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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02F
管理番号 1331191
異議申立番号 異議2016-700531  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-09 
確定日 2017-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5831674号発明「液晶配向剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5831674号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5831674号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5831674号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成22年2月3日に特許出願され,平成27年11月6日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人田嶋順治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,平成28年9月30日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成28年11月29日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があった。そして,当審は,特許法第120条の5第5項の規定に基づき,期間を指定して,申立人に意見書を提出する機会を与えたが,その指定期間内に,申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,次のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」
とあるのを,
「光反応性構造を有するジアミン50?99モル%を含むジアミン」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「(A)・・・ポリアミック酸A,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する」
とあるのを,
「(A)・・・ポリアミック酸Aを20?70重量%,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80?30重量%で含有する」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に
「eおよびfは,それぞれ0?4の整数であり,」
とあるのを,
「eは0?4の整数であり,fは0の整数であり,」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に
「iは0?2の整数であり,」
とあるのを,
「iは0の整数であり,」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に
「ただし,上記光反応性構造が・・・」
とあるのを,
「そして,前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり,ただし,上記光反応性構造が・・・」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に
「10?70重量%」
とあるのを,
「20?50重量%」に訂正する。

(7)訂正事項7
願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)の段落【0007】に
「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」
とあるのを,
「光反応性構造を有するジアミン50?99モル%を含むジアミン」
に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0041】に
「光反応性構造を有するジアミンジアミンは,全ジアミンに対して,50?99モル%含むものであることが好ましく,」
とあるのを,
「光反応性構造を有するジアミンは,全ジアミンに対して,50?99モル%含むものであり,」
に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0068】に
「また,実施例20?30および51?61はいずれも光反応性構造を有するジアミンが100モル%のジアミンを使用したポリアミック酸(ポリアミック酸A)を用いたものであり,参考例である。」
を加入する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0007】に
「(A)・・・ポリアミック酸A,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する」
とあるのを,
「(A)・・・ポリアミック酸Aを20?70重量%,および
(B)・・・ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80?30重量%で含有する」
に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0047】に
「10?70重量%含有することが好ましく,」
とあるのを,
「20?70重量%含有し,」
に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0068】に
「なお,実施例16は,ポリアミック酸AであるPA-16の使用量が10重量%であり,参考例である。」
を加入する。

(13)訂正事項13
明細書の段落【0015】に
「eおよびfは,それぞれ0?4の整数であり,」
とあるのを,
「eは0?4の整数であり,fは0の整数であり,」
に訂正する。

(14)訂正事項14
明細書の段落【0017】に
「iは0?2の整数であり,」
とあるのを,
「iは0の整数であり,」
に訂正する。

(15)訂正事項15
明細書の段落【0041】に
「任意的にその他のジアミンの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。」
とある次に,
「上記その他のジアミンは3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンである。」
を加入する。


2 訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,請求項1において,「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」について,「光反応性構造を有するジアミン」の含有量を「50?99モル%」に限定するものである。
訂正事項1に関連する記載として,訂正前の明細書に,「本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられる光反応性構造を有するジアミンジアミンは,全ジアミンに対して,50?99モル%含むものであることが好ましく」(【0041】)との記載があるから,「光反応性構造を有するジアミンを含むジアミン」について,「光反応性構造を有するジアミン」の含有量を「50?99モル%」とすることは,明細書に記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項1は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,請求項1において,「ポリアミック酸A」の含有量を「20?70重量%」に限定し,「ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」の含有量を「80?30重量%」に限定するものである。
訂正事項2に関連する記載として,訂正前の明細書に,「上記ポリアミック酸Aを,上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして10?70重量%含有することが好ましく,20?50重量%含有することがより好ましい。」(【0047】)との記載があるから,「ポリアミック酸A」の含有量を「20?70重量%」に限定し,「ポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」の含有量を「80?30重量%」に限定することは,明細書に記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項2は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項2は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,請求項1において,式(A-2-1)及び(A-2-2)中の「f」の値を,訂正前の「0?4の整数」から訂正後の「0の整数」に限定するものである。
したがって,訂正事項3は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項3は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,請求項1において,式(A-2-1)及び(A-2-2)中の「i」の値を,訂正前の「0?2の整数」から訂正後の「0の整数」に限定するものである。
したがって,訂正事項4は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項4は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は,請求項1において,「前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミン」が「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであ」ることを限定するものである。
訂正事項5に関連する記載として,訂正前の明細書に,「本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられるジミアンは,前記光反応性構造を有するジアミンを含むものであり,任意的にその他のジアミンの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。」と記載され,さらに,実施例として,ポリアミック酸Aを合成するジアミンとして,光反応性構造を有するジアミン「d-1」?「d-14」(第二のジアミン)とともに,その他のジアミン「d-15」又は「d-16」(第一のジアミン),すなわち「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を含むジアミンが用いられた例が記載されている(【0073】表1,【0074】表2及び【0076】)。
従って,「前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミン」が「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであ」ることは,明細書に記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項5は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は,請求項2において,「ポリアミック酸A」の含有量を,訂正前の「10?70%」から訂正後の「20?50重量%」に限定するものである。
したがって,訂正事項6は,特許請求の範囲の減縮を目的としており,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められる。
また,訂正事項6は,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項7は,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は,訂正前の明細書の段落【0041】の「光反応性構造を有するジアミンジアミン」との記載を「光反応性構造を有するジアミン」に訂正すること(以下「訂正事項8-1」という。),及び同じく「50?99モル%含むものであることが好ましく」との記載を「50?99モル%含むものであり」に訂正すること(以下「訂正事項8-2」という。)からなる。
訂正事項8-1は,訂正前の「反応性構造を有するジアミンジアミン」との記載が「反応性構造を有するジアミン」の誤記であることが明らかであるから,誤記の訂正を目的としていると認められる。そして,この訂正事項8-1は,本件特許の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載下事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
訂正事項8-2は,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。そして,この訂正事項8-2は,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9は,訂正事項1による請求項1の減縮にともない,訂正前の明細書に記載されている実施例のうち,実施例とはいえなくなった実施例20?30及び51?61を参考例とする訂正である。
したがって,訂正事項9は,訂正事項1による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
また,訂正事項9は,訂正事項1と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(10)訂正事項10について
訂正事項10は,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項10は,訂正事項2と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(11)訂正事項11について
訂正事項11は,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項11は,訂正事項2と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(12)訂正事項12について
訂正事項12は,訂正事項2による請求項1の減縮にともない,訂正前の明細書に記載されている実施例のうち,実施例とはいえなくなった実施例16を参考例とする訂正である。
したがって,訂正事項12は,訂正事項2による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
また,訂正事項12は,訂正事項2と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(13)訂正事項13について
訂正事項13は,訂正事項3による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項13は,訂正事項3と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(14)訂正事項14について
訂正事項14は,訂正事項4による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項14は,訂正事項4と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(15)訂正事項15について
訂正事項15は,訂正事項5による訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的としていると認められる。
そして,訂正事項15は,訂正事項5と同様に,特許請求の範囲又は明細書に記載された事項の範囲内においてするものと認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(16)そして,これら訂正事項1ないし15は,一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし4に係る発明(以下「訂正発明1」ないし「訂正発明4」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1ないし4の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミン50?99モル%を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸Aを20?70重量%,および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,または1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と,2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80?30重量%
で含有する液晶配向剤であって,
前記ポリアミック酸Aの有する光反応性構造が下記式(A-2-1)および(A-2-2)
【化2】

(式(A-2-1)および(A-2-2)中,A^(1)およびA^(2)は,それぞれ,炭素数1?6のアルキル基,炭素数1?6のアルコキシル基,ハロゲン原子またはシアノ基であり,dは0または1であり,eは0?4の整数であり,fは0の整数であり,
R^(I)およびR^(II)は,それぞれ,水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1?40のアルキル基であり,
X^(II)およびX^(III)は,それぞれ,-O-,-CO-,-CO-O-,-O-CO-,-NR-,-NR-CO-,-CO-NR-,-NR-CO-O-,-O-CO-NR-,-NR-CO-NR-または-O-CO-O-(ここで,Rは,水素原子または炭素数1?4のアルキル基である。)であり,
R^(III)は,それぞれ,メチレン基,アリーレン基,2価の脂環式基,-Si(CH_(3))_(2)-,-CH=CH-または-C≡C-であり,ただしR^(III)の有する水素原子の1個または2個以上は,シアノ基,ハロゲン原子または炭素数1?4のアルキル基に置換されていてもよく,
hは1?6の整数であり,
iは0の整数であり,
上記X^(II)およびR^(III)が複数存在する場合には,これらは互いに同一であっても相異なっていてもよく,
jは0または1であり,そして
「+」は,それぞれ,結合手であることを示す。)
のそれぞれで表される構造から選択される少なくとも1種の構造であり,そして,
前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり,ただし,
上記光反応性構造が上記式(A-2-1)で表される構造であるときには,ポリアミック酸Aを合成するためのテトラカルボン酸二無水物が下記式(G)
【化14】

で表される化合物である場合を除き,そして
上記光反応性構造が上記式(A-2-2)で表される構造であるときには,該構造は下記式(A-2-2-1)および(A-2-2-2)
【化11】

のそれぞれで表される化合物から選択される少なくとも1種のジアミンに由来する構造である,前記液晶配向剤。

【請求項2】
上記ポリアミック酸Aを,上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして20?50重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。

