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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16C
審判 一部申し立て 2項進歩性  F16C
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16C
管理番号 1331224
異議申立番号 異議2017-700376  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-17 
確定日 2017-08-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6011805号発明「焼結含油軸受およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6011805号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6011805号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成25年4月22日に特許出願され、平成28年9月30日に特許の設定登録がされ、同年10月19日に特許掲載公報が発行され、その後、特許異議申立人一條淳(以下、「異議申立人」という。)により請求項1ないし3に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
特許第6011805号の請求項1ないし3の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)
「【請求項1】
全体組成が、質量比で、Cu:10?59%、Sn:0.5?3%、および残部がFeと不可避不純物からなる鉄銅系焼結合金から構成され、
軸受内周面の気孔面積率が20?50%であり、
気孔総数が800個/mm^(2)以上で、かつ
気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5%以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示す
ことを特徴とする焼結含油軸受。
【請求項2】
全体組成に、ZnおよびNiの少なくとも1種を、5質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の焼結含油軸受。
【請求項3】
基地中に、黒鉛、二硫化モリブデン、硫化マンガン、弗化カルシウムのうち少なくとも1種の固体潤滑剤成分が、前記鉄銅系焼結合金100質量部に対して0.2?2質量部が前記鉄銅系焼結合金の気孔中に分散することを特徴とする請求項1または2に記載の焼結含油軸受。」

第3.異議申立人の主張の概要
異議申立人は、証拠として下記の甲第1ないし6号証を提出し、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証記載の発明ないし甲第6号証記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである旨の主張をしている。また、請求項1ないし3に係る特許は特許法第36条第4項第1号並びに特許法第36条第6号第1号及び第2号の規定に違反してなされたものであるから、請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨の主張している。
甲第1号証:特開2005-82867号公報
甲第2号証:特開2004-138215号公報
甲第3号証:トライボロジー会議予稿集 第109ページ及び第110ペ ージ
2003年11月 一般社団法人日本トライボロジー学会発行
甲第4号証:特開2003-120674号公報
甲第5号証:特開2006-199977号公報
甲第6号証:「粉体及び粉末冶金」 第48巻第9号 第769ページな いし第776ページ
2001年9月 一般社団法人粉体粉末冶金協会発行

第4.甲各号証
1.甲第1号証について
甲第1号証には、「鉄鋼系焼結含油軸受用合金の製造方法」に関して、表1,図面(図10参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉、及び銅粉又は銅合金粉を含む混合粉を、圧縮成形及び焼結する焼結含油軸受用合金の製造において、用いる鉄粉の一部又は全部が、表面から内部にわたり多数の微細孔を有する海綿状で気体吸着法による比表面積が110?500m^(2)/kgであり、粒度が177μm以下の多孔質鉄粉であることを特徴とする鉄銅系焼結含油軸受用合金の製造方法。
【請求項2】
前記混合粉中の鉄粉が、前記多孔質鉄粉とアトマイズ鉄粉又は/及び還元鉄粉とを含むものであって、前記多孔質鉄粉の含有量が全鉄粉の25質量%以上である請求項1に記載の鉄銅系焼結含油軸受用合金の製造方法。
【請求項3】
前記混合粉が、鉄粉と、少なくとも、銅粉が10?35質量%、錫粉が銅錫系において3?10質量%を含むものである請求項1または請求項2に記載の鉄銅系焼結含油軸受用合金の製造方法。
【請求項4】
製造される合金が零下の低温環境で使用されるモータの滑り軸受用である請求項3に記載の鉄銅系焼結含油軸受用合金の製造方法。」

イ.「【0001】
この発明は、各種モータ等に用いられる鉄銅系焼結含油軸受を製造するための多孔質焼結合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄系焼結含油軸受の多くは鉄銅系合金で作られている。この合金系では、青銅系合金、黄銅系合金、更にNi、Co、P、Pb等や、黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を含むものがある。例えば、鉄-青銅系焼結合金では、鉄粉が還元鉄粉又はアトマイズ鉄粉を用い、青銅合金のために、電解銅粉と錫粉で添加するか、或いは青銅合金粉の形で添加され、必要に応じて微量の成形潤滑剤を添加した混合粉を、圧縮成形した後、成形体を窒素・水素の混合ガス等の還元性ガス雰囲気中で加熱し焼結される。焼結体は、軸受の寸法精度や表面の気孔状態を整えるため、サイジングや必要に応じて切削加工が施され、使用条件に適する粘度の潤滑油を気孔内に含浸することで焼結含油軸受となる。」

ウ.「【0006】
この発明では、用いる鉄粉として、比表面積が大きく海綿状をした多孔質鉄粉を使用するだけで、鉄粉粒子中にも含油能力がある細かい気孔を形成し、粉末粒子間の気孔を従来法より少なく形成した焼結合金でも比較的密度が低く、有効多孔率が高い合金にできると共に、有効多孔率が高い割に通気度が低い含油軸受用焼結合金を製作できる。このため、この製法では、サイジングによる変形量を比較的少なくしても、通気度の低い焼結含油軸受を容易に得られる。また、密度の割に強度が高いので、従来法よりも相対的に低い密度にすることができ、有効多孔率の高い焼結含油軸受を提供できる。」

エ.「【0008】
2.銅系材料用の粉末
(1)銅粉
鉄-銅合金又は鉄-青銅合金のような場合に用いられる銅粉は、市販の種々の粒度のものが適用できるが、焼結後の気孔が細かくなるように、多孔質鉄粉の粒度に比べて充分に細かい粒度であることが好ましい。具体的には、例えば、福田金属箔粉工業製の品名CE15のように粒度のサブシーブ粉量が65質量%程度の電解銅粉、それに相当する銅粉を用いることである。これは、多孔質鉄粉の間または周囲に細かく配置されやすくすることにより微細で均質な気孔の形成を促すためである。
また、銅粉構成としては、焼結合金中の銅系材料部分の通気性をより低下させるために、電解銅粉の一部を箔状銅粉に置き換えことができる。これは、各種試験から、箔状銅粉の場合は電解銅粉に比べて気孔の通路を複雑にして通気性を低くする作用が期待できるからである。箔状銅粉は、例えば、福田金属箔粉工業製の品名Cu-S-100(粒度が100メッシュ篩を通過)が挙げられる。
(2)錫粉
鉄-青銅合金の製造に用いられる錫粉は、通常の銅系焼結合金の製造に用いるものと同様であり、サブシーブ粉量が85質量%以上の細かいものが用いられる。
(3)亜鉛粉
鉄-黄銅合金の製造に用いられる亜鉛粉は、通常の銅系焼結合金の製造に用いるものと同様であり、サブシーブ粉量が50質量%以上の細かいものが用いられる。
(4)各種合金粉
Sn、Zn、Ni、B、P、Pb等の添加は、各種の含油軸受用多孔質焼結合金の製造と同様に、銅合金粉で添加することができる。これらは市販されており、例えば、組成が質量比でCu-10%Snの合金粉、Cu-10%Sn-1%Pbの合金粉、Cu-35%Znの合金粉、Cu-30%Niの合金粉、Cu-15%Ni-1.5%Bの合金粉、Cu-8%Pの合金粉等である。
【0009】
3.その他の粉末
上記以外の粉末としては、従来技術と同様に、Pb、Ni等を鉛粉やニッケル粉の状態で使用することが可能である。その他、固体潤滑剤として、黒鉛粉、二硫化モリブデン粉が用いられる。また、成形潤滑剤として、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸や粉末冶金用のワックスが用いられる。
【0010】
4.含油軸受用鉄銅系焼結合金
本発明の製造方法は、種々の鉄銅系焼結合金に適用することができる。表1は、その含油軸受用鉄銅系焼結合金を例示したものである。表1において、組成範囲は質量%であり、残部はFeである。・・・(後略)・・・」

オ.「【0015】
(実施例1)ここでは、全体組成が質量比で20%Cu、1%Sn及び残部Feの焼結合金を例として、従来の還元鉄粉を用いた場合と、多孔質鉄粉を用いた場合の比較試験結果により、本発明製造方法による多孔質焼結合金の有用な特性を明らかにする。使用した各粉末及び試料は次のとおりである。
(1)、鉄粉として、還元鉄粉はヘガネス社製の品名NC100-24、多孔質鉄粉はヘガネス社製の品名LD80を用いた。銅粉は福田金属箔粉工業製の電解銅粉CE15、錫粉は福田金属箔粉工業製の搗砕錫粉、及びステアリン酸亜鉛粉を用いた。
特性を比較する試料は、鉄粉構成の相違により、多孔質鉄粉のみ使用したもの(試料1)、還元鉄粉のみ使用したもの(試料2)、及び還元鉄粉と多孔質鉄粉とを質量で25:75、50:50の比で使用したもの(試料3)、同じく75:25の比で使用したもの(試料4)とし、又、成形潤滑剤としてステアリン酸亜鉛粉をそれぞれ0.3質量%添加した。そして、試料1?4の混合粉は、同じ成形金型及び条件で円筒形状に圧縮成形した後、各成形体を窒素・水素の混合ガス中、温度780℃にて焼結した。」

カ.「【0018】
(6)、図4は、密度と圧環強さの関係を示している。この関係では、同じ密度(例えば、6.0Mg/m^(3))だと、圧環強さは試料2の方が約180MPa、試料1の方が約290MPaとなり、多孔質鉄粉を用いた焼結合金が通常の還元鉄粉を用いたものに比べてかなり高くなっている。これは、同一密度でも、通常の還元鉄粉を用いた試料2の焼結合金だと鉄粉中の気孔が少なく、粉末間に大きい気孔がある多孔質合金組織をしているため、大きい気孔で破断して強度が比較的低くなるのに比べて、多孔質鉄粉を用いた試料1の焼結合金では気孔が鉄粉中にも細かく存在し粉末間の大きい気孔が少ないので、金属粒子間の結合が比較的微細となって、強度が高くなっているものと考えられる。
(7)、図5は、密度と表面の見掛硬さの関係を示している。この関係でも、同じ密度(例えば、6.0Mg/m^(3))だと、見掛硬さは試料2の方が約51MPa、試料1の方が70MPaなり、多孔質鉄粉を用いた焼結合金が通常の還元鉄粉を用いたものに比べて高くなっている。これは、圧環強さと同様に気孔状態が影響しているものと考えられる。なお、これらは、圧環強さも表面見掛硬さも各鉄粉構成として多孔質鉄粉の含有量にほぼ比例している。
(8)、図10の光学顕微鏡写真は前記多孔質鉄粉を用いた試料1の焼結合金、通常鉄粉を用いた試料2の焼結合金を断面した内部組織を示している。試料1の焼結合金は、試料2の焼結合金に比べて、細かな鉄粒子が全体に分布していること、その鉄粒子の中に微細な気孔(小さな黒の点状となった箇所)が沢山あることが分かる。
【0019】
以上の特性比較により、発明製造方法の要部、つまり多孔質鉄粉を用いた焼結合金は、通常の還元鉄粉を用いたものに比べて海綿状の多孔質で粒子内に細かい開放気孔が存在しており、閉塞された閉鎖気孔が存在しているものの、有効多孔率が高くても通気度の低い焼結合金組織にできることが分かる。また、開放気孔が細かいので毛細管力が高く、潤滑油を吸い込みやすく、油保持能力が高い含油軸受になる。鉄粉の全部を多孔質鉄粉にすると、その作用効果は最も大きくなるが、試料4で示したように、通常の還元鉄粉に鉄粉質量全体の1/4以上を多孔質鉄粉にすれば、その効果が顕著に得られる。」

キ.上記オ.の「ここでは、全体組成が質量比で20%Cu、1%Sn及び残部Feの焼結合金を例として、従来の還元鉄粉を用いた場合と、多孔質鉄粉を用いた場合の比較試験結果により、本発明製造方法による多孔質焼結合金の有用な特性を明らかにする。」との記載によれば、焼結合金は、全体組成が質量比で20%Cu、l%Sn及び残部Feであることが分かり、残部には不可避不純物が含まれることは明らかである。

これらの記載事項及び認定事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「全体組成が、質量比で、Cu:20%、Sn:1%、および残部がFeと不可避不純物からなる鉄銅系焼結合金から構成される焼結含油軸受。」

2.甲第2号証について
甲第2号証には、「焼結含油軸受」に関して、表1とともに次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側のシャフトを軸受内周面で支持する焼結含油軸受において、前記軸受内周面の画像を画像解析装置によって解析して得られる気孔の円相当直径として、軸受内径と前記シャフトとの間の直径クリアランスの4倍以下である気孔の合計面積が、画像面積の7%以上になっていることを特徴とする焼結含油軸受。
【請求項2】
駆動側のシャフトを軸受内周面で支持する焼結含油軸受において、前記軸受内周面の画像を画像解析装置によって気孔の面積を演算して得られる気孔面積率が25%以下であり、前記画像解析装置によって得られる各気孔の円相当直径が150μmを超えるものが無く、かつ、前記円相当直径として40μm以下に該当する気孔の合計面積が画像面積の7%以上になっていることを特徴とする焼結含油軸受。」

イ.「【0015】
(気孔形態)前記試料軸受1?4について、段落0007に記載の測定方法により、内径面拡大写真を画像解析により求めた気孔面積率、及び、気孔の円相当直径の小さい方から階層ごとの気孔面積率の累積は表1に示す通りである。試料軸受1?4において、気孔面積率及び最大円相当直径は、試料軸受1が22.5%、110μmであり、試料軸受2が22.0%、103μmであり、試料軸受3が35.5%、238μmであり、試料軸受4が46.5%、535μmである。」

これらの記載事項及び表1の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の事項(以下、「甲2記載の事項」という。)が記載されている。
「焼結含油軸受の軸受内周面の気孔面積率が、22.0%から46.5%であること。」

3.甲第3号証について
甲第3号証には、「小型モーター用焼結含油軸受材料と潤滑特性」に関して、写真1ないし3、図10とともに次の事項が記載されている。
「2.1通気性と潤滑特性
G.T.Morgan,渡辺によれば、通気性ゼロということは、ψ=0ということでPetroffのラインに乗り、軸受は流体潤滑城にあるが、これでは焼結軸受を使う意味もなく且長時間使用は出来ない。そこで使用負荷の大きさ(PV値)を考えて、通気性の代わりに「内径面油孔の大きさと分布を、大、中、小と変えて、試作製作して、音響用機器用モーターに組み込み、テストした。
2.2内径面油孔サイズと軸受性能結果及考察
写真1、2、3に軸受内径面の油孔(黒色部が油孔)を、又図10-[1][2][3](注:甲第3号証では丸付数字である。)に条件変化時の、荷重横軸での軸受ロス=回転数降下として示した。又同時に聴かんで騒音レベル=軸受金属接触発生もチェックした。
その結果、このモーターの使用条件下での、油膜形成条件としての油孔サイズ、オイル種、クリアランスは、油孔サイズクラスA、60#スピンドル、15μクリアランスで良い結果を売る事が出来、且同1条件下5000時間の耐久テストも無事終了し、実用量産化していることを付け加えたい。」(第109ページ右欄第17行ないし末行)

この記載事項、写真、図面の図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の事項(以下、「甲3記載の事項」という。)が記載されている。
「軸受において油孔サイズが小さいものが潤滑特性がいいこと。」

4.甲第4号証について
甲第4号証には、「電動機用焼結含油軸受及びその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸受材料が焼結合金からなり、該焼結合金がSn及びPを含むCu合金相とFeのフェライト相とが面積比においてほぼ均等割合の混在状態を呈した断面組織で、0.7質量%以下の黒鉛粒子を含有し、サイジングされた軸受内周表面に露出する鉄部の面積が2?6%、有効多孔率20?30%、及び軸受の通気度が6?50×10^(-11)cm^(2)であり、気孔内には40℃における動粘度で61.2?74.8mm^(2)/sの合成油が含油されていることを特徴とする電動機用焼結含油軸受。
【請求項2】 粒度が145メッシュ篩下の海綿状の還元鉄粉42?50質量%、粒度が145メッシュ篩下で350メッシュ篩下のものが50?90質量%である電解銅粉41?43質量%、粒度が100メッシュ篩下の箔状銅粉2?10質量%、錫粉1.4?2.7質量%、P含有量が8?9質量%のりん銅合金粉3?5質量%、黒鉛粉0.7質量%以下、及び成形潤滑剤1質量%以下、を含む混合粉を用い、前記混合粉を圧縮して密度5.3?6.1g/cm^(3)の範囲内の成形体を製作し、該成形体をりん銅合金粉が溶融する温度で焼結し、得られた焼結体をサイジングして密度5.8?6.5g/cm^(3)及び通気度6?50×10^(-11)cm^(2)のサイジング体にし、該サイジング体の気孔内に40℃における動粘度が61.2?74.8mm^(2)/sの合成油を含油することを特徴とする電動機用焼結含油軸受の製造方法。」

この記載事項、写真、図面の図示内容を総合すると、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲4記載の事項」という。)が記載されている。
「焼結合金からなる軸受材料が、0.7質量%以下の黒鉛粒子を含有すること。」

5.甲第5号証
甲第5号証には、「耐食性、耐摩耗性および高強度を有するモータ式燃料ポンプの軸受」に関して、次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:21?35%、Sn:5?12%、C:3?7%、P:0.1?0.8%を含有し、残部:Cuおよび不可避不純物からなる成分組成を有するCu-Ni系焼結合金からなる軸受であって、前記Cu-Ni系焼結合金からなる軸受は、素地に気孔率:8?18%の割合で気孔が分散して形成されており、粒界部にP成分が最も多く含まれており、さらに前記気孔内に遊離黒鉛が分布している組織を有しており、このCu-Ni系焼結合金からなる軸受の表面に開放されて形成されている開気孔の内面、該開気孔の少なくとも開口部周辺および該軸受内部に内在する内在気孔の内面にSn:50質量%以上を含有するSn高濃度合金層が形成されている組織を有することを特徴とする耐食性および耐摩耗性を有するモータ式燃料ポンプの軸受。」

イ.「【0010】
(c)黒鉛
黒鉛は、主として素地に分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在し、軸受にすぐれた潤滑性を付与し、もって軸受の耐摩耗性向上に寄与する作用があるが、その含有割合が3%未満では前記作用に所望の向上効果が得られず、一方その含有割合が7%を越えると強度が急激に低下するようになることから、その含有割合を3?7%と定めた。」

これらの記載事項を総合すると、甲第5号証には、次の事項(以下、「甲5記載の事項」という。)が記載されている。
「焼結合金からなる軸受において、黒鉛が、主として素地に分散分布する気孔内に遊離黒鉛として存在すること。」

6 .甲第6号証
甲第6号証には、「焼結含油軸受」に関して、図面(特にFig.5参照。)とともに次の事項が記載されている。
「Fig.5は著者の諸研究で対象とした各系の代表的な焼結含油軸受試験片の,運転定常期における摩擦係数および温度上昇値を負荷圧力を横軸にして描いたものである^(1.30)).概して,いずれの軸受も常時給油下の通常の青銅軸受に比べて,とくに高負荷圧力側において摩擦係数および温度上昇値ともに増加傾向が大きいこと,そしてさらに,このような増加傾向は焼結含油軸受の材質によっていろいろと相違していることがわかる.」(第772ページ右欄第15ないし22行)

この記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第6号証には、次の事項(以下、「甲6記載の事項」という。)が記載されている。
「焼結含油軸受の運転定常期における摩擦係数が0.15未満であること。」

第5.判断
1.特許法第29条第2項について
1-1.本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「全体組成が、質量比で、Cu:20%、Sn:1%、および残部がFeと不可避不純物からなる鉄銅系焼結合金」は、本件特許発明1における「全体組成が、質量比で、Cu:10?59%、Sn:0.5?3%、および残部がFeと不可避不純物からなる鉄銅系焼結合金」に包含される。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、
[一致点]
「全体組成が、質量比で、Cu : 20%、Sn:1%、および残部がFeと不可避不純物からなる鉄銅系焼結合金から構成される焼結含油軸受。 」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本件特許発明1においては、「軸受内周面の気孔面積率が20?50%であり、気孔総数が800個/mm^(2)以上で、かつ、気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5%以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示す」のに対し、甲1発明においては、かかる構成が明らかでない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
相違点に係る本件特許発明1の「軸受内周面の気孔面積率が20?50%であり、気孔総数が800個/mm^(2)以上で、かつ、気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5%以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示す」という構成は、上記甲第1号証ないし甲第6号証には記載も示唆もされていない。
そして、本件特許発明1は、かかる構成を備えることにより、本件明細書の段落【0015】の「すなわち本発明は、有効多孔率が高く含油能力の高い上記特許文献2の焼結含油軸受において、中程度の大きさの気孔として、気孔径が円相当径で40μmを超え60μm以下(以下、「40?60μm」と記載することもある)となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、円相当径で60μmを超え80μm以下(以下、「60?80μm」と記載することもある)となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%となる粒子間気孔を配置するとともに、大きな気孔、すなわち、気孔径が円相当径で80μmを超え100μm以下(以下、「80?100μm」と記載することもある)となる気孔の数を気孔総数の1%以下、気孔径が円相当径で100μmを超える粒子間気孔の数を気孔総数の0.5%以下に抑制して形成したことを骨子とする。このように粒子間気孔を含む中程度の気孔を配置するとともに大きな粒子間気孔の数を抑制したことにより、軸受の通気度が小さく抑制されたまま、潤滑油の供給のための気孔が配置され、その結果、運転開始時から充分な量の潤滑油が供給され、軸と軸受内周面との間に強固な油膜を形成することができる。」との効果を奏するものである。
これらの効果は甲1発明、甲2記載の事項、甲3記載の事項及び甲6記載の事項から、当業者が予測できるものではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明、甲2記載の事項、甲3記載の事項及び甲6記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、本件特許発明1と甲1発明との相違点を、「[相違点1]本件特許発明1は、軸受内周面の気孔面積率が20?50%であるのに対し甲1発明は、この点については記載がない点。[相違点2]本件特許発明1は、気孔総数が800個/mm2以上であるのに対し、甲1発明では、この点については記載がない点。[相違点3]本件特許発明1は、気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5 %以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示すものであるのに対し、甲1発明では、この点については記載がない点。」と3つに分けて、それぞれを判断し、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第6号証に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨の主張をしている(特許異議申立書第18ページ第5行ないし第22ページ第6行を参照。)。
しかしながら、上記相違点1ないし相違点3は、いずれも軸受内周面の気孔に関するものであり、一つの相違点として判断すべきものである。
仮に、異議申立人がいうように相違点を3つに分けて検討してみても、上記相違点3の「気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5 %以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示す」点、すなわち、一つの試料における大きさの異なる気孔の分布に関しては、上記甲第1号証、甲第3号証及び甲第6号証には記載も示唆もされていない。
また、上記甲第2号証の【表1】を検討してみても、甲第2号証においては、気孔の数が明らかでなく、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔及び円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の、それぞれの分布も不明であるから、甲第2号証は、相違点3に係る本件特許発明1の気孔分布を示すものではない。
したがって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。

1-2.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明、甲2記載の事項、甲3記載の事項及び甲6記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

1-3.本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明1と同じ理由により、甲1発明及び甲2ないし甲6記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

1-4.小活
以上のとおり、本件特許発明1ないし3は、甲1発明及び甲2ないし甲6記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでない。

2.特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第2号について
明細書の段落【0062】には「これらの焼結体試料について、軸方向に切断し、光学顕微鏡により内周面を観察するとともに、画像分析ソフトウエア(イノテック株式会社製 Quick Grain Standard Video)を用いて、気孔の面積、気孔の総数、および各気孔の円相当径およびその分布を調査するとともに、各気孔分布の範囲に属する気孔数が気孔総数に占める割合について調査した。これらの結果を表1に併せて示す。」と記載されており、発明の詳細な説明において、軸受内周面の気孔面積率、気孔総数及び気孔分布の測定方法が記載されていることから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。
また、請求項1に記載された「気孔面積率」、「気孔総数」及び「気孔分布」という語句そのものは明確なものであるから、これらを含む請求項1の記載が明確でないとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1ないし3に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、その特許は特許法第36条第4項の規定に違反してされたものではない。
また、請求項1ないし3に係る発明は明確であるから、その特許は特許法第36条第6項2号の規定に違反してされたものではない。

3.特許法第36条第6項第1号について
本件明細書の段落【0051】には「(2-6)錫粉末および銅錫合金粉末のうち少なくとも1種の粉末 Snは、錫粉末および銅錫合金粉末のうち少なくとも1種の粉末の形態で付与される。上記のように全体組成中のSn量は0.5?3質量%であるため、錫粉末および銅錫合金粉末のうち少なくとも1種の粉末は、原料粉末の組成においてSn量が0.5?3質量%となるよう添加する。」と記載されていることから、請求項1における「Sn:0.5?3%」との記載が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
また、本件明細書の【表1】には、「気孔面積率が20?50%であり、気孔総数が800個/mm^(2)以上で、かつ、気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5%以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示す」ものである試料番号02、03、04、05の試料が、摩擦係数0.15未満となり、合格と判定されている。
したがって、請求項1における「気孔面積率が20?50%であり、気孔総数が800個/mm^(2)以上で、かつ、気孔径が、円相当径で100μmを超える気孔数が気孔総数の0.5%以下、円相当径で80μmを超え100μm以下となる気孔の数が気孔総数の1%以下、円相当径で60μmを超え80μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.5?1.5%、円相当径で40μmを超え60μm以下となる気孔の数が気孔総数の0.8?3%、および円相当径で40μm以下の気孔が気孔総数の残部、となる気孔分布を示す」との記載が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
また、本件明細書の段落【0054】には、「焼結合金の成分としてZnおよびNiの少なくとも1種を付与する場合、Znを単味粉末の形態で付与すると焼結時に揮発し易く、またNiを単味粉末の形態で付与すると銅合金相に拡散し難い。このため、ZnおよびNiの少なくとも1種を付与する場合、いずれの場合も銅合金粉末の形態で付与する。前述のように、ZnおよびNiの少なくとも1種を付与する場合、ZnおよびNiの少なくとも1種の量は5質量%以下であるため、銅亜鉛合金粉末および銅ニッケル合金粉末の少なくとも1種の粉末は、原料粉末の組成において、ZnおよびNiの少なくとも1種の量が5質量%以下となるよう添加する。また、これらの銅合金粉末を用いる場合、これらの銅合金粉末に含有されるCu量の分だけ上記の銅粉末の添加量を調整する必要がある。」と記載されていることから、請求項2における「全体組成に、ZnおよびNiの少なくとも1種を、5質量%以下含む」との記載が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
そして、本件明細書の段落【0057】には、「(3)その他の実施形態 上記の焼結含油軸受においては、従来の焼結含油軸受で行われているように、黒鉛、二硫化モリブデン、硫化マンガン、弗化カルシウムのうち少なくとも1種の固体潤滑剤成分を与えてもよい。これらの固体潤滑剤成分を用いると、軸と摺動する際の摩擦係数を低減できる。これらの固体潤滑剤成分は焼結合金の鉄相や銅合金相と反応せず、粒子間気孔の内部に分散する。これらの固体潤滑剤成分を用いる場合、鉄系焼結合金100質量部に対して0.2質量部未満では効果が乏しく、2質量部を超えると軸受の強度の低下が顕著となる。このため、固体潤滑剤成分を用いる場合、固体潤滑剤成分の量は、鉄系焼結合金100質量部に対して0.2?2質量部の範囲とする。このような固体潤滑剤成分を用いる場合、上記の原料粉末100質量部に対し0.2?2質量部の固体潤滑剤成分の粉末を添加すればよい。」と記載されていることから、請求項3における「基地中に、黒鉛、二硫化モリブデン、硫化マンガン、弗化カルシウムのうち少なくとも1種の固体潤滑剤成分が、前記鉄銅系焼結合金100質量部に対して0.2?2質量部が前記鉄銅系焼結合金の気孔中に分散すること」との記載が、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
したがって、請求項1ないし3に係る発明は、明細書に記載したものであるから、その特許は特許法第36条第6項1号の規定に違反してされたものではない。

第6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-25 
出願番号 特願2013-89323(P2013-89323)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (F16C)
P 1 652・ 536- Y (F16C)
P 1 652・ 121- Y (F16C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高吉 統久  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
中川 隆司
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6011805号(P6011805)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 焼結含油軸受およびその製造方法  
代理人 末成 幹生  

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