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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1331184
異議申立番号 異議2016-700521  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-07 
確定日 2017-07-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5834019号発明「主要心血管イベントの発生を低減させるための紅麹エキスとオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体とを含む物質」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5834019号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-12〕について訂正することを認める。 特許第5834019号の請求項1ないし6、7ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5834019号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成22年12月2日(優先権主張 2009年12月3日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とするものであり、平成27年11月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人日本水産株式会社により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年8月24日付けで取消理由が通知され、同年11月25日付けの意見書、及び、同年12月6日付けの上申書が提出され、さらに、平成29年3月9日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月2日付けの訂正請求書及び意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容(訂正事項)
平成29年6月2日付けの訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、請求項1、4、6、7、10、及び、12に係る「紅麹」(のべ14箇所)を「紅麹エキス」に訂正する、というものである。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記の訂正事項に関する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

ア-1
「【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、ヒドロキシメチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)還元酵素阻害剤活性を有する紅麹エキスと、魚油から得られるオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体或いは他の原料のオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体との組み合わせである組成物、並びに栄養補助食品及び医薬品中でのこうした組成物の使用に関する。」(段落【0002】)
ア-2
「【0003】
(従来技術の説明)
・・・
【0005】
ロバスタチンに類似の化合物も、紅麹として知られる天然の発酵生成物中に発見されている。これらの化合物もまた、HMG-CoA還元酵素阻害剤である。Alternative Medicine Review(Volume 9, Number 2, 2004)中に発表された研究論文は、紅麹におけるHMG-CoA還元酵素阻害剤活性が、「モナコリン」と呼ばれる天然に存在する9つの化合物のファミリー(各々がHMG-CoA還元酵素阻害剤活性を有する)に由来することを報告している。紅麹中のさらなる活性成分としては、ステロール(ベータ-シトステロール、カンペステロール、シグマステロール(sigmasterol)、及びサポゲニン)、イソフラボン、及びモノ不飽和脂肪酸(Heber Dらの文献、「登録商標の栄養補助食品Chinese red yeast riceのコレステロール低下効果(Cholesterol lowering effects of proprietary Chinese red yeast rice dietary supplement)」、Am J Clin Nutr 1999,:69:231-236を参照のこと)が挙げられる。紅麹中のモナコリンのうちの1つ、モナコリンKは、活性な酸型に肝臓によってインビボで転換される、ラクトン型のスタチン薬物ロバスタチンであると言われている。
【0006】
紅麹は、アジア諸国では普通の食品であり、これらの国々では、平均1日摂取量は14?55グラムである。紅麹から得られる栄養補助食品は、紅麹エキスとして知られている。紅麹エキスは、米上で酵母モナスカス・ププレウス(Monascus pupureus)を培養し、その米の発酵生成物を乾燥させ、乾燥させた生成物を溶媒、通常水性エタノール又は水で抽出することによって得られる。このようにして生成された紅麹エキスは通常、約0.2重量%のモナコリンKかつ約0.5重量%の総モナコリンを含有する。
【0007】
2000年4月4日にZhangら(Peking University)に発行された米国特許第6,046,022号は、ロバスタチン(モナコリンK)濃度の高い紅麹を作製する、並びに紅麹及び紅麹エキスを使用する、いくつかの方法を開示している。米国特許第6,046,022号の内容全体を参照により本明細書に組み込む。
【0008】
