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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1331181 |
異議申立番号 | 異議2017-700026 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-12 |
確定日 | 2017-06-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5951900号発明「リチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法及びリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5951900号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、8、10について訂正することを認める。 特許第5951900号の請求項1?11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5951900号の請求項1?11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年5月26日(優先権主張2014年12月25日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月17日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人森本晋により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年2月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月21日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年5月31日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため合議体が付与した。)。 (1) 訂正事項1 請求項1に「前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側で前記セパレータ原反をスリットする」とあるのを、「前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」に訂正する。 (2) 訂正事項2 請求項8に「前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面が前記ローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされる請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。」とあるのを、「多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側で前記セパレータ原反をスリットし、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面が前記ローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされるリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。」に訂正する。 (3) 訂正事項3 請求項10に「前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側で前記セパレータ原反をスリットする」とあるのを、「前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、セパレータ原反をスリットする位置について、「前記終了位置よりも上流側」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 「【0046】 ・・・セパレータ原反12bが・・・巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)において、セパレータ原反12bを切断部7の刃72(図6)によりスリットすると、スリット装置6の振動等により、サブミクロンオーダーの微細な孔が形成された多孔質のセパレータ12aの予期しない方向に裂けが生じるおそれが高い。 【0047】 本実施形態では、セパレータ原反12bがローラ77に巻き付けられた部位(接した部位)に対応する位置L1、位置L2(中心位置)、又は、位置L3において、矢印方向A1に沿って搬送されるセパレータ原反12bを切断部7の刃72(図6)によりスリットする。・・・セパレータ原反12bがローラ77に巻き付けられた部位では、セパレータ原反12bの裏面とローラ77の周面との間に発生する摩擦力により、セパレータ原反12bがシワ無く延ばされた状態になり、セパレータ原反12bを安定してスリットすることができる。」 「【図7(a)】 」 以上の記載から、セパレータ原反が巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)より上流でスリットされることは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。 したがって、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2の請求項8に係る訂正は、引用関係の解消を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、訂正事項1による訂正と同様に、セパレータ原反をスリットする位置について、「前記終了位置よりも上流側」であることを限定するものであるから、前記(1)で検討したのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4) 一群の請求項について 訂正事項1?2に係る訂正前の請求項1?8について、請求項2?8は、それぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8は、一群の請求項である。 また、訂正後の請求項8に係る訂正事項2は、引用関係の解消を目的とする訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項8について訂正が認められるときは請求項1?7とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項8について請求項ごとに訂正することを認める。 (5) まとめ 本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕、8、10について訂正を認める。 第3 当審の判断 1 訂正後の請求項1?11に係る発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明(以下、「本件発明1?11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットすることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項2】 前記スリット工程は、前記セパレータ原反に対して前記ローラの反対側に設けられたスリット刃によりスリットし、 前記ローラは、前記スリット刃に対応する位置に形成された溝を有する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項3】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とは、異なる方向に分離される請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項4】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とは、前記スリット工程によりスリットされた位置よりも下流側で分離される請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項5】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とが分離される位置と前記スリット工程によりスリットされた位置との間に少なくとも一つの他のローラが配置される請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項6】 前記複数のセパレータのうちの前記一部と前記他の一部とは、前記ローラ上で分離される請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項7】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とは、互いに上下の位置関係となるように設けられた第1及び第2捲回部によって、上下に分離して巻き取られる請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項8】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側で前記セパレータ原反をスリットし、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面が前記ローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされるリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項9】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するスリット工程と、 前記スリット工程により形成された複数のセパレータのうちの一部と他の一部とを、前記スリット工程によりスリットされた位置よりも下流側で分離する分離工程とを包含し、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面がローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項10】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを製造するリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットすることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法。 【請求項11】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するスリット工程と、 前記スリット工程により形成された複数のセパレータのうちの一部と他の一部とを、前記スリット工程によりスリットされた位置よりも下流側で分離する分離工程とを包含し、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面がローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法。」 2 取消理由通知に記載した取消理由について (1) 訂正前の請求項1?7、10に係る特許に対して平成29年2月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件発明1?7、10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?7、10に係る特許は、取り消されるべきものである。 (2) 甲号証及び参考資料の記載事項 ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「電池セパレーター用樹脂フィルム状物のスリット方法および電池セパレーター用樹脂フィルム状物」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (1a) 「【請求項1】 回転速度を制御され、ロール巻き状のフィルム状物を繰出す繰出しロールと、前記フィルム状物を所要幅にスリットするスリット刃と、前記フィルム状物の張力を検出するセンサーと、前記フィルム状物の張力を制御しながら巻き取る巻取りロールからなるスリット装置を使用して、以下の条件1,2を満たすようにスリットすることを特徴とする電池セパレータ用樹脂フィルム状物のスリット方法、 (条件1)5×9.8×10^(4) ≦T/L≦5×9.8×10^(5) (条件2)1≦R/T≦5 Lはフィルム状物の厚み(m)、Rは繰出しロールの回転速度(m/min)、Tはスリット後のフィルム状物の張力(N/m)を示す。」 (1b) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、スリット時に孔や裂けなどの欠陥を生じることの少ない、電池セパレータ用樹脂フィルム状物のスリット方法およびこの方法により得られた電池セパレータ用樹脂フィルム状物に関する」 (1c) 「【0021】<スリット装置の構成>図2は、 スリット装置の構成を示す模式図である。