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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 発明同一  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
管理番号 1331193
異議申立番号 異議2016-700493  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-31 
確定日 2017-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5827067号発明「光学ガラス及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5827067号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。 特許第5827067号の請求項1、3ないし6、11、13ないし16に係る特許を維持する。 特許第5827067号の請求項2、7ないし10、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5827067号の請求項1?16に係る特許についての出願(特願2011-175632号)は、平成23年8月11日(優先権主張 平成22年8月23日、平成23年4月27日 日本国)に出願したものであって、平成27年10月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人古川京子(以下、「申立人」という。)より請求項1?16に係る特許に対して異議の申立てがされ、平成28年9月16日付けで取消理由が通知され、平成28年11月21日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年12月29日付けで申立人から意見書が提出され、平成29年2月17日付けで取消理由が通知され、平成29年4月24日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年6月1日付けで申立人から意見書が提出されたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
平成29年4月24日に提出された訂正請求書による訂正の内容は、以下の訂正事項1?24のとおりである。
なお、平成28年11月21日付けの訂正請求はみなし取り下げとなった。

訂正事項1 請求項1に「B_(2)O_(3)成分を5.0?30.0%」とあるのを、「B_(2)O_(3)成分を5.0?20.0%」に訂正する。
訂正事項2 請求項1について、Gd_(2)O_(3)成分の含有量をさらに特定し、その含有量について「Gd_(2)O_(3)成分の含有量が21.90%以下」に訂正する。
訂正事項3 請求項1について、TiO_(2)成分の含有量をさらに特定し、その含有量について「TiO_(2)成分の含有量が5.0%以下」に訂正する。
訂正事項4 請求項1に「Ta_(2)O_(5)成分の含有量が9.5%以下」とあるのを、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量が5.0%以下」に訂正する。
訂正事項5 請求項1について、液相温度をさらに特定し、その数値範囲について「1300℃以下の液相温度」に訂正する。
訂正事項6 請求項1に「1.82以上の屈折率(n_(d))」とあるのを、「1.82以上1.95以下の屈折率(n_(d))」に訂正する。
訂正事項7 請求項1について、アッベ数(ν_(d))をさらに特定し、その数値範囲について「35以上45以下のアッベ数(ν_(d))」に訂正する。
訂正事項8 請求項2を削除する。
訂正事項9 請求項3に「請求項1又は2記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項10 請求項4に「請求項1から3のいずれかに記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1又は3に記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項11 請求項5に「Gd_(2)O_(3)成分 0?45.0%、」とある記載を削除する。(なお、訂正請求書の「7 請求の理由」に、「「Gd_(2)O_(3)成分 0?45.0%」とある記載を削除」とあるが、訂正特許請求の範囲に鑑みて、誤記と認められる。)
訂正事項12 請求項5に「請求項1から4のいずれかに記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1、3又は4に記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項13 請求項6に「請求項1から5のいずれかに記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1又は3から5のいずれかに記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項14 請求項7を削除する。
訂正事項15 請求項8を削除する。
訂正事項16 請求項9を削除する。
訂正事項17 請求項10を削除する。
訂正事項18 請求項11に「請求項1から10のいずれかに記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1又は3から6のいずれかに記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項19 請求項12を削除する。
訂正事項20 請求項13に「30以上50以下のアッベ数(ν_(d))」とあるのを、「35以上42以下のアッベ数(ν_(d))」に訂正する。
訂正事項21 請求項13に「請求項1から12のいずれかに記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1、3から6のいずれか又は11記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項22 請求項14に「1300℃以下の液相温度」とあるのを、「1290℃以下の液相温度」に訂正する。
訂正事項23 請求項14に「請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1、3から6のいずれか、11又は13記載の光学ガラス」に訂正する。
訂正事項24 請求項15に「請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス」とあるのを、「請求項1、3から6のいずれか、11、13又は14記載の光学ガラス」に訂正する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項