【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶配向剤から形成されたことを特徴とする,液晶配向膜。

【請求項4】
請求項3に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする,液晶表示素子。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)の特許に対して,平成28年9月30日付け取消理由通知により特許権者に通知した取消理由の概要は,次のとおりである。

理由1
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由2
本件発明1ないし本件発明4は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記1の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由3
本件特許は,明細書又は特許請求の範囲の記載が下記2の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって,本件発明1ないし本件発明4の特許は取り消すべきものである。


1.理由1及び理由2について
甲1:国際公開第2009/080271号
甲2:特表2011-507041号公報
甲3:国際公開第2007/071091号
甲4:特表2009-520702号公報
甲5:国際公開第2009/133803号

本件発明1ないし本件発明4は,甲1に記載された発明であるか,本件発明1ないし本件発明4は,甲1に記載された発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1ないし本件発明4は,甲5に記載された発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.理由3について
本件特許の明細書又は特許請求の範囲の記載は,特許異議申立書93頁13行?101頁3行「(iv)実施可能要件及びサポート要件の理由・・・・・・取り消されるべきものである」に記載された点で不備である。

3 甲号証の記載
(1)甲1
ア 甲1には,次の事項が記載されている。
「Claims
1.) A photoalignment composition comprising
a) 0.001 to 20%, by weight, of at least one photoreactive compound (I) that comprises a photoalignment group and
b) 80 to 99.999% by weight, of at least one compound (II) that does not comprise a photoalignment group, and
c) optionally at least one reactive or non reactive additives, and d) optionally at least one solvent.」(46頁1?8行)
(請求項1
a) 0.001?20重量%の,光配向基を含む少なくとも1つの光反応性化合物(I)と,
b) 80?99.999重量%の,光配向基を含まない少なくとも1つの化合物(II)と,
c) 場合により少なくとも1つの反応性又は非反応性添加剤と,
d) 場合により少なくとも1つの溶媒と
を含む,光配向組成物。)

「The present invention relates to a photoalignment composition especially for the alignment of liquid crystals or liquid crystal polymers comprising
a) 0.001 to 20%, by weight, preferably, 0.05 to 10% by weight, more preferably 0.1 to 9% by , especially more preferred 0.1 to 5%, more especially more preferred 0.1 to 2% weight of at least one photoreactive compound (I) that comprises a photoalignment group and
b) 80 to 99.999% by weight, preferably, 90 to 99% by weight, more preferably 91 to 99% by weight of at least one compound (II) that does not comprise a photoalignment group, and
c) optionally at least one reactive or non reactive additives, and
d) optionally at least one solvent.」(1頁2?13行)
( 本発明は,
a) 0.001?20重量%,好ましくは0.05?10重量%,より好ましくは0.1?9重量%,とりわけより好ましくは0.1?5重量%,さらにとりわけより好ましくは0.1?2重量%の,光配向基を含む少なくとも1つの光反応性化合物(I)と,
b) 80?99.999重量%,好ましくは90?99重量%,より好ましくは91?99重量%の,光配向基を含まない少なくとも1つの化合物(II)と,
c) 場合により少なくとも1つの反応性又は非反応性添加剤と,
d) 場合により少なくとも1つの溶媒と
を含む,特に液晶又は液晶ポリマーの配向のための光配向組成物に関する。)

「Example 28 :
A blend 1 was prepared that consisted of 95% by weight of a compound (II) as given in the below table, and 5% by weight of a photoreactive compound (II) as given in the table below. Blend 1 was dissolved to 2% by weight in cyclopentanone and stirred for half an hour at room temperature.
Indium tin oxide (ITO) coated glass plates were used as substrates. By means of spin- coating a solution of blend 1 with a solid content of 2 weight percent in cyclopentanone an alignment layer with a dry thickness of approximately 60 nm was prepared with the spin parameters of 2000rpm during 60s. The alignment layer was subsequently thermally treated on a hot-plate for 10 minutes at a temperature of 180 ℃. After that, the photo-alignment layer was vertically exposed to linearly polarised UVB light (wavelengths between 280 and 320 nm). A dose of 150 mJ/cm^( 2) was applied at an intensity of 3 mW/cm^( 2) . In a next step, a 25 weight percent solution in cyclopentanone of the formulation M1 (Example 1) was spin- coated on top of the functionalized photo-alignment layer with the spin parameters of 800rpm during 60s. A dry film thickness of approximately 800 nm was achieved this way. A thermal treatment at a temperature of 40 ℃ on a hot-plate was then carried out for a duration of 10 minutes.


Compounds (II) are prepared in analogy to methods known in the art such as for example Polymerisation step : Formation of the polyamic acid

(30.26 mmol) of 4,4'-diaminodiphenyl derivative (4,4'-diaminodiphenyl methane, 4,4'- diaminodiphenyl thioether, 4,4'-diaminodiphenyl ether, 4,4'-diaminodiphenyl glutaric ester) was solubilised in 71 mL of 1-methyl-2-pyrrolidone (NMP). The mixture was cooled to 0℃ for 10 minutes. (29.66 mmol) of 1,2,3,4-cyclobutanetretracarboxilic acid dianhydride were added to the solution. The mixture was stirred at 0 ℃ for two hours and then at rt for 3 hours. The reaction gave the polyamic acid precursor having a viscosity of 0.4dL/g. 」(43頁13行?45頁2行)
(実施例28:
下記の表に示されている化合物(II)の95重量%及び下記の表に示されている光反応性化合物(II)の5重量%から構成されるブレンド1を調製した。ブレンド1をシクロペンタノンに溶解して2重量%にし,室温で1時間半撹拌した。
インジウムスズ酸化物(ITO)被覆ガラスプレートを基板として使用した。シクロペンタノン中に固形含有量の2重量%を有するブレンド1の溶液をスピンコーティングすることによって,乾燥厚がおよそ60nmの配向層を,2000rpmで60秒間の回転パラメーターにより調製した。続いて配向層をホットプレートにより180℃の温度で10分間熱処理した。その後,光配向層を直線偏光UVB光線(波長280?320nm)に垂直に暴露した。150mJ/cm^(2)の線量を3mW/cm^(2)の強度で適用した。次の工程において,配合物M1(実施例1)のシクロペンタノン中の溶液25重量%を,機能化光配向層の上に800rpmで60秒間の回転パラメーターでスピンコーティングした。およそ800nmの乾燥膜厚をこの方法により達成した。次にホットプレートによる40℃の温度での熱処理を10分間実施した。

(審決注:表中の記載の訳)
Photoreactive compound (II)(光反応性化合物(II))
Compounds (II)(化合物(II))
prepared as described in example 9 and 18 of WO 07/071091(WO07/071091の例8及び18に記載されたように調製した)

化合物(II)は,例えば重合工程:ポリアミド酸の形成のような,当該技術に既知の方法と同様にして調製した:
(30.26mmol)の4,4’-ジアミノジフェニル誘導体(4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルグルタル酸エステル)を,71mLの1-メチル-2-ピロリドン(NMP)で可溶化した。混合物を0℃で10分間冷却した。(29.66mmol)の1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を溶液に加えた。混合物を0℃で2時間,次に室温で3時間撹拌した。反応は,0.4dL/gの粘度を有するポリアミド酸前駆体を与えた。)


イ 甲1発明
(ア)甲1の上記記載によれば,甲1の表に記載された化合物IIの「a)」は,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸であると解される。

(イ)したがって,甲1には,実施例28として,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「国際公開第07/071091号の実施例9及び18に記載されているように調製した光反応性化合物1)を含む光反応性化合物(II)の5重量%と,1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸である化合物a)を含む化合物(II)の95重量%とを含む,液晶の配向のための光配向組成物。」


(2)甲3
ア 甲3には,次の事項が記載されている。
「EXAMPLE 9
Polymersiation Step A (formation of the Polyamic Acid)
2.25 g (11.47 mmol) of 1,2,3,4-cyclobutantetracarboxylic acid dianhydride is added to a solution of 8.030 g (12.77 mmol) of 6-{[((2E)-3-{4-[(4-(4,4,4- trifluorobutoxy)benzoyl)oxy]phenyl}prop-2-enoyl)oxy]}hexyl 3,5-Diaminobenzoate in 56.0 ml of tetrahydrofuran. Stirring is then carried out at 0℃ for 2 hours. Then another 0.255 g (1.30 mmol) of 1,2,3,4-cyclobutantetracarboxylic acid dianhydride are added. The mixture is subsequently allowed to react for 21 hours at room temperature. The polymer mixture is diluted with 56 ml THF, precipitated into 2000 ml diethyl ether and collected by filtration. The polymer is reprecipitated form THF (160 ml) into 3500 ml water to yield, after drying at room temperature under vacuum, 9.42 g of Polyamic Acid 1 in the from of a white powder; [η] = 0.50 dL/g