このスリット装置は、延伸工程4において延伸されたフィルムをロール状に巻き取った繰り出しロール51と、繰り出しロール51から繰り出されたフィルムを所要幅にスリットするカミソリ刃(スリット刃に相当する。)52と、スリットされたフィルムを巻き取るための第1巻き取りロール53と、第2巻き取りロール54とを備えている。 【0022】尚、スリット刃としては、カミソリ刃の他に丸刃を用いることもできる。スリット方式としては、レザーカット方式、シャーカット方式およびスコアカット方式のいずれを採用することもできるが、安価であり、かつ操作が簡単であることからレザーカット方式が最も好ましい。 【0023】繰り出しロール51から各巻き取りロール53,54へのフィルムの送りは小径ロールにより行われる。図2において、○で示されるのが溝ロールであり、フィルム幅をガイドするための溝が形成されたロールである。●で示されるのがニップロールであり溝ロールと協働してフィルムを挟持した状態で移動させる。シリンダ55は、ニップロール56を駆動するものであり大径の送りロール57に対して離間・近接作用をさせるものである。 【0024】繰り出しロール51は駆動モータ60により回転駆動され、駆動モータ60は制御装置61により制御される。また、スリットされた後のフィルムの張力を検出するためのセンサーがガイドロール58, 59の軸に設けられており、センサーの出力は制御装置61に入力される。制御装置61は、張力が適切な数値になるように駆動モータ60を制御し、繰り出しロール51の回転速度を制御する。なお、ロール51の回転速度の制御は、駆動モータ60の回転速度を制御することにより行うことができ、また、ブレーキ機構を作動させることもできるが、特定の方法に限定されるものではない。 【0025】このスリット装置でスリットを行うフィルムは多孔質でありスリットの際に孔や裂けが生じやすい。そこで孔や裂けが生じにくくなるように、繰り出しロール51の回転速度、フィルムの張力、フィルムの厚みの関係が下記のような条件を満たすようにスリットが行われる。 【0026】(条件1)5×9.8×10^(4) ≦T/L≦5×9.8×10^(5) (条件2)1≦R/T≦5 ここで、Lはフィルム状物の厚み(m)、Rは繰出しロールの回転速度(m/min)、Tはスリット後のフィルム状物の張力(N/m)を示す。この条件を満たすようにすることで孔や裂けが生じにくくなる。」 (1d) 「【図2】 」 イ 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「スリッター・ワインダーの技術読本」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。 (2a) 「2)レザー 図1-33に示すように、レザーの受ローラーとして、溝付きローラーか、軸に溝付きカラーを嵌めたものを用い、その上にウェブを屈曲させて通し、その溝の中へレザーを入れて切るようにする。 その特長は、上記の屈曲シアーと同じく、屈曲させることにより、ウェブがローラーに押付けられて安定し、皺を防ぎ、切り口の直線精度が高いなどの多くの長所が得られ、薄いフィルム、滑りやすいフィルム、皺の出やすいフィルムなどをトラブル無く、真っすぐに切ることができる。」(39頁左欄下から5行?右欄6行) (2b) 「 」(39頁右欄) (2c) 「2)レザー 直線レザーカットは、刃の設定が任意の切り幅に簡単にできるため、特に皺の入りやすい薄いフィルム以外の一般のフィルム用には、多く採用されている。 通常、その配置は、図1-41のように、2本のローラーの間を走るフィルムにレザーを入れ空間で切るようにする。また、屈曲切りの長所である皺を出さずにフィルムを安定させる作用に近づけるため、あるいは、切断抵抗のため切り口が押し下げられ伸ばされたり、上下に変動したりするのを少なくするため、レザーを図のように、なるべく出側ローラー近くに置く方がよい。」(42頁右欄9?21行) (2d) 「 」(42頁右欄) (2e) 「4.2.3 半屈曲切り これは、図1-42のように、切られるまではウェブを屈曲させ、切られた後は直線に走るようなローラー配置にするものである。」(43頁左欄15?18行) (2f) 「 」(43頁左欄) ウ 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「スリッタの巻取装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (3a) 「【0010】図1において、これはスリッタの巻取装置であり、プラスチックフィルム1をスリットし、巻き取るためのもので、一対の巻取軸2を有し、巻取軸2は巻取アーム3に支持されており、表面駆動ローラ4に対向する。一方、プラスチックフィルム1はL-LDPEフィルムであり、原反5から巻き出され、ガイドローラ6を通り、カッタ7に導かれる。L-LDPEフィルムは多孔質のオムツカバー用フィルムまたはバッテリーのセパレータフィルムである。その後、カッタ7によってプラスチックフィルム1がスリットされ、プラスチックフィルム1のスリット後、それが送りローラ8を通り、表面駆動ローラ4に導かれる。さらに、スリットされたフィルム1が交互に振り分けられ、複数のフィルム1が一方の巻取軸2に導かれ、残りのフィルム1が他方の巻取軸2に導かれ、表面駆動ローラ4によってそれが表面駆動され、回転し、各フィルム1が巻取軸2のまわりに巻き取られる。これによって複数の巻取ロール9が形成される。この実施例では、巻取軸2としてエアチューブ式のものが使用されており、複数の巻取コア10が巻取軸2にはめ合わされ、エアチューブによってそれが固定され、各フィルム1が各巻取コア10に巻き取られる。」 (3b) 「【図1】 」 エ 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、「巻取装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (4a) 「【0015】 図1はこの発明にかかる巻取装置を示す。この装置はスリッタの巻取装置であり、スリッタの前後両側に巻取装置1A,1Bが設けられていることは特許文献1のものと同様である。そして、紙、プラスチックフィルムなどのウエブ材料2がスリット刃3を通り、複数条にスリットされ、スリット後、ウエブ材料2が各巻取装置1A,1Bに振り分けられる。さらに、各巻取装置1A,1Bにおいて、ウエブ材料2がガイドローラ4およびタッチローラ5を通り、巻取ロール6に導かれ、巻取ロール6にウエブ材料2が巻き取られる。