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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1331550
審判番号 不服2015-11234  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-28 
確定日 2017-09-07 
事件の表示 特願2011-239592「石碑型納骨室」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月13日出願公開、特開2013- 87614〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年10月13日の出願であって、平成27年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月28日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成27年5月28日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項2、3及び5に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明2」、「本願発明3」及び「本願発明5」という。)。
「【請求項2】
『個人の情報の漏えいを防ぐことを特徴とする納骨室』
【請求項3】
『遺族に収納・管理をしやすくしたことを特徴とする納骨室』
【請求項5】
『通気性を高めた事を特徴とする納骨室』」

3 刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-227157号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある(下線は、審決にて付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】 墓地の所定箇所に設置される下台石と、該下台石の上に重ね上げられる上台石、さらに、その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において、石碑本体が、扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方、上台石は、一個の石を刳り抜くか、あるいは、対応する箇所を避けて複数個のブロック石を平坦状に組み合わせるかの何れかによって、前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものとなし、該上台石の納骨道に通じる下台石部分か、あるいは、下台石に設けた納骨道を介して前記上台石の納骨道に通じるようにしてなる当該下台石よりも下方部分の何れかに、適宜大きさの納骨棺部が形成されてなるものとしたことを特徴とする墓。」

イ 「【0001】
【発明の目的】この発明は、地盤に埋設または埋設状に形成した納骨棺の上に下台石および上台石を重ね上げ、さらに、上台石の上面に石碑本体を立設するようにした形式の墓の改良に係り、特に、三十三回忌法要を済ませ、清浄本然を遂げた遺骨を、未だその時期に達しない遺骨と別にし、先祖の霊と一つにして安置できるようにする新規な構造の墓と、それを使用した新規な納骨方法とを提供しようとするものである。」

ウ 「【0008】この基本的な構成からなるこの発明の墓は、より具体的には、以下のとおりの構成によって示すことができる二タイプの墓が包含されている。その中の一つは、墓地の所定箇所に設置される下台石と、該下台石の上に重ね上げられる上台石、さらに、その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において、石碑本体が、扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方、上台石は、一個の石を刳り抜くか、あるいは、対応する箇所を避けて複数個のブロック石を平坦状に組み合わせるかの何れかによって、前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものにすると共に、下台石は、一個の石を刳り抜くか、あるいは、対応する箇所を避けて複数個のブロック石を平坦状に組み合わせるかの何れかによって、前記上台石の納骨道に対応する納骨口が形成され、更に該納骨口から下方に連ね、下面を地盤側に開口させてなる適宜大きさの納骨棺部が形成されてなるものとした墓である。」

エ 「【0019】なお、この扉部は、大切な遺骨を安置しておく上で、当然頑丈な錠前で施解錠できる構造のものとして建て付けられていなければならず、また、石碑本体の開口縁との間の全縁部に渡って、仏事で石碑本体に清め水を掛ける所作を伴うことと、長年に渡って自然の風雨に晒されることとを配慮して、それら雨水の侵入を防止するための有効な手段、例えばゴム製または合成樹脂製の弾性シール材を取り付けたり、あるいは、それらの目的で従来から採用されている公知の水切り構造のものに形成すべきである。」

オ 上記アないしエ(特にア及びエ)によれば、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「墓地の所定箇所に設置される下台石と、該下台石の上に重ね上げられる上台石、さらに、その上台石の上面略中央に立設される石碑本体からなる墓において、石碑本体が、扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される一方、上台石は、前記遺骨安置空間部の直下で上下に貫通する納骨道の形成されてなるものとなし、該上台石の納骨道に通じる下台石部分に、適宜大きさの納骨棺部が形成され、扉部は頑丈な錠前で施解錠できる構造である墓。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-106209号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の記載がある

ア 「【請求項1】 墓における納骨室の設置場所を従来の雨水が浸入し溜まり易い地下から地上とし納骨室を構成する石材やコンクリートに吸水防止剤を塗布し太陽の光を採り入れ、風を通し、竹炭を配置したことを特徴とする墓における納骨室。
……
【請求項3】 平面から見て四角形に構成した納骨室壁板の(9、10、11)に吸気口と排気口の距離差を取り納骨室内部と外部を通じる位置に穴開け加工を施し、通気により空気の淀みを防ぎ湿気を滞留させない換気孔(14)を設け、換気孔網付きキャツプ(15)を嵌め合わせた請求項1記載の墓における納骨室。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は納骨室内の除湿、除菌、消臭を図り虫の発生を防ぐため太陽の光を採り入れ、風を通し竹炭を配置する。又、コンクリートや石材に吸水防止剤を塗布し外部からの水の浸入を防ぐ墓における納骨室に関するものである。」

ウ 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は墓における納骨室に関するもので、その目的とするところは納骨室が暗くて、汚い、臭い、というイメージを払拭させ死後も清潔な場所で陽に当り、風の通る中で四季を感じ、小鳥のさえずりを聞きながら快適に永遠の眠りに就きたい、ご先祖様もそのような状態で居させてやりたい、という心情的な見地から発明した物である。」