ア 訂正の目的について
訂正事項1、4、6、20、22は、数値範囲の減縮であり、訂正事項2、3、5、7は、特定事項の直列的付加であり、訂正事項8、14?17、19は、請求項の削除であり、訂正事項9、10、12、13、18、21、23、24は、選択的引用請求項の一部削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
訂正事項11は、訂正事項2を受けて、重複する記載を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

イ 新規事項の有無について
訂正事項1?7、20、22は、本件特許明細書の【0034】、【0036】、【0038】、【0045】、【0069】、【0070】、【0120】、実施例96、99、108、114、117に記載された事項からみて、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項8?19、21、23、24は、請求項の削除、選択的引用請求項の一部削除、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とした記載の削除であるから、新規事項の追加に該当しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1?10、12?24は、減縮であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項11は、訂正事項2を受けて重複する記載を削除するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 一群の請求項について
訂正前の請求項1を請求項2?16が、直接又は間接的に引用するものであるから、特許請求の範囲に係る訂正事項1?24は一群の請求項〔1?16〕に対して請求されたものである。

(3) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3?6、11、13?16に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」?「本件発明6」、「本件発明11」、「本件発明13」?「本件発明16」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3?6、11、13?16に記載される以下のとおりのものである。

【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
B_(2)O_(3)成分を5.0?20.0%、
La_(2)O_(3)成分を10.0?55.0%、
SiO_(2)成分を0.1?15.0%、
ZrO_(2)成分を0超?12.0%及び
WO_(3)成分を1.0?15.0%(WO_(3)成分の含有量が2%以下のものを除く)
含有し、
Gd_(2)O_(3)成分の含有量が21.90%以下、
TiO_(2)成分の含有量が5.0%以下、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が5.0%以下、
GeO_(2)成分の含有量が5.0%以下(但し、GeO_(2)成分を5.0%以上含有するものを除く)、
ZnO成分の含有量が10.0%以下
であり、
TiO_(2)成分、Nb_(2)O_(5)成分及びWO_(3)成分からなる群より選択される1種以上の含有量の和が17.03%以下であり、
Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が55.0%超?75.0%であり、
1.82以上1.95以下の屈折率(n_(d))と、35以上45以下のアッベ数(ν_(d))と、1300℃以下の液相温度を有する光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するB_(2)O_(3)成分及びSiO_(2)成分の含有量の和が25.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成の質量比(ZrO_(2)+Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5))/(B_(2)O_(3)+SiO_(2))が2.00以下である請求項1又は3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Y_(2)O_(3)成分 0?30.0%及び
Yb_(2)O_(3)成分 0?20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1、3又は4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成の質量比Ta_(2)O_(5)/(Ln_(2)O_(3)+ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))が0.139以下である請求項1
又は3から5のいずれかに記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上とする)。
【請求項11】
酸化物換算組成の質量比(B_(2)O_(3)+SiO_(2)+WO_(3))/(Ln_(2)O_(3)+ZrO_(2)+Li_(2)O)が0.20以上である請求項1又は3から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
35以上42以下のアッベ数(ν_(d))を有する請求項1、3から6のいずれか又は11記載の光学ガラス。
【請求項14】
1290℃以下の液相温度を有する請求項1、3から6のいずれか、11又は13記載の光学ガラス。
【請求項15】
請求項1、3から6のいずれか、11、13又は14記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項16】
請求項15記載の光学素子を備える光学機器。

(2)証拠
申立人から提出された証拠は以下の甲第1?4号証である。
甲第1号証:特開2009-179510号公報
甲第2号証:特開2008-1551号公報
甲第3号証:特開2007-269584号公報
甲第4号証:特開2011-937801号公報

