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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1331236 |
異議申立番号 | 異議2017-700576 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-07 |
確定日 | 2017-08-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6038374号発明「高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6038374号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6038374号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)5月31日(国内優先権主張 平成23年6月7日)を国際出願日として出願した特願2013?519467号の一部を、平成27年9月11日に新たに出願した特願2015?179919号の一部を、さらに平成28年4月4日に新たに出願した特願2016?075043号の一部を、さらに同年6月23日に新たに特許出願したものであって、同年11月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人により請求項1?9に対して特許異議の申立てがされたものである。 2.本件特許発明 特許第6038374号の請求項1?9に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の検査方法であって、該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤から調製した試料を以下の測定条件で行われる高速液体クロマトグラフィーに付して、下記の類縁物質1’乃至11’から選ばれる少なくとも1種のPTH類縁物質を検出及び/又は定量することを特徴とする方法。 <測定条件> 検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm) カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に、粒子径3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシル化シリカゲルを充填 カラム温度:40℃ 移動相A:0.2M硫酸緩衝液(pH2.3)/アセトニトリル=9/1(v/v) 移動相B:0.2M硫酸緩衝液(pH2.3)/アセトニトリル=1/1(v/v) 移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表のように変えて濃度勾配制御する 【表1】 流量:毎分1.0mL 検出時間:試料注入後45分間 1)類縁物質1’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化1】 2)類縁物質2’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化2】 3)類縁物質3’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 4)類縁物質4’: ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 5)類縁物質5’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 6)類縁物質6’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 7)類縁物質7’: ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 8)類縁物質8’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 9)類縁物質9’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 10)類縁物質10’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c-1)又は(c-2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化3】 11)類縁物質11’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【請求項2】 PTH類縁物質が、類縁物質1’乃至6’及び類縁物質9’乃至11’から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 PTH類縁物質が、類縁物質4’乃至6’及び類縁物質9’乃至11’から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 PTH類縁物質が、類縁物質9’乃至11’から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 PTH類縁物質が、類縁物質9’である、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 PTHペプチド含有凍結乾燥製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下、及び、PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下である製剤を良品と判断する、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。 【請求項7】 更に、高速液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて前記PTH類縁物質の質量数を検出することを含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 更に、前記クロマトグラム上で単一ピークを与える物質を分取し、当該物質をトリプシン消化して生じるフラグメントの質量数を同定することを含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載の検査方法を実施する工程を含む、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤から成る医薬品の製造方法。」 3.申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、以下の甲第1号証?