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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1331265
異議申立番号 異議2016-700637  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-22 
確定日 2017-08-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5853729号発明「ゴム組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5853729号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5853729号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2012-18965号、以下「本願」ということがある。)は、平成24年1月31日に出願人横浜ゴム株式会社(以下「特許権者」という。)によりなされた特許出願であり、平成27年12月18日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年7月22日付けで特許異議申立人外崎文子(以下「申立人」という。)により「特許第5853729号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

3.以降の手続の経緯
平成28年11月25日付け 取消理由通知
平成29年 1月30日 意見書(特許権者)
平成29年 3月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
なお、特許権者は、上記取消理由通知(決定の予告)に係る応答期間内に、意見書又は訂正請求書の提出などの応答を行わなかった。

第2 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件特許に係る請求項1ないし3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ゴム成分100重量部にワックスを0.1?3.0重量部配合すると共に、前記ワックスがフィッシャートロプシュ法により得られたパラフィンワックスであり、該パラフィンワックス中のノルマルパラフィンの重量分率(Wn)と非ノルマルパラフィンの重量分率(Wi)の比(Wn/Wi)が12以上24以下であり、前記ノルマルパラフィンの重量分率(Wn)が92.3重量%?96.0重量%であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記パラフィンワックスが、天然ガス由来の素原料により得られたことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。」
(以下、上記請求項1ないし3に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第3 申立人が主張する取消理由等
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第6号証を提示し、概略、以下の取消理由が存するとしている。

本件発明1ないし3は、いずれも、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、上記甲第2号証に記載された発明ないし甲第6号証に記載された発明との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2008-31433号公報
甲第2号証:化学工業日報、2008年12月18日号、「ゴム老化防止用ワックス 脱石油素材品を開発 日本精蝋」の記事
甲第3号証:石鹸日用品新報、2009年1月7日号、「日本精蝋 脱石油素材100% 新ゴム老化防止用ワックス開発」の記事
甲第4号証:石油通信、平成20年12月18日号に掲載されたものらしき「日蝋、脱石油ゴム老化防止ワックス開発」なる表題の文章(なお、旧字体の「蝋」は表記できないので、以下「蝋」と表記する。)
甲第5号証:日刊石油タイムズ、平成20年12月18日号、「日本精蝋 脱石油素材のゴム老化防止用ワックスを開発」の記事
甲第6号証:日経産業新聞、2009年1月6日号、「ゴム老化防止ワックス 天然ガスを原料に 日本精蝋、タイヤ用開発」の記事
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲6」と略していう。)

そして、当審は、申立人が主張する取消理由と同旨の理由を、平成28年11月25日付け取消理由通知及び平成29年3月28日付け取消理由通知(決定の予告)において、それぞれ通知した。

第4 当審の判断
当審は、当審が決定の予告として通知した上記取消理由につき依然として理由があるから、本件発明1ないし3についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。
以下、詳述する。

I.各甲号証の記載事項及び甲1に記載された発明
上記取消理由は、特許性(進歩性欠如)に係る取消理由であるから、上記各甲号証に係る記載事項の摘示並びに甲1に記載された発明の認定を行う。(なお、摘示における下線は当審が付した。)

1.甲1の記載事項及び記載された発明

(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエンゴム35?55重量%および天然ゴムを含有するゴム成分100重量部に対して、
カーボンブラックを45?60重量部、
粉末硫黄を1.5重量部以下、
スルフェンアミド系加硫促進剤を0.75重量部以下、ならびに
炭素数分布が20?50、イソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)が5/95?20/80であり、イソ分およびノルマル分の各成分の炭素数分布において該イソ分の標準偏差/平均炭素数が1.0?1.8、該ノルマル分の標準偏差/平均炭素数が1.0?1.8であるパラフィンワックスを0.7?1.5重量部含有するサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載のサイドウォール用ゴム組成物を用いたサイドウォールを有する空気入りタイヤ。」

