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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L |
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管理番号 | 1331564 |
審判番号 | 不服2016-9466 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-24 |
確定日 | 2017-08-18 |
事件の表示 | 特願2011-216279号「被覆流体管」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日出願公開、特開2013- 76437号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年9月30日に出願されたものであって、平成26年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年3月25日付けで補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がされ、同年6月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成29年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 当審の判断 1 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は、平成29年5月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「加熱された温水を輸送する流体管の外面が被覆層で覆われた被覆流体管であって、 前記被覆層は、非架橋発泡体で形成された断熱体のみからなり、 前記断熱体の内面と前記流体管の外面との間に、前記流体管が前記断熱体の内面に接触する面積を小さくして前記流体管から前記断熱体に移動する熱量を低減することにより該断熱体が該流体管内の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する接触防止部を備えてなることを特徴とする被覆流体管。」 2 刊行物の記載事項 当審の拒絶の理由に「刊行物」として示され、本願の出願日前に頒布された特開2008-89072号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。また、以下「摘示事項(1)」などという。) (1)「【請求項1】 断熱体の内部に通水管を配置し、前記通水管の外周方向に沿った複数の位置を、前記断熱体側から内向きに突出する複数の突起によってそれぞれ支持し、前記通水管の外周方向に沿って隣り合う突起どうしの間に空気層を形成したことを特徴とする断熱管。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は断熱管に関し、たとえば暖冷房を目的として温水や冷水を通すための配管などを備えた断熱管に関する。 【背景技術】 【0002】 ガス温水暖房システムにおいては、熱源器で生成された温水を目的場所まで移送するための配管が用いられる。このような配管は、特許文献1や特許文献2などによって知られている。」 (3)「【0009】 (第1の実施の形態) 図1および図2において、11は往き管、12は戻り管で、これらは図32に示したものと同様の樹脂管によって形成されて、通水に供されるものである。これら一対の管11、12は、互いに接した状態で並べて配置されたうえで、断熱体13によって覆われている。この断熱体13は、上記のように並べて配置された一対の管11、12に対応して横断面8の字形あるいは瓢箪形に形成されている。また断熱体13は、断熱作用を発揮させるためにたとえば発泡樹脂によって形成されており、断熱性能を向上させるために、空気すなわち窒素や酸素以外の、空気よりも断熱性に優れた、たとえば二酸化炭素によって発泡され、かつ独立気泡を有するように構成されているのが好適である。 【0010】 断熱体13の内面すなわち断熱体13における管11、12と向かい合った面には、管11、12の外周方向に沿った複数の位置に対応して、それぞれ突起14が一体に形成され、この突起14によって管11、12を支持している。この突起14は、管11、12の長さ方向に沿って連続した突条として形成することができる。また突起14は、管11、12に近づく方向に尖った形状で形成されることで、できるだけ小さな面積で管11、12に接するように構成されている。たとえば、図示のように断熱体13の内面から管11、12の外面に向かう断面三角形状に形成されている。 【0011】 このように管11、12がその外周方向に沿った複数の位置で突起14によって支持されることで、管11、12の外周方向に沿って隣り合う突起14、14どうしの間には、突起14の高さに対応した厚さの空気層15が、管11、12の長さ方向にわたって形成されている。空気層15と、断熱体13による断熱層とを比較すると、断熱層は、空気層15と同等の厚みで形成されるか、または空気層15よりも厚く形成されている。」 (4)「【0013】 断熱体13の表面は、この断熱体13の素材である発泡樹脂を露出させたものであってもよいし、あるいは、断熱体13を密着フィルムで覆った構成としてもよい。さらにフィルムにエンボス加工を施すこともできる。」 (5)「【0015】 このようにして図示の断熱管が製造されるが、この断熱管によれば、管11、12は、断熱体13の内部に配置されていることで、この断熱体13の断熱作用を受けることができる。また管11、12は、隣り合う突起14、14どうしの間に形成される空気層15による断熱作用をも受けることができる。しかも、断熱体13の内部において突起14によって確実に位置決めされた状態で支持され、したがって管11、12の表面が断熱体13における突起14以外の内面に接することがなく、かつ突起14は、管11、12に近づく方向に尖った形状で形成されることで、できるだけ小さな面積で管11、12に接するように構成されているため、管11、12と断熱体13の内面との間および管11、12と突起14との間で熱伝導を行いにくく、これによる伝熱防止効果にもとづく断熱作用を受けることもできる。