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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
管理番号 1331208
異議申立番号 異議2016-700629  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-19 
確定日 2017-07-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5847040号発明「用紙搬送装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5847040号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5847040号の請求項3に係る特許を維持する。 特許第5847040号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5847040号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成24年8月31日に特許出願され、平成27年12月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社により特許異議の申立てがされ、平成28年9月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月5日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社から平成29年1月20日付けで意見書が提出され、同年3月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月29日に意見書の提出及び訂正の請求があり、同年6月13日付けで特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社から上申書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を明らかにするために当審にて付した。)。

[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項3の
「前記モータは、用紙を給紙するための正転方向の駆動力と、前記正転方向とは逆方向の駆動力とを発生し、
前記搬送ローラは、前記正転方向の駆動力を当該搬送ローラに伝達するとともに、前記逆方向の駆動力を遮断するクラッチを備える、請求項1または2に記載の用紙搬送装置。」を、
「用紙をセットする用紙セットガイドと、
前記用紙セットガイドにセットされた用紙を給紙する給紙ローラと、
前記給紙ローラと対向して配置されたリタードローラと、
前記給紙ローラによって給紙された用紙を更に搬送する搬送ローラと、
前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生するモータと、
前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラ及び前記リタードローラに伝達する伝達機構と、を有し、
前記搬送ローラは、前記伝達機構によって駆動され、
前記搬送路に対して前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側に前記モータ及び前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構が配置され、前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構が配置され、
前記駆動力は、前記第2駆動機構を経由して前記給紙ローラに伝達され、前記第3駆動機構を経由して前記リタードローラに伝達され、
前記モータは、用紙を給紙するための正転方向の駆動力と、前記正転方向とは逆方向の駆動力とを発生し、
前記搬送ローラは、前記正転方向の駆動力を当該搬送ローラに伝達するとともに、前記逆方向の駆動力を遮断するクラッチを備える、
ことを特徴とする用紙搬送装置。」に訂正する。

[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項3における訂正前の請求項1の「前記給紙ローラと対向して配置されたリタードローラ」を、「前記給紙ローラと対向して配置され、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転し、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転するリタードローラ」に訂正する。

[訂正事項3]
特許請求の範囲の請求項3における訂正前の請求項1の「前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生するモータ」を、「前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生し、前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に前記駆動力を伝達するモータ」に訂正する。

[訂正事項4]
特許請求の範囲の請求項3における訂正前の請求項1の「前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラ及び前記リタードローラに伝達する伝達機構」を、「前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構に伝達する、両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」に訂正する。

[訂正事項5]
特許請求の範囲の請求項3における訂正前の請求項1の「前記搬送路に対して前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側」を、「前記搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側」に訂正する。

[訂正事項6]
特許請求の範囲の請求項3における訂正前の請求項1の「前記駆動力は、前記第2駆動機構を経由して前記給紙ローラに伝達され、前記第3駆動機構を経由して前記リタードローラに伝達される」を、「前記伝達機構により伝達される前記駆動力により、前記第2駆動機構によって前記給紙ローラが駆動され、前記第3駆動機構によって前記リタードローラが駆動され、」に訂正する。

[訂正事項7]
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

[訂正事項8]
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項3において、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて請求項の引用関係を解消し、請求項1又は2を引用しないものとするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

新規事項の追加の有無
訂正事項1は、請求項3において請求項1又は2を引用しないものとする訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、「リタードローラ」を、「前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転し、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転する」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
上記訂正事項2について、明細書には以下の記載がある。

「給紙ローラ113は矢印B15の方向に回転し、用紙M1は用紙搬送方向A3に向かって搬送される。」(段落【0050】)
「用紙M1が1枚の場合は、リタードローラ114は給紙ローラ113に従って矢印B21と反対方向に回転する。一方、用紙M1が複数枚の場合、リタードローラ114は矢印B21の方向に回転し、給紙ローラ113と接触している用紙とそれ以外の用紙を分離する。」(段落【0052】)
「用紙セットガイド121は、給紙状態では用紙M1を給紙ローラ113及びリタードローラ114の間に送り込んで用紙の給紙を可能とする。」(段落【0056】)

上記明細書の段落【0050】の記載より、「給紙ローラ」は「用紙搬送方向」に回転し、上記明細書の段落【0052】の記載より、「リタードローラ」は、「用紙M1が1枚の場合」は、「給紙ローラに従って」回転し、「用紙M1が複数枚の場合」は、「給紙ローラに従って」回転する方向と反対方向に回転するから、これらを合わせれば、「リタードローラ」は、「用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転し」、「用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転する」ことが記載されているといえる。
また、上記明細書の段落【0056】の記載からすれば、給紙状態では、「用紙」は「給紙ローラ及びリタードローラの間」にセットされることは自明である。
以上より、訂正事項2の「前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転し、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転するリタードローラ」の事項は、明細書の記載の範囲内のものということができる。
したがって、訂正事項2は願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、「モータ」を「用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に駆動力を伝達する」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
上記訂正事項3については、明細書には、以下の記載がある。

「セットガイド機構120は、ピックアーム111及びフラップ112に加えて、用紙セットガイド121、セットガイドカム122及びセットガイドカムばね123等を有している。」(段落【0034】)
「モータ144は、図3及び図4に示すように、給紙ローラ113、リタードローラ114、第1搬送ローラ116、第2搬送ローラ140及びセットガイド機構120を駆動するための駆動力を発生する。」(段落【0039】)
「セットガイド駆動機構160は、第1ギア161、第2ギア162、第3ギア163及び第4ギア164等を有している。第1ギア161は、第2プーリ回転軸157に取り付けられている。第2ギア162は、外径の異なる二つのギア部分が同軸の状態で一体に形成され、第1ギア161は、第2ギア162の外径の大きい方のギア部分と係合されている。第2ギア162の外径の小さい方のギア部分は第3ギア163と係合され、第3ギア163は第4ギア164と係合されている。第4ギア164は、セットガイド機構120に直接取り付けられている。」(段落【0041】)
「モータ144が正回転した場合、主駆動機構150では、第1プーリ151が矢印B1の方向に回転する。第1プーリ151が矢印B1の方向に回転すると第1ベルト155を介して第2プーリ152が矢印B2の方向に回転し、第2ベルト156を介して第3プーリ153及び第4プーリ154がそれぞれ矢印B3及び矢印B4の方向に回転する。」(段落【0048】)
「第2プーリ152が矢印B2の方向に回転すると、第2プーリ回転軸157を介して、セットガイド駆動機構160の第1ギア161、第2ギア162、第3ギア163及び第4ギア164がそれぞれ矢印B5、矢印B6、矢印B7及び矢印B8の方向に回転する。」(段落【0049】)
「図5Aに示すように、モータ144が正回転して第4ギア164が矢印B8の方向に回転すると、セットガイドカム122には矢印D4の方向の駆動力が伝達される。セットガイドカム122はワンウェイクラッチを内蔵しており、矢印D4の方向の駆動力はセットガイドカム122には伝達されない。したがって、セットガイドカム122はセットガイドカムばね123の付勢力により矢印D4の方向に回転し、これに伴って用紙セットガイド121は矢印D3の方向に回転し、給紙状態にセットされる。」(段落【0055】)
「以下、モータ144が逆回転した時の動作を説明する。」(段落【0057】)
「第2プーリ152が逆回転すると、第2プーリ回転軸157を介して、セットガイド駆動機構160の第1ギア161、第2ギア162、第3ギア163及び第4ギア164は逆回転する。」(段落【0059】)
「図5Bに示すように、モータ144が逆回転して第4ギア164が矢印C8の方向に回転すると、セットガイドカム122は矢印E4の方向に回転し、突起部129によって用紙セットガイド121は上昇し、待機状態にセットされる。」(段落【0064】)