(a2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール用ゴム組成物およびそれを用いたサイドウォールを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤサイドウォールの外観は、長期間使用することにより、大気中のオゾンや紫外線などによる劣化を受け、サイドウォールにクラックが発生することがある。また、配合したワックスや老化防止剤などが表面に移行し、タイヤの変色を招き、タイヤの美的外観を損なうことも多々見受けられた。
【0003】
これらの問題点を改善する手法としては、タイヤ表面に移行し、膜を形成し、物理的にオゾンなどによる劣化を妨げるために、ワックスを配合することが知られている。しかし、この場合、ワックスの組成を如何にすべきか、確固たる指標はなかった。また、不適切なワックスを配合した場合、逆に、タイヤの外観を損なう場合もあった。」

(a3)
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、美観および耐候性に優れたサイドウォール用ゴム組成物ならびにそれを用いたサイドウォールを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ブタジエンゴム35?55重量%および天然ゴムを含有するゴム成分100重量部に対して、カーボンブラックを45?60重量部、粉末硫黄を1.5重量部以下、スルフェンアミド系加硫促進剤を0.75重量部以下、ならびに炭素数分布が20?50、イソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)が5/95?20/80であり、イソ分およびノルマル分の各成分の炭素数分布において該イソ分の標準偏差/平均炭素数が1.0?1.8、該ノルマル分の標準偏差/平均炭素数が1.0?1.8であるパラフィンワックスを0.7?1.5重量部含有するサイドウォール用ゴム組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記サイドウォール用ゴム組成物を用いたサイドウォールを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定のゴム成分、カーボンブラック、粉末硫黄、所定の加硫促進剤および所定のパラフィンワックスを所定量含有することにより、美観および耐候性に優れたサイドウォール用ゴム組成物ならびにそれを用いたサイドウォールを有する空気入りタイヤを提供することができる。」

(a4)
「【0035】
(2)パラフィンワックスのイソ分とパラフィンワックスのノルマル分との含有比率
本発明でいうパラフィンワックスのイソ分とは、枝分かれのある(主鎖および側鎖をもつ)飽和炭化水素(イソパラフィン)を意味し、パラフィンワックスのノルマル分とは、枝分かれのない(主鎖のみをもつ)飽和炭化水素(ノルマルパラフィン)を意味する。
【0036】
パラフィンワックスのイソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)は5/95?20/80であることが必要であり、10/90?15/85であることが好ましい。パラフィンワックスのイソ分/ノルマル分が5/95未満では、膜の耐屈曲性が充分ではないため、割れてオゾンの浸入を許してしまう。また、パラフィンワックスのイソ分/ノルマル分が20/80をこえると、表面に生成した膜がオイル状となり、走行中に空気中のホコリを付着させ、外観を損なう。
・・(中略)・・
【0038】
本発明でいうパラフィンワックスのイソ分の重量分率(%)とは、
イソパラフィンの含有量÷全パラフィンの含有量×100
で表すことができる。パラフィンワックスのイソ分の重量分率(%)は、析出したワックスのフレキシビリティーの点から、5?20であることが好ましく、10?15であることより好ましい。
・・(中略)・・
【0043】
本発明でいうパラフィンワックスのノルマル分の重量分率(%)とは、
ノルマルパラフィンの含有量÷全パラフィンの含有量×100
で表すことができる。パラフィンワックスのノルマル分の重量分率(%)は、ワックスの移行性の観点から、80%以上であることが好ましく、85%以上であることより好ましい。」

