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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B26B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B26B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B26B
審判 全部申し立て 特39条先願  B26B
管理番号 1331163
異議申立番号 異議2015-700055  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-05 
確定日 2017-06-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5745000号発明「シートカッター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5745000号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第5745000号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 特許第5745000号の請求項1に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5745000号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成22年2月15日に出願した特願2010-47083号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成25年9月17日に新たな特許出願として、出願したものであって、平成27年5月15日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人東義春(以下、「申立人」という。)より本件特許異議の申立てがなされ、平成27年11月16日付けで申立人から本件特許異議申立書のうち「4 申立ての理由」、「5 証拠方法」及び「6 添付書類の目録」を補正するとの手続補正書(方式)が提出された。その後、平成28年3月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月23日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成28年8月16日に申立人から意見書が提出された。そして、平成28年11月11日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、その指定期間内である平成29年1月16日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を、「本件訂正」という。)がされ、平成29年2月27日に申立人から意見書が提出されたものである。
なお、上記平成28年5月23日にされた訂正請求による訂正は、その後上記平成29年1月16日に訂正請求がされたから、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1. 訂正の趣旨及び内容
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求めるものである。その訂正内容は、以下の(1)ないし(4)に示す訂正事項からなるものである(下線は訂正箇所である)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、
「前記ガイド板は、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行である、請求項1に記載のカッター。」とあるのを、
「第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行であり、前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している平板状のガイド板とを有し、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または
前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る
ことを特徴とするカッター。 」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、
「前記ガイド板は、前記本体と略平行に接続されている、請求項1に記載のカッター。」とあるのを、
「第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた平板状のガイド板とを有し、
前記本体は平板状であり、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または
前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る
ことを特徴とするカッター。」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に、
「前記ガイド板は、前記本体と軸によって接続されている、請求項1乃至3に記載のカッター。」とあるのを、
「前記ガイド板は、前記本体と軸によって接続されている、請求項2及び3に記載のカッター。」と訂正する。

2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正事項は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、さらに、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、明らかである。

(2)訂正事項4について
次に訂正事項4について検討する。訂正事項4は、上記請求項1を削除する訂正事項1と整合させるために、請求項1ないし3を引用していた請求項4を、請求項2及び3のみを引用するように訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、さらに、訂正事項4が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、明らかである。

(3)訂正事項2について
まず、訂正事項2は、上記のとおり、上記訂正事項1による請求項1の削除により、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1を引用しないものとする訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするを目的とするものに該当する。

ア. 上記のとおり、訂正事項2は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2を、上記1.(2)のとおり、訂正するものであるから、両者を対比すると、訂正事項2は、以下の訂正事項2-1ないし2-4から構成される。

(ア) 訂正事項2-1
本件訂正前の請求項1を引用する請求項2の「ガイド板」が「前記本体と接続されたガイド板」とあるのを、「前記本体と略平行に接続され、」と、「本体」と「ガイド板」の「接続」の態様について、「略平行に」との態様を追加する。

(イ) 訂正事項2-2
本件訂正前の、請求項1を引用する請求項2の「ガイド板」について、さらに「平板状の」との態様を追加する。

(ウ) 訂正事項2-3
本件訂正前の、請求項1を引用する請求項2の「前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出る」の「出る」態様について、更に、「該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に」との態様を追加する。

(エ) 訂正事項2-4
本件訂正前の、請求項1を引用する請求項2の「ガイド板」について、さらに「前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している」との態様を追加する。

イ. 訂正事項2-1ないし2-4のそれぞれについて検討する。

(ア) 訂正事項2-3について
最初に、訂正事項2-3について検討する。
訂正事項2-3は、訂正前の請求項1の「第1の刃または第2の刃」が「出る」態様について、本件訂正前は、単に「出る」とされていたものを、本件訂正により「該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に」(出る)として追加して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書には、「このシートカッターはノンスリップシートなどの表面の凹凸に、ガイド板(4)を合わせ、シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで、設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる」(段落【0006】)との記載がある。本件特許図面の図2には、本体(1)が部材の配列方向に対して厚みがある旨図示されているのに対し、2枚の「カッターナイフの刃(2)」及び「ガイド板(4)」は、同方向に対して厚みがある旨記載されていないから、両者はそれぞれ平板状であることが図示されている。さらに、図3には「カッターナイフの刃(2)」と「ガイド板(4)」が重なって配置されていることの図示、並びに、図2及び3には「カッターナイフの刃(2)」が薄板の状態で「ガイド板(4)」に対して、図3における紙面の前後方向に隣接して「本体(1)」内部で配置されていることの図示がある。以上を踏まえると、本件特許明細書には、「ガイド板(4)」と「本体(1)」とが「シャフト(3)」を共通軸として可動に枢着されたものが記載されている。そうすると、「本体(1)」の内部に、重なって配置された双方平板状の「カッターナイフの刃(2)」と、「ガイド板(4)」とが共通軸を有して可動に枢着されているから、両者は略平行に動くことは明らかである。そうすると、本件特許明細書及び図面に記載された「カッターナイフの刃(2)」は、「ガイド板(4)」と略平行に出るものであるから、訂正事項2-3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項2-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ) 訂正事項2-2について
次に訂正事項2-2について検討する。訂正事項2-2は、訂正前の請求項1の「ガイド板」について、さらに「平板状の」との特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。上記(ア)で示したように、本件特許図面の図2には、「カッターナイフの刃(2)」及び「ガイド板(4)」がそれぞれ平板状であることの図示がある。そうすると、「平板状の」「ガイド板」は、本件特許明細書等に記載されているから、訂正事項2-2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項2-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(ウ) 訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項1の「本体」と「ガイド板」の「接続」の態様について、「略平行に」との特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記(ア)に示したように、本件訂正特許請求の範囲の請求項1に記載の「第1の刃」または「第2の刃」の「動き」は、「ガイド板と略平行」である。また、上記(イ)に示したように、同「ガイド板」は、「平板状」である。そうすると、当該請求項1の「第1の刃」または「第2の刃」の「動き」は、「平板状のガイド板」と「略平行」である。一方、本件特許の請求項1に記載された「本体」は「前記第1の刃と前記第2の刃を設けた」ものであるから、「第1の刃」または「第2の刃」の「動き」が「平板状のガイド板」と「略平行」であれば、「本体」のガイド板に対して呈する「動き」も「平板状のガイド板」と略平行となることは、幾何学の知見に照らしても明らかである。
そうすると、明細書等の各記載によって、本件訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された「本体」の「動き」は「平板状のガイド板」と略平行であるといえるから、訂正事項2-1は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項2-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ) 訂正事項2-4について
訂正事項2-4は、本件訂正前の請求項2の「カッター」について、さらに「前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している」との特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書に添付した図面の図1には、「ガイド板(4)」の下端の1辺に沿う部分が、「本体(1)」の下端よりも下部に向けて「本体(1)」の外部に対して突出することが図示されている。そうすると、本件特許明細書等には、「本体の下端部から少なくとも一部が露出」している「ガイド板」が記載されているといえるから、訂正事項2-4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項2-4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項3について
訂正事項3は、上記のとおり、上記訂正事項1による請求項1の削除により、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項3の記載を、請求項1を引用しないものとする訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。