上記明細書の段落【0034】、【0039】、【0041】、【0048】、【0049】、【0055】、【0057】、【0064】の記載を総合すると、「セットガイド機構は、用紙セットガイドを有し、モータは、セットガイド機構を駆動するための駆動力を発生し、セットガイド駆動機構は、第1ギア、第2ギア、第3ギア及び第4ギア等を有し、第4ギアは、セットガイド機構に直接取り付けられており、
モータが正回転した場合、第2プーリが回転し、第2プーリが回転すると、セットガイド駆動機構の第1ギア、第2ギア、第3ギア及び第4ギアが回転し、第4ギアが回転すると、用紙セットガイドは回転し、給紙状態にセットされ、
モータが逆回転した時、セットガイド駆動機構の第1ギア、第2ギア、第3ギア及び第4ギアは逆回転し、モータが逆回転して第4ギアが回転すると、用紙セットガイドは上昇し、待機状態にセットされること」が記載されている。この記載より、「用紙セットガイドを駆動するセットガイド駆動機構に駆動力を伝達するモータ」が記載されているといえる。
また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2には「用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構」との記載がある。そして、明細書記載の「セットガイド駆動機構」が「第1駆動機構」に相当することは自明である。
以上より、特許請求の範囲及び明細書には「用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に駆動力を伝達するモータ」が記載されているといえる。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4のうち、「前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構に伝達する」と訂正する点については、駆動力を第2駆動機構及び第3駆動機に伝達し、さらに第2駆動機構及び第3駆動機からそれぞれ給紙ローラ、リタードローラに伝達することに限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」と訂正する点については、「伝達機構」を「両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構が配置され、前記駆動力は、前記第2駆動機構を経由して前記給紙ローラに伝達され、前記第3駆動機構を経由して前記リタードローラに伝達される」ことが記載されている。したがって、「給紙ローラを駆動する第2駆動機構」、「リタードローラを駆動する第3駆動機構」の事項は、本件訂正前の特許請求の範囲に記載されているといえる。
また、「両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」について、明細書には以下の記載がある。
「第2プーリ152には第2プーリ回転軸157が取り付けられ、第3プーリ153には伝達機構190が取り付けられ、第4プーリ154には第2搬送ローラ駆動機構191が取り付けられている。」(段落【0040】)
「第5ギア171は、伝達機構190に取り付けられている。」(段落【0043】)
さらに、【図3】、【図4】から、「第3プーリ153」、「第5ギア171」は、それぞれ「伝達機構190」の端にあり、「伝達機構190」は軸であることが見て取れる。
したがって、発明の詳細な説明には、「両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」が記載されている。
よって、訂正事項4は新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項5の、「前記用紙搬送装置」を「用紙搬送装置」とする訂正は、これより前に「用紙搬送装置」が記載されておらず、「前記」の意味が不明であった点を訂正するものであり、誤記の訂正を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
訂正事項5は、誤記の訂正を目的として「前記用紙搬送装置」という記載中の、意味不明である、「前記」という記載を単に削除するものであることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は、「駆動力」が「伝達機構により伝達される」ものであることに限定するものであるから、当該訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、「給紙ローラ」、「リタードローラ」が、それぞれ「第2駆動機構」、「第3駆動機構」によって、「伝達機構により伝達される機動力」により駆動されることを明確にするものであるから、当該訂正は明瞭でない記載の釈明も目的とするものである。

新規事項の追加の有無
明細書には、以下の記載がある。

「図3に示すように、モータ144が正回転した場合、主駆動機構150では、第1プーリ151が矢印B1の方向に回転する。第1プーリ151が矢印B1の方向に回転すると第1ベルト155を介して第2プーリ152が矢印B2の方向に回転し、第2ベルト156を介して第3プーリ153及び第4プーリ154がそれぞれ矢印B3及び矢印B4の方向に回転する。」(段落【0048】)
「第3プーリ153が矢印B3の方向に回転すると、伝達機構190を介して、ローラ駆動機構170の第5ギア171、第6ギア172、第7ギア173、第8ギア174、第9ギア175及び第10ギア176がそれぞれ矢印B9、矢印B10、矢印B11、矢印B12、矢印B13及び矢印B14の方向に回転する。したがって、給紙ローラ113は矢印B15の方向に回転し、用紙M1は用紙搬送方向A3に向かって搬送される。」(段落【0050】)
「ローラ駆動機構170の第7ギア173が矢印B11の方向に回転すると、第11ギア177、第12ギア178、第13ギア179、第14ギア180及び第15ギア181が矢印B16、矢印B17、矢印B18、矢印B19及び矢印B20の方向に回転する。したがって、リタードローラ114に矢印B21の方向の駆動力が伝達される。」(段落【0051】)

