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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C07F
管理番号 1331536
審判番号 訂正2015-390128  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2015-11-17 
確定日 2017-08-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5563324号に関する訂正2015-390128号事件について平成28年3月8日にした審決に対し、知的財産高等裁判所において審決を取り消す旨の判決(平成28年(行ケ)第10154号、平成29年5月30日判決言渡し)があったので、更に審理を行った結果、次のとおり審決する。 
結論 特許第5563324号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由
第1 手続の経緯

本件訂正審判の請求に係る特許第5563324号(以下「本件特許」という。)は、平成22年2月3日の特許出願(特願2010-22200号)の請求項1?7に係る発明について、平成26年6月20日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、平成27年11月17日に本件訂正審判の請求がされ、同年12月17日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成28年2月8日付けで意見書(参考資料1?17を含む。)が提出され、同年3月8日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がされ、その謄本は同年同月17日に請求人に送達された。
その後、請求人が審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に訴えを提起した(平成28年(行ケ)第10154号)ところ、同裁判所は平成29年5月30日に「特許庁が訂正2015-390128号事件について平成28年3月8日にした審決を取り消す。」旨の判決(以下「本件取消判決」という。)を言渡し、同判決は確定した。

第2 本件発明

本件特許の請求項1?7に係る発明(これらをまとめて以下「本件発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Rは、ヒドロキシル、O-アシル、またはO-tert-ブチルジメチルシリルである)
を有するキラル化合物。

【請求項2】
式(II):
【化2】

(式中、Rは、OH、O-アシル、O-C_(1?8)アルキルシリル、またはO-C_(1?8)アルキルオキシ-C_(1?8)アルキルである)
のC-20位がR-形またはS-形であるキラル化合物。

【請求項3】
Rが、ヒドロキシル、O-アシル、またはO-tert-ブチルジメチルシリルである、請求項2に記載のキラル化合物。

【請求項4】
マキサカルシトールの合成に用いるための、請求項1または2のキラル化合物。

【請求項5】
下記構造を有する化合物(3):
【化3】

であるマキサカルシトールの中間体の製造方法であって、
下記構造の化合物(2):
【化4】

を金属ハイドライドで還元して化合物(3)を得る工程を含む、方法。

【請求項6】
化合物(2)を、下記構造の化合物(1):
【化5】

を、金属水酸化物および有機溶媒の存在下、酸素で酸化することによって合成する、請求項5に記載の方法。

【請求項7】
前記金属水酸化物がKOHであり、前記有機溶媒がtert-ブタノールである、請求項6に記載の方法。

第3 訂正審判の請求の趣旨及び内容

本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第5563324号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを認める、との審決を求める。」というものであって、その内容は以下のとおりである(以下「本件訂正」という。)。

[訂正事項] 明細書段落0034の第3行の「EAC(酢酸エチル、804mL、7.28mol)」という記載を「EAC(アクリル酸エチル、804mL、7.28mol)」へと訂正する。

第4 当審の判断

当審は、本件取消判決の拘束力に従い、以下のとおり判断する(行政事件訴訟法第33条第1項)。

1 訂正の適否の判断の前提となる事項について

(1)刊行物等について

ア 刊行物等

(ア)請求人が平成28年2月8日付けの意見書に添付して提出した資料

参考資料2:
伊東椒,児玉三明ら訳,マクマリー 有機化学(中) 第4版,1999年,第3刷,650頁
参考資料3:
Noboru KUBODERA et al.,Synthetic Studies of Vitamin D Analogues. XI. Synthesis and Differentiation-Inducing Activity of 1α,25-Dihyd-
roxy-22-oxavitamin D3 Analogues,Chemical and Pharmaceutical Bullet-
in,1992年,Vol.40,No.6,p.1494-1499
参考資料4:
久保寺登,活性型ビタミンD誘導体-医薬品開発の過程で合成研究者が担当する多彩な役割,有機合成化学協会誌,1996年,第54巻,第2号,139-145頁
参考資料5:
Carl F.Nising,Stefan Brase,The oxa-Michael reaction: from recent developments to applications in natural product synthesis,Chemical Society Reviews,2008年,Issue 37,p.1218-1228
参考資料6:
P.A.Leeson et al.,22-Oxacalcitriol Vitamin D3 Analog, Treatment
of Hyperparathyroidism, Antipsoriatic, Antineoplastic,Drugs of the Future,1996年,Vol.21,Issue 12,p.1229-1237
参考資料7:
米国特許第5436401号明細書
参考資料8:
和光純薬株式会社,アクリル酸エチルのデータシート,2016年2月1日検索
参考資料11:
和光純薬工業株式会社,酢酸エチルのデータシート,2016年2月1日検索
参考資料14:
東京化成工業株式会社,Ethyl 3-Chloropropionate のデータシート,2016年2月1日検索
参考資料15:
東京化成工業株式会社,Ethyl 3-Bromopropionate のデータシート,2016年2月1日検索
参考資料16:
K.Purghazi et al.,Rapid chromatographic separation of food addit-
ives on thin layers of an inorganic ion-exchanger,Acta Chromatogra-
phica,2007年,No.18,p.219-225
参考資料17:
U.S. Department of Health and Human Services,NTP Report on the
Assessment of Contact Hypersensitivity to Ethyl Acrylate in Female
B6C3F1 Mice(CASRN: 140-88-5),National Toxicology Program,2016年1月29日検索

(イ)前記第1で述べた訴えに係る手続において原告(請求人)が提出した資料

追加資料A(甲第23号証):
中西香爾ら訳,モリソンボイド 有機化学(上) 第3版,1977年,第1刷,288-289頁
追加資料B(甲第24号証):
後藤俊夫ら著,新・有機化学演習,1982年,第1刷,17頁
追加資料C(甲第25号証):
向山光昭編,基礎有機化学 第2版,1998年,第3刷,85-90頁
追加資料D(甲第26号証):
米国特許第4866048号明細書

なお、括弧内の記載は、前記第1で述べた訴えに係る訴訟事件における証拠方法の証拠番号を示す。

イ 刊行物等の記載

(ア)参考資料2の記載

参考資料2には、以下のとおりの記載がある。

(2a)「17・8 アルコールの反応
アルコールの反応は,C-O結合で起こる反応とO-H結合で起こる反応の二つに分けることができる.

」(650頁16行?18行)

(イ)参考資料3の記載

参考資料3には、以下のとおりの記載がある(訳文で示す。)。

(3a)「最初に、われわれはC-26/C-27位で長鎖化された類似体の合成を行った。水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムで触媒された相関移動反応によって、20(S)-アルコール(11)をアクリル酸エチルでアルキル化してエステル(12)を56%の収率で得た。これに伴って、11が41%の収率で回収された。

」(1494頁右欄16行?1495頁上部)

(ウ)参考資料4の記載

参考資料4には、以下のとおりの記載がある。

(4a)「1.はじめに
活性型ビタミンD,1α,25-dihydroxyvitamin D_(3)(1)(calcitriol; 以下1,25(OH)_(2)D_(3)と略す)の種々の生理作用を構造修飾により分離することを目的として生まれてきた1α,25-dihydroxy-22-oxavitamin D_(3)(2)(22-oxacalcitriol; 以下OCTと略す。)は・・・現在までのところ,1,25(OH)_(2)D_(3)の作用分離の最も進んだ誘導体の1つとされている^(2))。・・・OCTは現在“慢性腎不全に伴う続発性副甲状腺機能亢進症治療用注射剤”^(4))として第3相臨床治験が,また“難治性皮膚疾患・乾癬治療用軟膏剤”^(5))として後期第2相臨床治験が進行中である(図1)。
・・・

」(139頁左欄1行?右欄下から1行)

(4b)「3.大量合成法の検討-従来法の問題点と改良点
・・・
当初,OCTの合成を行っていた工程を図5に示した^(9))。この方法の欠点はアルコール(8)のアルキル化の際に副生成物(9)を生成する点にある。9は次のWacker酸化の際,未反応物として分離されるが,ロスとして痛手であった。この副生成物(9)の精製は8の水酸基の立体障害に起因する反応性の低さから生じている。8のアルキル化反応を数十系統の反応で検討した結果,図6に示すようにMichael付加反応-メチル化反応を経由する改良法が効率的であることが判明し,現在はこの方法を採用している^(12))。しかしこのメチル化反応においても,CeCl_(3)・7H_(2)Oを250℃のオーブンで脱水・無水化して用いており,実験室レベルでは何ら問題ないが,大量合成には不利なことからさらに改良が検討されている。・・・。

」(140頁右欄下から5行?142頁左欄下から4行)

(エ)参考資料5の記載

参考資料5には、以下のとおりの記載がある。

(5a)「

」(1219頁上部)