ア. 上記のとおり、訂正事項3は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項3を、上記1.(3)のとおり、訂正するものであるから、両者を対比すると、訂正事項3は、上記訂正事項2-2及び2-3に加え、以下の訂正事項3-1から構成される。

訂正事項3-1
本件訂正前の、請求項1を引用する請求項3の「ガイド板」について、さらに「前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた」との態様を追加する。

イ. 訂正事項2-2及び2-3については、上記(3)イ.(イ)及び(ア)にそれぞれ示したとおり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
次に上記訂正事項3-1について検討する。
訂正事項3-1は、訂正前の請求項1の「ガイド板」について、さらに「前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた平板状の」との特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記(3)イ.(ア)で示したとおり、本件特許明細書に添付した図面の図2には、「カッターナイフの刃(2)」及び「ガイド板(4)」がそれぞれ平板状であることの図示がある。また、図3には、「本体(1)」内部で、「カッターナイフの刃(2)」が「ガイド板(4)」に対して、紙面の前後方向に隣接して配置されていることの図示がある。そして、「本体(1)」と「ガイド板(4)」とが「シャフト(3)」を共通軸として傾けたときに、「第1の刃」又は「第2の刃」が、「該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に」出るものであるから、「ガイド板(4)」は、「カッターナイフの刃(2)」と略平行に設けられていることは明らかである。そうすると、「前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた平板状」の「ガイド板」は、本件特許明細書等に記載されているから、訂正事項3-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項3-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)一群の請求項について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1と、請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項2ないし4を訂正するものであるから、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3. 訂正についてのむすび
上記2.に示したとおり、本件訂正請求による訂正事項は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号、第3号あるいは第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するから、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正を認める。

第3 当審の判断

1. 本件訂正発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項2ないし4に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2ないし4にそれぞれ記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、「本件訂正発明2」等という。)

「【請求項2】
第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行であり、前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している平板状のガイド板とを有し、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または
前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る ことを特徴とするカッター。
【請求項3】
第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた平板状のガイド板とを有し、
前記本体は平板状であり、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または
前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る ことを特徴とするカッター。
【請求項4】
前記ガイド板は、前記本体と軸によって接続されている、請求項2及び3に記載のカッター。」

2. 取消理由通知に記載した理由について
当審が平成28年3月16日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

(1) 本件特許の請求項1に係る発明と原出願に係る特許第5374419号の請求項1に係る発明とは、同一出願人により同日になされた同一の発明であり、両発明とも既に特許されているために協議をすることができないから、本件特許の請求項1に係る発明とは、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(米国特許出願公開第2006/0201000号明細書)に記載された発明であるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、同法113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

3. 特許法第39条第2項の取消理由について
本件申立後に、当該理由で同一とされる本件特許と、原出願に係る他の特許は、本件特許については、上記第2に示すとおり訂正請求がなされ、他の特許についても以下の(1)ア.に示すとおり訂正審判の審決が確定した。
申立人はこれらを受け、平成29年2月27日付け意見書において、当初の特許法第39条第2項に係る申立理由の対象となる範囲として、本件訂正発明2ないし4と、他の特許の請求項1に係る発明とは同一であり取り消されるべきと主張している。よって、本件訂正発明2ないし4と他の特許発明との同一性について、以下に検討する。

(1)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、上記1.に示したとおりである。

ア. 原出願
原出願に係る特許第5374419号に対しては、「特許第5374419号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり請求項ごとに訂正することを認める、との審決を求める。」との請求の趣旨で訂正審判(訂正2016-390002号)が請求された。当該訂正審判は、審決が平成28年10月18日に請求人に送達され、「特許第5374419号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。」との審決が確定した。
そうすると、原出願に係る特許の請求項1に係る発明(以下、「原出願発明1」という。)は、上記訂正審判の請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、その記載は以下のとおりである。

「【請求項1】
第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と可動的に接続され、該本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し、
前記ガイド板の一辺が切断対象物の表面に接する状態で、前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る
ことを特徴とするカッター。」

イ. 対比
本件訂正発明2と原出願発明1とを対比すると、本件訂正発明2の「第1の刃」、「第2の刃」、「本体」、「ガイド板」、及び「カッター」は、原出願発明1の「第1の刃」、「第2の刃」、「本体」、「ガイド板」、及び「カッター」にそれぞれ相当する。
本件訂正発明2の「前記本体を前記ガイド板に対して傾けること」と、原出願発明1の「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」とは、「前記ガイド板に対して傾ける」ことで、「本体」は、必然的に「ガイド板に対して動く」から、両者は、「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」である点で一致する。
そうすると、本件訂正発明2と原出願発明1とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>
「第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し、
前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る
カッター。」