上記記載を総合すると、明細書には、「モータ144が正回転した場合、第3プーリ153が回転し、第3プーリ153が回転すると、伝達機構190を介して、ローラ駆動機構170の第5ギア171、第6ギア172、第7ギア173、第8ギア174、第9ギア175及び第10ギア176が回転し、給紙ローラ113が回転し、ローラ駆動機構170の第7ギア173が回転すると、第11ギア177、第12ギア178、第13ギア179、第14ギア180及び第15ギア181が回転し、リタードローラ114に駆動力が伝達される」ことが記載されている。
この記載より、「伝達機構」により伝達される駆動力により、「ローラ駆動機構の第5ギア171、第6ギア172、第7ギア173、第8ギア174、第9ギア175及び第10ギア176」が駆動されて、「給紙ローラ」が駆動され、また、「ローラ駆動機構の第5ギア171、第6ギア172、第7ギア173」、「第11ギア177、第12ギア178、第13ギア179、第14ギア180及び第15ギア181」が駆動されて、「リタードローラ」が駆動されるといえる。そして、「ローラ駆動機構の第5ギア、第6ギア、第7ギア、第8ギア、第9ギア及び第10ギア」は「第2駆動機構」、「ローラ駆動機構の第5ギア、第6ギア、第7ギア、第11ギア、第12ギア、第13ギア、第14ギア及び第15ギア」は「第3駆動機構」に相当する。
したがって、明細書には、「伝達機構により伝達される駆動力により、第2駆動機構によって給紙ローラが駆動され、第3機構によってリタードローラが駆動される」ことが記載されている。
よって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
訂正事項7は、請求項1を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
訂正事項8は、請求項2を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、図面の範囲内においてされたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)一群の請求項
請求項1ないし3は一群の請求項であるから、本件訂正請求による訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項3に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「用紙をセットする用紙セットガイドと、
前記用紙セットガイドにセットされた用紙を給紙する給紙ローラと、
前記給紙ローラと対向して配置され、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転し、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転するリタードローラと、
前記給紙ローラによって給紙された用紙を更に搬送する搬送ローラと、
前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生し、前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に前記駆動力を伝達するモータと、
前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構に伝達する、両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構と、を有し、
前記搬送ローラは、前記伝達機構によって駆動され、
前記搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側に前記モータ及び前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構が配置され、前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、前記給紙ローラを駆動する前記第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する前記第3駆動機構が配置され、
前記伝達機構により伝達される前記駆動力により、前記第2駆動機構によって前記給紙ローラが駆動され、前記第3駆動機構によって前記リタードローラが駆動され、
前記モータは、用紙を給紙するための正転方向の駆動力と、前記正転方向とは逆方向の駆動力とを発生し、
前記搬送ローラは、前記正転方向の駆動力を当該搬送ローラに伝達するとともに、前記逆方向の駆動力を遮断するクラッチを備える、
ことを特徴とする用紙搬送装置。」

2 取消理由の概要
本件特許に対して平成29年3月15日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものであるというものである。

3 甲号証の記載
(1)特開2009-94795号公報(以下「甲第1号証」という。)
甲第1号証には以下の記載がある。
ア 「【0024】
(装置全体概要)
図1は、本発明の実施の形態に係るシート給送装置を備えた画像読取記録装置の一例であるファクシミリ装置の記録動作時の構成を示す断面図であり、図2は前記ファクシミリ装置の内部機構部品の概略斜視図である。」

イ 「【0026】
まず記録動作について図1および図2を用いて概略を説明する。給紙部7の用紙積載部14に載置された記録紙3は給送ローラ155と圧板148により給紙される。圧板は図1の状態から不図示の押圧ばねによりその先端が給送ローラに接するように押圧される構成となっている。給送ローラ155と圧板148により給紙された記録紙3は給送ローラ155と分離ローラ172により1枚ずつ分離され、共通搬送路11を搬送ローラ110に向けて搬送される。さらに記録紙3は搬送ローラと、搬送ローラに対向した位置に配置されたピンチローラ261により共通搬送路11を排紙ローラ112に向けて搬送される。ここで図1に示すように記録動作時においては、画像記録時の記録ガイド部材であるプラテン231が共通搬送路11の下部に配置され、共通搬送路上部でプラテン231に対向する位置に画像記録部5が配置される構成となっている。画像記録部5は図2に示すように用紙搬送方向に対して直角方向(図2における左右方向)に移動可能に構成されており、プラテン231上に搬送された記録紙3の上方を往復運動しながらインクを記録紙に吐出することにより印字記録動作を行う構成となっている。画像を記録された記録紙3は搬送ローラ110および排紙ローラ112により排紙部8から装置外に排出される。なお、図2に示すように、画像記録部5の可動領域内右側には吐出回復部21が配置されており、後述のように画像記録部の印字性能および状態を維持する構成となっている。

ウ 「【0056】
ここで、分離ローラ172の構成について、図9を用いて説明する。分離ローラ172はクラッチ筒173に固定して取り付けられており、クラッチ筒173の中にはクラッチ軸174が回転可能に収納されている。また、クラッチ軸174にはクラッチばね175が巻きつけられており、クラッチばね175の巻端の一方はクラッチ筒173に係合されている。クラッチ軸173は、本実施例の場合モールド部品で構成されており軸の一方端にはギアが一体的に形成されている。また、クラッチばね175は金属コイルばねで構成されている。上記構成で、クラッチ軸174を固定して分離ローラ172およびクラッチ筒173をゆるみ方向に回転させたとき、クラッチ軸12bに巻きつけられたクラッチばね175はクラッチ軸174から解かれる。所定の角度だけ分離ローラ172およびクラッチ筒173が回転すると、クラッチ軸174とクラッチばね175が相対的にすべることによって、所定トルクを維持するように構成されている。この構成をトルクリミッタと呼ぶ。」

エ 「【0058】
このような構成により、給送ローラ155と分離ローラ172の間に用紙が入っていない時には、給送ローラ155の回転に伴って分離ローラ172は従動的に回転する。給送ローラ155と分離ローラ172の間に1枚の用紙が入った場合には、給送ローラ155と用紙間の摩擦力の方が、所定トルクで従動する分離ローラ172と用紙間の摩擦力よりも大きいため、分離ローラ172を従動させつつ用紙が搬送される。しかし、2枚の用紙が給送ローラ155と分離ローラ172の間に入った場合には、給送ローラ155と給送ローラ側にある用紙との間の摩擦力が、用紙間の摩擦力に比べて大きく、また分離ローラ側にある用紙と分離ローラ172との間の摩擦力が用紙間の摩擦力に比べて大きくなるため、用紙間で滑りが生じる。その結果、給送ローラ側に有る用紙のみが搬送され、トルクリミッタ側にある用紙は分離ローラ172の不回転と共にその場に停止して搬送されない。以上が、分離ローラ172を使用した分離部の概略である。」

オ 「【0060】
重送防止部は、戻しレバー150から構成されている。本実施例においては、用紙セット時あるいは印字待機時には、用紙通紙経路中に戻しレバー150を侵入させることにより、用紙先端が所定の位置を超えてより下流側に入り込んでしまうのを防止している。戻しレバー150は給紙動作開始後に開放し、用紙通紙経路から退避する構成になっているため、給紙中は戻しレバー150が用紙の進行を妨げることはない。分離動作が終了すると、戻しレバー150は、分離ニップ部にある次位以降の用紙を戻す動作に入る。用紙の戻し動作を終えた戻しレバー150は、一度用紙通紙経路から退避する位置まで回動し、用紙の後端が所定の位置より下流に達すると、再び戻しレバー150は待機状態の位置に戻る構成になっている。」