(オ)参考資料6の記載

参考資料6には、以下のとおりの記載がある(訳文で示す。)。

(6a)「2)アクリル酸エチル(XIII)を、既に報告されているプレグナ-5,7-ジエン-20(S)オール(VII)に、水/トルエン中の水酸化テトラブチルアンモニウム/NaOHを使用して付加させると、2-(エトキシカルボニル)エトキシ誘導体(XIV)が得られる。この2-(エトキシカルボニル)エトキシ誘導体(XIV)は、そのカルボニル官能基をメチルリチウムでアルキル化すると、既に得られている3-ヒドロキシ-3-メチルブトキシ誘導体(XI)をもたらす(3)。スキーム1
・・・

」(1229頁右欄11行?1230頁)

(カ)参考資料7の記載

参考資料7には、以下のとおりの記載がある(訳文で示す。)。

(7a)「一般式(I)

(式中R_(1)は水素原子または水酸基を表す。R_(2)とR_(3)は、同一または異なって炭素原子数1?5の低級アルキル基を表す。)で示される22-オキサコレカルシフェロール誘導体を製造するにあたり、一般式(II)

(式中R_(4)は水素原子、水酸基または保護された水酸基を表す。R_(5)は水酸基または保護された水酸基を表す。R_(6)とR_(7)は、それぞれ水素原子を表すか、一緒になって二重結合を表す。)で示される化合物に有機溶媒中あるいは水/有機溶媒の二層系で一般式(III)

(式中R_(8)は炭素原子数2?5のジアルキルアミノ基を表す。)
で示される化合物を反応させることにより、一般式(IV)

(式中R_(4)、R_(5)、R_(6)、R_(7)およびR_(8)は上記のとおりである。)で示される化合物を製造し、次いで一般式(IV)の化合物に一般式(V)

(式中、R_(9)は炭素原子数1?5の低級アルキル基を表し、Xはアルカリ金属、アルカリ土類金属ハロゲン化物、セリウムハロゲン化物を表す。)で示される有機金属化合物を反応させて一般式(VI)

(式中R_(2)、R_(4)、R_(5)、R_(6)およびR_(7)は上記のとおりである。)で示される化合物を製造し、次いで、一般式(VI)においてR_(6)とR_(7)が一緒になって二重結合を表す場合はそのまま、また、R_(6)とR_(7)がそれぞれ水素原子を表す場合は、アリル位のハロゲン化、次いで塩基触媒による脱ハロゲン化水素反応に付して、R_(6)とR_(7)が一緒になって二重結合を表す化合物に変換した後、有機溶媒中で紫外線照射し、次いで有機溶媒中で熱異性化して、一般式(I)の化合物を得る。」(16欄12行?17欄19行)

(キ)参考資料8の記載

参考資料8には、以下のとおりの記載がある。

(8a)「アクリル酸エチル
Ethyl Acrylate
・・・
分子量 100.12
・・・
容量 希望納入価格
25mL ¥2,300
・・・
含量 97.0+%(Capillary GC)
・・・
密度 0.920?0.927g/ml(20℃)」

(ク)参考資料11の記載

参考資料11には、以下のとおりの記載がある。

(11a)「酢酸エチル
Ethyl Acetate
・・・
分子量 88.11
・・・
容量 希望納入価格
3L ¥5,800
・・・
含量 99.5+%(mass/mass)(CH3COOC2H5)(GC)
・・・
密度 0.898?0.902g/ml(20℃)」

(ケ)参考資料14の記載

参考資料14には、以下のとおりの記載がある。

(14a)「Ethyl 3-Chloropropionate
・・・
和名 3-クロロプロピオン酸エチル
・・・
包装単位 価格
25g 4,600円
・・・
分子式・分子量 C_(5)H_(9)ClO_(2)=136.58
・・・
純度(GC) 97.0%以上
比重(20/20) 1.1010?1.1050」

(コ)参考資料15の記載

参考資料15には、以下のとおりの記載がある。

(15a)「Ethyl 3-Bromopropionate
・・・
和名 3-ブロモプロピオン酸エチル
・・・
包装単位 価格
25g 4,700円
・・・
分子式・分子量 C_(5)H_(9)BrO_(2)=181.03
・・・
純度(GC) 98.0%以上
比重(20/20) 1.4190?1.4220」

(サ)参考資料16の記載

参考資料16には、以下のとおりの記載がある。

(16a)「All chemicals and reagents were of analytical grade from Merck, Fluka, and Riedel. The food additives used in this study were・・・ethyl acrylate(EAC)・・・.」(220頁7行?16行)

(シ)参考資料17の記載

参考資料17には、以下のとおりの記載がある。

(17a)「Ethyl Acrylate(EAC) was obtained from Aldrich Chemical Company as a clear liquid(99%, Lot#14707D2).」(「Design」の項)

(ス)追加資料Aの記載

追加資料Aには、以下のとおりの記載がある。

(Aa)「・・・反応中にキラル中心についている結合が開裂しない反応では,キラル中心の立体配置が保持される.」(289頁10行?12行)

(セ)追加資料Bの記載

追加資料Bには、以下のとおりの記載がある。

(Ba)「1.脂肪族求核置換反応(S_(N))

」(17頁)

(ソ)追加資料Cの記載

追加資料Cには、以下のとおりの記載がある。

(Ca)「7.1 求核置換反応の機構
・・・
7・1・1 S_(N)1反応
・・・
反応中心の炭素原子が不斉炭素であり光学活性である場合,中間体のカルベニウムイオンは平面となるので求核試薬はその平面のどちら側からでも攻撃することが可能となり,一般に生成物はラセミ体となる。
・・・
7・1・2 S_(N)2反応
・・・
また,立体化学について考察すると,その機構からもわかるように,中心炭素が不斉炭素である光学活性な基質を用いると生成物では反転した構造となる.これをWalden反転(Walden inversion)と呼ぶ.
・・・
7・1・3 S_(N)i反応
分子内求核置換反応であり,その例は多くない.アルコールと塩化チオニルとから生成する中間体の分解反応がその代表的な例である.この反応によればその中心炭素の立体を保持(retention)する.
・・・」(85頁1行?87頁下から1行)

(タ)追加資料Dの記載

追加資料Dには、以下のとおりの記載がある(訳文で示す。)。

(Da)「

」(5欄?11欄)

(Db)「調製例1
化合物5(化合物1及び/又は2、3、並びに4を経由)
ビタミンD_(2)(12.5g)を液体のSO_(2)(50ml)に溶解し、この混合物を30分間還流した。SO_(2)を留去し、残渣を減圧下で乾燥して泡状物を得た。これをN,N-ジメチルホルムアミド(100ml)に溶解し、イミダゾール(4.5g)及びtert-ブチルジメチルシリルクロライド(5g)を添加した。この混合物をN_(2)下で90分間撹拌した。次いで、酢酸エチルと水で分配した。有機相を水で洗浄し、水を除去し濃縮して1及び2の混合物を結晶性固体として得た。これをエタノール中で微粒化し、ろ過し、減圧下で乾燥した。・・・
生成物(純粋な異性体を個別に用いることもできる。)を96%エタノール(250ml)に懸濁し、炭酸水素ナトリウム(20g)を添加した。撹拌したこの混合物をN_(2)下で100分間加熱還流して冷却し、部分的に減圧下で濃縮し、酢酸エチルと水で分配した。有機相を水で洗浄し、水を除去し濃縮して3を得た。・・・
これをN-メチルモルホリンN-オキシド(15g)を含有するジクロロメタン(160ml)に溶解した。撹拌したこの溶液をN_(2)下で加熱還流し、二酸化セレン(3g)のメタノール(160ml)溶液を迅速に添加した。加熱還流を50分間継続し、反応混合物を冷却し、さらなるジクロロメタンで希釈し、水で洗浄し、水を除去し濃縮して次の工程に用いるために十分な純度の4を得た。・・・」(17欄下から11行?18欄40行)

(Dc)「調製例54
化合物54
出発物質26(30mg)及びテトラブチルアンモニウムフロリド(60mg)のテトラヒドロフラン(5ml)溶液をN_(2)下、60℃にて60分間加熱した。冷却後、反応溶液を酢酸エチルと2%炭酸水素ナトリウム溶液で分配し、有機相を水で洗浄し、水を除去し濃縮した。残渣をクロマトグラフィーによって精製(シリカゲル、溶出液として酢酸エチルを使用。)して、54を得た。・・・」(27欄下から21行?下から8行)

(De)「実施例4
化合物58(別方法)
N_(2)下、パイレックスフラスコ内の、54(51mg)、アントラセン4mg及びトリエチルアミン(4mg)のトルエン(5ml)溶液に、室温で100分間、TQ150Z2型(Hanau)の高圧紫外線ランプからの光を照射した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶出液として酢酸エチルを使用。)して、58を得た。」(28欄下から9行?下から1行)