2003年4月1日; 2002年8月20日; 2002年12月17日; 2003年4月8日; 2003年6月10日; 2003年4月1日; 及び2002年6月25日に、それぞれYegorovaに発行された、米国特許第6,541,005号; 第6,436,406号; 第6,495,173号; 第6,544,525号; 第6,576,242号; 及び第6,541,006号、並びに、2002年6月25日にMundyらに発行された米国特許第6,410,521号は、紅麹を使用する方法を開示している。これらの特許をすべて、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。」(段落【0003】?【0008】)
ア-3
「【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の概要)
本発明に従ってさらに提供されるのは、(1)少なくとも1種のオメガ-3多価不飽和脂肪酸、少なくとも1種の医薬として許容し得るオメガ-3多価不飽和脂肪酸誘導体、又はそれらの混合物と、(2)紅麹エキスとを含む治療用組成物である。
・・・
【0016】
本発明によれば、紅麹エキスが少なくとも約0.1重量%のモナコリンKを含む組成物、紅麹エキスが少なくとも約0.2重量%のモナコリンKかつ少なくとも約0.4重量%の総モナコリンを含む組成物、及び紅麹エキスが少なくとも約0.4重量%のモナコリンKを含む組成物がさらに提供される。
【0017】
本発明は、医薬品又は治療用組成物の用量であって、約1000mgのEPA及び/又はEPAの誘導体加えてDHA及び/又はDHAの誘導体と1200mgの紅麹エキスとを含む前記医薬品又は治療用組成物の用量、約2000mgのEPA及び/又はEPAの誘導体加えてDHA及び/又はDHAの誘導体と2400mgの紅麹エキスとを含む前記用量、或いは約4000mgのEPA及び/又はEPAの誘導体加えてDHA及び/又はDHAの誘導体と約2400mgの紅麹エキスとを含む前記用量も提供する。
【0018】
本発明によれば、対象における血清コレステロール、トリグリセリド、又は両方を低下させる方法であって、上に挙げた治療用組成物を含む投薬量を該対象に投与することを含む方法がさらに提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施態様の詳細な説明)
本発明は、魚油に分散させた紅麹エキスを含む医薬品に関する。いくつかの実施態様では、該医薬品としては、魚油が少なくとも約60%のオメガ-3オイル又は少なくとも約70%のオメガ-3オイルを含む組成物が含まれる。」(段落【0012】?【0019】)
ア-4
「【0024】
紅麹エキスは、酵母のモナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)株を、米を含む培地中で約2から約20日の期間、約15℃から約35℃の温度で培養し、紅麹を含有する未精製発酵生成物を提供し; 前記未精製発酵生成物を乾燥させて紅麹を得、溶媒を用いて前記紅麹を抽出してエキスを提供し; 前記エキスを乾燥させて溶媒を除去し、紅麹エキスを生成する; ことによって、前記モナスカス・プルプレウス株を用いて、白米、好ましくはうるち米を発酵させることによって調製される。溶媒は、水性エタノール又は水のいずれかが好ましい。米に他の培地を添加することもできる。例えば、糖; グリセリン、麦芽、及びジャガイモ汁からなる群から選択される追加の炭素源; 並びに濃いビート汁、又はそれらの混合物を使用してもよい。さらに、消泡剤を添加することができる。」(段落【0024】)
ア-5
「【0055】
紅麹エキスは、水溶性であり、オメガ-3オイルに溶けない。いくつかの実施態様では、紅麹エキスを懸濁させておくために、分散剤が使用される。いくつかの実施態様では、分散剤は、ヒマワリオイルから作製されたリシンを伴う約70%シリカ竹(silica bamboo)である。本発明の混合物を作製するための適切な方法は、24重量の紅麹エキスを、36重量の魚油(適切な量のオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体を含有する)、1.2重量の竹(2%)、及び1.8重量のリシン(3%)と、勢いよく混合することである。次いで、得られた混合物を、オメガ-3オイル対紅麹エキスの所望の比に希釈することができる。いくつかの実施態様では、次いで、オメガ-3/紅麹エキスを調剤のためのソフトゼラチンカプセルに入れる。カプセルは通常、整数個のカプセルが該混合物の1日投薬量を含むようなサイズのものである。
【0056】
いくつかの実施態様では、オメガ-3/紅麹混合物の投薬量は、魚油及び/又はオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体を安定化させるためのローズマリー、ビタミンE、アスタキサンチン、カルニチン、パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール、又は当技術分野で公知の他の酸化防止剤などの酸化防止剤をさらに含む。」(段落【0055】?【0056】)
ア-6
「2.4mg/日の投薬量のモナコリンKの紅麹エキスが、10?40mg/日のMevacorよりも優れた脂質低下の結果をもたらしたことに注目するべきである。したがって、紅麹での脂質低下効果が、紅麹のモナコリンK成分単独に起因するとは考えにくく、恐らく、他のモナコリン、ステロール(ベータ-シトステロール、カンペステロール、シグマステロール、及びサポゲニン)、イソフラボン、及びモノ不飽和脂肪酸紅麹エキスに完全に又は部分的に起因し得る(Durington P、Bhatnagerらの文献、「シンバスチン(simvastin)で治療された心筋症を患う患者におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸濃縮物の1年間の投与がトリグリセリドを低下させた(An omega-3 polyunsaturated fatty acid concentration administered for one year decreased triglycerides in simvastin treated patients with CM.)」Heart 2001:85(5) 544-548を参照のこと)。これは、HMG-CoA還元酵素阻害剤を含有する、より低い投薬量の紅麹エキスが、副作用の低減に貢献することからも、特に好都合である。」(段落【0060】)