カ 「【0062】
(駆動伝達部)
次に装置に備えられた駆動伝達部について図6および図12を用いて説明する。図6において、110は搬送ローラ、128は駆動プーリ、105は搬送ローラプーリ、103は搬送出力ギア、404は給紙アイドルギア、401は太陽ギア、402は遊星ギア、403は遊星アーム、146は給紙軸ギア、154は給紙軸、155は給送ローラである。駆動プーリ128からの駆動力は、ベルト54、搬送ローラプーリ105から、搬送ローラ110を介して搬送出力ギア103、給紙アイドルギア404、太陽ギア401、遊星ギア402へと伝達される構成になっている。196は給紙部に駆動を選択的に断続させるためのトリガーアームであり、回動自在に軸支されている。トリガーアーム196は、図12において図示しないバネにより時計回り方向に付勢されている。」

キ 「【0066】
同図において、トリガーアーム196aはバネの付勢力に抗して反時計回りに回転している。(解除状態)これはこの図で図示されないキャリッジ270のトリガーカム部がトリガーアームの左腕部を下方に押し下げるためである。この状態で搬送ローラ110を正転(図中反時計回り)させた場合、太陽ギア401は反時計回りに回転し、遊星ギア402を含む遊星アーム403も反時計回りに回転するため、遊星ギア402は制御ギア147と歯合し、給紙軸ギア146から給紙軸154を介して給送ローラ155に駆動が伝達される。(時計回り回転)この時制御ギア147の側面にはレール溝が切られており、制御ギア147が少し反時計回りに回転した後の本図の状態では遊星アームの契合部分がはまりあうようになっている。(図12(a)の位相ではレール溝幅は広く遊星アーム403の動きは阻害していない)よって図12(b)の状態において搬送ローラ110を逆転しても遊星アーム403は回動しない。(遊星アームのロック状態)
この構成の理由について以下に述べる。後述するが、本実施例では用紙の斜行矯正を行うため給送中に搬送ローラ110を逆転させかつそのときに給送ローラ155は逆転させない必要がある。そのため制御カム152には図12において時計回りに回転できないような方向に一方向クラッチが仕込まれている。また後述するがその直後に再び搬送ローラ110を正転させたときなるべく早く給送ローラ155も正転する必要がある。そのため遊星アーム403が常に自由に回転してしまうと再正転の際、給送ローラ155が遊星アームの逃げた分回転を始めるのが遅くなってしまうためである。」

ク 「【0070】
搬送ローラ110の駆動源は、LFモータ12であり、LFモータに取り付けられた駆動プーリ128がベルトを介して搬送ローラプーリ105に駆動を伝達する。搬送ローラ110には、前記搬送ローラプーリ105だけでなく、搬送ローラプーリと用紙搬送領域の間に、読取駆動太陽ギア120が搬送ローラ110と同位相で回転するように具備されている。また読取駆動遊星ギア121が前記読取駆動太陽ギア120と常に歯合するように読取駆動遊星アーム111により支持されている。前記読取駆動遊星アーム111も、搬送ローラ110に軸支されているので、搬送ローラ110を中心とする振り子運動を行うことが可能な構成となっている。本実施例においては、装置が後述する読取状態へ移行を行う時に、読取駆動遊星アーム111は、後述する切替制御部材72との係止状態がなくなることによって読取駆動遊星ギア121が、更に下流のギアと歯合を開始する構成となっている。」

ケ 「【0083】
また、給送ローラ155の回転に伴い制御ギア147が図10に示す角度θ1まで回転すると、制御ギア147と一体で回転する制御カム152の作用により、まず戻しレバー150が開放状態になり、用紙の搬送路が確保される。
【0084】
次に、給紙動作が進んで、制御ギア147が図10に示す角度θ2まで回転すると、制御ギアに設けられた不図示の制御カムの作用により、圧板148の固定が解除され、圧板ばね166の作用により積載された用紙が給送ローラ155方向に圧接され始める。圧接されると、前述の如く用紙搬送が開始される。図11(b)は、用紙の分離中の状態を示している。
【0085】
用紙の最上位の用紙が給送ローラ155に接触し、給紙が開始されると、用紙間の摩擦力によって最上位の用紙のみならず次位以下の用紙も複数枚給紙されることがある。」

コ 「【0134】
次に図21(a)、図21(b)はキャリッジがキャッピング位置にある状態を表しキャップ183とインクカートリッジ4のインク吐出口4eの面が対向かつ密着状態にある。(以下この位置をキャップ位置と呼ぶ)記録紙給紙位置から右方向へキャリッジの移動にともなって係合していたレバー196bとカム部270eのカム面は係合状態を解除され、レバー196bはバネ力(不図示)によって再び押し上げられた状態となる。この状態ではLFモータ12から給紙部への駆動伝達は切断されているが、ポンプへの駆動伝達は可能な状態であり、ポンプの動作は上記待機状態の場合と同じである。すなわちLFモータ12が正転方向に回転駆動すればチューブポンプ20は大気連通する方向に駆動され、逆方向に回転駆動すれば負圧を発生させる方向に駆動される。ただしここでは、インクカートリッジ4とキャップ183は密着しているので、LFモータを逆転させるとカートリッジからインクを吸引することが出来る。」

サ 【図6】より、「搬送路に対して用紙搬送方向と直交する方向の一方の側にLFモータ12、駆動プーリ128、搬送ローラプーリ105が配置され、搬送路に対して用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、搬送出力ギア103、給紙アイドルギア404、太陽ギア401、遊星ギア402、制御ギア147、制御カム152、給紙軸ギア146、給紙軸154が配置され、軸からなる搬送ローラの両端に搬送ローラプーリ105、搬送出力ギア103が取り付けられ、搬送ローラは用紙の搬送路を跨いで配置され、搬送ローラプーリ105からの駆動力を用紙の搬送路を跨いで搬送出力ギア103に伝達すること」が見て取れる。

上記アないしサを総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「シート給送装置であって、
給紙された記録紙は給送ローラと分離ローラにより1枚ずつ分離され、共通搬送路を搬送ローラに向けて搬送され、記録紙は搬送ローラと、搬送ローラに対向した位置に配置されたピンチローラにより共通搬送路を排紙ローラに向けて搬送され、
分離ローラはトルクリミッタであり、
給送ローラと分離ローラの間に1枚の用紙が入った場合には、分離ローラを従動させつつ用紙が搬送され、2枚の用紙が給送ローラと分離ローラの間に入った場合には、分離ローラは不回転であり、
用紙セット時あるいは印字待機時には、用紙通紙経路中に戻しレバーを侵入させることにより、用紙先端が所定の位置を超えてより下流側に入り込んでしまうのを防止し、戻しレバーは給紙動作開始後に開放し、用紙通紙経路から退避し、
LFモータに取り付けられた駆動プーリがベルトを介して搬送ローラプーリに駆動を伝達し、
駆動プーリからの駆動力は、ベルト、搬送ローラプーリから、搬送ローラを介して搬送出力ギア、給紙アイドルギア、太陽ギア、遊星ギアへと伝達される構成になっており、
搬送ローラを正転させた場合、遊星ギアは制御ギアと歯合し、給紙軸ギアから給紙軸を介して給送ローラに駆動が伝達され、搬送ローラを逆転しても遊星アームは回動せず、
給送ローラの回転に伴い制御ギアが回転すると、制御ギアと一体で回転する制御カムの作用により、まず戻しレバーが開放状態になり、
次に、用紙が給送ローラに接触し、給紙が開始され、
搬送路に対して用紙搬送方向と直交する方向の一方の側にLFモータ、駆動プーリ、搬送ローラプーリが配置され、搬送路に対して用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、搬送出力ギア、給紙アイドルギア、太陽ギア、遊星ギア、制御ギア、制御カム、給紙軸ギア、給紙軸が配置され、軸からなる搬送ローラの両端に搬送ローラプーリ、搬送出力ギアが取り付けられ、搬送ローラは用紙の搬送路を跨いで配置され、搬送ローラプーリからの駆動力を用紙の搬送路を跨いで搬送出力ギアに伝達し、
LFモータは正転方向、逆転方向に回動駆動される、
シート給送装置。」

(2)特開昭62-244834号公報(以下「甲第4号証」という。)
甲第4号証には以下の記載がある。
ア 「本発明は、ファクシミリ、複写機、データ入力用スキャナー等で使用する自動給紙装置に関する。」(第1頁右下欄第5行ないし第6行)

イ 「同図において、21は多数枚の用紙の最下部の1枚に給送力を与えて引き出す給紙ローラ、22は複数枚の用紙が給紙ローラ21で引き出されるのを阻止するための分離手段を構成する分離ローラである。給紙ローラ21は駆動軸23に一体に回転するように保持され、分離ローラ22は駆動軸24にトルクリミッター25を介して保持されている。駆動軸23と駆動軸24とは歯車機構を介して同方向に回転するように連結されており、従って、給紙ローラ21が用紙を搬送するために矢印方向に回転する時、分離ローラ22はトルクリミッター25を介して、給紙ローラ21による用紙給送方向とは反対方向に回転する。この回転により多数枚の用紙が同時に送られるのが防止される。なお、分離手段としては、分離ローラ22の代わりに、ゴム等で構成された板状の分離選別片が使用されてもよい。駆動軸23は電磁クラッチ27、プーリー28、ベルト29等を介してパルスモータ30に連結されている。」(第3頁右上欄第7行ないし左下欄第5行)

ウ 「第1図において、47はフィードローラ、48は排出ローラ、49はフィードローラ軸、50、51は互いに反対方向の回転を許容するワンウェイクラッチを介してフィードローラ軸49に保持されたギヤである。一方のギヤ50は、パルスモータ30で駆動される駆動軸52に設けたギヤ53に直接噛み合い、他方のギヤ51は駆動軸52上のギヤ54にアイドルギヤ55を介して噛み合っている。この構成は、パルスモータ30が正逆いずれの方向に回転しても、常にフィードローラ47、排出ローラ48が矢印で示す一方向に回転することを可能にする。」(第4頁左上欄第9行ないし第20行)

エ 「給紙ローラ21は分離ローラ22と協同して多数枚の用紙31から最下部の1枚の用紙を引き出し、フィードローラ47に向って給送する。」(第4頁左下欄第17行ないし第19行)

オ 上記イにおいて、給紙ローラ21が用紙を搬送するために回転する時の回転方向である「矢印方向」は、給紙ローラ21による「用紙給送方向」と同じ方向であることは自明である。
また、上記イの「分離ローラ22」の「給紙ローラ21による用紙給送方向とは反対方向に回転」により、「多数枚の用紙が同時に送られるのが防止される」という記載からすれば、「分離ローラ22」は、「多数枚の用紙が同時に送られる」場合は、「給紙ローラによる用紙給送方向とは反対方向に回転」するものである。また、用紙搬送装置の技術分野の技術常識からすれば、「トルクリミッター25」を介して「駆動軸24」に保持される「分離ローラ22」は、1枚の用紙が送られる場合には、「給紙ローラ21」に従って、「給紙ローラ21による用紙給送方向」に回転するものである。
第1図より、上記ウの「矢印で示す一方向」は、「用紙給送方向」であることが見て取れる。

上記アないしオより、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「複数枚の用紙が給紙ローラ21で引き出されるのを阻止するための分離ローラ22は駆動軸24にトルクリミッター25を介して保持され、
駆動軸23と駆動軸24とは歯車機構を介して連結されており、
分離ローラ22は、1枚の用紙が送られる場合には、給紙ローラ21に従って給紙ローラ21による用紙給送方向に回転し、多数枚の用紙が同時に送られる場合は、給紙ローラ21による用紙給送方向とは反対方向に回転し、
駆動軸23は電磁クラッチ27、プーリー28、ベルト29等を介してパルスモータ30に連結されており、
給紙ローラ21は分離ローラ22と協同して多数枚の用紙31から最下部の1枚の用紙を引き出し、フィードローラ47に向って給送し、
互いに反対方向の回転を許容するワンウェイクラッチを介してフィードローラ軸49に保持されたギヤ50、51の、一方のギア50は、パルスモータ30で駆動される駆動軸52に設けたギヤ53に直接噛み合い、他方のギヤ51は駆動軸52上のギヤ54にアイドルギヤ55を介して噛み合っており、パルスモータ30が正逆いずれの方向に回転しても、常にフィードローラ47は用紙給送方向に回転する、
自動給紙装置。」

(3)特開2011-73833号公報(以下「甲第5号証」という。)
甲第5号証には以下の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、給送トレイに積載されるシートを1枚ずつ分離して給送するシート分離給送装置、及び、画像読取装置に関するものである。」

イ 「【0025】
図2において、14a,14bは、給紙トレイ5から分離給送手段(送りローラ8,分離ローラ9)への搬送路に突出して、給送手段としての送りローラ8と分離手段としての分離ローラ9のニップ位置(送りローラ8と分離ローラ9とで原稿を挟んで分離する位置)に紙の先端が入るのを防止する一対のストッパである。ストッパ14a,14bは、図3に示すように、送りローラ8の搬送方向手前に配置されている。ストッパ14a,14bは、下部ユニットのフレーム3a,3b(図3)との回転軸部である14c、14dに軸止され、矢印Cの方向に移動(揺動)する。即ち、ストッパ14a,14bは、搬送路の外側にある回転支軸にて前記搬送路と略直交方向(Cの方向)に移動自在に係止されている。この構成により、ストッパ14a,14bは、搬送路に突出して原稿の上記ニップ位置への進入を防ぐ突出位置と搬送路の外に退避する退避位置との間で揺動自在となっている。」