この実施例では、巻取コア7にウエブ材料2が巻き取られ、これによって巻取ロール6が形成され、巻取ロール6にウエブ材料2が巻き取られる。」 (4b) 「【図1】 」 オ 本件特許に係る出願の優先日前に公知となった甲第5号証には、「スリッタ」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (5a) 「[0001] この発明は、電子部品のセパレータフィルムなどのウエブ材料をスリットするスリッタに関するものであり、特にオシュレーション巻取方式で巻き取ったウエブ材料に使用するスリッタに関するものである。」 (5b) 「[0016] 図3に示すように、ガイドローラ2はウエブ材料1の幅よりも短い長さのものである。そして、ガイドローラ2にウエブ材料1が係合したとき、ウエブ材料1の幅方向両端部分5がガイドローラ2の長さ方向両端部分よりも外側にはみ出し、ガイドローラ2の長さ方向両端部分の位置において、一対のスリット刃によってウエブ材料1がスリットされる。この実施例では、図2に示すように、スリット刃に丸刃6が使用されている。さらに、ガイドローラ2の長さ方向両端部分に外周みぞ7が形成され、外周みぞ7によって下刃が形成されており、丸刃6が上刃として使用され、ガイドローラ2の長さ方向両端部分の位置において、ウエブ材料1が上刃と下刃間に挟まれ、上刃と下刃によってウエブ材料1がスリットされる。したがって、幅方向両端部分5がウエブ材料1から分離される。さらに、この実施例では、ガイドローラ2のまわりにおいて、ウエブ材料1が一定の角度範囲にわたって係合することは前述したとおりであるが、その角度範囲の終端でウエブ材料1がスリットされる。 [0017] その後、ウエブ材料1が他のローラ4を通り、他のローラ8,9に導かれ、幅方向両端部分5は巻取装置10に導かれ、巻き取られる。他のローラ4,8,9はウエブ材料1の幅よりも長い長さのものである。そして、他のローラ4,8,9に係合するとき、ウエブ材料1は全幅にわたって係合する。さらに、このスリッタは他のスリット刃11を有し、ウエブ材料1は他のローラ9を通り、他のスリット刃11に導かれ、所定幅にスリットされる。スリット後、ウエブ材料1はロール12に巻き取られる。」 (5c) 「[0021] 図6は他の実施例を示す。この実施例では、スリット刃にレザー刃20が使用されている。そして、レザー刃20がウエブ材料1に接触し、外周みぞ7に入り込み、レザー刃20によってウエブ材料1がスリットされる。他の構成は図1の実施例と同様である。 [0022] 図7の実施例では、ウエブ材料1がガイドローラ2から離れたとき、それがレザー刃20に導かれ、レザー刃20だけでウエブ材料1がスリットされる。この場合、ガイドローラ2の長さ方向両端部分にガイドみぞ7を形成する必要はない。他の構成は図1の実施例と同様である。」 (5d) 「[図1] 」 (5e) 「[図2] 」 (5f) 「[図6] 」 (5g) 「[図7] 」 カ 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第6号証には、「積層多孔フィルムロール及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (6a) 「【0008】 前記要望に対し、ポリオレフィン樹脂多孔フィルムの少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダとを含む耐熱層(耐熱性を向上させるための被覆層)を積層した積層多孔フィルム(特許文献1)が提案されている。 【0009】 また、セパレータは、適用される電池のサイズによりさまざまなサイズがあり、幅広くコーティングしたセパレータを長手方向に沿って切断(スリット)して使用することが検討されているが、耐熱性を向上させるための被覆層が非常に硬いため、切断時に、切断刃の磨耗が進行しやすく、磨耗した刃による切断により、基材フィルムの樹脂の細長い削りクズが付着するという問題があり、更には、切断部分近傍の被覆層が剥がれ落ちるといった問題があった。これらの問題を解決するために、切断部分に被覆層を形成させない、いわゆる部分塗布なども検討されている(特許文献2)。」 キ 平成29年5月31日付けの特許異議申立人による意見書に添付された参考資料1には、甲第5号証の図2の説明図として、以下の事項が記載されている。 (7a) 「 」 (3) 甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証の前記(1a)には、「回転速度を制御され、ロール巻き状のフィルム状物を繰出す繰出しロールと、前記フィルム状物を所要幅にスリットするスリット刃と、前記フィルム状物の張力を検出するセンサーと、前記フィルム状物の張力を制御しながら巻き取る巻取りロールからなるスリット装置を使用して、以下の条件1,2を満たすようにスリットすることを特徴とする電池セパレータ用樹脂フィルム状物のスリット方法、 (条件1)5×9.8×10^(4) ≦T/L≦5×9.8×10^(5) (条件2)1≦R/T≦5 Lはフィルム状物の厚み(m)、Rは繰出しロールの回転速度(m/min)、Tはスリット後のフィルム状物の張力(N/m)を示す。」と記載されており、この電池セパレータ用樹脂フィルム状物のスリット方法によって、複数の電池セパレータが形成されることは明らかである。 また、甲第1号証の前記(1c)の【0025】には、このスリット装置でスリットを行うフィルムは多孔質であることが記載されている。 イ 以上から、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「多孔質フィルム状物をスリットして複数の電池用セパレータを形成する電池用セパレータ製造方法であって、 回転速度を制御され、ロール巻き状の多孔質フィルム状物を繰出す繰出しロールと、前記フィルム状物を所要幅にスリットするスリット刃と、前記フィルム状物の張力を検出するセンサーと、前記フィルム状物の張力を制御しながら巻き取る巻取りロールからなるスリット装置を使用して、以下の条件1,2を満たすように前記多孔質フィルム状物をスリットする電池用セパレータ製造方法。 (条件1)5×9.8×10^(4) ≦T/L≦5×9.8×10^(5) (条件2)1≦R/T≦5 Lはフィルム状物の厚み(m)、Rは繰出しロールの回転速度(m/min)、Tはスリット後のフィルム状物の張力(N/m)を示す。」(以下、「甲1-1発明」という。) 「多孔質フィルム状物をスリットして複数のセパレータを形成する電池セパレータ用フィルム状物のスリット方法であって、 回転速度を制御され、ロール巻き状の多孔質フィルム状物を繰出す繰出しロールと、前記フィルム状物を所要幅にスリットするスリット刃と、前記フィルム状物の張力を検出するセンサーと、前記フィルム状物の張力を制御しながら巻き取る巻取りロールからなるスリット装置を使用して、以下の条件1,2を満たすようにスリットする電池セパレータ用樹脂フィルム状物のスリット方法。 (条件1)5×9.8×10^(4) ≦T/L≦5×9.8×10^(5) (条件2)1≦R/T≦5 Lはフィルム状物の厚み(m)、Rは繰出しロールの回転速度(m/min)、Tはスリット後のフィルム状物の張力(N/m)を示す。」(以下、「甲1-2発明」という。) (4) 本件発明1について 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明は、少なくとも、「前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」との事項(以下、「本件発明特定事項D」という。)を有していない。 ここで、本件発明特定事項Dに関して、本件明細書等には、以下の記載がある。 「【0045】 図7(a)はセパレータ原反12bをスリットする位置を説明するための模式図であり、(b)は(a)に示す面AAに沿った断面図である。 【0046】 ・・・セパレータ原反12bが・・・巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)において、セパレータ原反12bを切断部7の刃72(図6)によりスリットすると、スリット装置6の振動等により、サブミクロンオーダーの微細な孔が形成された多孔質のセパレータ12aの予期しない方向に裂けが生じるおそれが高い。 【0047】 ・・・セパレータ原反12bがローラ77に巻き付けられた部位では、セパレータ原反12bの裏面とローラ77の周面との間に発生する摩擦力により、セパレータ原反12bがシワ無く延ばされた状態になり、セパレータ原反12bを安定してスリットすることができる。 【0048】 中間点の位置L2よりも下流側の位置L1でセパレータ原反12bをスリットすることが、刃72の交換の容易さの点から好ましい。また、位置L2よりも下流側の位置L1でセパレータ原反12bをスリットすると、ローラ77に接した状態で、より長い距離を搬送された後でセパレータ原反12bをスリットするので、ローラ77でより長い間保持された後にセパレータ原反12bをスリットすることになる。このため、セパレータ原反12bをより安定してスリットすることができ、より一層セパレータに裂けが生じにくくなる。」 「【図7】 」 以上の記載によれば、本件発明1は、本件発明特定事項Dを有することによって、スリット装置の振動等により、サブミクロンオーダーの微細な孔が形成された多孔質のセパレータの予期しない方向に裂けが生じにくくなり、また、セパレータ原反がシワ無く延ばされた状態になり、セパレータ原反を安定してスリットすることができるとともに、ローラでより長い時間保持された後にセパレータ原反をスリットすることになるため、セパレータ原反をより安定してスリットすることができ、より一層セパレータに裂けが生じにくくなるという効果を奏するものである。 これに対して、甲第1号証?甲第5号証のいずれにも、本件発明特定事項D、すなわち、「セパレータ原反がローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」との事項を有するにことより、スリット装置の振動等により、サブミクロンオーダーの微細な孔が形成された多孔質のセパレータの予期しない方向に裂けが生じにくくなり、また、セパレータ原反がシワ無く延ばされた状態になり、セパレータ原反を安定してスリットすることができるとともに、ローラでより長い時間保持された後にセパレータ原反をスリットすることになるため、セパレータ原反をより安定してスリットすることができ、より一層セパレータに裂けが生じにくくなるという効果を奏することは、記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1は、甲1-1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。 (5) 特許異議申立人の主張について ア 特許異議申立人は、平成29年5月31日付け意見書の1頁下から2行?2頁6行において、本件発明1の「前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」との発明特定事項Dを、発明特定事項D1:「セパレータ原反がローラに巻き付き始める開始位置と、セパレータがローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応するローラの周面上の中心位置よりも終了位置側でセパレータ原反をスリットする」と、発明特定事項D2:「終了位置よりも上流側でセパレータ原反をスリットする」に分説し、発明特定事項D1は、特許異議申立書(15頁4行?18頁11行)に記載したように、甲第3号証?甲第5号証に記載される事項であることは明らかであるとした上で、さらに、同意見書の2頁23行?3頁9行において、発明特定事項D2における「スリットする」位置とは、本件明細書等の【0048】、【図7】、【図9】、及び、参考資料1を参照すれば、以下の2つの解釈が可能である旨主張している。 (第1の解釈)刃とセパレータ原反(ウエブ材料)とが最初に接触してスリットを開始する「スリット開始位置」(P10) (第2の解釈)「スリット開始位置」(P10)と「スリット終了位置」(P20)の間の全体 イ そこで、発明特定事項D1についてはさておき、発明特定事項D2の解釈について検討する。 本件明細書等には以下の記載がある。 「【0045】 図7(a)はセパレータ原反12bをスリットする位置を説明するための模式図であり、(b)は(a)に示す面AAに沿った断面図である。 【0046】 セパレータ原反12bがローラ77に巻き付けられておらず、宙に浮いた状態の位置L4・L5、又は、セパレータ原反12bが巻き付き始める瞬間の位置L7(開始位置)、又は、巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)において、セパレータ原反12bを切断部7の刃72(図6)によりスリットすると、スリット装置6の振動等により、サブミクロンオーダーの微細な孔が形成された多孔質のセパレータ12aの予期しない方向に裂けが生じるおそれが高い。 【0047】 本実施形態では、セパレータ原反12bがローラ77に巻き付けられた部位(接した部位)に対応する位置L1、位置L2(中心位置)、又は、位置L3において、矢印方向A1に沿って搬送されるセパレータ原反12bを切断部7の刃72(図6)によりスリットする。位置L2は、巻き付き始める瞬間の位置L7と巻き付き終わる瞬間の位置L6とを結ぶ直線の中点に対応するローラ77の周面上の中間点に相当する。