(2)本件特許の願書に添付した明細書及び図面について

本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)には、以下のとおりの記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンD類似体、マキサカルシトール、中間体、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、筋肉、免疫系、生殖系、ならびに細胞の増殖および分化に深く影響を及ぼす。実際に、ビタミンD受容体(VDR)を有する細胞は、身体の多くの部分(腸、腎臓、前立腺、骨、骨髄、副甲状腺、皮膚、肝臓、筋肉、およびリンパ系組織などを含む)に見られる。VDRが広範に存在しているため、ビタミンDおよびその類似体は、癌、皮膚、並びに骨の疾患および自己免疫疾患などを含むさまざまな疾患の治療のための化合物として興味が持たれている。
【0003】
何らかの構造的類似性を有するビタミンD類似体類が、これまでに開示されている。・・・。
【0004】
ビタミンDおよびその類似体類は、既にSHPT(二次性副甲状腺機能亢進症)の治療に用いられている。・・・22-オキサカルシトール(22-オキサ-1、25(OH)_(2)D_(3)、マキサカルシトール)およびヘキサフルオロ-カルシトリオール(ファレカルシトリオール)は、日本で推奨されている。
【0005】
マキサカルシトールは、いわゆる「非カルセミック」ビタミンD類似体であり、顕著な分化誘導性/抗増殖性を有し、高カルシウム血症を引き起こす能力が低下している。マキサカルシトールは、PTHの強力な抑制剤として開発された。日本では、その使用により慢性透析患者のSHPTの改善が認められた。加えて、尋常性乾癬を含む角化症を有する患者に広く使用され、著しくその症状を改善している。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、マキサカルシトールの合成スキームを説明する。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
・・・・・・
【0014】
本発明は、式(I):
【化7】

(式中、Rは、OH、O-アシル、O-C_(1?8)アルキルシリル、またはO-C_(1?8)アルコキシ-C_(1?8)アルキルである)
のキラル化合物を提供する。
【0015】
本発明はまた、式(II):
【化8】

(式中、Rは、OH、O-アシル、O-C_(1?8)アルキルシリル、またはO-C_(1?8)アルコキシ-C_(1?8)アルキルである)のC-20位がR-形またはS-形であるキラル化合物を提供する。
【0016】
用語「キラル」は手を意味するギリシャ語の単語「kheir」に由来し、ここで、手は最もよく知られているキラルな物体であり、左/右対称体が存在することを意味する。例えば、左手と右手は同じではなく、互いに鏡像体であり、したがって「キラル」である。
【0017】
ヒトの手に左と右があるのと同様に、分子にも左と右がある。キラル分子は、その鏡像体と重ね合わせることができない分子である。キラル化合物と、その鏡像体とは、エナンチオマーと呼ばれる。天然のほとんど全てのキラル分子は、単独のエナンチオマーとして存在する。分子を工業的な合成によって製造すると、通常、ラセミ体、すなわち2つのエナンチオマーの50/50組成物の形態で存在する。
【0018】
キラル分子は、光学活性を有し、したがって、エナンチオマーは、時には光学異性体と呼ばれる。各エナンチオマーが偏光面を逆方向に回転させるため、光学活性体と呼ばれる。光を時計方向に回転させるエナンチオマーは、右旋性すなわち(+)であり、逆のエナンチオマーは、左旋性すなわち(-)である。ラセミ混合物は、光学活性を示さない。
【0019】
・・・右手型および左手型は、現在、化学者らによってR(右を意味するラテン語のrectusから)およびS(左を意味するラテン語のsinisterから)と呼ばれている。・・・。
・・・・・・
【0021】
本発明の第一の実施態様では、Rは、ヒドロキシル、O-アシル、またはO-tert-ブチルジメチルシリルである。
【0022】
本発明では、これらの化合物を、マキサカルシトールの合成に用いる。
【0023】
本発明は、さらに、化合物(3):
【化9】

の構造を有するマキサカルシトール中間体の製造方法であって、
化合物(2):
【化10】

の構造を金属ハイドライドで還元して化合物(3)を得る工程を含む方法を提供する。
【0024】
本発明の方法では、化合物(2)は、化合物(1):
【化11】

の構造を、金属水酸化物および有機溶媒の存在下、酸素で酸化することによって合成する。
【0025】
本発明の方法では、金属水酸化物は、限定されないが、水酸化カリウムであり、前記有機溶媒は、限定されないが、tert-ブタノールである。」

エ 「【実施例】
【0027】
[合成例1]:化合物(1)の合成
3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ- 5(E), 7(E), 10(19)-トリエン
【化12】

化合物 (1)の合成は、米国特許第4,866,048号の製造例1、4、および5?7に記載された手順に従う。米国特許第4,866,048号に記載された先行技術に従って、1 kgのビタミンD2を用いて、800 gの3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E), 7(E), 10(19)-トリエン(化合物 (1))を、オイル状粘着性生成物として得た。」

オ 「【0028】
[合成例2]:化合物(2)の合成
(実施例1):
3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E),7(E),10(19)-トリエン(化合物 (1) )(800 g, 1.8 mol)のtert-ブタノール(16L)溶液に、攪拌下、KOH (155 g, 2.76 mol)を添加した。次いで、この溶液に、良好な撹拌下、40℃にて4時間酸素ガスをバブルさせた。
反応が完結した後、tert-ブタノールを蒸発させて除去し、残渣を酢酸エチル(8L)に溶解させ、水で抽出した(8L x 2回)。得られた有機相をMgSO_(4)で無水にした後、濾過した。濾液を、減圧下で濃縮して乾燥させると、オイル状の残渣が得られ、これをカラムカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の5%酢酸エチル)して、所望の生成物である化合物(2)を523 g得た(収率67%)。
図2に、化合物(2)の^(1)H NMRの結果を示す。
図3に、化合物(2)の^(13)C NMRの結果を示す。
【0029】
(実施例2):
フラスコに、3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E),7(E),10(19)-トリエン (化合物 (1))(3 g, 6.78 mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(150 ml)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(678 mg, 6 mmol), 酢酸銅一水和物(101 mg, 0.5 mmol)、および2,2’-ビピリジル(82 mg,0.51 mmol)を加えた。この混合物を、40℃にて6日間、良好な撹拌下で空気をバブルさせた。
この反応混合物を酢酸エチル(200 ml)で希釈し、水で抽出し(100 mL x 2)、MgSO_(4)で無水にした。酢酸エチルを蒸発により除去し、オイル状の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の10%酢酸エチル)して、所望の生成物である化合物(2)を得た。」

カ 「【0030】
[合成例3]:化合物(3)およびその20R-異性体の合成
(実施例1):
化合物(2)(3 g、7.0 mmol)を、テトラヒドロフラン(140 ml)に溶解し、水素化ホウ素ナトリウム(0.13 g、3.4 mmol)を添加した。次いで、メタノールを、15分かけて滴下により添加した。この反応混合物を、20分間撹拌した後、酢酸エチル(560 ml)で希釈した。この溶液を水(150 mL x 5)および飽和塩化ナトリウム水溶液(150 mL)で抽出し、MgSO_(4)で無水にし、蒸発させて、無色のオイルを得た。このオイル状の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製した(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の10%酢酸エチル)。最初に留出したものが、化合物(3)の20R-異性体(固体)であった。
図4に、化合物(3)の20R-異性体の^(1)H NMRの結果を示す。
図5に、化合物(3)の20R-異性体の^(13)C NMRの結果を示す。
【0031】
より極性の異性体(化合物(3))を含有するフラクションを蒸発させて、無色のオイル状付加体を得た。
【化13】

図6に、化合物(3)の^(1)H NMRの結果を示す。
図7に、化合物(3)の^(13)C NMRの結果を示す。
【0032】
(実施例2):
化合物(2)(500 g、1.16 mol)をキシレン(10 L)に溶解させ、この反応混合物を100?130℃に加熱した後、LAH(リチウムアルミニウムハイドライド)(88.5 g、2.33 mol)を添加した。反応を、撹拌下、20分間行い、室温に冷却した。この反応混合物に、飽和硫酸ナトリウム溶液(100 mL)を加えて30分間撹拌した。反応混合物を濾過し、濾液を蒸発させてオイル状の残渣を得た。R/S比は65:35であった。オイル状残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の5%酢酸エチル)して、最初の留出物が化合物(3)の20R-異性体(白色結晶)350 gであり、収率は63.6%であった。
【0033】
より極性の異性体(化合物(3))を含有するフラクションを蒸発させて、無色のオイル状の付加体を得た(123 g、収率24%)。」

キ 「【0034】
[合成例4]:化合物(4)の合成
【化14】

化合物(3)(123 g、0.28 mol)を、トルエン(6L)および(N-Bu_(4))NHSO_(4) (360 mmol)に溶解させ、50% NaOH溶液およびEAC(酢酸エチル、804 mL、7.28 mol)を添加した。反応は、10?20℃に制御した。反応混合物を5分間撹拌し、次いで、水で希釈した(徐々に添加、4 L)。この溶液を分離し、有機相をMgSO_(4)で無水にし、蒸発させて無色オイルを得た。このオイル状残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の3%酢酸エチル)して、目標化合物(4)をオイル状付加体として得た(112 g、収率73%)。」

ク 「【0035】
[合成例5]:化合物(5)の合成
【化15】

化合物(4) (112 g、0.21 mol)を、窒素下でテトラヒドロフラン(224 mL)に溶解させた後、10℃未満に冷却した。この攪拌した溶液に、メチルマグネシウムクロライド(210 mL, MeMgCl、テトラヒドロフラン中22%、0.63 mol)を滴下により添加した。この反応混合物を、30分攪拌し、水を添加することによってクエンチし(徐々に添加、38 mL)、次いで濾過した。得られた濾液をMgSO_(4)で無水にし、蒸発させて無色オイルを得た。このオイルをカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の7%酢酸エチル)して、目標化合物(5)をオイル状付加体として得た(77.9 g、収率71%)。
^(1)H NMR (400 MHz, CDCl_(3)): δ6.43 (1H, d, J=11.6), 5.83 (1H, d, J=11.6), 4.89 (1H, s), 4.61 (1H, s), 3.81 (1H, m), 3.62 (1H, m), 3.46 (1H, m), 3.23 (1H, m), 2.82 (1H, dd, J=3.6, 13.6), 2.62 (1H, dd, J=3.6, 13.6), 2.44 (1H, m), 2.23 (1H, m), 2.13 (1H, m), 1.96 (2H, m), 1.83 (4H, m), 1.71 (6H, m), 1.55 (6H, m), 1.21 (6H, m), 1.16 (5H, m), 0.85 (9H, s), 0.51 (3H, s), 0.04 (6H, s).
^(13)C NMR(CDCl_(3)): δ149.9, 142.7, 136.5, 119.8, 116.4, 107.5, 78.9, 70.4, 69.3, 65.5, 57.1, 56.2, 44.7, 41.5, 39.6, 37.5, 35.1, 31.1, 29.3, 29.0, 25.8, 23.1, 22.1, 18.8, 18.1, 12.6.」

ケ 【0036】
[合成例6]:化合物(6)の合成
【化16】

化合物(5)(77.9 g、0.15 mol)を、N-メチルモルホリンN-オキシド(30 g、0.25 mol)を含有するジクロロメタン(467 mL)に溶解させた。撹拌したこの溶液を、窒素下で加熱還流させ、二酸化セレン(6.7 g、0.06 mol)のアセトニトリル(233 mL)溶液を速やかに添加した。添加した後、この混合物を約2時間加熱還流させ、次いで冷却し、さらなるジクロロメタンで希釈し、水で洗浄し、MgSO_(4)で無水にし、濃縮して、粗生成物である化合物(6)を得た。次いで、この粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の10%酢酸エチル)して、目標化合物(6)をオイル状付加体として得た(43.6 g、収率54%)。
^(1)H NMR (400 MHz, CDCl_(3)): δ6.46 (1H, d, J=11.6), 5.83 (1H, d, J=11.6), 5.03 (1H, s), 4.91 (1H, s), 4.45 (1H, m), 4.16 (1H, m), 3.80 (1H, m), 3.45 (1H, m), 3.22 (1H, m), 2.82 (1H, dd, J=3.6, 13.6), 2.49 (1H, dd, J=3.6, 13.6), 2.37 (1H, m), 1.83 (5H, m), 1.70 (5H, m), 1.53 (3H, m), 1.29 (2H, m), 1.20 (10H, m), 1.16 (4H, m), 0.84 (9H, s), 0.50 (3H, s), 0.04 (6H, s).
^(13)C NMR(CDCl_(3)): δ153.0, 143.3, 134.5, 122.2, 116.5, 107.6, 78.9, 70.4, 66.7, 65.5, 57.0, 56.1, 44.7, 42.8, 41.4, 39.5, 36.9, 29.3, 29.0, 28.8, 25.7, 23.1, 22.1, 18.8, 18.0, 12.5.」

コ 「【0037】
[合成例7]:化合物(7)の合成
【化17】

化合物(6) (43.6 g、0.08 mol)を、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオライド(40 g、0.13 mol)を含有するテトラヒドロフラン(261 mL)に溶解させた。撹拌したこの溶液を、窒素下で2.5時間加熱還流させた。冷却した後、この反応溶液を、酢酸エチルと2%炭酸水素ナトリウム溶液との間で分配させ、有機相を水で洗浄し、無水にし、さらに濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の50%酢酸エチル)して、化合物(7)を得た(16.2 g、収率47%)。」

サ 「【0038】
[合成例8]:マキサカルシトールの合成
【化18】

化合物(7)(13.6 g、30 mmol)および9-セチルアントラセン(1.36 g、6.17 mmol)をアセトン(2250 mL)に溶解させた。このアセトン溶液を、アルゴン雰囲気下、約5℃の温度で約4時間、350 nmのUV光によって光照射した。光照射した後、フェニルボロン酸(1.6 g、1.31 mmol)をこの反応混合物に添加し、反応物を3.5時間撹拌した。次いで、この溶液を、濃縮し、カラムクロマトグラフィーに通して精製して、粗マキサカルシトール(9.7 g、収率74.6%)を得た。」

シ 「【0039】
[合成例9]:マキサカルシトールの結晶化
粗マキサカルシトール(9.7g, 23.2mmol)を、ジエチルエーテル(200mL)に溶解させた。この溶液を冷却し、5?10℃にて24時間保った。形成された結晶を濾過し、減圧下、室温で乾燥させて、最終生成物であるマキサカルシトールを得た(1.5 g、純度99.8%、収率15.4%、[α]D^(20)_(D)=+44°)。」

ス 「【図1】



(3)本件発明について

前記第2及び(2)によると、本件発明の概要は以下のとおりである。

ア 本件発明は、筋肉、免疫系、生殖系、並びに細胞の増殖及び分化に深く影響を及ぼすビタミンDの類似体であるマキサカルシトール(22-オキサカルシトール(22-oxacalcitriol、22-オキサ-1、25(OH)_(2)D_(3))ともいう。)の製造工程における中間体及びその製造方法に関するものである。
マキサカルシトールは、慢性透析患者のSHPT(二次性副甲状腺機能亢進症)の改善、尋常性乾癬を含む角化症を有する患者の症状の改善に使用されている(前記第2、(2)ア)。

イ 本件発明は、概略、(α)マキサカルシトールの合成に用いるための式(I)又は式(II)で表されるキラル化合物、(β)式(I)で表される化合物(2)を金属ハイドライドで還元して式(II)で表される化合物(3)を得る工程を含むマキサカルシトール中間体の製造方法、(γ)化合物(2)を、既知の化合物(1)を、金属酸化物及び有機溶媒の存在下、酸素で酸化することによって合成する方法などから成る(前記第2、(2)ウ)。
なお、本件訂正に係る【0034】([合成例4]、【化14】)は、化合物(3)からの下記化合物(4)の合成に関する記載であり、本件発明を構成する部分ではない。


(4)本件明細書におけるマキサカルシトールの合成工程と、関連する周知技術について

ア 前記(2)のとおり、本件明細書には、ビタミンD2を出発原料として化合物(1)?化合物(7)を経て、マキサカルシトール(下図左)を合成する工程が記載されている(前記(2)イ、エ?サ及びス)。
そして、本件明細書に接した当業者は、本件発明に係るマキサカルシトールの上記合成工程に関して、シクロペンタン環に1-(3-ヒドロキシ-3-メチルブトキシ)エチル基側鎖を形成して中間体化合物を得た後にビタミンD類似体である最終生成物を得るという周知の合成工程(摘記(3a)、(4a)、(4b)、(6a)、(7a))と同様に、原料化合物から3-ヒドロキシ-3-メチルブトキシ基(-OCH_(2)CH_(2)C(CH_(3))_(2)OH;以下「マキサカルシトール側鎖」ともいう。下図右)を有する中間体化合物を得るための工程(「合成例5」より前の工程。以下「前半の工程」という。)と、マキサカルシトール側鎖を有する中間体化合物から、最終生成物であるマキサカルシトールを得るための工程(「合成例6」より後ろの工程。以下「後半の工程」という。)とから成ることを理解する。


イ このうち、前半の工程、すなわちマキサカルシトール側鎖を導入する工程においては、同側鎖の22位に酸素原子を配することが必要であるために、周知の合成方法(摘記(3a)、(4a)、(4b)、(6a)、(7a))は、いずれも(ステロイド構造の)20位の炭素原子に-OH基を有する20位アルコール中間体化合物を製造し、その-OH基による反応剤に対する求核反応を利用してマキサカルシトール側鎖を得ており、種々の反応剤を用いる合成方法が試みられていた(摘記(4a)、(4b))。