ウ 「【0039】
モータ21が搬送方向に回転すると、軸15が矢印Dと逆の方向に回転し、ワンウェイクラッチによって軸15とプーリ19が一体となって動き、軸15と一体となって動くプレート16a,16bが、図8のように、ストッパ14a,14bをスプリング17a,17bの力に逆らって押し下げて、ストッパ14a,14bは搬送路2上から退避する(図8)。
【0040】
ストッパ14a,14bが搬送路2から退避すると、原稿束Pは、搬送路2を滑り落ち、図9のように、分離ローラ9の形状に沿うように原稿束Pの先端が捌かれて整列した後、送りローラ8、分離ローラ9によって1枚ずつに分離される。」

エ 「【0042】
原稿束Pが全て1枚ずつに分離されて、画像処理を完了し、排紙し終わった後に、図1に示したコントローラ99より搬送ローラ対10を搬送方向と逆の方向に回転させると、軸15とプレート16a,16bが矢印Dの方向に回動し、スプリング17a,17bによってプレート16a,16bに押し付けられていたストッパ14a,14bが再び搬送路2から突出する。」

オ 【図2】より、モータ21の駆動力は、搬送路に対して用紙搬送方向と直交する方向の、モータと同じ側にあるプーリ19から、軸15、プレート16a,16b、ストッパ14a,14bに伝達されることが見て取れる。

カ 上記エに記載の「軸15とプレート16a,16bが矢印Dの方向に回動」することは、上記ウの「モータ21が搬送方向に回転すると、軸15が矢印Dと逆の方向に回転」との記載から、「軸とプレートが、モータが搬送方向に回転するときと逆の方向に回動」することであるといえる。

上記アないしカより、甲第5号証には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。
「送りローラと分離手段としての分離ローラのニップ位置に紙の先端が入るのを防止する一対のストッパが、送りローラの搬送方向手前に配置され、搬送路に突出して原稿の上記ニップ位置への進入を防ぐ突出位置と搬送路の外に退避する退避位置との間で揺動自在となっており、
モータが搬送方向に回転すると、軸が回転し、軸とプーリが一体となって動き、軸と一体となって動くプレートが、ストッパを押し下げて、ストッパは搬送路上から退避し、
ストッパが搬送路から退避すると、原稿束は、搬送路を滑り落ち、分離ローラの形状に沿うように原稿束の先端が捌かれて整列した後、送りローラ、分離ローラによって1枚ずつに分離され、
原稿束が全て1枚ずつに分離されて、画像処理を完了し、排紙し終わった後に、搬送ローラ対を搬送方向と逆の方向に回転させると、軸とプレートが、モータが搬送方向に回転するときと逆の方向に回動し、ストッパが再び搬送路から突出し、
モータの駆動力は、搬送路に対して用紙搬送方向と直交する方向の、モータと同じ側にあるプーリから、軸、プレート、ストッパに伝達される、
シート分離給送装置。」

4 当審の判断
ア 取消理由に記載した、特許法第29条第2項に関する理由について
(ア)対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「シート」、「記録紙」、「用紙」は本件発明の「用紙」に相当する。
甲1発明の「戻しレバー」は、「用紙セット時あるいは印字待機時には、用紙通紙経路中に戻しレバーを侵入させることにより、用紙先端が所定の位置を超えてより下流側に入り込んでしまうのを防止し、戻しレバーは給紙動作開始後に開放し、用紙通紙経路から退避し」、「戻しレバーが開放状態にな」ると、「用紙が給送ローラに接触し、給紙が開始される」ものであるから、本件発明の「用紙をセットするセットガイド」に相当する。
甲1発明の「給送ローラ」は、本件発明の「用紙セットガイドにセットされた用紙を給紙する給紙ローラ」に相当する。
甲1発明の「分離ローラ」は、本件発明の「リタードローラ」に相当する。また、甲1発明において、「給送ローラと分離ローラの間」に「用紙が入」るから、「分離ローラ」は「給送ローラ」に対向して配置されているといえる。
甲1発明の「給送ローラと分離ローラの間に1枚の用紙が入った場合」に、「分離ローラ」は「給送ローラ」に「従動」して「用紙が搬送され」ることは、本件発明の「給紙ローラと対向して配置され、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転」することに相当する。甲1発明の「2枚の用紙が給送ローラと分離ローラの間に入った場合」は、本件発明の「給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合」に相当する。
甲1発明の「搬送ローラ」は、「給送ローラと分離ローラにより1枚ずつ分離され」た「記録紙」を「共通搬送路」に「向けて搬送」するものであるから、本件発明の「給紙ローラによって給紙された用紙を更に搬送する搬送ローラ」に相当する。
甲1発明の「戻しレバー」は「制御ギアと一体で回転する制御カムの作用により」駆動されるものであり、「駆動力」は、「搬送出力ギア、給紙アイドルギア、太陽ギア、遊星ギアへと伝達され」、「遊星ギアは制御ギアと歯合」するから、「搬送出力ギア、給紙アイドルギア、太陽ギア、遊星ギア」、「制御ギア」、「制御カム」は、本件発明の「用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構」に相当する。また、上記「駆動力」は「LFモータ」によるものであるから、甲1発明の「LFモータ」は、本件発明の「用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生し、前記用紙ガイドセットを駆動する第1駆動機構に前記駆動力を伝達するモータ」に相当する。甲1発明の「LFモータ」は、正転方向の駆動力を発生し、正転方向とは逆方向の駆動力も発生する。
甲1発明において「駆動力」は、「搬送出力ギア、給紙アイドルギア、太陽ギア、遊星ギアへと伝達され」、「遊星ギアは制御ギアと歯合し、給紙軸ギアから給紙軸を介して給送ローラに駆動が伝達され」るものであるから、「給送ローラ」を「駆動」する「搬送出力ギア、給紙アイドルギア、太陽ギア、遊星ギア」、「制御ギア」、「給紙軸ギア」、「給紙軸」は、本件発明の「給送ローラを駆動する第2駆動機構」に相当する。
甲1発明の「両端に搬送ローラプーリ、搬送出力ギアが取り付けられ、用紙の搬送路を跨いで配置され、搬送ローラプーリからの駆動力を用紙の搬送路を跨いで搬送出力ギアに伝達する」「軸からなる搬送ローラ」は、本件発明の「用紙の搬送路を跨いで配置され、駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで給紙ローラを駆動する第2駆動機構」に「伝達する、両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」、及び「伝達機構によって駆動され」る「搬送ローラ」に相当する。
甲1発明の「シート給送装置」は、「給送ローラ」、「搬送ローラ」、「排紙ローラ」を用いて用紙を搬送するものであるから、本件発明の「用紙搬送装置」に相当する。