(3)取消理由の概要
ア 平成28年9月16日付け取消理由
訂正前の請求項1?16に係る特許に対して平成28年9月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(ア) 請求項1?16に係る発明は、甲第1号証に記載された、実施例1のNo.1?8、10の光学ガラス、該光学ガラスを母材とする光学素子、及び、該光学素子を備える光学機器の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(イ) 請求項1?2、4?13、15?16に係る発明は、甲第3号証に記載された、実施例のNo.29の光学ガラス、該光学ガラスを母材とする光学素子、及び、該光学素子を備える光学機器の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?2、4?13、15?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(ウ) 請求項1?16に係る発明は、特願2009-228244号の当初明細書に記載された、実施例1のNo.29、31?43の光学ガラス、該光学ガラスを母材とする光学素子、及び、該光学素子を備える光学機器の発明であり、特願2009-228244号は、本件特許に係る出願の優先日前の特許出願であって、その特許出願後に特許法第41条第3項の規定により甲第4号証によって出願公開がされたとみなされ、しかも、本件特許に係る出願の発明者が特願2009-228244号に係る上記発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る出願の時において、その出願人が特願2009-228244号の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(エ) 請求項1?16に係る発明は、特願2010-189142号の当初明細書に記載された、実施例1のNo.44?56、59の光学ガラス、該光学ガラスを母材とする光学素子、及び、該光学素子を備える光学機器の発明であり、特願2010-189142号は、本件特許に係る出願の有効な優先日前の特許出願であって、その特許出願後に甲第4号証によって出願公開され、しかも、本件特許に係る出願の発明者が特願2010-189142号に係る上記発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る出願の時において、その出願人が特願2010-189142号の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(オ) 請求項1?13、15?16に係る発明は、発明が解決しようとする課題である「耐失透性」が低い場合を含み、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさず、請求項1?13、15?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(カ) 請求項7?16に係る発明は、MgO成分が20質量%、CaO成分が20質量%、SrO成分が20質量%、BaO成分が25質量%、または、RO成分が25質量%である場合に、発明が解決しようとする課題である「耐失透性」が悪化すると認められるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさず、請求項7?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(キ) 請求項9?16に係る発明は、Li_(2)O成分が10質量%、Na_(2)O成分が10質量%、K_(2)O成分が10質量%、Cs_(2)O成分が10質量%、または、Rn_(2)O成分が15質量%である場合に、発明が解決しようとする課題である「耐失透性」が悪化すると認められるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさず、請求項9?16に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 平成29年2月17日付け取消理由
平成28年11月21日に訂正請求された請求項〔1?16〕に係る特許に対して平成29年2月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(ア) 請求項2?6、11?16に係る発明は、Nb_(2)O_(5)成分が20質量%である場合に、発明が解決しようとする課題を解決し得ないと認められるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさず、請求項2?6、11?16に係る特許は、取り消されるべきものである。
(イ) 請求項12?16に係る発明は、P_(2)O_(5)成分が10.0%、Al_(2)O_(3)成分が10.0%、または、Bi_(2)O_(3)成分が20.0%である場合に、発明が解決しようとする課題を解決し得ないと認められるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさず、請求項12?16に係る特許は、取り消されるべきものである。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア) 特許法第29条第1項第3号について
本件発明1は、「TiO_(2)成分の含有量が5.0%以下」である光学ガラスである点で、TiO_(2)成分を少なくとも5.4質量%含む、甲第1号証の実施例1のNo.1?8、10に記載された発明と相違する。
また、本件発明1は、「B_(2)O_(3)成分を5.0?20.0%」含有する光学ガラスである点で、B_(2)O_(3)成分を24.64質量%含む、甲第3号証の実施例のNo.29に記載された発明と相違する。
また、本件発明3?6、11、13?16は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明1、3?6、11、13?16は、甲第1、3号証に記載された発明ではない。