2 本件訂正審判の請求による訂正の適否について

(1)訂正の目的

請求人は、本件訂正は誤記の訂正を目的とするものである旨を主張しているので、この点についてまず検討する。

ア 誤記の訂正を目的とする訂正について

特許法第126条第1項ただし書第2号は、「誤記・・・の訂正」を目的とする場合には、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。

イ 明細書の記載に何らかの誤記があることに当業者が気付くかどうか

そこで、まず、本件明細書に接した当業者が、明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として、本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうかを検討する。

(ア) 本件明細書の【0034】の【化14】には、以下に示す化合物(3)から、「EAC」が添加された反応条件下で、以下に示す化合物(4)を得る工程【化14】が示されており(下図は、【化14】の記載を簡略化し、反応により構造が変化した部分に丸印を付したもの。)、本件明細書の【0034】の[合成例4]の本文には、化合物(3)に「EAC(酢酸エチル、804mL、7.28mol)」を添加し、反応させて、化合物(4)を得たと記載されているから、明細書は原則として正しい記載であることを前提として読む当業者は、本件明細書には、化合物(3)に酢酸エチルを作用させて化合物(4)を得たことが記載されていると理解するといえる。


(イ) しかし、当業者であれば、以下に示す理由で、「化合物(3)に酢酸エチルを作用させて化合物(4)を得た」とする記載内容にもかかわらず、化合物(3)に酢酸エチルを作用させても化合物(4)が得られない、つまり、【化14】に係る出発物質(化合物(3))と、反応剤(EAC)と、生成物(化合物(4))のいずれかに誤記が存在することに気付くものと考えられる。
すなわち、アルコールの反応はC-O結合で起こる反応とO-H結合で起こる反応の二つがあること(摘記(2a))及びC-O結合で起こる反応である分子同士の脂肪族求核置換反応において不斉炭素の立体配置は維持されないことは技術常識である(摘記(Aa)、(Ba)、(Ca))ところ、本件明細書の【0034】の【化14】に接した当業者は、(α)ヒドロキシ基を有する不斉炭素(20位の炭素原子)の立体配置が維持されていることから、【化14】の反応は、酸素原子が反応剤の炭素原子を求核攻撃することによる、20位の炭素原子に結合した-OH基の酸素原子と反応剤の炭素原子との反応であること(20位の炭素原子と酸素原子間のC-O結合が切れる反応が起こるのではなく、アルコール性水酸基の酸素原子と水素原子の間のO-H結合が切れることによって不斉炭素の立体配置が維持されることになる反応であること)、(β)上記-OH基の酸素原子が酢酸エチルの炭素原子を求核攻撃しても、化合物(4)の側鎖である、-OCH_(2)CH_(2)COOC_(2)H_(5)の構造とはならないこと(炭素数が1つ足りないこと)に気付き、これらを考え合わせて、【0034】の「化合物(3)に酢酸エチルを作用させて化合物(4)を得た」という反応には矛盾があることに気付くといえる。

(ウ) したがって、本件明細書に接した当業者は、【0034】の【化14】(化合物(3)から化合物(4)を製造する工程)において、側鎖を構成する炭素原子数の不整合によって、【0034】に何らかの誤記があることに気付くものと認められる。

ウ 明細書の誤記が本件訂正に係る訂正前の「酢酸エチル」という記載であると当業者が分かるかどうか

次に、前記イのとおり、特定の反応工程(【0034】の【化14】)における技術的矛盾と、それに伴う誤記の存在を認識した当業者が、当該反応工程のうち、誤記が「EAC(酢酸エチル・・・)」であると分かるかどうかについて、検討する。

(ア) 前記1(4)アのとおり、マキサカルシトールの合成方法は、マキサカルシトール側鎖を有する中間体化合物を得るための工程(前半の工程)と、マキサカルシトール側鎖を有する中間体化合物から、最終生成物であるマキサカルシトールを得るための工程(後半の工程)に分けられる。
前半の工程、すなわち、化合物(1)から化合物(5)に至る工程([合成例2]?[合成例5])は、既知の化合物(1)を出発物質として、各工程において側鎖部分の化学構造のみが変化するものと記載されている。
すなわち、次の(α)?(δ)の合成を行うものと記載されている。
(α)化合物(1)から化合物(2)の合成(前記2(2)オ)
-CHO → =O
酸化による脱ホルミル化(脱CHO)反応
(β)化合物(2)から化合物(3)の合成(前記2(2)カ)
=O → -OH
金属ハイドライドによる還元
(γ)化合物(3)から化合物(4)の合成(前記2(2)キ)
-OH → -OCH_(2)CH_(2)COOC_(2)H_(5)
EACに対する(アルコールの求核置換)反応
(δ)化合物(4)から化合物(5)の合成(前記2(2)ク)
-OCH_(2)CH_(2)COOC_(2)H_(5)
→ -OCH_(2)CH_(2)C(CH_(3))_(2)OH(マキサカルシトール側鎖)
MeMgCl(グリニャール試薬)による反応

(イ) ここで、化合物(2)は、本件特許の特許請求の範囲に記載された化合物であり、特許請求の範囲及び本件明細書における複数箇所の化学構造の記載は一致しており、これが誤りであると疑うべき事情は認められない上、既知の化合物(1)から酸化による脱ホルミル化(脱CHO)反応により化合物(2)を得た旨の[合成例2]の記載(前記2(2)オ)を参照しても、既知の化合物(1)を出発物質として、[合成例2]記載の反応物質、反応条件により、本件明細書記載の化学構造を有する化合物(2)が得られることに技術的な矛盾は認められない。このように、化合物(2)の化学構造は、当業者に正しいものと認識されるところ、そのような化合物(2)から金属ハイドライドによる還元により化合物(3)を得た旨の[合成例3]の記載(前記2(2)カ)を参照しても、化合物(2)を出発物質として、[合成例3]記載の反応物質、反応条件により、本件明細書記載の化学構造を有する化合物(3)が得られることに技術的な矛盾は認められない。
また、前記2(4)イのとおり、マキサカルシトールの合成工程において20位アルコール中間体を得て、その-OH基をマキサカルシトール側鎖とする合成方法は周知であることからみて、本件明細書の記載に接した当業者にとって、マキサカルシトールの合成工程において、[合成例3]までの工程で、20位炭素原子に-OH基を有する化合物(3)が中間体として合成されていることに、何ら不整合な点はない。
加えて、化合物(3)は、本件特許の特許請求の範囲に記載された化合物である上、特許請求の範囲及び本件明細書における複数箇所の化学構造の記載は一致している。
そうすると、本件明細書に接した当業者が、化合物(3)の化学構造、特に20位の炭素原子に-OH基が結合した構造に誤りがあると考えるとはいえない。

(ウ) マキサカルシトール側鎖を有する化合物(5)を起点とする後半の工程([合成例6]?[合成例8])は、最終生成物であるマキサカルシトールのビタミンD構造における20位の炭素原子(マキサカルシトール側鎖部分)以外の部位における公知の反応(摘記(Da)?(De))であり、各合成例に関する明細書の記載が正しいことを前提に本件明細書に接した当業者は、[合成例5]で化合物(5)を合成する段階でマキサカルシトール側鎖の導入が終わっているものと把握できるから、当業者にとって上記後半の工程に不整合な部分はなく、当業者は、少なくとも化合物(5)の化学構造(あるいは、マキサカルシトール側鎖部分)は、正しいものと考えるといえる。

(エ) そして、仮に化合物(4)の側鎖部分(-OCH_(2)CH_(2)COOC_(2)H_(5))が他の構造であり、酢酸エチルであるEACとの反応により、化合物(4)とは炭素数が異なる(炭素数が1少ない)側鎖が結合する反応が起こったとすれば、グリニャール反応によってマキサカルシトール側鎖を導入して化合物(5)を得るためには、[合成例5]に相当する変換工程の数が図1に示された合成スキームよりも必然的に多くなってしまうであろうことが当業者において容易に予想されるから、当業者が、化合物(4)の側鎖の構造に誤りがあると考えるとはいえない。

(オ) 【化14】の出発物質である化合物(3)の化学構造、反応剤である「EAC(酢酸エチル・・・)」、生成される化合物(4)の化学構造のうちいずれかの記載に誤記があることに気付いた当業者にとって、「EAC(酢酸エチル・・・)」という記載に示された化学物質名と、体積と、モル数とが整合しているかどうかを確認することは容易であるところ、当業者は、以下の計算の結果、酢酸エチル804mLは、7.28molであることが確認でき、本件明細書に記載されているモル数と整合していないことを理解するといえる。
(計算)
酢酸エチル[分子量88.11、密度0.90g/ml(摘記(11a))]804mLのmol数について
804×0.9/88.11=8.21mol