<相違点1>
「本体」と「ガイド板」との「接続され」について、本件訂正発明2は、「略平行に接続され」たものであるのに対し、原出願発明1は、「略平行」に加え、さらに「可動的に」接続されたものである点。

<相違点2>
「ガイド板」を設ける態様として、本件訂正発明2は、「前記第1の刃または前記第2の刃と略平行であり、前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している」ように設けられたものであるのに対し、原出願発明1は、「第1の刃」または「第2の刃」とどのような位置関係で「ガイド板」が設けられたものであるか、及び、「本体の下端部」との関係が、一応、不明である点。

<相違点3>
「前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出」すために、本件訂正発明2は、「前記本体を前記ガイド板に対して傾ける」ものであるのに対し、原出願発明1は、「前記ガイド板の一辺が切断対象物の表面に接する状態で、前記本体が前記ガイド板に対して動くことに」よるものである点。

ウ. 検討・判断
事案に鑑み、相違点3のうち、本件訂正発明2は、本体がガイド板に対して「傾ける」と特定されているのに対し、原出願発明1は、「動く」と特定されている点を、最初に検討する。

まず、同日出願の二つの発明A及びBに対する特許法第39条第2項の充足の可否については、対象とする二つの発明に時期的な違い(先/後)がない点を考慮すれば、以下の扱いにより決するのが、適当である。
すなわち、発明Aを先願とし、発明Bを後願と仮定したとき、及び、発明Bを先願とし、発明Aを後願と仮定したとき、のいずれのときにも、発明Aと発明Bが同一であるときに、両発明を同一と判断すべきである。
そして、発明Aと発明Bが「同一」とは、両発明の間に相違点がある場合であっても、両者が実質同一である場合には、発明Aと発明Bは「同一」となり、そして、実質同一とは、相違点が次のaないしcのいずれかに該当する場合である。
a 課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合
b 先願発明の発明特定事項を、本願発明において上位概念として表現したことによる差異である場合
c 単なるカテゴリー表現上の差異である場合

そこで、本件訂正発明2の「傾ける」と原出願発明1の「動く」について検討する。

(ア) 本件特許明細書及び原出願に係る特許明細書の記載
本件特許明細書及び原出願に係る特許明細書及び図面の記載は、同じであり、以下のとおりのものである。

「【技術分野】
【0001】
この発明は主に床材のノンスリップシートなどの凹凸を利用して、シートを切断する道具である。
【技術背景】
【0002】
従来、直定規とカッターナイフを使用して、シートを切断していた。
【先行技術文献】
【0003】

【発明概要】

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の欠点は、直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って、真っすぐ切断する際、光の向きや照度により見づらく、きれいに切断しにくかった。
本発明は以上のような欠点をなくすために作られた作品である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本体(1)の中に、カッターナイフの刃(2)を設け、シャフト(3)の通ったガイド板(4)を設ける。
本発明は、以上の構成によりなるシートカッターである。
【発明の効果】
【0006】
このシートカッターはノンスリップシートなどの表面の凹凸に、ガイド板(4)を合わせ、シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで、設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる。後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせ滑らせるだけで、光の向きや照度に左右される事なく、簡単できれい、かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】 本発明の斜視図である。
【図2】 本発明の分解斜視図である。
【図3】 本発明の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け、シャフト(3)を軸にスイングするガイド板(4)を設ける。
本発明は以上のような構造である。
これを使用する時は、ガイド板(4)をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせ、シャフト(3)を軸にして本体(1)を傾けカッターナイフの刃(2)を出す。
後は凹凸に沿わせて滑らせ、ノンスリップシートなどを切断する。
その他の応用例として、壁紙の施工時、入り隅や枠の凹凸に沿わせ、後は同様にシートカッターを滑らせる事により、壁紙の余分な部分を、地ベラや定規を使用せず切り取る。
【符号の説明】
【0009】
1 本体
2 カッターナイフの刃
3 シャフト
4 ガイド板」

【図1】

【図2】

【図3】

(イ) 本件訂正発明2の「傾ける」と、原出願発明1の「動く」についての検討

上記(ア)に摘記した本件特許明細書等の記載によれば、原出願発明1の技術的意義は以下のとおりである。
原出願発明1は、「主に床材のノンスリップシートなど」(【段落0001】)のシートを切断するための道具である。
従来は、ノンスリップシートのようなシートを切断するにあたっては、「直定規とカッターナイフを使用して、シートを切断していた」(段落【0002】)ところ、「直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って、真っすぐ切断する際、光の向きや照度により見づらく、きれいに切断しにく」(段落【0004】)いとの欠点があり、原出願発明1はかかる欠点を解決し「光の向きや照度に左右される事なく、簡単できれい、かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる」(段落【0006】)ことを課題とするものである。

ここで、原出願発明1は、上記ア.に示したとおりのものであるところ、原出願発明1には、切断対象物の表面に、「ガイド板」の一辺が接する状態とし、「ガイド板」と可動的に接続された「本体」が「ガイド板」に対して動くことで、「本体」に設けた「第1の刃」または「第2の刃」が「ガイド板」と略平行に出ることが特定されている。
そして、このとき、「ガイド板」の一辺が切断対象物の表面に接する状態であるから、「本体」と「ガイド板」とが「シャフト3」を軸とするものに限らず、両者が可動的に接続され、「第1の刃」または「第2の刃」が「ガイド板」に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものであれば、切断対象物が刃により切り込まれることは明らかである。したがって、そのままの状態で、「本体」を切断対象物の表面に沿って移動させるならば、「ガイド板」から出る「刃」によって切断対象物が切断されることが理解できる。
すなわち、「第1の刃」、「第2の刃」、「ガイド板」および「本体」は、可動的接続により一体となっているのであるから、当該「本体」を持って、「本体」に可動的に接続された「ガイド板」の一辺を切断対象物の表面に接するようにした上で、「本体」を「ガイド板」に対して動かすように「本体」を操作することは可能であり、このような原出願発明1の操作により、上記欠点は解消できるものといえる。