エ 「【0027】納骨室壁板後面部9の縦方向で下台6に近い納骨室内部と外部を通じる位置に穴開け加工を施し、吸気と排気を成す換気孔14を設けます。……当該換気孔14は納骨室7を構成する周壁の納骨室壁板に設置しますが、換気孔14は図3に示す通り吸気と排気を成す距離差が大きく開く程空気の循環作用が良好となるので(図1)に示している換気孔14は納骨室7の天井に近い納骨室壁板後面部9の上方に設けています。」

オ 「【0030】納骨室壁板右側面部10と納骨室壁板左側面部11の内部と外部を通じる位置に穴開け加工した吸気と排気を成す換気孔14を設け、納骨室壁板左側面部10の換気孔14は縦方向の上方に、納骨室壁板左側面部11の換気孔14は縦方向の下方に設けています。前述の空気の循環作用が良好と成るようにしたものです。」

カ 「【0046】納骨室内部と外部を通ずる納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くし空気の淀みと湿気の滞留をなくし結露を防止することができる。」

キ 上記アないしカ(特にア及びカ)によれば、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「設置場所を地上とし、納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした墓における納骨室。」

4 本願発明2について
(1)対比・判断
ア 本願発明2と刊行物1発明とを対比する。

イ 刊行物1発明の「墓」は、「石碑本体」が「遺骨安置空間部」を有し、「下台石部分」に「納骨棺部」が形成されるから、本願発明2の「納骨室」に相当する。

ウ 「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に関し、本願の明細書には、「扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし」(段落【0007】)と記載されるにとどまり、他に個人の情報の漏えいを防ぐことに関連すると認められる記載はないから、刊行物1発明の「遺骨安置空間部を有する」「石碑本体」の「扉部」が「頑丈な錠前で施解錠できる構造である」ことは、本願発明2の「個人の情報の漏えいを防ぐこと」に相当する。

エ してみると、両者は、「個人の情報の漏えいを防ぐ納骨室」で一致し、相違するところは認められない。
よって、本願発明2は、刊行物1に記載された発明である。

オ また、本願発明2は、「個人の情報の漏えいを防ぐことを特徴とする納骨室」であるから、「納骨室」という物の発明である。
そして、その発明特定事項である「個人の情報の漏えいを防ぐこと」は、物の構造を機能的な表現で特定している。
ところで、本願明細書には、【発明を実施するための最良の形態】として以下のとおり記載されている。
「【0007】
この石碑型納骨室は、石碑・納骨室・外柵を一体化して石材、或は長期に亘り変質しない材料で四方の壁・天井にも同材を持って形成し、複数の部屋も設ける事が出来る。取りあえず二部屋として紹介をする。下の部屋の底板は無く土間である。ここは、長年供養して年忌を終えた方の遺骨を壺から出してこの土の中に還す場所である。一方上の部屋は直近で亡くなられた方を納め周囲を飾る事も出来る場所である。そのため、この部屋は遺骨を置く飾り棚や上部から自然光が降り注ぐ天窓を要し。通気性を考え通気口を設置し、扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし、更に押扉によって密閉さを保つ。また、下の部屋は湿度が高くなるので匂いの押さえの為に上下の部屋を仕切る。これは1枚の石板、或はこれに変わる不変材料で仕切る。
【実施例】
【0008】
この石碑型納骨室は設置場所で組み立て施工は当然出来るが、設置場所によっては、予め工場で加工、組み立てを行い設置場所へは吊り上げ重機で完成品を設置する事も可能。入り口の狭いお墓が寺墓地には多いので、この様な場所は一つ一つの部材として搬入する事も出来、現在の軽薄短小の事業形態の多い時代に合わせた考案である。」
そうすると、「個人の情報の漏えいを防ぐこと」について、その課題解決のための具体化手段は、本願明細書の【発明を実施するための最良の形態】に「扉は部外者が開ける事の無い様に施錠をし」と記載されていることから、「納骨室」の扉に施錠をすることであると解される。このことは、平成25年11月12日付けの手続補正書に、「【請求項3】家族単位で建墓し施錠して個人情報の漏えいを防ぐことを特徴とする石碑型納骨室」と記載されていることからも裏付けられる。
これに対して、刊行物1発明も、墓の遺骨安置空間部の扉に錠前を設けて施解錠できる構造となっている。
以上のことから、本願発明2と刊行物1発明とは、その課題解決のための具体化手段(実施例)が同じであるといえる。
よって、本願発明2は、刊行物1に記載された発明である。

(2)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「刊行物1の【0034】の段落に施錠の事が触れてある。これに遺骨の安全を守ることが記載されおるが、『個人情報の漏えいを防ぐ』という作用・機能を奏するとされているがこの考案の内容を読んでも、この記述は確認できない。本発明のように遺骨と中を飾り従来の石碑に書かれた故人の人となり、履歴等を刻む戒名等を外面に晒さないことで個人情報の漏えいを防ぐことを特徴としたことが出願当初に記載されている、これに基づくものである。」と主張する。
しかし、従来の石碑に書かれた故人の人となり、履歴等を刻む戒名等を外面に晒さないことで個人情報の漏えいを防ぐことは、本願の明細書及び図面に記載されておらず、また、本願発明2は、故人の人となりや履歴等を刻む戒名等を外面に晒さないことを特定事項とするものではないから、上記請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本願発明2は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

5 本願発明3について
(1)対比・判断
ア 本願発明3と刊行物1発明とを対比する。

イ 刊行物1発明の「墓」は、「石碑本体」が「遺骨安置空間部」を有し、「下台石部分」に「納骨棺部」が形成されるから、本願発明3の「納骨室」に相当する。

ウ 「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」に関し、本願の出願当初の明細書には、「納骨室の開閉が遺族にできる事で管理し易く」(段落【0004】)と記載されるにとどまり、他に遺族に収納・管理をしやすくしたことに関連すると認められる記載はないから、刊行物1発明の「石碑本体が、扉部付きの遺骨安置空間部を有するものに形成される」ことは、本願発明3の「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」に相当する。

エ してみると、両者は、「遺族に収納・管理をしやすくした納骨室」で一致し、相違するところは認められない。
よって、本願発明3は、刊行物1に記載された発明である。

オ また、本願発明3は、「遺族に収納・管理をしやすくしたことを特徴とする納骨室」であるから、「納骨室」という物の発明である。
そして、その発明特定事項である「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」は、物の構造を機能的な表現で特定している。
本願明細書には、【発明を実施するための最良の形態】として上記4(1)オにおいて摘記したとおり記載され、また、出願当初の明細書の段落【0004】には、「その上、建墓に必要な石材は少なく・納骨室の開閉が遺族にできる事で管理し易く墓が狭いので草の刈り取りの必要もなくなる。」と記載されているから、「遺族に収納・管理をしやすくしたこと」について、その課題解決のための具体化手段は、「納骨室」に扉を設けることであると解される。
これに対して、刊行物1発明も、墓の遺骨安置空間部の扉を設ける構造となっている。
以上のことから、本願発明3と刊行物1発明とは、その課題解決のための具体化手段(実施例)が同じであるといえる。
よって、本願発明3は、刊行物1に記載された発明である。

(2)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「本発明は『収納方法が【図2】【図3】で示すように3の押し扉によって収納時の事故を防ぐことができる』として収納のしやすさ・管理のしやすさを請求項としたもので刊行物1の場合のように高齢者が収納する時遺骨を落下させることも考えられることを防ぐもので刊行物1に書かれている『扉部を開閉自在に組み込んでなる石碑本体』と本発明が同一でないことは自明の事項です。」と主張する。
しかし、本願の明細書には、「押扉によって密閉さを保つ」(段落【0007】)と記載されるにとどまり、図面の記載を参酌しても、押扉の構造・機構が不明であり、また、本願発明3は、押扉を備えることを特定事項とするものではないから、上記請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本願発明3は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

6 本願発明5について
(1)対比・判断
ア 本願発明5と刊行物2発明とを対比する。

イ 刊行物2発明の「納骨室」は、本願発明5の「納骨室」に相当する。

ウ 刊行物2発明の「納骨室壁板に吸気と排気を成す換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたことにより通気を良くした」は、本願発明5の「通気性を高めた事」に相当する。

エ してみると、両者は、「通気性を高めた納骨室」で一致し、相違するところは認められない。
よって、本願発明5は、刊行物2に記載された発明である。

(2)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「刊行物2では『吸気と排気を成す換気孔』のように吸気・排気を同一器具で行うように記載されている。これは構造上のものか、或いは刊行物2における考案では通気の効率を考え複数の換気孔による吸気・排気を設ける事が記されていないことから換気の必要性を大きく捉えていない事が判る。これに比して本発明では、より効率的に『通気性を高めた事を特徴とする納骨室』を考案したことに基づくものである。」と主張する。
しかし、刊行物2発明は、納骨室壁板に換気孔を互いに位置する距離差を取り設けたものであって、複数の換気孔を設けることを前提としており、上記3(2)ア及びカのとおり、納骨室内の通気を良くすることを念頭に置いたものである。
また、本願発明5は、「納骨室」について「通気性を高めた事を特徴とする」ものであるが、「通気性を高めた事」について具体的な構造を特定するものではないから、刊行物2発明の複数の換気孔を設ける構造を排除するものではない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

(3)小括
以上のとおり、本願発明5は、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

7 むすび
以上の検討によれば、本願発明2及び3(本願の請求項2及び3に係る発明)は、刊行物1に記載された発明であり、本願発明5(本願の請求項5に係る発明)は、刊行物2に記載された発明であるから、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1及び4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-19 
結審通知日 2016-03-01 
審決日 2016-03-14 
出願番号 特願2011-239592(P2011-239592)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 聡志  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 中田 誠
赤木 啓二
発明の名称 石碑型納骨室  

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