(イ) 特許法第29条の2について
本件発明1は、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量が5.0%以下」である光学ガラスである点で、Ta_(2)O_(5)成分を少なくとも5.90質量%含む、特願2009-228244号の当初明細書の実施例1のNo.29、31?35、37?43に記載された発明と相違し、Ta_(2)O_(5)成分を少なくとも6.17質量%含む、特願2010-189142号の当初明細書等の実施例1のNo.44?56、59に記載された発明と相違する。
また、特願2009-228244号の当初明細書の実施例1のNo.29、31?35、37?43に記載された光学ガラス、及び、特願2010-189142号の当初明細書の実施例1のNo.44?56、59の光学ガラスにおいて、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量を5.0%以下」とすることが周知慣用技術であるともいえない。
さらに、本件発明1は、「Gd_(2)O_(3)成分の含有量が21.90%以下」である光学ガラスである点で、Gd_(2)O_(3)成分を少なくとも22.25質量%含む、特願2009-228244号の当初明細書の実施例1のNo.36、39、41、43に記載された発明と相違し、Gd_(2)O_(3)成分を少なくとも27.12質量%含む、特願2010-189142号の当初明細書等の実施例1のNo.47?49に記載された発明と相違する。
また、特願2009-228244号の当初明細書の実施例1のNo.36、39、41、43に記載された光学ガラス、及び、特願2010-189142号の当初明細書の実施例1のNo.47?49に記載された光学ガラスにおいて、「Gd_(2)O_(3)成分の含有量を21.90%以下」とすることが周知慣用技術であるともいえない。
そして、本件発明3?6、11、13?16は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明1、3?6、11、13?16は、特願2009-228244号、特願2010-189142号の当初明細書に記載された発明と同一ではない。

(ウ) 特許法第36条第6項第1号について
訂正により請求項2、7?10、12は削除され、特許請求の範囲に、発明の課題解決に疑義があるMgO成分:20質量%、CaO成分:20質量%、SrO成分:20質量%、BaO成分:25質量%、RO成分:25質量%、Li_(2)O成分:10質量%、Na_(2)O成分:10質量%、K_(2)O成分:10質量%、Cs_(2)O成分:10質量%、Rn_(2)O成分:15質量%、Nb_(2)O_(5)成分:20質量%、P_(2)O_(5)成分:10.0質量%、Al_(2)O_(3)成分:10.0質量%、または、Bi_(2)O_(3)成分:20.0質量%を含有する光学ガラス、該光学ガラスを母材とする光学素子、及び、該光学素子を備える光学機器は記載されていない。また、本件発明1、3?6、11、13?16には、「1300℃以下の液相温度」が特定されており、「耐失透性が高い」光学ガラス、該光学ガラスを母材とする光学素子、及び、該光学素子を備える光学機器の発明であることが認識できるから、通知したサポート要件違反は、解消している。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア) 特許法第29条第2項について
a 甲第1号証に基く理由
(a)その1
申立人は、本件発明1と、甲第1号証の実施例1のNo.1、または、2に記載された発明とを対比すると、本件発明1は、「TiO_(2)成分の含有量が5.0%以下」であるのに対し、甲第1号証の実施例1のNo.1、または、2に記載された発明は、TiO_(2):5.4%である点のみで相違し、TiO_(2)をNb_(2)O_(5)で置換することで本件発明1に想到することが容易である旨主張している。(平成28年12月29日付けの意見書)
しかし、甲第1号証には、各成分について、屈折率、耐失透性、低分散特性、化学的耐久性への影響が記載され、TiO_(2)とNb_(2)O_(5)とは、化学的耐久性、及び、着色の点で、異なる働きをする成分であると認められる。さらに、TiO_(2)とNb_(2)O_(5)の他に、WO_(3)も、屈折率を高め、耐失透性を改善する働きの点で共通する。
してみると、屈折率、耐失透性の二つの性質のみに着目し(1)、また、当該二つの性質に影響のある成分から、TiO_(2)とNb_(2)O_(5)のみを選択し(2)、さらに、TiO_(2)を減らし、Nb_(2)O_(5)を増やす(3)という3つの過程を経て本件発明1の構成に至ることは、効果の予測性以前に、動機付けが見出せず、当業者が容易になしえたことといえない。