(a5)
「【0055】
【表1】


【0056】
実施例1?5および比較例1?5
表2に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。つぎに、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、100℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物をサイドウォールの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃の条件下で40分間プレス加硫し、実施例1?5および比較例1?5の試験用タイヤ(サイズ:11R22.5 14P)を製造した。
【0057】
(外観)
製造した試験用タイヤを、雨水がかからないように屋外に180日間放置した。その後、外観を目視で観察し、4段階で評価した。
◎:変色がまったくなし
○:一部分で変色あり
△:大部分で変色あり
×:タイヤ全体にわたって変色あり
【0058】
(オゾンクラック試験)
上記作製方法によって得られた試験用タイヤを、JIS K 6259「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-耐オゾン性の求め方」に準じて、温度40℃、オゾン濃度50ppm、伸長率20%の条件下で72時間放置し、試験用タイヤのサイドウォールにおけるクラックの状態を評価した。
◎:肉眼で認められる亀裂がまったくなし
○:肉眼で見える程度の亀裂が少数存在
△:肉眼で見える程度の亀裂が多数存在
×:大きく、深い亀裂が多数存在
【0059】
上記試験の評価結果を表2に示す。
【0060】
【表2】




(2)甲1に記載された発明
甲1には、上記(1)の記載事項からみて、
「ゴム成分100重量部にワックスを0.7?1.5重量部配合すると共に、前記ワックスがパラフィンワックスであり、該パラフィンワックス中のイソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)が5/95?20/80であるゴム組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
「甲1発明1のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。

2.甲2ないし甲6の記載事項
(なお、摘示にあたり、丸数字は表記できないので「○1」のように表現する。)

(1)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「日本精蝋は、脱石油素材100%のゴム老化防止用ワックスを開発、工業化にめどをつけた。天然ガスを原料とした合成炭化水素ワックス100%の製品で、耐オゾン性に有効なノルマルパラフィン含有率が極めて高いのが特徴。・・(中略)・・
空気中のオゾンによるゴム表面の亀裂・劣化を防止するために用いられるゴム老化防止用ワックスはこれまで、主材として石油ワックスが使用されている。石油ワックスの成分は一般にノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィンの3種に大別され。うちノルマルパラフィンがゴム老化防止用ワックスに求められる耐オゾン性に最も有効とされている。
開発したゴム老化防止用ワックスは、天然ガスを原料とした合成炭化水素ワックスであるフィッシャー・トロプッシュワックスを100%成分としている。耐オゾン性に最も有効なノルマルパラフィン含有率が90%以上と極めて高く不純物も少ない。各グレードのフィッシャー・トロプッシュワックスを組み合わせることで炭素数分布を広く設計し、低温から高温におよぶ全温度領域において有効な耐オゾン性を発揮する。」

(2)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「日本精蝋はこのほど、脱石油素材100%の新しいタイプのゴム老化防止用ワックスを開発し、今年度に上市・量産化を図る。
同社によると、ゴム老化防止用ワックスは、空気中によるオゾンによるゴム表面の亀裂や劣化防止に大きな役割を果たし、その主材として石油ワックスが使われている。
一般に石油ワックスの成分は、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィンの3種に大別され、この中でゴム老化防止用ワックスに求められる耐オゾン性に最も有効な成分がノルマルパラフィンだという。
今回、同社が開発した新しいゴム老化防止用ワックスは、先記石油ワックスでの基本設計を継承・維持し、近年のタイヤメーカー各社のエコタイヤ開発に資する素材(脱石油素材)として検討・開発され、タイヤ以外のゴム製品へも適用可能だと同社では説明している。
その新しいゴム老化防止用ワックスの特徴は、○1成分はフィッシャー・トロプッシュワックス100%。天然ガスを原料とし、ノルマルパラフィン含有率が極めて高く、不純物が非常に少ない合成ワックス○2耐オゾン性に最も有効であるノルマルパラフィンの含有率が極めて高く(90%以上)、良好な耐オゾン性を発揮○3各グレードのフィッシャー・トロプッシュワックスを組合すことで炭素数分布をワイドに設計し、低温から高温に及ぶ全温度領域において有効な耐オゾン性を発揮する-としている。」