(カ) 本件明細書に接した当業者は、前記(ア)?(オ)において検討したとおり、化合物(3)及び化合物(4)の化学構造については正しいものと理解し、「酢酸エチル」が誤記であると理解するといえる。
なお、本件明細書に記載された^(1)H-NMRデータや^(13)C-NMRデータのシグナルの位置やシグナル数は、それのみによって化合物(3)及び化合物(4)の化学構造を特定し得るものではないものの、化合物(3)及び化合物(4)の化学構造と矛盾する点があるとまでは認められないから、本件明細書に接した当業者が、化合物(3)及び化合物(4)の化学構造が正しいものと理解することを支持するものといえ、少なくともそのような理解を妨げるものであるとはいえない。

エ 正しい記載が本件訂正に係る訂正後の「アクリル酸エチル」という記載であると当業者が分かるかどうか

次に、前記ウのとおり、【0034】の「酢酸エチル」の記載が誤記であることに気付いた当業者が、正しい記載が「アクリル酸エチル」であると分かるかどうかについて、検討する。

(ア) 「アクリル酸エチル」は、英語で表記すると、「Ethyl Acrylate」であり(摘記(8a))、「EAC」と略称されることがあるものと認められる(摘記(16a)、(17a))。

(イ) 前記イ(イ)のとおり、アルコールの反応はC-O結合で起こる反応とO-H結合で起こる反応の二つがあること(摘記(2a))及びC-O結合で起こる反応である分子同士の脂肪族求核置換反応において不斉炭素の立体配置は維持されないことは技術常識である(摘記(Aa)、(Ba)、(Ca))ところ、【0034】の反応では、化合物(3)から化合物(4)への反応において不斉炭素原子(ビタミンD構造の20位の炭素原子)の立体配置が維持されていることから、当業者は、本件出願日における上記技術常識を踏まえ、化合物(3)と反応剤EACとの反応は、化合物(3)の20位の炭素原子に結合したアルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤(EAC)の炭素原子を求核攻撃することによって化合物(4)が得られる以下の反応、すなわちアルコールのO-H間の結合の切断を伴う反応であると理解するといえる。

そして、アルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤の炭素原子を求核攻撃する反応として置換反応(例えば、摘記(4b)の化合物8から化合物9を得る反応)と付加反応(例えば、摘記(5a)のオキサマイケル反応)が存することは技術常識であるところ、上記のような化合物(3)と反応剤EACの反応機構に加え、化合物(4)の化学構造から、当業者は、【化14】の反応は、化合物(3)のアルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤(EAC)中のカルボニル基を構成する炭素原子の二つ隣の炭素原子を求核攻撃する、(α)3位に脱離基を有するプロピオン酸エチル(L-CH_(2)CH_(2)COOC_(2)H_(5)、ただし、Lは脱離基)を反応剤とする置換反応、又は、(β)アクリル酸エチルを反応剤とする付加反応のいずれか(下図参照)であると理解するといえる。

そして、【0034】の反応機構から、正しい反応剤が(α)3位に脱離基を有するプロピオン酸エチル、又は(β)アクリル酸エチルに限定されることを理解した場合に、これらの反応剤の体積及びモル数が「804mL、7.28mol」という記載に整合するかどうかを検証してみると、当業者は、以下の計算の結果、アクリル酸エチルの方が、本件明細書記載の上記数値に整合することが理解できるといえる。
(計算)
脱離基を有するプロピオン酸エチル及びアクリル酸エチル804mLのmol数について
アクリル酸エチル[分子量100.12、密度0.92g/ml(摘記(8a))]
804×0.92/100.12=7.39mol
3-クロロプロピオン酸エチル[分子量136.58、密度1.10g/ml(摘記(14a))]
804×1.10/136.58=6.48mol
3-ブロモプロピオン酸エチル[分子量181.03、密度1.42g/ml(摘記(15a))]
804×1.42/181.03=6.31mol

(ウ) 以上のとおり、「EAC」は、「アクリル酸エチル」の英語表記と整合し、略称と一致するものである上、モル数の記載とも整合するのであるから、当業者は、正しい反応剤が「アクリル酸エチル」であることを理解することができるといえる。

オ まとめ

以上によると、本件訂正に係る訂正前の「EAC(酢酸エチル、804mL、7.28mol)」という記載が誤りで訂正後の「EAC(アクリル酸エチル、804mL、7.28mol)」という記載が正しいことが、本件特許に係る明細書、特許請求の範囲及び図面の記載並びに当業者の技術常識などから明らかで、当業者であればそのことに気付いて、これを「EAC(アクリル酸エチル、804mL、7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができる。
したがって、本件訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であること

ア はじめに

前記(1)で判断したとおり、本件訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、本件訂正が特許法第126条第5項の規定に適合するかどうかについては、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)を基準として判断する(特許法第126条第5項括弧書)。

イ 本件当初明細書等の記載

本件当初明細書等の明細書及び図面には、前記1(2)のとおりの記載があり、また、本件当初明細書等の特許請求の範囲には、化合物(2)及び化合物(3)が記載され、これらの化合物の化学構造は、本件当初明細書等の明細書及び図面において記載された化学構造と同じである。

ウ 検討

前記イによれば、前記(1)ウ(イ)で示したとおり、本件当初明細書等に接した当業者が、化合物(3)の化学構造、特に20位の炭素原子に-OH基が結合した構造に誤りがあると考えるとはいえない。
そうすると、前記(1)で示したのと同様の理由により、本件当初明細書等に接した当業者であれば、本件当初明細書等の【0034】の「EAC(酢酸エチル、804mL、7.28mol)」という記載が誤りであり、これを「EAC(アクリル酸エチル、804mL、7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができる。
したがって、本件訂正後の本件明細書の記載である「アクリル酸エチル」は、本件当初明細書等の記載から自明な事項として定まるものであるということができるから、本件訂正が、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。

エ まとめ

以上によると、本件訂正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
したがって、本件訂正は特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと

本件発明は、前記第2のとおりのものである。
これに対し、本件訂正は、特許請求の範囲の訂正に係るものではなく、かつ、【0034】([合成例4]、【化14】)の化合物(3)からの化合物(4)の合成に係るものであるから、本件発明を構成する部分ではない。
そうすると、本件訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正後における請求項に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること

本件訂正による訂正後の本件発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるとはいえないものであるとする理由はみあたらない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第7項の規定に適合する。

第5 むすび

以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マキサカルシトール中間体およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンD類似体、マキサカルシトール、中間体、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンDは、筋肉、免疫系、生殖系、ならびに細胞の増殖および分化に深く影響を及ぼす。実際に、ビタミンD受容体(VDR)を有する細胞は、身体の多くの部分(腸、腎臓、前立腺、骨、骨髄、副甲状腺、皮膚、肝臓、筋肉、およびリンパ系組織などを含む)に見られる。VDRが広範に存在しているため、ビタミンDおよびその類似体は、癌、皮膚、並びに骨の疾患および自己免疫疾患などを含むさまざまな疾患の治療のための化合物として興味が持たれている。
【0003】
何らかの構造的類似性を有するビタミンD類似体類が、これまでに開示されている。例えば、国際出願第87/00834号には、下記式の化合物類:
【化1】

およびその合成方法が記載されている。国際出願第90/09992号には、下記式の化合物類:
【化2】

およびその合成方法が記載されている。これらの化合物類は、異常な細胞増殖および/または細胞分化によって特徴付けられるヒトおよび家畜の疾患の治療に有用である。加えて、Kuboderaらは、1α,-25-ジヒドロキシ-22-オキシビタミンD_(3)類似体の合成およびその分化誘導活性を開示している(Chem.Pharm.Bull.40(6)1494-1499)。
【0004】
ビタミンDおよびその類似体類は、既にSHPT(二次性副甲状腺機能亢進症)の治療に用いられている。パリカルシトール(19-ノル-1,15-ジヒドロキシ-ビタミンD_(2))およびドキセルカルシフェロール(1α-ヒドロキシ-ビタミンD_(2))は、米国でs-HPTの治療に推奨されており、22-オキサカルシトール(22-オキサ-1、25(OH)_(2)D_(3)、マキサカルシトール)およびヘキサフルオロ-カルシトリオール(ファレカルシトリオール)は、日本で推奨されている。
【0005】
マキサカルシトールは、いわゆる「非カルセミック」ビタミンD類似体であり、顕著な分化誘導性/抗増殖性を有し、高カルシウム血症を引き起こす能力が低下している。マキサカルシトールは、PTHの強力な抑制剤として開発された。日本では、その使用により慢性透析患者のSHPTの改善が認められた。加えて、尋常性乾癬を含む角化症を有する患者に広く使用され、著しくその症状を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第87/00834号パンフレット
【特許文献2】国際公開第90/09992号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem.Pharm.Bull.40(6)1494-1499
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、式(I):
【化3】