以上より、本件発明と甲1発明とは、
「用紙をセットする用紙セットガイドと、
前記用紙セットガイドにセットされた用紙を給紙する給紙ローラと、
前記給紙ローラと対向して配置され、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転するリタードローラと、
前記給紙ローラによって給紙された用紙を更に搬送する搬送ローラと、
前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生し、前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に前記駆動力を伝達するモータと、
前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構に伝達する、両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構と、を有し、
前記搬送ローラは、前記伝達機構によって駆動され、
前記搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側に前記モータが配置され、前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、前記給紙ローラを駆動する前記第2駆動機構が配置され、
前記伝達機構により伝達される前記駆動力により、前記第2駆動機構によって前記給紙ローラが駆動され、
前記モータは、用紙を給紙するための正転方向の駆動力と、前記正転方向とは逆方向の駆動力とを発生する、
用紙搬送装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本件発明では、「リタードローラ」が「給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転」するのに対し、甲1発明では、「給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、不回転」である点。

[相違点2]
本件発明は、「搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側」に「用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構が配置され」ているのに対し、甲1発明はそうではない点。

[相違点3]
本件発明は、「伝達機構」が「駆動力」を「リタードローラを駆動する第3駆動機構に伝達」し、「用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側」に「リタードローラを駆動する第3駆動機構が配置され」、「第3駆動機構によってリタードローラが駆動される」のに対し、甲1発明はそうではない点。

[相違点4]
本件発明は、「搬送ローラは、前記正転方向の駆動力を当該搬送ローラに伝達するとともに、前記逆方向の駆動力を遮断するクラッチ」を備えるのに対し、甲1発明はそうではない点。

(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点4を検討する。
上記「(ア)対比」のとおり、甲1発明の「搬送ローラ」は、本件発明の「搬送ローラ」に相当するとともに、本件発明の「伝達機構」にも相当しており、上記「2 甲号証の記載(1)」のとおり、甲1発明の「搬送ローラ」は、正転だけでなく逆転も可能とされており、駆動力を用紙の搬送路を跨いで伝達している。
ここで、甲1発明の「搬送ローラ」において、その逆転が可能とされていることについて、甲第1号証には、「後述するが、本実施例では用紙の斜行矯正を行うため給送中に搬送ローラ110を逆転させかつそのときに給送ローラ155は逆転させない必要がある。」(段落【0066】)、「搬送動作を続けていくと、用紙の先端はやがてピンチローラ261と搬送ローラ110のニップ部へと到達する。本ファクシミリ装置は、ここで用紙の斜行矯正動作を行う。」(段落【0100】)、「この位相を図示しない位相センサで検知し回転を停止した後、搬送ローラ110を逆転させる。(キャリッジは記録紙給紙以外の位置に移動している。)この位相では遊星アーム403のロックは外れているので遊星アーム403は制御ギア147から遊星ギア402が離れる方向に動く(図12で時計回り)。このときトリガーアーム196はバネ力により図12で時計方向に回動し遊星アーム403は駆動力を伝達しない位置で再びロックされる。この位相が給紙部駆動列の印字/読取ポジションである。搬送ローラ110は印字や読取のため正転や逆転をするが遊星アーム403は駆動を伝達しない位置でロックされているため給紙部は動作しない。」(段落【0103】)と記載されている。
すなわち、甲1号証のこれらの記載から、甲1発明の「搬送ローラ」において、その逆転が可能とされていることは、印字や読取のためであるとともに、用紙の斜行矯正を行うという技術的意義を有するといえる。
また、上記のとおり、本件発明の「伝達機構」にも相当している、甲1発明の「搬送ローラ」は、駆動力を用紙の搬送路を跨いで伝達するという技術的意義も有している。
ここで、甲4発明の「フィードローラ47」は、本件発明の「搬送ローラ」に相当している。また、甲4発明の「ワンウェイクラッチ」は、「パルスモータ30が正逆いずれの方向に回転しても、常にフィードローラ47は用紙給送方向に回転」するようにするものであるから、正転方向の駆動力を「フィードローラ47」に伝達するとともに、逆方向の駆動力を遮断するものであり、本件発明の「前記正転方向の駆動力を当該搬送ローラに伝達するとともに、前記逆方向の駆動力を遮断するクラッチ」に一応相当している。
しかし、仮に、甲1発明の「搬送ローラ」において、このような甲4発明の事項を適用し、正転方向の駆動力を伝達するとともに、逆方向の駆動力を遮断するクラッチを設け、当該「搬送ローラ」を正転方向のみに回転可能とした場合、甲1発明における、上記のような、印字や読取のためであるとともに、用紙の斜行矯正を行うという技術的意義及び駆動力を用紙の搬送路を跨いで伝達するという技術的意義が損なわれることとなるため、甲1発明に対する甲4発明の上記事項の適用には阻害要因があり、その動機付けがあるとすることはできない。
その他の甲第2号証(特開2012-101905号公報)、甲第3号証(特開2002-249246号公報)及び甲第5号証(特開2011-73833号公報)にも、本件発明の上記相違点4に係る発明特定事項に関する記載や示唆はない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 取消理由で採用しなかった理由について
特許異議申立書に記載された、特許法第36条第1項第1号及び第2号に関するその他の理由について、以下検討する。

(ア)違反1について
特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社は、異議申立書において、訂正前の請求項3において、「前記用紙搬送装置」よりも前に、「用紙搬送装置」との記載はないから、「前記用紙搬送装置」の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反していると主張している。
しかし、本件訂正請求により訂正された訂正請求項3において、「前記用紙搬送装置」の記載は、「用紙搬送装置」に訂正された。
したがって、かかる主張は理由がない。

(イ)違反2について
特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社は、異議申立書において、訂正前の請求項3において、「伝達機構」と「第2駆動機構」及び「第3駆動機構」の関係が不明確であり、特許法第36条第2号の規定に違反していると主張し、また、モータの駆動力が「伝達機構」を介して「第2駆動機構」及び「第3駆動機構」に伝達されて「給紙ローラ」や「リタードローラ」が駆動される形態以外の形態も包含しているが、本件特許明細書には、該形態以外の形態はサポートされておらず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反していると主張している。
しかし、本件訂正請求により訂正された訂正請求項3には、「前記伝達機構により伝達される前記駆動力により、前記第2駆動機構によって前記給紙ローラが駆動され、前記第3駆動機構によって前記リタードローラが駆動され」と記載されている。
すなわち、訂正請求項3において、「伝達機構」により伝達される駆動力により、「第2駆動機構」によって「給紙ローラ」が駆動され、「第3駆動機構」によって「リタードローラ」が駆動されることが示されていることから、訂正請求項3において、「伝達機構」を介して駆動力が「第2駆動機構」及び「第3駆動機構」に伝達され、「給紙ローラ」及び「リタードローラ」が駆動されることは明確である。
また、訂正請求項3の上記記載は、上記「第2 訂正の適否についての判断」で示したとおり、願書に添付した明細書等の範囲内のものであり、「伝達機構」を介して駆動力が「第2駆動機構」及び「第3駆動機構」に伝達され、「給紙ローラ」及び「リタードローラ」が駆動される形態のみを特定するものであるから、特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、かかる主張は理由がない。