甲第5号証(以下、「甲1」?「甲5」という。)を提出し、本件特許発明1、6?9は、甲1?甲3に記載された技術的事項に基づき、また、本件特許発明1?9は、甲1?甲4に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、請求項1?9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (証拠一覧) 甲1:国際公開第2002/002136号 甲2:James E.Zull et al.、”Characterization of Parathyroid Hormone Fragments Produced by Cathepsin D^(*)”、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY、Vo1.260、No.3、pp.1608-1613、1985年 甲3:Char1es A.Fro1ik et al.、“Comparison of Recombinant Human PTH(1-34)(LY333334) with a C-Termina1ly Substituted Ana1og of Human PTH-Related Protein(1-34)(RS-66271):In Vitro Activity and In Vivo Pharmacological Effects in Rats”、JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH、Vo1ume 14、Number 2、pp.163-172、1999年 甲4:Junyan A.Ji et a1.、“Methionine、Tryptophan、and Histidine Oxidation in a Mode1 Protein、PTH:Mechanism and Stabi1ization”JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES、VOL.98、NO.12、p.4485-4500、2009年 甲5:液クロを上手に使うコツ、中村洋監修、丸善株式会社、2005年10月10日第3版発行 4.甲各号証の記載等 (1)甲1記載の事項 甲1には、以下の記載がある。(下線は、当審において付加したもの。以下、同様。) ア 第16頁第23行?第17頁第6行 「1.hPTHのHPLCによる分析 ペプチドの含量と分解(副成)物の検索に以下の機器と条件で逆相HPLCを実施した。 機器:島津LC-9Aシステム カラム:YMC PROTEIN-RP(4.6 mmφ×150 mm) カラム温度:40℃ 溶出液:0.1%トリフルォロ酢酸中、アセトニトリル濃度を30分間で25%から40%に直線的に変化させた。 流速:1 mL/分 検出:UV(210 nm) 注入量:50μL 」 イ 第32頁第3?19行 「試験例1.hPTH(l- 34)の安定性 ( 1 ) hPTHとの塩または付着物として含まれる酢酸を除去したhPTHの安定性について検討した。 ガラスバイアルに充填、密閉した参考例1で得られたhPTH(l- 34)150 mgを含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品をナガノ科学 LH- 30- 14保管庫で40±1℃の条件下、6ヶ月保存し、保存開始時、保存後に逆相HPLCを行い、保存開始時に存在する分解(副成)物及び保存後に生じる分解(副成)物を単離し、それらの構造を調べた。結果を表2に示す。 また、保存後の逆相HPLCクロマトグラムを図1に示す。hPTH(l - 3 4)ピークの後方(保持時間13分?17分)にB、CおよびDの3本のピークが現れた。これらのピーク面積%は、表 2に示すように、それぞれB; 3.9%、C; 6.9%、D; 3.0%で、合計13.8%になりhPTH(1-34)劣化の主因であった。また、それぞれのピークの構造解析を行った結果、Bが[Nε-acetyl-Lys ^(13) ]-hPTH(l-34)と[Nε-acetyl - Lys ^(26) ]- hPTH (1-34)の混合物、Cが[Nα- acetyl- Ser^(1) ]-hPTH(1-34)、Dが[Nε- acetyl-Lys ^(27)]-hPTH(l-34)であった。」 ウ エ (2)甲1に記載された発明の認定 上記(1)の記載を総合すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「hPTH(l- 34)150 mgを含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品を保管庫で40±1℃の条件下、6ヶ月保存し、保存開始時、保存後に以下の<機器と条件>で逆相HPLCを行い、保存開始時に存在する分解(副成)物及び保存後に生じる分解(副成)物を単離し、それらの構造を調べ、結果を表2に示す、方法。 <機器と条件> 機器:島津LC-9Aシステム カラム:YMC PROTEIN-RP(4.6 mmφ×150 mm) カラム温度:40℃ 溶出液:0.1%トリフルォロ酢酸中、アセトニトリル濃度を30分間で25%から40%に直線的に変化させた。 流速:1 mL/分 検出:UV(210 nm) 注入量:50μL 」(以下、「甲1発明」という。) (3)甲2記載の事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 ア 第1608頁右欄第43?47行 「HPLC?ALL HPLC separations were done on C-18 μBondapak columns with acetonitrile/water solvent systems. The solvents all contained 0.1% trifluoroacetic acid. Detection of peptides was by UV(214 nm) and fluorescence (excitation 254 nm/emission 338 nm). Details of the various systems are given in the figure legends. 」 (当審訳) 「HPLC-すべてのHPLC分離は、アセトニトリル/水溶媒系を用いたC-18マイクロボンダパック(μBondapak)カラムで行った。溶媒はすべて0.1%トリフルオロ酢酸を含んでいた。ペプチドの検出は、UV(214nm)および蛍光(励起254nm/発光338nm)によって行った。様々なシステムの詳細は、図の凡例に示している。」 イ 第1611頁Fig.5の説明(左欄第1?11行) 「Fig. 5. CNBr fragmentation of synthetic 1-34, peak 4,and peak 5. The peptides were purified on HPLC and subjected to CNBr cleavage as described above. The CNBr-generated fragments were separated on HPLC using a linear gradient of 0-67% solvent B. Solvent A was 1.6%acetonitrile and solvent B was 60%acetonitrile (each contained 0.1% trifluoroacetic acid). The position of 1-8 (ho-moserine), 9-18 (homoserine), and 19-34 are indicated. The satellite peaks associated with 1-8 and 9-18 are characteristic (24)and probably represent formylated forms produced by reaction of the solvent with PTH. Panel A is synthetic 1-34; panel B, peak 4; and panel C, peak 5.」 (当審訳) 「図5 合成1-34、ピーク4、ピーク5のCNBr断片化 ペプチドをHPLCで精製し、上記のとおりCNBr切断した。CNBr生成フラグメントを、0?67%の溶媒Bの直線勾配を用いてHPLCで分離した。溶媒Aは1.6%アセトニトリルであり、溶媒Bは60%アセトニトリル(各々0.1%トリフルオロ酢酸を含有する)であった。1-8(ホモセリン)、9-18(ホモセリン)、および19-34の位置が示されている。1-8および9-18に関連するサテライトピークは特徴的であり(24)、おそらく溶媒とPTHとの反応によって生成されるホルミル化形態を表しているのであろう。パネルAは合成1-34であり、パネルBはピーク4であり、パネルCはピーク5である。」 (4)甲3記載の事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 第165頁右欄第12?34行 「Materials Human PTH(l-34)(LY333334;Eli Lilly and Company,Indianapolis,IN,U.S.A.)was prepared recombinantly and was greater than 97% pure as determined by high-performance liquid chromatography analysis.The gradient separation was performed on a Thermo Separation Products(San Jose,CA,U.S.A.)instrument with UV detection at 214 nm and a Vydac C-18 column(The Separation Group,Hesperia,CA,U.S.A.)(4.6×150 mm,temperature 60℃).Solvent A was 90%0.2 M sodium sulfate buffer,adjusted to pH 2.3 with phosphoric acid,and 10%acetonitrile.Solvent B was 60% 0.2 M sodium sulfate buffer.pH 2.3,and 40%acetonitrile.Using a flow rate of l ml/minute,the column was equilibrated at 43%B,and then elution was performed with linear gradients 43-53% B in 36 minutes and 53-80% B in 14 minutes.RS-66271,prepared by chemical synthesis,was>98%pure as determined by high-perfonnance liquid chromatography analysis(Vydac Protein C4 column[200 A,5μm,10×250 mm],room temperature,27% acetonitrile,73%water,0.1% trifluroacetic acid [isocratic]with UV detection[214 nm]).The RS-66271 sequence was verified by complete protein sequencing and by amino acid analysis.」 (当審訳) 「材料 ヒトPTH(l-34)(LY333334;イーライリリー・アンド・カンパニー(Eli Lilly and Company)、アメリカ合衆国インディアナ州インディアナポリス)を組換えにより調製して、高速液体クロマトグラフィー分析によって測定したところ、純度97%以上であった。勾配分離は、214nmでのUV検出およびバイダック(Vydac)C-18カラム(ザ・セパレーション・グループ(The Separation Group)、アメリカ合衆国カリフォルニア州ヘスペリア)を用いて、サーモ・セパレーション・プロダクツ(Thermo Separation Products)(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ)装置で行った(4.6×150mm、温度60℃)。溶媒Aは、90%0.2M硫酸ナトリウム緩衝液(リン酸でpH2.3に調整した)および10%アセトニトリルであった。溶媒Bは、60%0.2M硫酸ナトリウム緩衝液(pH2.3)および40%アセトニトリルであった。lmL/分の流速にて、カラムを43%溶媒Bで平衡化し、次いで36分間、43?53%溶媒B、14分間、53?80%溶媒Bの直線勾配で溶出を行った。化学合成により調製したRS-66271は、高速液体クロマトグラフィー分析で測定したところ、純度98%超であった(バイダック・プロテイン(Vydac Protein)C4カラム[200A、5mm、10×250min]、室温、27%アセトニトリル、73%水、0.1%トリフルオロ酢酸[アイソクラチック]、UV検出[214nm])。RS-66271配列は、全タンパク質配列決定およびアミノ酸分析によって確認した。」 (5)甲4記載の事項 甲4には、以下の事項が記載されている。 第4490頁左欄第24行?第4492頁左欄第21行 「Met and Trp Oxidation in PTH Figure l shows the rp-HPLC chromatograms of PTH reacted with H_(2)O_(2),in which Metl8[O]-PTH,Met8[0]-PTH,and doubly oxidized PTH species were detected; their identities were confirmed by LC/MS.Reaction conditions,pH 5 and 40℃ were chosen because most peptide and protein formulations are in the pH range of 5-6,thus pH5 is a representative pH for this range,and most of the stability studies carried out in the industry were using 40℃ as the highest temperature tested.This trend is consistent with data generated by Chu et al., ^(28,29) who reported the three Metoxidized species detected by rp-HPLC,with Metl8 oxidized more than Met8,followed by the doubly oxidized species.Figure 2 shows the rp-HPLC chromatograms of PTH reacted with AAPH and reveals a pattern very different from that shown in Figure 1.Two sets of triplet peaks appeared at retention times between the PTH and Met[O]peaks.Although the individual peaks were not fully characterized,it was later confirmed by tryptic digestion,followed by LC/MS/MS,that these new peaks were Trp[O]-modified PTH species.Tryptic peptide mapping of the PTH digests showed that,in addition to the Met oxidation products,three tryptic peptide species with molecular masses of M+4,M+32,and M+16(where M is the mass of tryptic peptide VGWLR of PTH)were produced when PTH was treated with AAPH.Analysis of MS/MS spectra of the peptide species resulted in their assignment as three Trp oxidation derivatives?namely,kynurenine(M+4),N-formylkynurenine(M+32),and 5-hydroxytryptophan,or ox-indole alanine(M+16).Their chemical structures are shown in Figure 3. PTH was oxidized by three model oxidants(H_(2)O_(2),H_(2)O_(2)+Fe(II),and AAPH).Table l summarizes the overall oxidation of Met8 and Trp23 of PTH in these degraded samples.Altogether,43% and 84% of the Trp residues of PTH were oxidized by APPH when treated for 6 and 24 h respectively.Hence,the new peaks shown in Figure 2 were identified as Trp[O]-modified PTH species.Oxidized Metl8 containing tryptic peptide was not retained on the reversed-phase column;therefore,no data related to Metl8 oxidation are provided. The key observations are as follows: 1.Three conditions-t-BHP with iron,t-BHP without iron,and H_(2)O_(2)-resulted in a minimal amount of Trp oxidation. 2.None of the three His residues was affected. 3.Only AAPH and the Fenton reaction,H_(2)O_(2)+Fe(II),generated Trp oxidation. 4.More M+16 Trp[O]than other species (M+4 and M+32)was generated. 5.To reach a comparable degree of Trp oxidation,AAPH treatment for 6h generated 43% Trp[O]and 29% Met[O]at Met8,whereas H_(2)O_(2)/Fe(II)treatment for 24 h generated 35% Trp[O]but a much larger amount (91%)of Met[O]at Met8.This comparison shows that AAPH treatment is more specific for Trp oxidation than is the Fenton reaction. The mechanism of thioether(Met)oxidation by peroxides(H_(2)O_(2),t-BHP,or other ROOH species)is a one-step nucleophilic attack of sulfide on a peroxide-protic solvent complex,followed by a series of concerted electronic displacements that leads to the transfer of oxygen to the sulfur atom,resulting in Met[O].^(2) The fact that the oxidation level of Met was not affected by the addition of Fe(II)to the H_(2)O_(2),as shown in Table l,is evidence that Met oxidation is a nucleophilic reaction and that it does not involve free radical.This reaction mechanism implies that the opposite reactant,peroxide oxygen,is electrophilic.Thus,electron-donating groups such as t-butyl decelerate the reaction by decreasing the electrophilicity of oxygen.For this reason,the fact that t-BHP was associated with less oxidation(Tab.1)than H_(2)O_(2) is not surprising.It should be pointed out that t-BHP offers the advantage of oxidizing only the exposed Met,as Keck ^(20) reported when recombinant interferon gamma(Actimmune)and recombinant tissue plasminogen activator(alteplase,Activase ^(R))were investigated.Since there is little tertiary structure in PTH,we do not expect any Met in PTH to be selectively oxidized by t-BHP. Although the mechanism of nucleophilic attack predicts a specific acid catalysis component,the reaction rate does not vary significantly within a pH range of 2-8,as shown with PTH.^(28) For this reason,data generated using pH 5 in acetate buffer would be applicable to the typical pH range,pH 5-7,found in protein formulations. Only AAPH and the Fenton reaction resulted in Trp oxidation.This finding supports the notion that nucleophilic reaction of H_(2)O_(2) alone cannot cause oxidation of Trp.」 (当審訳) 「PTHにおけるMetおよびTrp酸化体 図1は、過酸化水素(H_(2)O_(2))と反応したPTHのrp-HPLCクロマトグラムを示す。Metl8[O]-PTH、Met8[O]-PTHおよび二重酸化されたPTH種を検出した。それらの同一性をLC/MSで確認した。反応条件はpH5および40℃を選択した。その理由は、ほとんどのペプチドおよびタンパク質製剤はpH5?6の範囲にあり、それゆえpH5はこの範囲の代表的なpHであったためである。また、業界で行われた安定性試験のほとんどで、最高試験温度40℃を用いていたためである。この傾向は、Chuら^(28,29)によってもたらされたデータと一致している。彼らはrp-HPLCによって検出した3種類のメチオニン酸化種(Metoxidized species)、つまりMet8以上に酸化されたMetl8と、続いて二重酸化種を報告した。図2は、AAPHと反応したPTHのrp-HPLCクロマトグラムを示し、図1に示すパターンとは非常に異なるパターンを示している。PTHピークとMet[O]ピークの保持時間の間に2組の三重ピークが現れた。個々のピークは完全に特定されていないが、後に、トリプシン消化後、LC/MS/MSにより、Trp[O]-修飾PTH種であることが確認された。PTH消化物のトリプシンペプチドマツピングは、PTHをAAPHで処理した際、Met酸化生成物に加えて、分子量M+4、M+32、およびM+16(ここで、MはPTHのトリプシンペプチドVGWLRの質量である)を有する3種のトリプシンペプチド種が生成されていることを示している。ペプチド種のMS/MSスペクトルの分析より結果的に、3つのTrp酸化誘導体、すなわちキヌレニン(M+4)、N-ホルミルキヌレニン(M+32)、および5-ヒドロキシトリプトファン、またはオキシ-インドールアラニン(M+16)が割り当てられた。それらの化学構造を図3に示す。 PTHは、3種のモデル酸化剤(過酸化水素(H_(2)O_(2))、過酸化水素+Fe(II)、およびAAPH)によって酸化された。表1は、これらの分解サンプルにおけるPTHのMet8およびTrp23の酸化体の全体像を要約したものである。全体として、6時間および24時間処理されたときそれぞれで、PTHのTrp残基の43%および84%がAPPHによって酸化された。したがって、図2に示す新しいピークは、Trp[O]-修飾PTH種として同定された。トリプシンペプチドを含む酸化Metl8は、逆相カラムに保持されなかった。したがって、Metl8酸化体に関連するデータは提供されていない。 主要な観察は以下のである。: 1.鉄を含むt-BHP、鉄を含まないt-BHP、および過酸化水素(H_(2)O_(2))の3つの条件は、最小量のTrp酸化体をもたらした。 2.3つのHis残基のいずれも影響を受けなかった。 3.AAPHおよびフェントン反応、過酸化水素+Fe(II)のみがTrp酸化体を生じた。 4.他の種(M+4およびM+32)より多くのM+16Trp[O]が生成した。 5.同程度のTrp酸化体を達成するために、6時間のAAP/H処理によって43%のTrp[O]およびMet8で29%のMet[O]が生成した。一方、24時間の過酸化水素/Fe(II)処理によって35%のTrp[O]を生成したが、Met8では非常に多い量(91%)のMet[O]を生成した。この比較は、AAPH処理がフェントン反応よりもTrp酸化に特異的であることを示している。 過酸化物(過酸化水素(H_(2)O_(2))、t-BHP、または他のROOH種)によるチオエーテル(Met)酸化のメカニズムは、過酸化物-プロトン性溶媒複合体上の硫化物についての一段階求核反応であり、次いで酸素原子から硫黄原子への一連の協調的な電子移動によりMet[O]が生成する。