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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60J |
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管理番号 | 1331153 |
審判番号 | 不服2016-4250 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-21 |
確定日 | 2017-08-29 |
事件の表示 | 特願2011-154255号「ドアサッシュ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年1月31日出願公開、特開2013-18409号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年7月12日の出願であって、平成27年5月18日付けで拒絶理由通知がされたところ、平成27年7月21日に意見書が提出されると同時に手続補正がされたが、平成27年12月18日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。これに対し、平成28年3月21日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年2月10日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由」という。)がされ、平成29年4月14日に意見書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1および2に係る発明は、以下の引用文献A-Dに記載の事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献 A.特開平8-104139号公報 B.特開2003-200852号公報 C.特開平11-347669号公報 D.特開昭61-34958号公報 第3 当審拒絶理理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1および2に係る発明は、以下の引用文献1-2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献 1.特開平8-104139号公報(原査定の引用文献A) 2.特開2000-288745号公報(当審において新たに引用した文献) 第4 本願発明 本願の請求項1および2に係る発明(以下、「本願発明1」および「本願発明2」という。)は、平成28年3月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1および2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1および2は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 長尺状の金属板で構成され、幅方向にて連続する露出表面を表裏に備え且つ長手方向に沿って延びる接合部と、該接合部の幅方向一端側に連なり車内側となる袋状部と、他端側に連なり車外側となる意匠部と、を有するドアサッシュであって、 前記接合部は、前記金属板を重ね合わせた重ね合わせ部を有し、該重ね合わせ部は、長手方向に延びる二筋の溶接痕を前記露出表面の表裏の同等位置に有し、該同等位置の溶接痕の間のそれぞれに溶け込み部を有するとともに、さらに、両溶け込み部の間に前記幅方向にて連続する溶け込み部を有する、 ことを特徴とするドアサッシュ。 【請求項2】 長尺状の金属板を成形して、幅方向にて連続する露出表面を表裏に備え且つ長手方向に沿って延びる重ね合わせ部と、該重ね合わせ部の幅方向一端側に連なり車内側となる袋状部と、他端側に連なり車外側となる意匠部とを有する形状と成した後、 円筒周面の両縁にそれぞれ電極周縁凸部を設けて成るシーム回転電極間に、前記重ね合わせ部を前記露出表面の表裏から挟み、加圧しつつシーム溶接することにより、長手方向に延びる二筋の溶接痕を前記露出表面の表裏の同等位置に有し、該同等位置の溶接痕の間のそれぞれに溶け込み部を有するとともに、両溶け込み部の間に前記幅方向で連続する溶け込み部を有する接合部と成したドアサッシュを得る、 ことを特徴とするドアサッシュの製造方法。」 第5 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について (1)引用文献1に記載の事項 当審拒絶理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 「【0009】図1は、本発明が適用されたロール成形品である。このロール成形品1は、図2に示されるように、自動車のドアサッシュ2に用いられるものである。 【0010】このロール成形品1は、1枚の金属帯板から連続的にロール成形されたもので、ねじり剛性を確保するべく内部に空洞が形成されたD字状の筒状部3と、板材が3重に重なり合って、長手方向に連続的に溶接接合された重合接触部4と、この重合接触部4の一端から上下方向に延出した上下のフランジ部5・6と、半円形状のリップ7とからなっている。