そうすると、上記相違点3に係る本件訂正発明2の構成の「傾ける」は、原出願発明1の「動く」のうちの具体的な態様の一つであるから、原出願発明1の「動く」は、本件訂正発明2の「傾ける」を包含する上位概念として表現したことによる差異であるといえる。

ここで、原出願発明1を先願とし、本件訂正発明2を後願と仮定すると、相違点3に係る構成のうち、本体とガイド板との間の動きについては、先願発明の「動く」に対して、後願の「傾ける」は、上位概念として表現した事による差異ということはできない。
そして、「動く」と「傾ける」との差異が、本件特許発明の課題を解決するための具体化手段における微差であるということもできない。
さらに、カテゴリー表現上の差異である場合でもないことは明らかである。
そうすると、相違点3のうち、原出願発明1は、本体とガイド板に対して「動く」のに対し、本件訂正発明2、「傾ける」と特定されている点は、上記aないしcに該当するものではないので、原出願発明1を後願とし、本件訂正発明2を先願と仮定するまでもなく、両発明は実質同一ではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明2と原出願発明1とは、同一の発明とすることはできない。

(2)本件訂正発明3及び4について
本件訂正発明3は、本件訂正発明2に対して、「本体」の形状が「平板状」である点が特定され、本体訂正発明4は、さらに「本体」と「ガイド板」との「接続」する手段について、「軸によって接続」するものである点が特定されている。
したがって、本件訂正発明3及び4は、原出願発明1とは、上記相違点3において相違する点では、本件訂正発明2とは変わらない。
よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明3及び4は、原出願発明1とは、同一の発明とすることはできない。

(3) 小括
上記(1)ウ.で検討したように、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明2ないし4のそれぞれと、原出願発明1とは、同一出願人により同日になされた同一の発明であるということはできず、本件訂正発明2ないし4は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであるともいえない。
したがって、本件訂正発明2ないし4のそれぞれに係る特許は特許法第39条第2項の取消理由によって取り消すことはできない。

4. 特許法第29条第1項第3号の取消理由について

(1) 甲号証の記載
上記甲第2号証には、以下の事項が記載されている。(なお、日本語訳は、平成26年(ネ)第10124号判決文中の訳文を参考にして当審で付した仮訳である。)

ア.
「A cutting assembly is slidably mounted on a T-Square. The T-Square may include a scale having multiple indicia for measured cutting based on the size of the wallboard sheet being cut.」(フロントページ、ABSTRACT 1ないし4行)
(切断部は、T定規の上にスライド可能に設置される。T定規は、切断される壁板のサイズに基づいて測定される切断のための多数の索引を有する目盛りを含み得る。)

イ.
「[0002] This invention relates to tools and devices for accurately scoring or cutting wallboard or like material using a knife referenced to an edge surface of the wallboard being cut, and in particular to a combination of T-square and articulating knife. 」
(この発明は、壁板に正確に切込み線を入れる又は壁板を正確に切断する道具及び装置、又は切断される壁板端部の表面に関連するナイフ、特にT定規と連設型ナイフを用いた材料に関する。)

ウ.
「[0006] The present invention serves to improve the function and productivity of a wallboard scoring and cutting tool by way of a dual extending and retracting blade cutting assembly slidably attached to a T-Square wherein the T-Square may include a scale having multiple indicia for quick measured cutting based on the size of the wallboard sheet being cut. ・・・」
(この発明は、2方向への拡張を図り、切断される壁板のサイズに基づいて測定される切断のための多数の索引を有する目盛りを含み得るT定規にスライド可能に接続される、後退する切断刃装置による方法によって、壁板に切込み線を入れたり切断したりする道具の機能性及び製品性の改良を提供する。)

エ.
「[0007] In summary the wallboard cutter according to one aspect of the present invention may be characterized as including a rocker housing having oppositely disposed retractable cutting blade assemblies, the housing pivotally mounted about a pivot mount on a base, the base slidable along the ruler arm of a modified T-Square. In particular, the base is slidably mounted on the T-Square so as to selectively slide along an upper side of a ruler arm of the T-Square.・・・」
(壁板カッターにおける本件発明の一つの側面によれば、対抗して配置され、後退可能な切断刃を有するロッカーハウジング、ベースに回動可能に接続されたハウジング、修正されたT定規のルーラーアームに沿ってスライド可能なベース、として特徴づけられる。特に、ベースは、T定規のルーラーアームの上面に沿って選択的にスライド可能なT定規に配置される。)

オ.
「[0050] ・・・The main body of the cutting head 1 is mounted on cutter head base 10 , which is slidably mounted on T-Square ruler arm 11 , and adjustably located and locked in position along T-Square arm 11 using a quick lock such as a cam lock 20 . The T-Square fence 12 is slid along, in contact with, wallboard edge 33 thereby maintaining constant the distance between the knife blade 17 and wallboard edge 33 as the blade is drawn across the wallboard surface 32 .」
(カッティングヘッド1の主要部は、ベース10の上に取り付けられており、ベース10は、T定規のルーラーアーム11上に摺動可能に取り付けられており、そして、カムロック20のような迅速にロック可能な構成を用いて、ルーラーアーム11に沿って位置を調節しロック可能に構成されている。T定規フェンス12は、壁板の縁33に接触しながら、縁33に沿って摺動可能であり、それによって刃部17と壁板の縁33は、刃部を壁板32の表面上で引いた際にも、一定の間隔を保つことができる。)