(b)その2
申立人は、甲第1号証の実施例1のNo.1、または、2に記載された発明のTiO_(2)をSiO_(2)等で置換することで本件発明1に想到することが容易である旨も主張している。(平成29年6月1日付けの意見書)
しかし、甲第1号証の実施例1のNo.1、または、2に記載された発明において、屈折率への影響がことなるTiO_(2)とSiO_(2)とを置き換えることの動機付けが見出せず、当業者が容易になしえたことといえない。

(c)小括
そして、本件発明3?6、11、13?16は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明1、3?6、11、13?16は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

b 甲第2号証に基く理由
申立人は、本件発明1と、甲第2号証の実施例1のNo.7に記載された発明とを対比すると、甲第2号証の実施例1のNo.7に記載された発明が「1300℃以下の液相温度を有する」ことは、技術常識から明らかであるから、本件発明1は、「Ta_(2)O_(5)成分の含有量が5.0%以下」であるのに対し、甲第2号証の実施例1のNo.7に記載された発明は、Ta_(2)O_(5):9.59%である点で相違し、Ta_(2)O_(5)の一部を、甲第2号証の【0005】、【0010】、【0019】、【0022】に記載された示唆に基づいて、Nb_(2)O_(5)に置き換えることで、本件発明1に想到することが容易である旨主張している。(平成28年12月29日付けの意見書)

しかし、甲第2号証に、実施例1のNo.7として、記載された光学ガラスの組成は以下のとおりである。
SiO_(2)(質量%):6.68
B_(2)O_(3)(質量%):10.77
ZnO(質量%):4.69
La_(2)O_(3)(質量%):41.67
Gd_(2)O_(3)(質量%):9.57
Y_(2)O_(3)(質量%):3.79
ZrO_(2)(質量%):5.18
Nb_(2)O_(5)(質量%):1.5
Ta_(2)O_(5)(質量%):9.59
WO_(3)(質量%):6.57
Sb_(2)O_(3)(質量%):0.2
合計100.2質量%

してみると、本件発明1と、甲第2号証の実施例1のNo.7に記載された発明とを対比すると、本件発明1は、「Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が55.0%超?75.0%」であるのに対し、甲第2号証の実施例1のNo.7に記載された発明は、Ln_(2)O_(3)成分が、約54.9(=55.03×(100/100.2))質量%である点でも相違する。
そして、甲第2号証の【0019】に、「一方、Ta_(2)O_(5)から希土類酸化物への置換は、再加熱時の耐失透性維持の面からは好ましいとは言えない。」と記載されていることからみて、Ta_(2)O_(5)成分を減らし、Ln_(2)O_(3)成分を増やすことには、阻害要因が認められる。
そうすると、甲第2号証の実施例1のNo.7に記載された発明において、あえて、Ta_(2)O_(5)成分を9.57(=9.59×(100/100.2))%から、5.0%以下へ減らし、その減少分を補うためにNb_(2)O_(5)に加えてLn_(2)O_(3)成分を増やすことは、甲第2号証の記載からみて当業者が容易になしえたこととはいえない。
また、本件発明3?6、11、13?16は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明1、3?6、11、13?16は、当業者が甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

c 甲第3号証に基く理由
(a)その1
申立人は、甲第3号証の【0031】に、B_(2)O_(3)成分の下限として8.0質量%が記載されているから、実施例のNo.29に記載された発明(B_(2)O_(3)成分:24.64質量%)のB_(2)O_(3)成分を8.0質量%とすることは容易であると主張している。(特許異議申立書の3(4)ウ(ウ))
しかし、減らした分を他の成分で補わずに、実施例のNo.29に記載された発明のB_(2)O_(3)成分を8.0質量%とすることはできないから、そのような手法で本件発明1に想到することが容易とはいえない。

