発明の「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに、紫外線硬化型接着剤を介して熱可塑性樹脂からなる光学フィルムを貼合して、偏光板を製造する方法」に相当する構成を具備する。 ク 上記アないしキからみて、本願補正発明と引用発明とは、 「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに、紫外線硬化型接着剤を介して熱可塑性樹脂からなる光学フィルムを貼合して、偏光板を製造する方法であって、 (A)前記偏光フィルムおよび前記光学フィルムの少なくとも一方の貼合面に前記紫外線硬化型接着剤を塗工する塗工工程、 (B)塗工された前記紫外線硬化型接着剤を介して前記偏光フィルムと前記光学フィルムとを重ね合わせて積層体を得る貼合工程、および (C)前記積層体に紫外線を照射して前記紫外線硬化型接着剤を硬化させる紫外線照射工程 を含む、 偏光板の製造方法。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。 ・相違点 本願補正発明では、「前記塗工工程(A)、前記貼合工程(B)および前記紫外線照射工程(C)が、400nmを超える波長域に発光波長を有し、250?400nmの波長域に発光波長を有しない白色発光のLED照明のもとで実施される」のに対し、 引用発明では、塗工工程、貼合工程および紫外線照射工程が、400nmを超える波長域に発光波長を有し、250?400nmの波長域に発光波長を有しない白色発光のLED照明のもとで実施されるのかどうかが明らかでない点。 (2)判断 上記相違点について検討する。 ア 光硬化性樹脂に意図しない硬化が生じないように、当該光硬化性樹脂を照明する光として、当該光硬化性樹脂を硬化させる波長を除外することは周知の課題(例.引用例3(【0005】、【0029】;上記3(2)イ及びエ参照。)、引用例4(8頁12行ないし15行、9頁8行ないし12頁6行;上記3(3)ア及びイ参照。))である。 イ そして、引用発明において、塗工工程、貼合工程および紫外線照射工程が、無照明の中で実施されることは考えにくく、照明下で実施されることは当業者に自明な事項である。そうしてみると、引用発明において、「接着剤」(紫外線硬化型接着剤)が意図せず硬化することを防ぐことを目的として、塗工工程、貼合工程および紫外線照射工程が、400nmを超える波長域に発光波長を有し、250?400nmの波長域に発光波長を有しない照明のもとで実施されるようにすることは当業者が適宜なし得たことにすぎない。 ウ 白色LED自体は照明手段として例を挙げるまでもなく慣用されているものであるところ、白色LEDは、演色性を求める一部のものを除き、紫外線を含まないものである(青色発光LEDと黄色蛍光体を組み合わせるものである。)。そして、引用発明の各工程における照明として白色LEDを採用した際に、白色LEDから発光される光に紫外線を含まないことを踏まえれば、引用発明に採用した白色LEDから発光される光が400nmを超える波長域に発光波長を有し、250?400nmの波長域に発光波長を有しないものとなすことは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。 エ 以上とおりであるから、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。 オ 本願の明細書には「【0016】本発明によれば、偏光フィルムと光学フィルムとを貼合する際に使用される紫外線硬化型接着剤の硬化反応を、紫外線照射手段を用いた紫外線照射工程のみで行なわせることができるため、使用前の紫外線硬化型接着剤の意図しない硬化反応や、ガイドロール等に付着した未硬化の紫外線硬化型接着剤の意図しない硬化反応を効果的に抑制することできる。したがって、偏光フィルムと光学フィルムとの間の接着性が良好である偏光板を、製造工程の稼働率を著しく低下させることなく効率良く製造することができる。【0017】またLED照明を使用するので、偏光板製造工程中におけるフィルム上の接着剤の塗工状態を目視で明瞭に確認することができ、接着剤の塗工状態の不具合を目視検知するうえでも有利である。」と記載されている。当該記載からみて、本願補正発明は、使用前の紫外線硬化型接着剤の意図しない硬化反応や、ガイドロール等に付着した未硬化の紫外線硬化型接着剤の意図しない硬化反応を効果的に抑制することができ、偏光板製造工程中におけるフィルム上の接着剤の塗工状態を目視で明瞭に確認することができるという効果を奏するものと認められる。しかしながら、本願補正発明の奏する効果は、上記アないしエからみて、顕著な効果ではなく、引用発明の奏する効果から予測することができた程度のものである。 カ 請求人は、審判請求書及び上申書において、概略、本願補正発明は、塗工工程(A)及び貼合工程(B)だけでなく、あえて紫外線照射工程(C)をも、紫外線硬化樹脂を硬化させない照明光のもとで実施することを特徴としていると主張している。 しかしながら、紫外線照射工程において照明が求められることは、塗工工程及び貼合工程と同様であり、また、引用発明において照明を採用するに際し、紫外線照射工程だけ、他の工程とは異なる照明を採用する必要もない。また、紫外線照射工程においても、意図しない硬化反応、すなわち、紫外線照射手段から発せられる紫外線以外の紫外線により、想定とは異なる硬化反応を防ごうとすることは当業者が当然考慮する事項である。したがって、紫外線照射工程における照明として、相違点に係る本願補正発明の構成を採用することは、照明を具体化するに際しての設計的事項にすぎない。 (3)独立特許要件のむすび 以上のとおりであるから、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5 小括 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定の理由の概略 この出願の当初特許請求の範囲における請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特開2009-134190号公報 引用文献2.特開2004-245925号公報 引用文献3.特開2010-33743号公報 引用文献4.国際公開第97/12841号 引用文献5.特開2011-225803号公報 引用文献6.特開2011-222381号公報 引用文献1又は2に記載のものにおいても、紫外線硬化樹脂である接着剤が紫外線照射工程以前に硬化してしまわないようにすることは、当然内包された課題であると認められるから、塗布工程、貼り合わせ工程、紫外線照射工程を、紫外線(250?400nm)の波長域に発光波長を有しない照明光により行うことは、当業者であれば容易に想到できたものである。なお、紫外線の波長域に発光波長を有しない光源としてLEDは周知である(例えば、文献5【0002】、文献6【0004】等参照)。 3 引用例 引用例1の記載事項は、上記第2〔理由〕3(1)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-07 |
結審通知日 | 2017-06-13 |
審決日 | 2017-06-27 |
出願番号 | 特願2012-76721(P2012-76721) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉川 陽吾 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
佐藤 秀樹 鉄 豊郎 |
発明の名称 | 偏光板の製造方法および製造装置 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |