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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1331257
異議申立番号 異議2017-700469  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-15 
確定日 2017-08-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6027068号発明「ポリカーボネート樹脂ペレット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6027068号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6027068号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成19年4月25日に出願された特願2007-115670号の一部を平成26年9月2日に新たな特許出願としたものであって、平成28年10月21日に特許の設定登録がされ、平成29年5月15日にその特許に対し、特許異議申立人澤山政子から特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

特許第6027068号の請求項1ないし9に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるCl含有量0?50ppmであるポリカーボネート樹脂ペレット(A成分)100重量部に対して、ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)0.01?0.5重量部、およびヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)0.0005?0.1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物を溶融押出して得られる、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットであり、該ポリカーボネート樹脂組成物ペレットより形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、JIS K7105で測定されたヘーズが0?3%であることを満足するポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【化1】

【請求項2】
重合触媒として含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つの化合物を使用し、下記式(a)で表されるエーテルジオールと炭酸ジエステル形成化合物とを、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180℃?280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させて、前記式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるCl含有量0?50ppmであるポリカーボネート樹脂ペレット(A成分)を得、該ポリカーボネート樹脂ペレット(A成分)100重量部に対して、ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)0.01?0.5重量部、およびヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)0.0005?0.1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物を溶融押出し、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得る、請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレットの製造方法。
【化2】

【請求項3】
上記式(1)で表されるカーボネート構成単位がイソソルビド(1,4;3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール)由来のカーボネート構成単位である請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【請求項4】
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)が下記式(2)で表わされる構造(以下「-X^(1)」基と表わす)を含むヒンダードフェノール系熱安定剤である請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【化3】

(上記式(2)において、R^(1)は水素原子または炭素原子数1?10のアルキル基であり、R^(2)は炭素原子数4?10のアルキル基であり、R^(3)は水素原子、炭素原子数1?10のアルキル基、炭素原子数1?10のアルコキシ基、炭素原子数6?20のシクロアルキル基、炭素原子数6?20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2?10のアルケニル基、炭素原子数6?10のアリール基、炭素原子数6?10のアリールオキシ基、炭素原子数7?20のアラルキル基および炭素原子数7?20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、nは1?4の整数である。)
【請求項5】
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)が下記式(3)、下記式(4)、および下記式(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項4記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【化4】

(上記式(3)において、「-X^(1)」は前記式(2)で示される基であり、R^(4)は炭素原子数8?30の酸素原子を含んでも良い炭化水素基である。)
【化5】

(上記式(4)において、「-X^(1)」は前記式(2)で示される基であり、R^(5)は水素原子または炭素原子数1?25のアルキル基であり、mは1?4の整数、kは1?4の整数である。)
【化6】

(上記式(5)において、「-X^(1)」は前記式(2)で示される基であり、R^(6)、R^(7)、R^(8)およびR^(9)はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1?4のアルキル基であり、lは1?4の整数である。)
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂ペレット(A成分)が、Cl含有量0?30ppmで、かつ水分量0?500ppmである請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【請求項7】
該ポリカーボネート樹脂組成物ペレットより形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、JIS K7105で測定されたヘーズが0?2%であることを満足する請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【請求項8】
該ポリカーボネート樹脂組成物ペレットより形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、b値が0?14であることを満足する請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
【請求項9】
請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物ペレットから形成された成形品。」

以下、特許第6027068号の請求項1ないし9に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。

第3 特許異議の申立ての概要

特許異議申立人澤山政子は、証拠として特開2007-70391号公報(以下、「甲1」という。)、特開2005-179419号公報(以下、「甲2」という。)、特開平9-176474号公報(以下、「甲3」という。)、特開2004-137471号公報(以下、「甲4」という。)、特開2005-264132号公報(以下、「甲5」という。)、特開2005-325319号公報(以下、「甲6」という。)、「プラスチックス エージ」、Vol.46、Apr.(株式会社 プラスチックス・エージ)p.86?89、p.101?105、p.138?143(以下、「甲7」という。)、及び、本間精一編「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」(1992年8月28日初版発行、日刊工業新聞社)p.152?165(以下、「甲8」という。)を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおりの主張をしている。

1.特許法第29条第2項について
(1)請求項1ないし9に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