このため、すぐれた断熱性能を発揮することができる。」 3 刊行物に記載された発明 上記摘示事項(1)?(5)及び【図1】、【図2】の記載からみて、刊行物には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「断熱体13の内部に熱源器で生成された温水を通水する管11、12を配置した断熱管であって、 前記断熱体13の表面は、この断熱体13の素材である発泡樹脂を露出させたものであり、 前記断熱体13における管11、12と向かい合った面には、管11、12の外周面に沿った複数の位置に対応して、それぞれ突起14が一体に形成され、この突起14によって管11、12を支持している断熱管。」 4 対比・判断 (1)本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「管11、12」は前者の「流体管」に相当し、以下同様に、「断熱体13」は「被覆層」または「断熱体」に、「断熱管」は「被覆流体管」に、「突起14」は「接触防止部」に相当する。また、後者の「発泡樹脂」と前者の「非架橋発泡体」とは「発泡体」の限度で一致するといえる。 (2)後者の「断熱体13の内部に熱源器で生成された温水を通水する管11、12を配置した断熱管であって、」という事項は、前者の「加熱された温水を輸送する流体管の外面が被覆層で覆われた被覆流体管であって、」という事項に相当する。 (3)後者の「前記断熱体13の表面は、この断熱体13の素材である発泡樹脂を露出させたものであり、」という事項について検討するに、刊行物の【図1】及び【図2】の記載も併せてみると、「断熱体13」は発泡樹脂以外を含まないとことが把握できるので、当該事項と、前者の「前記被覆層は、非架橋発泡体で形成された断熱体のみからなり、」という事項とは、「前記被覆層は、発泡体で形成された断熱体のみからなり、」の限度で一致するといえる。 (4)後者の「前記断熱体13における管11、12と向かい合った面には、管11、12の外周面に沿った複数の位置に対応して、それぞれ突起14が一体に形成され、この突起14によって管11、12を支持している」という事項について検討するに、上記摘示事項(3)の段落【0010】及び摘示事項(5)より、突起14は、その隣り合う間に空気層15を形成し、できるだけ小さな面積で管11、12と接するように構成されているものであるから、管11、12が断熱体13の内面に接触する面積を小さくするものであることは明らかである。 したがって、当該事項と、前者の「前記流体管が前記断熱体の内面に接触する面積を小さくして前記流体管から前記断熱体に移動する熱量を低減することにより該断熱体が該流体管内の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する接触防止部を備えてなる」という事項とは、「前記断熱体の内面と前記流体管の外面との間に、前記流体管が前記断熱体の内面に接触する面積を小さくする接触防止部を備えてなる」の限度で一致するといえる。 (5)してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 [一致点] 「加熱された温水を輸送する流体管の外面が被覆層で覆われた被覆流体管であって、 前記被覆層は、発泡体で形成された断熱体のみからなり、 前記断熱体の内面と前記流体管の外面との間に、前記流体管が前記断熱体の内面に接触する面積を小さくする接触防止部を備えてなる被覆流体管。」 [相違点] 本願発明が、「発泡体」の素材が「非架橋」のものであって、「接触防止部」が「前記流体管から前記断熱体に移動する熱量を低減することにより該断熱体が該流体管内の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する」ものであるのに対し、引用発明では、それら事項を特定していない点。 (6)次に、上記相違点について検討する。 ア 例えば、特開2011-174545号公報の段落【0014】の「本発明に係る断熱パイプカバーの製造方法においては、・・・また、非架橋の樹脂を用いるときはリサイクル性がよい。」、同【0018】の「樹脂発泡テープの材質は、押出発泡により製造される樹脂発泡体であれば特に限定はなく、特に熱可塑性樹脂が好ましい。」、同【0045】の「上記実施例に示されたように、本発明に係る断熱パイプカバーの製造方法によれば、・・・また、リサイクル性のよい、非架橋の樹脂を用いることができるので、リサイクル性にも優れている。」との記載、及び、特開2003-117981号公報の段落【0002】の「【従来の技術】ポリオレフィン系樹脂発泡シートは、耐薬品性に優れ、高発泡が可能で有ることから、断熱材等の建材、自動車の衝撃吸収材等の各種部品、物流容器等、幅広い分野に用いられている。」、同【0014】の「しかし、近年、環境保護に向けたプラスチック材料のリサイクル問題が提起されていることから、架橋ポリオレフィン系樹脂は、再生して用いることが困難であり、又、部分架橋させたポリオレフィン系樹脂がゲル分となって残ることから、樹脂発泡シート用材料としては好ましくない。よって、プラスチック材料のリサイクル問題を考慮するときには、本発明は、リサイクルが可能な非架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造方法として適用することが好ましい。」、同【0058】の「本発明に係わる製造方法で得られるポリオレフィン系樹脂発泡シートは、・・・保冷車内装材、各種建材、・・・等の広い分野で用いることができる。また、本発明を適用して、非架橋ポリオレフィン系樹脂発泡シートを製造方法した場合、使用後、リサイクルが可能であり、環境保護の効果を奏する。」との記載に示されるように、発泡体で形成された断熱体において、その素材を非架橋のものとしてマテリアルリサイクル性を向上されることは、本願出願前の周知技術といえるものである。 