セパレータ原反12bがローラ77に巻き付けられた部位では、セパレータ原反12bの裏面とローラ77の周面との間に発生する摩擦力により、セパレータ原反12bがシワ無く延ばされた状態になり、セパレータ原反12bを安定してスリットすることができる。 【0048】 中間点の位置L2よりも下流側の位置L1でセパレータ原反12bをスリットすることが、刃72の交換の容易さの点から好ましい。また、位置L2よりも下流側の位置L1でセパレータ原反12bをスリットすると、ローラ77に接した状態で、より長い距離を搬送された後でセパレータ原反12bをスリットするので、ローラ77でより長い間保持された後にセパレータ原反12bをスリットすることになる。このため、セパレータ原反12bをより安定してスリットすることができ、より一層セパレータに裂けが生じにくくなる。」 「【図7】 」 以上の記載から、本件明細書等において、セパレータ原反がスリットされる位置として例示されているのは、図7(a)における、位置L4・L5、位置L7、位置L6、位置L1、位置L2、位置L3であって、いずれも点で示されている位置であるから、これらの位置においてセパレータ原反がスリットされるということは、各位置において、刃がセパレータ原反に最初に接触して、当該セパレータ原反がスリットされることに他ならない。 したがって、本件発明1の「終了位置よりも上流側でセパレータ原反をスリットする。」における「スリットする」位置とは、刃とセパレータ原反とが最初に接触してスリットを開始する「スリット開始位置」(第1の解釈)であるとするのが妥当である。 ウ 次に、特許異議申立人は、同意見書3頁11行?4頁下から7行において、前記第1の解釈を採用した場合、甲第5号証の図2(参考資料1)には、発明特定事項D2:「終了位置(P20付近)よりも上流側(P10)でウエブ材料をスリットする」ことが記載されているといえ、さらに、甲第2号証の図1-42に記載される「シアー(カット方式)」(剪断)による「半屈曲切り」においても、同様に、発明特定事項D2:「終了位置(P20付近)よりも上流側(P10)でウエブ材料をスリットする」ことが記載されているといえると主張し(以下、「主張1」という。)、また、特許権者は、発明特定事項D2の奏する効果として、「巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)において、セパレータ原反12bを切断部7の刃72(図6)によりスリットすると、スリット装置6の振動等により、サブミクロンオーダーの微細な孔が形成された多孔質のセパレータ12aの予期しない方向に裂けが生じるおそれが高い。」(本件明細書【0042】)ことを挙げているが、前記第1の解釈においては、「スリット開始位置(P10)が、巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)である」と解釈することができ、これは、甲第5号証に示されるような、「図7の実施例では、ウエブ材料1がガイドローラ2から離れたとき、それがレザー刃20に導かれ、レザー刃20だけでウエブ材料1がスリットされる。」([0022])こと、すなわち、甲第2号証に記載される「直線レザーカット」(42頁右欄10行及び図1-41)を示すといえ、ここで、「直線レザーカット」が、「図1-41のように、2本のローラーの間を走るフィルムにレザーを入れ空間で切るようにする。また、屈曲切りの長所である皺を出さずにフィルムを安定させる作用に近づけるため、・・・レザーを図のように、なるべく出側ローラー近くに置く方がよい。」(甲第2号証の42頁右欄15?22行)ことは、当業者にとって技術常識であるから、「直線レザーカット」を用いた場合、「(「屈曲切り」よりも)フィルムの安定性劣る」こと、及び、「なるべく巻き付き終わる瞬間の位置(出側ローラの近く)に置く」ことは、当業者の技術常識であるといえる旨主張し(以下、「主張2」という。)、以上から、甲第1号証に記載の甲1-1発明に、甲第2?5号証に記載の周知技術を適用して、本件発明1を想到することは、当業者にとって容易である旨主張している。 (ア) 主張1について a-1 甲第5号証は、特許協力条約に基づいて公開された国際出願であって、当該出願の図面は、設計図ではなく、発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり、同図面には、当業者に理解され得る程度に技術内容が明示されていれば足りるものであって、同図面によって、スリットを行う位置が特定されるとはいえないから、甲第5号証の前記(5e)の図2には、発明特定事項D2:「終了位置(P20付近)よりも上流側(P10)でウエブ材料をスリットする」ことが記載されているとはいえない。 a-2 また、甲第5号証の前記(5b)の[0016]の「この実施例では、図2に示すように、スリット刃に丸刃6が使用されている。さらに、ガイドローラ2の長さ方向両端部分に外周みぞ7が形成され、外周みぞ7によって下刃が形成されており、丸刃6が上刃として使用され、ガイドローラ2の長さ方向両端部分の位置において、ウエブ材料1が上刃と下刃間に挟まれ、上刃と下刃によってウエブ材料1がスリットされる。したがって、幅方向両端部分5がウエブ材料1から分離される」との記載によれば、同図2に示されているガイドローラ2においては、ウエブ材料の幅方向両端部分をスリットするものである。 そうすると、仮に、甲第5号証の図2に、発明特定事項D2が記載されているとしても、甲1-1発明における「多孔質フィルム状物をスリットして複数の電池用セパレータを形成する」ためのスリット位置と、甲第5号証の図2に記載されている、ウエブ材料の幅方向両端部をスリットするためのスリット位置とは、スリットする目的が異なるものであるから、甲1-1発明のスリット位置として、甲第5号証の図2に記載されているスリット位置を採用する動機付けがあるとはいえないし、また、甲1-1発明に、甲5号証に記載されている、ウエブ材料の幅方向両端部をスリットする方法を採用したとしても、「セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成する」工程に加えて、別途、ウエブ材料の幅方向両端部をスリットする工程が追加されることとなるから、本件発明1には至らない。 b 甲第2号証は、市販されている書籍であるところ、その中に記載された図面は、設計図ではなく、本文に記載されている内容を明らかにするための説明図にとどまり、同図面には、読者に理解され得る程度に技術内容が示されていれば足りるものであって、同図面によって、スリットを行う位置が特定されるとはいえないから、甲第2号証の前記(2f)の図1-42にも、発明特定事項D2:「終了位置(P20付近)よりも上流側(P10)でウエブ材料をスリットする」ことが記載されているとはいえない。 