カ.
「 1 . A wallboard cutter comprising:
a rocker housing pivotally mounted about a pivot mount on a base;
said base slidably mounted on a T-Square so as to selectively slide along an upper side of a ruler arm of said T-Square, said rocker housing selectively pivotable about an axis of rotation parallel with said ruler arm;
an oppositely disposed pair of cutting blade assemblies slidably mounted in oppositely disposed coplanar array within a corresponding pair of cavities in said rocker housing, said pivot mount between said pair of cavities,
a drive linkage mounted so as to cooperate between said base and said pair of cutting blades alternatingly to drive a cutting edge of a first blade assembly of said pair of cutting blade assemblies from said rocker housing in a first direction upon pivoting of a corresponding first side of said rocker housing downwardly and retain a second blade assembly of said pair of cutting blade assemblies within said rocker housing, or to drive said second blade assembly from said rocker housing in a second direction opposite said first direction upon pivoting of a corresponding second side of said rocker housing, opposite said first side, downwardly and retain said first blade assembly within said rocker housing,
wherein when said first side of said rocker housing is pivoted downwardly about said pivot mount said first blade assembly is rotated downwardly into cutting engagement with a sheet of wallboard when said T-Square is mounted on an edge of said sheet so as to lay said ruler arm flush on the sheet of wallboard, and wherein when said second side of said rocker arm is pivoted downwardly about said pivot mount said second blade assembly is rotated downwardly into cutting engagement with the sheet of wallboard when said T-Square is mounted on the edge of the sheet so as to lay said ruler arm flush on the sheet of wallboard;
and wherein said rocker housing is adapted to provide a handle for gripping by a user so that the user when gripping the handle translates said housing, blade assemblies, base and T-Square over the sheet of wallboard with said first or second blade assemblies in corresponding said cutting engagement when said housing is simultaneously pivoted downwardly on said first or second side respectively.」
(1.ベース上のピボット台に回転可能に備え付けられたロッカーハウジングと、
T定規のルーラーアームの上部に沿って選択的に摺動するためにT定規上に摺動自在に備え付けられた前記ベースと、前記ルーラーアームと平行な回転軸で選択的に回転可能である前記ロッカーハウジングと、
前記ロッカーハウジング内の対応する一対の空洞内部で対置された同一平面上に摺動可能にはめ込まれている互いに逆を向いた一対の切断刃部材と、前記一対の空洞の間のピボット台と、前記ロッカーハウジングの対応する第1の端が下方へ回動した際に、
前記一対の切断刃部材の第1の刃部の刃先を前記ロッカーハウジング内に保つために、あるいは、ロッカーハウジングが前記第1の端と反対側の対応する第2の端が下方に回動した際に、前記第2の刃部を前記ロッカーハウジングから前記第1の方向と反対方向の第2の方向に出し、前記切断刃部材の第1の刃を前記ロッカーハウジング内に保つために、前記ベースと前記一対の切断刃部材との間で協働するために配置された伝動リンク機構とを備え、
前記ロッカーハウジングの第1の端がピボット台を軸として下方に回動した場合には、前記ルーラーアームを壁板シート上に平らに置くために前記T定規が前記シートの縁に取り付けられた時、前記第1の刃部は下方に回動して壁板シートの切断部に入り、前記ロッカーハウジングの第2の端がピボット台を軸として下方に回動した場合には、前記ルーラーアームを壁板シート上に平らに置くために前記T定規がシートの縁に取り付けられた時、前記第2の刃部は下方に回動して壁板シートの切断部に入り、
前記ハウジングがそれぞれ第1又は第2の端において下方へ回動するのと同時に、柄を握った時の使用者が、対応する前記切断部内の前記第1又は第2の刃部材と共に、前記ハウジング、刃部材、ベース及びT定規を壁板シート上で移動させるために、前記ロッカーハウジングが使用者に握られる柄を提供するように適応された、
壁板カッター。)

キ. 図1

ク. 図12

ケ.
上記(キ)の図1には、ロッカーハウジング1を、ルーラーアーム11に対して傾けて、切断をおこなっていることの図示がある。
また、図1及び上記(ク)の図12から、ロッカーハウジング1を支持するブラケット9、ベース10、ルーラーアーム11及びT定規フェンス12とで構成される一体物が、全体として平たい形状であることが、看取できる。そして、ブラケット9、ベース10、ルーラーアーム11を一体物として捉えると、当該一体物の一部が、ロッカーハウジング1の下端部から露出していることの図示がある。
そして、上記(ク)の図12には、ベース10が、ロッカーハウジング1と、ブラケット9によりピボットピン4を軸に回動可能に接続されていることの図示がある。
さらに、図1の切断線34の図示、及び、厚さのある壁板32を切断する時に、壁板32の表面に対して直角をなすように切断することが通常であることを勘案すると、全体として平たい形状をなしている一体物の平たい方向の平面に対して、直交する方向の面に沿ってロッカーハウジング1が傾くように動くことが、理解できる。
図12には、平板状の第1の刃17及び第2の刃17の平板の拡がる方向が、ベース10の上面に対して直交することの図示がある。そして、ベース10の上面は、図1の図示から、上記一体物の平たい方向の平面と一致する方向であるから、甲第2号証記載の上記一体物は、第1の刃部17または第2の刃部17と、当該一体物の平たい方向の平面に対して直交して設けられたものであることが理解できる。
また、図1において、壁板32切断時に、ルーラーアーム11と「T」字状に取り付けられたT定規フェンス12の一辺が、壁板32の縁に接触していることの図示と、上記摘記事項(オ)の、「T定規フェンス12は、壁板の縁33に接触しながら、縁33に沿って摺動可能であり、それによって刃部17と壁板の縁33は、刃部を壁板32の表面上で引いた際にも、一定の間隔を保つことができる。」との記載を踏まえると、切断時には、T定規フェンス12の壁板32の縁33に沿う摺動に伴って、T字状に取付けられたルーラーアーム11の下面が壁板32の表面に接して摺動することは明らかである。さらに、ルーラーアーム11の底面よりも下側になる壁板32に、図1に図示されたように切り込みが生じるためには、第1刃部17又は第2の刃部は、ルーラーアーム11の底面よりも下の位置に出なければならないことも明らかである。
そして、壁板32の表面と下面が接するルーラーアーム11と、一辺が壁板32の縁に接触するT定規フェンス12の接続は、段差を有するものであることが明らかである。