そして、マテリアルリサイクル性を向上させることは、分野を問わず一般的な課題であることから、引用発明の「断熱体13」(断熱体)においても、マテリアルリサイクル性を向上させた方が望ましいことは、当業者であれば十分想定できることであり、その解決手段として、断熱体を構成する発泡樹脂に上記周知技術を採用することは、容易に想到し得たことである。 イ また、一般的に、程度の差こそあれ、樹脂は熱を加えることにより熱劣化し、熱劣化により寸法が変化することは技術常識であり、架橋された樹脂に比べ架橋されていない樹脂は耐熱性に劣ることも技術常識であるので、上記アのとおり引用発明の「断熱体13」の発泡樹脂に非架橋のものを採用したなら、それは熱によってへたり薄くなりやすくなる性質を有するものとなることは明らかといえる。 ここで、引用発明の「突起14」は、「管11、12に近づく方向に尖った形状で形成されることで、できるだけ小さな面積で管11、12に接するように構成されているため、管11、12と断熱体13の内面との間および管11、12と突起14との間で熱伝導を行いにくく」(摘示事項(5))する作用を持つので、管11、12から断熱体13に移動する熱量を低減するものであることは明らかである。 そして、上記アで示した周知技術の採用をしたのであれば、当然、突起14(接触防止部)は、管11、12(流体管)から断熱体13(断熱体)に移動する熱量を低減するものであるから、熱劣化しやすい非架橋の発泡樹脂からなる断熱体13(断熱体)が、管11、12(流体管)の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する作用を奏することは自明のことといえる。 ウ したがって、引用発明において上記相違点に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 エ 請求人は、平成29年5月23日に提出された意見書(以下「意見書」という。)の「〈三〉1.(1)」において、「引用発明1はマテリアルリサイクル性の向上とは全く無関係のものであるから、そもそも引用発明1に周知技術を採用する意味がない。したがって、引用発明1は、マテリアルリサイクル性を向上させることを前提としておらず、引用発明1には、断熱体の素材を非架橋のものとしてマテリアルリサイクル性を向上させる技術を採用する動機付けがあるとはいえないものである。」と主張し、「〈三〉1.(2)」において、「相違点1について、上述のように、引用発明1は、マテリアルリサイクル性を向上させることを前提としておらず、引用発明1に、断熱体の素材を非架橋のものとしてマテリアルリサイクル性を向上させる技術を採用する動機付けがあるとはいえないものと思料する。したがって、引用発明1において上記相違点1に係る本願発明1の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことではないと思料する。」と主張する。(合議体注:意見書の「引用発明1」、「本願発明1」は、本審決の「引用発明」、「本願発明」に対応する。) しかしながら、刊行物にマテリアルリサイクル性向上の課題が直接的に記載されていないとしても、一般的な課題(技術常識)を考慮すれば、引用発明においてもマテリアルリサイクル性を向上させた方が望ましいことは、当業者であれば十分想定できることであることは上記アで述べたとおりであるので、上記主張は採用できない。 オ また、請求人は、意見書の「〈三〉1.(2)」において、「両者の一致点、相違点は、拒絶理由通知書に記載された事項と比べて、次のとおりであり、[相違点2]についても相違すると思料する。」、「[相違点2]『接触防止部』に関し、本願発明1は、『流体管から断熱体に移動する熱量を低減することにより断熱体が流体管内の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する』ものであるのに対し、引用発明1は、『流体管が断熱作用を受ける』ものである点。すなわち、本願発明1の『接触防止部』は、『断熱体を保護する』ものであるのに対し、引用発明1の『接触防止部』(「突起14」)は、【0006】、【0008】等の記載からも明らかなように、『すぐれた断熱性能を発揮する』もの、つまり、『流体管内の流体の熱が外部に出入りするのを防止してその温度を一定に保つ』ものである。」、「相違点2について、引用発明1の『接触防止部』は、本来、隣り合う突起14、14どうしの間に、突起14の高さに対応した厚さの空気層15を形成するためのものである(【0011】)。また、刊行物には、本願発明1の、『断熱体が流体管内の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する接触防止部』、すなわち、『断熱体自体を保護する接触防止部』は記載されておらず、また示唆されていない。したがって、引用発明1において上記相違点2に係る本願発明1の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易になし得たことではないと思料する。」とも主張する。 しかしながら、請求人が主張するところの「相違点2」における「流体管から断熱体に移動する熱量を低減する」という事項は、摘示事項(5)に照らせば引用発明も実質的に有しているといえること、及び、「断熱体が流体管内の温水の熱によってへたり薄くなるのを防止する」という事項については、引用発明の断熱体に周知技術を採用した際の自明の事項であることは、いずれも上記イで述べたとおりであるので、上記主張も採用できない。 カ そして、本願発明が奏する作用効果についても、引用発明、周知技術及び技術常識から予測し得る範囲内のものであって、格別でない。 キ よって、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-02 |
結審通知日 | 2017-06-13 |
審決日 | 2017-06-27 |
出願番号 | 特願2011-216279(P2011-216279) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 洋 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 覚 出口 昌哉 |
発明の名称 | 被覆流体管 |
代理人 | 宇野 健一 |