c 以上から、甲第5号証及び甲第2号証には、本件発明1の発明特定事項D2が記載されているとはいえない。 (イ) 主張2について 本件発明1は、「前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置・・・よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」ものであるから、第1の解釈において、「スリット開始位置(P10)が、巻き付き終わる瞬間の位置L6(終了位置)である」と解釈することはできない。 また、甲第5号証の前記(5c)の[0022]の図7についての記載、及び、甲第2号証の前記(2d)の図1-41についての記載は、いずれも、直線レザーカットに関するものであるといえるものの、直線レザーカットのスリット位置は、ウエブ材料が、ローラから離れた位置であって、本件発明1の発明特定事項D2のスリット位置、すなわち、「(前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる)終了位置よりも上流側」ではない。 したがって、特許異議申立人の前記主張2によって、本件発明1の発明特定事項D2の奏する効果を否定することはできない。 (ウ) さらに、甲第3号証及び甲第4号証のいずれの発明の詳細な説明にも、スリットを行う位置については何ら記載も示唆もされていない。 また、甲第3号証及び甲第4号証は、いずれも公開特許公報であり、当該公報に記載された図面は、設計図ではなく、発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり、同図面には、当業者に理解され得る程度に技術内容が明示されていれば足りるものであって、同図面によって、スリットを行う位置が特定されるとはいえない。 したがって、甲第3号証及び甲第4号証には、発明特定事項D2が記載されているとはいえない。 (エ) 以上のとおりであるから、甲第2号証?甲第5号証には、本件発明1の発明特定事項D2が記載されているとはいえないから、本件発明1の発明特定事項D1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。 よって、特許異議申立人の前記主張1及び主張2は、いずれも採用できない。 (6) 本件発明2?7について 本件発明2?7は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項Dを有しているから、前記(4)及び(5)で検討したのと同様の理由により、本件発明2?7は、甲1-1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。 (7) 本件発明10について 本件発明10と甲1-2発明を対比すると、甲1-2発明は、少なくとも、「前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットする」との事項を有していないところ、この事項は、前記(4)で示した発明特定事項Dと同じものであるから、前記(4)及び(5)で検討したのと同様の理由により、本件発明10は、甲1-2発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。 (7) まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1?7、10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1) 特許法第29条第2項 ア 本件発明8について 特許異議申立人は、特許異議申立書の23頁1?21行において、本件発明8の「前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面が前記ローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされる」との発明特定事項を甲1-1発明との相違点5として、この相違点5については、甲第6号証には、「耐熱層を有する積層多孔フィルムロールは、切断時に、切断刃の摩耗が進行しやすく、摩耗した刃による切断により、基材フィルムの樹脂の細長い削りクズが付着するという問題があり、更には、切断部分近傍の被覆層が剥がれ落ちるといった問題があった」ことが記載されており、そして、一方の表面に耐熱層を有するフィルムをスリットする場合、耐熱層が形成された一方の面側を上にしてスリットするか、耐熱層が形成されていない他方の面側を上にしてスリットするか、の二択となるから、甲1-1発明において、フィルムに耐熱層を積層した場合、甲第6号証に記載される従来公知の問題が生じるのを防ぐため、相違点5に係る本件発明8の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易である旨主張している。 そこで検討するに、確かに、甲第6号証の前記(6a)の【0008】、【0009】によれば、耐熱層を有する積層多孔フィルムロールは、切断時に、切断刃の摩耗が進行しやすく、摩耗した刃による切断により、基材フィルムの樹脂の細長い削りクズが付着するという問題(以下、「問題1」という。)があり、更には、切断部分近傍の被覆層が剥がれ落ちるといった問題があったことが記載されているといえ、また、一方の表面に耐熱層を有するフィルムをスリットする場合、耐熱層が形成された一方の面側を上にしてスリットするか、若しくは、耐熱層が形成されていない他方の面側を上にしてスリットするかの二択であるといえる。 しかし、甲1-1発明において、フィルム状物として、一方の表面に耐熱層を有するフィルムを用い、そのフィルムをスリットする際に、フィルムのどちらの面を上にするかに関わらず、切断時に、切断刃の摩耗が進行しやすいことに変わりはないから、フィルムの耐熱層が形成されていない面側を上にして、フィルムをスリットしたとしても、上記問題1は解決できるとはいえない。 したがって、甲1-1発明において、フィルムに耐熱層を積層した場合、甲第6号証に記載される従来公知の問題が生じるのを防ぐため、相違点5に係る本件発明8の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。 また、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも、相違点5に係る本件発明8の発明特定事項については、記載も示唆もされていない。 