コ. 甲2発明
摘記事項ア.ないしカ.、キ.及びク.の図示、並びに認定事項ケ.を整理すると、刊行物には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「第1の刃部17と、
第2の刃部17と、
前記第1の刃部17と前記第2の刃部17を設けたロッカーハウジング1と、
前記ロッカーハウジング1と、ブラケット9によりピボットピン4を軸に回動可能に接続されたベース10であって、当該ベース10は、T定規フェンス12とルーラーアーム11が段差を有して接続されて構成されたT定規のルーラーアーム11の上部に沿って選択的に摺動するためにT定規上に摺動自在に備え付けられ、
前記ブラケット9、ベース10、ルーラーアーム11及びT定規フェンス12とで構成される一体物は、全体として平たい形状であり、当該一体物は、ロッカーハウジング1の下端部から一部が露出している、
前記一体物は、前記一体物の平たい方向の平面が、第1の刃部17又は第2の刃部17に対して直交するように設けられ、
前記ロッカーハウジング1は、前記一体物の平たい方向の平面に対して、直交する面に沿う方向に前記軸により回動可能であり、
前記T定規フェンス12の一辺が壁板の縁33に接する状態で、前記ロッカーハウジング1を前記一体物に対して傾けることにより、前記第1の刃部17又は第2の刃部17が、前記ルーラーアーム11の底面よりも下の位置に出る
壁板カッター。」

(2) 本件訂正発明2との対比
本件訂正発明2ないし4は、上記第3の1.に示したとおりである。
本件訂正発明2と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「第1の刃部17」、「第2の刃部17」及び「ロッカーハウジング1」は、本件訂正発明2の「第1の刃」、「第2の刃」及び「本体」にそれぞれ相当する。
甲2発明の「ピボットピン4を軸に回動可能に接続され」は、本件訂正発明2の「可動的に接続され」に相当する。
甲2発明の「ブラケット9、ベース10、ルーラーアーム11及びT定規フェンス12とで構成される一体物」は、第1の刃部17又は第2の刃部17が、壁板32を切断する際に、切断方向を案内する作用を奏し、全体として平たい形状であるから、本件訂正発明2の「ガイド板」に相当する。
甲2発明の「壁板カッター」は、「カッター」であるから、本件訂正発明2の「カッター」に相当する。
そして、甲2発明の「前記ロッカーハウジング1を前記一体物に対して傾ける」は、上記対比を踏まえると、本件訂正発明2の「本体をガイド板に対して傾ける」に相当する。
そうすると、本件訂正発明2と甲2発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
「第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と接続され、前記本体の下端部から一部が露出しているガイド板とを有し、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより、
前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出る
ことを特徴とするカッター。」

<相違点1>
「ガイド板」について、本件訂正発明2の「ガイド板」は、「平板状」であるのに対し、甲2発明の「一体物」は、全体として平たい形状ではあるものの、「平板状」ではない点。

<相違点2>
本件訂正発明2の「ガイド板」は、「該本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた」ものであるのに対し、甲2発明の「一体物」と「ロッカーハウジング」の接続は、「一体物」の平たい方向に対して「直交」する面に沿う方向で「ロッカーハウジング」が傾くように接続され、かつ、「第1の刃部17」又は「第2の刃部17」が、「一体物」の平たい方向の平面に対して直交するように設けられたものである点。

<相違点3>
「第1の刃または第2の刃が出る」について、本件訂正発明2は平板状の「ガイド板に隣接した位置からガイド板と略平行に出る」ものであるのに対し、甲2発明の「第1の刃部または第2の刃部」が出る位置が、「一体物」の底面よりも下の位置であり、出る方向も「一体物」と「略平行」でなく「直交する方向」である点。

(3) 相違点についての検討・判断

ア. 相違点1について
本件特許明細書には、「ガイド板」について、以下の記載がある。
「従来の欠点は、直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って、真っすぐ切断する際、光の向きや照度により見づらく、きれいに切断しにくかった。」(段落【0004】)
「本体(1)の中に、カッターナイフの刃(2)を設け、シャフト(3)の通ったガイド板(4)を設ける。」(段落【0005】
「【発明の効果】・・・ このシートカッターはノンスリップシートなどの表面の凹凸に、ガイド板(4)を合わせ、シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで、設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる。後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせ滑らせるだけで、光の向きや照度に左右される事なく、簡単できれい、かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる。」(段落【0006】)
「本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け、シャフト(3)を軸にスイングするガイド板(4)を設ける。
本発明は以上のような構造である。
これを使用する時は、ガイド板(4)をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせ、シャフト(3)を軸にして本体(1)を傾けカッターナイフの刃(2)を出す。
後は凹凸に沿わせて滑らせ、ノンスリップシートなどを切断する。」(段落【0008】)
そうすると、「ガイド板」の形状が平板状であるとは、本件特許明細書の段落【0004】ないし【0006】、及び【0008】との記載から総合的にみると、当該平板状である「ガイド板」の長側面を、ノンスリップシート等の切断対象物の凹凸に沿わせて滑らせて切断できるとの有効な作用効果を発揮するのに適した形状であることが理解できる。
一方、甲2発明は、「ブラケット9、ベース10、ルーラーアーム11及びT定規フェンス12とで構成される一体物」は全体として平たい形状であるものの、「ルーラーアーム11」と「T定規フェンス12」とが段差を有して接続されていることからして、全体形状が「平板状」であるとはいえない。また、甲第2号証には、「平板状」とすることができるとの記載はないし、示唆もされていない。そして、当該一体物の一部を、本件訂正発明2のガイド板と同じように使用することを想定したことの記載はないし、示唆もない。
そして、甲2発明は、本件訂正発明2の上記有効とされた作用効果を奏するとは認められない。
したがって、相違点1は形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