(3)甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
「日本精蝋は17日、脱石油素材100%による新しいタイプのゴム老化防止用ワックスを開発し、工業化のメドが付いたので09年度4月から販売、量産化を図る計画であると発表した。2?3年内に1千トン?2千トンを目標としている。
ゴム老化防止用ワックスは、空気中のオゾンによるゴム表面の亀裂や劣化防止に大きな役割を果たし、主材として石油ワックスが使用されている。石油ワックス成分のうちゴム老化防止用ワックスに求められる耐オゾン性に最も有効な成分がノルマルパラフィン。
脱石油素材100%による新しいゴム老化防止用ワツクスは石油ワックスの基本設計を継承・維持し、近年のタイヤメーカー各社のエコタイヤ開発に資する素材(脱石油素材)として検討・開発され、タイヤ以外のゴム製品へも適用可能としている。
・・(中略)・・
脱石油素材のゴム老化防止用ワックスの特徴は次のとおり。
○1成分は、脱石油素材であるフィッシャー・トロプッシュワックス100%。天然ガスを原料とし、ノルマルパラフィン含有率が極めて高く、不純物の非常に少ない合成ワックス。○2耐オゾン性に最も有効であるノルマルパラフィンの含有率が極めて高く(90%以上)、良好な耐オゾン性を発揮する。○3各グレードのフィッシャー・トロプッシュワックスを組み合わせることで炭素数分布をワイドに設計し、低温から高温に及ぶ全温度領域において耐オゾン性を発揮する。」

(4)甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。
「日本精蝋は、脱石油素材100%による新しいタイプのゴム老化防止用ワックスを開発、工業化の目処がついたことから、タイヤをはじめとする各種ゴムメーカーに向けて来年度から量産化を図る計画である。
ゴム老化防止用ワックスは、空気中のオゾンよるゴム表面の亀裂や劣化防止に大きな役割を果たすが、主材には石油ワックスが使用されている。石油ワックスの成分は、ノルマルパラフイン、イソパラフィン、シクロパラフィンの3種であるが、耐オゾン性に最も有効な成分はノルマルパラフィンである。日蝋の代表的なゴム老化防止用ワックスは、各種グレードの石油ワックスを組み合わすことで高いノルマルパラフィン含有率と広い炭素数分布を実現し、全温度領域で効果的に耐オゾン性を発揮するよう設計されている。
・・(中略)・・
その特徴は○1天然ガスを原料とし、ノルマルパラフィン含有率が極めて高く、不純物の非常に少ない合成ワックスである、○2ノルマルパラフィンの含有率が極めて高く、良好な耐オゾン性を発揮する、○3炭素数分布をワイドに設計し全温度領域で有効な耐オゾン性を発揮する、となっている。」

(5)甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
「タイヤ向けワックス大手の日本精蝋(東京・中央)は天然ガスを主原料とするゴム老化防止用ワツクスを開発したと発表した。これまで潤滑油の副産物を精製していたが、潤滑油メーカー各社が生産方式を転換したため、ワックス原料の生産量が減少。原料の代替が必要になっていた。原油由来でないワックスの開発は初めてという。
二〇〇九年度中に量産化する考え。ゴム老化防用ワックスは粒状で、ゴムからタイヤを作る前に添加する。ゴムのひび割れの原因となるオゾンがゴム内部へ侵入するのを止める効果がある。」

II.取消理由に係る検討
上記取消理由について、本件発明1ないし3につきそれぞれ検討する。

1.本件発明1について

(1)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、本件発明1と甲1発明1とは、下記の点でのみ相違し、その余で一致するものと認められる。

相違点1:本件発明1では、「ワックスがフィッシャートロプシュ法により得られたパラフィンワックスであり、該パラフィンワックス中のノルマルパラフィンの重量分率(Wn)と非ノルマルパラフィンの重量分率(Wi)の比(Wn/Wi)が12以上24以下であり、ノルマルパラフィンの重量分率(Wn)が92.3重量%?96.0重量%である」のに対して、甲1発明1では、「パラフィンワックス中のイソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)が5/95?20/80であ」り、その製造方法につき特定されていない点