そうすると、明細書の発明の詳細な説明には(ア-1)などに「紅麹エキス」が具体的に記載されていることから、上記の訂正事項は、明細書に記載された事項の範囲内においてするものといえる。

次に、発明の詳細な説明には、「紅麹」及び「紅麹エキス」について、紅麹エキスは、紅麹から得られる栄養補助食品であること、及び、紅麹エキスは、米上で酵母モナスカス・ププレウス(Monascus pupureus)を培養し、その米の発酵生成物を乾燥させ、乾燥させた生成物を溶媒、通常水性エタノール又は水で抽出することによって得られること(ア-2)、紅麹は、酵母のモナスカス・プルプレウス(Monascus purpureus)株を、米を含む培地中で約2から約20日の期間、約15℃から約35℃の温度で培養し、紅麹を含有する未精製発酵生成物を提供し; 前記未精製発酵生成物を乾燥させて得ること、及び、溶媒を用いて紅麹を抽出してエキスを提供し; 前記エキスを乾燥させて溶媒を除去し、紅麹エキスを生成すること(ア-4)が記載されていることから、紅麹と紅麹エキスは、異なる物品として明確に定義されている。

また、発明の詳細な説明には、本件特許発明と関連づけて、紅麹エキスに含まれている「モナコリンK」あるいは「総モナコリン」の含有量が、「少なくとも0.1重量%」、「少なくとも0.2重量%」、「少なくとも0.4%」であることが記載されており(ア-3)、また、「医薬品又は治療用組成物の用量(日用量)」について、紅麹エキス「1200mg」あるいは「2400mg」を含むことが記載されている(ア-3)が、紅麹についてはモナコリンKの含有量や日用量に関する記載がない。

さらに、「紅麹」を使用するものについて、「いくつかの実施態様では、オメガ-3/紅麹混合物の投薬量は・・」(ア-5)との記載があるが、当該記載における「紅麹」は、その文脈等から判断して「紅麹エキス」を指すものと理解できる。
すなわち、当該記載箇所は、その後に続いて「魚油及び/又はオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体を安定化させるためのローズマリー、ビタミンE、アスタキサンチン、カルニチン、パルミチン酸アスコルビル、トコフェロール、又は当技術分野で公知の他の酸化防止剤などの酸化防止剤をさらに含む。」と記載されていることから、本件特許発明において、酸化防止剤をさらに含んでもよいことを説明している記載であって、紅麹エキスに代えて紅麹を使用しうることを説明している記載ではない。
また、「オメガ-3/紅麹混合物」という表記は、本件特許発明に係る「オメガ-3多価不飽和脂肪酸」を「オメガ-3」に言い換えるなどして表記を簡略化したものであるが、「紅麹」についても、「紅麹エキス」を「紅麹」と簡略化して表記している箇所、すなわち、「2.4mg/日の投薬量のモナコリンKの紅麹エキスが、10?40mg/日のMevacorよりも優れた脂質低下の結果をもたらしたことに注目するべきである。したがって、紅麹での脂質低下効果が・・」(ア-6)がある。
そして、上述のとおり、発明の詳細な説明において、紅麹と紅麹エキスは、異なる物品として明確に定義されているところ、上記記載以外に、発明の詳細な説明には、本件特許発明の一般的な説明や具体的な実施の形態などのいずれにおいても、「紅麹エキス」を使用するもののみが記載されている(ア-1、ア-3)。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲における「紅麹」という記載は、「紅麹エキス」を指すものと理解できるから、当該記載は、「紅麹エキス」の誤記であり、本件訂正は、誤記の訂正を目的とするものであると認められる。
また、本件訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?6]、[7?12]について訂正を認める。