イ. 相違点2について
上記(1)ケに示したように、甲2発明は、「一体物」の一部である「T定規フェンスの一辺」が、「壁板の縁」に接触することで、「刃部」の「壁板の縁」からの位置を一定に保つものである。したがって、「一体物」は「刃部」と「壁板の縁」を含むように、切断対象物の表面に平行である。
一方、本件訂正発明2の「ガイド板」は、「該本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた」ものであるから、「ガイド板」の長側面を、切断対象物の表面に直交させつつ、凹凸に沿わせて滑らせて切断できるものである。
すなわち、甲2発明は、「一体物」の側面をノンスリップシート等の切断対象物の凹凸に沿わせることはできないのであるから、相違点2は、実質的な相違点である。

ウ. 相違点3について
上記相違点2に関して記載したとおり、甲2発明の「一体物」は切断対象物の表面に平行であり、そのため、甲2発明においては「第1の刃部または第2の刃部」が出る位置が、「一体物」の底面よりも下の位置であり、出る方向も「一体物」と「略平行」でなく「直交する方向」となっている。
したがって、甲2発明の「刃部」が出る方向は、「一体物」の側面をノンスリップシート等の切断対象物の凹凸に沿わせつつ切断できるような方向ではないので、相違点3は、実質的な相違点である。


エ. 小括
上記ア.ないしウ.において示したとおり、上記相違点1ないし3は実質的な相違点であるから、本件訂正発明2は、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。そうすると、本件訂正発明2は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。

(4) 本件訂正発明3について
本件訂正発明3と甲2発明との対比・検討
本件訂正発明2と3を比較すると、本件訂正発明3は、本件訂正発明2から「前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している」との構成が省かれ、本件訂正発明2の「本体」について「平板状であり」との構成を付加されたものである。
したがって、本件訂正発明3と甲2発明とを対比すると、上記(3)に示した<相違点1>ないし<相違点3>で少なくとも相違する。そして、<相違点1>ないし<相違点3>は、上記(3)ア.?ウ.にそれぞれ示したように実質的な相違点である。
よって、本件訂正発明3は、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。そうすると、本件訂正発明3は、特許法29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。

(5) 本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明2あるいは3を引用する発明である。上記(3)及び(4)に示したとおり、本件訂正発明2及び3は、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。そうすると、本件訂正発明2あるいは3に特定される事項の全てを含み、さらに、ガイド板と本体との接続について、「本体と軸によって接続」されていると限定する本件訂正発明4も、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。そうすると、本件訂正発明4は、特許法29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。

(6) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明2ないし4は、甲2発明と同一であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当するということはできない。そうすると、本件訂正発明2ないし4を、特許法第29条第1項第3号の取消理由によって取り消すことはできない。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1. 特許法第36条第6項第2号の申立理由について
申立人は、平成27年11月16日付け手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書において、「親特許の『前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し、』が、本件分割特許の請求項1の(D)では、『前記本体と接続されたガイド板とを有し、』と変更された。これは、分割特許では、本体とガイド板が「可動的でない」態様、すなわち非可動的に接続する場合をも、文言上含むと解される。しかしながら、(E)において「本体を前記ガイド板に対して傾ける」と記載されているので、(D)における「接続」の意味は、「本体を前記ガイド板に対して傾けられるように接続」の意味であり、それ以外の態様は含まれないとも解され、上記の解釈と矛盾するのみならず、本件発明を実現することのできる、非可動的な接続の態様が不明であるから、本件発明を特定することができない。」(上記手続補正書(方式)、7ページ1ないし12行)と主張している。

本件訂正後の請求項2に記載された上記「本体を前記ガイド板に対して傾ける」との記載は、「本体」と「ガイド板」との関係を限定する記載であると解釈でき、本件訂正後の請求項2の記載の「接続」は、「本体」と「ガイド板」を接続させる態様は数多く想定できるが、そのうち、「本体を前記ガイド板に対して傾けられる」作用を奏するものに限定する記載であると理解できる。そして、本件特許の発明の詳細な説明においても、「本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け、シャフト(3)を軸にスイングするガイド板(4)を設ける」(段落【0008】)と、「本体(1)」と「ガイド板(4)」とを「シャフト(3)を軸にスイングする」ように接続することの記載があり、さらに、この接続により「これを使用する時は、ガイド板(4)をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせ、シャフト(3)を軸にして本体(1)を傾けカッターナイフの刃(2)を出す。」(段落【0008】)と「本体(1)」を「ガイド板(4)」に対して傾けることができる旨記載されているから、上記のように理解すると、本件特許の発明の詳細な説明の記載との間で矛盾は生じない。
そうすると、本件特許の請求項1の記載は明確ではないということはできず、採用しなかった。

2. 特許法第29条第2項の申立理由について

(1) 申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし4に係る発明について、甲第1号証(実願昭61-124348号(実開昭63-31989号)のマイクロフィルム)記載の発明に、甲第2号証(米国特許出願公開第2006/0201000号明細書)に記載された「第1の刃及び第2の刃を有する本体を傾けてシートを切断するカッター」、及び、例えば甲第5号証に記載されている従来周知の「ガイド板毎移動させるカッター」を適用することで、本件特許の請求項1ないし4は当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。

(2) 対比・判断
本件訂正発明2ないし4は、「平板状のガイド板」を、「前記本体と略平行に接続」し、「カッター」の「刃」と「略平行に設け」、かつ、「刃」が「該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」ようにするとの特定事項を有するものである。そして、当該事項は甲第1号証あるいは甲第2号証、そして甲第5号証のいずれにも記載されておらず、示唆もされていない。そして、当該特定事項によって、本件訂正発明2ないし4は、上記第3の4.(3)ア.に示した有効な作用効果を奏するものである。したがって、本件訂正発明2ないし4は、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載の事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