表1に示すように、過酸化水素にFe(II)を加えることでMetの酸化レベルが影響を受けなかったという事実は、Met酸化が求核反応であって、フリーラジカルが関わらないという証拠である。この反応メカニズムは、逆反応物、つまり過酸化物酸素が求電子性であることを意味している。したがって、t-ブチル基のような電子供与基は、酸素の求電子性を低下させることによって反応を減速させる。この理由から、t-BHPが過酸化水素よりもより少ない酸化に関わっているという事実(表1)は驚くべきことではない。組換えインターフェロンγ(アクティミューン(Actimnmne))および組換え組織プラスミノーゲンアクチベークー(アルテプラーゼ、アクチペーゼ(Activase^(R)))を調べた際にKeck^(20)が報告したように、t-BHPは暴露したMetだけを酸化するという利点を提供することを指摘すべきである。PTHは三次構造をほぼとらないので、PTH中のMetがt-BHPによって選択的に酸化されるとは考えられない。 PTHで示されるように、求核反応のメカニズムは特定の酸触媒成分を予測するが、反応速度はpH2?8の範囲内であまり大きくは変化しない^(28).この理由から、pH5の酢酸緩衝液でもたらされたデータは、タンパク質製剤中に見出される典型的なpH範囲、pH5?7に適用可能であろう。 AAPHおよびフェントン反応のみがTrp酸化体をもたらした。この発見は、過酸化水素の求核反応のみではTrpの酸化を引き起こすことができないという考えを裏付けている。」 (6)甲5記載の事項 甲5には、以下の事項が記載されている。 第93頁第4?5行 「なお、C18についてはODS(octadecyl siliane)と表記される場合もある。」 5.判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「hPTH(l- 34)150 mgを含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品」を試料に「逆相HPLCを行い、保存開始時に存在する分解(副成)物及び保存後に生じる分解(副成)物を単離し、それらの構造を調べ」る「方法」は、本件特許発明1の「PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の検査方法」に相当する。 (イ)甲1発明では、「hPTH(l- 34)150 mgを含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品」を試料に「逆相HPLCを行い」、その結果の「表2」において、X1ピークとして分解(副成)物の[Met(O)^(8)]- hPTH (1-34)、X2ピークとして分解(副成)物の[Met(O)^(18)]- hPTH (1-34)がそれぞれ現れ、それぞれのピーク面積を求めていることから、[Met(O)^(8)]- hPTH (1-34)及び[Met(O)^(18)]- hPTH (1-34)を検出し、定量していることが理解できる。 ここで、甲1発明の「分解(副成)物の[Met(O)^(8)]- hPTH (1-34)」及び「分解(副成)物の[Met(O)^(18)]- hPTH (1-34)」が、それぞれ本件特許発明1の「7)類縁物質7’:ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物」及び「8)類縁物質8’:ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物」に相当する。 したがって、甲1発明の、「hPTH(l- 34)150 mgを含む酢酸含量9.5%の凍結乾燥品」を試料に「逆相HPLCを行い」、その結果の「表2」において、X1ピークとして分解(副成)物の[Met(O)^(8)]- hPTH (1-34)、X2ピークとして分解(副成)物の[Met(O)^(18)]- hPTH (1-34)がそれぞれ現れ、それぞれのピーク面積を求めることは、本件特許発明1の「該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤から調製した試料を」「高速液体クロマトグラフィーに付して、下記の類縁物質1’乃至11’から選ばれる少なくとも1種のPTH類縁物質を検出及び/又は定量する」ことに相当する。 「1)類縁物質1’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化1】 2)類縁物質2’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化2】 3)類縁物質3’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 4)類縁物質4’: ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 5)類縁物質5’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 6)類縁物質6’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 7)類縁物質7’: ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 8)類縁物質8’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 9)類縁物質9’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 10)類縁物質10’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c-1)又は(c-2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化3】 11)類縁物質11’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物」 (ウ)甲1発明の「逆相HPLC」の測定条件である 「<機器と条件> 機器:島津LC-9Aシステム カラム:YMC PROTEIN-RP(4.6 mmφ×150 mm) カラム温度:40℃ 溶出液:0.1%トリフルォロ酢酸中、アセトニトリル濃度を30分間で25%から40%に直線的に変化させた。 