(ウ)違反3について
特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社は、異議申立書において、訂正前の請求項3は、「用紙セットガイド」を駆動する駆動機構が、搬送路に対して「他方の側」に配置される構成も包含しているが、本件特許明細書には、そのような形態はサポートされておらず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反していると主張している。
しかし、本件訂正請求により訂正された訂正請求項3には、「前記搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側に前記モータ及び前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構が配置され、前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、前記給紙ローラを駆動する前記第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する前記第3駆動機構が配置され」と記載されている。
上記の訂正請求項3の記載は、上記「第2 訂正の適否についての判断」で示したとおり、願書に添付した明細書等の範囲内のものであり、「用紙セットガイド」を駆動する「第1駆動機構」が、「モータ」と同じ、「搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側」に配置される構成のみを特定するものであるから、特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、かかる主張は理由がない。

(エ)違反4について
特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社は、異議申立書において、訂正前の請求項3において、「伝達機構」の記載が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反していると主張し、また、「伝達機構」が軸状の構成以外の構成も包含しているが、本件特許明細書には軸状の構成以外の構成はサポートされておらず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反していると主張している。
しかし、本件訂正請求により訂正された訂正請求項3には、「前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構に伝達する、両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」と記載されている。
すなわち、「伝達機構」が、「両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸」であることが示されており、その構成は明確である。
また、上記の訂正請求項3の記載は、上記「第2 訂正の適否についての判断」で示したとおり、願書に添付した明細書等の範囲内のものであり、「両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構」という構成のみを特定するものであるから、特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、かかる主張は理由がない。

(オ)違反5について
特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社は、異議申立書において、訂正前の請求項3において、「前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生するモータ」との記載が、発明の効果に関する段落【0007】の記載と整合しておらず、発明の内容が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定に違反していると主張し、また、モータの駆動力の伝達経路が、モータ→伝達機構→用紙セットガイドの駆動機構、となる場合も包含しているが、本件特許明細書にはかかる構成はサポートされておらず、特許法第36条第6項第1号の規定に違反していると主張している。
しかし、本件訂正請求により訂正された訂正請求項3には、「前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生し、前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に前記駆動力を伝達するモータ」、「前記搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側に前記モータ及び前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構が配置され、前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、前記給紙ローラを駆動する前記第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する前記第3駆動機構が配置され」、「前記伝達機構により伝達される前記駆動力により、前記第2駆動機構によって前記給紙ローラが駆動され、前記第3駆動機構によって前記リタードローラが駆動され」と記載されている。
すなわち、本件訂正請求により訂正された訂正請求項3において、「用紙セットガイド」を駆動する「第1駆動機構」は、「モータ」と同じ、「搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側」に配置されるとともに、「モータ」は、「用紙セットガイド」を駆動するために発生した駆動力を「第1駆動機構」に伝達すること、並びに、「伝達機構」により伝達される駆動力により、「用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に」配置された、「給紙ローラ」を駆動する「第2駆動機構」及び「リタードローラ」が駆動されることが示されていることから、「用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に」駆動力を伝達するものである「伝達機構」が、「搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側」に配置される「用紙セットガイド」を駆動する「第1駆動機構」に駆動力を伝達しないことは自明である。
よって、訂正請求項3の記載が、モータの駆動力の伝達経路が、モータ→伝達機構→用紙セットガイドの駆動機構、となる場合を包含していないことは明らかであり、訂正請求項3に係る発明は本件特許の明細書の段落【0007】の効果を奏するものであるから、その構成は明確である。
また、上記の訂正請求項3の記載は、上記「第2 訂正の適否についての判断」で示したとおり、願書に添付した明細書等の範囲内のものであり、上記のとおり、訂正請求項3の記載から、モータの駆動力の伝達経路が、モータ→伝達機構→用紙セットガイドの駆動機構、となる場合は包含されていないものであるから、特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、かかる主張は理由がない。

5 小括
したがって、本件発明は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また、本件発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に違反しているということもない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1及び2に係る特許は、訂正により、削除されたため、本
件特許の請求項1及び2に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
用紙をセットする用紙セットガイドと、
前記用紙セットガイドにセットされた用紙を給紙する給紙ローラと、
前記給紙ローラと対向して配置され、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が1枚の場合、前記給紙ローラに従って用紙を搬送させる方向に回転し、前記給紙ローラとの間にセットされた用紙が複数枚の場合、用紙を搬送させる方向と反対方向に回転するリタードローラと、
前記給紙ローラによって給紙された用紙を更に搬送する搬送ローラと、
前記用紙セットガイドを駆動するための駆動力を発生し、前記用紙セットガイドを駆動する第1駆動機構に前記駆動力を伝達するモータと、
前記用紙の搬送路を跨いで配置され、前記駆動力を前記用紙の搬送路を跨いで前記給紙ローラを駆動する第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する第3駆動機構に伝達する、両端にプーリ又はギアが取り付けられた軸である伝達機構と、を有し、
前記搬送ローラは、前記伝達機構によって駆動され、
前記搬送路に対して用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の一方の側に前記モータ及び前記用紙セットガイドを駆動する前記第1駆動機構が配置され、前記用紙搬送装置の用紙搬送方向と直交する方向の他方の側に、前記給紙ローラを駆動する前記第2駆動機構及び前記リタードローラを駆動する前記第3駆動機構が配置され、
前記伝達機構により伝達される前記駆動力により、前記第2駆動機構によって前記給紙ローラが駆動され、前記第3駆動機構によって前記リタードローラが駆動され、
前記モータは、用紙を給紙するための正転方向の駆動力と、前記正転方向とは逆方向の駆動力とを発生し、
前記搬送ローラは、前記正転方向の駆動力を当該搬送ローラに伝達するとともに、前記逆方向の駆動力を遮断するクラッチを備える、
ことを特徴とする用紙搬送装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-03 
出願番号 特願2012-192433(P2012-192433)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B65H)
P 1 651・ 537- YAA (B65H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 尋藤井 眞吾  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
古田 敦浩
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5847040号(P5847040)
権利者 株式会社PFU
発明の名称 用紙搬送装置  
代理人 南山 知広  
代理人 鶴田 準一  
代理人 三浦 剛  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 三浦 剛  
代理人 南山 知広  
代理人 小林 龍  
代理人 小林 龍  
代理人 青木 篤  

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