のキラル化合物を提供する。
本発明は、さらに、式(II):
【化4】

のC-20位がR-形またはS-形であるキラル化合物を提供する。
【0009】
本発明は、さらに、式(3):
【化5】

を有するマキサカルシトール中間体の製造方法であって、
式(2):
【化6】

の化合物をリチウムアルミニウムハイドライドと反応させる工程を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、マキサカルシトールの合成スキームを説明する。
【図2】図2は、化合物(2)の^(1)H NMRの結果を示す: ^(1)H NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ6.38(1H,d,J=11.6),5.81(1H,d,J=11.6),4.84(1H,s),4.57(1H,s),3.82(1H,m),2.84(1H,m),2.64(1H,m),2.51(1H,m),2.42(1H,m),2.25(1H,dd,J=7.6,13.6),2.15(1H,m),2.09(2H,m),2.06(3H,s),1.97(2H,m),1.66(10H,m)1.18(1H,t,J=7.2),0.81(12H,m),0.44(3H,s).
【図3】図3は、化合物(2)の^(13)C NMRの結果を示す: ^(13)C NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ208.6,149.7,141.5,136.9,119.5,117.0,107.5,68.9,63.6,56.4,46.6,39.4,37.2,34.9,31.2,30.8,28.4,25.6,23.1,22.4,22.1,17.9,14.0,13.2.
【図4】化合物(3)の20R-異性体の^(1)H NMRの結果を示す: ^(1)H NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ6.45(1H,d,J=11.6),5.83(1H,d,J=11.6),4.91(1H,s),4.62(1H,s),3.83(1H,m),3.71(1H,m),2.85(1H,m),2.63(1H,dd,J=4.0,14.0),2.45(1H,m),2.23(1H,dd,J=8.0,13.2),2.11(3H,m),1.82(1H,m),1.58(10H,m),1.15(4H,m),0.86(10H,s),0.62(3H,s),0.05(6H,s).MS m/z:431.4(M^(+)),UV(MeOH)λ_(max)nm:271.5.
【図5】図5は、化合物(3)の20R-異性体の^(13)C NMRの結果を示す:^(13)C NMR(CDCl_(3)):δ149.9,143.2,136.4,119.9,116.1,107.5,70.7,69.4,58.8,55.9,45.7,40.6,37.5,35.2,31.2,28.9,25.8,25.0,23.6,23.4,22.4,18.1,12.5.
【図6】図6は、化合物(3)の^(1)H NMRの結果を示す: ^(1)H NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ6.36(1H,d,J=11.6),5.84(1H,d,J=11.6),4.89(1H,s),4.61(1H,s),3.83(1H,m),3.68(1H,m),2.84(1H,m),2.60(1H,dd,J=4.0,13.6),2.44(1H,m),2.24(1H,dd,J=8.4,13.6),2.12(1H,m),1.94(5H,m),1.59(8H,m),1.20(5H,m),0.85(9H,s),0.53(3H,s),0.03(6H,s).
【図7】図7は、化合物(3)の^(13)C NMRの結果を示す: ^(13)C NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ149.8,142.7,136.4,119.8,116.4,107.5,70.1,69.2,58.6,56.2,44.8,39.4,37.4,35.0,31.0,28.7,25.8,24.9,23.5,23.1,22.0,18.0,14.1,12.5.
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法の記述において、以下の用語は、特に指定しない限り、以下の意味を有する。
【0012】
用語「アルキル」は、直鎖状または分枝状の一価の飽和炭化水素基を意味する。特に指定しない限り、このようなアルキル基は、典型的には1個?6個の炭素原子を有する。代表的なアルキル基には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどが含まれる。
【0013】
用語「アルコキシ」は、式:(アルキル)-O-(式中、アルキルは、本明細書で定義したとおりである)の一価の基を意味する。代表的なアルキル基には、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシなどが含まれる。
【0014】
本発明は、式(I):
【化7】

(式中、Rは、OH、O-アシル、O-C_(1?8)アルキルシリル、またはO-C_(1?8)アルコキシ-C_(1?8)アルキルである)
のキラル化合物を提供する。
【0015】
本発明はまた、式(II):
【化8】

(式中、Rは、OH、O-アシル、O-C_(1?8)アルキルシリル、またはO-C_(1?8)アルコキシ-C_(1?8)アルキルである)
のC-20位がR-形またはS-形であるキラル化合物を提供する。
【0016】
用語「キラル」は手を意味するギリシャ語の単語「kheir」に由来し、ここで、手は最もよく知られているキラルな物体であり、左/右対称体が存在することを意味する。例えば、左手と右手は同じではなく、互いに鏡像体であり、したがって「キラル」である。
【0017】
ヒトの手に左と右があるのと同様に、分子にも左と右がある。キラル分子は、その鏡像体と重ね合わせることができない分子である。キラル化合物と、その鏡像体とは、エナンチオマーと呼ばれる。天然のほとんど全てのキラル分子は、単独のエナンチオマーとして存在する。分子を工業的な合成によって製造すると、通常、ラセミ体、すなわち2つのエナンチオマーの50/50組成物の形態で存在する。
【0018】
キラル分子は、光学活性を有し、したがって、エナンチオマーは、時には光学異性体と呼ばれる。各エナンチオマーが偏光面を逆方向に回転させるため、光学活性体と呼ばれる。光を時計方向に回転させるエナンチオマーは、右旋性すなわち(+)であり、逆のエナンチオマーは、左旋性すなわち(-)である。ラセミ混合物は、光学活性を示さない。
【0019】
1948年に、26歳のLouis Pasteurは、ピンセットを用いて、酒石酸塩の右手型および左手型を顕微鏡下で分離した。これらの結晶は、異なる形状を有していた。Pasteurがこれらの結晶を水に溶解すると、一方の結晶は偏光を右に回転させ、他方の結晶は偏光を左に回転させた。したがって、酒石酸塩は、右手型および左手型が分離された最初の分子であり、右手型および左手型は、現在、化学者らによってR(右を意味するラテン語のrectusから)およびS(左を意味するラテン語のsinisterから)と呼ばれている。この実験は、化学者がこの語を使用し始めるおよそ100年前の実験であるが、分子のキラリティーの発見として引き合いに出されることが多い。
【0020】
RおよびSは、分子の絶対配置を表すための記号であり、キラル中心の周りに原子がどのように配置されているかを、優先規則にしたがって示す。
【0021】
本発明の第一の実施態様では、Rは、ヒドロキシル、O-アシル、またはO-tert-ブチルジメチルシリルである。
【0022】
本発明では、これらの化合物を、マキサカルシトールの合成に用いる。
【0023】
本発明は、さらに、化合物(3):
【化9】

の構造を有するマキサカルシトール中間体の製造方法であって、
化合物(2):
【化10】

の構造を金属ハイドライドで還元して化合物(3)を得る工程を含む方法を提供する。
【0024】
本発明の方法では、化合物(2)は、化合物(1):
【化11】

の構造を、金属水酸化物および有機溶媒の存在下、酸素で酸化することによって合成する。
【0025】
本発明の方法では、金属水酸化物は、限定されないが、水酸化カリウムであり、前記有機溶媒は、限定されないが、tert-ブタノールである。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は、非限定的なものであり、本発明のさまざまな態様および特徴の単なる代表例である。
【0027】
[合成例1]:化合物(1)の合成
3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E),7(E),10(19)-トリエン
【化12】