Analogous to EXAMPLE 9the following diamines are used for the preparation of Polyamic Acid with 1,2,3,4-cyclobutantetracarboxylic acid dianhydride
・・・
2-(2,4-Diaminophenyl)ethyl (2E) 3-{4-[(4-(4,4,4-trifluorobutoxy)benzoyl)oxy]phenyl} acrylate

yield Polyamic acid 17 as white powder; [η] = 0.50 dL/g 」(115頁29行?120頁末行)
(例9
重合工程A(ポリアミック酸の形成)
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物2.25g(11.47mmol)を,テトラヒドロフラン56.0ml中の6-{[((2E)-3-{4-[(4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}プロパ-2-エノイル)オキシ]}ヘキシル3,5-ジアミノベンゾアート8.030g(12.77mmol)の溶液に加えた。次に撹拌を0℃で2時間行った。次にさらに1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物0.255g(1.30mmol)を加えた。次に混合物を室温で21時間反応させた。ポリマー混合物をTHF56mlで希釈し,ジエチルエーテル2000mlで沈殿させ,濾過により回収した。ポリマーを水3500mlでTHF(160ml)から沈殿させ,真空下,室温で乾燥後,ポリアミック酸1 9.42gを白色の粉末の形態で得た;[η]=0.50dL/g
例9と同様にして,ポリアミック酸の調製のため,以下のジアミンを1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とともに使用した。
・・・
2-(2,4-ジアミノフェニル)エチル(2E)3-{4-[(4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}アクリラート
・・・
は,ポリアミック酸17を白色の粉末として生成した;[η]=0.50dL/g)

「EXAMPLE 18
Polymerisation Step B (Formation of the Polvimide)
0.50 g of Polyamic Acid No. 1 obtained in above EXAMPLE 9 are dissolved in 3 ml of 1-methyl-2-pyrrolidon (NMP). Thereto are added 0.28 g (3.57 mmol, 4 equivalent) of pyridine and 364 mg (3.57 mmol, 4 equivalent) acetic acid anhydride, and the dehydration and ring closure is carried out at 80 ℃ for 2 h. The polymer mixture is diluted with 1.5 ml NMP, precipitated into 100 ml diethyl ether and collected by filtration. The polymer is reprecipitated from THF (10 ml) into 200 ml water to yield, after drying at room temperature under vacuum, 0.55 g Polyimide No 1 ; [η] = 0.50 dL/g, Imidization degree ID=100%

Analogous to the polymerization step of EXAMPLE 18 the following polyamic acids are used for the preparation of partially imidizated polyimide. The imidization degree is adjusted with the ratio of acetic acid anhydride and pyridine.
・・・
Polyamic acid 17 yield Polyimide 17 as white powder; [η] = 0.29 dL/g, ID=100%」(129頁22行?130頁21行)
(例18
重合工程B (ポリイミドの形成)
上記実施例9で得たポリアミック酸No.1 0.50gを,1-メチル-2-ピロリドン(NMP)3mlに溶解した。それに,ピリジン0.28g(3.57mmol,4当量)および無水酢酸364mg(3.57mmol,4当量)を加え,脱水および閉環を80℃で2時間行った。ポリマー混合物をNMP1.5mlで希釈し,ジエチルエーテル100mlに沈殿させ,濾過により回収した。ポリマーをTHF(10ml)から水200ml中で再沈殿させ,室温で,真空下で乾燥後,ポリイミドNo 1 0.55gを得た;[η]=0.50dL/g,イミド化度ID=100%
【0416】
実施例18の重合工程と同様にして,以下のポリアミック酸を部分的にイミド化したポリイミドの調製に使用した。イミド化度を無水酢酸およびピリジンの比で調整した。
【0417】
・・・
ポリアミック酸17は,ポリイミド17を白色の粉末として生成した;[η]=0.29dL/g,ID=100%)

イ 上記アの実施例9及び実施例18の記載から,甲3には,次の発明(以下「甲3発明」という)が記載されていると認められる。
「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 と2-(2,4-ジアミノフェニル)エチル(2E)3-{4-[(4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}アクリラート(以下「甲1ジアミン」という。)とを反応させて得たポリアミック酸をさらにイミド化して得た化合物。」


(3)甲5
ア 甲5には,次の事項が記載されている。



」(31頁,スキーム1の最終生成物)

「実施例7
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物4.5g(0.02モル)およびジアミンとして化合物(3A-1)10g(0.02モル)をN-メチル-2-ピロリドン44gに溶解し(反応濃度25重量%),室温で5日間反応を行うことにより,ポリアミック酸(CPA-1)を含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し,N-メチル-2-ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は27mPa・sであった。」(44頁14?21行)

「<他のポリアミック酸の合成例>
合成例1
テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物109g(0.50モル)および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物98g(0.50モル)ならびにジアミンとして4,4-ジアミノジフェニルエーテル200g(1.0モル)をN-メチル-2-ピロリドン230gおよびγ?ブチロラクトンからなる混合溶媒に2,060gに溶解し,40℃で3時間反応を行った後,γ?ブチロラクトン1,350gを追加することにより,ポリアミック酸(PA-1)を10重量%含有する溶液約3,800gを得た。この溶液の溶液粘度は200mPa・sであった。」(45頁16行?46頁4行)

「<液晶配向剤の調製>
実施例14
上記式(1)または(2)で表される基を有する重合体として上記実施例7で得たポリアミック酸(CPA-1)を含有する溶液の(CPA-1)に換算して100重量部に相当する量と,他の重合体として上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)を含有する溶液の(PA-1)に換算して400重量部に相当する量とを合わせ,これにγ?ブチロラクトン,1-メチル-2-ピロリドンおよびブチルセロソルブを加え,溶媒組成がγ-ブチロラクトン/1-メチル-2-ピロリドン/ブチルセロソルブ=20/30/50(重量比),固形分濃度が3.0重量%の溶液とした。
この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより,液晶配向剤A-1を調製した。」(47頁25行?46頁8行)

イ したがって,甲5には,実施例14として,次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物およびジアミンとして化合物(3A-1)
を反応させて得たポリアミック酸(CPA-1)と,テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物ならびにジアミンとして4,4-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得たポリアミック酸(PA-1)とを含む,液晶配向剤A-1。」


4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「液晶の配向のための光配向組成物」は,「液晶配向剤」という概念で,訂正発明1における「液晶配向剤」と共通する。

甲1の表1に記載された光反応性化合物1)の構造式はポリイミドを表していること,及び上記3(2)の甲3の実施例18の記載を踏まえると,甲1発明における「光反応性化合物1)」は,「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物」と「甲1ジアミン」とを反応させて得たポリアミック酸をさらにイミド化して得た化合物であると解される。
ここで上記の甲1ジアミンの光反応性構造(すなわち,甲1ジアミンの構造のうち,(2,4-ジアミノフェニル)エチル基を除いた部分)は,訂正発明1における式(A-2-1)中,
dを1,
e,fを0,
iを0,
jを1,
X^(III)を-O-,
R^(I)を水素原子の一部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数4のアルキル基
とした構造に相当する。
さらに,甲1発明における光反応性化合物1)を合成するための「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物」は,訂正発明1における「式(G)」で表される化合物ではない。

そうすると,甲1発明における「国際公開第07/071091号の実施例9及び18に記載されているように調製した光反応性化合物1)を含む光反応性化合物(II)」と,訂正発明1における(A)の「テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミン・・・を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸A」とは,訂正発明1における式(A-2-1)で表される構造の光反応性構造を有する化合物である点で共通する。

甲1発明における「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸である化合物(II)a)」は,訂正発明1における(B)のテトラカルボン酸二無水物の選択肢の一つである「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物」と,同じくジアミンの選択肢の一つである「4,4’-ジアミノジフェニルエーテル」とを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」に相当する。

甲1発明において,「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを反応させて得たポリアミド酸である化合物a)」は,「国際公開第07/071091号の実施例9及び18に記載されているように調製した光反応性化合物1)」とは異なる化合物である。

したがって,訂正発明1と甲1発明とは,次の点で一致する。
[一致点]
「(A)テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られる化合物および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する液晶配向剤であって,
前記ポリアミック酸Aの有する光反応性構造が下記式(A-2-1)
【化2】

dを1,
e,fを0,
iを0,
jを1,
X^(III)を-O-,
R^(I)を水素原子の一部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数4のアルキル基

(式(A-2-1)中,dは1,eは0の整数であり,fは0の整数であり,
R^(I)は,水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数4のアルキル基であり,
X^(III)は,-O-であり,
iは0の整数であり,
jは1であり,そして
「+」は,それぞれ,結合手であることを示す。)
で表される構造であり,
ただし,
上記光反応性構造が上記式(A-2-1)で表される構造であるときには,ポリアミック酸Aを合成するためのテトラカルボン酸二無水物が下記式(G)
【化14】

で表される化合物である場合を除く,前記液晶配向剤。」

そして,両者は次の点で相違する。
[相違点1-1]
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,訂正発明1においては,光反応性構造を有するジアミンを「50?99モル%を含む」と特定され,さらに,「光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり」と特定されているのに対し,甲1発明においてはこれらの特定がない点。

[相違点1-2]
(A)のテトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られる化合物について,訂正発明1においては「ポリアミック酸」と特定されているのに対し,甲1発明における「光反応性化合物1)」は,前記したとおりポリアミック酸をさらにイミド化して得た化合物であると解されるところ,その光反応性化合物1)を含む「光反応性化合物(II)」が「ポリアミック酸」といえるか不明な点。