(2)検討
上記相違点1につき検討すると、甲1発明1における「パラフィンワックス中のイソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)が5/95?20/80であ」ることは、(a)パラフィンワックス中のノルマル分とイソ分との(重量)分率(ノルマル分/イソ分)の比が19?4であること及び(b)ノルマル分の含有(重量)分率が95?80重量%であることをそれぞれ意味することがそれぞれ当業者に自明であり、本件発明1と甲1発明1との間で、(a)ノルマル分、すなわち「ノルマルパラフィンの重量分率(Wn)」とイソ分、すなわち「非ノルマルパラフィンの重量分率(Wi)」の「比(Wn/Wi)」につき12?19の範囲及び(b)「ノルマルパラフィンの重量分率(Wn)」につき92.3重量%?95.0重量%の範囲でそれぞれ重複するものと認められる。
また、甲2ないし甲6にもそれぞれ記載されている(特に下線部参照)とおり、空気入りタイヤなどを構成するゴム組成物に老化防止剤として添加使用されるパラフィンワックスにおいて、(a)当該ワックスに含有されるノルマルパラフィンがゴム組成物の耐オゾン性の改善に有効であること及び(b)天然ガスを原料とし、フィッシャートロプシュ法により合成したパラフィンワックスが、90重量%以上の高いノルマルパラフィン含有比率を有するとともに、不純物が少ないものであることは、いずれも当業者の周知技術であるものと認められる。
してみると、甲1発明1において、ゴム組成物の成形物外観につき維持したまま、耐オゾン性を更に改善することを意図して、上記当業者の周知技術に基づき、ノルマル分の含有(重量)分率が80?95重量%の範囲のパラフィンワックスのうち、フィッシャートロプシュ法で製造された90重量%以上、特に92.3重量%以上(すなわち「比(Wn/Wi)」については12以上となる)の高いノルマル分含有分率のものを使用すること、すなわち、上記相違点1は、当業者が適宜なし得ることである。
また、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本件発明1が、甲1発明1に当業者の周知技術を組み合わせたものから当業者が予期し得ないような格別顕著な効果を奏しているものとも認められない。

(3)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1、すなわち、甲1に記載された発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.本件発明2について

(1)対比
本件発明1を引用する本件発明2につき甲1発明1と対比すると、上記1.で示した相違点1に加えて新たに下記の点で相違し、その余で一致している。

相違点2:本件発明2では、「パラフィンワックスが、天然ガス由来の素原料により得られたことを特徴とする」のに対して、甲1発明1では、「パラフィンワックス中のイソ分とノルマル分との含有比率(イソ分/ノルマル分)が5/95?20/80であ」り、その製造方法における素原料につき特定されていない点

(2)検討
しかるに、上記相違点1については、上記1.(2)で説示した理由により、当業者が適宜なし得ることである。
また、上記相違点2についても、甲2ないし甲6にもそれぞれ記載されているとおり、空気入りタイヤなどを構成するゴム組成物に老化防止剤として添加使用されるパラフィンワックスにおいて、(a)当該ワックスに含有されるノルマルパラフィンがゴム組成物の耐オゾン性の改善に有効であること及び(b)天然ガスを原料とし、フィッシャートロプシュ法により合成したパラフィンワックスが、90重量%以上の高いノルマルパラフィン含有比率を有するとともに、不純物が少ないものであることは、いずれも当業者の周知技術であるものと認められるから、フィッシャートロプシュ法によりパラフィンワックスを合成するにあたり、天然ガスを原料とすること、すなわち、天然ガス由来の素原料により合成し得られたものを使用すること、すなわち、上記相違点2も、当業者が適宜なし得ることである。
なお、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本件発明2が、甲1発明1に当業者の周知技術を組み合わせたものから当業者が予期し得ないような格別顕著な効果を奏しているものとも認められない。

(3)小括
したがって、本件発明2は、甲1発明1、すなわち、甲1に記載された発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.本件発明3について