(2)請求項1ないし9に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

(3)請求項1ないし9に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

第4 甲1ないし3の記載及び甲1に記載された発明

1.甲1の記載
甲1には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基)
で表されるジオール残基を含んで成り、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が40?100モル%を占めるポリカーボネート100重量部と生分解性を有するポリマー10?250重量部とからなり、密度が1.30g/cm^(3)以上である樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)

(2)「本発明の目的は、上記従来技術のこれらの問題点を解決し、植物由来成分を重合単位として含有するポリカーボネート樹脂と、生分解性を有するポリマー、好ましくは同じく植物由来成分を重合単位として含有するポリ乳酸、との二成分から成り、ポリカーボネート樹脂の成型性が改善され、かつ高い植物由来成分含有量と高度な機械物性を有する樹脂組成物を提供することである。」(段落【0006】)

(3)「本発明の樹脂組成物は単独で用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂など)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを添加することができる。」(段落【0023】)

(4)「[実施例1]
イソソルビド(233.8 g, 1.6モル)、1,3-プロパンジオール(30.4 g, 0.4モル)およびジフェニルカーボネート(428.4 g, 2.0モル)とを三ツ口フラスコに入れ、また重合触媒として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.0272 mg, 1.0×10^(-7)モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(3.65 mg, 4.0×10^(-5)モル)を加え窒素雰囲気下180℃で溶融した。攪拌下、反応槽内を100 mmHgに減圧し、生成するフェノールを溜去しながら約20分間反応させた。次に200℃に昇温した後、フェノールを留去しながら30 mmHgまで減圧し、さらに215℃に昇温した。ついで、徐々に減圧し、20 mmHgで10分間、10 mmHgで10分間反応を続行し、230℃に昇温した後さらに減圧・昇温し、最終的に250℃、0.8 mmHgで約20分間反応させ、反応を終了させた。得られたポリカーボネートをBio-PCとする。 Bio-PCの還元粘度は0.63?0.82、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)による分子量測定では重量平均分子量37,000?61,000、DSC測定によるガラス転移点は140?143℃であった。」(段落【0026】)

2.甲1に記載された発明
甲1には、1.(1)の摘示から、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

「下記式(1)
【化1】

(R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基)
で表されるジオール残基を含んで成り、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が40?100モル%を占めるポリカーボネート100重量部と生分解性を有するポリマー10?250重量部とからなり、密度が1.30g/cm^(3)以上である樹脂組成物。」

また、甲1には、1.(4)の摘示から、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

「イソソルビド(233.8 g, 1.6モル)、1,3-プロパンジオール(30.4 g, 0.4モル)およびジフェニルカーボネート(428.4 g, 2.0モル)とを三ツ口フラスコに入れ、また重合触媒として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.0272 mg, 1.0×10^(-7)モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(3.65mg, 4.0×10^(-5)モル)を加え窒素雰囲気下180℃で溶融し、攪拌下、反応槽内を100 mmHgに減圧し、生成するフェノールを溜去しながら20分間反応させ、次に200℃に昇温した後、フェノールを留去しながら30 mmHgまで減圧し、さらに215℃に昇温し、ついで、徐々に減圧し、20 mmHgで10分間、10 mmHgで10分間反応を続行し、230℃に昇温した後さらに減圧・昇温し、最終的に250℃、0.8 mmHgで20分間反応させてなる、還元粘度が0.63?0.82、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)による分子量測定での重量平均分子量37,000?61,000、DSC測定によるガラス転移点が140?143℃であるポリカーボネートBio-PCの製造方法。」

3.甲2の記載
甲2には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
主たる繰り返し単位が下記式(A)で表され、重クロロホルムを溶媒として測定される^(1)H-NMRスペクトルのδ=7.96?8.02ppmに検出されるシグナル(a)及びδ=8.11?8.17ppmに検出されるシグナル(b)の各々の積分値から算出されるポリカーボネート1g中のプロトンモル数(Pa)及び(Pb)が、下記式(1)及び式(2)を満たし、かつ、粘度平均分子量が15,000?40,000であるポリカーボネート100重量部に、金属塩系化合物及びケイ素含有化合物から選ばれる少なくとも1種の難燃剤を0.001?30重量部と、リン系熱安定剤0.001?1重量部とを、少なくとも配合してなるポリカーボネート樹脂組成物。
式(A)
【化1】

式(1) 4 <{(Pa)+(Pb)}<26
式(2) 0.5 < (Pa)/(Pb) < 3
(但し、(Pa)及び(Pb)の単位はμモル/gである。)」(特許請求の範囲請求項1)

(2)「本発明の目的は、色相が良好で、ポリカーボネート本来の透明性を有し、かつ、難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及び成形体を提供することにある。」(段落【0007】)

(3)「リン系熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対して、0.001?1重量部であり、好ましくは0.01?0.5重量部である。0.001重量部より少ないとでは色相改良効果が十分でなく、1重量部より多いと耐加水分解性が悪化する等の問題がある。また、上記リン系安定剤は2種以上を併用してもよい。
本発明においては、色相改良のための熱安定剤として、リン系熱安定剤に加え、ヒンダードフェノール化合物、イオウ化合物等の安定剤を併用することもできる。特にヒンダードフェノール系安定剤とリン系安定剤を併用すると、色相改善効果が高まり好ましい。」(段落【0066】)

(4)「本発明においては、離型剤を用いても良い。この離型剤は、その種類等特に定めるものではないが、好ましくは、脂肪族カルボン酸、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、数平均分子量200?15,000の脂肪族炭化水素化合物及び/又はポリオルガノシロキサンが挙げられる。」(段落【0071】)

(5)「従来、離型剤は、射出成形時の離型抵抗低減、押出成形時のダイやロールとの離型性を改善するために添加されていた。しかしながら、本発明の組成物においては、離型剤のうち、例えば、脂肪族カルボン酸とアルコールの部分エステル、数平均分子量200?15000の脂肪族炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種を使用すると、離型性改良のみならず、成形品の色相、透明性も改良できる。特に、脂肪族カルボン酸エステルが最も好ましく用いられる。
該離型剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対して、好ましくは0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?1重量部、さらに好ましくは0.05?0.5重量部である。5重量部以下とすることにより、耐加水分解性の低下をより効果的に抑止し、成形時のガス発生によるベント閉塞をより効果的に抑止する。その結果、より良好な外観表面を持つ成形品が得られる。また、配合量を0.01重量部以上とすることにより、より良好な離型効果が得られ、さらに、離型剤が脂肪族カルボン酸とアルコールの部分エステル又は数平均分子量200?15000の脂肪族炭化水素化合物である場合には、より良好な色相が得られる。上記離型剤は1種のみを使用してもよいし、複数種を併用してもよい。」(段落【0080】)

(6)「【表2】

表2において、採用した添加剤は、下記のとおりである。
熱安定剤1:トリス(2,4-ジ-t?ブチルフェニル)ホスファイト(旭電化製 商品名:アデカスタブ2112)
金属塩系難燃剤1:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ化学工業(株)製、メガファックF114)
シリコーン系難燃剤1:(信越化学(株)製 X40-9244)
離型剤1:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン製 商品名:S-100A)
離型剤2:ペンタエリスリトールテトラステアレート(日本油脂製 ユニスターH476)
離型剤3:パラフィンワックス(日本精鑞株製パラフィンワックス155)
紫外線吸収剤1:2,2’-メチレンビス-[4-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール](旭電化製 LA31)」(段落【0115】、【0116】)

4.甲3の記載
甲3には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】(A)(i)ジヒドロキシ化合物と、(ii)ホスゲン類、炭酸ジエステル類またはジカルボン酸類との反応により形成される繰返し単位を有し、かつ末端基の少なくとも一部が下記一般式[I]で示される重合体;
【化1】

および、
(B)脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステルからなることを特徴とする樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)

(2)「【発明の目的】本発明は、耐熱安定剤などの添加剤を用いなくても成形時の滞留安定性に優れ、しかも離型性などの成形性にも優れており、連続成形も可能であって、色調および透明性に優れた成形品を効率的に製造することができる樹脂組成物を提供することを目的としている。」(段落【0005】)

(3)「樹脂組成物
本発明に係る樹脂組成物は、上記のような(A)重合体と、(B)脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステルとから形成されるこれらの含有比率は特に限定されないが、重合体(A)100重量に対して、脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステル(B)を下限量として0.01重量部以上、好ましくは0.04重量部以上、かつ上限量として0.1重量部以下好ましくは、0.08重量部以下の量で含有していることがのぞましい。脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステル(B)をこのような量で含有していると、樹脂組成物は熱安定性に優れ、かつ優れた成形性を発現することができる。なお脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステル(B)の量が上記上限値より多いと、樹脂組成物は熱安定性が低下したり、金型汚れに悪影響を及ぼすことがあり、一方上記下限値より少ないと離形性が不十分になり、成形性が悪化することがある。」(段落【0061】)

(4)「本発明に係る樹脂組成物は、耐熱安定剤の添加をほとんど必要としないが、本発明の目的を損なわない範囲であれば通常の耐熱安定剤を含有していてもよい。このような耐熱安定剤としては、具体的にはたとえば、リン系安定剤、フェノール系安定剤、有機チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤などを挙げることができる。」(段落【0063】)

(5)「これらの耐熱安定剤は、2種以上組合せて用いてもよく、(A)重合体100重量部に対して、0.001?5重量部 、好ましくは0.005?0.5重量部、さらに好ましくは0.01?0.3重量部の量で用いられることができる。」(段落【0070】)

(6)「(B)脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステル
SMG:ステアリン酸モノグリセリド
PEMS:ペンタエリスリトールモノステアレート
PETS:ペンタエリスリトールテトラステアレート
添加剤
stab.-1:アデカスタブ マークIIAO50:旭電化工業(株)製フェノール系酸化防止剤(ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
得られた樹脂組成物から、ディスク成形機(住友重機械工業製DISK3成形機)およびニッケル製鏡面スタンパーを用いて、シリンダー温度330℃、1サイクル6.5秒、金型温度80℃の条件で、直径12cm×1.2mm厚のディスク基板に成形した。この基板について、(1)黄色度、(2)光線透過率、(3)ヘイズを下記のように評価した。結果を表1に示す。また樹脂組成物の(4)滞留安定性、(5)連続成形性および金型汚れについても下記のように評価した結果を表1に示す。」(段落【0091】)

(7)「【表1】

」(段落【0097】)

第5 対比・判断

1.本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「ポリカーボネート」はカーボネート基を有するものであり、また、「R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に水素原子」であり、「全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が」「100モル%を占める」ものは、本件発明1の「式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂(A成分)」に相当するといえる。
甲1発明1の「樹脂組成物」はポリカーボネートを含有することから、本件発明1の「ポリカーボネート樹脂組成物」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「下記式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂(A成分)を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
ポリカーボネート樹脂(A成分)が、本件発明1においては、「Cl含有量0?50ppmである」のに対して、甲1発明1においては、Cl含有量が不明である点。

[相違点2]
ポリカーボネート樹脂組成物が、本件発明1においては、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して「ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)0.01?0.5重量部、およびヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)0.0005?0.1重量部を含有してなる」のに対して、甲1発明1においては、それらの成分を含有していない点。

[相違点3]
本件発明1においては、「ポリカーボネート樹脂」を「ペレット」とした後に、「ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)」および「ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)」を含有してなる「ポリカーボネート樹脂組成物を溶融押出して」、「ポリカーボネート樹脂組成物ペレット」としているのに対して、甲1発明1においては、ペレットとすることについて特に特定していない点。

[相違点4]
ポリカーボネート樹脂組成物ペレットが、本件発明1においては、「ポリカーボネート樹脂組成物ペレットより形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、JIS K7105で測定されたヘーズが0?3%であることを満足する」のに対して、甲1発明1においては、斯かる条件により製造された平滑平板におけるへーズの値が不明である点。