(b)その2
申立人は、甲第3号証の実施例のNo.38に記載された発明は、Ta_(2)O_(5)成分の含有量が15.79質量%である点で、本件発明1と相違するが、Ta_(2)O_(5)成分を減らすことは容易であると主張している。(特許異議申立書の表1)
しかし、甲第3号証の【0028】、【0045】、【0060】に記載されるように、甲第3号証の実施例のNo.38に記載された発明は、乗算α×β、質量%比(Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))/(Gd_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3))、及び、質量%比(ZrO_(2)+Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5))/(SiO_(2)+B_(2)O_(3))が所定量となるように組成が調整された光学ガラスであると認められるところ、そのような甲第3号証の実施例のNo.38に記載された発明において、Ta_(2)O_(5)成分の含有量を5.0%以下にすること、すなわち、10.79(=15.79-5.0)質量%の余剰Ta_(2)O_(5)成分を他の成分に置き換えることは、甲第3号証に記載も示唆もされておらず、当業者にとって容易といえない。

(c)小括
そして、本件発明3?6、11、13?16は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明1、3?6、11、13?16は、当業者が甲第3号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号について
a その1
申立人は、発明の詳細な説明の【0034】?【0067】に、多数の境界値が、「B2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.5%・・を下限とする。一方、・・好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは18.0%・・を上限とする。」のように記載されているのに、それら境界値がなぜ「好ましい」といえるのか、根拠が不明であり、発明の詳細な説明は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されておらず、委任省令要件に違反し、また、サポート要件にも違反すると主張している。(特許異議申立書の3(4)エ)
しかし、本件特許明細書の【0069】?【0070】に記載されるように、解決しようとする課題における所望の物性の範囲にも、相対的に狭い好ましい範囲が存在するところ、各成分において課題解決のためにより好ましい組成範囲が存在することに何ら不合理はない。

b その2
申立人は、実施例に記載された含有量を超えた、特許請求の範囲に記載された含有量では、特許請求の範囲に記載された物性値が実施可能であることが、本件特許明細書等の記載からいえないし、本件特許の出願時における技術常識であるともいえないので、実施可能要件に違反しており、また、サポート要件にも違反していると主張している。(特許異議申立書の3(4)エ)

そこで、発明の詳細な説明に記載された具体例から、特許請求の範囲に記載された数値限定の上下限においても、当業者が課題を解決し得ると認識できるか、また、課題を解決して発明を実施できるといえるかについて検討する。
本件発明1、3?6、11、13?16の解決しようとする課題は、【0007】に記載されるとおり、「屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))が所望の範囲内にありながら、耐失透性が高いガラスを、より安価に得ること」であると認められる。
ここで、屈折率(n_(d))の所望の範囲は、訂正後の請求項1に記載された1.82を下限とし、1.95を上限とするものであり、アッベ数(ν_(d))の所望範囲は、訂正後の請求項1に記載された35を下限とし、45を上限とし、訂正後の請求項13に記載された35を下限とし、42を上限とするものであるといえる。また、「耐失透性が高いガラス」は、訂正後の請求項1に記載された1300℃を上限とし、訂正後の請求項14に記載された1290℃を上限とするものであり、そして、【0036】に記載された事項によれば、Ta_(2)O_(5)成分の含有量が20.0質量%以下であれば、「安価」といえる。

一例として、本件発明1でのB_(2)O_(3)成分の含有量の上限は20.0質量%である。
ここで、B_(2)O_(3)成分の含有量の上限について、【0034】には、「一方、B_(2)O_(3)成分の含有量を30.0%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くし、化学的耐久性の悪化を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは18.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。」とあるため、上記解決しようとする課題との関係では、B_(2)O_(3)成分の含有量が多いと、大きな屈折率が得難いことが当業者によって理解される。
してみると、「実施例275」に開示されたガラス組成に基いて、13.600質量%であるB_(2)O_(3)成分を、20質量%まで増加させた場合であっても、【0041】、【0043】、【0044】の記載からみて、同様に屈折率を低下させる成分であるSiO_(2)成分の含有量を、6.900質量%から0.500質量%に減少させたときに、「実施例275」と同様に大きな屈折率を有するガラスを得られることが理解される。