[相違点1-3]
(A)と(B)の2種類のポリアミック酸の含有量について,訂正発明1においては,(A)のポリアミック酸Aが「20?70重量%」で,(B)のポリアミック酸Bが「80?30重量%」と特定されているのに対し,甲1発明においては,(A)のポリアミック酸に相当する光反応性化合物(II)が「5重量%」で,(B)のポリアミック酸に相当する化合物(II)が「95重量%」である点。

まず,上記相違点1-1が実質的な相違点であるか検討する。
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることは,甲1には記載も示唆もされていないし,技術常識であるとも認められない。
したがって,上記相違点1は実質的な相違点であると認められる。

よって,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,訂正発明1は甲1発明と同一とはいえない。

訂正発明2ないし4は,訂正発明1を引用して特定されており,訂正発明1の発明特定事項をすべて備えている。
したがって,訂正発明2ないし4も,訂正発明1と同様に,甲1発明と同一とはいえない。

イ 理由2(特許法第29条第2項)について
(ア)甲1を主たる引用例として
上記相違点1-1に係る訂正発明1の構成が,当業者が容易に想到し得るものといえるか検討する。
上記のとおり,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることは,甲1には記載も示唆もされていないし,技術常識であるとも認められない。
甲3には,前記した甲3発明におけるように,光反応性構造を有するジアミンである甲1ジアミンと,テトラカルボン酸二無水物である1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 とを反応させてポリアミック酸を得ることが記載されているが,光反応性構造を有するジアミンとともに「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることについては記載も示唆もされていない。
したがって,甲1発明において,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用い,相違点1-1に係る訂正発明1の構成とすることは,甲3を参照しても当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,訂正発明1は甲1発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

訂正発明2ないし4は,訂正発明1の発明特定事項をすべて備えているから,訂正発明2ないし4も,訂正発明1と同様に,甲1発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲5を主たる引用例として
訂正発明1と甲5発明とを対比する。

甲5発明における「液晶配向剤A-1」は,「液晶配向剤」との概念で,訂正発明1における「液晶配向剤」と共通する。

甲5発明における「2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物」は,訂正発明1における(A)の「テトラカルボン酸二無水物」に相当する。

甲5発明における「ポリアミック酸(CPA-1)」と,訂正発明1における「ポリアミック酸A」は,「テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸」である点で共通する。

甲5発明における「テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物ならびにジアミンとして4,4-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得たポリアミック酸(PA-1)」は,訂正発明1における(B)の「テトラカルボン酸二無水物」の選択肢の一つである「1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物」と,ジアミンのの選択肢の一つである「4,4’-ジアミノジフェニルエーテル」を「反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」に相当する。
甲5発明において,「ポリアミック酸(CPA-1)」及び「ポリアミック酸(PA-1)」の含有量は,それぞれ「100重量部」及び「400重量部」であり,含有比率で表すとそれぞれ「20重量%」及び「80重量%」である。したがって,甲5発明における「ポリアミック酸(CPA-1)」及び「ポリアミック酸(PA-1)」のそれぞれの含有比率は,訂正発明1における「ポリアミック酸A」及び「ポリアミック酸B」のそれぞれの含有比率と「20重量%」及び「80重量%」という数値で一致する。

甲5発明における「化合物(3A-1)」は,化学式からみて「光反応性構造を有するジアミン」であることは明らかであるが,その光反応性構造は,訂正発明1における式(A-2-1)及び(A-2-2)で表される構造のいずれにも該当しない。

したがって,訂正発明1と甲5発明は,次の点で一致する。
[一致点]
「(A)テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸Aを20重量%,および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)を80重量%で含有する液晶配向剤。」

そして,両者は次の点で相違する。
[相違点5-1]
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,訂正発明1においては,光反応性構造を有するジアミンを「50?99モル%を含む」と特定され,さらに,「光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり」と特定されているのに対し,甲5発明においてはこれらの特定がない点。

[相違点5-2]
光反応性構造について,訂正発明1においては,「式(A-2-1)および(A-2-2)」「のそれぞれで表される構造から選択される少なくとも1種の構造で表される構造であり」と特定されているのに対し,甲5発明における「化合物(3A-1)」の光反応性構造は当該構造を有していない点。

上記相違点5-1に係る訂正発明1の構成が,当業者が容易に想到し得るものといえるか検討する。
光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることは,甲5には記載も示唆もされていないし,技術常識であるとも認められない。
甲3には,前記した甲3発明におけるように,光反応性構造を有するジアミンである甲1ジアミンと,テトラカルボン酸二無水物である1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物 とを反応させてポリアミック酸を得ることが記載されているが,光反応性構造を有するジアミンとともに「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用いることについては記載も示唆もされていない。
したがって,甲5発明において,光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンについて,光反応性構造を有するジアミンに加えて,「3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル」又は「1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン」を用い,相違点5-1に係る訂正発明1の構成とすることは,甲3を参照しても当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって,相違点5-2について検討するまでもなく,訂正発明1は甲5発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

訂正発明2ないし4は,訂正発明1の発明特定事項をすべて備えているから,訂正発明2ないし4も,訂正発明1と同様に,甲5発明と甲3に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


ウ 理由3(特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号)について
(ア)本件特許の明細書又は特許請求の範囲の記載の不備について,取消理由通知に記載した点の要旨は次のとおりである。
1 本件発明の課題と解決手段について
本件発明が解決しようとする課題は,「光配向法によって良好なプレチルト特性を得ることができ,しかも長時間連続駆動した場合であっても表示性能の劣化を来たさない液晶配向膜を与える液晶配向剤を提供すること」及び「印刷性に優れた液晶配向剤を提供すること」(本件明細書【0006】)である。しかしながら,本件明細書の記載は以下の情報の開示が十分でないから,本件発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができない。
a)合成例1?31(【0070】,表1)及び比較合成例1?15(【0071】,表2)には,得られたポリマーの構造,ポリマー鎖中の光反応性部分の分布や量についての記載はない(特に2種のアミンを使用している場合)。
b)実施例35?65(【0089】)及び比較実施例18?32(【0090】)では,液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残存DC電圧についての検討は成されていない。
c)印刷性の評価の基準が明確でない。

2 「光反応性構造」について
本件明細書には,本件発明1ないし4の式(A-2-1)及び(A-2-2)のA^(2),X^(II)及びR^(III)を有する光反応性構造を有するジアミンは具体例が記載されておらず,本件発明1ないし4の式(A-2-1)及び(A-2-2)は,実施例により具体的に裏付けられていない非常に多くの実施形態を含むものである。したがって,当業者は,本件発明1ないし4で特定された光反応性構造を有するポリアミック酸全般にわたり,本件発明の課題を解決できることを推認することができないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができない。

3 「ポリアミック酸B」について
本件明細書において,実施例で使用された「ポリアミック酸B」は「OPA-2」のみである。したがって,本件発明1ないし4の「ポリアミック酸B」として,「OPA-2」以外を使用する態様まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできない。

4 液晶配向剤中の光反応性構造,ポリアミック酸A及びポリアミック酸Bの量について
本件明細書に記載された実施例は,いずれも光反応性構造を有するジアミンを非常に多量に含んでいる。したがって,液晶配向剤中の光反応性構造又はポリアミック酸の量が何ら規定されていない本件発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができない。

(イ)理由3についての判断
上記(ア)1ないし4について検討する。
1 本件発明の課題と解決手段について
ポリアミック酸を含有する液晶配向剤の技術分野において,出発物質の重量,溶液中のジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の合計重量の濃度,反応温度および時間並びに得られた溶液の粘度が記載されていれば,当業者の技術常識に基づいて,その粘度に相当する重合度のポリアミック酸が得られることは十分に理解することができ,また光反応性部分の分布や量は使用するジアミンの種類や量に依存することも十分に理解することができるといえる。そうすると,液晶配向剤の具体的組成及びそれと関連する技術的課題との関係もまた本件明細書の表2に記載された上記出発物質の重量等の情報に基づいて当業者が容易に理解することができるといえる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,訂正発明1ないし4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
本件明細書の実施例35?65で印刷性が評価されているポリアミック酸(PA-1)?(PA-31)についての,液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残留DC電圧については,実施例1?34において評価されている(表3参照)。比較実施例18?32で印刷性が評価されているポリアミック酸(PR1-1)?(PR1-15)についての,液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残留DC電圧については,比較例1?17において評価されている(表4参照)。したがって,これら液晶配向剤の具体的組成により,訂正発明1ないし4によって発明の課題が解決できることを当業者は確認することができる。
本件明細書には,印刷性を評価する方法として,段落【0088】に,「この塗膜を倍率20倍の顕微鏡で観察して印刷ムラおよびピンホールの有無を調べたところ,印刷ムラおよびピンホールとも観察されず,印刷性は良好であった。」と記載され,印刷性は印刷ムラとピンホールの有無とを基準として評価されたことが記載されている。すなわち,顕微鏡下で観察して印刷ムラとピンホールが観察されないときには,印刷性が良好である,と評価され,これに対し,印刷ムラとピンホールの両方が観察される場合には,比較例18?33に記載されているように印刷性は不良と評価されることが理解される。このように,本件発明では,印刷ムラの存在を問題にしていることが理解されるので,印刷性の評価の基準が明確でないとはいえない。
また,上記したところから明らかなとおり,訂正発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載した実施例1?65の具体例(ただし,訂正によって参考例となった実施例16,20?30,51?61を除く。)により,裏付けられているといえる。
したがって,訂正発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないともいえないし,本件発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができないともいえない。