事例に鑑み、初めに上記相違点2について検討すると、上記相違点2に係る構成の本件発明1における技術的意義は、本件特許明細書の記載(段落【0028】、【0035】)からみて、ポリカーボネート樹脂組成物の不透明化を抑制しつつ離型性の向上を達成すること、及び、ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の分子量低下や色相悪化などを抑えることであると理解される。
甲1には、樹脂組成物に添加できるものとして「離形剤」、「酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)」等が列記されているに留まり(第4 1.(3))、それらを添加することにより樹脂組成物の不透明化や色相悪化を抑えることについては記載も示唆もされていない。
一方、甲2には、離型剤のうち脂肪族カルボン酸とアルコールの部分エステルを使用すると、離型性改良のみならず、成形品の色相、透明性も改良できること、離型剤の配合量はポリカーボネート100重量部に対して好ましくは0.01?5重量部であること、離型剤としてステアリン酸モノグリセリドを用いること、さらに、ヒンダードフェノール系安定剤とリン系安定剤を併用すると、色相改善効果が高まり好ましいことが記載されている(第4 3.(3)、(5)、(6))ものの、これは、甲2に記載された特定の繰り返し単位、^(1)H-NMRスペクトル、及び粘度平均分子量を有するポリカーボネート(第4 3.(1))にステアリン酸モノグリセリドやヒンダードフェノール系安定剤を含有させた場合に色相や透明性が改良できるというものであって、甲1発明1における式(1)(式及びその説明の記載を省略する。以下同じ。)で表される特定の構造を有するポリカーボネートにステアリン酸モノグリセリドやヒンダードフェノール系安定剤を含有させることについては、甲2には記載も示唆もされていない。
また、甲3には、色調および透明性に優れた成形品を効率的に製造することができる樹脂組成物を提供するにあたり、脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステルを、重合体100重量部に対して0.01重量部以上0.1重量部以下の量で含有していること、脂肪族カルボン酸と多価アルコールとのエステルとしてステアリン酸モノグリセリドを用いること、さらに、耐熱安定剤を重合体100重量部に対して0.001?5重量部の量で用いること、耐熱安定剤としてフェノール系酸化防止剤(ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(本件発明1の「ヒンダードフェノール系熱安定剤」に相当する。)を用いることが記載されている(第4 4.(2)、(3)、(5)?(7))ものの、これは、甲3に記載された特定の末端基を有するポリカーボネート等の重合体(第4 4.(1))にステアリン酸モノグリセリドや(ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを含有させた場合に色相や透明性に優れるというものであって、甲1発明1における式(1)で表される特定の構造を有するポリカーボネートにステアリン酸モノグリセリドや(ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを含有させることについては、甲3には記載も示唆もされていない。
そうである以上、たとえ、甲2ないし3に、第4 3.及び4.で摘示したような技術の開示があったとしても、甲1発明1において、樹脂組成物の不透明化や色相悪化を抑えるための具体的な解決手段として、甲2ないし3に開示の技術を甲1発明1に組み合わせる動機付けがないことから、甲1発明1において上記相違点2に係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
そして、この判断は、甲1発明1の技術分野において、ポリカーボネート樹脂組成物を溶融押出して事前にペレットとしておくことが周知であり(甲4ないし6に記載された事項参照)、かつ、ポリカーボネート樹脂組成物以外の樹脂組成物においても、ステアリン酸モノグリセリドが離型剤として一般的に使用され、またヒンダードフェノール系化合物が熱安定剤として一般的に使用されていることが周知であった(甲7ないし8に記載された事項参照)としても、影響されない。

また、本件発明1における上記相違点2に係る効果、特に、離型剤がステアリン酸モノグリセリドであることによる効果について検討すると、本件特許明細書(段落【0065】?【0067】)には、実施例3として、A成分であるPC-1(ポリカーボネート樹脂)を100重量部、B成分であるB-1(ステアリン酸モノグリセリド)を0.05重量部、C成分であるC-3(3,9-ビス[2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニロキシ]-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)を0.03重量部含有してなるポリカーボネート樹脂組成物ペレットは、成形性が良好、成形板の色相が8、成形板のHaze(%)が1であることが示されている。また、比較例5として、A成分としてPC-1を100重量部、B成分としてB-2(ステアリン酸トリグリセリド)を0.1重量部、C成分としてC-3を0.08重量部含有してなるポリカーボネート樹脂組成物ペレットは、成形性が良好、成形板の色相が8、成形板のHaze(%)が11であることが示されている。実施例3ではHaze(%)が1、 比較例5ではHaze(%)が11であるが、Haze(%)はB成分により影響を受けるものと解される(段落【0028】)。離型剤がステアリン酸トリグリセリドである比較例5においては、不透明化の抑制に影響を与えるB成分の含有量が、本件発明1において規定される0.01?0.5重量部という数値範囲内であり、しかも実施例3の含有量より多いにもかかわらず、Haze(%)は実施例3と比較して顕著に劣るものになっている。実施例3は、B成分としてステアリン酸モノグリセリドという特定のエステルを用いたことによってHaze(%)が顕著に減少、すなわち不透明化が顕著に抑制されたものと認められる。
一方、甲2ないし3には、ポリカーボネートに離型剤としてステアリン酸モノグリセリドを配合することまでは記載されているものの、当該ステアリン酸モノグリセリドがステアリン酸トリグリセリド等の他の離型剤よりも不透明化が顕著に抑制されることについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1において特定されるカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂組成物ペレットにおける離型剤がステアリン酸モノグリセリドであることによる効果は、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