3.本件特許発明
特許第5834019号の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明12」といい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求により訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
(1)オメガ-3多価不飽和脂肪酸と、(2)紅麹エキスとを含む治療用組成物であって、該構成成分(1)が、A:Bの重量比が3:1から4:1の、少なくとも60重量%の(A)EPAと(B)DHAとの組み合わせを含む混合物であり、ここで、少なくとも60重量%のEPAとDHAが、トリグリセリド型であり、かつ残部が、少なくとも80%のモノ-及びジ-グリセリドであり、かつ該紅麹エキスが、少なくとも0.1重量%のモナコリンKを含む、前記治療用組成物。
【請求項2】
前記A:Bの重量比が、3:1である、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項3】
前記(A)と(B)との組み合わせが、
(i) トリグリセリド型において少なくとも80%であるか、又は
(ii) トリグリセリド型において少なくとも90%であるか、又は
(iii)トリグリセリド型において少なくとも98%であるか、又は
(iv) トリグリセリド型において少なくとも98%であり、かつ残部が、モノグリセリド、ジグリセリド若しくはその両方である、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記紅麹エキスが、
(i) 少なくとも0.2重量%のモナコリンK、かつ少なくとも0.4%の総モナコリン、又は
(ii)少なくとも0.4重量%のモナコリンKを含む、請求項1又は3記載の治療用組成物。
【請求項5】
構成成分(1)と構成成分(2)の重量比が、1.4:1から2.8:1の範囲内である、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記治療用組成物の日用量が、
(i) 1000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(ii) 2000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(iii)2000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを、又は
(iv) 4000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを含む、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項7】
対象における血清コレステロール、トリグリセリド、又はその両方を低下させるための医薬組成物であって、(1)オメガ-3多価不飽和脂肪酸と、(2)紅麹エキスとを含み、ここで、該構成成分(1)が、A:Bの重量比が3:1から4:1の、少なくとも60重量%の(A)EPAと(B)DHAとの組み合わせを含む混合物であり、ここで、少なくとも60重量%のEPAとDHAが、トリグリセリド型であり、かつ残部が、少なくとも80%のモノ-及びジ-グリセリドであり、かつ該紅麹エキスが、少なくとも0.1重量%のモナコリンKを含む、前記医薬組成物。
【請求項8】
前記A:Bの重量比が、3:1である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記(A)と(B)との組み合わせが、
(i) トリグリセリド型において少なくとも80%であるか、又は
(ii) トリグリセリド型において少なくとも90%であるか、又は
(iii)トリグリセリド型において少なくとも98%であるか、又は
(iv) トリグリセリド型において少なくとも98%であり、かつ残部が、モノグリセリド、ジグリセリド若しくはその両方である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記紅麹エキスが、
(i) 少なくとも0.2重量%のモナコリンK、かつ少なくとも0.4%の総モナコリン、又は
(ii)少なくとも0.4重量%のモナコリンK
を含む、請求項7又は9記載の医薬組成物。
【請求項11】
構成成分(1)と構成成分(2)の重量比が、1.4:1から2.8:1の範囲内である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物の日用量が、
(i) 1000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(ii) 2000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(iii)2000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを、又は
(iv) 4000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを含む、請求項7記載の医薬組成物。