流速:1 mL/分 検出:UV(210 nm) 注入量:50μL 」と、 本件特許発明1の「高速液体クロマトグラフィー」の条件である 「<測定条件> 検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm) カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に、粒子径3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシル化シリカゲルを充填 カラム温度:40℃ 移動相A:0.2M硫酸緩衝液(pH2.3)/アセトニトリル=9/1(v/v) 移動相B:0.2M硫酸緩衝液(pH2.3)/アセトニトリル=1/1(v/v) 移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表のように変えて濃度勾配制御する 【表1】 流量:毎分1.0mL 検出時間:試料注入後45分間」(なお、上記「液体クロマトグラフィー用オクタデシル化シリカゲル」は、「液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲル」の明らかな誤記である。)とは、 「<測定条件> 検出器:紫外吸光光度計 カラム:内径4.6mm、長さ150mmの管に、液体クロマトグラフィー用シリカゲルを充填 カラム温度:40℃ 流量:毎分1.0mL」 の点で共通する。 イ 一致点、相違点 よって、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。 (一致点) 「PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の検査方法であって、該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤から調製した試料を以下の測定条件で行われる高速液体クロマトグラフィーに付して、下記の類縁物質1’乃至11’から選ばれる少なくとも1種のPTH類縁物質を検出及び/又は定量することを特徴とする方法。 <測定条件> 検出器:紫外吸光光度計 カラム:内径4.6mm、長さ150mmの管に、液体クロマトグラフィー用シリカゲルを充填 カラム温度:40℃ 流量:毎分1.0mL 1)類縁物質1’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化1】 2)類縁物質2’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化2】 3)類縁物質3’: ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 4)類縁物質4’: ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 5)類縁物質5’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 6)類縁物質6’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 7)類縁物質7’: ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 8)類縁物質8’: ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 9)類縁物質9’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 10)類縁物質10’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c-1)又は(c-2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物 【化3】 11)類縁物質11’: ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物」 (相違点) 測定条件が、本件特許発明1では、 「<測定条件> 検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm) カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に、粒子径3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシル化シリカゲルを充填 カラム温度:40℃ 移動相A:0.2M硫酸緩衝液(pH2.3)/アセトニトリル=9/1(v/v) 移動相B:0.2M硫酸緩衝液(pH2.3)/アセトニトリル=1/1(v/v) 移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表のように変えて濃度勾配制御する 【表1】 流量:毎分1.0mL 検出時間:試料注入後45分間」であるのに対し、甲1発明では、 「<機器と条件> 機器:島津LC-9Aシステム カラム:YMC PROTEIN-RP(4.6 mmφ×150 mm) カラム温度:40℃ 溶出液:0.1%トリフルォロ酢酸中、アセトニトリル濃度を30分間で25%から40%に直線的に変化させた。 流速:1 mL/分 検出:UV(210 nm) 注入量:50μL」である点。 ウ 判断 上記相違点について検討する。 (ア)甲1?甲5(上記4参照。)には、いずれも、本件特許発明1の「測定条件」と同様の条件についての記載はない。 (イ)甲1発明において、本件特許発明1の「測定条件」にすることが当業者が適宜になし得る設定事項であるかどうか検討する。 本件特許明細書には、PTH類縁物質の検出と定量に関し、次の記載がある。 「 【0084】 上記の類縁物質1’乃至11’では、いずれもメチオニンやトリプトファンが酸化して生じる変性アミノ酸残基が導入されるようにPTHペプチドが変化している。従って、本発明のPTH類縁物質の生成が、酸化能を有する物質とPTHペプチドとの接触により開始されると推論することは合理的と思われる。つまり、本明細書において「酸化能を有する物質」とは、PTHペプチドの構成アミノ酸、特にメチオニンやトリプトファンを酸化する能力を有する物質を意味する。殊に、前記のとおり医薬品製造施設内の空気にはオゾンやホルムアルデヒドなどの酸化性気体分子が存在する場合があることに鑑みて、本明細書における「酸化能を有する物質」としては、そのような医薬品製造施設内空気に含有されることのある、メチオニンやトリプトファンを酸化し得る物質が興味深い。 ・・・ 【0086】 (3) PTH類縁物質の検出と定量 PTH含有凍結乾燥製剤中のPTH類縁物質は、当該製剤を適当な溶媒(塩化ベンザルコニウムを含む燐酸緩衝液など)に溶液して試料を作製し、当該試料を、例えば下記の条件下のHPLCに付すことにより、検出または定量できる。 【0087】 <HPLCの条件> a)検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm) b)カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填(Agilent Technologies社製のZorbax 300SB-C18、又は同等品) c)カラム温度:40℃付近の一定温度 d)移動相: 移動相A:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液900mLにアセトニトリル100mLを加える。 