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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1331269 |
異議申立番号 | 異議2017-700373 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-14 |
確定日 | 2017-08-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6020187号発明「熱伝導性複合シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6020187号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第6020187号に係る出願は、平成25年1月18日に出願され、平成28年10月14日にその発明について特許の設定登録がなされたものであって、手続の概要は以下のとおりである。 特許異議申立(全請求項 柏木里実):平成29年 4月14日 2.申立理由の概要 本件特許の全請求項に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2、3号証に記載された事項及び周知技術(周知例:甲第1ないし4号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲第1号証:特開2010-219290号公報 甲第2号証:特開2009-234112号公報 甲第3号証:特開2004-99842号公報 甲第4号証:特開2004-311577号公報 3.本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであるアルミニウム箔及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、0.4W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性粘着層を積層させてなり、室温下、25mm幅、厚み100μmの前記熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いでアルミニウム板と接着されていない熱伝導性粘着層の他方の片面を基材に同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)が2.0N/cm以上である熱伝導性複合シート。 【請求項2】 熱伝導性粘着層のポリマーマトリックスが、シリコーンゴム及び/又はシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性複合シート。 【請求項3】 熱伝導性粘着層が、 (a)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、 (b)熱伝導性充填剤:200?4,000質量部、 (c)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中のアルケニル基に対する(c)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子のモル比が0.5?5.0となる量、 (d)白金系化合物:白金系元素量で(a)成分の0.1?1,000ppm、 (f)シリコーン樹脂:50?500質量部 を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物であることを特徴とする請求項2記載の熱伝導性複合シート。 【請求項4】 熱伝導性粘着層が、 (b)熱伝導性充填剤:100?3,000質量部、 (f)シリコーン樹脂:100質量部、 (g)有機過酸化物系化合物:有機過酸化物換算で0.1?2質量部 を含有してなるシリコーン熱伝導性組成物の硬化物であることを特徴とする請求項2記載の熱伝導性複合シート。 【請求項5】 シリコーン樹脂(f)が、R^(1)_(3)SiO_(1/2)単位(R^(1)は非置換又は置換の1価炭化水素基を示す)(M単位)とSiO_(4/2)単位(Q単位)との共重合体であって、M単位とQ単位との比(M/Q)がモル比として0.5?1.5である請求項3又は4記載の熱伝導性複合シート。 【請求項6】 更に、表面処理剤(h)として、(h-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物及び/又は(h-2)下記一般式(2)で表される、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:(a)成分又は(a)成分を含まない場合は(f)成分100質量部に対して全(h)成分が0.01?50質量部となる量を含有してなる請求項3?5のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。 R^(2)_(a)R^(3)_(b)Si(OR^(4))_(4-a-b) (1) (式中、R^(2)は独立に炭素原子数6?15のアルキル基、R^(3)は独立に非置換又は置換の炭素原子数1?8の1価炭化水素基、R^(4)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、aは1?3の整数、bは0,1又は2であり、a+bは1?3の整数である。) 【化1】 (略) (式中、R^(5)は独立に炭素原子数1?6のアルキル基であり、cは5?100の整数である。) 【請求項7】 熱伝導層の厚みが、0.01?2.0mmであることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。 【請求項8】 熱伝導性粘着層の厚みが、0.03?0.3mmであることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。」 3.甲第1号証 甲第1号証には、「熱伝導性複合シート」について、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。) (1)「【請求項1】 (a)面方向への熱伝導率が20?2,000W/(m・K)の熱伝導層、 (b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層、並びに (c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シート の順に積層した3層構造を持つ熱伝導性複合シート。」 (2)「【請求項4】 前記(c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シートが、アルミニウムシート又は銅シートである請求項1?3のいずれか1項に記載の熱伝導性複合シート。」 (3)「【0001】 本発明は、発熱性電子部品等の放熱シートとして用いられる熱伝導性複合シート及びその製造方法に関する。」 (4)「【0017】 電子部品の動作等の発熱により、熱軟化性熱伝導性シート層が固体状から液体又は流動性体や半流動性体へと相変化又は熱軟化することで、外層と良好に密着し、またその粘着性によって外層同士を良好につなぎ合わせる。これにより、熱伝導性複合シート全体の熱伝導性能が向上する。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)甲第1号証には、「熱伝導性複合シート」が記載されている(摘示事項(3))。 (b)「熱伝導性複合シート」は、(a)面方向への熱伝導率が20?2,000W/(m・K)の熱伝導層、(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層、並びに(c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シートの順に積層した3層構造を持つ(摘示事項(1))。 (c)前記(c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シートが、アルミニウムシート又は銅シートである(摘示事項(2))。 以上を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認める。 「(a)面方向への熱伝導率が20?2,000W/(m・K)の熱伝導層、 (b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層、並びに (c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シートであって、アルミニウムシート又は銅シート の順に積層した3層構造を持つ熱伝導性複合シート。」 なお、【0038】において、熱伝導性複合シートの厚さ方向の熱伝導率を測定した旨が述べられ、その結果が表1に示されているが、「(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層」の熱伝導率を測定した旨の記載はない。 