この筒状部3と下側フランジ6との間にはガラスランチャンネル(図示しない)が、リップ7と上側フランジ5との間にはウェザストリップ(図示しない)がそれぞれ嵌装される。 【0011】このようなロール成形品を製作するには、図3(a)に示されるように、まず、1枚の金属帯板からなるフープ材10が、数組のロール成形コマ11を通って所定の断面形状に成形される。次いで、同ライン上に設置された上下1対の回転電極12間を通って、重合接触部4が、いわゆるシーム溶接により接合される。重合接触部4は、図3(b)に示されるように、回転電極12よって上下方向から圧接されつつ、両回転電極12間に流れる高電圧の電流により発する抵抗熱で溶着される。このとき、トランス13を介して制御装置14から両回転電極12に連続的に通電されることで重合接触部4が連続的に接合される他、断続的な通電であっても、通電点のピッチを小さく採れば溶融部が重なって形成され、重合接触部4が連続的に接合される。」 (2)引用文献1に記載の発明 上記引用文献1の記載事項から引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「1枚の金属帯板から連続的にロール成形された自動車のドアサッシュ2であって、 内部に空洞が形成されたD字状の筒状部3と、板材が3重に重なり合って、長手方向に連続的に溶接接合された重合接触部4と、この重合接触部4の一端から上下方向に延出した上下のフランジ部5・6と、半円形状のリップ7とからなっている自動車のドアサッシュ2。」 2.引用文献2について 当審拒絶理由で引用された引用文献2の図1-3および段落【0007】-【0008】、段落【0013】、段落【0018】の記載内容から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されている。 「シーム溶接における電極輪の外周を凹部によって2つの接触部に分割し、溶接ナゲットを2条形成することによって溶接不良を補う技術」 なお、「溶接ナゲット」とは、シーム溶接などの重ね抵抗溶接において、溶接部に生じる溶融凝固した部分のことをいうから、本願発明1および2の「溶け込み部」に相当する。 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「1枚の金属帯板から連続的にロール成形された自動車のドアサッシュ2」は、本願発明1の「長尺状の金属板で構成され」た「ドアサッシュ」に相当する。 また、引用発明の「重合接触部4」は「板材が3重に重なり合って、長手方向に連続的に溶接接合された」ものであり、本願発明1の「長手方向に延びる接合部」に相当する。また、引用発明においてその3重に重なり合った板材の(表裏)露出面は幅方向で途切れることなく連続する露出表面となっている(引用文献1の図1)。したがって、引用発明の「重合接触部4」は、本願発明1の「幅方向にて連続する露出表面を表裏に備え且つ長手方向に沿って延びる接合部」に相当する。 さらに、引用発明の「内部に空洞が形成されたD字状の筒状部3」は袋状となっているとともに、「重合接触部4」の幅方向一端側に連なっており(引用文献1の図1)、しかも、筒状部3と、重合接触部4の一端から上下方向に延出した上下のフランジ部5・6との間には、ウェザストリップ、ガラスランチャンネルがそれぞれ嵌装されることから(引用文献1の段落【0010】)、引用発明の筒状部3は、技術的にみて車両の車内側となるといえる。 したがって、引用発明の「内部に空洞が形成されたD字状の筒状部3」は本願発明1の「該接合部の幅方向一端側に連なり車内側となる袋状部」に相当する。 また、上記した筒状部3と同様の理由により、引用発明の「重合接触部4の一端から上下方向に延出した上下のフランジ部5・6」は、技術的にみて車両の車外側となる。したがって、引用発明の「重合接触部4の一端から上下方向に延出した上下のフランジ部5・6」は本願発明1の「該接合部の幅方向」「他端側に連なり車外側となる意匠部」に相当する。 引用発明の「重合接触部4」は「板材が3重に重なり合って、長手方向に連続的に溶接接合された」ものであり、金属板を重ね合わせた重ね合わせ部を有することは明らかであるし、シーム溶接により連続的に接合されるものであるから(引用文献1の段落【0011】)、引用発明の「重合接触部4」の表裏面の同等位置に長手方向に沿う溶接痕を有しているといえる(引用文献1の図1)。 そして、シーム溶接では、「重合接触部4」の表裏面長手方向に延びる溶接痕の間に材料が溶け溶接される溶け込み部が形成されることは技術的に明らかである。 したがって、引用発明の「板材が3重に重なり合って、長手方向に連続的に溶接接合された重合接触部4」は、本願発明1の「前記接合部は、前記金属板を重ね合わせた重ね合わせ部を有し、該重ね合わせ部は、長手方向に延びる二筋の溶接痕を前記露出表面の表裏の同等位置に有し、該同等位置の溶接痕の間のそれぞれに溶け込み部を有するとともに、さらに、両溶け込み部の間に前記幅方向にて連続する溶け込み部を有する」との対比において、「前記接合部は、前記金属板を重ね合わせた重ね合わせ部を有し、該重ね合わせ部は、長手方向に延びる溶接痕を前記露出表面の表裏の同等位置に有し、該同等位置の溶接痕の間に溶け込み部を有する」限度で一致する。 