2 「光反応性構造」について
訂正によって,式(A-2-1)及び式(A-2-2)の変数fおよび1がいずれも「0の整数」と訂正されたので,訂正発明1ないし4は,A^(2),X^(II)及びR^(III)を持つ光反応性構造を有するジアミンを用いる態様をもはや包含しない。
したがって,訂正発明1ないし4について,発明の課題を解決できることを推認することができないともいえないし,訂正発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができないともいえない。

3 「ポリアミック酸B」について
本件明細書に記載された実施例1?15,17?19,31?34と従来の液晶配向剤である比較例1?17とを表3(段落【0085】,【0086】)と表4(段落【0087】)に記載された,表示性能(液晶配向性,電圧保持率,プレチルト角および残留DC電圧)について比較すると,残留DC電圧を除く表示性能は,実施例1?15,17?19,31?34と比較例1?17とで大きな違いはない。
一方,実施例35?50,62?65と比較例18?33とを比較すると,段落【0088】?【0091】に記載されているとおり,実施例35?50,62?65では,印刷ムラおよびピンホールが観察されず,印刷性が良好であるのに対し,比較例18?33では,印刷ムラおよびピンホールが観察され,印刷性が不良であることが理解される。
以上の実施例及び比較例はいずれもポリアミック酸Bとして「OPA-2」が用いられており,このことから,本件発明の液晶配向剤の優れた印刷性は,主に,光反応性構造を有するジアミンを用いたポリアミック酸Aの性能に依存することが理解される。そして,このようなポリアミック酸Aと併用されるポリアミック酸Bについては,その使用割合がプレチルト角耐光性と残留DC電圧に影響することが段落【0047】に記載されている。
上記の実施例ではいずれもポリアミック酸Bとして,OPA-2が用いられているが,ポリアミック酸Bが本件発明の課題のうちの「印刷性」に大きく影響するものではなく,またその使用割合を調製することによってプレチルト角耐光性と残留DC電圧を良好に維持することができることが段落【0047】の記載から理解できるから,実施例ではポリアミック酸BとしてOPA-2が用いられているだけであるものの,当業者は本件明細書の全体の開示および技術常識を勘案して,ポリアミック酸BとしてOPA-2以外のポリアミック酸Bを用いても当業者が本件発明の課題を解決できることを理解することができるといえる。
したがって,ポリアミック酸Bについて,訂正発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないとはいえない。

4 液晶配向剤中の光反応性構造,ポリアミック酸Aおよびポリアミック酸Bの量について
訂正によって,訂正発明1において,ポリアミック酸Aのジアミンとして,光反応性構造を有するジアミンが「50?99モル%」用いられること,及びポリアミック酸Aの使用割合が「20?70重量%」であることが特定された。
このように,訂正発明1では,液晶配向剤中の光反応性構造の量およびポリアミック酸Aとポリアミック酸Bの量が特定されている。
したがって,訂正発明1ないし4の範囲まで,発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化することはできないともいえないし,訂正発明1ないし4を過度の試行錯誤なく実施することができないともいえない。

上記のとおりであるから,本件特許が,特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は,本件発明1は,物の発明であるところ,「・・・反応させて得られる」との特定を含んでいるから,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」であるとし,本件発明1ないし4は不明確であり,特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら,訂正発明1における「テトラカルボン酸二無水物と,光反応性構造を有するジアミン・・・を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸A」との記載,及び「テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物,または1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と,2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル,p-フェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし,上記ポリアミック酸Aは除く)」との記載は,いずれも単に反応後の状態を示すことによりポリアミック酸A及びポリアミック酸Bの構造を特定しているに過ぎないものと認められ,「その物の製造方法が記載されている場合」に該当しない。
そして,上記の記載によって特定される「ポリアミック酸A」及び「ポリアミック酸B」の構造は,明確に把握できる。
したがって,申立人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶配向剤
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶配向剤に関する。さらに詳しくは、印刷性に優れ、かつ、長時間連続駆動した場合であっても表示性能の劣化を来たさない液晶配向膜を与える液晶配向剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子の動作モードとしては、正の誘電異方性を有する液晶分子を用いるTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型など、および負の誘電異方性を有する液晶分子を用いるVA(Vertical Alignment)型などが知られており、それぞれ液晶分子の配向制御のために主として有機膜からなる液晶配向膜が使用されている(特許文献1?4)。
上記TN型、STN型などにおける液晶配向膜は液晶分子の高速応答のため、上記VA型などにおける液晶配向膜は液晶駆動時の傾き方向を一定とするため、それぞれプレチルト角特性を有する必要がある。このプレチルト角特性を付与する方法としては、前者においてはラビング法が、後者においてはラビング法、基板表面に突起物を設ける方法などによることが一般的であった。このうち、ラビング法は工程内で発生するほこりや静電気が表示不良や回路破壊の問題を引き起こす場合があり、一方、基板表面に突起物を設ける方法は得られる液晶表示素子の輝度が損なわれる場合があるなど、いずれも問題を有していた。
そこでこれらに代わるプレチルト角付与方法として、感光性薄膜に紫外線を膜法線に対して斜め方向から照射することによる、いわゆる光配向法が提案されている(特許文献5および非特許文献1)。
【0003】
近年、液晶表示素子は、特にテレビジョン用途への展開が急であり、従来の液晶表示素子と比較すると桁外れの長時間視聴が現実化してきている。ところが、従来知られている液晶表示素子を長時間連続駆動すると、表示品位が劣化することが知られている。その理由のひとつは、長時間駆動により液晶配向膜が長時間光に晒されることにより劣化することにあると考えられている。そのため液晶配向膜の分野においては、長時間連続駆動した場合でも表示性能の劣化を来たさない材料の検討がなされている。
例えば特許文献6では、架橋構造を有する配向膜材料の使用が提案されている。しかしながら、同文献の技術によっても長時間連続駆動した場合における表示品位劣化の抑制の程度は十分ではない。
また、液晶配向膜の製造に際して従来知られている液晶配向剤を使用すると、形成される塗膜に印刷ムラやピンホールなどの印刷不良が一定の確率で生じ、液晶配向膜製造の際の製品歩留まりが不十分であることが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56-91277号公報
【特許文献2】特開平1-120528号公報
【特許文献3】特開平11-258605号公報
【特許文献4】特開2002-250924号公報
【特許文献5】特開2004-83810号公報
【特許文献6】特開2008-216985号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. of the SID 11/3, 2003, p579
【非特許文献2】T. J. Scheffer et. al.J. Appl. Phys. vo. 19, p2013(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光配向法によって良好なプレチルト特性を得ることができ、しかも長時間連続駆動した場合であっても表示性能の劣化を来たさない液晶配向膜を与える液晶配向剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、印刷性に優れた液晶配向剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば本発明の上記目的および利点は、
(A)テトラカルボン酸二無水物と、光反応性構造を有するジアミン50?99モル%を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸Aを20?70重量%、および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、または1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし、上記ポリアミック酸Aは除く)を80?30重量%
で含有することを特徴とする液晶配向剤によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶配向剤は、光配向法を適用しうる液晶配向剤として従来知られている液晶配向剤と比較して、印刷性に優れており、かつ、長時間連続駆動した場合であっても表示性能の劣化を来たさない液晶配向膜を形成することができる。
それゆえ、本発明の液晶配向膜を液晶表示素子に適用した場合、得られる液晶表示素子は、その表示特性、信頼性などの諸性能に優れるものとなる。従って、該液晶表示素子は種々の装置に有効に適用することができ、例えば卓上計算機、腕時計、置時計、計数表示板、ワードプロセッサ、パーソナルコンピューター、液晶テレビなどの装置に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の液晶配向剤は、上記のとおり、
(A)テトラカルボン酸二無水物と、光反応性構造を有するジアミンを含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸A、および
(B)1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物と、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし、上記ポリアミック酸Aは除く)を含有する。
【0010】
[ポリアミック酸A]
<テトラカルボン酸二無水物>
本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.0^(2,6)]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオンなどを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを、それぞれ挙げることができるほか、特願2009-157556号に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0011】
前記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、これらのうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましく、特に2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を含むものであることが好ましい。
前記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物を、全テトラカルボン酸二無水物に対して、10モル%以上含むものであることが好ましく、20モル%以上含むものであることがより好ましい。
前記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物のみからなるものであるか、あるいは2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物および1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物のみからなるものであることが、最も好ましい。
【0012】
<ジアミン>
本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられるジアミンは、光反応性構造を有するジアミンを含む。
【0013】
上記光反応性構造は、光の照射によって異性化および二量化から選択される少なくとも一つの反応をしうる機能を有する構造であり、具体的には下記式(A-2)
【0014】
【化1】

【0015】
(式(A-2)中、dは0または1であり、A^(1)およびA^(2)は、それぞれ、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシル基、ハロゲン原子またはシアノ基であり、eは0?4の整数であり、fは0の整数であり、「+」は、それぞれ、結合手であることを示す。)
で表される構造である。
上記式(A-2)におけるA^(1)およびA^(2)としては、それぞれ、炭素数1?6のアルコキシル基またはハロゲン原子であることが好ましい。eおよびfは、それぞれ、0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
光反応性構造を有するジアミンは、さらに液晶分子を配向させる機能を有する部位を持っていることが好ましく、かかる部位をも具備する光反応性構造は、下記式(A-2-1)および(A-2-2)
【0016】
【化2】