また、【0040】において、アルミニウムプレートと熱伝導性複合シートとの間の剥がれやすさを判定した旨が述べられ、その結果が表1に示されているが、「(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層」の剥離接着強度を測定した旨の記載はない。 4.対比 そこで、本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。 (1)熱伝導性複合シート 本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「熱伝導性複合シート」である点で一致する。 (2)積層構造 アルミニウム及び銅は熱伝導に異方性がないから、甲第1号証発明の「(c)(a)より高強度である熱伝導率が20?500W/(m・K)の金属シートであって、アルミニウムシート又は銅シート」は、本件特許発明1の「面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであるアルミニウム箔及び銅箔から選ばれる熱伝導層」に含まれる。 また、甲第1号証発明の「(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層」は、本件特許発明1の「熱伝導性粘着層」に含まれる。 そして、甲第1号証発明の熱伝導性複合シートは、(a)、(b)、並びに(c)の順に積層した3層構造を持つから、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであるアルミニウム箔及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、熱伝導性粘着層を積層させてな」る点で一致する。 もっとも、「熱伝導性粘着層」の「熱伝導率」について、本件特許発明1は、「0.4W/mK以上」であるのに対し、甲第1号証発明は、特定がない点で相違する。 (3)熱伝導性粘着層の剥離接着強度 「熱伝導性粘着層の剥離接着強度」について、本件特許発明1は、「室温下、25mm幅、厚み100μmの前記熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いでアルミニウム板と接着されていない熱伝導性粘着層の他方の片面を基材に同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)が2.0N/cm以上である」のに対し、甲第1号証発明は、特定がない点で相違する。 そうすると、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「面方向の熱伝導率が20?2,000W/mKであるアルミニウム箔及び銅箔から選ばれる熱伝導層の少なくとも片面に、熱伝導性粘着層を積層させてなる熱伝導性複合シート。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> (1)「熱伝導性粘着層」の「熱伝導率」について、本件特許発明1は、「0.4W/mK以上」であるのに対し、甲第1号証発明は、特定がない点 (2)「熱伝導性粘着層の剥離接着強度」について、本件特許発明1は、「室温下、25mm幅、厚み100μmの前記熱伝導性粘着層の片面をアルミニウム板に当て、質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、次いでアルミニウム板と接着されていない熱伝導性粘着層の他方の片面を基材に同様に接着させ、JIS Z 0237に準じて、熱伝導性粘着層の一端を前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がした部分から引張り試験機を用い、引張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から熱伝導性粘着層を引き剥がし、この引き剥がしに要した力(熱伝導性粘着層の剥離接着強度)が2.0N/cm以上である」のに対し、甲第1号証発明は、特定がない点で相違する。 5.判断 そこで、まず上記相違点(2)について検討する。 相違点(2)について 甲第2号証には、「発熱性電子部品の冷却のために、発熱性電子部品とヒートシンク又は回路基板などの放熱部材との間の熱境界面に介装し得る熱伝導性積層体」(【0001】)について、「薄膜で取り扱い性が良く、適度な粘着性を有するため自身で発熱性電子部品又は放熱部材に容易に固定でき、かつ両面の粘着力が異なるため、リワーク性が良好で熱伝導性にも優れる熱伝導性積層体」(【0012】)として、「室温下、前記積層体の25mm幅のサンプルの片面を室温下アルミニウム板に当て該積層体を質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、その後該積層体のアルミニウム板と接着されていない他方の片面を補強材に接着した後、該積層体の一端を接着した前記補強材とともに把持して引っ張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がしに要した力(粘着力)を測定することを該積層体の両面に行ったときに、両面の粘着力がともに0.3N/cm以上であり、かつ、両面の粘着力の差が2N/cm以上である熱伝導性積層体」(請求項2)が記載されている。 しかしながら、甲第1号証発明の「(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層」は、甲第2号証に記載された「熱伝導性積層体」のように、「自身で発熱性電子部品又は放熱部材に固定」するものではなく、「電子部品の動作等の発熱により、固体状から液体又は流動性体や半流動性体へと相変化又は熱軟化することで、外層と良好に密着し、またその粘着性によって外層同士を良好につなぎ合わせる」(摘示事項(4))ものであるから、甲第1号証発明の「(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層」として、甲第2号証に記載された「両面の粘着力が異なる熱伝導性積層体」を採用する動機付けは存在しない。 したがって、甲第1号証発明において、「(b)熱軟化性を有する樹脂及び熱伝導性充填剤を含有し、粘着性を有する熱軟化性熱伝導性シート層」として、甲第2号証に記載された「室温下、前記積層体の25mm幅のサンプルの片面を室温下アルミニウム板に当て該積層体を質量2kgのゴムローラーで圧着して接着後10分間養生し、その後該積層体のアルミニウム板と接着されていない他方の片面を補強材に接着した後、該積層体の一端を接着した前記補強材とともに把持して引っ張り速度300mm/minにて180°方向に前記アルミニウム板から引き剥がし、引き剥がしに要した力(粘着力)を測定することを該積層体の両面に行ったときに、両面の粘着力がともに0.3N/cm以上であり、かつ、両面の粘着力の差が2N/cm以上である熱伝導性積層体」を採用して、本件特許発明1のように変更することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 甲第3、4号証は、「熱伝導性粘着層のポリマーマトリックスが、シリコーンゴム及び/又はシリコーン樹脂であること」が周知であることを示すものであり、甲第3号証は、さらに、本件特許発明4、5に対して引用されたものであり、いずれも、相違点(2)についての判断を左右するものではない。 したがって、上記相違点(1)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証発明、甲第2、3号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を付加したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2ないし8は、甲第1号証発明、甲第2、3号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、申立理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、ほかに請求項1ないし8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-08-08 |
出願番号 | 特願2013-6971(P2013-6971) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 下林 義明、木下 直哉、深沢 正志 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
安藤 一道 関谷 隆一 |
登録日 | 2016-10-14 |
登録番号 | 特許第6020187号(P6020187) |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 熱伝導性複合シート |
代理人 | 特許業務法人英明国際特許事務所 |