また、【0034】?【0066】には、La_(2)O_(3)成分、ZrO_(2)成分、TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3)成分、Ln_(2)O_(3)成分が、共通して、その上限値以下で、耐失透性を高めることが記載されており、さらに、含有させることで耐失透性を改善する成分としては、B_(2)O_(3)成分、Ta_(2)O_(5)成分、WO_(3)成分、SiO_(2)成分が、また、含有させることで、屈折率を高める成分としては、La_(2)O_(3)成分、Ta_(2)O_(5)成分、Nb_(2)O_(5)成分、ZrO_(2)成分、WO_(3)成分、Gd_(2)O_(3)成分、Y_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分が、そして、含有させることで分散を低くする成分としては、B_(2)O_(3)成分、La_(2)O_(3)成分、ZrO_(2)成分、Gd_(2)O_(3)成分、Y_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分が記載されている。
してみると、解決しようとする課題に関する物性への成分個々の寄与率が完全に一致しないとしても、実施例で測定された上記のそれら物性値は、所望の範囲の上下限値に対して余裕をもったものであるから、実施例に開示されたガラス組成を、それらの物性値に対する傾向を同じくする別の成分で置き換えた場合に、上記の所望の範囲の物性値を満たすものと当業者が認識できる。
したがって、本件発明1、3?6、11、13?16は、特許請求の範囲に記載された含有量の数値範囲において、その課題を解決し得るものと認識できる。
また当業者は、発明の詳細な説明の記載に基いて、特許請求の範囲に記載された含有量の数値範囲において、発明を実施できる。

c 小括
そうであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たし、また、発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3?6、11、13?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3?6、11、13?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2、7?10、12は削除されたため、本件特許の請求項2、7?10、12に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
B_(2)O_(3)成分を5.0?20.0%、
La_(2)O_(3)成分を10.0?55.0%、
SiO_(2)成分を0.1?15.0%、
ZrO_(2)成分を0超?12.0%及び
WO_(3)成分を1.0?15.0%(WO_(3)成分の含有量が2%以下のものを除く)
含有し、
Gd_(2)O_(3)成分の含有量が21.90%以下、
TiO_(2)成分の含有量が5.0%以下、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が5.0%以下、
GeO_(2)成分の含有量が5.0%以下(但し、GeO_(2)成分を5.0%以上含有するものを除く)、
ZnO成分の含有量が10.0%以下
であり、
TiO_(2)成分、Nb_(2)O_(5)成分及びWO_(3)成分からなる群より選択される1種以上の含有量の和が17.03%以下であり、
Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が55.0%超?75.0%であり、
1.82以上1.95以下の屈折率(n_(d))と、35以上45以下のアッベ数(ν_(d))と、1300℃以下の液相温度を有する光学ガラス。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するB_(2)O_(3)成分及びSiO_(2)成分の含有量の和が25.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成の質量比(ZrO_(2)+Ta_(2)O_(5)+Nb_(2)O_(5))/(B_(2)O_(3)+SiO_(2))が2.00以下である請求項1又は3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Y_(2)O_(3)成分 0?30.0%及び
Yb_(2)O_(3)成分 0?20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1、3又は4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成の質量比Ta_(2)O_(5)/(Ln_(2)O_(3)+ZrO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))が0.139以下である請求項1又は3から5のいずれかに記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上とする)。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
酸化物換算組成の質量比(B_(2)O_(3)+SiO_(2)+WO_(3))/(Ln_(2)O_(3)+ZrO_(2)+Li_(2)O)が0.20以上である請求項1又は3から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
35以上42以下のアッベ数(ν_(d))を有する請求項1、3から6のいずれか又は11記載の光学ガラス。
【請求項14】
1290℃以下の液相温度を有する請求項1、3から6のいずれか、11又は13記載の光学ガラス。
【請求項15】
請求項1、3から6のいずれか、11、13又は14記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項16】
請求項15記載の光学素子を備える光学機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-30 
出願番号 特願2011-175632(P2011-175632)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 536- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増山 淳子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
大橋 賢一
登録日 2015-10-23 
登録番号 特許第5827067号(P5827067)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 光学ガラス及び光学素子  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  

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