以上のとおり、上記相違点2は想到容易とはいえないのであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲2ないし3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本件発明2について
本件発明2と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「イソソルビド」は、本件発明2の「式(a)で表されるエーテルジオール」に相当し、同様に、「ジフェニルカーボネート」は「炭酸ジエステル形成化合物」に相当する。
甲1発明2の「重合触媒として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩(0.0272 mg, 1.0×10^(-7)モル)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(3.65mg, 4.0×10^(-5)モル)を加え」は、本件発明2の「重合触媒として含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つの化合物を使用し」に相当する。
甲1発明2の「窒素雰囲気下180℃で溶融し、攪拌下、反応槽内を100 mmHgに減圧し、生成するフェノールを溜去しながら20分間反応させ、次に200℃に昇温した後、フェノールを留去しながら30 mmHgまで減圧し、さらに215℃に昇温し、ついで、徐々に減圧し、20 mmHgで10分間、10 mmHgで10分間反応を続行し、230℃に昇温した後さらに減圧・昇温し、最終的に250℃、0.8 mmHgで20分間反応させて」は、本件発明2の「常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180℃?280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させて」に相当する。

そうすると、本件発明2と甲1発明2とは、
「重合触媒として含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群より選ばれた少なくとも一つの化合物を使用し、下記式(a)で表されるエーテルジオールを含有するジオールと炭酸ジエステル形成化合物とを、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180℃?280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させて、前記式(1)で表されるカーボネート構成単位を含有するポリカーボネート樹脂(A成分)を得る、ポリカーボネート樹脂の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点5]
ポリカーボネート樹脂(A成分)の原料が、本件発明2においては、式(a)で表されるエーテルジオールと炭酸ジエステル形成化合物とであるのに対して、甲1発明2においては、イソソルビドおよびジフェニルカーボネート以外に1,3-プロパンジオールを使用する点。

[相違点6]
ポリカーボネート樹脂(A成分)の構成単位が、本件発明2においては、式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるものであるのに対して、甲1発明2においては、式(1)で表されるカーボネート構成単位のみならず、1,3-プロパンジオールに由来するカーボネート構成単位を含有する点。

[相違点7]
ポリカーボネート樹脂(A成分)が、本件発明2においては、「Cl含有量0?50ppmである」のに対して、甲1発明2においては、Cl含有量が不明である点。

[相違点8]
ポリカーボネート樹脂組成物が、本件発明2においては、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して「ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)0.01?0.5重量部、およびヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)0.0005?0.1重量部を含有してなる」のに対して、甲1発明2においては、それらの成分を含有していない点。

[相違点9]
本件発明2においては、「ポリカーボネート樹脂」を「ペレット」とした後に、「ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)」および「ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)」を含有してなる「ポリカーボネート樹脂組成物を溶融押出して」、「ポリカーボネート樹脂組成物ペレット」としているのに対して、甲1発明2においては、ペレットとすることについて特に特定していない点。

[相違点10]
ポリカーボネート樹脂組成物ペレットが、本件発明2においては、引用する請求項1で特定された「ポリカーボネート樹脂組成物ペレットより形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、JIS K7105で測定されたヘーズが0?3%であることを満足する」のに対して、甲1発明2においては、斯かる条件により製造された平滑平板におけるへーズの値が不明である点。

事例に鑑み、初めに上記相違点8について検討すると、上記相違点8は、1.の相違点2と同じであるから、相違点2について検討したのと同じ理由によって、上記相違点8は想到容易とはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明2及び甲2ないし3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本件発明3ないし9について
本件発明3ないし9は、本件発明1に係る請求項1を直接あるいは間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2ないし3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-04 
出願番号 特願2014-178099(P2014-178099)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 西山 義之
小野寺 務
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6027068号(P6027068)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂ペレット  
代理人 為山 太郎  

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