以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「長尺状の金属板で構成され、幅方向にて連続する露出表面を表裏に備え且つ長手方向に沿って延びる接合部と、該接合部の幅方向一端側に連なり車内側となる袋状部と、他端側に連なり車外側となる意匠部と、を有するドアサッシュであって、 前記接合部は、前記金属板を重ね合わせた重ね合わせ部を有し、該重ね合わせ部は、長手方向に延びる溶接痕を前記露出表面の表裏の同等位置に有し、該同等位置の溶接痕の間に溶け込み部を有する、ドアサッシュ。」 <相違点> 溶接痕および溶け込み部に関し、本願発明1では、二筋の溶接痕であり、二筋の溶接痕の間のそれぞれに溶け込み部を有するとともに、さらに、両溶け込み部の間に幅方向にて連続する溶け込み部を有するのに対して、引用発明ではそのような構成ではない点。 (2)判断 引用文献2には、上記「第5 2.」で摘示したように、シーム溶接における電極輪の外周を凹部によって2つの接触部に分割し、溶接ナゲットを2条形成することによって溶接不良を補う技術的事項が記載されている。 引用発明の(シーム溶接による)溶接接合は溶接部を連続的に形成するために採用されているものであり、引用文献2に記載された上記技術的事項と溶接部の連続性を保ち溶接不良を防ぐという点で共通する。よって、引用文献2に記載された上記技術的事項(シーム溶接における電極輪の外周を凹部によって2つの接触部に分割し、溶接ナゲットを2条形成することによって溶接不良を補うこと)を、引用発明の溶接接合に適用する動機付けはあるといえる。 そして、引用文献2に記載された、シーム溶接における電極輪の外周を凹部によって2つの接触部に分割し、溶接ナゲットを2条形成することによって溶接不良を補う技術的事項を引用発明に適用することにより、溶接痕が二筋となり、その二筋の溶接痕の間のそれぞれに溶け込み部(溶接ナゲット)を有することとなる。 しかしながら、引用文献2に記載の技術的事項は、溶接ナゲットを2条形成することにより、一方の溶接ナゲットにスパッタ等によって溶接不良個所が生じたとしても、他方の溶接ナゲットにより溶接対象である車両用燃料タンクの密閉性を確保するという目的を有するのであるから(引用文献2の段落【0008】、【0018】)、溶接ナゲットを2条形成すれば足り、それに加えて2条の溶接ナゲットの間に幅方向にて連続する溶接ナゲットを有するものとする必要はなく、そのことを示唆する記載もない。 したがって、引用文献2に記載された溶接ナゲットを2条形成する溶接接合を引用発明に適用しても、上記相違点にかかる本願発明1の構成には至らないし、かかる構成は、引用文献2に記載の技術的事項から当業者であれば容易に想到し得たものともいえない。 そして、本願発明1は、上記相違点の構成を有することにより、ドアサッシュの曲げ加工において、ドアサッシュの長手方向の位置に応じてそれぞれ異なる部位に集中する応力が、溶け込み部が二筋のものよりさらに緩和され、歪みや変形が十分低減されたドアサッシュを得ることができるという作用効果を奏するものといえる(本願明細書段落【0009】)。 よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明および引用文献2に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2について 本願発明2は、本願発明1に対応する方法の発明であり、シーム溶接のためのシーム回転電極に関する手段が付加されている以外は、実質的に本願発明1と同様の構成を有する発明であるといえる。 そして、本願発明2は本願発明1の「両溶け込み部の間に前記幅方向で連続する溶け込み部を有する」に対応する構成(上記相違点にかかる構成)を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明および引用文献2に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第7 原査定についての判断 本願発明1は、「両溶け込み部の間に前記幅方向で連続する溶け込み部を有する」構成を有し、また、本願発明2は、上記本願発明1の「両溶け込み部の間に前記幅方向で連続する溶け込み部を有する」に対応する構成を有しているところ、当該構成は、原査定における引用文献A-Dのいずれにも記載も示唆もされておらず、本願の出願日前における周知技術でもない。 したがって、本願発明1および2は、当業者であっても引用文献A-Dに記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、原査定を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由および当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-08-17 |
出願番号 | 特願2011-154255(P2011-154255) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60J)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 智洋、岩▲崎▼ 則昌 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 平田 信勝 |
発明の名称 | ドアサッシュ |
代理人 | 丸山 明夫 |