【0017】
(式(A-2-1)および(A-2-2)中、A^(1)、A^(2)、d、eおよびfは、それぞれ、上記式(A-2)におけるのと同義であり、
R^(I)およびR^(II)は、それぞれ、水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1?40のアルキル基であり、
X^(II)およびX^(III)は、それぞれ、-O-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR-、-NR-CO-、-CO-NR-、-NR-CO-O-、-O-CO-NR-、-NR-CO-NR-または-O-CO-O-(ここで、Rは、水素原子または炭素数1?4のアルキル基である。)であり、
R^(III)は、それぞれ、メチレン基、アリーレン基、2価の脂環式基、-Si(CH_(3))_(2)-、-CH=CH-または-C≡C-であり、ただしR^(III)の有する水素原子の1個または2個以上は、シアノ基、ハロゲン原子または炭素数1?4のアルキル基に置換されていてもよく、hは1?6の整数であり、iは0の整数であり、上記X^(II)およびR^(III)が複数存在する場合には、これらは互いに同一であっても相異なっていてもよく、jは0または1であり、そして「+」は、それぞれ、結合手であることを示す。)
のそれぞれで表される構造から選択される少なくとも1種の構造である。
【0018】
上記式(A-2-1)および(A-2-2)におけるR^(I)およびR^(II)の水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1?40のアルキル基であり、炭素数1?40のアルキル基としては、例えば炭素数1?20のアルキル基、ただしこのアルキル基の水素原子の一部または全部はフッ素原子により置換されていてもよい、であることが好ましい。かかるアルキル基の例としては、例えばn-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ラウリル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、4,4,4-トリフロロブチル基、4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチル基、4,4,5,5,6,6,6-ヘプタフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロペンチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2-(パーフルオロブチル)エチル基、2-(パーフルオロオクチル)エチル基、2-(パーフルオロデシル)エチル基等を挙げることができる。
水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1?40のアルキル基としては、直鎖状または分岐状の炭素数1?16のフルオロアルキル基が好ましく、良好な液晶配向性を発現しうるとの観点から炭素数1?8の直鎖のフルオロアルキル基が好ましく、炭素数3?6の直鎖のフルオロアルキル基であることがさらに好ましい。例えば2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル基、4,4,4-トリフルオロ-n-ブチル基、4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-n-ペンチル基、4,4,5,5,6,6,6-ヘプタフルオロヘキシル基などを挙げることができ、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロ-n-プロピル基、4,4,4-トリフルオロ-n-ブチル基、4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-n-ペンチル基が好ましい。
X^(II)およびX^(III)は、それぞれ、-O-であることが好ましい。
光反応性構造を有するジアミンは、かかる光配向性構造を、一分子中に1個または2個以上有していればよく、かかる構造を1個または2個有するものであることが好ましい。
【0019】
かかる光反応性構造を有するジアミンの具体例としては、上記式(A-2-1)で表される構造を有するものとして、例えば下記式(A-2-1-1)?(A-2-1-27)
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。上記式(A-2-2)で表される構造を有するものは、本発明においては下記式(A-2-2-1)?(A-2-2-2)
【0029】
【化11】

【0030】
のそれぞれで表される化合物である。
【0031】
前記ポリアミック酸Aを合成するために用いられるジアミンとしては、前記光反応性構造を有するジアミン以外のジアミンを併用することができる。ここで使用することのできるその他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
【0032】
芳香族ジアミンとして、例えばp-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、
【0033】
4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-エチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N-フェニル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、
【0034】
オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ドデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、4-(4’-トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、
【0035】
1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサンおよび下記式(A-1)
【0036】
【化12】

(式(A-1)中、X^(I)は炭素数1?3のアルキル基、^(*)-O-、^(*)-COO-または^(*)-OCO-(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であり、aは0または1であり、bは0?2の整数であり、cは1?20の整数である。)
で表される化合物などを;
【0037】
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、
特願2009-157556号に記載のジアミンを用いることができる。
【0038】
上記式(A-1)におけるX^(I)は炭素数1?3のアルキル基、^(*)-O-または^(*)-COO-(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。基C_(c)H_(2c+1)-の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4-位または3,5-位にあることが好ましい。
上記式(A-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(A-1-1)?(A-1-4)
【0039】
【化13】