4.特許異議の申立てについて
(1)取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1?12に係る特許に対して平成29年3月9日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、「発明の詳細な説明には、「紅麹」ではなく「紅麹エキス」を使用することのみが記載されているのであり、「紅麹エキス」ではなく「紅麹」を使用する発明である本件特許発明1については、発明の詳細な説明に記載されていないと認められる。したがって、請求項1?12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は取り消すべきものである。」というものである。

(2)判断
(2-1) 取消理由通知に記載した取消理由について

取消理由通知に記載した取消理由は、本件特許に係る発明が「紅麹」を使用する発明であることを前提とするものであるところ、上記2.訂正の適否についての判断に記載したとおり、本件訂正請求による訂正後の本件特許発明は、上記3.本件特許発明に記載したとおり、「紅麹」を使用する発明ではないから、当該取消理由は、その前提を欠くものであって、理由がないことが明らかである。


(2-2) 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第2項)について

申立理由(特許法第29条第2項)の概要は、「本件特許発明1?12は、甲第1号証及び甲第2号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。特許権者が意見書とともに提出した資料1、2である甲第3号証及び甲第4号証は、本件特許発明の優れた効果を示すものではない。」というものである。
甲第1号証:米国特許出願公開第2008/0299187号明細書
甲第2号証:米国特許出願公開第2009/0182049号明細書
甲第3号証:Lipids in Health and Disease,13:99(2014)
甲第4号証:Marshall Declaration

また、特許異議申立書には、以下の記載がある。
「(4)具体的理由
ア 本件特許発明
本件特許発明は・・それぞれの請求項の構成要件の分説は、以下のとおりである。
・・・
「【請求項1】
A(1)オメガ-3多価不飽和脂肪酸と、(2)紅麹とを含む治療用組成物であって、
B該構成成分(1)が、A:Bの重量比が3:1から4:1の、少なくとも60重量%の(A)EPAと(B)DHAとの組み合わせを含む混合物であり、
Cここで、少なくとも60重量%のEPAとDHAが、トリグリセリド型であり、
D残部が、少なくとも80%のモノ-及びジ-グリセリドであり、
E該紅麹が、少なくとも0.1重量%のモナコリンKを含む。
・・・
イ 引用発明の説明
(ア)甲第1号証(米国特許出願公開第2008/0299187号明細書)には、以下の記載がある。
・・・
(エ)甲第4号証
・・・
ウ 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比
(ア)本件特許発明1と甲第1号証の発明とを対比する。
(ア-1)には、紅麹抽出物と魚油由来のオメガ-3脂肪酸成分とを組み合わせたサプリメントや医薬品を使用する組成物であると記載されており、要件Aを満たす。
(ア-3)には、少なくともオメガ油の75%がEPA+DHAであり、・・・を用いることが開示されている。・・・Pro-EFA xtraの値は要件Bと一致する。
(ア-3)に開示された・・・要件C及びDを満たすものと考えられる。
(ア-4)には、・・と開示され、これは要件Eを満たす。

以上のとおり、相違点の1つは、甲第1号証では、オメガ-3油として好ましい例として、EPA:DHAが1.45:1,4.24:1、3.87:1の製品を例示しているが、「EPA:DHAが3:1から4:1が好ましいとは明記されていない点である。」(6頁7行?13頁2行)

この記載を検討すると、申立人は、本件特許発明1及び本件特許発明7の構成要件の分説を示すと共に、甲第1号証には、本件特許発明の各要件を満たす記載が個別にある旨主張しているものの、甲第1号証に記載された発明として申立人が認定した発明を明示していない。
次に、甲第1号証において、本件特許発明1の各要件を満たす記載が個別にあるとしても、「その各要件を同時に満たす発明」が甲第1号証に記載されているとは必ずしも認定できるものではないが、仮に申立人は、「その各要件を同時に満たす発明」を甲第1号証に記載された発明として認定しているとする。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と相違点がないことになり、これは、「以上のとおり、相違点の1つは・・」との主張と矛盾する。
したがって、申立人が甲第1号証に記載された発明として認定している発明が、「その各要件を同時に満たす発明」であるとは解し得ない。
また、他に申立人が、甲第1号証に記載されている発明としてどのような発明を認定したのかを推察することができる記載もない。