以上から、本件発明8は、甲第1号証に記載され発明及び第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 イ 本件発明9、11について 特許異議申立人は、特許異議申立書の23頁22行?24頁5行において、本件発明9と甲1-1発明とを対比すると、本件発明8と同様に、前記相違点5で相違するから、前記と同様の理由で、本件発明9は、当業者にとって容易であり、また、同24頁17行?25頁2行において、本件発明11と甲1-2発明とを対比すると、本件発明8と同様に、前記相違点5で相違するから、前記と同様の理由で、本件発明11は、当業者にとって容易である旨主張する。 しかし、前記アで検討したのと同様の理由により、本件発明9、11は、甲第1号証に記載された発明及び第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 第4 むすび したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットすることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項2】 前記スリット工程は、前記セパレータ原反に対して前記ローラの反対側に設けられたスリット刃によりスリットし、 前記ローラは、前記スリット刃に対応する位置に形成された溝を有する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項3】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とは、異なる方向に分離される請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項4】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とは、前記スリット工程によりスリットされた位置よりも下流側で分離される請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項5】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とが分離される位置と前記スリット工程によりスリットされた位置との間に少なくとも一つの他のローラが配置される請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項6】 前記複数のセパレータのうちの前記一部と前記他の一部とは、前記ローラ上で分離される請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項7】 前記複数のセパレータのうちの一部と他の一部とは、互いに上下の位置関係となるように設けられた第1及び第2捲回部によって、上下に分離して巻き取られる請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項8】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側で前記セパレータ原反をスリットし、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面が前記ローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされるリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項9】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するスリット工程と、 前記スリット工程により形成された複数のセパレータのうちの一部と他の一部とを、前記スリット工程によりスリットされた位置よりも下流側で分離する分離工程とを包含し、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面がローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法。 【請求項10】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを製造するリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法であって、 前記セパレータ原反をローラに接した状態で搬送する搬送工程と、 前記セパレータ原反が前記ローラに接した部位で前記セパレータ原反をスリットするスリット工程とを包含し、 前記スリット工程は、前記セパレータ原反が前記ローラに巻き付き始める開始位置と、前記セパレータが前記ローラに巻き付き終わる終了位置とを結ぶ直線の中点に対応する前記ローラの周面上の中心位置よりも前記終了位置側、かつ前記終了位置よりも上流側で前記セパレータ原反をスリットすることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法。 【請求項11】 多孔質のセパレータ原反の搬送方向に前記セパレータ原反をスリットして複数のセパレータを形成するスリット工程と、 前記スリット工程により形成された複数のセパレータのうちの一部と他の一部とを、前記スリット工程によりスリットされた位置よりも下流側で分離する分離工程とを包含し、 前記セパレータ原反の一方の面に耐熱層が形成されており、 前記スリット工程では、前記セパレータ原反の前記一方の面がローラに接し、かつ、前記セパレータ原反の前記耐熱層が形成されていない他方の面側に設けられたスリット刃により、前記セパレータ原反はスリットされることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-06-20 |
出願番号 | 特願2015-527710(P2015-527710) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(H01M)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石井 徹、植前 充司 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 河本 充雄 |
登録日 | 2016-06-17 |
登録番号 | 特許第5951900号(P5951900) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | リチウムイオン二次電池用セパレータ製造方法及びリチウムイオン二次電池用セパレータスリット方法 |
代理人 | 鶴田 健太郎 |
代理人 | 長谷川 和哉 |
代理人 | 長谷川 和哉 |
代理人 | 鶴田 健太郎 |