【0088】 移動相B:無水硫酸ナトリウム28.4gを水900mLに溶かし、リン酸を加えてpH2.3に調整した後、水を加えて1000mLとする。この液500mLにアセトニトリル500mLを加える。 【0089】 e)移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表2のように変えて濃度勾配制御する。 【表2】 f)流量:毎分1.0mL g)検出時間:試料溶液注入後45分間。ただし溶媒ピークの後ろからとする。 ・・・ 【0091】 上記のHPLCを実施して得られるクロマトグラムに基づく各PTHの類縁物質量及びPTHペプチド量は、当該クロマトグラム上の各々のピーク面積を(例えば、自動積分法により)算出することで求めることができる。そして、当該算出値に基づいて、下記の式1および2により、それぞれ、各PTH類縁物質量(%)及び全PTH類縁物質量(%)を定量及び比較できる。なお、式中の「総ピーク面積」とは、上記クロマトグラム上のPTHペプチドのピーク面積とそれ以外に検出された全てのPTH類縁物質のピーク面積を足すことで求められる値である。従って、当該「総ピーク面積」は、「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和」に相当する。また、本発明において特に断りのない場合、「%」は下記式の意味を有する。 【0092】 <式1> 各PTH類縁物質量(%)=(各類縁物質のピーク面積/総ピーク面積)×100 <式2> 全PTH類縁物質量(%)=(各類縁物質のピーク面積の総和/総ピーク面積)×100 なお、上記の条件下でHPLCを実施した場合に、前記のとおりヒト-PTH(1-34)から生成する類縁物質3と4(類縁物質3'と4’)は単一のピークとして溶出されてくるが、その場合には当該単一ピークを1つの類縁物質と見做しても製剤の純度確認乃至測定の用に供する際には結果に影響を与えないから、当該類縁物質3と4(類縁物質3'と4’)の混合ピークを1つの類縁物質と見做してもよい。類縁物質10と11(類縁物質10'と11’)についても同様である。 【0093】 下記の表3に、ヒトPTH(1-34)を含有する凍結乾燥製剤に由来する試料に対し上記の条件下でHPLCを実施した場合の典型的な測定例を示す。なお、表中で「おおよその相対保持時間」と表記したのは、相対保持時間も使用するカラムや移動相流量により変化する場合があるからであるが、その場合でも、当該相対保持時間を目安としつつクロマトグラムのパターンに基づいて各類縁物質を同定、定量できる。」 【表3】 (ウ)上記(イ)の記載(特に、下線箇所)及び表3を踏まえると、本件特許発明1で特定されている「測定条件」は、類縁物質1'乃至11’が、メチオニンやトリプトファンが酸化して生じる変性アミノ酸残基が導入されるようにPTHペプチドが変化している物質であることを認識した上で、類縁物質1'、2'、3'と4’、5'、6’、7'、8’9’、10'と11’を、それぞれ分離できる条件として設定したことが理解できる。 (エ)一方、ヒトPTH酸化物として、甲1には8位メチオニン酸化物(類縁物質7')及び18位メチオニン酸化物(類縁物質8’)、及び、甲4には23位トリプトファン酸化物(類縁物質9’)が、それぞれ記載されているものの、甲1?甲5には、いずれも、ヒトPTH酸化物として、類縁物質1'乃至11’が、メチオニンやトリプトファンが酸化して生じる変性アミノ酸残基が導入されるようにPTHペプチドが変化している物質であることを、網羅的に認識した点について記載も示唆もされていない以上、類縁物質1'乃至11’を分離できる条件として設定できないことは明らかであるから、甲1?甲5は、いずれも本件特許発明1の測定条件を設定するための前提を欠くものといえる。 (オ)上記(イ)?(エ)を踏まえると、甲1発明において、甲1?甲5の記載事項を斟酌しても、本件特許発明1の「測定条件」にすることは、当業者が適宜になし得る設計事項であるとはいえない。 (カ)また、甲1には、「保存後の逆相HPLCクロマトグラムを図1に示す。hPTH(l - 3 4)ピークの後方(保持時間13分?17分)にB、CおよびDの3本のピークが現れた。これらのピーク面積%は、表 2に示すように、それぞれB; 3.9%、C; 6.9%、D; 3.0%で、合計13.8%になりhPTH(1-34)劣化の主因であった。また、それぞれのピークの構造解析を行った結果、Bが[Nε-acetyl-Lys ^(13) ]-hPTH(l-34)と[Nε-acetyl - Lys ^(26) ]- hPTH (1-34)の混合物、Cが[Nα- acetyl- Ser^(1) ]-hPTH(1-34)、Dが[Nε- acetyl-Lys ^(27)]-hPTH(l-34)であった。」(上記4(1)参照。)と記載されているように、甲1の測定条件は、上記B?Dの検出及び定量するための条件であって、仮に、甲1発明に本件特許発明1の「測定条件」を採用した場合、上記B?Dの検出及び定量ができなくなることは明らかであるから、甲1発明には、本件特許発明1の「測定条件」を採用することの阻害要因があるといえる。 (キ)以上のことから、甲1発明において、甲1?5に記載された技術事項に基づいて、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (ク)小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (2)本件特許発明2?9について 本件特許発明2?9は、本件特許発明1の構成を全て含むものであるから、本件特許発明2?9も、上記(1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 6.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-07-27 |
出願番号 | 特願2016-124400(P2016-124400) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A61K)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
▲高▼見 重雄 ▲高▼橋 祐介 |
登録日 | 2016-11-11 |
登録番号 | 特許第6038374号(P6038374) |
権利者 | 旭化成ファーマ株式会社 |
発明の名称 | 高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法 |
代理人 | 細田 芳徳 |