そうすると、申立人が認定している、甲第1号証に記載されている発明(引用発明)を理解することができないので、当該引用発明と本件特許発明1とを対比・判断することもできないから、特許異議申立理由(特許法第29条第2項)は、理由がない。


4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)オメガ-3多価不飽和脂肪酸と、(2)紅麹エキスとを含む治療用組成物であって、該構成成分(1)が、A:Bの重量比が3:1から4:1の、少なくとも60重量%の(A)EPAと(B)DHAとの組み合わせを含む混合物であり、ここで、少なくとも60重量%のEPAとDHAが、トリグリセリド型であり、かつ残部が、少なくとも80%のモノ-及びジ-グリセリドであり、かつ該紅麹エキスが、少なくとも0.1重量%のモナコリンKを含む、前記治療用組成物。
【請求項2】
前記A:Bの重量比が、3:1である、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項3】
前記(A)と(B)との組み合わせが、
(i) トリグリセリド型において少なくとも80%であるか、又は
(ii) トリグリセリド型において少なくとも90%であるか、又は
(iii)トリグリセリド型において少なくとも98%であるか、又は
(iv) トリグリセリド型において少なくとも98%であり、かつ残部が、モノグリセリド、ジグリセリド若しくはその両方である、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記紅麹エキスが、
(i) 少なくとも0.2重量%のモナコリンK、かつ少なくとも0.4%の総モナコリン、又は
(ii)少なくとも0.4重量%のモナコリンK
を含む、請求項1又は3記載の治療用組成物。
【請求項5】
構成成分(1)と構成成分(2)の重量比が、1.4:1から2.8:1の範囲内である、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記治療用組成物の日用量が、
(i) 1000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(ii) 2000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(iii)2000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを、又は
(iv) 4000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを含む、請求項1記載の治療用組成物。
【請求項7】
対象における血清コレステロール、トリグリセリド、又はその両方を低下させるための医薬組成物であって、(1)オメガ-3多価不飽和脂肪酸と、(2)紅麹エキスとを含み、ここで、該構成成分(1)が、A:Bの重量比が3:1から4:1の、少なくとも60重量%の(A)EPAと(B)DHAとの組み合わせを含む混合物であり、ここで、少なくとも60重量%のEPAとDHAが、トリグリセリド型であり、かつ残部が、少なくとも80%のモノ-及びジ-グリセリドであり、かつ該紅麹エキスが、少なくとも0.1重量%のモナコリンKを含む、前記医薬組成物。
【請求項8】
前記A:Bの重量比が、3:1である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記(A)と(B)との組み合わせが、
(i) トリグリセリド型において少なくとも80%であるか、又は
(ii) トリグリセリド型において少なくとも90%であるか、又は
(iii)トリグリセリド型において少なくとも98%であるか、又は
(iv) トリグリセリド型において少なくとも98%であり、かつ残部が、モノグリセリド、ジグリセリド若しくはその両方である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記紅麹エキスが、
(i) 少なくとも0.2重量%のモナコリンK、かつ少なくとも0.4%の総モナコリン、又は
(ii)少なくとも0.4重量%のモナコリンK
を含む、請求項7又は9記載の医薬組成物。
【請求項11】
構成成分(1)と構成成分(2)の重量比が、1.4:1から2.8:1の範囲内である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物の日用量が、
(i) 1000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(ii) 2000mgのEPA加えてDHAと、1200mgの紅麹エキスとを、又は
(iii)2000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを、又は
(iv) 4000mgのEPA加えてDHAと、2400mgの紅麹エキスとを含む、請求項7記載の医薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-22 
出願番号 特願2012-542172(P2012-542172)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥居 福代  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 松澤 優子
蔵野 雅昭
登録日 2015-11-06 
登録番号 特許第5834019号(P5834019)
権利者 ジョアル オプヘイム
発明の名称 主要心血管イベントの発生を低減させるための紅麹エキスとオメガ-3多価不飽和脂肪酸又はその誘導体とを含む物質  
代理人 石川 徹  
代理人 石川 徹  

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