(1)対比・検討
本件発明1を引用する本件発明3と甲1発明2とを対比すると、下記の点でのみ相違し、「空気入りタイヤ」である点で一致するものと認められる。

相違点3:本件発明3では、「請求項1又は2に記載のゴム組成物を使用した」のに対して、甲1発明2では、「甲1発明1のゴム組成物を使用した」である点

しかるに、「請求項1・・に記載のゴム組成物」、すなわち本件発明1は、上記1.で説示したとおりの理由により、甲1発明1及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、甲1発明2について、甲1発明1及び当業者の周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができた本件発明1の「ゴム組成物」を使用して本件発明3に係る「請求項1に記載のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ」を構成すること、すなわち、上記相違点3についても、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、本件発明3は、甲1発明2及び上記当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)小括
したがって、本件発明3は、甲1発明2、すなわち、甲1に記載された発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.特許権者の主張について
特許権者は、平成29年1月30日付け意見書において、
「甲2?甲6・・(中略)・・は、フィッシャートロプシュ法により得られたパラフィンワックス、及びそのノルマルパラフィン含有比率が90重量%以上であることを記載します。
しかし、甲2?甲6は、ノルマルパラフィンと非ノルマルパラフィンの重量分率の比(Wn/Wi)が12以上24以下、ノルマルパラフィンの重量分率が92.3重量%?96.0重量%である、フィッシャートロプシュ法により得られたパラフィンワックスを教示するものではありません。また甲2?甲6は、いずれもフィッシャートロプシュ法により得られたパラフィンワックスが、石油由来のパラフィンワックスに比べ、耐オゾン性を改良するより大きな作用を有すると記載するものでもありません。」
と主張している(意見書第4頁第25行?第5頁第7行)。
しかるに、上記I.2.の(1)ないし(5)で摘示したとおり、
(a)甲2ないし甲6には、それぞれ、タイヤなどを構成するゴム組成物に添加するゴム老化防止用パラフィンワックスとして、脱石油素材である天然ガスを原料とした化学合成炭化水素からなるワックスが上市されたこと、
(b)甲2ないし甲5には、それぞれ、ゴム老化防止用パラフィンワックスにおいて、ゴム組成物の耐オゾン性改善に最も有効なものがノルマルパラフィンであること、
(c)甲2ないし甲4には、それぞれ、天然ガスを原料としたフィッシャートロプシュワックスが、ノルマルパラフィン90重量%以上という極めて高い含有率を有するものであり、当該フィッシャートロプシュワックス100%のワックス製品が上市されたこと、
がそれぞれ開示されているから、これら甲2ないし甲6の開示を総合すると、上記1.(2)で説示したとおり、ゴム組成物に添加するゴム老化防止用パラフィンワックスにおいて、ノルマルパラフィン含有比率がより高いものを使用する方がゴム組成物の耐オゾン性の改善に対してより有効であるとともに、脱石油素材である天然ガスを原料としたフィッシャートロプシュワックスが、ノルマルパラフィン含有比率の点で90重量%以上という極めて高い含有率を有することから、ゴム組成物に添加するゴム老化防止用パラフィンワックスとして、天然ガスを原料としたフィッシャートロプシュワックスを使用した場合、ゴム組成物の耐オゾン性がより改善されるであろうことは、甲2ないし甲6の開示に基づき、当業者の周知技術であったと認識するのが自然である。
してみると、特許権者の上記意見書における主張は、当を得ないものであり、採用することができず、上記1.ないし3.の検討結果を左右するものではない。

5.取消理由に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、いずれも甲1に記載された発明及び当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1ないし3は、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

III.当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、いずれも取り消すべきものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は、いずれも特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-26 
出願番号 特願2012-18965(P2012-18965)
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 守安 智
橋本 栄和
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5853729号(P5853729)
権利者 横浜ゴム株式会社
発明の名称 ゴム組成物  
代理人 清流国際特許業務法人  

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