【0040】
のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
上記式(A-1)において、aおよびbは同時に0にはならないことが好ましい。
【0041】
[ジアミンの組成]
本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられるジミアンは、前記光反応性構造を有するジアミンを含むものであり、任意的にその他のジアミンの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。上記その他のジアミンは3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンである。
本発明におけるポリアミック酸Aを合成するために用いられる光反応性構造を有するジアミンは、全ジアミンに対して、50?99モル%含むものであり、特に80?95モル%含むものであることが好ましい。
【0042】
[分子量調節剤]
前記ポリアミック酸Aを合成するに際して、上記の如きテトラカルボン酸二無水物およびジミアンとともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成することとしてもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)を改善することができる。
前記分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。
【0043】
これらの具体例としては、酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n-デシルサクシニック酸無水物、n-ドデシルサクシニック酸無水物、n-テトラデシルサクシニック酸無水物、n-ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを;
モノアミン化合物として、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミンなどを;
モノイソシアネート化合物として、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを、それぞれ挙げることができる。
分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計100重量部に対して、20重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下とすることがより好ましい。
【0044】
<ポリアミック酸Aの合成>
ポリアミック酸Aの合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2?2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは0.3?1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは-20℃?150℃、より好ましくは0?100℃において、好ましくは0.1?120時間、より好ましくは0.5?48時間行われる。
ここで、有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン性極性溶媒;m-クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール性溶媒を挙げることができる。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1?50重量%になるような量であることが好ましい。
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。
この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0045】
[ポリアミック酸B]
ポリアミック酸Bは1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物と、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるものである。
【0046】
前記ポリアミック酸Bを合成するために、前記特定テトラカルボン酸二無水物およびジアミン以外のテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを併用することができる。ここで使用することのできるその他のジアミンとしては、例えばポリアミック酸Aを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物およびジアミンとして上述したもの(ただし、光反応性構造を有するジアミンは含まない)と同様のものを挙げることができる。
ポリアミック酸Bを合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物を、使用する全テトラカルボン酸二無水物に対して50モル%以上含むものであることが好ましく、80モル%以上含むものであることがより好ましい。
ポリアミック酸Bを合成するために用いられるジアミンは、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを、使用する全ジアミンに対して50モル%以上含むものであることが好ましく、80モル%以上含むものであることがより好ましい。
ポリアミック酸Bは上記ポリアミック酸Aと同様にして合成することができる。
【0047】
上記ポリアミック酸Aを、上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして20?70重量%含有し、20?50重量%含有することがより好ましい。上記ポリアミック酸Aの使用割合が、上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして10重量%未満ではプレチルト角耐光性に劣る場合があり、70重量%より多いと残留DC電圧が大きくなる場合がある。
【0048】
<その他の成分>
本発明の液晶配向膜は、上記の如き特定重合体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば上記特定重合体以外の重合体(以下、「他の重合体」という。)、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という。)、官能性シラン化合物などを挙げることができる。
【0049】
[その他の重合体]
上記他の重合体は、溶液特性および電気特性の改善のために使用することができる。かかる他の重合体は、上記の如き特定重合体以外の重合体であり、ポリアミック酸A、ポリアミック酸B以外のポリアミック酸(以下、「他のポリアミック酸」という。)、ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらのうち、他のポリアミック酸が好ましい。
【0050】
[エポキシ化合物]
上記エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6-テトラグリシジル-2,4-ヘキサンジオール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N-ジグリシジル-ベンジルアミン、N,N-ジグリシジル-アミノメチルシクロヘキサンなどを好ましいものとして挙げることができる。これらエポキシ基含有化合物の配合割合は、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、より好ましくは0.1?30重量部である。
【0051】
[官能性シラン化合物]
上記官能性シラン化合物としては、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、
【0052】
10-トリメトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、10-トリエトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、9-トリメトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、9-トリエトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
これら官能性シラン化合物の配合割合は、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは2重量部以下であり、より好ましくは0.02?0.2重量部である。
【0053】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の如き特定重合体ならびに必要に応じて任意的に配合されるその他の添加剤が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
本発明の液晶配向剤に使用できる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成反応に用いられるものとして例示した溶媒を挙げることができる。また、従来ポリアミック酸およびポリイミドの貧溶媒であると信じられている有機溶媒も適宜選択して併用することができる。かかる有機溶媒の好ましい例としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、
【0054】
エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチルカルビトール、エトキシエチルプロピオネート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これらは単独で使用することができ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
本発明の液晶配向剤の固形分濃度(液晶配向剤のうち有機溶媒を除いた成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1?10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、これを基板表面に塗布し、有機溶媒を除去することにより液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得難くなる場合があり、一方固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって同様に良好な液晶配向膜を得難くなる場合があり、また液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる場合がある。
【0056】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えば、スピンナー法による場合には1.5?4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3?9重量%の範好ましい。
【0057】
<液晶配向膜の形成方法>
本発明の液晶配向剤は、光配向法により液晶配向膜を形成するために好適に使用することができる。
液晶配向膜を形成する方法としては、例えば液晶配向剤を基板上に塗付して塗膜を形成し、該塗膜に、偏光もしくは非偏光の紫外線を塗膜面に対して斜めから照射するか、または偏光紫外線を塗膜面に対して垂直方向から照射して塗膜に液晶配向能を付与する方法を挙げることができる。
【0058】
まず、パターン状の透明導電膜が設けられた基板の透明導電膜側に、本発明の液晶配向剤を、例えばロールコーター法、スピンナー法、印刷法、インクジェット法などの適宜の塗布方法により塗布する。塗布後、該塗布面を、予備加熱(プレベーク)し、次いで焼成(ポストベーク)することにより塗膜を形成する。プレベーク条件は、例えば40?120℃において0.1?5分であり、ポストベーク条件は、好ましくは120?300℃、より好ましくは150?250℃において、好ましくは5?200分、より好ましくは10?100分である。ポストベーク後の塗膜の膜厚は、好ましくは0.001?1μmであり、より好ましくは0.005?0.5μmである。
前記基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスの如きガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートの如きプラスチックなどからなる透明基板などを用いることができる。
【0059】
前記透明導電膜としては、SnO_(2)からなるNESA膜、In_(2)O_(3)-SnO_(2)からなるITO膜などを用いることができる。これらの透明導電膜のパターニングには、フォト・エッチング法や透明導電膜を形成する際にマスクを用いる方法などが用いられる。
液晶配向剤の塗布に際しては、基板または透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板および透明導電膜上に、予め官能性シラン化合物、チタネート化合物などを塗布しておいてもよい。
【0060】
次いで塗膜に、偏光または非偏光の紫外線を照射することにより、液晶配向能を付与して前記塗膜は液晶配向膜となる。ここで、放射線としては、例えば150?800nmの波長の光を含む紫外線および可視光線を用いることができるが、300?400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。用いる放射線が偏光(直線偏光または部分偏光)している場合には、塗膜面に対して垂直方向から照射してもプレチルト角付与のために斜め方向から照射してもよい。一方、非偏光の放射線を照射する場合には、照射は塗膜面に対して斜め方向から行う必要がある。
【0061】
照射放射線の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザーなどを使用することができる。前記の好ましい波長領域の紫外線は、前記光源を、例えばフィルター、回折格子などと併用する手段などにより得ることができる。
【0062】
放射線の照射量としては、好ましくは1J/m^(2)以上10,000J/m^(2)未満であり、より好ましくは10?3,000J/m^(2)である。なお、従来知られている液晶配向剤から形成された塗膜に光配向法により液晶配向能を付与する場合、10,000J/m^(2)以上の放射線照射量が必要であった。しかし本発明の液晶配向剤を用いると、光配向法の際の放射線照射量が3,000J/m^(2)以下、さらに1,000J/m^(2)以下、さらには300J/m^(2)以下であっても良好な液晶配向能を付与することができ、液晶表示素子の製造コストの削減に資する。
【0063】
<液晶表示素子の製造方法>
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備するものである。本発明の液晶表示素子は、例えば以下のようにして製造することができる。
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、この2枚の基板間に液晶を配置することにより、液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
【0064】
第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止することにより、液晶セルを製造することができる。
第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、さらに液晶配向膜面上に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせ、次いで基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化することにより、液晶セルを製造することができる。
【0065】
いずれの方法による場合でも、次いで、液晶セルを、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより、本発明の液晶表示素子を得ることができる。ここで、液晶配向膜が水平配向性である場合、液晶配向膜が形成された2枚の基板における、照射した直線偏光放射線の偏光方向のなす角度およびそれぞれの基板と偏光板との角度を調整することにより、TN型またはSTN型液晶セルを有する液晶表示素子を得ることができる。一方、液晶配向膜が垂直配向性である場合には、液晶配向膜が形成された2枚の基板における配向容易軸の方向が平行となるようにセルを構成し、これに、偏光板を、その偏光方向が配向容易軸と45°の角度をなすように貼り合わせることにより、垂直配向型液晶セルを有する液晶表示素子とすることができる。
【0066】
前記シール剤としては、例えばスペーサーとしての酸化アルミニウム球および硬化剤を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
前記液晶としては、例えばネマティック型液晶、スメクティック型液晶などを好ましく用いることができる。
TN型液晶セルまたはSTN型液晶セルの場合、正の誘電異方性を有するネマティック型液晶が好ましく、例えばビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などが用いられる。また前記液晶に、例えばコレステリルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名「C-15」、「CB-15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p-デシロキシベンジリデン-p-アミノ-2-メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、さらに添加して使用してもよい。
【0067】
一方、垂直配向型液晶セルの場合には、負の誘電異方性を有するネマティック型液晶が好ましく、例えばジシアノベンゼン系液晶、ピリダジン系液晶、シッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶などが用いられる。
液晶セルの外側に使用される偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と呼ばれる偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、またはH膜そのものからなる偏光板などを挙げることができる。
かくして製造された本発明の液晶表示素子は、表示性能に優れ、長時間使用しても表示性能が劣化することがない。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
以下の合成例における重合体の溶液粘度、ポリイミドのイミド化率は、それぞれ下記の方法により評価した。なお、実施例16は、ポリアミック酸AであるPA-16の使用量が10重量%であり、参考例である。また、実施例20?30および51?61はいずれも光反応性構造を有するジアミンが100モル%のジアミンを使用したポリアミック酸(ポリアミック酸A)を用いたものであり、参考例である。
【0069】
[重合体の溶液粘度]
重合体の溶液粘度(mPa・s)は、各重合体溶液についてE型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
各合成例で得たポリイミドを含有する溶液を少量分取して純水に投入し、得られた沈殿をろ過により回収することによりポリイミドを単離した。このポリイミドを室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で測定した^(1)H-NMRから、下記数式(1)により求めた。
イミド化率(%)=(1-A^(1)/A^(2)×α)×100 (1)
(数式(1)中、A^(1)は10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、A^(2)はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αはポリイミドの前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。
【0070】
<重合体の合成例および比較合成例>
[ポリアミック酸Aの合成]
合成例1?31
N-メチル-2-ピロリドン135gに、第1表に示した種類および量のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を、この順に加えて溶解し、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の合計重量が、反応溶液の全重量に対して10重量%である溶液とし、これを60℃で6時間反応させることにより、ポリアミック酸(PA-1)?(PA-31)をそれぞれ10重量%含有する溶液各150gをそれぞれ得た。ここで得られた各溶液の粘度を第1表に併せて示した。
【0071】
[ポリイミドの合成]
比較合成例1?15
N-メチル-2-ピロリドン135gに、第2表に示した種類および量のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を、この順に加えて溶解し、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の合計重量が、反応溶液の全重量に対して10重量%である溶液とし、これを60℃で6時間反応させることにより、ポリアミック酸10重量%含有する溶液各150gをそれぞれ得た。ここで得られた各溶液の粘度を第1表に併せて示した。
【0072】
次いで、これら各ポリアミック酸を含有する溶液のそれぞれに、第2表に示した量のピリジンおよび無水酢酸をそれぞれ添加し、110℃において4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN-メチル-2-ピロリドンで溶媒置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジンおよび無水酢酸を系外に除去した。)することにより、ポリイミド(RPI-1)?(RPI-15)をそれぞれ15重量%含有する溶液を得た。各溶液の収量、各溶液の少量をそれぞれ分取してN-メチル-2-ピロリドンを加えて10重量%に希釈して測定した溶液粘度および各ポリイミドのイミド化率を、それぞれ第2表に併せて示した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
なお、第1表および第2表において、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の略称は、それぞれ以下の意味である。
[ジアミン]
第二のジアミン
d-1:上記式(A-2-1-1)で表される化合物
d-2:上記式(A-2-1-2)で表される化合物
d-3:上記式(A-2-1-3)で表される化合物
d-4:上記式(A-2-1-4)で表される化合物
d-5:上記式(A-2-2-1)で表される化合物
d-6:上記式(A-2-1-5)で表される化合物
d-7:上記式(A-2-1-6)で表される化合物
d-8:上記式(A-2-1-7)で表される化合物
d-9:上記式(A-2-1-8)で表される化合物
d-10:上記式(A-2-1-9)で表される化合物
d-11:上記式(A-2-1-10)で表される化合物
d-12:上記式(A-2-1-11)で表される化合物
d-13:上記式(A-2-1-12)で表される化合物
d-14:上記式(A-2-1-13)で表される化合物
第一のジアミン
d-15:3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル
d-16:1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン
d-17:3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル
【0077】
[テトラカルボン酸二無水物]
t-1:1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、
t-2:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
t-3:2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
[ポリアミック酸Bの合成]
合成例OPA-1
テトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物98g(0.50モル)およびピロメリット酸二無水物110g(0.50モル)ならびにジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルメタン200g(1.0モル)をN-メチル-2-ピロリドン230gおよびγ?ブチロラクトンからなる混合溶媒2,100gに溶解し、40℃で3時間反応を行った後、γ?ブチロラクトン1,350gを追加することにより、ポリアミック酸(OPA-1)を10重量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は125mPa・sであった。
【0078】
合成例OPA-2
テトラカルボン酸二無水物として1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物200g(1.0モル)およびジアミンとして2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル210g(1.0モル)をN-メチル-2-ピロリドン370gおよびγ?ブチロラクトン3,300gからなる混合溶媒に溶解し、40℃で3時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(OPA-2)を10重量%含有する溶液を得た。このポリアミック酸溶液の溶液粘度は160mPa・sであった。
【0079】
[ポリイミドの合成]
合成例OPI-3
テトラカルボン酸二無水物として2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物 110g(0.50モル)、ジアミン化合物としてp-フェニレンジアミン43g(0.40モル)および3(3,5-ジアミノベンゾイルオキシ)コレスタン52g(0.10モル)を、N-メチル-2-ピロリドン830gに溶解させ、60℃で6時間反応させた。 得られたポリアミック酸溶液を小量分取し、N-メチル-2-ピロリドンを加えて固形分濃度10%の溶液で粘度を測定したところ、60mPa・sであった。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMP1900gを追加し、ピリジン40gおよび無水酢酸51gを添加し110℃で4時間脱水閉環させた。イミド化反応後、系内の溶剤を新たなN-メチル-2-ピロリドンで溶剤置換し(本操作にてイミド化反応に使用したピリジン、無水酢酸を系外に除去した)、イミド化率約50%のポリイミド(OPI-3)を約15重量%含有する溶液を得た。得られたポリイミド溶液を少量分取し、N-メチル-2-ピロリドンを加えてポリイミド濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度は47mPa・sであった。
【0080】
実施例1
I.液晶配向剤の調製
重合体として、上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)を含有する溶液および上記合成例OPA-2で得たポリアミック酸(OPA-2)を含有する溶液を、ポリアミック酸(PA-1):ポリアミック酸(OPA-2)=20:80(重量比)になるように混合し、これにγ-ブチロラクトン(BL)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)およびジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)を加えて十分に撹拌し、溶媒組成がBL:NMP:DEDG=30:20:50(重量比)、固形分濃度が3重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤を調製した。
【0081】
III.液晶セルの製造
上記で調製した液晶配向剤をITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面にスピンコート法により塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、庫内を窒素置換した200℃のオーブン中で40分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚1,000Åの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプおよびグランテーラープリズムを用いて波長313nmの輝線を含む偏光紫外線200J/m^(2)を、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向性を付与し、液晶配向膜とした。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)製造した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向配置し、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化した。次いで、液晶注入口より基板間の間隙に、ネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃まで加熱してから室温まで徐冷することにより、液晶セルを製造した。
この液晶セルにつき、以下の方法により液晶配向性、プレチルト角および電圧保持率をそれぞれ評価した。評価結果は第3表に示した。
【0082】
IV.液晶セルの評価
(1)液晶配向性
上記で製造した液晶セルに対し、25℃において5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの異常ドメインの有無を偏光顕微鏡により観察し、異常ドメインのない場合を液晶配向性「良好」として評価した。
(2)電圧保持率
上記で製造した液晶セルに対し、70℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を、(株)東陽テクニカ製の「VHR-1」により測定した。
【0083】
(3)プレチルト耐光性の評価
上記で製造した液晶セルに対し、非特許文献2(T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo.19, p2013(1980))に記載の方法に準拠し、He-Neレーザー光を用いる結晶回転法によってプレチルト角を測定した(初期プレチルト角(θ_(IN)))。次いで該液晶セルに対しカーボンアークを光源とするウェザーメーターで5、000時間照射実験を実施し、上記と同様の方法により再度プレチルト角を測定した(照射後プレチルト角(θ_(AF)))。
【0084】
(4)残留DC電圧
上記で製造した液晶セルに対し、直流5Vを重畳した30Hz、3Vの矩形波を60℃の環境温度で2時間印加し、直流電圧を切った直後の液晶セル内に残留した電圧(残留DC電圧)をフリッカ-消去法により求めた。この値は残像特性の指標となり、この値がおおむね150mV以下のとき、残像特性は良好であるといえ、おおむね50mV以下のとき、特に優れているといえる。
実施例2?34および比較例1?17
上記実施例1において、重合体として第3表及び第4表に示した種類および量の重合体をそれぞれ用いたほかは、実施例1と同様にして液晶配向剤を調製し、液晶セルを製造して評価した。
評価結果は第3表及び第4表に示した。
【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
実施例35
V.液晶配向剤の調製
上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)を含有する溶液および上記合成例OPA-2で得たポリアミック酸(OPA-2)を含有する溶液を、(PA-1):(OPA-2)=20:80(重量比)になるように混合し、これにγ-ブチロラクトン(BL)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)およびブチルセロソルブ(BC)を加えて十分に撹拌し、溶媒組成がBL:NMP:BC=71:17:12(重量比)、固形分濃度6.0重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤を調製した。
VI.印刷性の評価
上記で調製した液晶配向剤につき、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いてITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、200℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚600Åの塗膜を形成した。この塗膜を倍率20倍の顕微鏡で観察して印刷ムラおよびピンホールの有無を調べたところ、印刷ムラおよびピンホールとも観察されず、印刷性は良好であった。
【0089】
実施例36?65
上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)に替えて、上記合成例2?31で得られたポリアミック酸(PA-2)?(PA-31)を用いたほかは実施例35と同様にして、液晶配向剤を調製し、印刷性を評価したところ、印刷ムラおよびピンホールとも観察されず、印刷性は良好であった。
【0090】
比較例18?32
上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)に替えて、上記比較合成例1?15で得られたポリイミド(RPI-1)?(RPI-15)を用いたほかは実施例35と同様にして、液晶配向剤を調製し、印刷性を評価したところ、印刷ムラ及びピンホールが観察され、印刷性は不良であった。
【0091】
比較例33
上記合成例1で得たポリアミック酸(PA-1)に替えて、上記合成例16で得られたポリアミック酸(PA-16)を用い、上記合成例OPA-2で得たポリアミック酸(OPA-2)に替えて、上記合成例OPI-3で得られたポリイミド(OPI-3)を用いたほかは実施例35と同様にして、液晶配向剤を調製し、印刷性を評価したところ、印刷ムラ及びピンホールが観察され、印刷性は不良であった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物と、光反応性構造を有するジアミン50?99モル%を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸Aを20?70重量%、および
(B)テトラカルボン酸二無水物としての1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、または1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物とピロメリット酸二無水物と、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種のジアミンを反応させて得られるポリアミック酸B(ただし、上記ポリアミック酸Aは除く)を80?30重量%
で含有する液晶配向剤であって、
前記ポリアミック酸Aの有する光反応性構造が下記式(A-2-1)および(A-2-2)
【化2】