化合物(1)の合成は、米国特許第4,866,048号の製造例1、4、および5?7に記載された手順に従う。米国特許第4,866,048号に記載された先行技術に従って、1kgのビタミンD2を用いて、800gの3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E),7(E),10(19)-トリエン(化合物(1))を、オイル状粘着性生成物として得た。
【0028】
[合成例2]:化合物(2)の合成
(実施例1):
3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E),7(E),10(19)-トリエン(化合物(1))(800g,1.8mol)のtert-ブタノール(16L)溶液に、攪拌下、KOH(155g,2.76mol)を添加した。次いで、この溶液に、良好な撹拌下、40℃にて4時間酸素ガスをバブルさせた。
反応が完結した後、tert-ブタノールを蒸発させて除去し、残渣を酢酸エチル(8L)に溶解させ、水で抽出した(8Lx2回)。得られた有機相をMgSO4で無水にした後、濾過した。濾液を、減圧下で濃縮して乾燥させると、オイル状の残渣が得られ、これをカラムカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の5%酢酸エチル)して、所望の生成物である化合物(2)を523g得た(収率67%)。
図2に、化合物(2)の^(1)H NMRの結果を示す。
図3に、化合物(2)の^(13)C NMRの結果を示す。
【0029】
(実施例2):
フラスコに、3(R)-(tert-ブチルメチルシリルオキシ)-20(S)-ホルミル-9,20-セコプレグナ-5(E),7(E),10(19)-トリエン(化合物(1))(3g,6.78mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(150ml)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(678mg,6mmol),酢酸銅一水和物(101mg,0.5mmol)、および2,2’-ビピリジル(82mg,0.51mmol)を加えた。この混合物を、40℃にて6日間、良好な撹拌下で空気をバブルさせた。
この反応混合物を酢酸エチル(200ml)で希釈し、水で抽出し(100mLx2)、MgSO4で無水にした。酢酸エチルを蒸発により除去し、オイル状の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の10%酢酸エチル)して、所望の生成物である化合物(2)を得た。
【0030】
[合成例3]:化合物(3)およびその20R-異性体の合成
(実施例1):
化合物(2)(3g、7.0mmol)を、テトラヒドロフラン(140ml)に溶解し、水素化ホウ素ナトリウム(0.13g、3.4mmol)を添加した。次いで、メタノールを、15分かけて滴下により添加した。この反応混合物を、20分間撹拌した後、酢酸エチル(560ml)で希釈した。この溶液を水(150mLx5)および飽和塩化ナトリウム水溶液(150mL)で抽出し、MgSO4で無水にし、蒸発させて、無色のオイルを得た。このオイル状の残渣をカラムクロマトグラフィーで精製した(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の10%酢酸エチル)。最初に留出したものが、化合物(3)の20R-異性体(固体)であった。
図4に、化合物(3)の20R-異性体の^(1)H NMRの結果を示す。
図5に、化合物(3)の20R-異性体の^(13)C NMRの結果を示す。
【0031】
より極性の異性体(化合物(3))を含有するフラクションを蒸発させて、無色のオイル状付加体を得た。
【化13】

図6に、化合物(3)の^(1)H NMRの結果を示す。
図7に、化合物(3)の^(13)C NMRの結果を示す。
【0032】
(実施例2):
化合物(2)(500g、1.16mol)をキシレン(10L)に溶解させ、この反応混合物を100?130℃に加熱した後、LAH(リチウムアルミニウムハイドライド)(88.5g、2.33mol)を添加した。反応を、撹拌下、20分間行い、室温に冷却した。この反応混合物に、飽和硫酸ナトリウム溶液(100mL)を加えて30分間撹拌した。反応混合物を濾過し、濾液を蒸発させてオイル状の残渣を得た。R/S比は65:35であった。オイル状残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の5%酢酸エチル)して、最初の留出物が化合物(3)の20R-異性体(白色結晶)350gであり、収率は63.6%であった。
【0033】
より極性の異性体(化合物(3))を含有するフラクションを蒸発させて、無色のオイル状の付加体を得た(123g、収率24%)。
【0034】
[合成例4]:化合物3の合成
【化14】

化合物(3)(123g、0.28mol)を、トルエン(6L)および(N-Bu_(4))NHSO_(4)(360mmol)に溶解させ、50% NaOH溶液およびEAC(アクリル酸エチル、804mL、7.28mol)を添加した。反応は、10?20℃に制御した。反応混合物を5分間撹拌し、次いで、水で希釈した(徐々に添加、4L)。この溶液を分離し、有機相をMgSO4で無水にし、蒸発させて無色オイルを得た。このオイル状残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の3%酢酸エチル)して、目標化合物(4)をオイル状付加体として得た(112g、収率73%)。
【0035】
[合成例5]:化合物(5)の合成
【化15】

化合物(4)(112g、0.21mol)を、窒素下でテトラヒドロフラン(224mL)に溶解させた後、10℃未満に冷却した。この攪拌した溶液に、メチルマグネシウムクロライド(210mL,MeMgCl、テトラヒドロフラン中22%、0.63mol)を滴下により添加した。この反応混合物を、30分攪拌し、水を添加することによってクエンチし(徐々に添加、38mL)、次いで濾過した。得られた濾液をMgSO4で無水にし、蒸発させて無色オイルを得た。このオイルをカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の7%酢酸エチル)して、目標化合物(5)をオイル状付加体として得た(77.9g、収率71%)。
^(1)H NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ6.43(1H,d,J=11.6),5.83(1H,d,J=11.6),4.89(1H,s),4.61(1H,s),3.81(1H,m),3.62(1H,m),3.46(1H,m),3.23(1H,m),2.82(1H,dd,J=3.6,13.6),2.62(1H,dd,J=3.6,13.6),2.44(1H,m),2.23(1H,m),2.13(1H,m),1.96(2H,m),1.83(4H,m),1.71(6H,m),1.55(6H,m),1.21(6H,m),1.16(5H,m),0.85(9H,s),0.51(3H,s),0.04(6H,s).
^(13)C NMR(CDCl_(3)):δ149.9,142.7,136.5,119.8,116.4,107.5,78.9,70.4,69.3,65.5,57.1,56.2,44.7,41.5,39.6,37.5,35.1,31.1,29.3,29.0,25.8,23.1,22.1,18.8,18.1,12.6.
【0036】
[合成例6]:化合物(6)の合成
【化16】

化合物(5)(77.9g、0.15mol)を、N-メチルモルホリンN-オキシド(30g、0.25mol)を含有するジクロロメタン(467mL)に溶解させた。撹拌したこの溶液を、窒素下で加熱還流させ、二酸化セレン(6.7g、0.06mol)のアセトニトリル(233mL)溶液を速やかに添加した。添加した後、この混合物を約2時間加熱還流させ、次いで冷却し、さらなるジクロロメタンで希釈し、水で洗浄し、MgSO4で無水にし、濃縮して、粗生成物である化合物(6)を得た。次いで、この粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の10%酢酸エチル)して、目標化合物(6)をオイル状付加体として得た(43.6g、収率54%)。
^(1)H NMR(400MHz,CDCl_(3)):δ6.46(1H,d,J=11.6),5.83(1H,d,J=11.6),5.03(1H,s),4.91(1H,s),4.45(1H,m),4.16(1H,m),3.80(1H,m),3.45(1H,m),3.22(1H,m),2.82(1H,dd,J=3.6,13.6),2.49(1H,dd,J=3.6,13.6),2.37(1H,m),1.83(5H,m),1.70(5H,m),1.53(3H,m),1.29(2H,m),1.20(10H,m),1.16(4H,m),0.84(9H,s),0.50(3H,s),0.04(6H,s).
^(13)C NMR(CDCl_(3)):δ153.0,143.3,134.5,122.2,116.5,107.6,78.9,70.4,66.7,65.5,57.0,56.1,44.7,42.8,41.4,39.5,36.9,29.3,29.0,28.8,25.7,23.1,22.1,18.8,18.0,12.5.
【0037】
[合成例7]:化合物(7)の合成
【化17】

化合物(6)(43.6g、0.08mol)を、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオライド(40g、0.13mol)を含有するテトラヒドロフラン(261mL)に溶解させた。撹拌したこの溶液を、窒素下で2.5時間加熱還流させた。冷却した後、この反応溶液を、酢酸エチルと2%炭酸水素ナトリウム溶液との間で分配させ、有機相を水で洗浄し、無水にし、さらに濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル、溶離液はヘキサン中の50%酢酸エチル)して、化合物(7)を得た(16.2g、収率47%)。
【0038】
[合成例8]:マキサカルシトールの合成
【化18】

化合物(7)(13.6g、30mmol)および9-セチルアントラセン(1.36g、6.17mmol)をアセトン(2250mL)に溶解させた。このアセトン溶液を、アルゴン雰囲気下、約5℃の温度で約4時間、350nmのUV光によって光照射した。光照射した後、フェニルボロン酸(1.6g、1.31mmol)をこの反応混合物に添加し、反応物を3.5時間撹拌した。次いで、この溶液を、濃縮し、カラムクロマトグラフィーに通して精製して、粗マキサカルシトール(9.7g、収率74.6%)を得た。
【0039】
[合成例9]:マキサカルシトールの結晶化
粗マキサカルシトール(9.7g,23.2mmol)を、ジエチルエーテル(200mL)に溶解させた。この溶液を冷却し、5?10℃にて24時間保った。形成された結晶を濾過し、減圧下、室温で乾燥させて、最終生成物であるマキサカルシトールを得た(1.5g、純度99.8%、収率15.4%、[α]D^(20)_(D)=+44°)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-07-10 
結審通知日 2017-07-12 
審決日 2017-07-31 
出願番号 特願2010-22200(P2010-22200)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C07F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土橋 敬介  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 加藤 幹
冨永 保
登録日 2014-06-20 
登録番号 特許第5563324号(P5563324)
発明の名称 マキサカルシトール中間体およびその製造方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  

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