第5 平成29年2月27日付け申立人意見書について
申立人は、本件訂正請求について、平成29年2月27日付け意見書において、以下のとおり主張する。

1.特許法第39条第2項
申立人は、特許法第39条第2項について、本件訂正発明2ないし4のそれぞれは、原出願発明1とは同一であるとしても、訂正の結果同一であるとした訂正前の請求項1は、訂正後の請求項2ないし4に実質的に移ったと解される、との趣旨により、本件訂正発明2ないし4のそれぞれは特許法第39条第2項に規定される発明に該当し、本件訂正発明2ないし4に係る特許は取り消されるべきである旨、主張している。(上記意見書の「4 意見の内容」の「1.特許法第39条第2項」)
しかし、上記第3の3.に示したとおり、本件訂正発明2ないし4のそれぞれは、原出願発明1との間で実質的な相違点があるから、同一の発明であるということはできない。

2.特許法第36条第6項第2号
本件訂正発明4の「前記ガイド板は、前記本体と軸によって接続されている、」との記載について、当該記載は、本体が軸を中心にスイングといえるような滑らかな動きをすることが不可能な軸構造、例えば軸及び軸が貫通する開口部の形状が共に長方形のものまで包含される文言であるから、この点、本件特許発明4の技術的範囲が明確ではない、即ち、本件訂正後の本件特許の請求項4と、請求項4と単なる表現上の相違である請求項2及び3の記載は明確ではないから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさないから、本件訂正発明2ないし4のそれぞれに係る特許は、取り消されるべきである旨、主張している。(上記意見書の「4 意見の内容」の「2.特許法第36条第6項第2号」)

上記「前記ガイド板は、前記本体と軸によって接続されている、」との記載は、本件訂正前の設定登録された請求項4、そして本件特許に係る特許公報にも記載された事項であるから、本件特許異議申立時に主張できる取消理由であるにもかかわらず、申立人は、申立書において主張していない。しかしながら、念のため以下に検討する。
本件訂正後の請求項4は、請求項2及び3を引用するものであるところ、請求項2及び3は、いずれも「前記本体を前記ガイド板に対して傾ける」ことを、特定事項として包含するものである。そうすると、本件訂正後の請求項4も当該特定事項を包含するから、本件訂正後の請求項4に特定された「前記本体と軸によって接続されている」との態様は、上記「傾ける」ことができるものに限定され、上記申立人が主張するような「本体が軸を中心にスイングといえるような滑らかな動きをすることが不可能な軸構造」は除かれることは明らかである。
したがって、上記本件訂正後の本件特許の請求項2ないし4の記載は明確ではない、との主張は採用することができない。

3.特許法第29条第2項
申立人は、甲1の「定規a」は、本件一次訂正発明1の「平板状のガイド板」に相当し、かつ、甲1には、「平板状のガイド板」を、「前記本体と略平行に接続」し、「カッター」の「刃」と「略平行に設け」、かつ、「刃」が「該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」ようにするとの事項が記載されているから、上記取消理由通知<決定の予告>における甲1発明の認定は誤認であると主張している。そして、甲1に記載された発明のカッターホルダーの代わりに、甲2に記載された発明のカッターホルダーの代わりに甲2に記載された、第1の刃及び第2の刃を有する平板状のロッカーハウジングを単に組み合わせれば、容易に、本件訂正発明2ないし4のいずれのカッターも得られることは明らかである、と主張している。(上記意見書の「4 意見の内容」の「3.特許法第29条第2項」)
申立人は、上記意見書において、甲1の「定規a」及び「カッターホルダー」が、それぞれ本件訂正発明の「平板状のガイド板」及び「本体」に相当し、「定規a」の側面と「カッターホルダー」とが略平行に接続する、旨主張する。
そこで検討する。上記第3の4.(3)ア.に示したように、本件訂正発明2ないし4は、「ガイド板」を平板状としたことで、「第1の刃または第2の刃」が「ガイド板」に隣接した位置から「ガイド板」と「略平行」に出ることを可能とし、かつ、ノンスリップシートなどの表面の凹凸に、「ガイド板」を合わせ、「後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせて滑らせる」こと、及び、「本体」に設けられた「第1の刃と第2の刃」により、光の向きや照度に左右される事なく、簡単できれい、かつ迅速にノンスリップシート等を切断できる」との格別な作用効果を奏する、ものである。一方、甲1の「定規a」は、甲1の「・・・バネ(7)に抗してカッターホールダ(4)を指で押さえながら、第4図の様にカッター部材(b)をスライドガイド(2)に沿って走らせてやると、下に置かれた紙材(s)等を定規(a)のエッジ(e)に一致して切断できるのである。」(7ページ9ないし14行)との記載を踏まえると、切断時、「定規(a)」は、カッター部材(b)のスライド動作をガイドするために、動かさないものであると解され、「後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせて滑らせる」ものではない。そうすると、甲1記載の「定規a」が、本件訂正発明、すなわち、本件訂正発明2ないし4の「平板状のガイド板」に相当するということはできないから、上記申立人の「取消理由通知<決定の予告>における甲1発明の認定は誤認である」との主張は失当である。
したがって、上記申立人の主張は、その主張の前提を欠いたものとなり成り立つものではないことが明らかである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項2ないし4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行であり、前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している平板状のガイド板とを有し、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または
前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る
ことを特徴とするカッター。
【請求項3】
第1の刃と、
第2の刃と、
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と、
前記本体と略平行に接続され、前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた平板状のガイド板とを有し、
前記本体は平板状であり、
前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または
前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る
ことを特徴とするカッター。
【請求項4】
前記ガイド板は、前記本体と軸によって接続されている、請求項2及び3に記載のカッター。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-19 
出願番号 特願2013-208598(P2013-208598)
審決分類 P 1 651・ 4- YAA (B26B)
P 1 651・ 121- YAA (B26B)
P 1 651・ 113- YAA (B26B)
P 1 651・ 537- YAA (B26B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 西村 泰英
久保 克彦
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5745000号(P5745000)
権利者 前川 康宏
発明の名称 シートカッター  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 中村 成美  
代理人 山本 真祐子  
代理人 滝田 清暉  
代理人 山本 真祐子  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 岩▲崎▼ 有穂  

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