(式(A-2-1)および(A-2-2)中、A^(1)およびA^(2)は、それぞれ、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6のアルコキシル基、ハロゲン原子またはシアノ基であり、dは0または1であり、eは0?4の整数であり、fは0の整数であり、
R^(I)およびR^(II)は、それぞれ、水素原子の一部または全部はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1?40のアルキル基であり、
X^(II)およびX^(III)は、それぞれ、-O-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR-、-NR-CO-、-CO-NR-、-NR-CO-O-、-O-CO-NR-、-NR-CO-NR-または-O-CO-O-(ここで、Rは、水素原子または炭素数1?4のアルキル基である。)であり、
R^(III)は、それぞれ、メチレン基、アリーレン基、2価の脂環式基、-Si(CH_(3))_(2)-、-CH=CH-または-C≡C-であり、ただしR^(III)の有する水素原子の1個または2個以上は、シアノ基、ハロゲン原子または炭素数1?4のアルキル基に置換されていてもよく、
hは1?6の整数であり、
iは0の整数であり、
上記X^(II)およびR^(III)が複数存在する場合には、これらは互いに同一であっても相異なっていてもよく、
jは0または1であり、そして
「+」は、それぞれ、結合手であることを示す。)
のそれぞれで表される構造から選択される少なくとも1種の構造であり、そして、
前記ポリアミック酸Aの光反応性構造を有するジアミン50?99モル%以外のその他のジアミンが3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニルまたは1-コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼンであり、ただし、
上記光反応性構造が上記式(A-2-1)で表される構造であるときには、ポリアミック酸Aを合成するためのテトラカルボン酸二無水物が下記式(G)
【化14】

で表される化合物である場合を除き、そして
上記光反応性構造が上記式(A-2-2)で表される構造であるときには、該構造は下記式(A-2-2-1)および(A-2-2-2)
【化11】

のそれぞれで表される化合物から選択される少なくとも1種のジアミンに由来する構造である、前記液晶配向剤。
【請求項2】
上記ポリアミック酸Aを、上記ポリアミック酸Aと上記ポリアミック酸Bの合計を基準にして20?50重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶配向剤から形成されたことを特徴とする、液晶配向膜。
【請求項4】
請求項3に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする、液晶表示素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-29 
出願番号 特願2010-22370(P2010-22370)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G02F)
P 1 651・ 113- YAA (G02F)
P 1 651・ 121- YAA (G02F)
P 1 651・ 537- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯野 光司  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
河原 英雄
登録日 2015-11-06 
登録番号 特許第5831674号(P5831674)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 液晶配向剤  
代理人 白石 泰三  
代理人 勝又 秀夫  
代理人 大島 正孝  
代理人 大島 正孝  
代理人 白石 泰三  
代理人 勝又 秀夫  

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